※この作品はR-18です。

聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです   作:生死郎

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予定よりも投稿が遅れてしまい申し訳ありません!


宴の裏側にて

 元七二柱であるブエル子爵が執り行った今宵のパーティーは、会場が大広間を中心に密集する区画全体へと拡張されていた。

 

 すべての扉が開放され、隣り合う部屋の境界線は消え失せている。

 それは、来訪したすべての貴族が窮屈さを覚えることなく、心ゆくまで食べて踊れるだけの圧倒的なスペースを確保するための、ブエル子爵による計らいだった。

 

 それを会場区画へ続く廊下で受付を担当していたブエル眷属が説明してくれた。

 

「マスター。我々はあちらの控室で待機することになります」

 

 その説明が終わるのを待っていたのだろう、マクギリス付きの眷属ジャンヌが「あちら」と言って、進行方向から直角に折れた廊下の先を指し示す。

指の先には、扉や壁で区切られた個室の気配はなく、まるで空港のロビーや待合ブースのように開けた空間が広がっていた。

 

「わかった。控えていろ」

「はい」

 

 パーティーは仰々しさを排した集いになるため、眷属や家臣をぞろぞろと引き連れて入ることはできない。お供として許されるのは使用人ひとりまで、食事など最低限の身の回りの世話をする要員だけだ。

 待合ブースには既に他家の眷属らしき従者が何人もうろついていた。会場に入れなかった眷属、武官、文官、使用人たちがあのゾーンで主の帰りを待っているのだろう。

 

 マクギリスは会場入りする人物の選出は既に決めていた。眷属で唯一メイドである井上織姫を残して他の者は下がっていった。

 

「会場へ入ろう」

「かしこまりました」

 

 普段と異なり、忠実な眷属に徹した織姫は自然な動きでマクギリスの斜め後ろに移動した。

 

 マクギリスは豪華で多彩な料理をほどほどに食べつつ、参加者たちと談笑していた。相手は親しい貴族以外にも交流の少ない貴族とも話すことが多かった。

 

 ただの私的な飲み会ではなく政治的な情報収集や事前の根回し、事業や投資に関わる話も多く、年頃の息子や娘を持つ親は将来的な縁談や同盟を結ぶための品定めを行っており、それは広い会場の各所や、いくつかの別室でも行われていた。

 

 談笑や形式的、儀礼的な会話、政治的、実務的な会話をいくつか消化すると、マクギリスは精神的な疲労を覚えて休憩のためにサンルームの方角へ部屋を出た。廊下を歩いていると大きな静物画がかけられた壁の前に、ソファーが置かれ、ドレスをまとった長い紅髪の美少女が座っているのに、マクギリスは気づいた。

 

「レラジェ侯爵」

「久しぶりだな、リアス」

 

 片手を胸の前で小さくかかげるリアス・グレモリーがいた。彼女は令嬢としての振る舞いをしていて、侯爵家当主であるマクギリスのことを畏まって呼んでいた。

 

「ここらには誰もいない。もっと楽にしていい」

「そう、ありがとう」

「この別室で休憩か?」

「ええ、というよりも、エスケープね。顔を見たくない男がいたのよ。……それと、今日連れている使用人はグレイフィアじゃないわよ」

 

 リアスが念のためにと言ったグレイフィアの名前を訊いた織姫が、ジッとマクギリスを見つめているが背後から突き刺さる視線を無視しながら、そうか、とごく自然に頷くマクギリス。

 

「あなたは休憩するつもり?」

「ああ、色々と話し込んで少し疲れたからね。仕事は仕方ないのだけど、まだ幼児の子供たちの縁談話を持ちかけられ続けたのは流石に疲れた」

 

 マクギリスは爵位を得るまでは貴族の習慣からは縁がなかったので、未だ慣れない感覚だが幼過ぎる子供たちに縁談が持ち掛けられるというのは戸惑いがあった。

 

「それは大変ね。私の縁談が決まったのはつい最近だけれども人によっては赤ちゃんの頃から決まっていることもあるのよね」

 

 リアスが嘆息を吐いた。彼女が自分の縁談について悩みを抱えていることをマクギリスは姫島朱乃から訊いていた。

 

「そんなに疲れるほどの数の縁談話が届いていたのね。そういえばあなたは子供が何人いるの?」

「一〇人いるよ」

「凄い! お義姉様が四人の母親ということはあと六人くらいが……でも、噂に聞くマクギリスの情婦(ミストレス)の人数としては……」

 

 驚き、考えて呟くリアス。意外にも興味津々でさらにマクギリスへ質問をしようとしたところ、不意に近づく気配にリアスは反応する。

 

「! 来たわね。ごめんなさい、協力してちょうだいマクギリス」

「何をするんだ?」

「私がここにいることは黙っていて!」

 

 そう言ってリアスはソファーの背に隠れた。その後やって来たのは二十代前半に見える青年がやって来た。軽く後ろに撫でつけた金髪、切れ長で我の強そうな眼をし、野性味がありながら整った容姿をした美男子。いつもはシャツのボタンをキッチリと止めず胸元を大きく開けて着崩したスーツ姿だが、今回はパーティーということで燕尾服を着用している。

 

 彼はマクギリスも面識がある悪魔だった。それと同時に、リアスの対応に得心がいった。

 

「久しぶりだな、ライザー殿」

「レラジェ侯爵!?」

 

 フェニックス家の三男であるライザー・フェニックスがマクギリスと遭遇して驚いていた。彼はリアスの婚約者でもあるが、リアス本人としては彼とそりが合わないので、今はマクギリスが座っているソファーの影に彼女が隠れたがったのもわかった。

 

 しっかりと気配遮断の魔法も使っているので、マクギリスも後ろにリアスが隠れていると知っていないと、彼女の存在に気づけないだろう。

 

「何か探し物かな?」

「あ、ああ、いや、そうだったのですが……」

 

 分かりやすいほどに取り乱しているライザー。年齢で言えばマクギリスより数歳は上であるライザーだが、マクギリスは侯爵家当主でライザーは同じ貴族でも家督を継いでいない三男。

 

 自然とライザーの言葉遣いもへりくだったものになる。それだけでなく、ライザーのマクギリスへの態度にはどこか後ろめたさが感じられた。

 

「いえ、もう大丈夫です。お見苦しいところをお見せしました」

 

 そう言ってライザーは居住まいを糺して、マクギリスに向き直る。

 

「まだ宴は続いておりますが、次の予定がございますため、一足お先に席を外させていただきます。……どうぞ、お気をつけてお帰りください。それでは」

「お気遣い痛み入る、ライザー殿。道中、気をつけて」

 

 マクギリスは絵に描いたような貴族の社交辞令で答えた。完璧なマナー、完璧な距離感。その通りにライザーを見送った。彼が自分へ向けて来る後ろめたさに察してはいるが踏み込みはしなかった。

 

「協力してもらってごめんなさい」

「いいよ、気にすることはない」

 

 リアスがソファーの陰から出てきて、マクギリスへお礼を言った。

 

 ライザーが自分を探していることを知ったリアスは彼と会わないように逃げていたようだった。

 

「そういえばライザーのああいう態度は珍しい気がするわ。お父様やお兄様たちに対しても物怖じしない態度だったから意外。何か理由があるのかしら、前にボコボコにしたとか?」

「君は私をなんだと思っているんだ。彼とは年齢が近い、そのせいか私が出征した内乱に彼は参戦しなかったことにどうも後ろめたさを感じているのかもしれないな」

 

 マクギリスの推量は当たっていた。ライザーはかつての戦争へ行かず生き残ったことに対して、強い引け目を抱えていた。

 

 初代四大魔王の血族やその一党で構成されている一派に旧魔王派と呼ばれる派閥が冥界には存在する。もっとも旧魔王派というのは他勢力からの呼称に過ぎず、本人たちは真なる魔王の血族と称している。その派閥が起こした内乱では旧七二柱の血族たちの多くが現政府側として戦った。

 

 戦いは魔王たちが前線に出れないこともあって、旧魔王派に圧倒される戦線もあった。そんな中でマクギリスは僅かな同胞とで決死作戦を行い、部隊の半数を失いながらも当時の大将の暗殺に成功、指揮系統が混乱した旧魔王派を一度撤退に追い込み、戦線を回復させた。その後も戦果を積み重ね続けて内乱を停戦させた武功がある。

 

 同じ元七二柱の、同世代の悪魔が戦場へ赴いて命を落とした中でフェニックスの涙という特性を旧魔王派に悪用されないようにという政治的配慮により政府で保護され生き延びたことに、後ろめたさや、特権的であることの気まずさを感じていた。

 

「私としては、同世代の悪魔だしもっと付き合いを深めたいんだけどね」

 

 マクギリスとしてはライザーの抱えているものは、自分ではどうしようもないしライザーもそれは望まないだろうと思い、顔を合わせても貴族としての形式に則ったやり取りしていなかった。

 

「それに彼とは話が合いそうだし」

 

 ライザーが愛してやまない眷属たちを見たとき、マクギリスはその推測を確信に変えていた。

 

「貴方が誰と仲良くなるのも自由ですけれど、彼と仲良くなっても良い事なんてないと思うけど」

 

 リアスは彼女個人ではなく、グレモリーの令嬢として見なすライザーへ非常に強く反発していた。そこまで明確に見通すことはできないマクギリスは頑なな態度のリアスには、偏見の色眼鏡でライザーを見ていることも否めないと思えたが、いまの彼女にとってはこの熱さこそが真実なのだろう。

 

 口は禍の門というが、ここでマクギリスが年長者ぶって指摘したところで説教だと思われるかもしれない。彼女に説教できるほどマクギリスはリアス・グレモリーという少女を知らないのだ。マクギリスは黙して、彼女の真っ直ぐな瞳に、ただ優しい微苦笑を返した。




過去編をいつか書こうと思って書かないで、さらに原作開始時点まで至らずに連載4年目、90話越えることになってしまい、自分の計画性の無さが恥ずかしい……


○ざっとした背景設定
・旧魔王派
本作だと原作開始前に内乱を起こしている。とある方法で超強化された悪魔たちで政府側の戦力(魔王、ヘクトールを除く)を圧倒したことがある。

・マクギリス
当時14歳のマクギリス率いる少数の同胞たちがとで決死作戦を行い、部隊の半数を失いながらも当時の大将であった悪魔の暗殺に成功、指揮系統が混乱した旧魔王派を一度撤退に追い込み、戦線を回復させた。その後も戦果を積み重ね続けて内乱を停戦させた。

・ライザー
性格は原作とほぼ同じ。多感な少年期に内乱で同世代の悪魔たちが次々と戦地へ赴いて命を落としていく中、自身は生き延びたことに対して引け目、マクギリスに対して複雑な後ろめたさを抱えている。


次回投稿は8月下旬予定

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