※この作品はR-18です。

聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです   作:生死郎

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スカサハのサブエピのつもりが話が大きくなってしまいました


聖槍使いと魔剣使い

 ジークフリートが魔剣を抜いたのに応じてマクギリスもまた聖槍を構えて切っ先をジークフリートへ向ける。

 

「それは魔帝剣グラムか。───なるほど、君が教会を突如出奔した元教会戦士のジークフリートか」

「ふふふ、特にPRでもした覚えはないが有名になったものだね、僕も」

 

 白髪の青年が嘯くように微笑んだ。柔和な印象を与える笑みだが、その眼は漲る士気を隠せてはいなかった。

 

 青年───ジークフリートは教会の戦士養成機関『シグルド機関』の最高傑作にして、魔帝剣グラムに選ばれた元教会最強の剣士である。突然、教会を出奔して行方をくらましていたという話をマクギリスは伝え聞いていた。

 

「少壮気鋭の悪魔、冥界の英雄と噂された御身に会えて光栄だ」

 

 それは戦士として強敵と対面する高揚と、元とはいえ教会に所属していた者として聖槍に心惹かれる思いから、ジークフリートの口ぶりはまるで旧友と街ですれ違って立ち話をしているようだった。

 

「私としては庭を荒らした賊を相手にするつもりだったのだがな、君は放っておいてくれないようだ」

「そうつれないことを言わないで欲しいね」

 

 ジークフリートは肩を揺らして笑う。

 

「マクギリス・レラジェ殿。不遜な言い方になるが、僕は貴方のことを高く評価している。世界最強の頂きすら目指せる器と思っている。だからこそ、貴方の首を得られれば、より僕は高次へと昇りつめられると信じている」

「まるで剃刀のように鋭利な殺気だ。君ほどの力量ならば、教会も放ってはおかなかっただろう。出奔したのも教会が窮屈だったのかな」

「隠しても無駄だから言うけれど、教会は僕を繋ぎ止めるために色々と便宜をはかってくれたよ。しかし───地位や名誉など、僕にとってつまらないそこらの石ころのようなものだ」

 

 それに、とジークフリートはシニカルな笑みを浮かべる。ペテン師どものために尽くすなど、馬鹿馬鹿しいと胸中で呟いた。

 

「剣士として生まれたならば、僕は最強の剣士となりたい。そして最強の剣士となるためには、より強き者との闘争こそが一番の早道だ」

「己こそが最強たらんと欲するか……」

「特別な理由はないけれどね。強いてあげるなら、己がどこまで上り詰められるのか。それを知りたい。ただそれだけさ」

「生憎と私には最強というものは興味のない考えだな。私が欲するものはただ勝利だ。最強の称号など、勝利を重ねればいずれ勝手についてくるだろう?」

「いいね、そういうの、僕は好きだな!」

 

 グラムから寒々しいほどのオーラが立ち昇り、それに合わせるようにジークフリートは牙を剥く野獣のように笑う。

 

「聖槍使いと魔剣使い、槍と剣か、面白い。最強を欲するのであれば、守るのであれば、流血の覚悟はできているのだろう?」

 

 二条の雷光がすれちがうようであった。ジークフリートのグラムは聖槍をかすめて宙に流れ、マクギリスの聖槍はジークフリートの咽喉を貫こうと迫るが、ジークフリートが片手で抜刀した黄金の柄には宝玉が埋まっている魔剣が穂先を弾き、二人は距離を取る。

 

「ニーベルンゲンの歌にも登場する魔剣バルムンク。これも僕が統べる魔剣さ」

 

 そう言い終わればすでにジークフリートは二刀の魔剣を構えて、まっしぐらにマクギリスめがけて走り寄った。

 マクギリスが聖槍に構えれば大気が爆ぜるような大きな音とともに、聖槍の柄が伸びて穂先がジークフリートに突進する。剣光が交錯し、凄まじい刃音が鳴りわたる。

 柄を元の長さまで戻す作用を利用して距離を詰めたマクギリスは聖槍の穂先を展開させて聖なるオーラによる巨大な光の刃を成形する。

 

「おっと、これは不味いな!」

 

 そう言いながらもジークフリートの表情に怯懦はなかった。自己の技量と身体能力に強烈な自信を有する武の申し子であり、死への恐怖感など、彼には侮辱の対象でしかない。

 

 背面から銀の竜鱗に覆われた腕が、メキメキと音を立てながら出現する。龍の手には第三の魔剣が握られている。北欧神話に伝わる魔剣ディルヴィングが龍の手で振るわれれば、地面にクレーターが生じる程の破壊が起こり、その衝撃波がマクギリスに迫る。聖槍を水平に振るって衝撃波を切り裂き、聖なるオーラを放つ。ジークフリートはバルムンクで迎え撃つ。剣気によって聖なるオーラは捻じれ霧散する。余波を受けた螺旋状に捻じれた地面には隆起する箇所、陥没する箇所が多数、それも不規則に出来上がっていた。

 

「ほう、奇妙な腕だな?」

「これは僕の神器(セイクリッド・ギア)である龍の手(トゥワイス・クリティカル)だ。もっともこれは亜種だけどね」

 

 ジークフリートが言うように、龍の手(トゥワイス・クリティカル)は通常籠手の形をとる。亜種とはいえ、龍の手(トゥワイス・クリティカル)が持つ効果一定時間に使い手の能力を倍加する特性は健在である。ジークフリートから放たれる鋭気が龍の腕が出現したことで増したことをマクギリスは感じ取った。

 

ジークフリートは入神の技量を誇示するように、聖槍と撃ち合わせた。

 

 聖槍による一五メートル超の光の斬撃。それは刃が地に触れると聖なるオーラが波動となって拡散していき、地下空間にあるものを纏めて消滅させながら地面も捲り上げていく。三刀の魔剣が競い合うように器物を、柱を、聖なるオーラをも、斬り刻み、空間を抉り取る。廃ビルが崩壊して落下してくる瓦礫を刻み、砕き、飛散させながら死闘の嵐を起こした。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 マクギリスと眷属たちは無音声通信で繋がっている。そのためマクギリスがジークフリートと交戦している中でも、眷属たちは主と意思疎通ができた。

 

(魔剣使いの小僧め、マクギリスをまっさきに狙いおったか)

(安心しろ、スカサハ。相手が剣三本だろうが、私は槍一本でも負けはしない!)

(そういう問題じゃないと思うの)

(妙なところで張り合うな)

 

 スカサハが嘆息を吐いていると更なる通信が入る。拉致されていた者たちを頼光とともに避難させていたしのぶからだった。

 

(転移用呪符で彼らを退去させました。密猟者たちの財貨もまとめて送りましたからそこを更地にしても問題ありませんよ)

 

 しのぶの通信を聴きながら、逆袈裟に振るわれる魔剣をマクギリスは石突で打ちつけ跳ね飛ばす。

 

(ご苦労だった。ありがとう)

 

 その数拍後、廃ビルは聖槍と魔剣によって斬り刻まれ崩壊していった。

 

 

 

「くそっ! 無茶苦茶だ!」

 

 密猟組合のリーダーであるレネ・ブロアは聖槍使いと魔剣使いの戦いに戦慄しつつ、悪態を吐いた。そこは既に地下空間ではなかった。廃ビルは既に崩壊して夜空が見えていた。

 

 落下する瓦礫によって潰された密猟者もいるがレネには庇う余裕はなかった。自身の神器によって作り出した円盤から放つ紫炎の壁と天蓋によって驟雨のような無数の瓦礫を灰燼へ変えて護身に徹するしかできなかった。

 それでも懐に仕込んだ通信用の護符を使うことはできた。密猟組合の暗殺者に指示を出した。

 

(闘技用の魔獣どもを解き放て! それとアレを出せ! 前に我々を嗅ぎまわる犬がいただろう。調整して猟犬に仕立てたんだ。アレも使えるのだろ!?)

(ええ。神器の力により、戦闘能力に支障はありません。既に実戦も可能であることは確認済です)

(ならばやれ!)

 

 ふいにレネは炎の壁を突破する赤い流星が、十余の光条となって迫り来るのを見て頭を庇うようしながら転がるように地面へ身を投げた。先程までレネがいた場所には一〇本の朱槍が突き刺さっていた。

 

「魔剣使いの小僧を相手してやろうと思っていたが、よもや賊に神滅具(ロンギヌス)所持者がいたとはな」

「貴様、あいつの眷属か」

「その紫炎、聖遺物(レリック)の一つ聖十字架である紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)だな? 賊が持つには過ぎた玩具だ」

「玩具とは言ってくれるな、悪魔め」

 

 聖遺物である紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)は悪魔に対して必殺と言われるほどの威力があり、聖なる力のこもった紫炎をまともに受ければ上級悪魔であっても消滅する。

 

 マクギリスの女王(クイーン)スカサハが気丈な笑みを浮かべて、レネを自分の相手と狙う。

 

「さて、やろうか───」

(不味いっ!)

 

 近接戦闘(インファイト)に持ち込まれては勝てないと悟ったレネは、円盤を回転させ直線の紫炎を放射する。 本来は聖なる紫色の炎を十字架に象ってそれを操るのだが、所有者によって扱い方も変わり炎の使い方も変化するという特性があった。レネが使う場合は具現化された二つの円盤が炎の基点となっていた。

 

 スカサハは飛燕のような足捌きで避け、円盤から放てたれる敵を追尾する炎弾に朱槍を手元で回すことで炎弾を切り裂き霧散させる。

 

 レネの両手を円盤にかざし、紫炎の鞭を振るいスカサハの接近を許さず、抵抗する。スカサハにとっても技量が見劣りすると見ても、悪魔である自分ではわずかに炎を受けても深刻なダメージとなるため、慎重に立ち回ることになる。

 

「禁手(バランス・ブレイカー)くらいは期待できるのだろうな? 賊よ」

 

 気軽に言ってくれるな、レネは内心で毒づくもそれを発声する余裕はなかった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ミニーニャは怪力によって密猟組合の狩人たちを薙ぎ払い、密猟組合の凶手との戦闘に入った。射出される魔力を避けて距離を詰めて突き手を振るが防御魔法を展開。魔力障壁を砕かれるも、凶手は後退しながら距離を取りながら魔法の連続攻撃を振るう。

 

「むぅ……邪魔ですよぅ」

 

 密猟者が解き放った闘技用トロールたちがミニーニャを襲う。調教されたトロールたちは密猟者たちの指示に従い、彼らを守るためにミニーニャに立ちふさがる。

 

「■■■■■■───ッ!」

「邪魔です!」

 

 トロールが投げつけた巨石を片手で受け止めたミニーニャは、そのまま巨石をトロールに投げ返す。

 

 投げ返されると思わなかったトロールは呆けた表情のまま巨石が頭に激突して砕ける。意識が朦朧するトロールにミニーニャは左ストレートを放つ。その速さたるや受けたトロールが何を受けたか分からず意識を闇の奥へと沈み込んだ。

 

「■■!? ■■■■■■───ッ!」

 

 もう一頭のトロールが棍棒を振るいながらミニーニャを襲いかかる。その後ろから密猟組合の凶手が魔法を放つ。魔力障壁も貫通する魔法も、火柱を立ち昇らせる魔法も、トロールの襲撃もミニーニャは巧みなフットワークとスウェーで避ける。トロールの脇腹を殴り巨体を飛ばして、凶手との距離を詰める。

 

「これでお仕舞」

 

 幹部格と目される凶手はできれば生け捕りにしたい。ミニーニャはパンチで昏倒させようとするが……。

 

 ミニーニャは透明なハンマーで殴られたように吹き飛ばされた。弾丸のように凝縮した高濃度の魔力がミニーニャを吹き飛ばしたのだ。

 

「なっ……!?」

 

 ミニーニャの表情が焦燥に歪んだ。しかしミニーニャの焦りの理由は、自身への死角から一撃(アンブッシュ)ではなかった。彼女の身体に荊(いばら)が絡みつく。地面から芽を出した荊は凄まじい速度で成長し、ミニーニャの身体を捕らえ、地面に縛り付けられた。

 

「くそっ! 犬を向かわせるのが遅すぎだ!」

 

 凶手は襲撃者を見るなり毒づく。襲撃者というよりもそれを差し向けた仲間への罵声だった。

 

 襲撃者の正体は若い女。一〇代後半。二〇代には届かないと思われる少女だ。

 古風な長い黒髪に、身に着けている高校の制服も黒。氷を彫ったような美貌だが、世を拗ねたような眼つきのせいか、どことなく冷たい印象を受ける。本来は勝気で気丈さであっただろう眼の輝きは失せて、暗黒と化していた。

 

 少女は華奢だが、しなやかな強靭さを感じさせる身体つき。そして手には音叉のように二又にわかれた、鈍色の双叉槍(スピアフォーク)がある。

 

「手をかけさせやがって……ハッ、複製人間(ホムンクルス)の転生悪魔か。勿体無いことをした」

「はい……?」

 

 味方が現れて、ミニーニャを荊で拘束して安心したからだろう凶手はミニーニャへ声をかける。

 

「極めて完成度の高い複製人間(ホムンクルス)は貴重だ。研究サンプルとして高く売れそうだったというのに、悪魔なんぞになりやがって」

 

 陋劣な悪口にミニーニャは一瞬の間を経て凶手への嫌悪感が生じ、そして嫌悪感は、殺意へと生化学反応を生じて変化した。

 

「偽物で、使い潰されるだけの道具だった私を、生きていていいと受け入れてくれたご主人様に感謝しています。マクギリス・レラジェの眷属であることが私の誇りです」

 

 砕けるような破壊音を響かせながら、荊が千切れる。ミニーニャの両腕は異常なまでに発達している。

 

「あなたは……もう喋らないで」

「くそっ! おいお前、迎撃しろ!」

 

 黒髪の少女は、ヒュン、と槍を無造作に旋回させて、

 

「……指示通り、あなたをここで確実に始末する」

「っ!」

 

 疾風と化して双叉槍(スピアフォーク)がミニーニャへ突き出されてきた。それを横合いから騎士(ナイト)の胡蝶(こちょう)しのぶが刀で槍を打ちつけ、払う。

 

「ミニーニャさん、彼女の相手は私がします」

「お任せします」

 

 しのぶとミニーニャはすれ違うように分かれ、自身が相手する敵を定める。

 

「頼光さんはどうしているのです?」

「ここに来る途中、警備用の魔物たちやドラゴンを相手してもらっています。流石にドラゴンが入ってきたら不味いですから」

「わかりました。あの凶手、ウザいから黙らせますね」

 

 ミニーニャは肥大化した片手で巨大な瓦礫を掴み取り、持ち上げた。そのまま凶手めがけて投げつけた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「太史局(たいしきょく)の乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)……あんたは太史局の者のようですね。しかもかなりの手練れ……なるほど六刃(りくじん)ですか」

 

 元は五大宗家に属していたしのぶは、黒髪の少女の正体にたどり着いた。霊脈の変調や魔獣の暴走(スタンピード)のような自然発生的な魔導災害を阻止するための組織の対魔獣戦闘のエキスパートである六刃と対面するとは慮外のことだった。

 

「指示の遂行を妨げる者は、抹消する」

 

 双叉槍(スピアフォーク)から雷撃が迸る。幻惑の足運びでしのぶは雷撃を避けて黒髪の少女へ迫る。

 

「それはただの雷の魔術ではありませんね。ドラゴンの息吹き(ブレス)ですか?」

 

 しのぶはそう言って、黒髪の少女が持つ槍を冷たく睨む。乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)。それは五大宗家の技術体系によって生み出された調伏(ちょうぶく)兵器だ。その能力は、蓄積した魔力を増幅し、そして使い手の意思に応じて放出すること。

 

 それによって槍の使い手は、人間には使えない特殊な能力や、莫大な魔力を操ることができるようになる。

 

「頼光さんが相手をしている蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)の息吹き(ブレス)をその槍に蓄えていたようですね」

「乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)の能力を知っていたところで、勝てると思っていたのなら、甘くてよ!」

「……く!」

 

 黒髪の少女の凄まじい連続攻撃をしのぶは蝶が舞うように避ける。そして攻撃の間隙を縫うように刺突を繰り出す。

 

 対魔獣戦闘のエキスパートである六刃の攻撃は、一撃一撃が重く、速い。しのぶの小柄な身体では、受けに回れば容易く崩されてしまう。

 

 だが、焦りの表情を浮かべていたのは守勢に回るしのぶではなく、攻めている黒髪の少女のほうだった。

 

「やはり、その様子。あなたは霊視を行えていませんね? 正常な状態とは言えないよう」

 

 太史局の六刃は一瞬先の未来を視て、戦術的判断の材料とする。それ故に六刃との戦闘で勝利するのは非常に厳しい。

 

「何者かに洗脳されていて、行動にあなた自身の意志がまるで介在していない状態というわけですか。その洗脳状態のせいであなたの霊視や戦闘の勘は失われている」

 

 しのぶは強烈な踏み込みにより四方八方にうねり、地を這う百足のように駆け抜け双叉槍(スピアフォーク)から放たれる雷撃を躱して刺し穿つ突きを繰り出す。黒髪の少女は自ら背後へと吹き飛んで、咄嗟に刺突を躱す。

 

「“霧豹(むひょう)・双月(そうげつ)”!」

 

 黒髪の少女が突き出した乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)の二本の刃が、互いに共鳴して、破壊的な音波を撒き散らした。魔力を増幅する槍が黒髪の少女の魔力を増幅し、強力な攻撃呪法として撃ち出したのだ。

 

「っ!?」

 

 破壊音波に巻き込まれたしのぶは、しかし倒れずに騎士(ナイト)の駒によるスピード強化で音波を突破して、しのぶの刀が黒髪の少女の双叉槍(スピアフォーク)を弾き飛ばした。

 

「くっ!?」

 

 苛立しげに黒髪の少女は後退する。彼女の唇から鮮血が零れる。捌ききれず受けてしまったしのぶの刺突によって、彼女の身体に毒が回ってきたのだ。

 

「血……私の、血……!」

 

 濡れた唇を拭った掌を見て、黒髪の少女は興奮したように息を吐く。紅く染まった掌を見る彼女の瞳には、陶酔したように蕩けていた。

 

 しかし、一度は人間的な情動を見せた少女だったが、急に元の機械的な顔に戻ると槍を構えた。

 

「我が影は、霧にして霧に非ず、刃(は)にして刃(は)に非ず───! 斬れば夢幻の如く、啼哭(ていこく)は災禍を奏でん!」

 

 黒髪の少女が祝詞を詠唱した。蓄積したドラゴンの魔力を、乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)が増幅し、雷電の刃を形成する。

 

 横薙ぎに襲われる雷の刃が大気を抉る。しのぶは紙一重に刃をすり抜け距離を詰める。近づきざまに目にも止まらぬ速度で黒髪の少女に六連続の突きを放つ。

 

 ───蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞(せいれいのまい) 複眼六角(ふくがんろっかく)

 

「うっ、……がぁはっ!?」

 

 吐血をした黒髪の少女は身体を震わせて、双叉槍(スピアフォーク)を支えに立っているがその足取りは震えている。

 

 類稀なる実力を持つ六刃といえど優れた剣士を相手に、精神操作で万全の力を出し切れないというハンデまで加われば勝利するのは難しかった。

 

 少女の黒ストッキングに包まれた脚の内側から、緑色のゲル状のものが垂れ落ちてきた。地面に落ちたゲル状のものは、まるでしのぶから逃げるように地を這うがそれを見逃すしのぶではない。流動する緑色のそれに刀を突き立て実体を捕らえ、地面に縫い付けた。

 

「これは……スライム型の神器? そうですか、彼女を洗脳していた力の正体がこれというわけですね」

 

 しのぶの推測通りであった。不意を突かれた黒髪の少女は地に浸透して隠れていた独立具現型の神器が、六刃の少女の脚を伝って彼女の肛門から侵入して寄生することで洗脳していたのだ。

 

 神器が無力化されたことで、ついに六刃の少女が膝をつき失神した。

 

 しのぶは慈愛の心を持つ人物だが、彼女はマクギリス・レラジェの眷属であって、犯罪者の人権擁護運動に従う人道主義者ではなかった。ゆえに、彼女は洗脳能力を持つ神器を封じて、その持ち主である密猟者を見つけ出して粛清することに躊躇うことはなかった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「おっと、つい戦いに熱中している間にレネたちが全滅しているようだ。神滅具(ロンギヌス)を持っていたものの、眷属悪魔に敗れるとは存外柔弱だったな」

「いやいや、我が女王を相手に粘れたのは充分健闘したと讃えてよいと思う」

 

 マクギリスとジークフリートは戦闘を止めて、周囲の様子を眺めた。互いに戦闘へ熱中していたことに気が付いた。

 

「スカサハを殺す者がいるとすれば、それは私以外にはいない。その役目は神滅具(ロンギヌス)の持ち主で、彼女が授けた槍を持つ者にも譲ることはできない」

「なるほど、見目麗しい主従の愛だね」

 

 言葉を交わしながらも互いに残心を忘れていない。二人とも身体中に負傷が目立つ。魔剣によって負った傷が帯びた呪いは、マクギリスが聖槍によって浄化したものの怪我は残っている。ジークフリートも身体の至る所に怪我を負っている。背から生える龍の手は二本も指が欠損している。そしてジークフリートにとって何よりも大きな損失は彼の手にはバルムンクがないことである。

 

「まさかバルムンクに自分を使い手と認めさせるとはね……!」

「私はこれでも、アグニカとカイエルという二刀を扱っていたから、剣の心得も当然持っているんだ」

 

 魔剣の意思によって並大抵の者は意思を魔剣の取り込まれてしまい破滅してしまう。だというのに、自分から奪い、魔剣を屈服させて主と認めさせた。そんなマクギリスに対して、ジークフリートは危険水位へと急上昇する怒気を自覚した。魔剣士としての矜持をしたたかに傷つけられた気がしたからだ。

 

「本当ならば取り戻したいところだが、もう時間が切れたようだ」

「このまま帰すと思うかね?」

「悪いが、君の許可は必要がないな。バルムンクは暫くの間、貴方に預けておこう」

 

 抜刀したダインスレイブをジークフリートは地面に突き立てた。すると巨大な氷の柱が地面から突如生えてきた。それが瞬く間に多数生えてきた、氷の柱による林が出来た上がる。

 

 マクギリスが氷の柱を砕いたあと、ジークフリートは忽然姿を消していた。もしも氷の柱がなければ、突如として現れた霧の奥にジークフリートが消えたところをマクギリスは目撃しただろう。




六刃の少女……いったい何霧葉なのか?

■レネはなぜ禁手を使えなかったのか
禁手が使える者が急増したのは原作シナリオのときからなので、原作開始前では長い鍛錬も卓抜した才能もないレネでは禁手は使えませんでした。


■スライム型の神器
寄生させた相手を洗脳する能力を持つ独立具現型の神器。アビス・チームにありそうな凶悪な神器がコンセプト。
見た目をスライムにするか巨大ハリガネムシにするか最後まで迷った。


■アグニカとカイエル
マクギリスがかつて使っていた剣。初期から設定はあったけれど今まで明かされなかった裏設定。


■5分で考えたジークフリートのヒストリー
英雄シグルドの末裔の家で誕生
↓
借金苦で悩む親に教会から金銭で買い取られる
↓
教会がシグルド機関へ引き渡す
↓
神のために死ねる戦士として育てられる
↓
完璧な殲滅が怨嗟の連鎖を断ち切り平和を齎すという歪んだ価値観を生やす
↓
真の英雄シグルド再来として賞賛を受ける
↓
苦境を乗り越えた戦友が次々と亡くなり、ジークフリートの精神の均衡が崩れる
↓
教会と天界が隠していた秘密を知ることで更に精神の均衡を崩す
↓
離反しないように教会が説得するが失敗する
↓
信仰、教会や天界への思いがすべて反転する。出奔して流浪の剣士になる
↓
最強を渇望して、平和を嫌い戦乱を好む恐ろしい趣向に目覚める
↓
曹操と友達になる
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