ギャルゲー世界の裏ヒロイン ──全員TS──
俺は目の前の光景が信じられなかった。
こんなのあり得ない。こんなことあってはならない。
この俺が男に──しかも主人公とライバルキャラに同時に告白されるなんて、何をどうやったらそんなことになるんだよ。
「いつからだろうな。ユリシーズよりもお前のことを考えている時間が増えた。一緒にいるのが楽しかった。お前の側にいるのが心地良かった。──お前が好きだ」
ライバルキャラにして公爵家の貴公子アルジャーノンが眩しい笑顔で言う。
その隣を見れば──
「リネットさん」
同じく笑顔の主人公──真の勇者の血を引く俊才リヴィウスがいる。
「ひ、ひゃい!」
思わず背筋を正して身体ごと向き直る。
「僕は今でもリネットさんを愛しています。この気持ちは誰にも負けません」
「な、なるほど?」
なるほどなんて言ってはみたが、想定外過ぎて他に言葉が見当たらない。
──どうしてこうなった!?
心の中で叫ぶ俺は二人との最初の出会いを思い出す。
◇◆◇◆◇
五月のある日の放課後。
俺【リネット・フォウ・バルトファルト】は招待されたお茶会に行く途中、思いがけない場面に遭遇した。
「お前には不釣り合いだっつってんだろ!」
「でも招待状が──」
「ああ!?社交辞令って言葉知らねーのか!これだから平民出は──」
複数人でリンチされた挙句に招待状を破り捨てられて、悔し涙を流す主人公様がそこにはいた。
見覚えのある後ろで括ったセミロングの明るい茶髪に緑がかった青い瞳。
典型的なイケメン貴公子であるライバルキャラとは趣が違う可愛い系の美少年である。
見る人が見れば庇護欲を掻き立てるだろう。
『──これがいじめ、ですか。彼は特待生ですが貴族階級ではありませんからね。一般人がこの学園に通っているのが許せない生徒は多いのでしょう』
相棒の【ルクリア】が言う通り、彼の辿る道は常に差別や誹謗中傷との戦いだった。
それらに負けずに着々と実績を積み上げ、英雄になっていくのが魅力であり、見所だったのだが──今視線の先にいる彼は泣いていた。
その姿は英雄でも勇者でもない、ただの一人の少年だった。
だから──声をかけてしまった。
「ねえ、君大丈夫?」
◇◇◇
俺がこの世界に生まれる前、つまり前世でプレイしていたギャルゲーがある。
当時ブームになっていた平民出身の女性主人公と貴公子たちの恋愛を描いた乙女ゲーのギャルゲーバージョンみたいな作品で、ストーリーの重厚さと爽快感のある戦闘パート、ヒロインたちの可愛さと癖の強さ、あと成人版の濡れ場のエロさで人気だった。
まあ、ハマったね。すごく。
メインヒロインのユリシーズちゃんの芯の強さに惚れ惚れし、従者のジュリアちゃんの魔性ぶりに抗えず、高慢ちきだが実はドMなブリアナちゃんに嗜虐心を煽られ、ワイルドなグレンダちゃんの乙女な内面とのギャップに悶え、クールなクレアちゃんのドジな一面に庇護欲を掻き立てられた。
ネタバレを踏む前にクリアしようと二徹でプレイして全ルート制覇したのだが──それがいけなかった。
二日間も何も食べずにプレイしていたせいで腹が減ったので、コンビニに行こうとアパートの部屋を出たら、階段で足を滑らせて転落死してしまったのだ。
そして何の因果か、そのギャルゲーの世界、しかも物語の舞台であるホルファート王国に転生した。
──女として。
そこからは苦難の連続だった。
この世界、男女平等なんて影も形もない家父長制の真っ只中だから、女は料理に掃除洗濯、裁縫はできて当たり前、男に逆らわず、何があっても耐え忍び、献身的に尽くすのが良い女とされている。
毎日母親と共に朝早くから起きて朝食の支度を手伝い、家畜の世話をし、朝食を食べたら後片付けをして畑仕事を手伝い、少し早めに上がって弁当を作り、それを届けたら今度は掃除洗濯、夕食の準備、夕食が終わったら後片付けしてやっと一息ついて、そして一日の仕上げに羊毛で機織り──前世の社畜時代の方がずっとマシだった。
それなのに男共ときたら、感謝の言葉の一つもくれないし、暇でも全然手伝ってくれない。
親父は時々労いの言葉くらいはくれるが、兄と弟はあからさまに見下した態度を取ってくる上にパシリに使おうとしてきやがるので、何度か殺意すら湧いた。
そして極めつけには祖父によって嫁に出されそうになった。それもバツ七で五十過ぎの爺にである。
このままでは俺の人生が終わると確信して、家を飛び出した。
そして波瀾万丈の思い出したくない大冒険の末にロストアイテムの宇宙船ルクリアと莫大な財宝を手に入れ、縁談を取り消させた。
とはいえ、そのままではまた縁談を持ってこられかねないので、旅の途中で見つけた浮島を領地に領主として独立することにした。
王国は冒険者によって建国されたという経緯があって、冒険者の権利だけは男女の別なく平等に守られる。
思ったよりも成果が高く評価されて、男爵の爵位まで貰ってしまったのは想定外だったが、ようやく俺は難を逃れたのだった。
そして学園に入って、何人か友達もできてやっと平穏な日々を送れるようになった。
──それで油断してしまったんだろうな。
◇◇◇
「な、何でもないですよ」
泣いているところを見られて恥ずかしかったのか、主人公様──【リヴィウス】が目を逸らして強がる。
「でも怪我しているよ?手当てしてあげるから、おいで」
「え?いいですよ。こんなの大したことないですから」
「人の厚意は素直に受け取るもんだぞ。いいから来る!」
「ちょ、ちょっと!」
半ば強引に近くの部屋に連れ込んで傷の手当てをしてやると、リヴィウスは顔を赤くしてお礼を言ってきた。
「あの、ありがとうございます」
「いいってことよ。それよりなんであんなことになってたの?」
事情を聞いてみると、リヴィウスは苦々しげに語り始める。
曰く、フィールド辺境伯家の令嬢【ブリアナ・フォウ・フィールド】が主催するお茶会に招待されたらしいのだが、さっきの男子生徒たちに喧嘩を吹っ掛けられ、その拍子にバレて招待状を破り捨てられてしまったとのことだった。
──おかしいな。
本来なら頑張っているところを見て彼を見直したメインヒロインのユリシーズか、ガサツな自分を笑って受け入れてくれたことで心を開いたグレンダあたりが助けてくれているはずなのだが。
なのに今のリヴィウスの周りには誰もいない。
「──僕、やっぱりここに来るべきじゃなかったんですかね?」
リヴィウスが弱音を吐く。
そんなシーン原作にはなかったはずだが──いや、待て。思い出した。
たしか終盤、自分が率い、鼓舞した人たちが戦いで大勢死んでいくのに耐えかねて漏らした泣き言があった。
その台詞を選択すると、好感度にもよるがヒロインたちに失望されてバッドエンドまっしぐらだった。
まだヒロインに出会ってすらいない今の段階では好感度もへったくれもないが、学園を去られでもしたら困る。
これから先起こる戦争を終わらせるには勇者の力とリヴィウスの持つ特別な力が必要なのだ。
だから俺は柄にもなく慰め、励ますことにする。
「そんなことないでしょ。君の入学は学園や王宮の決定でしょ?文句を言われる立場じゃないし、生徒たちにも君のことを勝手にあれこれ判断する権利もないよね」
リヴィウスは目を丸くしていた。
「でも、周りが毎日僕はここに相応しくないって──」
「言いたい奴には言わせておけばいいんだよ。それか、上の意向だから無理です、でも苦情があったと伝えておきますね、とでも返しておけば?言い返せるやつなんて少ないと思うよ」
そう言ってはみたが、不安になってくる。
原作のリヴィウスはもっと強くて、何を言われてもなにくそと頑張る鋼のメンタルを持った奴だった。
でも、今思えばそれはリヴィウス自身じゃなくて、プレイヤーの選択の結果そう見える行動を取っていただけで本来の彼の性質ではないのかもしれない。
年相応に傷つきやすくて、悪意を受け続ければ追い詰められる──そんな至って普通の少年がリヴィウスの本質なのだとしたら。
「ま、また何か凹むことあったら私のところに来なよ。話聞くくらいはしてあげられるからさ」
一時的に彼の拠り所になってやる必要があるかもしれない。
そして彼が一ヶ月近くも孤独な理由を突き止めなければ。
そう考える俺は気付いていなかった。
いや、無意識に気付かないふりをしていた。
リヴィウスが俺を見る目に込められた感情に──
リネット:TSリオン。黒髪ショートのボーイッシュガール。心はまだ男──のはず。
ルクリア:TS?ルクシオン。赤いボディに白い一つ目。音声は女性プログラム。
リヴィウス:TSリビア。可愛い系の美少年。容姿に違わず優しい。勇者の末裔。
アルジャーノン:TSアンジェ。イメージは学生時代のヴィンスさん。聖騎士の末裔。
ユリシーズ:TSユリウス。黒髪ロングの正統派美少女。厳格な環境で育ったせいで優しさに飢えている。
ジュリア:TSジルク。あざと可愛い魔性ロリ。嘘を吐きすぎてどれが自分の本心なのか分からなくなってる。
ブリアナ;TSブラッド。自分磨きには手を抜かない爆美女。高慢ちきだが、認めた男には蹂躙されたいドM。
グレンダ:TSグレッグ。ウルフカットのイケメン女子。女らしくしろと言われるのが嫌だが、中身は乙女。
クレア:TSクリス。無表情気味なクールビューティー。剣を握れば敵なしだが、剣がないとただのドジっ子。