聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです 作:生死郎
マクギリス・レラジェとその眷属が魔王ルシファーから受けた命令は、彼の妹リアス・グレモリーとその眷属が受けた仕事の手伝いだった。事情はリアスの眷属がするということでマクギリスたちは、リアスが領地としている日本の関東にある
冥界からやって来たマクギリスたちを出迎えたのはリアスの
ポニーテールにまとめた長い黒髪に色白で鼻が高く、優しげな眼差しの大人びた美少女は、彼女が在学する
狭霧姉妹や
嫋やかな容姿にもかかわらず、彼女には雷の巫女という異名を持つ若手眷属でも随一の実力者だということは、マクギリスも把握している。
「お初にお目にかかります、私は
朱乃は恭しくお辞儀をして、マクギリスたちを出迎えた。
「あいにくリアスは別件で外出しておりますので今回の件は私がレラジェ侯爵たちと対応させていただくことになります」
「お初お目にかかる姫島朱乃。貴女の名は雷の巫女と冥界でも知られているよ。まだレーティングゲームには本格的な参戦こそしていないが、公私にわたって王を支える良き女王として私も話には聞いている」
挨拶をしつつ、朱乃を観察したマクギリスと同じく朱乃もまた、金髪の悪魔について観察をしている。
マクギリスの悠然とした佇まいとまとう覇気。彼には隠しようのない凄味のようなものがある。それは王としては新米であっても、大戦で武勲を
「聖槍に選ばれ、影の国の女王、真祖の姫君を眷属にする貴方には、私など足元にも及びませんわ」
竜に向かって蛇の部下になるよう命じることができないように、スカサハやアルクェイドを眷属に迎えたレラジェ侯マクギリスという男は凡人ではあり得ない。
その才幹だけでなく、気質においても、マクギリスは他者の下に屈従するような人物ではないだろう。
朱乃はそのように考えつつ、敬意を払いつつも自分の主にとって手ごわい好敵手であるだろうとして警戒した。
「今回はグレモリー眷属、朱乃ととともに仕事をするように魔王様から伺っている。既に依頼人はあなたのところにいると伺っているが」
「ええ、ご案内いたしますわ。本来は私たちだけで対応すべきだったのですが、魔王様からはいくつか仕事を同時に依頼され、手が足りない分はレラジェ侯爵たち一党と事にあたりないさいということでして……」
朱乃は申し訳なさそうに言った。実際、今この駒王町にいるグレモリー眷属は彼女一人しかおらず他の眷属は魔王ルシファーから命じられた仕事で方々へ出向いている。
移動用に用意された車に乗り込み、駒王学園へ向かう。その途中、マクギリスたちと朱乃との会話は続く。
「正直、お会いするまでレラジェ侯爵はもっと恐ろしい方かと思っていましたわ。ギャングの麻薬密輸船を拿捕したり、そのギャングが報復に来たら、一人残らず返り討ちにしたり、海賊を使って海を縄張りにしているとも聞きましたから……」
朱乃が遠慮がちに話したことは初耳だったカナヲは、驚愕してマクギリスの横顔を見た。
「ああ、安心したまえ、それらは全て嘘だ」
「そうでしたか。良かったです、ただの噂でしたのね」
マクギリスの取り澄ました態度で否定するので朱乃は安堵したように息をついた。
「正確には麻薬の工場を吹き飛ばしただけだ。それに海賊についても、ソマリア沖まで行き、
「───」
「───」
朱乃とカナヲの胃壁に氷塊がすべり落ちたような気がした。眷属の中でも人間社会での荒事を悪魔としての仕事をマクギリスとともに行うことが多いのは狭霧友子、耀子たちだ。
腕の良い外科医であると同時に、最高級の白兵戦技を持つ剣士であり、殺し屋。それが転生前の友子の肩書きだ。社会を害する悪と見なした者を狩る殺し屋である友子。そして暴力の世界で生き続けていたのが耀子。
ある意味、転生前と変わらない仕事内容は彼女たちには適任と言えた。
「あ、あの……なぜそのような依頼ばかり受けているのですか?」
朱乃が駒王町を中心に請ける依頼と言えば、引越しの手伝い、パンクした自転車のタイヤの交換、食事作り、マッサージ、話し相手、イベントの準備等で荒事もはぐれ悪魔の退治やエクソシストから悪魔を守る等だ。マクギリスが受けている依頼は異質に映った。
「いや、そのようなばかりと言うよりも、その類ばかり来るのだ」
マクギリスとしても荒事専門と掲げてはいないのだ。だが仕事内容の偏りのせいで眷属たちでも依頼対応の仕事が多いのは友子と耀子が多くなり、逆に視座が高く人間同士の争いなど瑣事にしかならないスカサハやアルクェイドには回ってこなかった。
頼光やしのぶはマクギリスの護衛として同行することはあっても、積極的に動くわけでもないのだ。そもそも、彼女らの助力がなくとも仕事は終わってしまうという散文的な事実もある。
「あ、あの……今回の依頼人がダラスの裏社会の方だということはご存知でしょうか?」
「私は依頼だったから仕事をしているだけで、裏社会の者を退治することを専門にしているわけではないよ」
マクギリスの言葉に朱乃は安堵した様子だった。
グレモリーの所有物である
グレモリー眷属の拠点ともなっているその教室で依頼人と会うことになった。
依頼者のウェスリー・ベントンは三〇代くらいの男だった。賭博、高利貸し、麻薬などダラスの裏社会の全てを取り仕切る最大のギャング。その実力者だとマクギリスは訊いていたが、かなり憔悴している様子で血色の悪い顔なのは悪魔たちの巣窟に単身飛び込んだと思っているからだろうか。
「少し前、内部抗争がうちに組織に起きて親父と兄二人が殺された。組織を乗っ取ろうとした男ジャック・アカルドは、うちの掃除屋……暗殺部隊を私兵にして俺の家族を殺し、味方を殺して回っている。……俺たちはただ逃げることしか出来なかった」
「そのアカルドは組織内での武力を掌中に収めたのか。武力はボスが握っているべきではなかったのかね?」
「暗殺部隊の忠誠心はどういう判断によって、年来の主君を裏切ることを許したのでしょう」
マクギリスはアカルドの手腕に感心すら示しているようだが、耀子は暗殺部隊の忠誠心の在りかと反逆について思うところがあるようだった。
「……暗殺部隊が担う殺しって仕事は麻薬売買や、俺が仕切っていた賭場などを担っている部署と違って収入は指示を出すボスだった親父からの報酬しかない。そしてその報酬も雀の涙だった。……思えば、それがきっかけだったのだろう」
ベントンの声に苦い翳りがあった。もしかしたら、彼は父親が存命の頃からそのシステムに思うところがあったのかもしれない。
「例外はあるけれど、忠誠心というものは基本、金で買うものよ。過酷な汚れ仕事をやらされて、報酬も少ないのでは裏切るのも仕方ないかもしれないわね」
「まあ、虎を犬の餌で飼いならすことはできないでしょうね」
友子と頼光はそれぞれ得心がいったように暗殺部隊が反逆者になった理由を推測していた。
「それで、私たちにはアカルドとその勢力を倒せと?」
「いいえ、それは今回私たちの仕事ではありません」
マクギリスの疑問を否定したのは朱乃だった。彼女がベントンの説明を補足する。それは冥界側の事情が含まれたものだった。
アカルドが反逆の力としたのは暗殺部隊だけではなく、悪魔とも契約をしたのだ。元七二柱三〇位フォルネウス家の上級悪魔がアカルドと契約して組織乗っ取りに協力していた。
「フォルネウス家……語学に秀で、物の命名に優れている名家だと訊いたことがある」
「ご存知の通りですわ。そして魔王様がこの件に介入して頂き、フォルネウスと通じて話し合い、レーティングゲームを行いその結果でこの組織抗争について決着をつけないか、となりました」
グレモリー眷属は魔王から命じられた仕事もあって全員が出ることは叶わないため、代表として朱乃がレラジェ眷属に加わり、レーティングゲームに参加することになった。
なるほど、とマクギリスは朱乃の説明に頷くが、魔王様も随分と思い切ったことを考えるなと思う。強引とすら思える。それともレラジェ眷属とグレモリー眷属合同でことに当たらせたい理由があるのだろうか。
「レーティングゲームの結果で決めると? 私たちはそれで良くてもベントン氏やアカルドはそれでは納得しないだろう」
「レーティングゲームで決めるのは、
「ベントン派とアカルド派で戦うことになると」
「悪魔たちが関わらなければ、俺の派閥が持つ戦力でもアカルドや暗殺部隊にも対抗できる。……悔しいが、悪魔たちの実力はそれだけ脅威だってことだ」
やつれているがベントンの瞳には闘志の光が消えておらず、声にも力は残っている。
「承知した。私も協力しよう。そのかわり私からも契約の対価を貰おう。もし万が一あなたがアカルドを倒して組織の長となったとき、麻薬事業からは手を退いてもらおう」
ベントンの顔が強張り、もともと血の気のとぼしい皮膚がほとんど土色になった。それでも睨みつけるようにして、マクギリスを見た。
「麻薬は組織の財源となるものだ。そのシノギを悪魔が奪うつもりか?」
「いいや、そのようなものに興味はない。あなたは職業柄、賭博の仕切り、ノミ屋の元締め等、悪事もやるだろう。それについて糾弾するつもりはない。しかしながら、麻薬というのは個人的に嫌いでね」
マクギリスの表情、口調、視線、さらに悠然と構えるその態度にいたるまで、挑戦的ですらあった。彼に対する反感の念が向けられていたが、マクギリスは傲然としてその精神的な攻撃に跳ねのけた。彼は、凡人には見えない覇気と鋭気の鎧をまとっており、それは悪意によってわすかな亀裂も生じるものではなかったのである。
「……莫大な麻薬の利権を手放す代価は?」
「私があなたの味方になる」
「手放さなければ?」
「今から私があなたの敵になる」
「ふふふふ、これは高い買い物になるな。だが、どうせまだ俺のものにすらなっていない財布だ。気前よく中身を自由に使ってやるとしよう。───契約しよう。お前たちを買った」
強気な声は、あるいはベントン自身の不安を払うためのものであったかもしれない。顔にはまだ恐怖の薄いベールが貼りついたままだった。
6話で悩んでいたサーゼクスの力技が炸裂したコミュ回でした。「一緒に仕事しているだけです。お見合いでも会食でもないんですよ」という建前。