※この作品はR-18です。

ゴールデンえすけいぷ   作:山背としや

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[はじめに]

この作品は、Dead by Daylightの世界にもしも杉本達が迷い込んでしまったら……?
というコンセプトのクロスオーバー作品です。


・Dead by Daylightとは?
一人の迷える仔羊(殺人鬼)が四人の悪魔達(生存者)に妨害されながら、個性豊かなフィールドで血涙を流しつつ脱出されない様に処刑する(???)非対称型対戦サバイバルホラーゲームです。

このお話の中では、ゲーム状のメタファーも含まれ、しばしばシステム的な事を発言してます。
何でもありな人向け。

流血、猟奇的表現が含まれますので、閲覧に注意してください。

[人物紹介]
・月島基
今回の語り部
谷垣を追ってアシリパのコタンに辿り着いた。インカラマッの出産に立ち会い、鯉登少尉と共に谷垣と別れたはずだったのに気付いたら霧の森に引き込まれていた。
何があっても、平常心を装う事に特化した為に霧の森でも常時「鋼の意思」で負傷しても呻き声を消すことが出来る。
スキルチェックは壊滅的。

・鯉登音之進
月島と時を同じく霧の森へ引き込まれた。
何かしら猿叫を上げがち。それによりキラーに索敵され易い。軽い身のこなしは生存確率をそれだけでも高めてくれる。霧の森でのパーク「スマートな着地」を常時使用出来る。

・ハントレス
母親の愛に飢えた狩人。母との大事な思い出である子守歌は彼女の鎮魂歌。
縄張りに入ったドイツ軍の連隊を数隊壊滅させる程に討伐力がえげつない。
無邪気で時に残酷な森の統治者。
……甘い物と、可愛いもの、小さい物に目がない。



[女狩人と子守歌]

遠くから哀しい声色が聴こえる。

仄暗い森のような哀しい歌声。

よく聞き取ろうとして、自分の意識が遠のいていた事に気が付いた。

 

目を覚ますと、それまでいたはずの厳冬の北海道の土地とは異なる梅雨を思わせる湿気の多い張り付くような空気と、水分を多く吸ったぬかるんだ大地。

見覚えも無い場所に困惑し、ドラム缶に焚かれた火を頼りに大木の間に横にされている自身の体躯を起こし、周囲を確認する。

 

すぐ近くに、見覚えのある黄土色の軍服姿が目に入り安緒した。

軽く肩を揺すり付けると、鯉登少尉も直ぐに目を覚ました。

 

「ハッ!?」

「気が付きましたか?」

「月島……?此処は……?」

「…私にも、分かりません。北海道では無いですが……日本であるかどうかも……。」

「な……!何故いきなり……!?」

「分かりません。」

 

また鼻歌が聞こえてくる。

この歌……。どこかで聴いた事がある様な気がするが……。思い出せない。

鼻歌の出処を確認しようと、立ち上がり木の影から辺りを見回す。

木が立ち並び、視界が悪い。今居る地点からの右方向には人影は無かった。左側は鯉登少尉が見回しているが、そちらにも目立った影は目視できる範囲では見えない。

 

「何だ?さっきから聴こえるこの鼻歌は?」

「分かりません。……それと、何だ?この心拍音と言うか……。」

 

次の言葉を口に出そうとした時に、眼前数センチ先を何かが風を切って横切った。

通り過ぎた先を確認すると、手斧が地面に突き刺さっている。

飛んできたものは凶器だった。

 

飛んできた方向を確認すると、兎の仮面を被った体躯の引き締まった何者かが20メートル先の地点で何かを構えながら接近してくる。

 

「鯉登少尉!何かに狙われています!直ぐに此処を離れた方がいい様です!」

「ああ。月島!二手に別れて、安全を確保した後、此処へ戻る。下手に手出しはするな!」

「分かっています。鯉登少尉こそ!相手は斧と思われる物を投げます!気を付けて!」

 

投げ付けられた斧は今度は背後の木の幹へ突き刺さった。

それを合図に木陰の反対側へ飛び出した。

仮面の何かはこちらを追って走ってくる。上手く鯉登少尉から、この者を引き付けることが出来たようだった。

 

土と材木を使った塀が立ち並ぶ区画を見つけ、すかさず塀に身を潜める。

鼻歌と心拍音が近付く。

屈んで塀の窪地に身体を寄せる。

 

すぐ近くを斧を持ち、ウロウロと辺りを見回すその者は、黒いヴェールとうさぎの仮面、歌声に、サスペンダーに止められたズボンはロシア兵の物だが、巻スカート状にしている布地の刺繍は伝統的な民族衣装のサラファンの物で、そこから女性だと判断した。

 

「〜♪」

 

かなり近くで鼻歌を聴き、切迫した状況であるのに、脳裏をよぎったのは小樽の師団駐屯所内、執務室で書類の山に埋もれ睡魔と戦う自身の姿と、傍らで手伝う素振りも無くただ、団子と茶を楽しみ外の景色に目をやる中尉の姿。そして、その時に口ずさんでいた歌の記憶だった。

 

(……そうか、あの時の歌と同じだ。)

 

うさぎの仮面はその場を離れていった。

上手く巻いて、元の巨木へ慎重に戻る。あの者の接近は、鼻歌で判断出来そうだ。常にあの鼻歌を口ずさんでいる。

 

「月島!無事か!」

「鯉登少尉…!声が大きいです。相手にバレてしまう…!」

「……あぁ。すまない。……で、ここは何処だか分かったか?」

「……分かりませんが、人の気配は他に見当たりませんでした。」

「…こちらもだ。向こうに異国の家屋があった。……多分猟師の家だ。

中に鹿の様な頭が何頭か吊り下がっていた。」

「あの仮面の女……。常に子守歌を口ずさんでいます。接近は歌で気付けるでしょう。」

「あれは、女なのか?そうだとすると、随分と体躯が大きな女だ…。あの口ずさんでいるのが子守歌なのか?」

「はい。ロシアの子守歌です。一度中尉が口ずさんでいるのを耳にした事があ……。」

「中尉殿が!?どうして月島が中尉殿の子守歌を聞けるのだ!!羨ましい!!」

 

墓穴を掘ったと後悔するが、発してしまった余計な事を訂正するのも面倒くさい。

適当に流してしまった方が、場が早く収束しそうだ。

 

「少しうたた寝をしてしまっていたのを、悟られ口ずさんだのだろうと思いますが。

その時、歌詞の意味等を教わったのを思い出しました。」

「よし、ここで歌って聞かせろ。」

「は?」

「中尉殿が歌った子守歌を歌え!月島。私もこれで間接的に聞いた事になるだろう!」

「…嫌です。(面倒くさい…。)」

 

どうして追われている立場で、そんな事が出来るのか…。

このまま騒がすのも良くないし、自分が歌って音を発するのも良くない。

 

「とりあえず、外では響きます。鯉登少尉の発見された家屋まで行きましょう。室内ならそこまで広く聞こえないはずです。」

 

慎重に移動するが…その反面、うさぎ仮面の女が我々を発見し、追跡を始めてくれれば子守歌の一件がうやむやになってくれると脳裏をよぎる。発見される事を願った。

 

鬱蒼と生い茂る草木の奥に古い家屋が見える。

屋外では人影は見えなかったが、室内に誰かが潜んでいるかもしれない。

うさぎ仮面とは別の脅威となるかも知れないので、油断せず、慎重に辺りを警戒する。

室内に人影は愚か、気配もなかった。

 

「よし、ここなら良いだろう!さぁ!月島!」

 

どうぞ。と言わんばかりに期待の眼差しを注がれる。

もう諦めて、さっさと従ってしまった方が身の為だと悟る。

 

記憶を遡る。

まだ死ぬ気でロシア語を学んでいたあの頃。日中は執務、夜は語学と決して気の休まらぬ毎日だった。そんな折りに、机で船を漕ぐ自分の傍らで愉しげに歌を口ずさむ鶴見中尉を(当時は少尉であられたが。)憎々しげに睨め付け眼を擦り、意地でも眠らんと筆を走らせては、また振り出しに戻る己の姿。

 

「……月島。この子守歌はなんと歌っていたかな?」

「…はぁ。"ベットの端で眠っては、灰色の狼に脇腹を小さく食われて森へ連れていかれる"……でしょうか?」

「うーん…。まあ要約すれば……そうなのだが、歌に合わせて訳す事も考えなさい。…さて、もう一度。」

「えぇっと……"ねんねんころり"……"ベットでは隅に寝ちゃいけない"…"眠ると森に連れられる、灰色狼に小さく脇腹を食われるぞ"…と。こんな内容でしょうか…。」

「………怖いっ!!」

「…はぁ。」

 

咳払いをして、巡らした過去の記憶から現実へ戻る。フレーズは大体思い出した。

 

「……では。」

「いつでも良いぞ!さぁ!」

 

なるべく外にまで漏れ聞こえないように、声量を意識して落とす。

注がれる熱量の強い眼差しから逃れるように身体ごと鯉登少尉から背けて歌い始めた。

 

「……Баю-баюшки-баю,……Не ложися на краю…Придет серенький …ヴァッ!?…ッゴホッゴホッ…!!」

 

そろそろと移動させた視線の先には鯉登少尉の背後に仮面の奥の瞳を煌めかせるうさぎ仮面の姿を確認してむせ込む。

 

「…それ、お母さんの歌。……もっと聞かせてくれる?」

「…なっ!?キサマ……!何時からそこに!?」

「もっと、聞かせて?」

 

鯉登少尉は素早く身を翻し、うさぎ仮面との距離をとる。

自身も遅れを取るまいと、動こうとした。痛烈な痛みが走る。左肩から斜めに一閃じんわりと鮮血が滲み出た。斧による裂傷から止めどなく血が溢れる。

不思議と、呻き声は上がらない。

あまりにも一瞬の出来事だったが、少尉の冷静さを欠かすにはあまりにも容易な事であった。

 

「キサマ!! 私の部下に傷をつけた覚悟は出来ているんだろうな!?」

 

そこにあるはずのサーベルの柄は虚しくも存在せず、虚空を指先が漂う。

この場所に来てから、自身も気付いていたが所持していたはずの三八式歩兵銃、銃剣…更には拳銃までもが紛失してしまっている。

 

暗い闇が押し寄せて来た。霧が生き物のように蠢く。一瞬にして闇が当たりを支配した。

 

「…な、何なのだ!!この霧は!?オイ!月島ぁ!そこに居るかっ!?」

「えぇ。」

 

癇癪の喚き声と一緒に地団駄を踏む強い足音が聞こえる。

 

「エンティティ!!エンティティ!!邪魔だっ!!歌を聞きたいだけなのにっ!!邪魔をするなっ!私はお母さんの子守歌を聞きたいだけだ!!」

「……落ち着いてハントレス。手違いでサバイバーが彼ら2人だけなんだ。今回の儀式は無効という事で構わないから、彼らに霧の森の過酷さを教えてやってはくれないかい?」

「それは、私の要望を聞いてからだ!私はただ子守歌を聞きたいだけだ!」

「分かったよ。あの兵隊さんが歌うさ。」

 

承諾をしていないのに、勝手に話が進んでいる。

鯉登少尉は気配を感じなくなってしまった。無用意に闇の中を動き回ってやしないか不安を掠めるが、子供でもあるまいしどうにかするだろう。

 

「…貴様。何処にいる?姿を表せ!この場所について知っていると見て、貴様に聞きたいことがある。」

「…少し冷静な奴がいてくれて助かるよ兵隊さん。私はエンティティ。この世界の王であり、神であり、理である。この世界は私の世界。現実世界から私が人間を取り込んで儀式をさせている。その中で、お前達が何を成して、何を思い、何を失うか…。観測しているのさ。

……さて、そういう事だ。私を納得させるだけのドラマを、行動を、意志を示して頂こう。」

「待て!貴様に聞きたいことがあると言ったのが聞こえないか!?自分だけ言いたい事を言い去るのか!?」

「兵隊さんの聞きたい事の全てを答えたつもりだ。

『此処が何処か』『何が目的か』『脱出の手立ては何か』全てをね。

この世界は、私が中心さ。

──あぁ。そうそう。君達の装備は回収させて貰ったよ?

この前、それでとんでもない事をやらかしてくれた奴がいたからね。」

「キエェェェェェェェィッ!!!そこだな!?逃がすかっ!!バケモノッ!!!」

 

鈍い強打音と同時に暗い闇が足元を這うように晴れた。戻った視界の中に、地面に強かに顔を強打する少尉の姿を確認しゴロゴロと悶絶を打つ傍らへ駆け寄った。

 

「無茶をなさらないでください。」

「………うむ。」

「…………。」

 

じっとこちらを見つめ仮面の女が指をこちらに向け突き出す。

 

「歌っ!」

「……月島。私も最後まで聞いていないぞ…。」

「……はぁ。」

 

一体何なのだ。

もう諦めて、思考することを止めた。

 

「── Баю-баюшки-баю,Не ложися на краю

Придет серенький волчок,И ухватит за бочок.

…Он ухватит за бочок,И потащит во лесок.

И потащит во лесокПод ракитовый кусток.

……К нам, волчок, не ходи

Нашу Машу не буди ──」

 

自身が知っているワンコーラス分を歌い上げた。

一呼吸つくと静寂が自分達の間を埋めていく。

静けさを払ったのは仮面の女……[ハントレス]と呼ばれていた女だった。

 

「はぁ…。本当にお母さんの歌だ!大好きな子守歌…!

──エンティティとも約束したし、あなた達に儀式の手順教える事いっぱいある。

…着いてきて。」

「…どうするんだ月島。危害はこれ以上与える素振りは無さそうだが、着いて行くか?」

「[エンティティ]なる者が我々の手網を握っている以上、従わなければ元の世界にも戻れない……。だが──他に手立てはあるかも知れない。何か方法を考えましょう。」

 

ハントレスの背に続き、狩人小屋を後にした。

鯉登少尉が多少声音に圧をかけながら問いかける。

 

「ハントレスと言ったな?一体お前は何者なのだ?」

「私は[アナ]このレッド・フォレストで生まれ、母と狩りをして生きてきた。母がシカに殺されて、私は一人ぼっち。──寂しかった。

でも、いっぱいいっぱい頑張って。私は強くなった。シカもウサギもたくさん狩った。

ある時、私と同じ弱く小さい物がレッド・フォレストに入ってきた。この森で小さい物達を守れるのはもう私だけ。私はその子を奪った。

その後は、あまり覚えていない。皆弱くて、寒さや病気で死んだ。──そのうち、戦争が起こった。私は、私の縄張りを守る為に戦った。そうしてる間にエンティティにこの世界に捕らわれた。」

 

移動する間にハントレスは身の上を語り、自身もまた[エンティティ]の被害者である事を告白する。

 

「さぁ、コレ。お前達生存者はこの発電機を修理してゲートから脱出する。そうすれば、待機所に居る他の生存者と合流する。コレを直す間に我々殺人鬼が生存者を狩ってエンティティの生贄に捧げる。どちらの陣営が先に目標を達成するか。エンティティによって観測されている。これがこの世界の全てだ。」

 

発電機の前に近寄ると、鯉登少尉はじっくり置かれた機材の全貌を確認して屈み込んで設置されたパネルを開き、中の配線を弄り出した。暫くすると火花を上げてパイプから黒煙が上がる。

 

「キエッ!?」

「[スキルチェック]というものが発生する。お前が見えた的の中にゲージがあるから、そのゲージ内で意識して的を止めれば問題ない。これは色々なアクションを行う上で発生する。」

「ふむ。なるほど。」

「…おい、黒い肌。この小さいのを回復だ。さっきの様にすればお前達生存者は回復する。」

「私は、鯉登少尉だ。この者は小さいのでは無く、月島軍曹と呼べ。」

「コイト。グンソー。ふぅん。」

 

少尉は言われるがまま私の前へ立ち、私の背を撫でる。

──こんな事で傷が治るのか?と大きな疑問を抱かずにはいられないが、嘘のように裂傷が消える。

その後、私自身も少尉と共に発電機の修理を行う。…が。

 

(ボコンッ!)

(──ボカンッ!)

 

……一向に進まんっ!

 

(ボコンッ!)

 

「グンソー。最初は誰だってそうだよ!よく狙って!」

「……む。分かってはいるのだ……。」

「月島。最初は難しく感じるが…要は感覚だ。直感で止めればいい。」

「……はい。そのつもりです。」

 

止まらぬゲージ。爆発する発電機。進行したと思われたメーターが一気に減少する。

その後も、変わらず[スキルチェック]というものを止める事は出来なかった。

次第に、進行しない修理に腹が立ってくる。

 

「月島ぁ!お前の目は節穴か!?ちゃんと[スキルチェック]は見えているだろうな!?」

「見えています!──えぇいっ!こんな物!」

 

おもむろに立ち上がり、発電機を蹴り込んだ。

火花を上げて煙が上がる。取り付けられていた電灯のポールにつま先が当たり、上部から電灯が落ちた。

 

「あ〜〜!グンソー、ダメだよ!発電機を蹴るのは殺人鬼だけだよ!」

 

急遽暗闇が立ち込め、大鎌の様なこの世のものと思えない物体とそれに同伴する様に仮面の男が現れた。

 

「オイオイ、止めてくれ!それを直すのはオレなんだぞ!」

「あっ!トラッパー!……と、エンティティ……。」

「コレが?[エンティティ]……?」

「もう説明は終わった頃と思ってね。君達を待機所へ案内するよ。」

 

エンティティはそう告げると、一気に風が吹き上がり辺りを漆黒に染め上げた。

気付いた時には、もう別の場所へ移動してエンティティも、ハントレスも最後に出くわした男の姿も無い、また異様な場所に鯉登少尉と共に佇んでいた。

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