聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです 作:生死郎
独自設定がかなり入った展開となっておりますが、気に入って頂ければ評価、感想、お気に入り登録、ここすきをよろしくお願い致します。
マクギリスは朝食を終えると、執務室に用意された個室に入った。
その個室は普段は使われない部屋で、他所に会話内容が漏洩すると困るような話をする場合に使う事が多い。そしてこの部屋には魔法陣が敷設されている。
部屋にマクギリスが入ると、そこにはヘクトールとグレイフィアが現れた。魔法陣によって投影された精巧な立体映像だ。
「マクギリス。朝早くに呼び出して悪かった」
「おはようございます。マクギリス様。お時間を頂きありがとうございます」
ヘクトールは飄然として、グレイフィアはメイドらしく慇懃な態度でマクギリスに挨拶をした。
「おはようございます。私は構いませんよ」
マクギリスは悠然と挨拶を交わす。織姫の奉仕もあって滾っていた肉幹も大人しくなっている。
彼らは本題には入る前に近状の話をすることになった。
「鬼殺の剣士たち、真祖の姫君、
「無論、男に二言は無い。残り兵士四個、僧侶一個の駒も、これはという美女に使いたいものだ」
「眷属でなくとも既に愛人や情婦が一ダースでは足りないと言われているよなぁ? まあ、貴族がそちら方面で極彩色に派手でも容認される世界だ。頑張り賜えよ」
ヘクトールが気安い笑みを浮かべているが、傍らのグレイフィアは努めて冷静な表情を保っているが何か言いたげな視線でマクギリスを見ていた。
「美貌だけではなく能力も見極めて眷属を選らんでいるようだから、小言垂れるつもりはないさ。例えばお前が
「
すべての上級悪魔が持っているわけではないが、マクギリスは多数の変異の駒を所持していた。
話は本題に移る。先日遭遇したレッドライダーについてだった。
「知り得たことはほとんどありませんけどね。あいつは私の戦いを観戦していただけでしたので、直接戦ったこともありません」
「あの騎士は非常に好戦的で凶悪。あらゆる勢力から恐れと恨みを買っています。大戦で現魔王様たちが政権を握る際にも、あのレッドライダーが戦局に介入したことで旧魔王派との戦いも中断せざるを得なくなりました」
グレイフィアは無念そうに言う。当時を知る彼女にとってレッドライダーの猛威には思うところがあるのだろう。
「他に何かレッドライダーについて言うことはあるかい?」
「……サーゼクス様とアジュカ様のことを“お利口さん”と言っていました」
ヘクトールから訊かれてマクギリスは暫く考えた後に、最後に話した言葉を思い出した。グレイフィアは柳眉を顰めた。不愉快さを表情に隠していなかった。
「かつての大戦ではレッドライダーは執拗にサーゼクスたちに攻撃をしかけていました。そのために戦線を維持できず、後退を余儀なくされることもありました。そうですか、まだ狙っているのですね」
その後、会話が続き、朝の会議は終了した。ヘクトールの映像が消えるがグレイフィアには残ってもらった。
「たまにはこちらに帰って来い。あの子たちも会いたがる」
「そうね、仕事がひと段落着いたらまた会いましょう」
それまでの沈着な女王としての貌ではなく、慈悲深い女の貌だった。
マクギリスとグレイフィアとの間には四人の子供がいた。子供たちはマクギリスの領内で育てられている。
上級悪魔にはハーレムを形成する者もいるように、一夫一妻の概念に囚われない者もいる。グレイフィアは数年前にマクギリスとも肉体関係を持って以降、サーゼクスとマクギリスと関係を持つ逆ハーレムの状態を維持し続けている。
◇◆◇
「ここのところ、妙に疲れる仕事が増えてきたな」
「うむ、最近はもっぱら、貴族や有力者の面会ばかりが増えて疲れるのは理解できる」
嘆息するマクギリスにスカサハも微苦笑しながら彼の愚痴に同意する。
「たしかに、会うだけだったらこれも仕事だと思い吝かではないのだが、どいつもこいつも妻に、愛人にと女性を引き連れて来る輩の相手ばかりするのは胃がもたれる」
「まだアスタロト家と婚約が成立したばかりなのでしばらくは大人しいかと思いましたが……これは予想外でしたね」
「そのおかげで面会の時は私達眷属の誰かが側で侍ることになりましたね。その上で、見なかったことにして、話を進めようとする者もいましたけど」
「
「マスター、少々トラブルがございましたのでご報告致します」
「またいつものが来ちゃいました」
頼光とともにやって来た
やって来たのは傭兵を名乗る一〇〇人近い集団だった。全員が下級悪魔で構成された集団で団長と名乗る者は、自分と配下を召し抱えろ、そして自分に見合った地位を寄越せと要求してきたのだった。
新興の貴族で開発が進んで、人材を多く募っていることを知ったおこぼれ狙いの者たちだった。
頼光たちが現在の武官の募集はしていないと断ったものの、しつこく食い下がったものの傭兵たちは諦めて去っていった。
あからさまに野盗崩れの自称傭兵集団。そのような風体なので頼光はミニーニャとともに兵士を引き連れて、傭兵たちを尾行した。
頼光の予想の通り、レラジェ領から去るついでのように村で狼藉を働いたので頼光たちが制圧したのだった。
階級で言えば頼光やミニーニャも下級悪魔であるが、転生悪魔の階級といのは往々にして実力とイコールとなるわけではない。
「ご苦労だった。それで奴らは何をしでかした」
「町に住む女性を襲おうとした者、無銭飲食する者、酔って暴れて物を壊した者、彼らを止めようとした町人を、怪我させた者もいました」
「やっていることは、はぐれ悪魔や魔物と変わらないと思うの……」
頼光とミニーニャの報告を聴いて、マクギリスは嘆息する。
「グレモリー領のような土地でも、僻地でははぐれ悪魔や魔物が潜伏して領民に被害を与える実例があると訊く。うちのように全体的に開発中で辺境と隣接しているせいで、有象無象がより入りやすいんだろう」
「それにしても最近そのような輩が増えてきましたね」
「ここら辺では開発が続き、一番豊かな領地だからな。雇われればレラジェ家の威光を笠に着て多少の無法ができると思っているのであったのだろう。そして雇われなくても、腹いせにどこか適当に襲って、臨時収入としよう等と思っておったのだろう」
スカサハは冷めた様子で傭兵団の行動理由を予想した。彼女にはそれよりも気になることがあった。
「頼光、傭兵団はどこから来たのかは割り出したのか?」
「ええ。色々と尋問をして吐かせましたが、旧魔王派の領地からやって来たそうです」
ミニーニャは不思議そうに首を傾げる。
「旧魔王派って何ですか?」
「初代魔王の血統を拠り所にして、現政権に逆らおうって考える勢力がいるってことですよ。現在の政治体制へ移行してからも、旧四大魔王を崇拝する者は上級・中級・下級問わず一定数以上存在しますからね。特に旧四大魔王の治世を生きてきた年長者に多い傾向があります」
「それを現政権は旧魔王派と呼んでいるそうだ。現政権に不満をもつものが、旧支配者の血縁を担いで反乱というのは人間の歴史上でもよくあることだ」
しのぶとスカサハはミニーニャのように知らないという者へ説明することにした。
数百年前、悪魔、天使、堕天使たちによる三つ巴の大戦があった。一つの神話体系が消滅する結果もあり得た戦いだ。
その戦いでは聖書に記された神が消え、悪魔たちも自らの種族を統べる四大魔王すべてを失ってしまったのだ。
君臨し続けてきた魔王を亡くした悪魔たちは混乱を極め、ついにはこれまでになかった悪魔同士の戦を始めた。実権を握り続けることを望み、大戦の続行を主張する亡くなった魔王の血族が率いる政府軍。大戦の継続は巨視的に見て種の益がないと見切りをつけて、種の存続を望んだ反政府軍。
こうして始まった悪魔たちの内乱は反政府側の勝利に終わる。かつては賊軍であった反政府軍が冥界の中心に座り、実権を握ることになるが冥界での権威をより十全なものとするのはさらに遠い未来に行われた“旧”政府軍との戦いの勝利によって確定された。
そして二度目の内乱によって勝者は冥界の領域を拡張させて己の者とし、敗者たちは冥界の辺境へと追われて行くことになる。
「このとき旧魔王派の中でも少数ではあるが、過激派の身内に嫌気が差して新魔王派に加わる者たちが現れた」
「クルゼレイ・アスモデウスたち穏健派のことだ」
マクギリスの説明をスカサハが補足した。
「旧魔王アスモデウスの血筋たるクルゼレイ・アスモデウスが現魔王を支持する。これは政治的には大きな意味合いを持つ。そしてクルゼレイを穏健派旧魔王派の領袖として遇したサーゼクスは、見事に立ち回ったものだな」
スカサハの魔王への呼び捨てにマクギリスは受け流していた。彼女の性情は把握している。魔王だからと無条件に敬服するような人物ではないし、公的な場と私的な場面での切り分けができることを知っている。
「まとめあげる力量はあると期待していたのが、期待通り成果を出してくれてサーゼクス様も喜んだだろう。もし力量がなければないで、クルゼレイは自分の地位と権力を守るため、同胞から生じた不平派を弾圧しなければなるまい。当然ながら憎悪と反感はクルゼレイの一身に集中する。サーゼクス様の上手い人選だよ」
「……なるほど、そこまで推量していたか」
このときスカサハは、感銘を受けたことを隠そうともしなかった。
「それにしても……」
マクギリスは旧魔王派の領地から来たという報告について、胡乱げに眉を顰めた。
「旧魔王領で小競り合いが激しくなって、とばっちりを受けないように流れてきたと? 傭兵団なくせにか? 領主同士が争うならば稼ぎ時ではないのか?」
「どうも旧魔王領で影響を強めているリーダーは傭兵団のような流れ者を信用していないようです。彼らと似たような傭兵も、使い潰されるか無視されるだけだったようで……」
「このところ増えた賊たちは旧魔王領から流れてきた奴らばかりだ」
「今のところは、兵の訓練代わりになって丁度いいですが余りに増えるようでは、何か考えねばなりませんね」
頼光が報告しながら嘆息した。
「ならば旧魔王領を侵攻するか。貴族として少しばかり、脅しも込めてな」
「厄介ごとに自ら首を突っ込むか? やれやれ。お主も血の気が多いことだ」
マクギリスの発案にスカサハは微苦笑する。しかし、その様子に否定の色はない。
「隣接する領同士でぶつかることは、別に珍しい事じゃないだろ? それに私も貴族家の当主となったからには、近々初陣も済ませておかないと、格好がつかないと思うのだがお前はどう思う」
「領地を平定するため、先んじて禍根を断つ、それは一概に悪いとは言えないな」
女王からの同意も得られたことで、マクギリスは出陣の準備をすることになった。
◇◆◇
旧魔王派。歴史の敗者。かつての魔王の血族を領袖と仰ぎ、敗れてなお付き従った者たちがそれを支える者たち。『前魔王』『旧魔王派』などと現政府から呼ばれる者たち。
しかしながら、旧魔王派も一枚岩ではない、戦いを望む同胞や現政府に従う者とも距離を取る者たちもいた。少数の勢力が集まり、小領主が混成した連合として旧魔王領を成して各勢力に対しての発言力と共同での防衛力を維持していた。
そして、旧魔王派による混成領域を構成する領主の一人ティア・ハリベルは苦悩していた。初代魔王レヴィアタンの血統である彼女は、同じく初代魔王の血統を持つ悪魔からの襲撃を受けたのだ。
初代魔王ベルゼブブの血統であるその悪魔はイオクス・ベルゼブブから、旧魔王派(彼本人は“真なる魔王の血族”と自称する)として現魔王政府を滅ぼすことへ加担させよと武力をもって圧力をかけられていた。
勿論、領地を焼かれることを座視するわけもなく。私兵を率いてイオクスたち過激派旧魔王派を地の利や兵の練度を持って撃退することに成功した。だが、その代償は大きく、多くの兵を失い損傷に追い込まれた。
しかし、イオクスの部隊は先発隊に過ぎず、彼率いる本隊がハリベルの領域へと迫っていた。
髪は黄金色で、後ろで括っている。鼻は細く高く、彫りの深い顔立ち、眼は高貴な翡翠のように碧い。淡い柔軟な褐色の皮膚に包まれた美女──ハリベルは露出が多い衣装を纏う妖艶な雰囲気も、今は戦塵と疲労により幾分色褪せて見えた。
「スンスン、報告を」
ハリベルに指示されて彼女の配下の悪魔が応じる。
「はい、ハリベル様」
前髪を切り揃えた黒く長い髪、お淑やかな雰囲気の美しい女性悪魔。アオザイの様な袖の長い服を着たシィアン・スンスンが、長い袖で口元を隠しながら報告する。
「……一二五〇ほどになります。ですが、もうしばらくすれば隣領からの援軍が来るものと思われます」
「スンスン。お前の心遣いには感謝する。だが、今日になっても来ない援軍を期待して待っているのは流石に悪手と言えよう。今後の対策を考えるとしよう」
「はい……。ですがイオクスはハリベル様の身柄と領の財を要求しています。とてもではないですが、応じるわけにはまいりませんわ! 臣下として、この領に住まう者として認めるわけには参りません!」
「わかっている。わが身と財貨だけで済むのならば、まだ、交渉の余地もあるだろうが相手は現四大魔王を皆殺しにして、戦争再開して堕天使と天界を滅ぼそう等と本気で考えているような奴らだ。まともに約定を守ると考えるほど、私も愚かではない」
ハリベルは所属こそ旧魔王派ではあるが、三大勢力を巻き込むほどの大乱を望んではいない。かつては旧き魔王たちの血族のために戦ったが、今では実権を取り戻す野心もない。
それに彼女はイオクスが旧魔王派と呼ばれる者達だけではない、他にも三大勢力に悪感情を持つ者達と連合していることを、この時既に知っていた。
彼らと近づくことは危険だ。ハリベルの直感はそう警鐘を鳴らしていた。
「だが、そうなると民を連れてこの土地を棄てて逃げなければならない。ひとえにそれは、我が身の不徳だが問題は、故郷を捨てた民たちを受け入れてくれる場所があるのか」
ハリベルの臣下たちは答えられず、沈痛な面持ちで沈黙している。
「近隣の領主たちには、援軍要請をしたにもかかわらずあれこれと理由をつけて、いまだに援軍の姿はない。そのような輩が、我が民を受け入れてくれると思うか?」
「……受け入れられたとて、使い潰されるだけかと」
スンスンが苦々しく歪む口元を袖で隠しながら言う。
敵にたいしては容赦ということを知らないハリベルだが、味方にたいしては必ずしも徹底しないのである。計算のうえで部下や無辜の民を犠牲にするとなると、精神回路の奥深くできしるものがあるのだった。
「魔王政府へ保護を求めるというのは……?」
「我等真なる魔王の末裔を僻地へ追いやった現魔王の勢力が信用できるか!」
提案した臣下の一人に同じくハリベルの臣下フランチェスカ・ミラ・ローズが怒鳴りつける。二本の角が付いた兜と飾りもあってその姿は猛るライオクスのようだった。
「近隣からは賊や魔物の被害などで援軍要請されたときはよく兵を出し助けたものだが、奴らはそれを恩とは思っていなかったようだ。そのような忘恩の徒が、流民となった我が民を温かく迎えてくれるとは思えない。……まったく、連合が訊いて呆れる」
ハリベルの声には苦笑を帯びている。会議を行っている部屋の扉を破りかねない勢いで、オッドアイの悪魔エミルー・アパッチが入って来た。
「ハリベル様! 大変です、降伏勧告が来ました!」
描いたように細くかたちのいい眉を、わずかにひそめてハリベルは聞いていたがすぐに、
「賊ごときが降伏勧告だと。スンスン、ミラ・ローズ! すぐに民の脱出の準備を」
ハリベルは一同に叱咤する。
「違います! イオクスからではなく、あの聖槍使いレラジェ侯マクギリスからです!」
必死の眼色でアパッチが叫んだ。まったく予想外の人物の名前で会議室は困惑の空気が流れた。
「何、それは本当か?」
ハリベルは正直、困惑した声を上げた。
「はい、間違いございません」
「……どういうことだ?」
ハリベルは困惑する。旧魔王派同士の闘争を横合いから突いて利を得に来たのであれば、ハリベルたちに降伏勧告する意味はない。ハリベルの領地が欲しいならば彼女たちが敗れた後でもイオクスたちと交渉することもできる。今この時に介入する必要がないようにハリベルには思えた。
ハリベルは鋭い声をアパッチへ飛ばす。
「アパッチ。私はマクギリス・レラジェに降伏し、我が身を捧げ、忠誠を誓うとすぐに返信しろ」
「ハリベル様!?」
「な、よろしいのですか!」
「スンスン。ミラ・ローズ。今しかないのだ。レラジェ侯に降伏して支配下に入れば、レラジェ侯はこの領地を防衛する義務ができる。貴族としての義務を果たせなければそれはレラジェ侯の威光と信頼のためにも、守らざる得ない。そして私たちも助力を得られるならば、兵を動かすことに制約の多くは解かれる。そしてイオクスも私だけでなく、レラジェ侯までも相手にすると分かれば」
と、そこまでハリベルが言えばミラ・ローズも主の意図をくみ取ることができた。
「奴らは逃げるかもしれない、というわけですね。……ですが、それではハリベル様が!」
「かつて大戦で戦った仇敵です。果たしてハリベル様との約定を守るでしょうか」
「戦ったことがあるからこそ、私には彼は信用に足る人物だと思っている。少なくとも、普段は何かと調子の良い事を言う領主どもより、ずっとな」
「レラジェ侯爵は稀代の女好きと訊いています。ハリベル様へ下劣な欲望を剥けることになったら……」
スンスンが苦い顔を、袖で口元を隠すが剣呑な眼光は隠せていない。
「このままでは民を守れないのだ。ならばこうする他あるまい。我が身を欲するのであればそれも良かろう」
政略的な婚姻も当たり前に行われている習慣のある上級悪魔のハリベルは、臣下が戸惑うほどに割り切り方は淡々としていた。
「スンスン、ミラ・ローズ。戦闘可能な兵たちの出撃準備を。時間を稼ぎながら戦い、レラジェ侯の軍が到着するまでの時間を稼ぐ!」
ハリベルは上級悪魔、スンスンたちは中級悪魔くらいのイメージです。