※この作品はR-18です。

春夏秋冬姉妹と御主人様な僕。   作:赤いUFO

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儀式

 悟堂の実家の風呂で身を清めながら四季は重い息を吐いた。

 

「色々と突然過ぎる……」

 

 父である神門倫也から儀式を行なうと通達された一昨日の夜を目を閉じて思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、どういう……?」

 

「言葉通りだ。四季には、向こうの準備が整い次第、あの人に会う儀式をしてもらう」

 

「理由をお訊きしても?」

 

 四季の質問に倫也は部屋のテレビを点ける。

 

『今日の夕方に◯◯県の食品加工工場で作られた冷凍食品に異物混入の疑いで衛生調査が入り────』

 

「これは……」

 

 神門の傘下ににある工場が映し出されたニュースに四季は驚きから瞬きをする。

 

「見ての通りだ。これと同じ系列の工場は一旦全て調査が終わるまで停止。その他にもまだニュースにはなってないが、製鉄関係でもゴタゴタ起きている。後処理を考えると頭が痛い」

 

 何人解雇する事になるやら、と長い溜め息を吐く。

 大手なだけあり、そうした管理は積み重ねたノウハウもあり、徹底されてる筈。

 

「突然、ですね」

 

「そうだ。あり得ない、とは言わんが、やはり不自然だ。これから連鎖的に問題が噴出せんとも限らん。というより起こる事を前提でこっちは動いている。だから四季」

 

「僕に、そのご先祖様に会って来いと? 本当にその人に会えばこの状況は改善されるのですか?」

 

 今更な四季の疑問に倫也は自嘲気味に笑う。

 父からすれば、自分達の努力が簡単にひっくり返る事に思う事もあるのだろう。

 

「文字通り、神頼みのような物だ。神社の賽銭箱に入れてお願いするより、本人に直接お願い出来るだけ信憑性はあるさ」

 

 冗談めかして言っているが、倫也は縋るように四季を見ていた。

 

「頼むぞ、四季」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長湯に浸かって浴室から出ると、春花を除く姉妹三人が待っていた。

 

「お体を拭かせていただきます」

 

 冬雪が前に出て四季の頭を拭き始めると、秋葉と夏海もそれに続く。

 今更だが裸を見せるのも恥ずかしい、と多少の羞恥心が沸くし、こうして成すがままに世話されるのは正直戸惑う。

 

「四季様、出会った頃より筋肉付いたよね」

 

「出会った頃は本当にガリガリだったしねー。お肉が付いて良かった良かった」

 

 神門の家に来る前はあまり良い食生活ではなかったので、結構痩せていた四季だが、今は身長と比べてやや軽いくらいの体重になっている。

 

「皆さんのお陰ですよ」

 

 苦笑しつつもそう返すも気になってた事を訊く。

 

「春花ちゃんは? 今回はお留守番ですか?」

 

 四季の質問に髪を拭いていた冬雪の手が止まり、ピキッと表情にヒビが入る。

 秋葉と夏海の方も遠い目をしていた。

 

「あの子はそのぉ……今回押し切られたと言いますかぁ……」

 

「駄々をこねただけよ。あの子にはこの後の役割に就いてもらってます。本当は私がその役を仰せつかる筈だったのですが」

 

「春花ちゃんが?」

 

 意外と言うか、冬雪がその役を譲ったのに驚いている。

 

「春花のあんな我儘……初めて見た……」

 

 夏海も呆れた様子で四季の背中を拭いている。

 

「その代わり、条件は付けさせてもらいましたけど。そういう訳で、こちらが用意したお召し物を着ていただきます。お手伝いしますので」

 

 用意されていたのは白い羽織袴だった。

 

「特に服装は決められている訳ではないのですが。いつの頃からか白い羽織袴がこの儀式を行なう際の正装という事に。今回は急でしたので過去に旦那様が着ていた物を簡単に仕立て直したのを着てもらいます」

 

「まぁ基本はコレってだけなんてすよぉ。過去には私服だったり、向こうからリクエストがあった話も記録に残ってますしー」

 

「そう、なんですか?」

 

「はいー。まぁ、第一印象は大事ですしぃ?」

 

 おどけて説明する秋葉。

 

「それじゃあ、着替えよ」

 

 夏海の言葉に着せ替え人形の如く羽織袴を着せられていく。

 全て着終えると、冬雪達の祖母である悟堂宗子が杖を突いてやって来た。

 

「とてもお似合いですよ、四季様」

 

「ありがとうございます……」

 

 初めての格好を褒められて、頬を掻く。

 そこで夏海が祖母に質問する。

 

「おばあちゃん。春ちゃんの方は?」

 

「もちろん、準備を終えてるわ。まったくあの子は。先日の四季様のお見合いも迷惑をおかけしたと聞きましたのに、なんて図々しい。あの子も段々と美季に似てきて────」

 

 煩わしげに愚痴る宗子。

 仕切り直すようにコホンと咳をしてからこっちです、と四季を案内する。

 悟堂の実家内を歩いて行くと、分かれ道で足が止まった。

 それに四季はあぁ、やっぱりと納得する。

 分かれた廊下の道は以前、秋葉に止められた方の道だった。

 そこで着物を着た春花が待っていた。

 

「四季様」

 

 四季を見てペコリと頭を下げる春花。

 宗子が説明に入る。

 

「ここから先へは春花が案内しますので。春花、奥の間へ四季様をご案内なさい。決して粗相のないように」

 

「う、うん……じゃなくて、はい」

 

 少し、翳りのある表情で頷く春花。

 それに対して疑問に思ったがその前に春花のどうぞ、と秋葉に止められた道の前を歩く。

 長い廊下を歩く中で四季は春花に質問する。

 

「冬雪さんが、春花ちゃんが今回のお役目に就くのに条件を付けたって言ってたけど。なんて言われたの?」

 

 四季の質問に足を止めると振り返って笑みを見せる。

 

「いえ。なんでも。ただ、最近はワガママばかり言ってたから、悟堂の人間としての自覚を持ちなさいって。怒られちゃって」

 

 そう言って小さく舌を出す。

 

「そう、なんだ……」

 

 少し腑に落ちないが、これ以上の追及は無意味と判断して納得する事にした。

 長くも短い廊下を歩くと、そこには古い扉が在った。

 

 春花は懐から鍵を取り出してドアノブに差して回す。

 扉を開けてどうぞ、と中へと促す。

 

「ここからは四季様だけで。ここは神門の人間以外に入ることは許されてないので」

 

「中でなにをすれば良いの?」

 

「えっと……中に入れば解るそうです。すみません、細かな詳細は」

 

「だよね。父さんも碌に教えてくれなかったし」

 

 いい加減だよね、と額に手を置く。

 緊張から息を吐いた後に、開かれた扉へと一歩踏み出す。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

 それだけ告げて、四季は扉の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 四季が神様の居る開かずの間を通り抜けて数分した後に、春花はドアノブに恐る恐る手を伸ばす。

 

「やっぱり開かない……」

 

 中に入ろうとしても、扉を開ける事は叶わない。

 四季が中にはいるとその他の存在を拒むように開かなくなった。

 扉を潜る事が許されていないというのは、神門の、特に資格を持つ者以外は入る事さえ出来ないという意味なのだ。

 

「四季様……」

 

 着物の裾を眺める。

 神門の眼の特徴である紅色の生地と作られた着物。

 これとお役目を渡された時に冬雪に言われた事を思い出す。

 

『これを着て、この儀式に参加するのなら、これまでのような甘えは許されませんし、私が許さない。春花、これを着るという事は、神門の当主様の最も近い位置に立つという事よ。悟堂の役目は分かっているでしょう』

 

 この数ヶ月四季と接して分かる。

 神門の人間は危うい。

 あの極端な性欲を現代で放って置くと性犯罪者か、考え無しに子供を作る動物になりかねない。

 その為に神門と子供の出来ない悟堂の存在が必要なのだ。

 神門が今の地位を捨てようにも、その規模は大きくなり過ぎた。

 簡単に手放せる段階はとうに過ぎ、これから存続してゆく為にもこの奥にいる"神様"の存在が不可欠になってしまっている。

 少なくとも神門の事情を知っている者達はそう思っている。

 なら────。

 

「四季さ(・)ん(・)……わたしが、四季さんにとって一番必要な女になるの……」

 

 表向きに結ばれなくても、悟堂の愛しい人の傍にずっと居られる切符を手にしたのだ。

 嬉しいのか悲しいのか。よくわからないまま、頬を伝った雫が着物の袖に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中は意外にもなんて事のない小さな和室だった。

 ただ、奥にある棚には人の顔が映るくらいの大きさの鏡が飾られていた。

 

 ──―鬼さんこちら。手の鳴る方へ。

 ──―鬼さんこちら。手の鳴る方へ。

 ──―鬼さんこちら。手の鳴る方へ。

 

 前にも聴こえた手拍子が四季の頭の中で響く。

 

 ────さぁ、鏡に触れておくれ。妾に会いに来ておくれ。

 ────妾の血を引いた、愛しい子や。

 

 頭に響く声に言うがままに、四季は鏡に手で触れた。

 

「っと!?」

 

 景色が変わったのか。それとも四季が別の場所に移動したのか。

 移動したという意識はないのに、視界に映る景色が別物となる不思議。

 四季が立っているのは神社と思われる場所の庭。

 

「神社……?」

 

 ──―鬼さんこちら。手の鳴る方へ。

 

 手拍子の鳴る方へと歩を進める。

 神社の中へと入って行く。

 いくつかの襖を開けて音に近づいてるのが分かる。

 頭に響いていた手を叩く音も次第に耳で聴こえる程に近くなっていた。

 そして、その部屋に辿り着く。

 最後の襖を開くと彼女は居た。

 

「はじめまして、と言ったところか……妾の血を引く子よ」

 

 待っていたのは桜色の髪をした美しい女性が座して待っていた。

 会った事はない。

 あんな女性は知らない。

 その筈、なのに。

 

「あれ? なんで?」

 

 自然と、涙が溢れてきた。

 故郷へ帰って来たかのような。

 生き別れた"母"と再会したかのような。

 在る筈もない懐かしさが胸の奥から涙として溢れてくる。

 そんな四季を見て女性は両腕を伸ばした。

 

「おいで」

 

 自分の中で溢れる感情と女性の声が脳を溶かしてくるようだった。

 初めて会った女の腕が四季を包み、頭を撫でてくるのに、不快感は感じない。

 それが当たり前のような安心感と少しの羞恥心。

 

「妾は縁種。お主の名は?」

 

「神門、四季……」

 

「そうかそうか。ふふ。最近はその眼が染まるまで時間がかかるようになってしまったからなぁ。少しでも早く四季に会いに来てほしくて妾ついついイジワルしてしまってのう」

 

 四季の頭を離すと、懐からサイコロを取り出し、転がすと二の数字で止まる。

 

「人の縁を通じて……運気の流れを操るのも妾の力。神門の参加に入った者達を守護し、時に妾を蔑ろにせぬよう戒めさせてきた。四季の父はいつの頃からか妾との関係を軽んじるようになったからなぁ。思い出させなければなるまい?」

 

「……」

 

 縁種の言葉にどう反応すれば良いのか分からず黙ってしまう。

 そこで四季は縁種を後ろから掴む手に気付いた。

 畳から伸びている腕が縁種の後ろから首と足首。それと腰を強く掴んでいる。

 その視線に気付いて縁種は不愉快ながらも肩を竦めて答える。

 

「あぁ、これか。亡者の怨念が妾をここに繋ぎ留めておる。謂わば、牢の鎖じゃて」

 

 鬱陶しそうに眉を動かす縁種。

 春花の話や日記を信じるなら、神門が拗れているのはこの人が原因で。

 自分達の全てを握っている存在。

 会う事のなかった姉もこの人に。

 なのに、ただただこんなところに長い間繋がれて可哀想、という感情しか沸き上がってこない。

 四季の視線に縁種は嬉しそうに微笑む。

 

「四季は優しいのう。それに、見た目も空にそっくりじゃ。じゃが、妾は四季の話が聞きたい」

 

「僕の話なんて……」

 

「なにを言うか。子の事を知りたいと思うのは親の性。さぁ、話しておくれ」

 

 縁種に促されて、四季は視線を合わせる為に正座して自分のこれまでの人生を話し始めた。

 小さい頃は母と二人で少し広めのアパートで暮らしていた事。

 神門から貰った手切れ金と四季への養育費で生活していたが、四季が小学校に上がる頃には男に金を貢がせて生活していた記憶。

 中学や高校の神門の下へ行くまでは四季のバイト代も生活費として奪っていた。

 そこら辺の話を聞いていた時の縁種の表情がやたら冷たく気になったが、ここから神門に引き取られてからの話をする。

 屋敷に来て初日に悟堂の四人姉妹と肉体関係を持った事。

 これまで関係ないと思っていた様々な事を学ばされて大変だがやり甲斐は感じている事。

 つい最近、アメリアという婚約者になるかもしれない少女の事。

 

「こんな、ところですかね」

 

「そうか……中々に苦労もしてたようじゃな」

 

「そんなことは……」

 

「良い。妾の前でそのような虚勢は要らぬ。邪魔なだけの母親。神門に来ての慣れない生活。大変だったのう」

 

 そう言って、縁種は四季の頭を再び抱く。

 

「よく頑張ったなぁ……お主は妾の誇りじゃよ」

 

 縁種の胸に顔を埋めていると不思議な程に心が無防備される。

 なのにとても安心出来て、撫でられる頭が心地良かった。

 四季も縁種の背中に腕を回す。

 

「ここで妾の胸で、溜まっている膿を吐き出してお行き。妾がお主の人生の全てを認めてやろうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間が経ったのか。

 縁種の胸に頭を預けていた四季が離れる。

 気恥ずかしさから少し視線を逸らす。

 

「ありがとう、ございます……」

 

「よいよい。今日はもうお帰り。長くここに留まれば、帰るのが難しくなってしまう」

 

「?」

 

 よく分からないが、四季が長くこの場に居るのは良くないらしい。

 

「いつでも会いに来ておくれ。妾はここで、四季が来てくれるのを待っているよ」

 

 そう言って手を叩くと、襖を付近に黒い穴が出来た。

 

「アレを通れば外へ出られる。次はそうじゃな。制服で来てくれると嬉しい。羽織袴も悪くないが、制服は着れる時期が限られておろう?」

 

「はい。じゃあ次に、必ず」

 

 四季は小さく手を振ってから出口を通って帰って行った。

 人が通ると黒い穴はその場から消える。

 

「ふふふ。本当に空にそっくりじゃったなぁ。まるであの子と話しておるようじゃった」

 

 手の中で転がしていたサイコロを床に落とす。

 六の出目でサイコロはその動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四季様……」

 

 四季が中に消えて既に三時間近く経過している。

 中で何か遭ったのではないかと心配になってきた。

 入れないと分かっても、春花は扉の奥へと手を伸ばす。

 すると。

 

「あれ?」

 

 部屋の奥から四季が戻ってきた。

 

「四季様!?」

 

「ずっとここで待ってたの? 寒かったでしょ?」

 

「お役目ですから」

 

 四季が冷たくなった春花の手を握る。

 温かく、四季が生身の人間である事を実感させる。

 

「それで四季様。その、儀式の方は?」

 

「儀式? ……あ」

 

 中で縁種に会い、ただ話をしただけなので、神門の件についてすっかり失念していた。

 

「で、でも嫌われはしなかったと思うし。今回は僕を呼び付けるのが目的だったって言ってたしさ。たぶん大丈夫、なのかなぁ?」

 

 自信の無い声に重大な事にも関わらず春花は吹き出してしまった。

 この自信の無い物言いが四季らしくて。

 

「おかえりなさい、四季様」

 

「うん。ただいま、春花ちゃん」

 

 春花は四季の存在を確かめるように抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後は春の章のエピローグだけなのでぶっちゃけますが、春花ルートは四季が神門と悟堂。そして縁種との問題にまったく動かずに流された結果の結末です。
問題を解決しようとしないのだから何も変わらず、これからも同じ関係が継続するエンドです。
かと言って悪くなった訳でもなく、四季が縁種のご機嫌を取ってれば神門は安泰ですし?
この結末は春花ルートでやるか冬雪ルートでやるか悩みましたが、一番手の章だから書きやすかったのと、アンケートの人気投票を加味した結果こうなりました。

お気軽に答えて欲しい女性人気投票。

  • 悟堂冬雪
  • 悟堂秋葉
  • 悟堂夏海
  • 悟堂春花
  • 悟堂美季
  • 神門姫乃
  • 悟堂咲子
  • 悟堂夏織
  • 縁種
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