親友に敗北した退魔師が式神と融合させられてTS悪堕ちする話 作:ナメクジ次郎
炎と血飛沫。怒号と絶叫。
それが俺達二人の辿り着いた戦いの行先。
追い詰められても未だ尚余裕の笑みを浮かべる目の前の親友だった男に、俺は破邪の刀を向けた。
「こんな結末になって、本当に残念だよ」
足元に転がるのは人間、妖魔問わない死体の山。
総動員された鬼龍院家内部の俺の派閥の部下達と、芦屋が諸外国で手に入れた百万の式神による殺し合いの爪痕。
たくさん死んだ、犠牲になった。それでも俺は、止まれなかった。止まりたくはなかった。
「芦屋……お前は、どこで間違ってしまったんだ……」
「間違う? クヒヒヒ。なんとまあ、鬼龍院家の当主サマはおかしな事を言うようになったのう。国の為に働き過ぎてそっちこそおかしくなったんとちゃうか?」
トントン、と頭を指で叩くジャスチャーでこちらを煽ってくるその白髪の男は芦屋九曜。俺の親友だったはずの男で。今は殺さなければならない厄災そのものだ。
長く伸ばした綺麗な白髪、整った顔、ジジくさい喋り方。それら全ては昔と変わらないままに、変わってしまったのは二人の立場と、使命だけ。
国の為、ひいては弱き民の為に戦う鬼龍院家の当主であればこそ。この命を犠牲にしてでも果たさねばならない。
それが、それこそが俺の。鬼龍院柳の憧れた当主の姿なのだから。
「まあ、こんなんで勝ち誇っとるんなら詰めが甘いのは相変わらずっちゅうことじゃなあ。お陰でやりやすいことこの上ないわい」
「ッ何を!」
未だ余裕の表情を崩さぬ芦屋が印を結べば、大きな地鳴りと共にナニカが地中から這い出して来る。
その姿はどちらも巨大……いや、その言葉すらも生ぬるいほどに強大な二体の式神は、大蛇と大百足の姿をしていた。
「世界回って色々ゲットしとるっちゅうのに、式神が百万で済むわけがなかろう? 百万鬼夜行ちゃうぞ、ぷらすで二鬼じゃ。正真正銘、これで打ち止め。されども真打よ! さあ当主サマにこれが超えられるかのう?」
尻尾巻いて逃げるっちゅうなら見逃してやらんこともないけどのう! などと大笑いする芦屋の姿を見て、俺は今一度刀を強く握りしめた。
「逃げないさ……逃げるわけないだろ。親友だろう? 俺達」
「柳殿……なんじゃあ、嬉しい事言ってくれるのう」
そうだ、俺はもう逃げるわけにはいかないんだ。自分の為にも、芦屋に傷つけられて来た者たちの為にも。
しかして、気合を入れただけでこの形勢が逆転するわけではない。依然として不利な状況は続くばかりだ。
ちらりと大百足の方を見やれば、その大きさは山を七巻半でもできてしまいそうなほど。であれば伝承にあるそれとその力は遜色ないであろうことが伺える。今は弓を持っていない以上、どこまで通用するのかすらわからない。
であれば必然、三対一の現状に風穴を開けるのであれば狙うべきは大蛇しかない。
大百足と遜色ない大きさを持つそれが持つ深緑に赤のラインが入ったその体表は、見るからに硬質な鱗で覆われている。
それがどれだけの力と由来を持った存在であるか、見た目には判断しきらないがこちらが持つは倶利伽羅剣。であれば力押しでどうにでもなるはずだ。
そう確信し、俺は深く息を吸い。その強大な存在へと立ち向かった。
──―
「なんじゃあ無様な姿じゃのう。さんざ色々言っといて、結局俺には勝てんのか」
大蛇の口に咥えられ、ぐったりと垂れ下がっている俺に対して向けられた芦屋のその言葉すら遠くに聞こえる。
もはやピクリとも動かない自身の体は、痛みと出血によって意識を刈り取られる寸前だ。
それどころか腰から下が丸々噛み千切られているというのに未だ気絶もしていなければ絶命に至っていないのは、芦屋に何かされているせいなのだろうか。
「殺しはせんよ。柳殿には俺のモノなってもらわねばならんからのう」
「は……?」
芦屋から出たその予想外の言葉に、思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
俺のモノにする? 誰が? 誰を?
こいつは今、何を口走った?
「俺は……鬼龍院家の当主だぞ……誰がお前のモノになんて……」
「そう、それがいかんのじゃよ柳殿。家に囚われ、鬼龍院柳ではなくなっちまったお前が、本当に可哀そうでのう……じゃから、生まれ変わってしまえい」
悲し気な顔でこちらに近づいた芦屋の手が、俺の顔に触れる。
違う、俺は俺だと、家に囚われてなんていないのだと。これは自分の意思で憧れ目指したものだと。そう否定したかったのに、ボロボロのこの体は最早それすらもままならない。
「この大蛇はのう、死と転生を繰り返す、無限の蛇じゃ。その中でゆっくり眠れ。そして混ざって混ざって、綺麗な柳殿になってくれや」
パチン、と。芦屋が一度指を鳴らす。
それだけで奴の制御下にある大蛇は爆ぜ、その血と肉をまき散らして絶命してしまう。
その口に咥えられていた俺はその勢いで投げ出され、そのまま地面に落下し死ぬ──などということは、許されなかった。
飛び散った血肉は、俺を中心に集まっていき。この体に纏わりつく。
「さよならじゃよ、鬼龍院の当主よ。なあに心配するでない、すぐまた会えるわい。その時はまた、二人一緒に……」
異常な熱量でもって俺の体を溶かし、一つになろうとでもするようなそれに全身が包まれるその寸前に聞こえたのは。優しい声だった。
──
長い眠りの後、まず最初に感じたのは体を包む肉の繭の温かさ。そして
記憶も、感情も、使命も。鬼龍院柳であった頃の全てがそこにあり。そして同時に、大蛇であった頃のそれも一切の欠落なく持ち合わせている。
故に、今の自分自身が親友に主人に、何を求められているのかも手に取るようにわかる。
(ああ──早く目覚めなければ)
外に出る為に手を伸ばせば、繭はなんの抵抗も無く割れる。これも大蛇であった時の自分の体の一部なのだから、当たり前だ。
入って来る光に少しだけ目を細めながらも、その先に誰が待っているのかを想像すれば、プレゼントの入った箱を開ける前のような高揚感。
「ふふふっ」
感じる主人の気配に興奮して思わず漏れてしまった声は、男だった時とも大蛇だった時とも違う。可愛らしい少女の声だ。
てらてらと光を反射している液体に包まれたその肢体はまるで芸術品のような美白で、細く柔らかい女性らしい膨らみを持っている。身長は随分と縮んで目線は以前よりも下がっていた。
風になびく髪は長くしなやかで、深緑にところどころ赤いメッシュが入ったそれは、大蛇であった頃の体表を思わせる。
尾てい骨辺りから生えた太い尾と、頭から生えた角はどちらも俺にも我にも無かった器官だがその感覚を違和感なく感じられる。
人間の女の体にはなっているが、それは些細な事だろう。私は幾度となく転生する中で様々な姿に変わっていったのだから、こうなることもおかしくはない。
「いかがでしょうか、芦屋様? 転生を果たした
その口から出る言葉遣いも、以前では全く考えられないような、礼儀正しい少女のもので。けれども違和感も無くその言葉遣いが頭に浮かぶ。
魂まで掌握された大蛇と混ざっているのだから、当たり前の話ではあるのだが。
「なんとまあ、随分と可憐になっちまったのう、柳殿?」
「柳殿だなんてそんな……昔の昔の呼び方をしないでくださいませ。今の私は鬼龍院柳であって、あなた様の大蛇でもある存在。忠実な下僕なのですよ? ですので──」
今の私は生まれ変わり、新たな存在になったのだから親友であった頃の呼び方は不適格だ。
それに退魔師の考え方に固執して愚かにもご主人様を救おうなどと考えていた時と同じ呼ばれ方をするだなんて、耐えられそうにもない。
「ですので、ただヤナギと。鬼龍院家の人間でない、ただの邪竜のヤナギとして扱ってくださいませ。ご主人様♡」
「ほうか……ならばお前は、これからは親友じゃのうて俺の式神として、ヤナギとしてしっかり役立ってもらうとするかのう」
「はいっ! 私が殺してしまった芦屋様の式神達の代わりに手となり足となり、しっかりと働かせていただきますね。ですのでその分、いっぱい愛してくださいましね?」
芦屋様の為に焼き、殺し、嬲り、奪う。
そんな行為を想像しては昏い喜びに包まれながらも、歓喜に尻尾をゆらゆらと揺らしながら。私はご主人様と共に歩む未来を想像して、頬が緩むのを止められないのでした。