※この作品はR-18です。

春夏秋冬姉妹と御主人様な僕。   作:赤いUFO

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今回の話の整合性を取るために過去の話を幾つか修正していきます。
今回の話は江戸時代末期だと思ってくれれば。


追憶編
鬼と神


「明日からはもう来なくていい。理由はその……分かるだろ?」

 

「……」

 

「アンタのその朱い目のせいで客に変な噂立てられちゃあ、こっちも商売上がったりなんだよ。今日までの給金には色を付けてやるから。な?」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朱い瞳をした少年は少ない手切れ金で解雇された銭の入った財布を懐に抱えて古い神社へ続く長い石段に座って白い雲が流れる空を仰いでいた。

 

「こんな端金でどうしろってんだよ……」

 

 少年は故郷の実家から追い出され、身寄りを失った子供だった。

 生まれは貧乏武家で五人兄弟の次男坊。

 二ヶ月ほど前に兄弟の中で口減らしが必要となって真っ先に切り捨てられたのが少年だった。

 理由は少年の朱色の瞳。

 生まれつき珍しいその色は、家族も含めて周囲から毛嫌いされる原因となっていた。

 実家から追い出された少年は何とか近くの町に辿り着き、銭湯の番頭さんの好意から風呂掃除の仕事にありつけた物の、やはり朱色の目が気持ち悪いと客から煙たがられ、ついさっきクビを切られたばかりだ。

 手切れ金も、明日明後日の飯代で消えてしまうだろう。

 そこで少年はくしゃみをする。

 

「それより、雨風を凌げるところに行かないと……」

 

 肌寒い風に少年は自分の体を抱く。

 こんなところで過ごしていたら風邪を引くか、最悪凍死してしまう。

 今までは住み込みで働いていたが、今日からはそれもままならないのだ。

 

「クソ!」

 

 石段を蹴って苛立ちを紛らわせる。

 立ち上がって上の神社まで辿り着こうと脚を動かす。

 この上にある神社はかなり前に神主を亡くしているらしいが、未だに新しい人が現れて居ない。

 そんな場所だから手荒い先客はいるかもしれないが、ここで凍死するよりマシだと上る。

 すると、元々ボロかった財布袋の布が破けて中に入っている全財産が撒き散らされた。

 

「おわっ!? ちょ、ふざけんなよっ!!」

 

 散った銭を拾い集める少年。

 しかし、幾つかの銭が石段を転がり落ちる。

 

「なんなんだよ、クソッ!」

 

 自分の運の無さに悪態をつきながら落ちていく小銭を追いかけて走る。

 何とか見失う前に小銭を全て回収出来た事に安堵する。

 こんな端金を死物狂いで追いかける惨めさに涙が出そうだったが、そんな事をするくらいならこの石段を上り、寒さを凌げる場所へ行かなければ。

 再び石段を登ろうとすると、影が被さってきた。

 

「なんだ騒がしい」

 

 不快そうな声と共に下りてきたのは美しい女だった。

 年齢は十代後半から二十くらいか。

 人間らしからぬ美貌と長い桜色の髪に金の瞳。

 そして、その額には人ではあり得ないにほんの小さな白い角が二本生えていた。

 巫女服を着た女性は視線を合わせた少年を汚物を見るように顔をしかめて鼻から下を袖で隠す。

 

「せっかく人払いをしておったというにこんな小汚い小僧が寄りついてくるとはなぁ」

 

 心底侮蔑するような眼を向ける女に少年の表情を引きつらせた。

 ふん、と鼻を鳴らしてしっしっ、と犬猫で追い払うような動きをする。

 

「早うゆけ。これ以上妾の眼を汚すでないわ。とはいえ、お主には妾の姿なぞ──―」

 

 そこで女性が石段を下って少年に顔を近づけた。

 

「おいアンタ──―」

 

「お主、妾の事が視えておるのか?」

 

「だったらなんだよ!」

 

 女は少年の顔を掴んで覗き込むように見てくる。

 

「なるほど。朱眼の持ち主か。その眼を見るのはいつ以来かの」

 

 手を離すと、女は石段を上っていく。

 十段程上ると女が少年の方へと振り返る。

 

「何を呆けている小僧。どうせその身なりじゃ。行くところも無いのだろう? 中に入れてやるから、感謝して上ってこい」

 

 女の言い分に苛ついてつい声を上げる。

 

「小僧じゃねぇ! 俺の名前は三門(みかど)朱鬼(あき)だよ!」

 

 自分の名前はあまり好きではないが、小僧呼ばわりよりはマシだ。

 

「おーおー。それは悪かった。妾は縁種(エンジュ)。久々の客人じゃ。歓迎はしてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人が居ない筈の神社の中は思ったより綺麗に手入れをされていた。

 縁種に人が住む家の中へと案内される。

 建物の中を見回している朱鬼に縁種が話しかける。

 

「何を挙動不審にしておる。物を盗ろうとしてまいな?」

 

「馬鹿にすんな! いくら家を追い出されても、盗人になるほど落ちぶれちゃいねぇ!」

 

 貧乏武士の生まれで家族に捨てられた身だが、他人の物を盗む気など更々無い。

 

「ただ、思ったより手入れされてるんだなって思っただけだ」

 

「それ以外やることもないからのう。人払いを済ませて数十年。この神社を訪れる者も居らなんだ」

 

「こんな立派な建物なのに?」

 

「人払いを済ませてあると言うておるじゃろうに」

 

 そこで冷たい空気に触れて身震いする朱鬼。

 

「な、なぁ……火鉢、使っていいか?」

 

「そうは言うても、炭なぞ置いてはおらんぞ? 妾は暖を取る必要も食事も必要とせん身なのでなぁ」

 

「はぁ!?」

 

 そんな馬鹿なと言わんばかりに口を開ける朱鬼に縁種は襖を開ける。

 

「毛布くらいは用意してやろう。それに包まっておれば死にはすまい?」

 

 出された布団の上に毛布に包まう。

 

「それで、朱鬼。お主の歳の頃は? 十くらいかのう?」

 

「十二だよ……先月でな……」

 

 答えながら朱鬼は注意深く縁種をみる。

 美人、なのは間違いないが、桃色の髪と何より額の角が彼女の異質さを物語っている。

 そんな彼女は手の平の中にある銭を数えていた。

 

「ん?」

 

「なんというかまぁ。哀しくなるほどに貧しいのう」

 

「ってそれ俺の金じゃねぇか!? 返せよ!」

 

 何故さっき盗むのを疑われた奴に金を盗られなければならないのか。

 縁種は新しい破けた財布袋の代わりに新しい財布袋に銭を入れて朱鬼に投げ返す。

 

「こんな端金なんぞ誰が盗るか。しかしお主、そんな小銭でどう生きてゆくつもりじゃ?」

 

「ほっとけよ……」

 

 朱鬼だって自分が崖っぷちなのは理解している。

 だから早く働き口を見つけないといけないのだ。

 その考えを読んでか、縁種は鼻で笑った。

 

「どうせお主のような朱眼の子供など、何処も雇いはせんわ。運良く拾われても、すぐに切られるのが目に見えておる」

 

「だったらどうすりゃ!」

 

 図星を指されて立ち上がる朱鬼に縁種は額を指で押さえた。

 

「だから、妾が金の稼ぎ方を教えてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、朱鬼は縁種に町の市場へと連れられて来た。

 市場を見回しながら何やら品定めしていると種縁の後ろを歩く朱鬼。

 稼がせてやると言っていたが、本当に信用しても良いのか。

 そんな風に考えていると、縁種が市場を歩いている男とぶつかりそうになっていた。

 

「お、おいっ!?」

 

 思わず手を引こうとするが、縁種の体は男をすり抜けた。

 

「は?」

 

 隙間を縫ったとかそういう話ではなく、触れたはずなのにまるでそこに居ないように当たらないのだ。

 その男だけではなく、誰も縁種とぶつからない。

 そこで気付く。桃色の髪に角といった目立つ要素が多いのに、誰も縁種の事を気にかけていない事に。

 

「何をしておる。早う来い!」

 

 距離が出来た朱鬼を手招きする。

 臆しながらも朱鬼は縁種のところまで小走りで移動する。

 

「お前、さっきの……!」

 

「ん? あぁ。妾を視る事の出来ぬ者は触れる事も叶わぬよ。ほれ」

 

 縁種が朱鬼の手を握る。

 そこには確かに人の温もりを感じた。だが──―。

 

「まさかお前、幽霊──―」

 

 そう言うと、縁種が朱鬼の頬を強い力で挟む。

 朱鬼の背丈は縁種の胸ほどしかなく、むりやり顔を上に向けさせられた。

 

「ほー。この地に住まう土地神の妾を幽霊呼ばわりとはいい度胸じゃ。お主、子供が出来ぬ身体にしてやろうか?」

 

 幽霊と言われるのが大層御立腹な様子だ。

 挟まれている両手を外すと別の話題に切り替える。

 

「それよりこれ。本当に俺が着て良かったのか?」

 

 神社の邸内に残っていた衣服を縁種に言われるがままに借りたが、持ち主の許可とか要らないのだろうか? 

 不安になっている朱鬼に縁種は要らん要らんと手を振る。

 

「どうせ誰も着ん。それにあんな見窄らしい格好ではな。それと、妾は周りに見えんと言うておろう? 少しは周囲の目を気にせい」

 

 言われて、さっきから独り言を言っているように見える朱鬼を通行人達が奇異の眼を向けていた。

 それに気付いて朱鬼は顔を赤くして縁種を睨むが、当の本人は気にせず前に進んでいく。

 

「これじゃな」

 

 縁種が指差したのは一個の湯呑だった。

 

「ちと手入れは悪いが、これならお主の小銭でも買えよう?」

 

「はぁ? こんなの買ったって──―」

 

 そこで露店の主に睨まれて慌てて口を閉じる。

 

「妾を信じろ。これを手にしたのを始めにお主の財が潤うと約束しよう。神(妾)の名にかけてな」

 

 その表情と声音はこれまでと違い真剣そのものだった。

 本当に最後の金。これを失えば一食分の食べ物すら買えなくなる。

 だから、こんな所に居らず、さっさと仕事を探すべきだと思っている。

 

「……」

 

 何も言わずに朱鬼を見ている縁種。それは、信じて欲しいと思いつつも不安で揺れている気がした。

 だから──―。

 

「その湯呑、これで買えますか?」

 

 全財産を露店の店主に渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソだろ……」

 

 夕暮れの時刻。先程空になった財布袋も今でははち切れんばかりに膨らんでいる。

 勿論中身が石で詰まっているというオチもない。

 あの湯呑を質屋に持っていくと、買った金額の数倍の値が付いた。

 それを元手に更に高く売れる物を購入し、別の場所で売る。

 或いは、朱鬼が買った物を是非売って欲しいという者まで現れた。

 

「見る目のない者から物を買い、目利きの利く者へと物を流す。もしくは必要としている者に売る。こうすれば少しはその淋しい懐も潤うて」

 

 ふふん、と自慢気に鼻を鳴らす縁種。

 しかしその表情はすぐに真剣なモノへと変わる。

 

「しかし、このような方法は長続きせん。だがしかし……」

 

「どうした?」

 

「うむ。まぁ、もうしばらくはこの方法で小銭を稼ぐが良かろうて」

 

「……小銭言うな。俺の何日分の稼ぎだと思ってるんだよ」

 

 朱鬼が渋い顔でそう言うと、縁種はクックッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから縁種は朱鬼に色々な事を教えた。

 読み書きや算術に品物の目利き。

 朱鬼はこれでも一応武士の子供がなので、読み書きや算術も習っていたのだが、それよりも体を動かすのが好きで、知識が中途半端になっていた。

 だがいまはそうも言ってられず、縁種の下で勉強に励んでいる。

 

「なぁ……?」

 

「なんじゃ? もう降参か?」

 

 縁種が暇だからと将棋を指している。

 

「ちげーよ。なんで俺にこんな良くしてくれるんだ?」

 

「決まっておろう。暇潰しじゃて。なにせ、妾と触れ合える朱眼の者と会うのは久しいのでな」

 

「……そうかよ」

 

 思った通りの答えに朱鬼は特に何も思わずに駒を進める。

 縁側に視線を向けて縁種は少しだけ淋しそうに呟く。

 

「どちらにせよ、互いに短い付き合いとなろうよ」

 

「?」

 

 まるでそれが決まっているような口ぶりだった。

 

「王手」

 

「あーくそ! またかよ!」

 

「弱いのう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼さんこちら。手の鳴る方へ」

 

 縁種が手を鳴らしながらそう言って朱鬼を呼ぶ。

 ここに住み始めた頃に縁種が冗談でそうしていたら、偶然朱鬼が通りかかり、それが面白かったらしい。

 それ以来こうして声が聞こえる範囲に朱鬼が居ると、こうして呼ぶようになった。

 

「その呼び方やめろよ……」

 

「良いではないか。と言いたいが、名前に鬼という字が入っているのはちと縁起が悪いのう。親とも縁を切られておるのだろう? ならいっそのこと、名を改めてみたらどうじゃ?」

 

「どうじゃって……」

 

 いつもの気紛れと思い、真面目に取り合うつもりのなかった朱鬼だが、縁種は拾った小枝で砂の地面に字を書き始める。

 

「読み方を変えずに漢字だけ変えれば良かろう。そうじゃのう。神(妾)の居る鳥居を通った事から三の字を“神”に。鬼の字を季節の“季”に変え──―」

 

 砂の地面に少年の新しい字が書かれていた。

 

「神門(みかど)朱季(あき)、というのはどうじゃろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少しして、“神門朱季”がこれまで世話になっていた質屋に雇われる事となる。

 何でも、神門朱季の目利きを買っての事で。

 その質屋の店主は妻子も居らず、既にそれなりの年齢に達していた事から後継を探していた、という理由もあった。

 縁種の手を借りつつ朱季は何とか仕事を覚えようと努める日々を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朱季はあの神社の中にある邸宅では勤務先から遠いので家を買う事となった。

 そのお金は彼を雇った質屋から金を借りて、だが。

 朱季は自室で今日、質に入れた物品と貸した金と返済された金を計算している。

 

「真面目じゃのう」

 

「当たり前だろ。こんな家まで持たせて貰ったんだ。恩返しの為にも役に立たないと」

 

 それに、朱季は仕事を解雇される怖さを知っている。

 明日はどうなるのか分からない恐怖は朱季を働かせる原動力になっていた。

 

「恩返し、と言うなら朱季は先ず、恩を返さねばならぬ者が居る筈じゃがなぁ?」

 

 こういったからかいも、普段なら適当に流すのだが今日は違った。

 

「……分かってるよ。でも俺は、お前に何をどう返せばいいのか分からない」

 

 まだ出会って数ヶ月だが、縁種には散々世話になった。

 なのに、縁種は朱季から何も欲しがらない。

 食事は基本必要としないし、着物やら装飾品はもっと必要ない。

 物欲という物を必要としないのだ。

 かと言って、それ以外にどうやって恩に報いれば良いのか朱季には見当もつかない。

 

「お前に出会わなかったら俺は何処かでは野垂れ死んでたか、畜生働きに堕ちてたかもしれない。本当に感謝してる。だから俺は縁種に何をすれば恩を返せる事になる?」

 

 不安そうに立っている縁種を見上げる朱季。 

 それは、まだまだ仕事で縁種の手を借りなければいけない朱季がいつ気紛れで自分から去ってしまうか分からない彼女を繋ぎ留めて置きたいという打算も有るのだろう。

 全て理解した上で縁種は笑みを浮かべて朱季の背中に自分の背中を合わせて座る。

 

「そうじゃなぁ。なら、お主が老いて亡くなるまで、傍に居る事を許してくれるか? 独りで過ごすのも中々に退屈なのでな」

 

 畳に置いていた手に縁種が自分の手を重ねる。

 人間とは異なる長い生。

 特別な人間を除いて彼女の存在を認識する事すら叶わない。

 縁種の手は、微かに震えていた。

 

「あぁ、それだけで良いなら。俺にはお前が必要だ」

 

 手の向きを変えて確りと縁種の手を握る。

 

「……そうか」

 

 安堵したような声で縁種は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町の質屋に朱季が拾われて数年。

 店は爆発的に成長していった。

 国が乱れ、金が必要となり、誰もが質屋の戸を叩く。

 盗難品の捜査に協力して国から報酬を貰う。

 潰れそうな同業を接収する。

 高利で金を貸し、利息を得る。

 それらの仕事が朱季を迎え入れてから多く舞い込んで来るようになり、次第にここら辺で朱季の特徴である朱眼は金運を運ぶ縁起の良い物として見られるようになった。

 既に、朱季と縁種が出会って7年の月日が経過していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見合い、ですか? 旦那様」

 

「そうだ。お前に見合いの話が来ている」

 

 食事の席で朱季の雇い主である源治郎は酒を呷りながら話を進めた。

 

「相手はこの間、金を借りにきた造船業の娘さんだ。お前が対応した客だから覚えてるだろう」

 

「はい。それは勿論」

 

「これからの時代は、国外へ行く為の船は増えて行くだろう。だが船を造るには大きな金がいる。そこで向こうはウチとの結び付きを強くしたいんだろ。だが、わしには知っての通り家族はおらん。そこで推すなら最も身内に近いお前さんになる」

 

 朱季のお猪口に源治郎が酒を注ぐとゆっくりと呑む。

 

「ウチに来てもう十年。店を大きく出来たのはお前さんのお陰だ。向こうとしても文句はないだろうさ」

 

「私が拾って頂いたのは7年前ですが?」

 

「そうだったか? まぁ、そんな細けぇ事はいい。お前さんは若いが実績は確かだ。わしは家族を持たなかったが、妻を得て子を持つ。そんな願望が、無い訳じゃあないだろう?」

 

「それは……」

 

 妻子や家庭という言葉にこの7年間、自分の力になってくれた女性を思い起こす。

 

「返事は今すぐじゃなくていい。だがお前にはわしと同じ道を歩んで欲しくないと思ってる。それにお前の子なら、わしにとっては孫のようなモンだからなぁ」

 

 きっとこの人は、本心から自分が家庭を持って幸せになって欲しいと思っているのだろう。

 食事もお開きになろうという時間。

 朱季は酒の回った頭でいつも傍に居た縁種がいつの間にか消えている事に気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 縁種は本来の住処である神社に戻っていた。

 

「潮時じゃな」

 

 ごろりと畳の上に寝転がりながら呟く。

 これまで、縁種の事が視えた朱眼の人間が居なかった訳では無い。

 その者達にも朱季と同じ朱眼故に周囲から邪険に扱われた。

 行き場のないその子らに縁種は生きる為の知識と知恵を与えてきた。

 母や姉のように慕ってくれた子。

 親友だと言ってくれた者。

 しかし俗世と結び付きが強くなればなるほどに、縁種の存在を疎ましく思うようになった。

 申し訳無さそうに自分から離れて欲しいと言った者。

 ある日突然、縁種の事を徹底的に無視し始め、関係が切れた者。

 些細な事がきっかけで喧嘩別れした者もいる。

 家庭を持つ事は縁種を疎ましく思う最たるモノで。

 自分という異物を排除しようとする。

 

「7年か。仕方のないことじゃが、やはりちと淋しいのう」

 

 その時間は縁種にとって短い時間だが、楽しい時間というのは早く終わってしまうモノだ。

 名残惜しいが仕方ない。最後が辛い思い出に変わるより余程良い。

 そう考えて目を閉じると、足音が聞こえてきて、縁種のいる襖が開いた。

 

「やっぱり、ここに居たか」

 

 縁種を確認して安堵する朱季。

 

「いきなり居なくなるから、驚いただろうが。家に戻っても居ないし」

 

「あ、あぁ。それは悪かったのう」

 

 朱季が現れた事に驚いて呆けた顔で返す。

 

「ほら。帰るぞ」

 

 手を差し出してくる朱季。だが、縁種はその手を取らなかった。

 

「……妾に構うでない。ここにも来ないで欲しい」

 

 いきなり拒絶されて朱季が瞬きをする。

 

「もうお主は妾の手など借りずとも、充分やっていけよう。朱季に、妾はもう必要ないのじゃ」

 

 だからせめて楽しく、綺麗な記憶のまま別れたかった。

 この一年、縁種は殆ど朱季の仕事に手を貸していない。精々訊かれた事を答えたくらいだ。

 

「縁談の話が舞い込んだのは知っておる。後はその者と幸せに生きれば良い」

 

 自分と長く居る事がどこか歪な事であるのは自覚している。

 人は人と共に生きるべきなのだ。

 

「……前にずっと一緒に居るって約束しただろ」

 

「ハッ。あんなもの。その場限りの口約束であろう。本気にする必要はあるまい」

 

 バカバカしいと笑う縁種。

 険しい表情で縁種と向かい合っていると、朱季は懐からある物を取り出す。

 

「これを、お前に受け取って欲しい」

 

 差し出してきたのは、一本の簪だった。

 それなりに値の張る代物なのは見て分かる。

 

「こ、れは……?」

 

「本当は、旦那様の店を正式に譲り受けるか、独立して一人前になったらお前に渡すつもりだった」

 

「だが……お主に縁談が……」

 

「その話なら断ったよ。たぶん、別の人が紹介されるんじゃないか?」

 

 肩をすくめていい加減な答えを返す朱季に縁種が声を荒らげる。

 

「それで済む話では……!」

 

「旦那様は仕方ないって受け入れてくれたよ。だからいいんだ、この話は」

 

 そう言って朱季は簪を持つ手とは反対の手で縁種の手に触れる。

 

「縁種は、俺と出会った頃と全然変わらないな。きっと俺が爺さんになっても、お前は今の姿のままなんだろうな」

 

「……そうじゃ。だからお主は同じ時間を歩める者と──―」

 

「だから俺の最期は、お前に看取って欲しい。その時に、ありがとう。縁種との時間は楽しかったってきっと言うから。だからこれを受け取ってくれ」

 

 もう一度差し出される簪。

 それを縁種は幻を掴むように恐る恐る受け取る。

 

「俺が死ぬまで、ずっと傍に居る。約束するから。な?」

 

 ただただ真摯な感情を向けてくる朱季に、縁種の目からポロポロと涙が落ちる。

 

「神を泣かせるとはなんと罰当たりな……責任を取る覚悟は有ろうな?」

 

「当たり前だろ。先ずは、お前を笑わせないとな」

 

 朱季が顔を近づけてくる。

 縁種は唇を重ねてくる朱季を拒まなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……アァ……少し、まて……!」

 

 巫女装束をはだけさせて、朱季は縁種の首筋に音を立てて口付けをしながらその実った胸を弄(まさぐ)る。

 

「お前が視えたり触れたり出来るのが俺だけな事がずっと嬉しかった」

 

「お主……いつから……あっ! そ、んな歯に衣着せぬ物言いをするようになっ……あうっ!」

 

 腰帯を緩めて緋袴を下ろすと白衣がへその部分まで開く。

 首からへそまで口付けを続けながら移動すると、その度に縁種から声が漏れる。

 縁種が身じろぎすると上半身の白い肌の大半が露わになった。

 その艶めかしい身体に朱季は生唾を呑む。

 朱季の様子に縁種は頬を染めて顔を逸らす。

 

「あまり、まじまじと見るでない……!」

 

「綺麗だ。綺麗だよ」

 

 朱季は縁種の乳房にしゃぶりつき、太腿を撫で回す。

 

「わ、妾の乳は美味いか?」

 

「ずっとこうしてたいな。けど」

 

 気になる事があり、朱季は一度体を離して縁種の背後に回る。

 

「ん? どうし──―んひゃっ!?」

 

 額の角に触れて擦るように撫でると、縁種が一層声を上げる。

 

「角、弱いのか?」

 

「し、知らんっ! 今まで誰かに触らせたことなど……なやぁっ!?」

 

 今度は舌で角を舐めると、思った以上の反応が返ってくる。

 同時に再び胸を弄ぶと、更に顔に熱が帯びる。

 

「待て! 角はやめ……歯を立てるなぁ……!?」

 

 成すがままに翻弄される縁種。

 その姿が新鮮で彼女を責める動きに熱が入る。

 

「あ……そんな、ところも……」

 

 朱季の手が縁種の股間に移動し、彼女の陰核や腟口の中を指で擦る。

 角は本当に弱いらしく、ここを弄られると力が抜けて弱々しい動きになっていた。

 舐めていた口を離すと、肩で呼吸をしている。

 いつも自分を振り回す縁種が脱力仕切っている姿に朱季は肉棒を大きくさせた。

 縁種の体を回して正面から抱きしめる。

 

「もう、いいよな?」

 

 その言葉の意味を察せぬ程、鈍くはない。

 まだ脱力した顔でコクンと頷く。それに応えて、朱季は着ている衣服を全て脱いだ。

 そこで見た肉棒に縁種が目を大きく開ける。

 

「ま、待てっ!? なんだそれは!」

 

「なんだってなんだよ?」

 

「おかしい! 前に見た時の魔羅はそんな大きさでは──―っ!?」

 

 以前、まだ三門朱鬼だったころに湯で身体を拭いていた時に全裸を見られた事がある。

 その時は、朱鬼の股間を見て鼻で笑われたが。

 

「あれから何年経ってると思ってんだよ? いくぞ」

 

「そ、そんな本当の鬼みたいな……心の準備が……」

 

「こっちももう、我慢の限界なんだよ……」

 

 そう言って縁種の肩を掴んで押し倒すと、濡れた腟口に肉棒を当てる。

 肉棒の先端から感じる熱に我慢出来ず、朱季は腟内へと腰を動かす。

 

「っ!?」

 

「も、と……ゆっ……わらわが、裂け……」

 

 イヤイヤと首を振りながら受け入れているのか拒絶しているのか判らない動きをする。

 朱季は性欲の赴くままに腰を前へ前へと動かす。

 

「あ、あぁっ!? あううううううっ!?」

 

 ただ、唇を噛んで必死に耐えている縁種や狭い腟内。

 そして肉棒の先端が薄い壁破るような感触と股から流れる赤い血に朱季は確信する。

 

「縁種……お前……」

 

「初めて、に……決まって……おろ……こんな、罰当たりなことをする者なん、ぞ……いままで……あっ!?」

 

 助けを求めて縁種は朱季の腕を掴む。

 苦痛に歪む顔に朱季は角を按摩するように揉むと、少しだけ表情が和らいだ。

 朱季の肉棒が全て収まると縁種の呼吸に合わせるように動く。

 ただひたすらに腟内の肉棒を包む肉壁が狭くきつく動くのを拒んでくる。

 それでも時間をかけて慣らしていき、苦悶の表情をしていた縁種も少しずつ穏やかなモノに変化していった。

 

「縁種、そろそろ……」

 

「あ! なにか……くる……やっ! あ、う……あぁ……っ!? あぁあああっ!?」

 

 朱季が射精すると縁種は背を仰け反らせて受け止めた。

 少し腰を引くと腟内の液体が中途半端に脱げた緋袴に溢れる。

 肉棒を抜くと、最後に残っていた白濁液が縁種の腹に落ちた。

 

「はぁ……はう……あぁ……」

 

 陶酔した様子で肩で息をする縁種。

 普段の白い肌がほんのりと赤く染まって艶めかしい。

 朱季に視線を合わせた縁種が上半身を起こして後退る。

 

「な、何故また魔羅を大きくしている!」

 

「悪い。まだ足んねぇ……」

 

 縁種をうつ伏せに倒すと背中を隠す白衣を捲る。

 その美尻を見て撫でる。

 

「何を撫でておる! あっ!?」

 

 そのまま覆い被さり、再び肉棒を突き入れてきた。

 もう馴染み始めているのか、さっきよりは動きやすく、締りも程良くなっている。

 

「待てというに! せめてすこしやすませ……あふっ! 角に! 角に触れるなぁっ!?」

 

「縁種っ! エンジュッ……えんじゅっ!!」

 

 パンパンと二人にしか聴こえない音は夜遅くまで響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 情事を終えると縁種は出した掛け布団でカラダを隠し、恨めし気な視線で朱季を見ている。

 

「鬼じゃ……やはりお主は鬼の子じゃ。名を元に戻せい」

 

「……悪かったって。でもそんだけお前の身体が気持ち良く……イテッ!?」

 

 縁種が朱季の腕を思いっきり抓る。

 あの後、やめろと懇願する縁種の声を無視して犯し続けたのだ。

 この視線も致し方ないだろう。

 大きく息を吐いた後に縁種から話しかける。

 

「ほんとうに、妾で良いのか?」

 

 根本的なところで俗世に交われない縁種はきっとこれから朱季の生活の足を引っ張るだろう。

 そんな苦労を背負い込む必要があるのかと問う。

 

「縁種がいいんだ。ずっと傍に居るって約束だろ?」

 

 その答えに、縁種は貰った簪を朱季に差し出す。

 

「妾の髪を結え」

 

「は? 俺、そういうのは……」

 

「結え」

 

 強い口調で頼む縁種は朱季は両手を挙げてから、簪を受け取り、髪を結い始める。

 そして数分後。

 

「下手じゃのう。これはとても他人に見せられん」

 

「だから言ったろうが……」

 

 何を判りきった事を、という朱季に、縁種は小さく微笑む。

 

「だから。これからは毎日妾の髪を結え。不器用なお主でも、いずれは上達するであろう?」

 

 縁種は肩に乗る朱季の手にそっと自分の手を重ねた。

 

 神門朱季と縁種。

 徐々に狂ってゆく運命を、まだ知らない。

 

 




縁種(??・神?)
生年月日 ?月?日
一人称 妾
身長162㎝
スリーサイズB87W55H89
特技 鑑定・“色々”
趣味 自分を視える人間の世話を焼く。
好きなプレイ 角責め。自分に甘えるような密着。
備考
何百年と生きる超常的な存在。
一部を除いた人間以外には視えない聞こえない触れられない。
ただし無機物には触れられる。
三門朱鬼に出会うまで、過去数名の自分が視える人間と行動を共にしてきたが、最終的に手酷い別れになった為、対人関係にはその態度とは裏腹に臆病。

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