※この作品はR-18です。

聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです   作:生死郎

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充分いい夢を見れただろう

 数年来の付き合いだった女性魔法使いラヴィニア・レーニのことを忘れていたという異常事態を知るため、マクギリスはラヴィニアの話を確認することとなった。

 

 場所は二人が行きつけのカフェにする。マクギリスの顔を覚えているマスターとウエイトレス──彼らはマクギリスの正体は知らない──とは軽く挨拶を交わしたが、ラヴィニアは初対面であるかのように対応して、マクギリスの恋人かと疑われてしまった。

 

「つまり、昨日からラヴィニアに関する記憶や痕跡がすべて消えてしまったと?」

「はい。持ち物は残っていますし、存在を認知されないとまでにはなりませんが私は忘れられた状態です」

 

 これでラヴィニアの持ち物なども消えてしまい、写真や映像からも消えてしまえばあたかも歴史に干渉したかのごとく最初から"なかったこと"になってしまう。

 

「そして周囲から忘れられるとともに、永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)も失っていたわけか。……想像以上に事態は深刻だな」

 

 マクギリスの聖槍と同じく神器(セイクリッド・ギア)の中でも特別な一三の神滅具(ロンギヌス)の一つ。永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)。それの所持者はラヴィニアだったのだが、存在を忘れられた日から恐るべき神器も彼女から失われていたのだった。

 

「本来、神器を奪われたら、その所有者は生きてはいられない。だがラヴィニアは間違いなく生きている。これも忘れられるのと同じく異常な事態だ。きっと根本的な原因は共通しているのだろう」

 

 マクギリスは、"ラヴィニア・レーニの存在忘却"と"永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)の消失"は原因が共通するのではないかと推測している。

 

「私の神滅具がもしも何者かの手に渡っているのであれば、何としても取り戻さなければなりません。だからマッキーには協力して欲しいのです」

「ああ、勿論だ」

「すみません。こちらの都合の良い時にばかり頼って……」

「どうして? 私は嬉しいよ」

 

 表情を曇らせるラヴィニアにマクギリスは悠然と微笑んでいる。

 

「ラヴィニア、なにか今のようなことになるきっかけになった出来事はなかったか? 些細なことでも構わない」

「何も、何もないのです。昨日灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)の仕事を終えて本部に帰って報告しようとしたら、職員から知らない人間を見る目を向けられたのです」

「その仕事の時はどうだった?忘れられていなかったか」

「いいえ、地元の魔術結社の方たちにも私が"ラヴィニア・レーニ"であることを認識されていました」

「と、なれば何かあったとすれば仕事が終わった後から灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)の本部に入るまでの間か。凄腕の魔法使いである君に襲撃したことに気づかせないとは」

 

 ラヴィニアは穏やかな気性で一見、隙も多く見えるし何もないところで転ぶこともある。それでも優秀な魔法使いだ。不意討ち(アンブッシュ)を簡単に受けるとはマクギリスにとって意外だった。

 

「この忘却は悪魔にも通用するが、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)ならば忘却を解除できることがわかった。これは強力な聖なる力であればこの忘却を無効化できるのか……」

 

 顎を擦るようにしてマクギリスは言った。そして、思い出したようにラヴィニアへ訊ねた。

 

「メフィストフェレスにもこの忘却は有効だったのか? あと君が懇意にしている堕天使の総督(アザゼル)との連絡はしてみたか?」

「それが……二人ともイギリス冥界にある深淵へ行っていて連絡が取れないのです」

「え?」

「魔法薬の学術集会に参加していて……」

「ああ、魔女の産物のために域外持ち出しは厳禁なものが多くて、現地へ行かないと学ぶのも難しいからな」

 

 仕事熱心なのは良いが、今回ばかりは間が悪いとマクギリスは嘆息を吐(つ)いた。

 

「あと一週間くらい帰らないかと……」

「長いな。絶対学会のあとに遊んでいるだろう……」

「現地で飲み仲間と麻雀大会を開くそうなのです。アザゼル総督は麻雀に誘われたら断りませんから」

 

 堕天使たちは麻雀をこよなく愛しており、誘われたら決して断ることはないのだと言うことを、以前マクギリスはラヴィニアに訊いていた。

 

「そうなったら優勝するか、身ぐるみ剥がされるまで帰って来ることはありませんから」

「ええ……」

「あちゃーです」

「本当に、あちゃーだよ。仕方ない。彼らも影響受けているかもしれん。待っていてもしょうがない」

「ですね。他の方法を考えたいです」

「ああ、ましてやラヴィニアの存在を忘れられるだけではなく、永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)を失うなんて事態は放置することはできないからな」

 

 それが一番重大だと彼らは考えていることだった。

 

 マクギリスたちはカフェから出ると大通りでタクシーを停めて移動。高級ホテルの一室にチェックイン……どころか、最上階フロアすべてを借り切った。調査に時間がかかる見込みで仮の拠点を確保した。

 最上階を借り切っている以上、他の客はこのフロアにはやってこない。マクギリスたちも気兼ねすることなく魔法を使うことができる。

 

「精神魔法は得意ではないがラヴィニアの記憶を読み取らせてくれ。詳細を解析して精査するには時間がかかるが、私からも見て何か気になる点がないか調べたい」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 マクギリスが差し出した手をラヴィニアが手を取った。彼女の表情は緊張したようでやや硬い。記憶の共有は高度な魔法であり、記憶の区切りや共有する記憶の選別が難しい。

 ラヴィニアが見られたくない記憶。例えば着替えやトイレ等の記憶を除外してマクギリスに共有するという精密操作はできなかった。

 

 寝ぼけて部屋を間違えてマクギリスのベッドに潜り込んだり、シャワーを浴びた直後にあられもない姿で平然と異性の前に裸身をさらしたりするなど羞恥心に欠けるところがあるラヴィニアでも、流石に恥じらいを覚えるのか羞恥を抑えるためにラヴィニアの表情はやや硬い。

 

「相手が協力してくれるのであれば記憶の共有や、解析は捗るからな。よろしく頼む」

 

 ラヴィニアの心情を察したマクギリスは、余計なことを言わず淡々とした態度で精神魔法を行使する姿勢を貫く。

 

「はい、こちらこそ。よろしくなのです」

 

 ラヴィニアと手を繋ぎ、二人の魔法が発動した。

 それから八時間経過してラヴィニアの昨日の記憶を解析して、精査する作業が完了した。

 

 共有した記憶を読み取り、不審な人物をマクギリスたちは見つけることができた。ラヴィニアは何故気づけなかったかと己を責めたが、マクギリスは自分を責めることないよう宥める。

 

「目に映ってはいるが気づかないなんて事はあるだろう。彼女や妻が髪型を変えたことに彼氏や夫が気づかないみたいなものさ。目では見えているけれど、脳が気づいてはいないんだ。私は意識して調べるため見ていたから気づけただけさ」

 

 今回マクギリスが記憶の中から怪しい人物を見つけることができたのは、検討をつけることを念頭に置いていたからだ。

 

「次はラヴィニアと同じ境遇の人間がいるかもしれない。そういう人達を探し出して調べよう」

「同じ人物と接触しているのか確かめるのですね」

「ああ、その通りだ。まずは灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)で調べてみるか。ラヴィニアだけが被害者なのか、忘れているだけで被害者が他にいるかもしれないからな」

 

 マクギリスはスマホを取り出した。灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)内部へ入るため知己の協力を得ようとしている。魔法使いたちとの付き合いもあるが、彼らのホームである拠点に、別勢力であるマクギリスが無許可で入るべきではない。オフェリアは眷属悪魔となったことで灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)を抜けているので、彼女の協力は得られない。そのため、マクギリスは協力を得られそうだと思った相手に電話をかけた。

 

 

 

 

「久しぶりですね、マクギリスさん!」

「今日はよろしくな、マナ」

 

 灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)に所属する女性魔法使いのマナは、マクギリス・レラジェと契約している。彼女に連絡を取って今回の仕事の協力を得ていた。マクギリスとラヴィニアはマナから、彼女の魔術工房へ招かれたのだった。

 

 マナは金髪ロングヘアーで、愛くるしい小鼻、やわらかな薔薇の唇、あどけなさが残る一方で、不思議に妖艶さがある奇妙な美貌を持つ世にも稀な美少女。彼女の師匠の影響もあってブラックマジシャンガールと一部では呼ばれていた。

 そんな美少女が三日月のように尖った帽子、肩や谷間の露出が多い衣装とミニスカートをはいているのだから、全身から光を放っているようだ。

 

「初めましてラヴィニア・レーニさん」

「初めまして。今日はよろしくお願いします」

 

 マクギリスがマナにラヴィニアを紹介する。マナとラヴィニアは初対面なのでこのやり取り自体はおかしくないが、協会でも有名なラヴィニアを知らないマナの様子だった。

 

「悪いな、お願いをきいてもらって」

「いいんですよ。これも取引ですから」

 

 マクギリスは虚空から古びた本を取り出した。

 

「これが報酬の影を引っ張る魔法の魔導書だよ」

「ありがとう!」

「あとおまけに鼻息を寒波にかえる魔法の魔導書もつけよう」

「あ、ありがとう……」

 

 マナは魔導書を受け取り、マクギリスから依頼されて調査を報告する。

 

「同僚とか友人とか恋人等と名乗るものの、記録にも残っていない人たちがいたというのは、灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)にあがっていた報告をちょっと調べただけでも一三人いました。彼らの証言をもとにすると十一日前から現れたみたいですね」

「……十一日前か、犯人が活動をはじめたのはその頃だな」

「人が異能に目覚めたのか、どこからやってきた人外なのか、まだわからないです」

 

 慎重になりながらもラヴィニアは、進展を感じて喜びを感じていた。

 

「ありがとう、マナ。本当に助かったよ」

 

 マクギリスはマナに心から感謝した。犯人はかなりの頻繁に事件を起こしている。そのためまた行動を起こすだろうと予測した。

 

 被害者たちに協力するよう話を持ち掛けて、記憶を解析する作業を続けた。そしてラヴィニアを含めた被害者たちの近くにいた共通する人物が一人に絞られた。

 

 

 

 

 灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)の本部へ向かうマナの背後を追跡する男がいる。優れた魔法使いであるマナにすら気取られない、隠密行動は熟練の暗殺者のそれだった。

 

 男はポケットからメダリオンを取り出した。四肢を鎖で縛られた男とフェンネルと鷲の意匠が刻まれた金のメダリオンだった。

 

 男はまるでメダリオンを掲げる。その所作には敵意はない、別に敵と思っていないのだから。殺意など欠片もない。殺す気など皆無なのだから。敵意も殺意もありはしないそれは、歴戦の猛者であっても知り得ない必殺の不意打ちだった。

 

 ───このときまでは、

 

 マクギリスが凄絶な気迫とともに放たれた攻撃魔法による見事な不意打ち……それをまるで猛禽のような敏捷さで男は反応して防御魔法で防いでみせた。

 

「っ! これは魔力か、俺の邪魔をするお前は悪魔か!?」

「魔法使いドビュッシー。かつて灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)に所属していたらしいな。ただの魔法使いだったという割には随分と見事な動きじゃないか」

 

 囮役だったマナを庇い、彼女を撤退させながらマクギリスがドビュッシーと対峙する。

 

「お前、俺を知っているのか」

「灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)に所属している魔法使いを襲っていたのは、彼らへの八つ当たりか?」

「八つ当たり? 違うな、俺は俺を正当に評価しない灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)には何の感慨もない。ただ奴らの力を俺が奪い、有意義に使ってやろうと考えただけだ」

「つまらない嘘を吐(つ)くな」

 

 ドビュッシーの言葉にマクギリスが呆れたように笑う。

 

「お前のことは調べているんだ。灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)での自分の扱いに我慢できずに出奔したのに、同業者には元灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)所属を吹聴して歩いて、元同僚たちを貶めている……コンプレックスを隠しきれてないな。自分よりも優秀な相手から力を盗むのは気分が良かっただろう」

 

 マクギリスの言葉は、弩から放たれた無形の矢となって、ドビュッシーの耳から心臓へ貫通して彼の薄い頬肉がぴくぴく動いていた。メダリオンを強く握り締める。

 

「そのメダリオンの意匠(デザイン)。そいつはプロメテウスの神気を宿す呪具か。なるほど、お前はその呪具で人から力を奪ってきたんだな」

 

 ラヴィニアの記憶を取り戻した理由にマクギリスは納得ができた。神を欺き、人を導く偸盗の神プロメテウスの神気を、神殺しの聖槍である黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)が無力化させたのだ。

 

「弁の立つ男だ。そうだ、この呪具はプロメテウスの力を宿す。そいつが持つ最も輝かしい力を奪う。それは才能であったり、能力であったりするが氷姫の神器も、俺が奪ってやったのさ」

「それだけじゃないな、他の魔法使いや戦士からも色々盗んだわけだな」

 

 暗殺者のような隠密、戦士のような身のこなしをするドビュッシー。

 自分が把握しているよりも多い人数がドビュッシーの被害に遭っていることを推察した。

 

「自分の才能を示すのに実績ではなく他人を貶めて、しかも才能を奪って自分を偉く見せようとする。自分で思っているほど実は才能などないのだが現実を受け入れる勇気もない。見下げ果てた男だな」

 

 ドビュッシーは怒りに蒼ざめた。荒々しい息をつくと、自分自身の弱気を嘲るように、

 

「生意気な蝙蝠め!」

 

 と言い捨て、この不遜な発言を放つ悪魔を放置しておけなかった。

 

「悪魔(お前)ならばこのメダリオンで奪われることがないと思うか? いいな、自信に満ち溢れた表情、凄絶なオーラだ。さぞかし、莫大な魔力を持っているのだろうなぁ。くくく、悪魔の魔力、欲しい! 欲しいぞ!」

 

 ドビュッシーの目は、炯々と輝き、マクギリスを見据えていた。唇はこれ以上、ゆがみようがなくなっていた。

 

 轟ッ! と轟音が響く。爆発したかのような轟音とともに寒波がマクギリスに迫る。外気温があっという間に低下することで街の風景が様変わりしていた。

 道路もビル群も、氷結している。人払いの結界を既に展開していなければビルの内部にいた人間は氷漬けとなっているだろう。

 周辺の気温は低下し続けて人間では生存するのも困難なほど極寒の魔境と化した。

 

 ドビュッシーは前方に魔法陣を複数出現させて、傍らには氷で出来た姫君が立っている。神器(セイクリッド・ギア)───神滅具(ロンギヌス)であった。

 

「盗んだ神滅具(ロンギヌス)もそうやって使うことができるのか」

「そうだ。これからは俺が永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)の主だ。俺こそがこの輝かしい才能を持つに相応しい!」

 

 複数の魔法陣から自動車サイズの氷の槍を無数に出現させて、マクギリスへ放っていく。突撃銃(アサルトライフル)の銃弾に等しい速度の氷塊をマクギリスは最小限の動きで避けながらドビュッシーとの距離を詰めながら走る。

 

 氷姫は四本の腕を交差させると、氷漬けにされた路面を突き破り、氷の柱がマクギリスに向かって幾重にも伸びていく、手元に出現させた聖槍を横薙ぎに払うことで氷の柱を砕く。

 

「!? お前が悪魔の聖槍使いか!」

 

 ドビュッシーはマクギリスの正体に気づき瞠目した。マクギリスの魔力だけでなく、聖槍にも欲望を刺激された。メダリオンで奪えるのは相手によって最も優れた才能や能力を奪う───存在が忘却されるのは副次的な効果である───だが、奪える才能や能力は一種類につき一つのみ。永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)を手放されければ黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)を奪うことはできない。

 

「最強の神滅具(ロンギヌス)か素晴らしい!」

 

 ドビュッシーが欲望にぎらついた目で笑いながら、神器の力を使うだけではなく無数の光の矢を放つ。

 

 氷と光の連撃。回避行動や防御魔法で対処するも光の矢がマクギリスの身体を掠める。

 

「や、やった! 一撃が入ったぞ!」

「それがどうした。狼狽えると思うのか!」

 

 え、と間抜けな声を出したドビュッシーに構わず、マクギリスは魔法陣からビームのように攻撃魔法を放つ。五月雨式に放たれる攻撃魔法をドビュッシーが防御魔法で防ぐと、マクギリスが突進して防御魔法を聖槍で突破する。

 

 ガラスが割れるような音とともに砕け散る防御魔法。ボクサーから奪った才能によってスウェーのような身のこなしで穂先を避けるも、柄による殴打を咄嗟に腕で受けてしまった。怯んだすきに石突でみぞおちを突かれ、足を引っかけられて転倒されそうになってドビュッシーはようやく氷姫の攻撃で自分を援護させてマクギリスとの距離を取る。

 

「う、うわああああううううううう! 痛い痛い! う、腕が、腕が痛い! ほ……骨が折れてしまったっ! くそっ、なんて酷い……」

 

 骨折した右腕を抱えて泣きながらわめくドビュッシーにマクギリスが胡乱げな目を向ける。あれだけ歴戦の魔法使いとしての戦いぶりを見せながら、命に別状がない程度の怪我でこうも狼狽するか、とマクギリスは冷静に分析する。

 

そしてマクギリスは得心がいった。

 

「なるほどな。研鑽を積んだ能力という結果を奪うことができても、積み上げた過程そのものを得ることはできないのか。あぁ、騒ぐんじゃない。ラヴィニアならば骨折くらいで戦闘はやめないぞ」

 

 マクギリスが聖槍を構えてみせればドビュッシーは顔を引き攣らせて、後退りしはじめる。ひぃっと小さく悲鳴をあげる。

 

「充分いい夢を見れただろう。あとは現実と向き合え」

 

 ドビュッシーの両眼が焦点を失い、狼狽と恐怖が顔面いっぱいに広がった。鼻孔が膨らみ、口が歪んた四角形に開いて絶叫する。

 

「く、来るなぁああああああああああああああ!」

「シッチャカメッチャカに攻撃してきやがって、イヤイヤ期のお子様みたいだな」

 

 氷の槍や魔法で攻撃してくるが聖槍を振るい薙ぎ払われてマクギリスには痛痒(ダメージ)とならなかった。

 ドビュッシーにとって不測の事態が続いて苛ついて攻撃は精細さを欠き、さらに苦痛によって戦いに集中できておらず段違いに動きが鈍くなり、マクギリスには防ぐことは容易かった。

 

 そして防御への意識も低くなっていたドビュッシーは、マクギリスの接近を防げずに柄で殴り倒されて人事不省となった。倒れたドビュッシーからマクギリスはメダリオンを取り上げる。

 

「チョコレートが欲しいと泣きわめく幼児と同等のメンタリティーの奴が持つには相応しくない玩具だったな」

 

 マクギリスは聖槍でメダリオンを刺し貫いた。神殺しの槍により破損したメダリオンからは神気が消失していく。呪具は破壊されて、奪われた能力や才能たちは持ち主の元へ戻っていった。

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