聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです 作:生死郎
マクギリスたちを先行させた彼の
左口元に傷のある、東洋人の青年滅却師。名前は
「気が乗らないが、僕は
「私もあなたほどの実力者をみんなのもとへ向かわせるわけにはいかないわ」
友子の全身を旋律がさっと吹きすぎた。けれどその心に怯懦はなく旋律とともに、兵法を修し、闘争に身を投じる者のみが知る陶酔にも沈んでいる。
「ぃやあっ!」
友子の太刀は、大気に光の亀裂を袈裟がけに走らせた。
蒼都はその数瞬で身を翻した。身翻す何らの力感も見せず、わずかに左に身を避けたのだ。
友子の一撃がそれを捕らえる。かわしきれず、宙にあがった蒼都の右腕の真ん中あたりを、その豪刀は切断した。
───と見えた、が、かっとそこから火花が散った。
鋼と鋼の相打つ音がして、蒼都の一刀はそこでとまった。たんに蒼都の腕で受け止められてしまった。
蒼都の腕は鋼鉄と化してしまったのか。
否、腕だけではない全身が硬化していた。蒼都が持つ
友子の一刀が蒼都の腕で受け止められたのは一瞬である。空いた方の腕に鉤爪が顕現する。
「ふっ……せい!」
声より速く、友子の眼前に閃光が流れた。
「!」
友子はうしろにとびずさる。だが、友子の琥珀のような金茶色の瞳が、鉤爪に吸いつけられた瞬間、思わぬ襲撃は下から来た。蒼都の右脚が凄まじい勢いで友子のみぞおちめがけて蹴り上げられたのである。
一撃、戦車の複合装甲にすら穴を穿つ足技であった。
これを友子は逃れた。友子なればこそ逃れたのだ。彼女は仰け反って、蒼都の足に空を打たせたのである。
肉食動物のように躍りかかる蒼都の鉤爪を白刃で弾き飛ばす。
「っ!」
蒼都が瞠目して、お互いの間合いから距離を取り、鉤爪を構える。ここまで蒼都の兵法を悉く破られて彼は警戒心を跳ね上げていた。徒手空拳と思わせて腕で刀を受け止め、静止した一瞬を鉤爪で狙うことも、それを避けたとしても不安定な体勢のところを得意とする足技で狙うことも友子は対応してみせた。
「しゃっ」
蒼都はひっ裂けるような絶叫と同時に、右腕を振るった。一瞬、動物特有の敏捷無比の反射的運動で、友子は身体をくねらせてその一撃を避けた。蒼都の腕に着けた鉤爪は鉄鋲をうった厚い鋼の扉を、まるで薄紙のごとく斬り裂いたのである。
さらに突きの後にそのまま裏拳を放つ二段攻撃。返す刀で斬りつける。本来であれば切断されていたであろう四肢も、鋼の身体であれば刃は皮膚を傷つけない。
滅却師も恐るべき太刀捌きから攻めあぐねている。斬れずとも振るわれる豪刀からの衝撃は骨身に浸透する。
友子と距離を取る。そしてその眼が、凄絶無比の妖光をおびて、
「ここに至って汗ひとつかかないとは、女だてらに大した剣士だ」
と、嘆息をつく。
狭霧友子が類稀なる剣士だからというだけではない。ハイジェッターとして強化されたフィジカル、転生悪魔として能力がより強大化することで、身体操法もより洗練されたことで友子も敵の襲撃を躱すことができた。
「君ほどの剣士が
「ふふふっ、高く買ってもらっているようだけど、私が転生するのに費やしたのは駒一つよ」
「
「その技量をもってその賛辞……私にとっても光栄だわ。ありがたく頂戴しましょう」
自ら鍛え上げた技と力を矜持として、優れた敵と見れば惜しみなく畏敬を捧げる──そんな戦士としての誇りを胸に秘めた友子は、
「共に生きたものとは共に死すべし、それが僕の流儀だ。君ほどの実力者を君の主とともに殺すことができないことを、本当にすまないと思っているよ」
「その謝罪は要らないわ。だって、私も、彼も、死なないもの」
蒼都が薄く笑った。友子が強がりを言っているとは思わなかった。血液に魔力を流して肉体を強化する
彼が使っているのは攻撃用の
「きえぇぇっ!!」
蒼都の怪鳥のごとく凄まじい咆哮を上げて、体ごと回転させて手を
長刀は白虹を描く、滅却師の首を正確に斬りつける。その衝撃に蒼都は吹き飛ばされて着地する。
「うん、慣れてきたわ。だんだん、鋼を斬る感覚を掴めてきた」
「……慣れ、か。恐ろしい剣士だ。故に、こうして攻めてみせよう」
ぱん、と破裂する大気の咆哮。蒼都の手元──それも鉤爪が輝く。
超高圧に凝縮された霊圧を鉤爪から蛇のような形状で撃ち出す
音速に数倍する超々高速の霊圧が大気の壁を突き破り、衝撃波が周囲の瓦礫を木の葉のように吹き飛ばす。
「な──ぁっ!?」
会心の一撃を放ったにもかかわらず蒼都が驚愕の声を漏らしたのは、自身の霊圧を突き破り、逆巻く霊圧の直中へとためらうことなく飛び込んだ友子がいたからである。
それは超人的な体術のみならず、
渦巻く霊圧のうちを奔り抜けた友子の飛翔は、まさに追い風に乗る燕さながらの勢いであった。そして彼女の足先が再び地に触れたとき、蒼都との間合いはもはや友子の刃の結界のうちにあった。
「斬り捨て、御免なさい」
「むうう……っ!」
咄嗟に蒼都は
ぱあっと空中で血の花火がひらいた。
蒼都は肩から腹にかけて斬り裂かれ、もんどり打って転がり倒れた。空を散った血飛沫は、雨となってそのあとを追った。
宣言通りに鋼を斬った友子。蒼都の計算外だったのは友子が使う愛刀
友子の白刃は防ぐはずだった。にも拘わらず、刀は蒼都の血に濡れた。それは彼女が使う妖刀は魔力を、霊圧を、断つからである。
とはいえ魔術の効果を根本的に破棄したり、
そして先刻、彼女が言ったように鋼を断つ気迫で振るわれた一刀がIの聖文字を斬り裂いたのだった。
倒れ伏した蒼都が動かないのを見ると、友子は血刀を拭って鞘におさめ、スタスタと城の通路を進んだ。
───だが、
「くっ、うううーっ! っぐ!」
「あ、あなたの……それは一体?」
彼女の顔から血の気がひいたのは、無数の光の糸に絡まれた蒼都が操り人形のように立ち上がるのを見たからであった。
意識もなく、佇む不自然な様子。友子は知らないことだったが、自分の魔力で自分の身体を操り人形のように強制的に動かす乱装天傀という技術だった。
肩から腹にかけてある深い傷は魔力で焼いて塞がれている。それでもおびただしい流血で白い装束が赤黒く染まっており、彼の顔色は不気味なほどに蒼白い。
刻一刻と生命が弱まり、彼が彼岸へ渡ろうとしているのが医師でもある友子にはわかった。
「意識がない、まま動いているというの!?」
友子は思い到るのは先刻の蒼都の言葉。自分が契約によって縛られている、という言葉。契約の拘束力、支配力は意識のない滅却師を縛り、命令を強制する力があることは慮外のことであった。
「なんてことを……」
慄然とする友子に、瞬時に距離を詰めた蒼都が地を蹴って勢いをつけながら友子を鉤爪で斬りつける。友子は刀で撃ち払い、返す刀で蒼都を斬り払う。
鉤爪と蹴りで襲い掛かりそれに友子も応戦する。意識がないにも拘わらず、鋼鉄の身体と
髪も衣服も血にねばりつき、幽鬼のごとく惨憺たる姿だ。
(猛烈な攻勢、糸を斬るだけに集中する余裕は……ない!)
医師としても大怪我をした相手を殺さざる得ないという状況は、友子にとっては悔しい。
蒼都は友子を前にして左足を一歩踏み出して、半身の姿勢になって、肘を引いた。鉤爪を着けた腕を雷光のごとく振るい、長身で逞しい身体を敏捷に蜘蛛のようにかがめたかと思うと、凄まじい勢いで蹴り上げた。
機械的で単調な動き。意識がないからこそあらかじめ仕組んでいた動きを再現するしかできない蒼都は、友子にとっては付け入る隙が多かった。
きらりと光っている刀身を振るわれる。 凄まじい血しぶきが空を舞った。
地に蒼都が倒れた。──ただし、三つの肉塊に分けられて。
地の上に叩き付けられたのは、首と、胴と、腰から下の両足であった。
なんたる神技、ぶつかる一瞬の間に、蒼都の首を刎ね、燕返しにその胴を切断したのである。
「これで終わり……」
友子の顔から血の気がひいて、蒼ざめたのはいまの決闘の勝敗が間一髪の差で決したことを思ったからだ。
戦いを強制されたとはいえ、敬意を払うに値する敵を痛めつけて悦ぶ加虐性を友子は持ち合わせていない。胃の辺りにのしかかるような不快感と、ラヴェルという男に友子は怒りを抱いた。
「はやくマクギリスのところへ……」
主や仲間を案じて城内を友子は駆ける。そして仲間の気配を感じそれに辿り着いた。
そこは──
「そんな、アルクェイド!?」
倒れ伏した
「おっと、また可愛いこちゃんがやって来たのか。カフェオレを飲む暇もねぇな!」
次の戦闘も一話で終わらせる予定です。最後の滅却師が誰なのかわかる人はわかる……かも?