聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです 作:生死郎
「ご主人様、ティア・ハリベル側から降伏勧告を受け入れました」
「本当か?」
「はい、確認済みです」
「……どういう事だ?」
「さあ……?」
ミニーニャと揃ってマクギリスが首を傾げる。
「言葉だけの降伏である可能性もありますし一度、領地を抑えて代理統治する代官を据える必要があるのでは?」
「一度こちらの武力を見せて、心変わりが起こさないように用心したほうが良いかもしれません」
「そうだな。李重たちとともにハリベル領まで前進」
マクギリスの指示を受けて、彼の私兵たちは進行を始めた。
隊長の李重が中級悪魔で、その他も下級悪魔が大半、僅かに中級悪魔で構成されている。上級悪魔たちにしてみれば、強いとは思われないかもしれない。しかし、李重は転生悪魔。通常の悪魔たちと異なり、位階と実力がイコールとは言えない。
三国志の武将呂布奉先の末裔である李重の実力は、元来の中級悪魔の枠組みには収まらない。
せっかく作り上げた軍である。訓練と思えば悪くはないこの規模の軍隊行動など、そうそうできるものでないと考えたマクギリスは、相手が一応は降伏しているのだから一部の部隊を戻してもいいのではないかという意見を退けて、軍に出撃を命じた。
「全軍出撃!」
◇◆◇
イオクス・ベルゼブブは困惑していた。簡単な仕事のはずだった。同胞であっても自分たちに服さない領主の領地を略奪し、すべてを壊す、それだけの仕事だったはずだった。
だが、その領主は全力で抵抗した。元々、領主が強大な悪魔であり、兵も精強である領地ではあったから先発隊が敗れたのは納得ができた。しかし、その戦いで傷つき、兵を多く失った軍では自分たちに歯向かう事さえできない、イオクスはそう思っていた。
現実ではそうならなかった。敵は僅かに残った兵力を集めて遅滞戦術を繰り返す。まるで、何かを待っているかのように、時間を欲しているかのようだった。
おかしい、イオクスは疑念を抱えていた。
彼らは何を待っているのだ。援軍を待っているのは近隣の同じ旧き魔王の血族たちであれば、誰もイオクスを恐れるものたちばかりで、戦う意志も度胸もありはしない。
求める援軍など来るはずがない。そうイオクスは確信しているにもかかわらず、ハリベルたちが出撃してきた事実が腑に落ちない。
玉砕覚悟の特攻であれば大将であるイオクスを狙ってくるはず。しかし、ハリベルたちはそうはせずに、遅延戦術を続けている。
気味が悪い、その胸に淀む澱のような感覚が攻める手を鈍らせてしまった。もう一歩を踏み込めなかったのだ。
ティア・ハリベルが率いる軍も必死の戦闘を重ねていたが兵の数に差があり、またその兵の強さにも差が大きかった。
敵が一気呵成に攻め立てられれば、それだけでも崩壊しかねない。悪魔が人間よりもずっと“個の力”が戦術的にも戦略的にも重要視されるものであり、ハリベルが強大な悪魔であっても彼女が同時に別の場所に存在できないのであれば、戦局を覆すことはできず、軍を率いて一秒でも多くの時間を稼ぐための命がけの戦いを続けていた。
「来たか!」
現れたのはマクギリス・レラジェの軍勢である。
◇◆◇
「これはどういう状況だと思う?」
「どう見ても戦闘中……ですね」
マクギリスたちは困惑していた。降伏した領地の接収に来たら、なぜか大規模な軍勢と相対して交戦中だったのだ。これで驚くなという方が無理というものだ。
これは降伏勧告のタイミングが合い過ぎたことでハリベル側がマクギリスは事情をすべて把握していると勘違いしたこと、過激派旧魔王派を迎撃する準備もあり、充分な情報をマクギリスへ送れなかったのもある。
困惑しつつも、李重は素早く指示を出して軍の隊形を整える。
一方、イオクスらも混乱していた。眼前の少数の兵たちをどうするか考えていたら右翼からいきなり、軍が現れたのだ。その動きから相手は精鋭だと分かる。
そして、軍が掲げる家紋からレラジェ家の軍隊と分かり、さらに驚く。
「奴らが待っていたのこれか! あの聖槍使いに助力を請うたのか、血の裏切り者め!」
イオクスはその顔に侮蔑も露わにして、眼前にはいないハリベルを罵った。マクギリスによって自分の上官や同胞を討たれた経験があった彼は、マクギリスの軍があると知り激情に駆られた。
しかし、旧魔王派に手勢を任せられた将としての理性が、激情を抑えた。部下にレラジェ軍へ通信を送った。通信を応じたのは
イオクスは魔法陣から投影された絶世の美女の姿を見て、無意識に息を呑む。
女性にしては長身で、スラッと伸びた細く長い手足。淡雪の如き白い肌。さらさらと靡く艶やかな長い髪。類稀なる凛とした美形で目を引かれるが、それ以上に印象に残るのは揺れ弾む豊かな乳房だった。彼女の顔よりも大きく、弾力もありそうな、驚くほど立体的な乳房だった。
互いに名乗り合い、イオクスは要求を切り出す。
「流石は女だてらに、それだけの軍を任せられるだけのことはある。こちらから提案がある。我々はハリベル領から手を引く。だからお前たちには追撃を控えてもらおう」
辺境への行軍する勢力の長はマクギリスの眷属である友子であると思い込んだイオクスは、自身の要求を告げる。
「もしもこの提案を受け入れないのであれば、我々も死にたくはないのでな、全力で暴れさせてもらう。そうすれば、お前たちの手勢にも少なからぬ損害が出る。主から預かった大事な軍だろう? 軍を無傷なままに、ハリベル領も手に入るのだ。悪い提案ではないだろう?」
「……少し時間を頂戴」
「ああ、いい返事を待っているぞ」
友子からの報告をマクギリスたちは受け取った。彼と同行している眷属たち、友子、頼光、ジャンヌ、ミニーニャは顔を付き合わせる。
「マスター、相手の要求を呑むのは癪ですがこのまま撤退を見逃せば我々は、最小の労力で勝利を得ることができます。ですが、相手は旧魔王派ですし、このまま倒してしまっても手柄になりそうですよね。いかがしますか?」
「友子、通信を繋げてくれ」
「お、お前は……!」
かつて戦場で見た敵手の姿にイオクスは瞠目した。
「私から直接返答を伝えよう。お前のことは気に入らない」
マクギリスの声は鞭となって空気を裂いた。
「……な、何!?」
敵将が驚愕しているうちに、頼光が軍に命ずる。
「貴様ぁぁぁぁ!絶対に後悔させてやるからな! 真なる魔王の血族を怒らせたんだ、ただじゃ済まさせねえぞ!!」
「例えお前たちを見逃しても恩義に感じるわけがないだろう。むしろ、時間をかけて恨みを募らせていくことだろう。お前たちはそういう奴らだからこそ、ここで討ち取るに限る!」
イオクスの口調が荒れる。荒ぶる怒気と目の奥に熔鉱炉に似た炎がうごめいていても、マクギリスは冷ややかな態度を崩さない。
レラジェ軍に合わせて、ハリベルたちの軍も攻めに転じて今までの恨みを晴らすかのように過激派旧魔王派へぶつかる。
「ああ、それと頼光、逃げ道は、少しだけ残しておいてやれよ」
「承知致しました。奴らが何時まで踏みとどまるか見ものですね」
主の指示に内心感嘆しながら頼光はうやうやしく頷き、軍へ伝達した。
「わざと逃げ道を残すのですか?」
「背中を撃つほうが楽だからね。奴らの動きは統制された軍というよりも獲物に
ミニーニャの疑問にマクギリスは答えて、それが目の前で現実になるのにそう時間はかからなかった。
旧魔王派の右に現れたレラジェ軍は敵側面に猛攻を仕掛けると同時に、さらにハリベル軍も合流しつつ軍はさらに展開されて半包囲を完成させた。
最初は奮戦していた旧魔王派も数の差に押され、質の差にも潰されていき、どんどん劣勢になると軍勢に粘りが無くなっていく。そして、包囲されていない左翼の部隊が堪らずに逃げ始めた。雪崩を打って皆逃げ始めれば統制から完全に外れ、方々に逃げ出してその後方から攻められたことでさらに被害が拡大した。
時間稼ぎのために召喚された小型の怪物の群れを、ティア・ハリベルは濁流で薙ぎ払い、イオクスが放つ魔力弾を流水の障壁で阻む。
そんな状況の中、濁流の音と迫撃戦や魔力が爆ぜる轟音の影響で、イオクスやハリベルたちは重要な音を聞き逃した。
小山ほどの大きさの聳える巨石が、何者かの拳で叩き砕かれた音を。
「手柄首を頂きますよぅ」
のんびりした女の声と共に、マクギリスの眷属が空から舞い降りた。
頭上に影がさした事に気付いたイオクスたち旧魔王派が見上げると、そこには象よりもはるかに大きい岩を片手で持ち上げたまま落下してくる、女の姿が。
マクギリスの
ミニーニャによって旧魔王派めがけて、巨石が叩きつけられた。轟音と共に大地が震え、土煙が周囲に立ち込める。
「お前はマクギリス殿の眷属か」
「ミニーニャ・マカロンといいますぅ。ご主人様から援軍として呼ばれましたぁ」
「そうか、助力感謝する」
ハリベルとミニーニャが話している最中、地面に横たわった巨石が砕ける音が響き渡った。
「!?」
「この力は……!」
ミニーニャの能力は『
紙一重で回避するミニーニャとハリベル。
「血を裏切る者の次は力だけの馬鹿か。だが、無限の加護を受けた私の敵ではない」
彼女達の視線の先には、イオクスがいた。姿は変わらないものの不穏な気配を漂わせていた。急激な変化、それが見た目以上の膂力をもって巨石を受け止めるばかりか、砕いたものと推測ができた。
力だけの馬鹿と言われたミニーニャは無表情のまま、
「チートアイテムでドーピングするのはダサいと思うの……」
「その力、おおよその見当はつくが、血を誇るにしてはそんなものを頼るとは」
三人の戦闘はおよそ三〇分に渡り続くものの、イオクスの逃亡で決着がついた。
イオクスに逃亡されたものの、軍は少ない損害でマクギリスはハリベル領を制圧することができた。
合戦シーンは書くのがしんどかった……
次にハリベルとのエロを書く予定です