親友に敗北した退魔師が式神と融合させられてTS悪堕ちする話 作:ナメクジ次郎
堕ちる退魔師
目の前に広がる光景は、まさに地獄絵図と言ったものだった。
そこらに倒れ伏しているものは、大なり小なり差はあれど皆一様に変質しており、それらが元は人間であったことをわからなくしている。
血と、肉と、汚泥と肥を煮詰めたような臭いの充満するその場所の中で、五体満足に立っている者が一人。
それがこの地獄を作った張本人だということは、一目瞭然だった。
「芦屋……何故、こんなことを!」
芦屋九曜……それが今目の前に居る人物の名前。
長く伸ばした白髪を後ろに束ね、僧衣を派手に改造し着崩した端整な顔をした男。
陰陽術の天才と呼ばれながらもある日突然に姿を消し、神出鬼没に現れては今のような地獄を作っていく。
俺の、親友だったはずの男だ。
「おおう、柳殿ではないか。なんじゃあ来るなら来ると言うてくれればよいものを、もてなす準備もできとらんが、なんぞ一杯茶でもシバいていくか?」
こちらの声に気が付くと、芦屋は何事もなかったようにこちらへ朗らかな笑みを浮かべそう言った。
相も変わらず年に似合わないジジくさい喋り方をするその様子はあいつが消える前と全く変わっておらず、その事実に吐き気がする。
「質問に答えろ……何故、お前がこんな……誰よりも強く才能があったお前が、どうしてこんな地獄を作った!」
「なんじゃあノリが悪いのう……何故って、そんなの決まっておるだろうに。やりたかったからやった、それ以上の理由が必要か?」
「なんだよ……それ」
親友だった男のその言葉が信じられず、声が震える。
やりたかったから? たったそれだけの理由でこんなことができるというのか?
「正義とか使命とか、そういうのじゃ魂が震えんのじゃよ。魂に喜び無き人生に発展性などなければ成長もない、エンジョイせねば勿体なかろうに」
「エンジョイ……? 発展性? そんなことの為にこんなこと、していいとでも思っているのか!」
「思っておるとも、現にほれ。俺は随分と強くなったぞ、正義だ人命だなんだと好き好んで停滞をするお前とは違ってのう。例えばほれ」
芦屋が指を鳴らすと、その影が盛り上がり何かを形作っていく。
変化が終わると、そこに一匹の黒い毛並をした大型犬が鎮座していた。
「黒い犬、向こうじゃ「ぶらっくどっぐ」ちゅうてのう、海外行脚の時に調伏したんじゃよ。他にも「よなるでぱずとぉり」なる邪神なんかも調伏したが、ありゃあ楽しかったのう。思い出すだけで達してしまうわ、ヒヒヒヒ」
うっとりとした表情で黒い犬を撫でながらそう語る芦屋の目は、奴がどうしようもなく狂ってしまったのだという事実を俺に突き付けていた。
だとすれば、嗚呼。俺がするべきことは一つしかないだろうさ。
「なんじゃあ柳殿、俺とやるつもりか? なんともまあ身の程知らずな……一度でも俺に勝てたことは無かったろうに。友人を殺すのは流石に心苦しいんじゃがのう」
符を構えた俺を見て、芦屋は心底悲しそうな目でそう言った。
そりゃあ俺だって悲しい、だとしても、これ以上こいつが、友人だった者が手を汚すのは許容できない。
だから例え勝つことができなくても、刺し違えてでもここで止めると。そう覚悟を持って俺は、奴と戦わなければならないんだ。
──
体に力が入らず、思わず膝をついてしまう。
呪詛と黒い犬の毒により蝕まれ、封術によって動きさえも制限されてしまったこの体はもはやピクリとも動かすこともできない。
自分の生存を勘定に入れなければ止められると、そう考えていたのは甘い考えであったと痛感する。
芦屋九曜は、本人の言うように成長し、手の付けられないバケモノと化していたのだから。
「鬼龍院柳よ、俺の唯一の友だった男よ。安心せい。殺しはせぬ、殺しはせぬよ」
膝をついたまま動けない俺に、芦屋はゆっくりと近づいてくる。
そうして、奴の影と俺の影が重なっていき──。
「ただ、魂の髄まで辱め、そして俺の式神へと
二つの影が合わさり、そこに芦屋の従える
大きく広がった影の中に、未だ身じろぎもできない俺の体は沈み込んでいった。
「俺は……共に歩む相棒が欲しいでな」
頭の先までどっぷりと影に沈み込み、意識を失う直前に聞いたのは、少しだけ寂しそうな芦屋の声だった。
──
「目覚めよ、目覚めよ柳殿、はよう起きて姿を見せんか」
ぺち、ぺちと頬を叩かれる感覚で、沈んでいた意識が覚醒していく。
ゆっくりと目を開くと、眼前には芦屋の整った顔があった。
少しずつ意識が覚醒してくると、何があったのかをだんだんと思い出す。
俺は奴に負けた。そしてその魂、魂魄の奥の奥まで、好き勝手に弄られたのだと。
親友だと言った人間相手に随分とまあ不躾で勝手なことをしたものだと、怒りたくもなる外道働きだ。
だけど俺は、全くそんな気は起きてこず。むしろ奴を顔を見ているとだんだんと体が火照り、鼓動が激しくなってくる。
ドクン、ドクンと異様なまでに強く脈打つ心臓に手を当てようとすると、むにゅり。と何か柔らかいものに触れた。
視線を下へ落としてみれば、そこにはワイシャツを押し上げる二つの大きな膨らみが……。
「な、ななな……こ、これは……」
「なんじゃその体か、どうやら俺が調伏したぶらっくどっぐは雌だったらしくてのう。お前の魂と混ぜたら影響がよう出たという訳よ。面白い事もあるのう。ほれ、鏡を出してやるから新しい体を確認せい」
芦屋が術によりどこからともなく出現させた姿見に映っていたのは、やはりというべきか一人の女の姿であった。
男物のスーツに包まれた体はさきほど目視したように胸は大きく腰は細く、そして尻と太ももは男物の服にパンパンに詰まるほどに豊満だった。
変わってしまった体を直視し、ショックのあまり顔を上げれば、今度は自身の顔を真正面から見てしまう。
(あ……可愛い……)
濡れたような艶やかな黒髪、そして元の自分の面影を残しながらも女性らしく、可愛らしくなっている顔。
大きくなった瞳の瞳孔は獣のように縦に裂け、極めつけに頭からは耳が生えている。
思わず見惚れてしまうほどの獣耳美少女、それが今の俺の姿であると、その鏡はどうしようもなく突きつけていた。
「なんじゃあ自分の体を見て惚けおってからに……まあそれも仕方ないわなお前童貞じゃもんのう!」
目を細めてカラカラと笑い、心底楽しそうに芦屋はそう答えるが笑い事ではない。
魂を弄ったうえに、性別まで変えられた? そんな仕打ち、許されるはずがない。
だというのに、相も変わらず怒りは湧かず、むしろ興味深そうにこちらを見つめるその目線に、心臓の高鳴りは増すばかりだ。
なんだこれは、これではまるで……。
「まるで、恋する生娘のような反応じゃのう。男だったくせに雌になった途端にまあなんとも浅ましいこと。プライドとか無いんか?」
「ん……やっ……」
なじるようなその言葉にすら、今のこの体は反応してしまう。
この体は、この魂は、自分でも思っている以上に屈服してしまっているらしい。
こうして今残っている自我ですらも、そう勘違いしているだけで最早一片たりとも自分自身の自由にはなっていないのだと。
その事実を頭で理解した瞬間に、すぅ、と何かが全身に通っていく感覚がした。
まるで心と体が、いや、思考と魂が一致していくような感覚。
自分の中にあった決定的なズレ、芦屋九曜の式神になるのに不必要なものが無くなり、全てが最適化していく。
男であったというプライドも、正義も大儀も指名も、無価値なものになっていく。
ああ、これが芦屋が。主人となる彼が言っていた、魂が震えないということなのだと魂が理解する。
「ん……終わったようじゃな。意外と強かったのうお前の魂、正直改造してすぐにでも服従すると思うておったが……いやあ流石俺の親友、無駄に頑張るのが得意な奴よのう!」
そう言いながら、芦屋はわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。
その感覚に、俺に混ざった私の部分が反応し喜びの感情を増幅させる。
顔が熱くなり息は荒くなり、まるで犬のように恥ずかしげもなく犬歯を覗かせながら体は喜びに打ち震えた。
「おーおーまるで発情した犬じゃのう、だがサカるのはもう少し後にせいよ。もう一仕事ここで終わらせて、帰ったら可愛がっちゃるからのう」
「俺が呼んでおいた追っ手の始末だな、任せてくれ」
自分の元同僚を始末する、その行為に嫌悪感が無いという訳ではない。
だがこの体はそれ以上に、芦屋の命令に従うことにどうしようもない喜びを見出している。彼の為なら忌避していた人殺しすらも命令であれば快感に変わるだろう。
主に隷属し使役される。そんな式神としての喜びこそが今の自分の全てなのだと、どうしようもなく刻み込まれてしまっているのだから。