聖槍に選ばれたマクギリスはハーレム王になるそうです 作:生死郎
大量の釣果を持って別邸へマクギリス・レラジェたちは戻ってきた。
この別邸でリアスが釣れた魚を調理してくれるという予定だった。眷属や使用人にも任せず、リアスは張り切っていた。
「今日はよろしく頼むよ」
「ええ、お任せください」
当初は自分もやると言っていたマクギリスだが、リアスに断られてヘクトールやディハウザーを主催としてもてなして欲しいと言われたのだ。
そしてこれからリアスが捌く魚であるが
ルリタマハゼ:八〇匹
オライトラウト:八四匹
と、主にヘクトールとディハウザーが釣果比べでムキになった結果、かなりの数の魚が釣れていた。
普段は悠然としている二人だが、対等の人物同士で余暇を過ごしていることで童心に返ったようだった。我に返った二人が恥ずかしそうにしていた。
リアスが深刻な表情でやって来た。胡乱げに見ているとリアスが話はじめた。
「どうかしたのか?」
「魚の下処理をしようと思ったら、私たち気づいてしまったの……」
とても言いにくそうだった。言葉を出す気力も乏しいみたいである。
「今、魚のお腹を割いたら中には未消化のイソメが入っているかもしれないのよね!?」
「あ~~」
マクギリスは彼女たちが何を憂いているのか分かってきた。
「ごめんなさい……溶けかけて千切れたイソメを見る勇気が私にはないの……」
自分の想像でメンタルをやられたリアスはいつになくしおらしい様子だ。
「ごめんなさい……お兄様ほどの技量があれば、内臓だけを消滅することができるのだけれども、私ではそこまでのことができないの……」
「分かった。俺が下処理をするから気にしないでいい」
「ありがとう! 下処理さえしてもらえたらちゃんと料理するからお願いね」
地獄へ垂らされた蜘蛛の糸を見たかのように、リアスの表情は明るくなった。
ちなみにヘクトールとディハウザーもやる気になったものの、魚の捌き方を知らなかったのでマクギリスが教えることになった。
「い、意外と難しいね」
「いやいや、コツを掴めば結構簡単だぜ」
ディハウザーはかなり手つきも危なっかしいが、ヘクトールはマクギリスに教えられたら人並み程度にこなしてみせていた。
三人で取り組んだことでイソメが入っている内臓の除去だけでなく、ぬめりや鱗取りも含めて下処理を一通り行っても、思いのほか早く終わった。
そのあとはリアスがトラウトやハゼをフライにしてさらに彼女たちは、トマトと玉ねぎのマリネはお酢やレモン汁、オリーブオイルで和えて、トマトの酸味がフライによく合う、口の中をさっぱりさせる副菜を用意した。野菜不足を懸念したのか、根菜をたっぷり入れた具だくさんな豚汁も作った。
「ルリタマハゼは身がふわふわでしっとりした食感がいいな! 食べ過ぎてしまいそうだな」
「オライトラウトは旨味とジューシーさがいい。私はウスターソースよりもタルタルソースが好みだ」
ヘクトールとディハウザーが大いに喜び食べている。最近週三くらいはもやしでやり過ごせるとヘクトールは言っていたが、これだけのフライを食べきれるのかとマクギリスは疑問に思った。
ふと、隣のリアスを見ていると副菜や豚汁を食べているが、自分の皿に置いたフライに箸をつけてなかった。
「リアス、魚たちはイソメを消化吸収してないから安心して食べるといい」
「……なんで分かったの」
彼女が懸念していることを見事言い当てたのだろう。顔を真っ赤にしていた。
「いやぁ、手前の皿に視線を向けては外してと繰り返して葛藤しているなぁと思ってね」
マクギリス、ヘクトール、ディハウザーはそれぞれ酒も飲むようになり、より食事が進む。
そうして話題はヘクトールとディハウザーの関係に移った。絶対王者ディハウザーだが内心では自分を倒す存在を求めていた。そんな彼にとって一位の座を争い、自分に勝利することもあるヘクトールは好敵手であったし、対等と思える相手でもあった。
さらに秘密の大偉業を成し遂げた同士でもある。だがそれはヘクトールが後見人だったマクギリスは兎も角として、リアスは知らなかったことである。
「リアス姫が知らなくても仕方ない。俺がサーゼクス様の
「そうね、私が物心ついた頃には既に
リアスの言う通り、ヘクトールはかつて現魔王の
使用した
「従姉妹とその想い人の窮地を助けてくれたのがヘクトールだったんだ。ヘクトールがいなければ政治から距離を置いている俺では、きっと何もできないままに後になってただ従姉妹が死んだという報告を聞いて絶望しただけだっただろう」
「ゲームで一位を争う
飄々とした様子でヘクトールは肩をすくめてビールを呷る。ビールを飲んでからヘクトールは続ける。
「クレーリアが窮地となった理由はかつてレーティングゲームで蔓延していたゲームの腐敗を知ってしまったことだったのだが、それを俺たちでゲームから一掃しないかと持ち掛けたんだ」
◇◆◇
「ゲームの腐敗か……。ヘクトール、それはどれのことを言っている? 使用者の力を数十倍、場合によっては一〇〇倍までに飛躍的に向上させる破格の性能から、アジュカ・ベルゼブブ様によって生産がストップされて使用も禁止された『王の駒』の不正使用。
さらにレーティングゲームのランキング操作をはじめとする運営と貴族や政財界との癒着、贈収賄、八百長試合の横行、助成金や育成資金の着服……。およそこの業界で行われているありとあらゆる腐敗があるがあなたが指し示すのはどれのことだ?」
「全てだ」
ヘクトールは断言した。そのときのヘクトールは千軍万馬の将帥として兜を輝かせる英雄ではなく、冷徹な廟堂の宰相の顔だった。
「元来、政治目的のためのゲームなのだから、利権などが多少なりとも関わるのは仕方ないだろう。それは分かる。だが現状は流石に度が過ぎる。このまま放置していれば、いずれレーティングゲームのプロリーグは衰退していきやがては空虚な不正コンテンツと成り下がる」
「……私だけでは大王派を首魁とする貴族派に到底太刀打ちできない。ベリアル家の力だけでも及ばない。だが貴方の政治力に魔王様のお力添えもあれば……」
ディハウザーは目の前に希望を見出した。
「私にも協力させて欲しい。ゲーム業界の腐敗には目を瞑ってきたが私は方針転換だ」
ベルフェゴール家出身ロイガン・ベルフェゴール、アバドン家出身ビィディゼ・アバドンなど『王』の駒を不正使用することでトップクラスの実力を手に入れて、レーティングゲームのトップ層で争うことになっていた。矜持にかけてロイガンたちに後れをとるつもりはないがさりとて糾弾することもなく見て見ぬふりをしていた。
だが、それも今日までのことだ。
二人は決断すれば行動は早かった。元ルシファー眷属という繋がりもあってヘクトールはすぐにサーゼクスと連絡を取り彼がアジュカに声をかけて秘密裏に集まった。
そして四人はレーティングゲームを穢す老人たちに引導を渡すという決意を固めたのだった。
◇◆◇
「……とまあ、そういうことがあってレーティングゲームの膿を出しきり、浄化してシステム、ルール等も改革したというわけです」
「痛快だな。英雄というのは、どんな世界にいても英雄なんだなと思うよ」
トロイアの名将ヘクトール、皇帝ディハウザー。二人の英雄をマクギリスは尊敬していた。
「民衆への混乱を避けるため、初代大王とも取引があって秘密裏に行ったので知るのは上層部の一握りだけだがな。リアス姫も口外しないでくれよ」
「も、勿論です。私を信じてお話して頂きましてありがとうございます」
レーティングゲームで優勝することを望むリアスは先達の話に心の底から感じ入ったようだった。
そして余談であるがディハウザーの従姉妹であるクレーリアだが、彼女と恋人であった教会の戦士は結ばれることはなかった。
ただし悪魔や教会の謀略等ではなく、任務中の殉職だった。彼は後にラヴァル大司教によって複製人間として復活して、レラジェ眷属とも戦ったことがある。
クレーリアは恋人を亡くした傷心を癒すのに数年を要した。そしてクレーリアはヘクトールと結婚した。
つまりヘクトールとディハウザーはライバルであり、身内の関係でもあるのだ。
その事実はあっさりと語られたがそれでもリアスは瞠目するほど驚いていた。
食べきれなかったフライは四人がそれぞれ分けて持ち帰ることになった。ヘクトールもディハウザーも去ったあと、リアスはマクギリスにお礼を言った。
「今日はお招き頂いてありがとう。いい勉強になったし、気分転換にもなったわ。最近は色々あったから……」
リアスを悩ましていた婚姻の話も、今日は一時忘れて余暇を楽しむことができたようである。
「楽しんでくれたならばよかった。思い悩むこともあるだろう。そういうときは気軽に相談してくれ」
「同期の、それも他家の当主に頼るのもどうかと思うけれども……もしものときはお願いね」
そう言ってリアスはグレモリー領へ帰っていった。最後の客人を見送ったと同時にマクギリスの持つ端末に連絡が入った。
「───」
マクギリスは柔和な青年貴族の顔から冷厳な貴族家当主の顔に変わった。
人間界のレラジェ領に堕天使の侵入が確認されたと連絡があったのだった。
リアスとのフラグ立て回であり、いつか公開しようとしてできないまま数年経ってしまった設定の公開のシナリオでした。
・ヘクトール
元ルシファー眷属の騎士だった。連載して4年目でようやく公開された情報。
時系列で言えば
初代騎士たち(2人)→ヘクトール(駒2)→沖田総司(駒2)
という流れ。
何故ヘクトールが転生悪魔となったのかという話もいつか出せたらいいなと思います。
・ゲームの闇
原作ではずっと先に判明する闇は先んじて浄化されていたという話。
・ディハウザー
自分を倒してくれる存在がいる、従姉妹が生存している、ゲームの闇が浄化されている。
原作よりも幸福度が高い皇帝。
次回からいよいよ原作一巻の前日譚的エピソードとなります。そうは言っても1巻、2巻辺りはマクギリスを介入させるのは難しいので、藍羽浅葱登場回を入れつつ時間を進めたいと思います。
2022年から連載開始してようやく原作時間軸へ突入するというなんという無計画さと自分で自分が恥ずかしくなります。
長く続け過ぎて飽きられてしまっている方も多いでしょうか、どうかこれからもお付き合いいただけますと幸いです。
次回投稿は10月上旬予定。
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