※この作品はR-18です。

無限城に生捕にされたしのぶが童磨に陵辱され続けた末鬼の子を孕む話   作:イアロツス

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1:約束

「...ぅ」

 

頭がズキズキと痛む。錆びたように重い瞼を開いてみるが、己が何を見ているのかすら分からない。

鼓動と同期してリズミカルに襲い来る頭痛に嫌気がさし、しのぶはもう一度柔らかな布団にうつ伏せのまま埋没せんとする。

 

(ふとん… 柔らかい布団…?)

 

「!!!」

 

電流のように事のあらましが脳裏で復元され、彼女はがばりと跳ね起きた。自らは今、極めて重大且つ危機的な状況下に置かれている。

 

(そうだ、私は上弦の弐に敗北した…

生け捕りにされて、この空間の座敷牢で監禁されていた…!)

 

(…しくじった。敗北した。)

 

「姉さんの、仇に…!」

 

しのぶは己の不甲斐なさに唇を噛み、下を向いた。仇敵と自身の双方に腑が煮え繰り返る思いだったが、今は活路を見出すための情報収集が先だ。見たところ周囲に敵の影はない。

もっとも、この城そのものが巨大な鬼の胃袋同然だという事はこの数日間で嫌というほど理解していたが。

 

まずはしのぶ自身の状態だが、昨日まで後ろ手に縛り上げられていた手首が自由になっている。

服装は相も変わらず、座敷牢で与えられた極薄の白い長襦袢一枚のみを着せられているようだ。

異国の希少な生地か何かで織られた上物なのか、身じろぎ一つするたびに素肌に生地がぴたぴたと貼り付くような感覚がある。それがどうにも気色悪かった。

 

しのぶは体重も軽くかなりの小柄で、一見すれば幼児体型といった印象を人に与える。しかし、たわわに実った乳房や腰から臀部にかけての大きなくびれは隊服の分厚い生地でも主張を隠しきれない程だ。

ましてこの長襦袢は、その艶やかな女体のシルエットをなお一層露わなものにしていた。

 

(そして…)

 

辺りを見回す。

 

(蒸し暑い…ここは座敷牢とは別の部屋だわ。

恐らくは寝入ってる間に例の琵琶鬼の能力で移動させられた)

 

しのぶが寝かされていたのは天蓋とレースのカーテン付きの、二畳ほどもあるかに見える巨大なベッドだった。身体の小さいしのぶが1人でその真ん中に座しているため、なおのこと面積が広く見えてしまう。

 

それだけではない。この部屋の内部はなにもかもがごてごてと派手に飾られていた。

ベッドと反対側の壁には、絢爛豪華な刺繍の施された革と黒檀の寝椅子。その足元には金と赤を基調とした大きな絨毯が敷かれている。

 

更には絨毯の上の卓にはなにやら甘ったるい香りの香が焚かれており、いよいよもってなんのために用意された部屋なのか意味が分からない。

見れば部屋の随所にあしらわれている蓮と蝶の襖絵がなんとも腹立たしかった。

 

(!!)

 

「あれは…!」

 

そして、ことさらしのぶの目を引くものが一つ。

思わず身を乗り出して近づこうとした矢先、

 

「いかしてるだろう、この部屋?俺がしのぶちゃんの為に態々用意したんだぜ」

 

 

 

***

 

 

 

「…!!」

 

耳元で囁かれた、ぬめりとへばりつくような声。

 

しのぶは反射的にバッと身を翻して距離を取る。

裸にも等しい軽装で、当然丸腰。戦える状態でないことはよく分かっていたが、そんなことは問題ではなかった。

臨戦態勢を取り、キッ、と眼前の敵を見据える。

 

 

「あ〜はっはっは!元気いいねぇ。よく眠れた?

餌の中にきつい睡眠薬を入れてたから快眠とは行かなかったと思うんだけど」

 

童磨。『万世極楽教』なる教団の長にして、上弦の弐。

鬼殺隊最高戦力の一角であるしのぶが、今しがたあれ程の至近距離への侵入を許したことがその脅威の一端を物語っていた。

 

「『アレ』、気づいたみたいだね。」

 

童磨はばちんと畳んだ鉄扇で、卓の方を差して見せる。

そこにはしのぶのものと思われる隊服が綺麗に畳まれて置いていた。

 

「どう?懐かしいでしょう?

君には当分この部屋にいてもらうから、私物も持ってきてあげようと思って」

 

大きな目を三日月型に細めてニタニタと笑う優男の顔を見るだけで、ドス黒い感情がしのぶの全身を駆け巡る。

 

「…糞野郎ッ!殺すなら殺せ!喰うなら喰ってみろ!一体何が目的だ!喰らうしか能のないお前ら畜生が、この私に何をするつもりだ!」

 

「話の途中なんだけどなぁ…まあいいや。

分かった、俺たちの目的をまず説明するね」

 

童磨はわざとらしく頬を掻き、困った風な小芝居をする。

 

「ええと、まずしのぶちゃんのことは殺さないし食わないよ。

そんなことをするつもりなら生け捕りなんて手間をかける理由がないってことぐらい聡明な君なら分かるだろう?

…第一、俺は知ってるぜ?今のしのぶちゃんがとてもじゃないが食えたものじゃないことぐらい」

 

「!?」

 

「随分藤の花の成分を体内に蓄えていたみたいだね。

大方俺に自分のこと食わせて弱らせたところを、他の剣士に切ってもらう気だったのかな?時間をかけて頑張ってた計画みたいで申し訳ないけど、バレバレだったねぇあれ。全身から藤の匂いがプンプンしてたもんだから」

 

童磨がせせら笑う。

 

「貴…様…………‼︎」

 

人生を、尊厳を。生命を賭した覚悟を侮辱され、怒りが頂点に達するしのぶ。顔を真っ赤にして語気を振るわせた。

 

「くく……

ああぁ、それで、肝心の君を生捕にした目的なんだけど…」

 

 

「しのぶちゃんにはね」

 

「…?」

 

「『俺の子を産んでもらう』ことになったんだ。あの御方のご命令でね」

 

 

 

***

 

 

「……は……………?」

 

思わず目を丸くしてしまう。

 

「つまりね、しのぶちゃんは俺と夫婦(めおと)になるんだよ!

これから毎日この部屋で俺と抱き合って、種付けされて、最後は俺の子を孕んで鬼の母親になるんだ!」

 

童磨は常軌を逸した言葉の数々を、変わらぬ調子でにこやかに紡ぐ。

 

「…なにを」

 

しのぶがやっとの思いで言葉を絞り出す。喉の奥がカラカラに渇いているのが分かった。

 

「何を、言っているんですか…?そんなこと…」

 

「できるんだよ。時間は相当かかるだろうけどね」

 

鬼の肉体の仕組みには、まだ分からない部分の方が多い。だが少なくとも、しのぶが過去に生け捕りにした力の弱い鬼の中に生殖機能を持つものはいなかった。

 

鬼は再生能力の応用で身体のいずこかに新しく器官を生成することができるので、生殖器も作ること自体は出来るのかもしれない。

しかし寿命の概念が存在せず、太陽以外に天敵もない以上鬼はそもそも『種を遺す』という行為自体が必要ないのだ。

また、人間時代の性欲は鬼になると大抵食欲に変質・転化する。その証左に猟奇的なやり方で人を食い殺す鬼の中には、人間時代異常な性癖を持っていたものも少なくない。

よって鬼は性行為をしない。

 

それが、しのぶがこれまでの研究をもとに導き出した結論だった。

 

 

「ふふ、『なんであの御方がそんな命令をするのか』って顔だね。

一応言っとくと道楽目当てとかじゃないよ。きちんとした目的があるんだ」

 

「目的を説明する前に、まず『なぜ藤が鬼にとって毒なのか?』というところからなんだけれど、藤は日射しの強い場所を好んで生長する植物なんだ」

 

「日光を多分に吸収している。故に鬼の身体を害する。早い話が、鬼狩りの刀に使われる特殊な玉鋼と同じ原理だね」

 

「…」

 

そこまではしのぶも知っている。むしろ日光を取り込む性質を知っていたからこそ、彼女は藤に鬼特効の毒としての可能性を見出したのだ。

 

「それを踏まえてしのぶちゃん!君なんだよ!

ここがそこいらの娘や女の鬼狩りじゃあ駄目な理由だ!」

 

ずいと顔を近づける童磨。

 

「…」

 

しのぶは敵意を剥き出しにした表情のまま睨み返す。

もう彼女にはそれ以上能書きを聞く気などなかった。

 

 

 

***

 

 

ダッ!!

 

「!」

 

しのぶはベッドから転げ降りるや卓上の隊服を引っ張り寄せ、襖の方へと一直線に走り出した。体格差を逆手に取り、這うような低姿勢で走ることで童磨の妨害を避けんとする。

 

(逃げろ!逃げろ!奴らは私を利用する気だ‼︎

ここから脱出できなくてもいい!逆上して殺されるなら御の字だ!

この部屋の外…どこでもいい、高所を見つけていっそのことそこから…)

 

「はは、いけない子だなぁ」

 

どこからともなく氷の蓮華が現れ、蔓がしのぶの背中を追うようにして急速に伸びていく。

 

シュルッ

 

「あッ!ぐっ」

 

ビタァン!

 

「説明を続けるよ」

 

胴に蔓が絡みつくや元いた場所に引っ張り寄せられて、しのぶの身体はベッド沿いの壁に叩きつけられた。

怒りによる興奮と、突発的な運動で滲み出た汗が襦袢の生地を透けさせている。

 

やめろ、下衆野郎、離せと吐き散らしながら身を捩るしのぶに構うこともなく、童磨は人差し指を彼女の襦袢越しの下腹部に強く押しつけ、ゆっくりと鼠径部に向かって撫でながら続けた。

 

「君の体内には分解された藤の花の要素が余すところなく行き届いている。日光を吸収した花の成分が。

君の子宮は太陽の力を宿した揺り籠といっていいだろう」

 

「つまりだよ、藤の花の成分を大量に取り込んだ君の胎内…」

 

にまりと広角を釣り上げて一呼吸置き、勿体つける童磨。

だが、しのぶには次に言い渡される言葉が何なのかもう察しがついていた。屈辱と怒りと恐怖に顔が強張る。

 

 

「その母胎の過酷な環境から生まれた鬼は、『日光に耐性を持つ鬼だ』ってこと!

あの御方はその赤子を喰らって太陽克服という本懐を成し遂げる訳だよ!

そして赤子の父親役に任命されたのがこの俺という訳さ!」

 

 

***

 

 

 

悍ましい話だった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

 

咄嗟に舌を突き出し、その根本に上下の歯を突き立てようとするしのぶ。

 

「おっと、駄目だよそれ」

 

しかし、許されるはずがなかった。両の頬を片手で鷲掴みにされ、美しい顔がフグよろしく滑稽に歪む。

 

「本当に死にたがりだなあしのぶちゃんは…

折角だし俺はしのぶちゃんにも楽しんで欲しいんだぜ?

しっかし、こうも聞かん坊だと正直やりにくい」

 

「…しょうがない」

 

ドサッ

 

「んぐっ…!?」

 

童磨はため息を一つこぼすと、ハンドギャグで口を塞いだまま彼女をベッドに叩きつけた。

瞬きの合間、ほんの一瞬覗かせた冷然とした眼差しにしのぶは怖気が立つ。

 

「鳴女ちゃん!」

 

童磨がどこへともなく呼びかけるや、間髪入れず琵琶の音とともに襖が天蓋へ現れる。

もう一つ撥が弦を弾くと、襖は勢いよく開帳された。

 

「っ……」

 

覆い被さってニタニタと薄ら笑いを浮かべる童磨を視界の脇に、しのぶは天蓋に広がったその光景に絶句した。

 

襖の向こうの空間は、この城ではないどこかの寝室。

畳には布団が3組、横一列に敷き詰められている。

その部屋も、床についている3人も、しのぶがよく見慣れたものだったのだ。

 

そこは、蝶屋敷の一室。

時折鼻提灯を膨らませ、安心しきった様子で寝息を立てているのは、

 

寺内きよ、

中原すみ、

そして高田なほ。

 

しのぶは天蓋に現れた襖を「見上げながらにして」、蝶屋敷の三人娘を「見下ろしていた」。

氷の蔓は2本、3本と襖の奥へ伸び、彼女らの頭上五尺の高さを這い回っている。

 

急速に冷や汗が噴き出す。身を捩り、おきて、にげてと精一杯叫ぼうとするしのぶだが、塞がれた口からは呻き声しか漏れ出てこない。

 

「口で悪態をつくのはいい。

ただし従順にせず、これ以上飛んだ跳ねたを繰り返して手を煩わせるつもりなら…」

 

ぞっとするような低聲で囁き、続いて組み伏せる体勢から一歩離れてしのぶを解放すると、いつもと変わらぬ朗々とした調子で脅迫の言葉を紡ぐ。

 

「…どうなるか分かるだろう?俺たち次第で生き死にが決まるのは君だけじゃあない。

安心しておくれ。俺の言うことを聞いている限り、あの子達には危害を加えない。約束しよう。

従いさえするなら、俺の悪口を言いながらでも構わない」

 

「…………っ」

 

また唇を強く噛み締める。下唇の一部が切れて血が滲んだ。

シーツを掴んだ両手をわなわなと振るわせ、藤色の瞳を怒気に染める。

反吐が出そうな心地だが、しかしながら彼女は既に理解していた。

 

(…おそらく。

今叫んであの子達を逃がそうとしても、奴はすぐさま攻撃するわ。

それどころか蝶屋敷まで琵琶鬼の術中にある以上、『約束』とやらもこの男は気分次第でいつだって反故にできる…こいつらにとって重要なのは飽くまで私だけなんだから)

 

(………でも)

 

「俺だってなるだけ無理矢理はしたくないんだ。率直に聞こう。

…『しのぶちゃんは俺と番いたいかい』?」

 

 

(___仮に眼前の男の『約束』が舌先三寸の虚言だったとしても。)

 

今まさに。自分にとって家族同然の、年端もいかない少女たちが文字通り寝首を掻かれようとしているのだ。

 

しのぶには、選択の余地などなかった。

 

男の爛々と輝く虹色の瞳を見るだけで感情を爆発させてしまいそうだったので、ゆっくりと深く俯く。そして。

 

震える肩で呼吸をし、荒い鼻息を可能な限り整え、

 

 

「……………はい」

 

ザラザラと掠れた小声で、辛うじて、その一言だけを喉から絞り出した。

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