親友に敗北した退魔師が式神と融合させられてTS悪堕ちする話 作:ナメクジ次郎
「~ちゅうことで、前から探しておった徳川曼荼羅の触媒が見つかりそうなんじゃよ。柳殿」
パキリ、と音をさせシュガーシロップの封を開けた芦屋は少しだけ粘度のあるその中身をグラスの中に注いでいく。
透明なそれはグラスの中で混ざり合わない境界線を作り出すが、芦屋がかき混ぜることによって次第にそれも無くなっていき完全に混ざり合った。
「いやぁしかしあっついのう。久々に日本に帰って来たが以前よりまだ暑くなっとらんか? 湿気がある分他の暑い国よりキッツイわ」
汗かいてしまうのう。と手で顔を仰ぎながら芦屋は言う。
そしてアイスコーヒーの注がれたグラスを手に取ると、ストローに口を付け一口。ゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ。
その時の喉の動きを見て、思わず喉仏へと視線が向いてしまった。
女性のものよりも発達し前へ突き出たそれは、胸板や性器のように目立ちにくいがそれもまた男性らしさの象徴であり。昔の自分にあったものだ。
少しだけ郷愁を感じ自身の喉へと手をやれば、その首に巻かれた首輪の表面を撫でるのみで。けれど苦しさもなくそれを装着できている平坦さが、今の自分の体がどうなっているかを如実に表していた。
「やっぱこういう日にゃあ冷たいコーヒーに限るのう! なあ柳殿」
「いやお前のそれ、コーヒーか? というか本当に美味いのか?」
こんな蒸し暑い日にはキンキンに冷えたコーヒーというのは、俺も同意するところだ。
だかしかし。今芦屋が飲んでいるそれは凡そ一般的にとまでは言わないが、俺個人としてはあまりコーヒーだとは認めたくないものだ。
その黒い液体が入ってグラスの傍らには、だいたい二十個ほどの開封済みシュガーシロップが置かれている。
漫画やドラマなんかのフィクションでも最近は見ないような極端な量のそれは、このカフェの店主がこだわり抜いたそれを別のナニカへと変えるのには十分過ぎる。
「なんじゃあ柳殿。俺の味覚を疑っとるんか?」
「そうだな、少なくともそれを見せられたら疑いたくはなった」
「ふぅむ、それならほれ。柳殿も飲んでみいや」
俺の発言に少しだけムッとした様子の芦屋はそのグラスをすっと、こちらに差し出してくる。
既に俺は無糖のそれに口をつけているのだからあいつの持っているそれがどのような味がするのかくらいは容易に想像がつくし、甘いものはあまり得意ではない。
面倒なことになったな、とは思うがここは素直に従っておいた方がいいのだろう。これで無理に断って拗ねられると後が怖い。
まあ抱かれている時にねちねちとされるのは嫌いではないんだが、正直なところとても疲れる。
「……一口だけだぞ」
そう言ってグラスを受け取り、口元へと近づける。
市販のシロップを使っているからか、あれだけ入れても甘い香りなどはせずにそれが逆に不気味だった。
見えている地雷というのはこういうものかと思いつつストローに口を付けようとした瞬間、俺はあることに思い至り口を開けた状態でストップする。
──これは、間接キスになるんじゃないか?
そう意識してしまうと、途端に恥ずかしくなってきた。
さっきまでは平常だったはずの心臓は、とくん、とくんと少しずつ鼓動のスピードを上げていく。
それにより体温が上がったからか、心なしか顔も熱くなってきたような気がする。もしかしなくても今、あいつから見れば俺は赤面しているのだろう。
そして間接キスを意識して起こる効果は、それだけではなく。
目の前にあるストロー。ほんの数センチだけ口を動かせば触れてしまうそれに芦屋九曜の、ご主人様の体液、唾液が付着しているという事実。それに体が反応して、まるで口と口でキスをねだる時のようにどうしても欲しくなってしまう。
間接キスを恥ずかしいというまるで少女のような感情と、付着した体液でさえも感じたいというメスとしての感情。その二つがせめぎ合いギリギリのバランスを保っていたその時。
「くひひひ、どうした柳殿。飲まんのか?」
そう言う声に顔を上げてみれば、芦屋はニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
こいつ、こうなることがわかっててわざと飲ませようとしたな。
しかし声を聞いたことによって少しだけ冷静さを取り戻せた。最早あいつの思い通りになってたまるかと俺は意を決してストローへ口を付ける。
こちらの吸う動きに合わせてゆっくりと管を通って上って来るそれは先端部分へと到達したことにより口内へと入り、その冷たさにより火照ってしまった顔を幾分か冷やしてくれる。
その冷たさを残したまま飲み込めば、コクリと小さく喉が鳴り、食道を通って胃へと落ちていく。
「ッ……甘すぎる」
感想は、もはやそれしか出てこない。
口に含んだ瞬間も、喉を通る時も、ストローから口を離した後に感じる後味ですら甘ったるい。全てを支配する暴力的なまでの甘さ、それがこのコーヒーの全てだった。
厳選された豆の香りすらも塗りつぶしてしまうそれの前に、最早間接キスへのドキドキなども消え去ってしまったようでさっきまで感じていた心臓の音すらも平常に戻ってしまった。
勿論体液を口に含んだ感覚なんかも感じない。今感じていたせめぎ合いを返して欲しい。
「なんじゃ口に合わんかったか。柳殿ならわかってくれると思ったんじゃがなあ」
などと唇を尖らせながら言いつつ、芦屋はグラスを受け取る。
わかってたまるか、と内心思いつつも口に出すことはない。
今口を開けば、胃の中まで甘ったるくなった吐息が出てしまうそうで、今すぐにでも口直ししたかったからだ。
急いで自分のコーヒーを口に含めば、心地よい苦味が口の中へと入って来る。
芦屋によってもたらされた甘味に胃の中まで支配された体は、無糖のコーヒーによって少しずつ混ざり合い平常さを取り戻していく、
グラスの中身をほぼ飲み干した辺りでようやく甘ったるさは消え去って。ふぅ、と一息。自分から出たとは思えないほど可愛らしい声が漏れた。
そして冷静になったところでちらりと芦屋の方を見やれば。
「美味いんじゃけどなぁ……」
唇を尖らせたままそう言った後に、なんの躊躇もなく俺も使ったストローを口に含み体液を交換する。
少しだけいじけ気味に甘すぎるコーヒーを飲む芦屋のその姿は、まるで子供のようで少しだけ可愛かった。