聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです 作:生死郎
人間界にあるマクギリスのセーフハウスにマクギリスとその眷属たちが集まっていた。
密猟者たちが檻に捕らえていた魔物や、ジークとの取引で売り渡そうとしていた者たちもここにいて、彼らは治療を受けていた。
マクギリスたちも負傷した者はそれぞれ治療を受けている。魔剣による切創が何か所もあるマクギリスは、傷に残る呪いを聖槍で除去した後に呼び出した織姫によって治療を受け後に、しのぶが調合した薬湯を飲んでいた。
スカサハは回収した財貨や保護した魔獣たちは冥界のレラジェ領に移送したことを伝えた。
「ところで、マクギリス。捕らえた六刃の処置をいかにとろうか」
太史局に所属する六刃の少女もまた、拘束されてはいるがセーフハウスに移送されている。
自分の眷属たちへ攻撃して脅威となった少女である。生殺与奪の権を握る今、どのように処置を行うかと女王に問われた。
マクギリスはゆっくりと頭をふり、豪奢な黄金の髪を波打たせた。
「スカサハ、君が生命を狙われたとする。犯人を捕らえたとして、犯人が所持している凶器を君は処罰するのかい?」
数拍の時差で、スカサハは自分の主が言わんとするところを理解した。マクギリスは捕らえた六刃個人に報復をするつもりはないと言明したのである。糾弾され、制裁を受けるべきは、彼女を洗脳して操っていた密猟者たちだった。
「捕らえた密猟者どもを尋問して、その後に制裁を加えよう」
スカサハの声に、無言のうなずきを返すと、やって来たしのぶからそろそろ六刃の少女が目覚めるだろうと伝えられて、マクギリスはしのぶと一緒に六刃の少女を保護している部屋へ移動した。
治療を終えて、清潔なベッドに寝かされていた六刃の少女の瞼が、ゆっくりと開く。
「こ……ここは……? え……喋れるってことは、密猟者の
目覚めたばかりのように気だるそうな雰囲気を纏わせた少女は周囲を見渡す。
「初めまして、太史局の六刃殿。私はマクギリス・レラジェ。実は」
「説明する必要はなくてよ。洗脳されていたけれど……その間の記憶は残っているから……。私が何をしていたか、何をしてしまったか……全て、覚えている」
マクギリスは知らなかったが、常にあった世を拗ねたような眼で冷たい印象を与える、佳人の姿は消えて、余裕のない、思いつめた少女の表情があった。
「ごめんなさい。私が不覚をとったせいで、密猟者に操られ、あなたの眷属を傷つけ、私の仲間も、この手で殺してしまった」
少女は自分の名前を
訓練されたトロールや魔犬たち魔物、そして密猟者たちとの戦闘に気を取られたせいで、潜む神器へ霧葉の反応が僅かに遅れた。
彼女の足元から緑色の粘液が湧き出て、流体は俊敏な動きで彼女の足を伝って登ってきた。逃れようとするが、もう遅い。
肛門から寄生しようと、ストッキングを突き破り、不定形の体を活かして下着の中に潜り込む。
「あ……何、これ。ちょ、変なとこに入ってくるな……やめっ……あ……ぁ……ぅ……ぁ……」
振りほどこうとした頃には、既に粘体の神器は粘ついた音を立てながら、彼女の肛門を抉じ開け潜り込んで、腸内から肉体の寄生を始めていった。三〇秒ともかからずに霧葉は脳を支配され、
最初、霧葉が命じられたことは自分とともに調査に乗り出していた太史局の局員の始末だった。
秘密裏に確保されていた太史局の支部を霧葉は強襲した。トロイの城塞以来、内部に敵を入れてしまった要塞の守りは脆いものと相場が決まっている。脳の機能を乗っ取られた霧葉が、蓄えていた知識や人格までも神器に取り込まれて、神器がそれらをエミュレートする形で再構築した疑似人格によって侵入は容易であった。
太史局支部での戦いは激しいが長く続かなかった。抵抗する局員、戦う力もない者、面識のある者、それらを悉く殺しながら上階へと進んでいった。午前に襲撃して、正午過ぎには六階建ての支部全体が制圧された。
殺害された局員八〇名。支部にいた全員だった。流血で無秩序に塗装された支部のなかを、霧葉は命令通りに、密猟者たちの犯罪を立証するための証拠を隠滅してまわった。焼却炉に書類を投げ込み、死者の服を脱がせて血でべとつくポケットをさかさにし、金庫を破壊して中身を調べた。
「剣が人を殺すことはない、人間が剣を持って人を殺すのだ。人々を殺したのは密猟者だ。君ではない」
「……確かに理屈ではそうかもしれないわね。もしも私が別の人間が同じ境遇となったのであれば、似たようなことを言ったかもしれないわ。けれどこれは理屈の問題ではなくてよ。私自身の感情の問題なの。例え誰が許しても、私が私を許せない」
霧葉は苦い表情で息を吐き出した。
「もしも君が太史局に戻ったとして、無事に復帰することはできるのか?」
「無理でしょうね。きっと私は今頃裏切り者として手配されている。太史局に投降しても処刑されるでしょうね」
霧葉の声には知性があっても生気がなかった。
彼女は太史局支部を壊滅させたとき、自分と同じ六刃も含めて局員数名の遺体を密猟者たちへ引き渡した。遺体は解体されて魔術師に呪体として闇市場へ流通されたり、上級悪魔へ売り渡されたりして、上級悪魔が
上級悪魔へ売られた遺体の中には五大宗家の本家の者も含まれており、冥界へ知識と技術を流出させたことも、太史局と五大宗家は霧葉の罪として糾弾することだろう。
「私としては君を死なせるために助けたのではないのだから、むざむざと処刑されるために太史局へ戻すのは避けたいのだが」
「妃崎さん、これからどうするのですか?」
しのぶが問いかけるも、霧葉は苦々しく笑う。
「……わからないわ。レラジェ卿の好意に背くことになるから太史局への投降はできない。けれど生きて何をすればいいのか、まったく分からないわね」
「ならば───妃崎霧葉よ。私は君を眷属に迎え入れたいのだが、この誘い受けてくれないだろうか?」
「眷属……?
「君のような人材を我が麾下に招ける好機であれば、それを逃すことはできないさ。大魚を逃すような愚は犯さないよ」
マクギリスからの眷属としての説明を聞き、頷いた。それから暫く言葉を交わしたが眷属に加わるかどうかには、即答することはできないというのが霧葉の回答だった。
マクギリスはそうか、と答えると即答しないことは批難することはなかった。
「私は強要するつもりはない。眷属になるか否かは君が決めるといい」
マクギリスはそう言いながら、虚空に片手を沈ませて錦の巾着を取り出して霧葉に渡した。セーフハウスから出ても当座の生活に支障がないように資金や別に確保しているセーフハウスの鍵等、太史局や五大宗家からの追手から逃れられるよう手配もしていた。そして人間界で自分と連絡を取ることができる手段についても教えた。
「随分と気前がいいのね。私がこれを貰うだけであなたのところへ向かうことはないって可能性も考慮するべきではなくて?」
「君を求めている男は気前がいいのだとアピールしているのさ」
マクギリスとしのぶは霧葉の部屋から出た。密猟者たちを倒したあとにも事後処理がある。今日マクギリスたちが相手した密猟者は勢いのある密猟者たちの組織、その一つに過ぎない。今後も領地を彼らに荒らされる可能性を考えると、領主としては悩みの種である。
「彼女の境遇を考えると彼女には何と言えばいいかわからなくなります」
「そうだね、相手が男だったら簡単なのだが女性となるとね……」
興味深そうにしのぶは、金髪の主を見上げる。
「どうするのですか?」
「ソープへ行こうと誘うかな」
「……なんでそうなるのです」
自分は揶揄われているのかとしのぶは訊ねたことについて、後悔し始めていた。
「時には極上の女に溺れることが、良薬となる時もある。良い女を抱いて、それから美味い酒を飲んでと美味い食事を食べる。そして思いっきり眠るんだ。生きて何をするだとか、贖罪だとか、そういう難しい面倒なことはその後で考えればいい」
「なんというか……あなたらしいですね」
すまして答えるマクギリスに、しのぶは微苦笑して肩をすくめた。
◇◆◇
「初めまして私はレラジェ侯爵家にお仕えしています。ソリュシャン・イプシロンと申します」
囚われた密猟組合の凶手のもとに現れたのは、美しいメイドだった。どこかの地下空間なのか殺風景な空間に、華やかな美女であるソリュシャンが場違いに凶手は思えた。
「……メイドが一体何の用事だ」
「私は主よりあなたを接待することを命じられました」
ソリュシャンは恭しくお辞儀をして、豪奢な金髪を揺らした。
「接待? はっ、俺のものをしゃぶってくれるのか?」
あからさまに嘲弄するように笑う凶手に、ソリュシャンは笑顔を崩さない。
「私はご主人様に様々なことを学ばせて頂きました。そのうちのひとつが、これから行う
デコルラインが大きく開けた胸元から、
「ご安心くださいさませ。治癒用
ぐにゃり、と人間の表情筋では再現できない歪な笑みをソリュシャンは浮かべていた。
密猟組合の凶手は自殺を選ばなかったことを後悔することとなった。