※この作品はR-18です。

聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです   作:生死郎

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自分をミフネだとでも思っているのか?

 上野恩賜公園内には、日本で最も長い歴史を持つ博物館がある。

 正式名称は東京国立博物館。土器、土偶、鎧兜、刀剣など、日本の歴史や文化を伝える多くの重要文化財が収蔵され、また、東洋各国の文化財など、古代から近代までの美術品や工芸品、考古学的資料が展示する施設だ。

 

 その博物館の片隅に、一般開放されていない区画がある。

 一般職員にすら認識されていない区画。警備用に配置された戦闘傀儡、守護妖などが破壊され、斬り捨てられていた。

 

 密かに現れた襲撃者の犯行は、警備用の感知術式の一時的な麻痺もあって職員が知るのはかなり後になってからだった。

 

 悠然とした足取りで青年が近づいたガラス製のショーケースに展示さえているのは、古びた槍が一振りだけ。

 黒く塗られた槍の上下には、それぞれ大型の穂先がついている。

 二本の短槍を無理やり接合したような、奇妙な形の槍だった。

 

 ショーケースには、槍の銘も来歴も記されていない。何本ものワイヤーで頑丈に固定され、博物館の奥に死蔵されていた。

 

 その槍を、一人の青年が見上げている。

 

 制服の上から漢服を羽織る青年だ。彼の右手には、漆黒に輝く剣が握られている。それは赤黒い怪しく危険なオーラを立ち上らせる魔剣だった。それはこの秘密区画の守り手を斬り捨てた凶器でもある。

 

「ありがとうゲオルク。お前のおかげでここまで辿りつけた」

 

 青年が独り言のように穏やかに口を開く。

 彼の呼びかけに答えるように突如として霧が出ると、その向こうから姿を現したのは、制服にローブを羽織った魔法使い風の青年だった。

 

「巧妙に隠された異界化した空間。異界への入口に近づけさせない結界。それを巧みに隠す偽装・隠蔽の術式。この国の人材もなかなかどうして尽きないものだな。だが俺の術と霧をもってすれば造作もないことだ」

 

 青年は、ゲオルクの答えを聞いて満足げに微笑んだ。

 

「ああ、流石だ。俺一人なら、ここまで簡単には辿り着けなかった」

 

 青年は仲間の技量を賛辞しつつ、ショーケースの中身に視線を向けた。

 

「零式突撃降魔双槍(ファング・ツァーン)───冥餓狼(めいがろう)、ついに我が手に入る」

「お前の眼鏡に叶うものなのか? これは失敗作なのだろう」

「ああ、たしかに。だが、俺ならば十全に扱える。使いこなせばこれにも勝るとも劣らない強力な武器になる」

 

 これと言って漢服の青年は持っている魔剣を掲げてみせる。魔神殺しの剣とも呼ばれた魔剣。それに匹敵するという評価にゲオルクは、そうかい、と素っ気なく応えた。

 

「さて、と───」

 

 青年は魔剣を虚空へ消して、ショーケースのほうへ手を伸ばした。

 展示されていた黒塗りの槍が、青年と共振するように光を放つ。仄白い輝きが槍を固定していたワイヤーを弾き飛ばし、その反動でショーケースを割る。重力に引かれて落ちていく槍を、青年は空中で掴み取る。

 

 新しく手に入れた道具の調子を試すように、青年は槍を軽く旋回させた。演武のような動きを幾度か行う。それは槍に自分が主であると認めさせるための儀式のようだった。

 

「さて、帰るとしようか。一緒に行きたがっていたジークに冥餓狼を見せびらかしてやろう」

「では、ゆこうか曹操」

 

 槍を携えた青年とローブを羽織る青年の姿が、霧の奥に溶け込むように消えていった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 壊滅した集落は表世界では原因は山火事によるものとして処理されることになった。情報の拡散を防ぎ、偽装をするために悪魔たちが奔走した。

 

 マクギリスは部下に偽装・隠蔽を任せて眷属を連れて密猟者たちを追った。

 女王(クイーン)のスカサハ。騎士(ナイト)の胡蝶(こちょう)しのぶと源(みなもとの)頼光(らいこう)。兵士(ポーン)のミニーニャ・マカロンの四人を引き連れてたどり着いた先の様子を確認する。

 

 そびえ立つのは、巨大な黒い影。電気の消えた建造物。人間であれば月明りを頼りに見なければならないが、悪魔の眼力は闇も見通す。地上二〇階建て程度のビルで、近代的なデザインだ。

 

 玄関先には赤い絨毯が敷かれ、両脇には大理石の柱。近くにはオブジェなども配置されていたが、人の手が整備されているのは敷地内のみ。視線を外へ向ければ、周りに見えるのは、無数の山、濃密な霧、鬱蒼とした森林が、見渡す限りに広がっている地方の山間部だった。

 

「ここ、元はホテルみたいですね」

 

 閑散とした雰囲気から、目の前の建物は廃業したホテルと、しのぶは推測した。

 

「近くには民家もないし、隠れて何かをしたいならばおあつらえ向きな場所ではあるな」

 

 マクギリスは密猟者たちが拠点に山奥を選ぶ理由に秘匿性であるのだと考えた。もっと便利な無法地帯が、他にもいくらでもあるがここは密猟者の拠点のひとつで本拠地ではないのではないだろうか。

 

「色々と見て回ったほうがいいと思うの」

「ミニーニャの言う通りだな。ここら一帯をまず見て回ろうか」

 

 ミニーニャの提案にスカサハも賛成して、マクギリスたちは密猟者の拠点を確認することにした。

 

 

 

 リゾート地として開発されるも、見通しの甘さから破綻。母体となった企業の倒産や解体費用などの諸問題で、建物一切を放置。そのような国内にいくつも存在する負の遺産を自然に朽ち果てるものの一つだった廃墟を、密猟組合が利用していた。

 

 白髪の青年は、一人ホテルの廊下を歩き、エレベーターに搭乗。地下四階で停止。ドアが開き、

目の前に広がったのは、半ば闇に侵された通路。明里は非常灯のみ。淀んだ空気から漂うのは下水の臭い。靴音を反響させながら、暗く長い通路を歩いている。

 

 青年の足取りは悠然としたもので、闇に臆することもなく進み続ける。彼の目的地に到達。通路を抜け、しばらく歩いたところで青年が立ち止まると、それが合図だったかのようにLEDが一斉に点灯。頭上から明かりが降り注ぎ、周囲を照らし出す。

 

 そこはホテルの真下に設けられた空間。広大な地下駐車場であった。

 

 リゾート地ならではの贅沢な作りで、天井の高さは三メートル程度。壁と床は、滑らかなコンクリート。車は置かれておらず、視界は開けている。総面積は、野球場を丸ごと呑み込めるほどあるだろう。

 

 青年が地下駐車場で佇んでいる間に、近くの薄闇から人影が出現。高級なスーツを着こなした紳士がこちらに歩いて来た。彼の後ろを夢遊病者のような足取りで続く九人。そして最後尾で九人を歩かせているのは密猟組合の凶手(きょうしゅ)。

 

 九人は密猟者によって捕獲された神器所有者たちだった。彼らは皆、密猟組合が密売するための商品である。

捕らわれた彼らに自力での逃亡は、不可能なことだった。両腕には、強化チタン製の手錠。それを繋ぐのは、太さ二〇ミリのスチール製ワイヤー。どちらも猛獣用。魔術的な強化も施されている。さらに投薬と洗脳により、複雑な思考ができない状態でいる。

 

「時間通りだな、レネ」

「時間を守る者は身を守るものだ。時間厳守は私の主義だからね」

 

 白髪の青年にレネと呼ばれたスーツの紳士。密猟組合の頭目レネ・ブロワは取り澄ました口調で言った。

 

「ジーク、まずは用意した報酬を確認させてもらおう」

 

 白髪の青年ジークが虚空から巾着袋を取り出した。

 

「ほら、約束した通り、ダイヤモンドで報酬を支払おう」

 

 巾着袋は凶手の魔法によって浮遊して自分の手元にまで移動させた。浮遊する巾着袋を凶手は掴み取り、中身を確認した。たくさんのダイヤモンドを目視し、鑑定の魔法をかけた。

 

「ジョナス、しっかりあるか?」

「ああ、一ドルの誤差もなく要求通りだせ、レネ」

 

 ジョナスと呼ばれた凶手は自身の頭目の問いに答えた。鑑定を終えて、近づいて来た密猟組合の狩人に巾着袋を渡すと狩人はすぐに離れた。

 

「よろしい。これが今回提供する商品だ。神器(セイクリッド・ギア)の系統もリクエスト通りに揃えてある」

「素晴らしい。前回のメデューサの魔眼もそうだが、いい仕事をしてくれる」

 

 ジークは満足げに頷いた。そこに、眩い閃光が地下駐車場で炸裂した。地下空間に満ちた微かな瘴気が混じる陰気な空気が、瞬く間に浄化されて清浄な空気で満たされる。

 

 光が消え失せ、代わりに現れたのは聖槍を携えたマクギリス・レラジェ。穂先から展開された聖なるオーラによる光刃での一撃が、先程の閃光の正体だった。

 

 密猟者とジークの身体中に緊張が走る。即座にマクギリスと聖槍の脅威を察したからである。マクギリスへ視線を向けてレネはぎょっとした。自分たちの側に立たせていたはずの人間たちがマクギリスの傍らで立っていた。光に目が眩んでいる間に奪われたのだ。

 

「悪魔風情が人助けとは、どういうつもりだ。お前はクロサワ映画のファンか」

 

 レネの取り澄ました口調ながら皮肉めいた笑みが口元に浮かぶ。

 

「自分をミフネだとでも思っているのか?」

「侍は千葉が好きだ。炎の中で十兵衛と宗矩が対峙するシーンが大好きでね」

 

マクギリスは肩をすくめるのと同時並行して首をふってみせた。いつの間にか取り出していた剣を、金髪の悪魔に向けてジークは笑みを浮かべている。柔和な表情は変わらないものの、その瞳には肉食獣のような危険な光を湛えている。

 

「聖槍に選ばれた悪魔マクギリス・レラジェ卿。お会いできて光栄だ」

「私を知っているとはこちらこそ光栄だ。未だ非才の身なれど、これからも励む所存だ」

 

 ジークは最強の神滅具(ロンギヌス)の黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)を前に高揚していた。そしてその担い手についても。

 旧魔王派と現魔王派との内乱で僅かな同胞とで決死作戦を行い、部隊の半数を失いながらも旧魔王派の将帥を討ち取り、指揮系統が混乱した旧魔王派を一度撤退に追い込み、戦線を回復させた傑物だ。闘争に餓えたジークにとって格好の相手である。

 

「自分の領民を奪い返しに来たのか?」

 

 領民とは貴族にとっては自分の資産でもある。それを奪い返しに来たのだとすればレネにも納得がいく思いだ。

 

「我が領地を荒らした賊を誅伐するつもりだったが、怪しげな取引現場に遭遇してしまったから、せっかくだから君たちを殲滅しつつ、商品を回収して、ついでにダイヤモンドを奪ってしまおうと思ったんだ」

「たちが悪いな、悪魔か!」

「悪魔だよ」

 

 密猟者たちが思わず叫ぶが、マクギリスは淡々としたものだ。

 地下空間は悪魔、密猟者、魔剣士の三つ巴となり混迷に陥っていた。




■レネ・ブロワ
密猟組合に所属する密猟者グループの頭目。多くの異能者を束ね密猟組合を率いている。統率力に優れており、彼の統率の下、密猟者たちはただのごろつき集団から堅固な組織へ発展していった。
ダイスで思わぬ強者になったことでキャラ付けに悩み、アドバイスを頂きつつ統率力がある悪党ということで、作者が好きなアクション映画の敵役をイメージしてキャラメイクすることになった。

■密猟組合の凶手
闇の魔法使い。破壊に特化した戦闘のスペシャリスト。

■密猟組合の狩人
狩りの最中に獲物を捕まえる手段として、体の動きを封じる拘束魔法を覚えている。凶手ほど戦闘が得手ではない、下級戦闘員ポジション。

■曹操
意味深なことを言いつつ、強盗するだけの出番。不幸なことに聖槍を持たない本作でも禍の団に所属している。

■ゲオルク
曹操のアッシー

■ジーク
お使いの最中に悪魔が乱入して三つ巴の泥沼にはまる
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