聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです 作:生死郎
貴族である上級悪魔にとっては、パーティーも、出席すべき重要な職務のひとつである。なにしろこの巨大な冥界には議会というものが存在しないので、しばしば公的な決定や提案がパーティーの席上において行われる例が見られる。
魔王ファルビウム・アスモデウスが執り行った私的な祝賀会でも、その傾向がみられ、広い会場の各処や、いくつかの別室で、談合や討議がアルコール混じりに行われていた。
マクギリスは豪華で多彩な料理の征服を行うこともできず、このパーティーの客のひとりに呼ばれて別室に移っていた。
この部屋にマクギリスを含めて多数人を集めたのは魔王サーゼクス・ルシファーの意向だった。彼は父方から受け継いだグレモリー家の紅色の髪、母方のバアル家の特色である滅びの力を有する当世屈指の猛者だが、端正な容貌の所有者で見た目からは荒々しさを感じることはない。
部屋には最近、マクギリスの
本来であればファルビウムや他の魔王もこの秘密裏の談合に参加したかったが、魔王全員がこっそりと別室に移るのは流石に目立ち過ぎるし、注目を集めてしまう。そのため、代表としてサーゼクスが参加して、ホストであるファルビウムは余興を催して参加者の注目と感心を集めることとなった。
「旧魔王派過激派について私が知っているのはこのくらいだ。私達身の安全を保障する手形程度の価値があれば良かったのだが」
ハリベルは過激派からの襲撃を受ける前に接触した旧魔王派過激派について、サーゼクスに説明していた。マクギリスも報告書として提出していたが、改めて彼女から直接聞きたいとサーゼクスがマクギリスにハリベルを呼ぶよう依頼したのだった。
「心配せずとも大いに価値があったよ。よもや旧魔王派の一部が三大勢力に悪感情をもつ者達と結託して、巨大なテロ組織のようなものを作りつつあるとはね」
生来、鷹揚で闊達なサーゼクスだがハリベルから得た情報には、歯痛を堪えるような表情になる。
「……そして、しかもその組織の首領がよりにもよって
魔王の両眼が金属的な光を湛えた。
「シャルバ・ベルゼブブが私に軍門へ降れと勧告してきた際に、奴はオーフィスを連れていた。だが、本人はまるで能動的には動いてなく……というより、シャルバの語る言葉も碌に聞いてすらいなかった。まったくの無関心。視界に私たちが映っているのかと思うほどだった。思うにあれはただの神輿だ。恐らく異なる種族同志が一時的にせよ手を組むには、オーフィスという絶対的強者を名目上の首領とする必要があったのだろう」
ハリベルが私見を披露するとヘクトールがそれを訊き、口が小さく、溜息をつくかたちに開かれた。
「やぁれやれ。とんでもないことになっているな……。それで、ハリベル。今後お前さんはマクギリスの眷属となり、家臣たちもこちらに着くということで良いんだな?」
「ああ、私も臣下たちもマクギリス様に仕える。彼奴等とは完全に縁を切る」
「旧き魔王の系譜の者が現魔王に与すると?」
ヘクトールの隣に座るドレスを着た黒髪の幼い少女が胡乱げに言う。
「ハリベルは既に我が眷属だ。彼女を害するというのであれば、私も相応の対応を取らざる得ないな」
マクギリスの全身から発せられた覇気は、人間として全盛期だった頃のヘクトールや、彼が対面してきた勇者たちにも迫りうる破格のものだった。
「気を静めろ、マクギリス。なにも私は彼女に危害を加えようというつもりはない」
サーゼクスはかるく片手をあげた。むろん、それはマクギリスから迸る覇気を鎮めることを望むからだった。
「シャルバたちとは縁を切り、マクギリス様へ忠節を誓う。これは食言となることはない誓いだ」
ハリベルの決然自若たる態度には領主たる威厳があり、サーゼクスもヘクトールもハリベルには二心があるとは思わなかった。
「旧魔王のアスモデウスの血統だけでなく、旧魔王レヴィアタンの血統が現魔王を支持する。素晴らしい成果ですね、サーゼクス殿」
皮肉めいた口調で言うのは黒いゴスロリのドレスを着た黒髪の幼い少女だった。幼女と見紛うほど若く小柄だが手中の扇を弄び、魔王へも謙る様子のない彼女には異様な貫禄がある。彼女はヘクトールの
「旧魔王アスモデウスと旧レヴィアタンの血筋が現魔王を支持する。これは政治的には大きな意味合いをもつ。見事な成果となりますな、
那月はシニカルに微笑む。
「サーゼクス様、貴方はいつも最後には欲しいものを全て手に入れてしまわれるのですなぁ」
「やめとけ那月。それと魔王陛下、ハリベルが正式にレラジェ眷属となることは構いませんね?」
「勿論だ。同時に彼女には上級悪魔として政府が認めた証として駒を贈ろう」
「ふふふ、まさか我が眷属からこんなにも早く上級悪魔を輩出することになるとはね」
「私はまだ眷属になったばかりだというのにも関わらず、いきなりだな……。普通とは異なる横紙破りになるのではないか」
「レヴィアタンの末裔というのは『普通』ではないし、例外となるに充分でもある」
那月の言葉に乗るようにヘクトールをさらに言う。
「レヴィアタンの末裔たるあんたを上級悪魔として遇していると知らしめなければ、現魔王は旧魔王の血筋を軽んじていると認識されかねんからな。それだけ”レヴィアタン”は悪魔にとって重い名なんだよ」
現魔王たちが旧魔王派たちから権威を簒奪してから数百年経つ。人間にとってひとつの王朝が誕生して滅亡するような時間であっても、人間とは違って記された歴史ではなく生の記憶なのだ。
ハリベルが
「ぃやぁ~何も『駒』を貰ったからといって、必ず眷属を作らねばならないってわけじゃないよ? 転生悪魔や
「トロイアの守護者ヘクトール殿の金言を無視するわけにはいかないな。ああ、暫くは我が主の眷属として尽くそう」
得心がいったハリベルが頷き、サーゼクスの提案を受け入れた。
問題が片付いてヘクトールが疲れたように息をつき、それからマクギリスを見た。
「……旧き魔王の血統だけでなく、影の国の女王に、真祖の姫君に、怪異殺しの魂を継ぐ者や聖女の魂を継ぐ者。さらに類稀なる才幹のある者たち取り込み、良い人材を集めたと褒められるな」
「ヘクトールさんの眷属だって
「“ちゃん”を付けるな」
「これもレラジェの魔力特性なのかもしれないな」
那月の抗議を受け流して、マクギリスはサーゼクスが呟いた言葉に反応した。
「私の魔力特性?」
サーゼクスが言う言葉にマクギリスは関心を惹かれて片眉を吊り上げる。
貴族家の血に宿る魔力の特性。元七二柱が持つとされる特性であり、バアル家の滅びの力のように世間で知られているものから、厳重に秘匿されている特性もある。
マクギリスの場合、跡継ぎのない門跡を継いだため継いだかつてのレラジェ家に把握できていない部分もあった。
「私もあくまでも伝え聞いているだけでだがレラジェの魔力の特性は二つある。望んだ物の“存在そのもの”と繋がり察知する狩人の嗅覚、獲物の性質を見抜き特性や能力を看破する狩人の具眼を持つという」
ほう、とマクギリスは感心したように頷いた。思うに人間の世界では悪魔レラジェが狩人の姿で現れるとされるという伝承がある。獲物を追い、捕らえ、知ることの特性が狩人になぞらえられたのではないだろうか。
「この場合、獲物とは眷属たる人材ということか」
さらに言えば、自分にとっては美女や美少女も獲物と言えるのではないか。自分が眷属の女性だけではく愛妾の女性たちも皆魅力的なのも、魅力的な獲物と引き寄せ合い、彼女たちの心を通わせることにも、自分の魔力特性が少なからず影響があるのかもしれない。
「マクギリスの女性関係が極彩色なのもそういう魔力特性が影響されているかもねぇ~」
「確かに、そうかもしれないね。勿論、マクギリスの人望があってこそであり、特性はそれを後押ししているだけなのだろうけどね」
ヘクトールはマクギリスが想像していたことと同じように考えたらしい。彼の“魔力特性”は、確かにマクギリス自身の人望と魅力があったからこそ、正しく作用しているのではないかと。
「まあ、私の狩人の性も能力の内、数ある手札のひとつってことさ」
「ああ、なるほど……それは納得だな」
暫くの間、雑談に興じていると会談は終わり、解散となる。部屋を出ると、扉の前に立つ
◇◆◇
「──召喚されることは何度もあったが、流石にこういうことは初めてだったな」
マクギリスはそう呟いたのは、日本の地方都市にある工事現場。夜十一時も過ぎた頃だった。彼は魔力障壁で倒壊する建材を支えていた。
「……なに……これ……?」
マクギリスの後方、呆然とする女性を倒壊する建材から守るため、咄嗟に障壁を展開していた。まるで不可視の巨腕があるかのように資材が浮かび元のように積まれた。
女性が無傷であることを確認したマクギリスは、ふとつい先程までヘクトールやサーゼクスと行っていた会話を思い出して微苦笑を浮かべた。
「なるほど、狩人の嗅覚はしっかり利いていそうだ」
助け出したのは美しく、大きな胸が印象的な女性だった。
「私を呼んだのは、あなたか?」
相手の印象が強烈だったのは女性のほうも同じだった。
「やば……なにこのイケメン……」
突如として現れた金髪の若者は、美形だった。霜のように白皙の美貌だった。
俳優でも見たことがないような容貌、涼やかな声。女性は見入っていた。
「違うのか? どうなんだ?」
「ふぁっ!?」
返事を返さない女性に金髪の若者は顔を寄せてきた。彼女の顔は紅潮して、耳が熱い。先程まで煙草を吸っていたことを思い出して臭いが気になると羞恥心を刺激された。
「え、えと……呼ぶって、何を?」
なんとかかんとか返事をすると、若者は距離をそのままにジッと見つめながら問いかけてきた。
「心当たりはないと?」
顎に手を当てて金髪の若者は考える。
「じゃあ、まずは根本的なところから話すとするか」
金髪の若者───マクギリス・レラジェの話を聞いて女性──
偶然歌織が立ち寄った街で受け取ったチラシ。『あなたの願いを叶えます!』そう書かれたいかにも胡散臭い魔方陣の描かれた紙切れ。
それは悪魔が人間へ配るチラシだった。悪魔が契約者を増やすために配っているチラシだ。それを歌織が受け取ったものの胡散臭いから後で捨てようと思いつつ、バッグにしまい込んでいた。
だがチラシのことを失念してそのまま街を出て、バッグにチラシを入れたままこの地方都市で災禍に遭った。
チラシに書かれた文言を読めば、なるほど悪魔らしく願いを叶えるには対価が必要だと書かれてはいる。しかし、こんなチラシなんて形で勧誘してくる悪魔が恐ろしく思えるだろうか、少なくとも歌織は恐れを抱かなかった。
それは容貌や窮地を救われたことで好意的に見ているということもあるのだが歌織はそれに気づいていなかった。
「でも、あたしはあの時何かを願った覚えはないのよね」
倒壊して迫り来る建材を眺め、このまま避けなければ抱えている苦しみや虚しさから解放される。そんな風に思っていたことだけは覚えている。それなのに──
「それは君が生きたいと願ったからだろう。例え自棄になったとしても心のどこかで生きる願いを持っていて、それがチラシに刻まれた魔方陣によって私を召喚することになったのだろう」
「あたしにまだそんなことを思う気持ちがあっただなんてね」
歌織はそう呟き自嘲した。
彼女、
醜聞が取り上げられたことで知名度は上がったであろうが、依然知らない者の方が多い。
デビューは一七歳の時、渋谷で芸能プロダクションにスカウトされたことがきっかけで、歌織はアリサとして国公立大に合格して学業と芸能活動を両立させていた。
清楚さと色気を併せ持つ顔、輝く精気にみちた黒い眼、濡れている唇、象牙の柱のような頸、バスト一メートルを超えるはちきれるような見事な美巨乳、肉感的な肢体が芸能事務所にアイドルとてしての原石と見出されたのだ。
当初、奈瀬アリサは人気がなかったが、グラビアで人気を徐々に集めつつデビューから一年後、深夜特撮ドラマの女悪役としてTV出演して人気が一気に高まり、以降テレビやラジオへの出演が増えて、容姿だけでなく頭の回転の速さや話術が評価されて有名国立大学に一発合格したことも話題になった。
歌織がアイドルとして上り調子にあった一九歳。男性俳優とのスキャンダルや薬物使用疑惑が噂されて誹謗中傷をされてしまいマスコミの追及から逃れ、噂の拡散が沈静化を待つため休業した。
その後、地方のホテルを転々としながらマスコミの追及をやり過ごし、昨日の都市のホテルに宿泊した。
「さて、生きたいという願いに対しては、あの場では救えたわけだ」
マクギリスは歌織と工事現場近くの喫茶店に入り、彼女の話を聞いていた。落ち着いたのか命の危機だったことに、今更ながら酷く動揺していた。落ち着かせようと話していたら身の上話も訊くこととなった。
「……あの、私が支払える対価って何も……お金とかでしょうか?」
生来、気丈な歌織だが途方に暮れて困っているようだった。悪魔との契約、そして命を救われたことに対する対価。何が価値として相応しいのか見当もつかない。
「まあ、あれは私が咄嗟にしたこと。そもそも君から契約する前だし助けたことに関しては対価要らないよ。思うに、君は私と契約したいことが他にもありそうだからね」
えっ、と驚く歌織はまるで悪魔に読心されたのかと思っているようだった。
「何故そう思うの?」
「未成年の君がこっそりと人目につかないところで煙草を吸っていたし、君は明らかに落ち込んでいたようだからね」
「……そんなにわかりやすかったのね」
歌織は誤魔化すように前髪をいじる。誹謗中傷の無形の刃は歌織を深く斬りつけていた。マネージャーら事務所にも友人にも本心を明かすことができず、SNSに書きこんだコメントも精一杯の虚勢だった。
倒壊する建材を見たときは今の苦界から逃れられる天の配剤かと思い、避ける気力もなかった。
こうして助けられた今となっては、死への恐怖もあり、同じ状況になっても避けようとするだろうと、歌織は思う。
「あなたに依頼したいことはあるわ」
「誹謗中傷を止めることかい?」
「……それも魅力的だけど、もっと別の悩みがあるの」
「訊こうか」
歌織がマクギリスに相談したのは失踪した友人の捜索だった。
大学で出会った女友達で、アイドルを休業して大学も通わなくなってからも唯一連絡を取り合っていた友人だった。
連絡が一切取れなくなり、失踪してから三日になる。家族が警察に相談したがまだ三日だから事件性があるか分からないと相手にして貰えなかったと、歌織は友人の家族から伝え聞いていた。
「器用な子で、アクセサリーを作ってくれたこともあるのよ。ほら、これを貰ったの」
歌織が見せてきたのは、自分の指に嵌めた指輪だった。不思議な紋様の指輪だ。
「その紋様は彼女が偶然見かけて、気に入って指輪に彫ったものだそうよ。売るつもりもなくて、いくつか作ったもののうち一つを貰ったの」
「へぇ、これが。よく出来ている」
「何も言わずにいなくなるような人じゃないのよ。ご両親のところにも連絡がないみたいだし、大学は欠席、バイト先も無断欠勤が続いているみたい」
歌織は本当に憂いているようで、相談する言葉も真摯だった。社会から孤立している心境だった日々でも、友人との会話は心の支えにもなっていた。友人の失踪に不安を煽られていた。
人探し。随分と久しぶりにまともな依頼だなと、マクギリスは考えた。海賊狩りやマフィアのアジトにRPGのノックと銃声のあいさつしに行くことよりまともな依頼だ。
「わかった。その依頼を請けよう」
「あ、ありがとう! あ、でも……対価はどうしよう」
暫く歌織は悩み、何かを決意したようにマクギリスを見る。
「あ、あたしのファーストキス、といのは対価になりませんか?」
清楚さと色気を併せ持つ顔が照れながらいうのは可愛らしかったので、マクギリスは大いに満足できた。
「いいね、その対価で構わないよ」
アンケートの結果から②を採用してシナリオを作りました。