※この作品はR-18です。

裏短編置き場   作:鈴名ひまり

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どこかで公国姉妹編と分岐した世界線


駆け落ち ──リオン×ヘルトラウダ──

 俺が自分をいわゆる転生者という存在だと認識したのはたしか五歳くらいの時だった。

 

 前世の記憶を昼寝の間に見た夢という形で思い出した俺は、咄嗟にそのことが受け止められなかった。

 

 とにかくその場から遠く離れたいという衝動に駆られ、港に停泊していた飛行船に密航して故郷を逃げ出した。

 

 その飛行船が出航した数日後に空賊に襲われて捕虜になり、人を取り込むロストアイテムの餌にされたと思ったらたまたまそいつと相性が良かったらしく、主従契約ができた。

 

 そしてそのロストアイテムの力で空賊を倒し、一人で漂流していたところを拾われて、色々あって黒騎士と呼ばれる爺さんの養子になった。

 

 そういう特殊な経歴が俺の運命を決定づけたんだろうな。

 

 俺を拾ったファンオース公国には君主が不在で、後継者として二人の幼い姫君がいた。

 俺と同い年の姉【ヘルトルーデ】と二つ下の妹【ヘルトラウダ】。

 

 二人と同年代で、変なしがらみもない俺は都合の良い子守りにされたのだ。

 大人たちの政争のせいで周りに同年代の子供がいなかった二人は、それはもうものすごく懐いてきた。

 

 すぐに休日は王宮で二人と一緒に過ごすのが当たり前になり、共に笑い、時に言い争い、すぐに仲直りして──一言で言い表すなら幼馴染という関係になった。

 

 いつか来る破滅の時から目を逸らしながら、騒がしくも温かいその場所に身を委ねていた。

 

 それが崩れたのは俺が十五歳の時、ヘルトラウダ──ラウダが書庫で隠された禁書を見つけてしまったのがきっかけだった。

 

 好奇心旺盛だったラウダに付き合ってこっそり王宮のあちこちを冒険することは何度もあったから、その時も俺は何らの警戒もしていなかった。

 ただ、書庫番の老人に見つからないように書庫の奥の開かずの間に入り込んで何があるのか突き止める──それだけのつもりだった。

 

 だが、不運にもラウダはそれを見つけてしまった。

 徹底的に隠され、改竄され、人々の記憶から抹消された公国の歴史の事実が記された本。

 

 その内容を目にしたラウダの衝撃はどれほどのものだったか、俺には想像もつかない。

 

 嘘だ、信じたくない──そんな風に狼狽するラウダの声が書庫番の老人に聞こえて、俺たちは見つかってしまった。

 

 そしてラウダはよせばいいのにこれは何かと老人を問い詰めた。

 本当のことを教えてと言ってはいたが、内心では偽書だと言って欲しかったのだろう。

 

 だが、老人が口にしたのはあまりにも残酷な真実だった。

 

 その本は紛れもなく本物の記録で、今現在公国で政治の実権を握っている者たちにとって都合の悪い情報の塊。

 しかも彼らがやったのは都合の悪い情報の抹消だけではなかった。

 事もあろうに自分たちの主君──即ちラウダの両親を事故に見せかけて暗殺していたのだ。

 

 そしてまだそれで終わりではないのが、救いがない。

 ラウダの両親を暗殺した奴らは俺の養父──黒騎士の爺さんが所属している派閥だった。

 つまり爺さんは少なくとも暗殺のことを知ってはいた。そしてそのことをずっと隠していたということだ。

 

 そのことを知ったラウダは見ていられないほどに打ちひしがれた。

 

 

 

 数日後。

 

 その夜、爺さんは出かけていて屋敷におらず、俺は一人だった。

 

 禁断の真実に触れてしまったあの日以来、俺は爺さんにどう接したらいいか分からなかった。

 

 十年以上一つ屋根の下で暮らしているので、爺さんの人となりは分かっているつもりだ。

 

 あの爺さんは卑怯な策を弄するような人間じゃない。むしろその逆で、そういう人間をものすごく嫌っている。

 頭にまで筋肉が詰まっているのかと疑いたくなるほどの力の信奉者で、謀略や搦手を嫌い、常に真正面から戦って叩き潰すことばかり考えている。

 

 だからこそ、なぜ主君の暗殺を知っていて止めず、残された娘たちに嘘を吐き続けながら保護者面できるのか、理解できなかった。

 

 ずっとそんな調子だから夜が更けても寝付けず、窓の外から聞こえてくる雨音を聞きながらうとうとしていると、不意に窓が小さく叩かれた。

 

 その叩き方と回数でその主が誰なのか、すぐに分かった。

 

「ラウダ!どうしたんだよこんな雨の夜に。風邪引くぞ」

 

 取り敢えず雨に濡れたラウダを窓から部屋に入れると、彼女は俺にしがみついてきた。

 

「お、おい。どうしたんだよ急に。もしかして悪い夢でも見たか?」

 

 ちょっとおどけた感じで訊いてみたら、ラウダは絞り出すような声で言った。

 

「──怖い。私、怖いの。もう誰も──何もかも信じられない。胸が張り裂けそう」

「ラウダ──」

 

 信じていた全てに裏切られたラウダにかける言葉が見つからなかった。

 

「リオンは──違うよね?リオンは──私たちの本当の味方だよね?」

 

 震える目でそう問いかけられて、否定なんてできるわけがなかった。

 実際、俺も公国の歴史や暗殺のことはあの時初めて知ったのだ。

 

「もちろんだよ。俺はラウダたちの味方だ。誓って本当だ」

 

 元々正直と誠実だけが取り柄の俺だが、どういうわけか信じてもらえないことが多い。

 

 でも、これは本当に俺の本心だ。

 

 ラウダは探るように俺の目を見つめていたが、嘘はないと分かってくれたようで、ようやく微かに笑った。

 

「良かったぁ──リオンまで嘘を吐いていたら、私──でも、信じていいんだ」

 

 安堵の涙を流すラウダだが、次の瞬間とんでもないことを言い出した。

 

 

「逃げましょう、リオン。私とお姉様の三人でどこか遠くに──誰も私たちのことを知らないところに逃げましょう?ね?お願い──」

 

 

 憔悴しきった顔で懇願してくるラウダを跳ねつけたり、誤魔化したりすることは俺にはできなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 結局そのまま俺たちは二(・)人(・)だ(・)け(・)で(・)公国を逃げ出した。

 

 別に脱出計画に欠陥があったわけじゃない。

 相棒と一緒に立てた計画は完璧と言ってよかった。

 

 俺の失敗はただ一つ。

 ヘルトルーデ──ルーデを見誤っていたことだった。

 

 脱出の準備が整い、ルーデを迎えに行ったのだが、彼女は拒否したのだ。

 

 理由は分からない。

 

 ラウダは知ったことを彼女にも洗いざらい話したと言った。何度も説得しようとしていた。

 

 それでもルーデは遂に首を縦には振らず、最後の説得を試みた俺たちを裏切り者と断罪して衛兵や騎士を差し向けてきた。

 

 俺にはそんなルーデを強引に攫って連れて行くことはできなかった。

 

 相棒【ブレイブ】が生成した魔装と呼ばれる鎧に乗って逃げ出した俺とラウダは、公国軍に追われながらひたすら国境を目指して飛んだ。

 

 その時のことは正直思い出したくない。

 振り切るのに散々苦労したのもそうだが、裏切り者に向けられる憎悪や殺意は本当に堪えた。

 そして、彼らの口からルーデが俺たちの処刑命令を出したことが分かった時は、頭が真っ白になった。

 

 どれくらい飛んだか分からなくなった頃、何度振り切っても撃退してもひっきりなしに現れていた追っ手がいなくなった。

 

 たぶん、国境を越えたことで諦めたか、迎撃に出てきた王国軍に捕まったのだろう。

 

 俺たちはそのまま飛び続け、最初の目的地であるフィールド辺境伯家の浮島へと辿り着いた。

 

 だが、俺もラウダも王国に面が割れているので、下手な宿屋には泊まれない。

 

 もし客や従業員に正体がバレて通報され、寝込みを襲われて捕まりでもしたら、良くて交渉材料、悪ければ死だ。

 ブレイブの力で切り抜けることはできるかもしれないが、それは最後の手段である。

 

 だから庶民用の安宿に泊まることにした。

 貴族や役人が泊まるような宿はスパイを警戒して監視の目が光っているが、ここならその心配はないし、俺たちの顔を知っている客もいないだろう。

 

 ラウダのためにも雑魚寝の部屋は避けて個室を取ろうとしたのだが、空いていたのは屋根裏部屋だけだった。

 

 大人一人が何とか寝られるくらいのサイズのベッドが一つある以外は何もなく、狭くて、埃っぽくて、寒い。

 空賊船の牢屋よりはマシだが、その次くらいには劣悪な部屋だ。

 

 それでもラウダにとってはようやく見つけた落ち着ける場所だったらしい。

 

 ずっと塞ぎ込んでいたラウダが荷物を下ろしてベッドに腰掛けてようやく表情を緩めた。

 

「疲れたよな。今日はもう寝よう。俺は床で寝るから、ベッドはラウダが使って──」

 

 言い終わらないうちにラウダが抱きついてきた。

 

「い、嫌。一緒にいて。どこにも行かないで。お願い」

 

 縋りついてくるラウダの目には不安の色がありありと浮かんでいた。

 

「いや、でもラウダはお姫様だしさ、同じベッドで寝るのはさすがに駄目というか──」

「──もうお姫様じゃない」

 

 ラウダが俺の服を掴んでくるが、彼女はお姫様以前に十三歳の女の子である。

 成人男性がその年の女の子と同衾するとか、普通に駄目だろ。

 

「心配しなくても俺はどこにも行かないよ。それに二人で寝るには狭いだろ?」

 

 だが、ラウダは引き下がらない。

 

「嫌!側にいて!リオンが床で寝るなら私も床で寝るから!」

「わ、分かった!分かったから」

 

 こうなったらラウダは絶対に折れない。

 

 どうせ折れないのなら、ラウダを床で寝かせるわけにはいかない。

 

 結局どうにかもぎ取れた妥協案が背中合わせで寝ることだった。

 それ以外の寝方は俺の精神衛生上大変よろしくない。

 

 ラウダは渋々といった感じではあったが、ベッドに入るとすぐに寝息を立て始めた。

 

 そのことに安堵したが、俺は寝るどころではなかった。

 

 小さい頃からずっと間近で見てきたはずなのに、いざ密着して触れてみると、今のラウダの身体はあまりにも刺激的すぎた。

 

 背中合わせでも華奢な柔らかさが伝わってきて、顔も身体も熱っぽくなってしまう。

 

 仲の良い幼馴染としての関係を壊さないためにずっと茶化して目を背けてきたが、二人きりになって嫌でも直視してしまう。

 俺はラウダをそ(・)う(・)い(・)う(・)目(・)で見ていたと。

 

 不意にラウダが身を捩って離れたかと思うと、背中にラウダの手が当たった。

 

「──リオン。起きてる?」

 

 すぐ背後で囁かれたその声に咄嗟に息を殺して寝ているふりをしたのは、返事をすれば間違いなく声が上擦って俺の邪な内心がバレると思ったからだった。

 

 ラウダは返事をしない俺が寝ていると思ったらしく、俺の背中に額をくっつけてきて、一人で喋り続ける。

 

「──リオンは優しいよね。いつも私の我儘聞いてくれて、何しても怒らなくて、何てことないみたいな顔して私のために無茶してくれて。──私ね、リオンが初めて王宮に来た日から、まるでお兄様ができたみたい、って思っていたの。優しくて、頼りになって、楽しいことたくさん教えてくれるお兄様──だったはずなのに。──リオン、私ね──リオンが来てから毎日がつらくなったの。リオンがいてくれる日はすごく楽しかった。でも、その分だけリオンがいない日がつまらなくて、苦痛だったの。それに──いつかリオンがいなくなっちゃったらって、そう思うと胸がとても苦しくなって。いつだったか、バンデルと喧嘩して出て行こうとしていたよね?あれ、本気だったんでしょ?」

 

 昔のことを突然掘り返されて、内心ぎくりとする。

 

 ルーデも爺さんも俺とは根本的な価値観と持っている知識が違う。

 だからあの時は別れた方がお互いのためだと思った。

 つまりラウダの言う通り、本気で出て行こうとしていた。

 

 その時は結局お互い情を捨て切れずに元の鞘に収まったわけだが。

 

「その時からずっと心の中で思っていたの。いつか──いつの日か王国と戦争になったら──リオンは戦いに行っちゃう。リオンが負けるとは思わないけど、リオンは優しいから、きっと苦しむ。お姉様はお役目として魔笛を使って──それが終わったら死んじゃう。──そんなことまでして、どうして戦わなくちゃいけないの?戦わなければ──リオンもお姉様も死なずに済むのにって。そう思ってたところにあんなことまで知っちゃったら──もう戦えない。あんな嘘の作り話のために人を大勢死なせて──リオンが傷ついて、お姉様が死ぬなんて嫌。なのに誰も──お姉様までも私を裏切り者って──私、最低だわ。国も、家臣も、民も、バンデルも、お姉様も、全部捨てて──それでもリオンといたいって──リオンがずっと側にいてくれるなら、皆いなくなっちゃっていいって──そんなこと──今でも思ってるの」

 

 嗚咽混じりの告白を聞いて、罪悪感でいっぱいだった。

 

 実際、王国との戦争を止めさせてルーデもラウダも万事都合良く救う力など俺にはなかったが、やれることはあったはずだ。

 

 ゲラットを追い落として主戦派を弱体化させるとか、王国に勝てる根拠になっている魔笛を盗み出して始末するとか。

 

 もっと前世の知識を有効に使えていれば、ルーデを見捨ててたった二人で駆け落ちなんてしなくて済んだのに。

 

「だからね、リオン──リオンはどこにも行かないでね」

 

 そう言ってラウダは俺に抱きついてきた。

 

 柔らかいものが背中に当たり、反射的に肩が震えてしまう。

 

「──リオン?もしかして起きてる?」

「──zzz」

 

 まずいと思って咄嗟に寝息の真似をしてみたが、逆効果だった。

 

「起きてるよね。ねぇ、誤魔化さないでよ。ねぇ、ねぇってば!!」

「起きてる!起きてるから大声はやめて!」

 

 観念した俺は狸寝入りを白状してラウダを落ち着かせようとする。

 

 だが、ラウダは許してくれなかった。

 

「こっち向いてよ。リオン」

「──これでいいか?」

 

 寝返りを打ってラウダの方に向き直ると、目の前に彼女の顔が来る。

 

「さっきの話、聞いていたのよね?」

「──はい」

 

 すると、ラウダは震える声で訊いてくる。

 

「──軽蔑した?」

「そんなわけないだろ。俺だってあんな所から逃げ出したいって思っていたよ。でなきゃこんなことしてないよ」

 

 だが、その答えはラウダにとって不満だったようだ。

 

「──それだけ?」

「え?そ、それだけとは?」

「公国から逃げ出したいから、私を連れ出したの?私が逃げたいって言ったのがちょうどいいチャンスだったから?──私はついででしかなかったの?」

「そんなことない!あんなに泣いてるラウダを助けたいって──そう思って──」

 

 上手い言葉が思いつかないが、それでも必死にラウダを都合良く利用したり、何かのついでにやったわけではないことを説明する。

 

「──私のために?それなら、私のことはどう思っているの?」

「どうって──大事なお姫様で、幼馴染で──」

「そうじゃないの。リオンは──私のこと好き?」

「そ、それは──」

 

 今まで散々発育や素直さを褒めて大好きとか無責任に言ってきたが、今思えばあまりにも軽い。

 

 そんな軽い言葉を投げつけてきて、本当にラウダのことが好きだと嘘偽りなく言えるのか?

 黒騎士の爺さんと喧嘩して出て行こうとした時は、彼女が雨の中追いかけてくるまで顔もよぎらなかったくせに?

 

 俺が答えられないでいると、ラウダがしびれを切らして俺の手を掴んできた。

 

「分からないなら、確かめてよ」

 

 そう言って、ラウダは掴んだ俺の手を自分の胸に押し当てた。

 

 服越しでも分かる柔らかい感触に心臓が跳ねる。

 

「今ドキッとしたでしょ?いつも私の胸見て褒めてたもんね」

 

 返す言葉がない。

 

 言い訳させてもらえるなら、ドキッとしたのはブレイブが一緒にいること忘れてない?という焦りも含まれていたが、どうやら空気を読んでどこかに行ってしまったようだ。

 

 答えられない俺を見てラウダは服のボタンを外し、下着をずらして、素肌を直接触らせてきた。

 

「ずっと触りたかったんでしょ?いいよ、好きなだけ触って」

 

 男の理性とはなんと儚いのだろう。

 

 指が勝手に動いてラウダの豊かな胸を揉みしだく。

 

 前世と合わせて三十年以上生きてきて初めて触れる本物の女性の胸。

 それは、想像の何倍も柔らかくて瑞々しかった。

 

 つい夢中になって揉んでいると、だんだんラウダの息が荒くなってくる。

 

 そして先端の乳首に触れた途端、ラウダは「んっ♡」と艶めかしい声を上げた。

 

 その声をもっと聞きたくて、乳首をそっとつまんで動かしてみると、ラウダはまた身を捩って喘ぐ。

 

 だが、彼女はやられっぱなしではいない。

 

「胸だけじゃなくて、他のところも確かめてよ」

 

 顔を近づけてねだってくるラウダが何を望んでいるのか、察しはついた。

 

 一瞬躊躇したが、胸を直接触ってしまった以上、もうやらない言い訳はできなかった。

 

 腹を括って俺は唇を重ねる。

 

 ラウダが一瞬身体を固くしたのが分かる。

 

 直後に彼女の腕が背中に回され、抱きしめられる。

 

 密着したままラウダは貪るように俺の唇をついばんできた。

 

 彼女の唇についばまれる度に快感と幸福感が満ちていき、理性が削り落とされていく。

 

 とうとう我慢できなくなって、ラウダを抱きしめ返した。

 

 ラウダは嬉しそうな吐息を発して、今度は脚を絡めてきた。

 

 胸とはまた違った弾力のある柔らかさを備えた太ももが腰に当たり、下腹部が擦り合う。

 

 すると当然、そ(・)こ(・)も当たるわけで。

 

「硬くなるって本当だったんだ──私でこうなったの?」

「──そうだよ」

「ッ!──私で──興奮しているの?」

「────してる」

 

 認めると、ラウダが息を呑んだのが分かった。

 

 そしてラウダの腰がくねり出し、下腹部を硬くなった場所に押し付けてきた。

 

「──嬉しい。もっと、して欲しいな」

「ラウダ──」

 

 口にしてしまったら最後、もう二度と仲の良い幼馴染には戻れないと分かっていた。

 それでも、全てに裏切られた彼女の最後の拠り所は俺しかいないということも否応なしに突きつけられて、駄目と言うことはできなかった。

 

 一瞬のうちに思いついたいくつもの綺麗事や正論はまとめて捨てた。

 

 彼女の腰に手を添えて、耳元で囁く。

 

「──下、脱いで」

「ッ!うん!」

 

 衣擦れの音がして、互いの下半身が剥き出しになる。

 

 互いの体温が直接伝わり合って、さっきよりも密着感が増している。

 

 吸いついてくるすべすべの肌をそっと撫でる。

 太ももからお尻、腰、内ももと滑らせて、大事な所に指を伸ばしたら、そこはぐっしょりと濡れていた。

 

 ラウダの──可愛い妹みたいな存在からいつしか魅惑的な女性に変わっていた彼女のそこが、俺を受け入れて、繋がろうとしている。

 

「来て、リオン。私のこと──愛して♡」

 

 潤んだ目で求めてくるラウダの顔を見ると、一瞬で身体が茹だったように熱を上げる。

 

 既に限界まで膨張した俺自身を濡れた割れ目にそっと当てがうと、それだけで快感で身体が震えた。

 

 先が触れただけでこれだ。

 挿れてしまったら一体どうなるのだろう。

 

 割れ目をなぞって入り口を探してみると、それらしい所が見つかったので、そこに押し付けてみる。

 

 どうやらここで正解のようだ。

 狭く窮屈だが、確かに奥に続く感じがある。

 

 いけると思って体重をかけて押し込んでみるが──

 

「ん!いっ──た!」

 

 ラウダが痛みに顔を歪める。

 

 慌てて押し込むのをやめたが、ラウダは引こうとする俺の腰を捕まえた。

 

「だめ──やめないで」

 

 だが、彼女にこれ以上痛い思いをさせるわけにはいかない。

 

 初めてでまだ入り口が狭いのに強く押しすぎたと反省して、しばらく馴染ませることにした。

 

 亀頭が半分埋まったところで動きを止めると、だんだんほぐれてきたのか、圧迫感がほんの少し和らぐ。

 

 少し進んではまた止まり、馴染んだらまた少し進んで、ラウダの反応を見ながら前進と停止を何度か繰り返してようやく、根本まで彼女の中に埋まった。

 

 入り切ったと同時にラウダは俺に強く抱きついてきた。

 それと連動して彼女の中がきつく締まる。

 

「リオン!好き♡大好き♡私──私、もうリオンしかいないの!」

 

 濡れた粘膜の感触と気持ち良すぎる圧迫感と、ラウダのその言葉で頭が完全に情欲に塗り潰される。

 

「動いて♡」

 

 言われるがままに腰を引いて、奥目掛けて突くと、絡みつく肉襞の感触に思わず声が出そうになった。

 

 蠢く柔肉と粘膜に吸い付かれ、急速に射精感が込み上げてくるが、必死で堪える。

 

 まだ駄目だ。

 挿れたばかりなのに、まだ出すわけにはいかない。

 ラウダはまだ気持ちよくなっていない。

 求められて彼女を抱くのだから、雑な抱き方はできない。

 

 必死で自分にそう言い聞かせて、ゆっくりと優しくピストンしていると、またラウダが艶めかしい声を上げ始めた。

 

「はうっ──あっ、あん♡」

「ラウダ、痛くない?」

 

 念のため、それが痛みによるものではないことを確かめる。

 

「うん、もう大丈夫。それより、何だか擦れる度にじんじんするの。もっと動いて♡」

「分かった」

 

 腰振りを再開すると、ラウダもまた嬌声を上げる。

 

「んッ♡あ♡り、リオン──ちゅー」

 

 紅潮した顔でねだられて、唇を重ねると、信じられない快感と幸福感が湧き上がる。

 

 それはラウダの方も同じのようで、奥の方が更に濡れて水音が大きくなり、締まりがさらにきつくなる。

 

 あのラウダが──素直で純真で可愛かったラウダが俺を求めて、俺の身体で感じている。

 

 興奮が際限なく増していく。

 股間の熱が上がり、一際鋭い快感が火花のように走り始める。

 

 必死で堪えてきたが、もう限界だ。

 

 唇を離し、そのことをラウダに伝える。

 

「うっ──ラウダ、俺、もう──」

「いいよ。このまま出して♡私をリオンのものにして♡」

 

 抜こうと引きかけた腰にラウダの脚が絡みつき、中での射精を促される。

 

 一瞬冷静になりかけた頭はその言葉でまたあっさり情欲に塗り潰された。

 

 どうせ駆け落ちする時にこの子を幸せにするとまではいかずとも、絶望させないために何でもすると決めたのだ。

 

 これがラウダの望みなら、叶えよう。

 そしてこんなことでしか彼女を救えなかった以上、責任は全部取ろう。

 

 吹っ切れた俺はラウダを思い切り抱きしめて密着する。

 

 ラウダの豊かな胸が俺の胸板に押し潰される。

 

 中で俺のものが膨らみ始めたのが分かる。

 

 絶頂が近いことを感じ取ったラウダが、俺の頬を手で包み込んでお願いしてくる。

 

「はぁっ、はっ、お願い。ふっ、出す時に私の名前、呼んで♡はっ、私のこと、ふっ、好きなら──言葉で、ちゃんと言って♡」

 

 切羽詰まった吐息混じりに放たれたその言葉が、最後の堤を決壊させた。

 

 膨張が臨界に達する。

 

「言って」

 

 収縮が始まるその一瞬前に、俺は彼女に囁く。

 

 

「ラウダ、愛してる」

 

 

 花みたいな笑顔が咲くと同時に互いの肉が蠢動し、快楽が弾ける。

 

 俺と彼女の境界が溶ける。

 

 溶けて混じり合って、一つになる。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「これで良かった。これで良かったのよ」

 

 丸一日にも及んだ家臣たちからの詰問と今後の対策のための会議から解放されて、やっと一人になれた部屋の窓辺でルーデは呟いた。

 

 来たる王国との戦争で魔笛を使うことが決まった時、ルーデはラウダを守るために自分から使用者に志願した。

 

 魔笛を使えば無尽蔵の戦力を生み出せるが、その代償として使用者は命を失う。

 

 自分よりも幼いラウダにそんな役目を背負わせたくはなかった。

 

 ただ、自分がいなくなった後に残される彼女のことは気がかりだった。

 

 自分たちが家臣たちにいいように利用されているだけの存在なのは薄々分かっていた。

 そしてそれはラウダが見つけてしまった真実を伝えてきた時、確信に変わった。

 

 だから、ラウダがリオンと一緒に遠くに逃げようと言ってきた時、これはチャンスだと思った。

 

 二人を裏切り者として追い放てば、この牢獄から出してあげられる。

 当然追っ手はかけるが、ブレイブという強力無比な古代の鎧を駆るリオンなら、必ず振り切ってラウダを無事に逃がしてくれるだろう。

 

 後はどこか落ち着いて暮らせる場所を探して、二人で幸せに暮らしてくれればいい。

 

 リオンはいつもふざけているように見えて責任感は強い男だ。

 きっと逃げた先でもラウダを守ってくれる。

 

 ラウダもリオンのことを慕っていたし、この選択に悔いはない。

 

 ──そのはずなのに。

 

「どうして──」

 

 涙が止まらなかった。

 

 一緒に行くという選択をしなかったのは自分だ。

 

 自分が家臣たちの傀儡でしかないと知ってなお、両親から受け継いで、自分の身を捧げると誓った公国を捨てることはできなかった。

 

 最愛の妹と恋した男、両親が命を賭して破滅から救おうとした祖国、それらを天秤にかけて、祖国を取った。

 

 ラウダが逃げて魔笛の使用者が一人になれば、公国は王国との戦争計画の修正を迫られる。

 

 その隙に何とかして家臣たちから権力を取り戻し、戦争を止める。

 

 そう決めて、未練は断ち切ったはずなのに。

 

 ラウダもリオンもいなくなって一人で過ごす夜はあまりにも寒々しかった。

 

 ルーデは窓辺に頽れてさめざめと泣いた。

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