※この作品はR-18です。

聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです   作:生死郎

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当初の予定より先まで物語を続けることになりましたので、一度は決めた英雄派のキャラたちの設定も変更するかもしれません。ジークフリートやヘラクレスは結構面白い設定になりましたが、さてどうしましょう。
設定をそのままにするか、英雄派をオリキャラで補充するべきか。
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死と同義語の男

 その男を見たとき、マクギリス・レラジェは心のうちに稲妻がはためき過ぎたような気持ちになった。

 

 祭服を着た男の背丈は二メートルあり、横幅が異常に広く、まるで城壁みたいに頑丈な身体である。老年期かと思われる面貌だが、石柱のように太い首、分厚い胸板、巨大の幹ほどはある四肢。くりくりと剃ったというより、禿げた大きな頭、澄み切って精悍きわまるその眼は、若々しくただ者ではない眼光である。

 

 老人が現れた途端に、近くにいた怪物たちは離れていき、滅却師(クインシー)たちも様子を伺っていた。

 老人は彫りの深い笑みで言う。

 

「Buon giorno、聖槍使いよ。私はヴァスコ・ストラーダというものだ」

「はじめて御意を得ます。私はマクギリス・レラジェと申します」

 

 と、マクギリスはものやわらかに、しかし上級悪魔の荘重な威儀を失わず、禿頭の老人に一礼する。

 

 ヴァスコ・ストラーダ。人間の極限とまで言われた教会最強の戦士。悪魔にとって死と同義語の男の複製である。マクギリスは末端神経にまで緊張の電流がはしるのを自覚する。

 

 しかし、唐突に

 

「そうら、隙アリッ!」

 

 と、バンビエッタが撃ち出す爆弾がマクギリスとストラーダへ迫る。

 だがマクギリスの聖槍だけでなく、手元に聖剣を召喚したストラーダも素振りの剣圧で爆弾を弾き飛ばされた。射手の不機嫌そうな呻き声がする。

 

「ちょーっと、おじいちゃん! そいつ仕留められないじゃん!」

「すまないな、バスターバイン。彼は私が相手をする!」

「はあっ!?」

 

 ストラーダの言葉に苛ついたように声を上げる。まるで玩具を奪われたように癇癪を爆発させかけるが、

 

「ストラーダ猊下に任せましょう。先に他の眷属たちを片付けてからのほうが速いと思うの。そのあとに挟撃しましょう」

「……わかったわよ!」

 

 ミニーニャのおっとりとした言葉で宥められ、不満げながらもバンビエッタは頷いた。

 バンビエッタが舌打ちひとつすると、その姿が変貌する。

 頭に光の輪を思わせる円盤が具現化して背中に白い翼が現れ、まさに天使を彷彿とさせる姿となる。

 

 滅却師としての切り札である滅却師完聖体としての姿。バンビエッタのそれは神の火薬(フラルゴ)と呼ばれていた。

 

「全部、爆破しちゃえばすぐに済む。簡単よね!」

 

 バンビエッタの加虐的な笑みに、ミニーニャは小さく嘆息した。

 

 仲間との連携よりも好き放題に力を行使することを好むバンビエッタと組むのは、ミニーニャとしては暗澹たる気持ちになる。しかしながら、バンビエッタとストラーダを組ませても、あの老戦士の足を引っ張ると彼女は判断していた。

 

 ハート形の霊子兵装を具現化して、同じくハート形鏃の神聖滅矢を番える。狙うはジャンヌ・ダルクとオフェリア・フォルムソローネ。

 

 

 滅却師たちの横やりを撥ね退けた男たちは、まるで散歩の最中に出くわしたように話し出す。

 

「教会の勇者と相まみえることができるとは光栄だ」

「デュランダルの使い手……の複製人間(コピー)としては兜輝くヘクトールを師に持つ貴殿と戦えることに、少々因縁めいたものを感じているよ」

 

 絶世剣デュランダルの前所有者にして、デュランダルの使い手の中でも英雄ローランに迫るとも、超えたとも呼び声の高かった現代の英雄。その複製としてストラーダは高揚を覚えた。

 

 デュランダル。それの使い手としては聖騎士(パラディン)ローランが有名だがそのルーツはトロイアの守護者ヘクトールに由来する。

 ヘクトールが時に剣として、時に柄を伸ばして槍として扱った不毀の極槍(ドゥリンダナ)。

 世界のあらゆる物を貫くと讃えられた槍は後に槍としての機能は失われ、絶世剣デュランダルとなった。

 

「残念だがヘクトールさんは不毀の極槍(ドゥリンダナ)のことを使い捨ての武器としか思ってないので、仮にこの場にいても心温まる邂逅とはならいないだろう」

「そうか。武器に執着しないのも英傑の気風か」

「と、言うよりも古代ギリシャの戦士としての価値観だな。彼は武器を特別視することはない」

 

 武器なんて、何だっていいのさ、とはヘクトールがマクギリスに幾度か言ったことである。

 頑丈な鎧や兜でもいつかは砕け、鍛え上げられた名剣も毀れ、磨き上げた名槍も折れる。武器も防具も消耗品。それらに執着を持つなどヘクトールにしてみれば愚の骨頂である。

 

「ローランを超えると讃えられるあなたが果たして、ヘクトールと比べるに価するか私に教えてくれ」

 

 うなりをたてて聖槍の穂先がななめに落ちてくると、二メートル超える柄はピタリと構えられた。

 

「……おおっ」

 

 微かにうめいたのは、ストラーダだ。

 自身の方に向けられている聖槍の穂先の閃光に、おのれの心臓を射られたように心悸が激しくなった。複製とはいえ教会を代表とする古豪である。最上級悪魔やドラゴンであっても怖じることはなかった。しかし、最高峰の聖遺物(レリック)にして最強の神滅具(ロンギヌス)である聖槍を向けられるとあれば、流石のストラーダであっても心胆を寒からしめた。

 

 その槍の穂を向けられるのがありきたりの悪魔や魔物であれば、これだけで蒸発し、信心を持つ人であれば直視しただけで気死は免れないほどの聖性を持つ。

 

 それに破顔一笑。聖剣を構えて応じてみせるストラーダの尋常ならざる胆力にマクギリスは内心敬服した。

 

「───では、自身の価値、我が身を以て示してみせようか。聖槍使いよ、とくと御覧じよ」

「人間の極限と讃えられたあなたの武威。相手にとって不足はない」

 

 解き放たれる濃密な重圧。ぶつかり合う二つの覇気。大気が震え暴風で瓦礫や魔物の遺骸が吹き飛ぶ。気を発して威圧感を与える気当たりも彼らの次元ではフェイントだけでなく、物質界にも影響を及ぼす。

 

 聖槍が閃き、聖剣が振るわれる。火花が飛び散り、乾いた金属音が鳴り響き、聖なる波動が周囲に拡散する。

 数合、数十合と打ち合い、巧みな足捌きでストラーダが距離を詰めて裏拳を打ち込んできた。まともに受ければ悪魔の身体でも千切れ飛びそうな膂力だが、槍の円環運動でよどみのない動きで石突は裏拳を弾き飛ばした。

 

「いい動きだ。的確であり、迷いがなく洗練されている」

「あなたに言われるのならば、世辞でも悪い気はしないな」

「はははっ! 勘繰るな、これは本音だ」

 

 超人的剣技でマクギリスが斬り裂かれるが、それは陽炎のように消える。高速移動と魔力の残滓を併せて生み出した残像。マクギリスが自身の位置をストラーダに誤認させるためのフェイント。本人は流水のような移動で老戦士の死角へ移る。

 ビューッと伸びる聖槍がストラーダの体幹を貫くが、それもまた残像。覇気によって相手の感覚を乱し、自身の高速移動と併せることで分身のように動く残像を生み出す、ストラーダの実戦殺法。

 

「っ!」

 

 本物が残像に紛れてマクギリスを囲うように攻め立てる。大量に襲い来る残像全てを相手取らなければならない状況に、マクギリスは追い込まれた。

 

「潰させてもらう! せりゃっ!」

 

 聖槍を振り回し全方位に斬撃を放つ。風圧と拡散する聖なる波動だけで間合いの外であっても破壊し、斬り刻む。

 

 ストラーダは両手で聖剣を握り。振るわれる。並大抵の聖剣や魔剣では打ち合うだけでも容易く折られてしまうだろう剣戟を、聖槍が刀身を横から薙ぎ粉砕する。

 

 銘無き聖剣と最強の聖槍であれば、当然の結果であった。だが、それでもマクギリスには驚嘆したのは柄を通して響くような思い衝撃だった。

 

「聖剣でなんと無茶な使い方をする御仁だ」

「こういう使い方をしなければ、とても聖槍とは渡り合うことなど敵わないからな!」

 

 腕に着けた腕輪による効果か、ストラーダは手元に聖剣を召喚して掴み取った。

 

 ストラーダが使った武技は聖剣が持つ強度、寿命を一瞬で使い切ることで甚大苛烈な一撃を放つという、荒々しい武技だ。次々と聖剣を乱費しつつ振るわれる凄絶な剣圧と聖なるオーラに、聖槍は槍撃と聖なるオーラで迎え撃つ。

 

 マクギリスの心身にこころよい緊張感をはしらせた。衝撃を利用して距離を取ったマクギリスが聖槍を振るい、穂先の軌跡、その残光は聖なるオーラによる黄金の破壊光となって迸る。

 

 両手が無手となったときを正確に狙うマクギリスの抜け目のなさと闘争のセンスが光る一手。

 

 ストラーダは右拳を握り締まれば、右腕の筋肉が爆発したかと見紛うほどに肥大化する。

 

「ふんっ!」

 

 一突き入魂の気迫。右の正拳が突き出される。ジェットエンジンのような轟音と大気を震わせる拳圧の衝撃によってオーラは霧散して、余波によって城内の巨大な石柱は崩壊して、魔物たちが即死していく。

 

 鍛え抜かれた彼の肉体には聖性を宿している。聖なる波導を纏った拳『聖拳』を振るうことで、悪魔であればそれが致死の一撃になりかねない。

 

「───嘘でしょ!? 拳の余波だけで!? やっば、ミニーより強いじゃん!」

 

 驚きの声をあげるバンビエッタ。常々味方で良かったと心から思う。特に今。

 

 ミニーニャも何か思うところがあるのか、ジャンヌやオフェリアの相手をしながらもストラーダを横目に見ていた。

 

「ならば魔法を!」

 

 主と老戦士の戦いに干渉しなかったオフェリアが危機を感じて堪らず動く。

 オフェリアが多数の魔法陣を展開して魔力弾を放つも、ストラーダは避けることなく魔法が直撃する瞬間、一本の指で術に触れていく。老人が触れた魔法は、力を失い、霧散していく。

 

「───っ!?」

 

 オフェリアは魔法の術式自体を崩されたことを悟った。瞬きよりも短い時間で式の綻びを見抜き、失敗すれば負傷する危険を呑み込む果敢なる行動力。オフェリアの心臓は強烈にステップをふんで踊りまわった。

 

(とんでもない人! ……こうなったら)

 

 魔眼を使おうかとオフェリアが思ったとき、

 

〈待て、オフェリア〉

 

 マクギリスから無音声通信がオフェリアに届く。

 

〈あの若きご老体は私が引き受ける。君とジャンヌは滅却師たちを頼む〉

〈よろしいのですか?〉

 

 ジャンヌが確認する。相手をする数ならばジャンヌやオフェリアのほうが多い。しかし、数の脅威を凌駕する個の脅威であると、ジャンヌはストラーダを判断しており、それはオフェリアも同じ評価だった。

 

〈ああ、任せてくれ。君たちの負担が大きくなるのは心苦しいが、集中するためにも頼みたい〉

〈わかりました。私に異論はありません。……マクギリス、御武運を〉

〈了解しました。どうか、主の御加護を〉

 

 通信を切ると同時に、怒濤の剣戟が迫る。マクギリスは聖槍の間合いを活かして剣戟の接近を許さずいなし、反撃する。

 

「心なしか、剣圧が少々衰えているようですが? やはりデュランダルでないと手に馴染みませんか」

「武器に頼り過ぎるような鍛え方はしてはおらんよ」

 

 ストラーダの右手は今、僅かに痺れを残していた。皮膚は焼けるような痛みが残留する。指の力だけでも聖剣や魔剣をへし折る彼でも、最強の神滅具が放つオーラを破るのは容易ではなかった。

 

「まだ若いというのによく鍛えられている。神より賜った力───神器(セイクリッド・ギア)に頼り過ぎることなく、武の要訣を極限まで練り上げ、究極まで追求しようという気概を感じる」

 

 ストラーダは柄だけになった聖剣を棄て、新たな聖剣を手にする。

 

「私の力に理屈などはない。ひたすら続ける鍛錬と幾度も死線を潜ることで得た積み上げた時間が私の血肉となっただけだ。信仰と研鑽を忘れなければ、パワーは魂にすら宿るのだ。私や貴殿のように、な」

「恐ろしい方だ。あなたが持つ武器がデュランダルではなく粗造濫造の聖剣であることは幸運であったと思うべきだろうが……全盛期のあなたと対峙出来なかったのは少し、残念だ」

 

 マクギリスが頭をふると、豪奢な金髪が、金環(コロナ)の一部を映したように、燃えあがる輝きを発した。生気と弾性に富んだマクギリスの声を受けて、ストラーダは覇気を漲らせて前進する。両者は入神の技量を誇示するように、聖槍と聖剣がぶつかり合った。




装備がデュランダル、肉体的全盛期と技量的全盛期を合体させたストラーダではマクギリスが負けていたことでしょう。

バンビエッタの滅却師完聖体の名前をコロン 10さんからご提案頂けたアイデアをもとに作らせて頂きました。
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