聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです 作:生死郎
場所は関東某所。時刻は二一時。天候は曇天。気温は下がり、空には星一つもなし。世界を深く冷たい闇が包み込む。
見上げる先にあるのは、灯りの落ちた灰色のビル。住宅街の端に建つそれはかなり老朽化しており、築四〇年は経っているだろう。ビルの両隣は、雑草で埋め尽くされた空き地。道路を挟んだ向かい側には、小さな駐車場。辺りには街灯も少なく、好き好んで立ち入る通行人など滅多にはいるまい。
ビルの中はひたすら真っ暗で、照明のない通路は見た目の古さに反して頻繁に人が出入りしていた。ビルの元持ち主である企業は主に輸入食品を扱う中小企業であり、一時はかなり手広くやっていたそうだが、それも昔の話。
十年ほど昔に会社は倒産。それ以降、このビルはまったく異なる業種に使われていた。営業時間は二〇時から明け方まで。完全会員制。昼間はシャッターを閉ざし、部外者の立ち入りは禁止。秘密厳守を徹底。
昼間は唯の廃ビル、夜は裏のオークション会場となる男性専用の会員制バー・フロイラインである。
現時刻は、夜二一時。シャッターは開いており、店は営業中である。
割れた瓶の破片、たばこの吸い殻、床を這い回るゴキブリ。不潔なその通路を通り、エレベーターは使わず、階段を上ればスーツを着た強面の門番が二人立っている。彼らの仕事は、ビルに迷い込んで来たホームレスや好奇心で近づく若者などを排除すること、そして会員の入店チェックをするためである。
扉の向こうの光景は古びたマンションの雰囲気とまるで違った。邪魔な壁は豪快にぶち抜かれ、ふかふかの絨毯を敷き詰めた、広いワンフロアが丸ごと店舗。
警戒のため窓ガラスにスモークシートが貼られているのがいかにも違法の地。かつて会社のオフィスとして使われていた名残は、もはや何処にも見当たらない。近隣の住民たちも、まさかこんな古いビルで夜な夜な犯罪の祭典が開かれているとは思いもしないだろう。
もしこの店でトラブルを起こせば、待っているのはリンチか拷問。最悪は死。だからこそ、両隣が空き地というのは便利な立地条件だった。店内から出たゴミはすぐに埋めることができる。
「いらっしゃいませ、寝屋川様」
「おーう、今月も来てやりましたよ」
浅黒い精悍な顔つきの、背の高い男……会員名『寝屋川』が、慇懃に礼をするボーイに一枚のカードを取り出し、手渡す。フロイラインの会員証……それもお得意様であると
「オークションは二一時三〇分より開始いたします。それでは、席へとご案内いたします」
「ああ、楽しみにしているぞ。今回も良い買い物させてくれよ」
軽口を叩く寝屋川は上機嫌だった。彼はこの店の『商品』には世話になっているからだ。
この店の『商品』、その中でも女性には二種類が存在する。購入出来る女と、この店に限りで貸借出来る女だ。
文字通り女を買い、自らの性奴隷として所有することが出来る。特定の気に入った女を所有し、その身体をいついかなる時でも好きに味わい尽くすことができる。
『貸借』するのと比べて高額だが、他の男との共有を嫌うならば方法はこれしかない。
一方で、貸借用の商品は閉店までの間、女を自由に扱う権利を得る。購入するのと比べて安価ではあるが、商品の女は何度も他の男に抱かれている。言うなれば店内専用娼婦といったところだろうか。
「おや、寝屋川さんは今日もギャル狙いですかな?あなたも好きですねぇ」
「門真さん! 久しぶりっす。へへっ、やっぱり女はギャルに限りますよォ!! 若くて艶々な肌がエロくて堪んないっスわ」
隣のソファに座る男が、大股で腰掛ける寝屋川に声をかける。
でっぷりと飛び出た腹の男『門真』は、下卑た笑みを浮かべる寝屋川の様子に苦笑する。
「わたしは女ってのは乳と尻はデカイに限るって思っていましてね。ただ肥えて醜く太った女はいけない、巨乳で、巨尻でスタイルが良いのが堪らん。この前競り落としたこの商品も、尻が実にいい」
「チチやケツのでかい女は門真さんが大体落としちゃいますからねェ。そろそろ競り落とした女たちで五輪車とか六輪車でも出来るんじゃないっすか」
「ははは、違いない。今度そうしてみましょう。寝屋川さん、今日のオークションもお手柔らかにお願いしますよ。ほら、十一号。もっと尻を大きく動かさんか」
門真が口を開けてわらう度、腹がはち切れんばかりに波打つ。その胴体に女が跨り、声を殺して腰を振っていた。
他の男に自身が競り落とした商品とのセックスを見せつけるのが彼の趣味だ。この場所において、女は『人間』ではなく『物』でしかない。門真は前回のオークションで競り落とした女を連れ込み楽しんでいるが、門真と同じように商品とのセックスを楽しみながらオークションの開始を待っている会員たちがいる。
門真の叱責に、女がさらに動きを激しくして尻を振る。使い込まれた肉壺はずっぽりと浅黒い逸物を咥え込んでおり、ぶちゅぶぢゅという水音を立てる。また女は腰を振りながら、手を使い自身の豊満な胸を揉み始める。
「あ、ぁああ……ご主人様……! お慈悲を……十一号にお慈悲をください……っ牡様のザーメンを……愚かでいやらしい牝にお恵みください……っ!」
「欲しいのならもっと腰を振らんか、バカ雌が。今日お前よりもいい女が見つかれば、お前はこれまでの女と同じ末路を辿らせてやるぞ。押した呪印で性依存になっているお前では、二日ともたずに狂うだろう、ほれほれ、もっと乳を揺らして、もっと尻を振って媚びてみろ」
「あっあ、あぁ……捨てないで……っ!ご主人様おねがいしますっ媚びます……精一杯媚らせてもらいます、お尻振ってオス様のザーメンをおねだりします……っ!!」
異様な空間である。門真に名を奪われた女の痴態も悲愴な声にも誰一人気にかけることはない。客も、黒服の男達も、誰もがサングラスや仮面をつけ、不気味にその様子を視界に収めても平然としている。
(門真さんも元気だねぇ……。大企業の社長って言ったところで、正体はただの欲ボケジジイじゃねぇか)
───寝屋川が内心で毒づく。匂い立つ精液を放って放心状態の門真から視線を外して、他の会員の様子を眺める。
客層もだいぶ変わったなというのが、寝屋川の感想だった。自分や門真のような商品の女を買う目的以外の客も増えてきた。このバーの経営陣にいた犯罪組織は力を失っていたが、密猟組合なる組織が加わってから、力つける代わりに店の内容は大きく変わった。オークションが取り扱う商品には魔物や呪体、魔法道具なども加わることになった。
寝屋川も悪魔との取引の経験はあるが、そう言った神秘や魔法を扱うことはないのでその類の商品に対して興味はなかった。だからこのバーへ行ってもオークションの商品が魔物や魔法道具ばかりだったので目的が達成できずに空振りだったということは何度かあった。
「こんばんは寝屋川さん」
「ああ、羽曳野さん。こんばんは」
寝屋川に声をかけて来た男性会員の羽曳野は、三〇歳に満たない少壮の魔術師だった。
羽曳野のような会員こそこのバー・フロイラインの客層が変わったと思わされる例のひとつだ。
この青年魔術師はオークションでは女の商品には興味がなく、呪体や魔法道具などをよく購入しているのだ。
「今回も奇物名品が得られたら嬉しいですね」
「ええ、今日は高名な魔術師が作り出した魔法道具が競売に出されるという噂でしてね、それは是非とも欲しいと思ってます」
「ほほう、そのように注目されるとは、どのような道具なんでしょうか」
羽曳野の説明によれば、その魔杖は精神支配の異能を持つ人間を材料にして作られた生きた魔杖で、その魔杖を使えば所有者も精神支配能力を使用できるのだという。
(人間が生きたまま道具に加工される。そんなことを平然と話せるとは魔術師とは恐ろしい奴らだ)
寝屋川は内心で胆が冷える思いだった。彼は旧華族出身で先祖たちが悪魔や魔術師との繋がりがあったため、他の旧華族と異なり戦後に凋落することはなかった。魔術師との付き合いも未だにあるが、羽曳野が持つような冷酷さには慣れる気がしない。
「……それは凄い道具ですね。しかし、誰かを洗脳することができる力を持ちながら捕まって道具に改造されてしまうとは、魔術師というのは有能なのですね」
「いくら優れた
「……皆様本日もご来店いただきありがとうございます。定刻になりましたので本日もオークションを開演させていただきます」
話しているうちにアナウンスが流れてきた。
「時間ですか。それでは寝屋川さん」
「ええ、お互いに希望の品を得られたらいいですね」
寝屋川は席について、ボーイからグラスを受け取った。
「まず初めにフロイラインのマスター大阪様より開会のご挨拶を賜ります」
僅かなざわめきも鎮まりかえり、ステージへと視線が集中する。いよいよ宴が始まる。客達にとっては待ちに待った、商品の女達にとっては悪夢のオークションだ。
壁掛けモニターが起動するとバーのロゴが表示される。そして男性の声が発せられる。その声は大阪と名乗るフロイラインの店主のものだった。
店主が話し始めたら客たちによる万雷の拍手が店内に響く。ボルテージは上がり、店内の熱気を高めていく。
「それでは、早速ひとつ目の商品を紹介しよう。きっと、みんなも気にいるだろう」
大阪の言葉の後、ステージを照らす照明がムーディなピンクライトへと変わり、進行役の声とともに一人目の『商品』が壇上へと歩み出た。
◇◆◇
会場中がどよめき、異様な熱を帯びた目つきへと変わる。ステージに上がった女はあまりにも美しかったからだ。黄金のような長い髪、最高級の白磁のような肌、ツヤとハリのある太もものライン、腰は艶かしくくびれ、豊かな胸の膨らみが揺れる。
女はあまりに破廉恥な格好だった。艶かしい肢体の局部と乳首こそ辛うじて布で隠されているものの、薄らと生えた金の陰毛は晒され、尻の割れ目にきつく食い込んでいる。さながらスリングショットの水着に似ている。
魔術師の呪具により身体は拘束されていて、自分の意志に反して身体はステージの上を歩き、人々の視線を集めるように立っていた。
「美しくもありキュートでもある大人の色気!昼は優れた研究者、夜は牝オナホの商品番号1番! スレンダーながら大きく弾む天然美巨乳96cmのIカップのバスト、キュッと締まったくねりの細いウエスト56cm、ツンと上向きの極上美尻90cm、スラリと伸びた手脚には色艶があります。その極上メリハリボディは感激のひとことです……しっとりと落ち着いた美人です。物腰の柔らかさにも色気を感じられる商品でございます。スリーサイズが示すとおりの文句の無い素晴らしいプロポーション!」
進行役の男が入札を煽るため、商品説明を始めた。
「そして優れた美貌のみならず教会の暗部、魔術結社などが求めるほどの叡智の持ち主です。こちらは『購入用商品』となっておりますので肉体を性奴隷として楽しみつつ、叡智を利用して財を得ることも思うがままです」
ざわめく客達、会場中がどよめき、異様な目つきへと変貌する。性奴隷として彼女を思いのまま犯したいと思う者、叡智を利用して新たな財を作らせたいと企む者。自分に向けられる欲望に女性は総身を震えさせる。
「い、いや…………嫌っ! 買わないで……!」
鈴を鳴らしたような綺麗な声。怯える美女は自分の様子がさらに男たちの欲望を煽ることになるとは想像していなかった。
女性は立っている感覚が薄くなり、やがて股間が温かくなった。
いったい自分に何が起こったのか理解できなかったけれども、手で自分の股に触れてみると、そこはぐしょぐしょに濡れていた。恐怖から女性は小便を漏らしてしまったのだった。
「あ……うぁ……」
小便で濡れてべったりと肌に張り付く衣がとても気持ち悪い。そして情けなくて、恥ずかしくて、悲しくて、そして怖かった。女性は羞恥で肌を赤らめて震えている。
「おやおや、お漏らしをするとは……」
「すごい量ですな。我慢していたんですかね?」
「おお、これは臭い臭い」
周囲から聞こえる嘲笑が、女性の耳に突き刺さる。
小さな子供のように粗相をしてしまっただけでも恥ずかしいのに、さらに大勢に注目されてしまうことで気がつけば、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。
「うぅ……ぐす、みないで……」
手で隠そうとしたけれど、魔術によって手が隠すことができない。女性の痴態を見せつける目的なのだろうか。
内ももを垂れる小便の流れから、その勢いがわかってしまう。
「まったく、小便を漏らすとは」
司会が商品たる女性へ呆れたように言う。
「いや……やめて……誰かたすけ────」
「助けになんか来るわけが」
刹那────
ステージを包み込む形で、光が溢れた。
「!」
「!?」
司会や商品の逃亡阻止の目的で控えていた男たちが驚き、拘束されている女は立つことすらできない。目を細めながら、光源と思しき方向に目を向けるのが精一杯だ。
その時、突如として虚空を奔る閃光がステージ上にいる司会や男たちを薙ぎ払った。
光が薄れていくと、いつの間にか人影がその場にあった。光の中から現れたのはすらりとした均整のとれた肢体のまだ若い金髪の男。
放心している女に対して、男が言った。
「助けに来た。もう安心だ」
その言葉を聞き、移りゆく状況について行けなかった女の脳味噌が、ようやくまともに状態に適応するよう復帰し始める。
「ほ、ほんとに、来てくれた」
彼を見ているだけで、彼女は胸が締め付けられて息もできないほどに、肺の動きが不規則でぎこちなくなった。これまでに味わったことのない奇妙な心持ちだった。
「おい、雑に女を惚れさせるでない。やれやれ、そんなところはセタンタに似ずともよい」
忽然と現れた黒髪の女が呆れたように金髪の若者に嘆息を吐いていた。その黒髪の女のしみひとつない白皙の肌と、端麗を極めた目鼻立ちは、造化の天工の寵愛を一身に独占しているかのようだった。
「敵が浮足だっている間に決着をつけるぞ。商品となっている者たちの安全を第一に考えながら密猟者どもを倒せ。容赦は無用だ。責任は私がとる」
というわけで前回のアンケートで一番希望が多かったティアーユが登場しました。今回のティアーユの役回りを麗子、浅葱とも考えましたがティアーユのほうが似合いそうだったので彼女にしました。