「案外、あっさりと判定が出ましたね。もっと時間がかかるかと思ってました」
「こっちは金に物を言わせて優秀な弁護士を付けたし。証拠も目撃情報も山程有りましたから。あんな人に時間をかけること自体が無駄です」
四季の実母である育美との裁判。
それは本当になんの山場もなく判決がくだされた。
証拠は充分な上に、こちらは神門お抱えの顧問弁護士。
対して向こうは国選弁護士。
むしろ、殊勝な態度で素直に罪を認め、少しでも印象を良くするように指示していたのを無視して言い訳と自己弁護のオンパレードだった。
そんな訳で、死刑判決、とは当然ならないまでも、刑期を終えた頃にはもうまともに就職するのは難しい年齢になっているのは間違いない。
残りの手続きなどは夫に丸投げし、姫子は育美の事を頭から追いやって話題を変える。
「それより、今日はここからが本番です。心の準備は良いですね?」
「はい。よろしくお願いします」
育美との件は些事に過ぎず、神門としてはここからが本番だ。
頭を下げる四季に、姫子が私にお願いされても、と息を吐いた。
「儀式の用意は全て悟堂の管轄よ。とにかく、しっかりね」
「はい」
緊張した表情で頷く四季。
そこから姫子が運転する車で悟堂の本家まで移動する。
本家に到着すると、中から冬雪ともう一人、杖をついた知らない女性が出てきた。
その女性が四季と姫子に頭を下げる。
「はじめまして、四季様。私は、冬雪達の祖母の悟堂宗子です。お見知りおきを。姫子様をお久しぶりでございます」
宗子に対して姫子も軽く頭を下げる。
「宗子さん。私はまだいくつか片付けなければならない事があるので戻りますが、四季をお願いしますね」
「はい。もちろんでございます。冬雪、四季様を案内なさい」
「はい。四季様、どうぞこちらへ」
簡単な指示を受けた冬雪の後ろからついて行く四季。
そこから秋葉や春花に湯浴みを手伝ってもらいながら儀式の説明を受けた。
秋葉曰く、本来はそんな畏まった物ではないらしい、とか。
そして和装に着せ替えさせられると、屋敷の奥へと冬雪に案内される。
すると、綺麗な着物を着た夏海がいた。
「ここからは夏海が案内します。夏海。案内をお願いね」
「うん。分かってる」
冬雪に言われて夏海はこくりと頷いた。
「四季様、こちらへ」
夏海に後ろへついて行き、悟堂本家の奥へと進んで行く。
ゆっくりとした歩速で歩く夏海。
後ろに居た冬雪が見えなり、例の扉の前に立つと四季が夏海に後ろから抱きつく。
「ちょっ! 四季、さま……!」
これから儀式に入るのに、抱きついてくる四季にやめるように腕を外させようとするが、離してくれない。
様子のおかしい四季。しかし夏海そこで四季の腕が震えているのに気付く。
「四季?」
「夏海、きれいだよ……すごく」
突然褒められて純粋に困惑する。
なにか四季の様子がおかしいと思いつつも、それが言語化出来ないのだ。
「四季、だめだよ……今は……」
もしかしたら、このタイミングで抱きたくなったのかと思い、夏海が拒絶する姿勢を取った。
一応両家にとって重要な儀式を前にそういう事をする気にはなれない。
「うん。わかってる。だけど、もう少しだけこのままでいさせて……」
なんなんだろうと夏海は不思議に思う。
今日に限ってではなく、ここ最近の四季は何か思い詰めてるような気がするのだ。
そのまま三分くらい夏海に抱きついたままの四季が腕を離す。
振り向くと、四季が夏海の手を取った。
「今日で……必ず全部終わらせるから……だから待ってて」
それだけ言うと夏海の手を離し、目の前の扉を潜って行った。
入った部屋の中に在った鏡に触れると、四季の居る景色が一変した。
それとも、四季の方が移動したのか。
見事な日本屋敷。そこから頭に声が響く。
────鬼さんこちら。手の鳴る方へ。
その声と手拍子に惹かれるままに屋敷の奥へと足を進める。
奥へ奥へと歩が進み、彼女は居た。
長い桃色の髪に額には小さな角を持つ美しい女性。
「……」
その姿を見て息を呑む。
悟堂夏織の日記から抱いていた不信感や嫌悪感を、一目見て根こそぎ上書きされる感覚。
幼児が母に抱きついてあやされるような安堵。
そんな心地良さを目の前の女性から感じていた。
「おいで」
母性そのもののような声音で手招きされるとそれだけで逆らえずに近付いていく。
考える事をやめて、その腕に飛び込みたくなる。
女性の手が届く距離まで近づくと、その手が四季の頬を撫でた。
「妾は縁種。お主の名は?」
「神門……四季、です……」
「そうかそうか」
嬉しそうに頬をほころばせる女性。
その自分を慈しむ眼に、どうして敵意を抱けるだろう。
「こうして、我が子に会うのは久方振りな気がするのう」
その腕に抱かれていると、泣いてしまいそうだった。
心の底から縁種の存在に安心感を覚えている。
この腕を解く事さえ躊躇ってしまう程に。
それから縁種の言われるままに色んな話をした。
縁種がこの場に繋がれて動けない事や、四季のこれまでの人生。
それらを話す時間をとても心地良く感じていた。
涙が出そうなくらい、この人の存在に安堵している。
ここに来るまでに決めていた決断が簡単に揺らいでしまいそうだった。
だから、こんな質問を投げかけてしまう。
「あの……縁種、さん……」
「ん? どうした四季」
ただこうして四季と会話する事が嬉しそうな笑みだった。
それを見ただけで、この質問を引っ込めたくなる。
だけどこれは、四季と夏海が前に進む為に必要な質問だから。
「神門と悟堂は、本当に子を成せないのですか?」
四季の質問に縁種は瞬きした後に目を細めた。
それから小さく笑う。
「なんじゃ? 悟堂の女に惚れ込んだか?」
縁種の指摘に四季は頬を染めて頷く。
まるで母に好きな相手を言い当てられたような羞恥心。
「そうかそうか。お主のように悟堂の女に入れ込む者は定期的に現れる。しかし、世間体に拘る必要もなかろう。アレはお主が好きにして良い道具ぞ。悟堂の女は神門の子の性の捌け口で在れば良いのだ。お主も、自分の性欲を抑え込めている訳ではあるまい?」
「それは……」
以前、自分の性欲を抑えようと我慢して理性が吹き飛んだのを思い出す。
ずっと緊張の糸を張り詰めて我慢し続けるなど不可能だ。
「子が増えるのは妾としても望ましいが、負担も大きかろう。それに、悟堂の血が交わるのを妾は好かぬ」
悟堂の血が好かない。それは彼女の子であった、神門陸の母親代わりとなり、伴侶だった神門朱季の近い位置に居たから。
その血への怨みは現代になっても続いている。
「四季。お主が悟堂の女に情が移るのも理解出来る。だがアレはただの道具じゃ。今の時代で言えば、
悟堂の価値はそれだけだと断ずる縁種。
その言葉に四季は────。
「ふむ。そろそろお帰り。名残惜しいが、長くこの場に留まるのは四季に良く────」
「────────────っ!!」
縁種の首に手をかけ、そのまま押し倒した。
美しいその顔が驚愕と苦痛に歪む。
「な、にを……!? 四……っ!!」
藻掻き、縁種の手が四季を跳ね除けようと動く。
縁種の苦痛な表情。掠れる声を聞くと手の力を緩めてしまいそうだった。
知らず知らずに目から涙が溢れて、縁種の頬に落ちる。
今から自分の望みの為にこの人を■そうと────。
縁種の爪が四季の頬を強く掻く。
引っ掻かれた頬から赤い血が滲み出ると、悲しそうな顔で縁種の唇が何かを伝えようと動く。
しかしそれはもう声として搾り出される事はなく。
縁種の目からも涙が溢れる。
それは絞首による苦痛からなのか。
それとも子孫に裏切られての涙なのか。
次第に縁種の手の力は弱まっていき、その腕は落ちていった。
(遅いな四季……)
既に何時間も経過しており、未だに夏海は部屋の外に待たされていた。
ただひたすらに待ち続けるのもそれはそれで疲れる。
その間、何度か部屋の中に入ろうと扉に手をかけるが、入る事は叶わなかった。
神門の人間以外を頑なに拒否してくる。
「四季……」
何度目か分からない呟きと共に夏海はドアノブを回す。
「あれ?」
まるで動かなかったドアノブが回り、閉ざしていた扉を開けられた。
聞いていた話と違うのと、開かなかった扉が突然開いた事に戸惑う夏海。
四季への心配と、好奇心から夏海はゆっくりと扉を少しだけ開けた。
中を覗き見る。
するとそこには、部屋の中心で蹲っている四季が見えた。
「四季っ!?」
その姿に考えるより先に扉を強く開けて中に入る。
駆け寄ると、四季は顔を覆っていた手を外して夏海に視線を移す。
「な、つみ……? どうして……?」
「突然扉が開くようになって……四季、大丈夫?」
顔が青白くなり、体を震わせていた四季が歪んだ笑みで答えた。
「う、ん……ぜんぶ……全部終わったよ……」
どう見ても尋常ではない様子に夏海は刺激しないように声をかける。
「そう。なら戻ろう。話は後で聞くから、今は休んで、ね?」
憔悴しているように見える四季を休ませようととりあえず立つよう促す。
そんな夏海に四季は抱きついてきた。
「四季?」
「……」
名前を呼んでも答えず、着物の帯に手をかけようとする。
なにをしようとしてるのか察して夏海が止める。
「ダメだよ。ここで、この格好でなんて……!」
ここは神門と悟堂にとって神聖な場所だ。
謂わば神の御前である。
そんな場所でなにを使用としてるのか。
しかし、四季はそんな事お構いなしに夏海の唇を奪ってくる。
「〜〜〜〜ッ!?」
荒々しく唇を貪る四季に夏海の抵抗が少しずつ解れていく。
力を抜けた夏海が少しずつ膝を曲げ、尻をつくとそのまま押し倒された。
それでも夏海は四季を押し退けようと動く。
「ほん、とに、ダメだって。なに考えて………………四季?」
上から自分を見てくる四季の目からポタポタと水滴が落ちてくる。
夏海の胸に顔を埋め、苦しそうな呼吸を繰り返していた。
困惑が続く夏海は拾うように四季の両頬に触れて自分と目を合わさせる。
「どうしたの、四季?」
まるで母や姉が宥めるように問いかける。
泣いてくしゃくしゃな表情のまま、四季は口を動かす。
「ぼく、は……夏海といっしょなりたくて……だから、だから……!」
頭が整理させてないらしく説明に要点を得ない。
ただ、このまま放置するのはマズい、というのはなんとなく察した。
「いいよ、きて……」
ただ甘やかしているだけかもしれない。
それでもこんな顔をしている四季を突き放す事は夏海には出来なかった。
(この和服、高いんだろうな……)
そんな今更な事を思いながら自分から帯を緩める。
和服を
「好きだよ……四季。あなたが……」
安心させるように囁く。
その言葉に四季は縋るように問いかけてきた。
「ずっと……僕の傍に居て、くれる……?」
「うん……もちろ、んんっ!?」
言い終わる前に夏海の首筋を舐め、手で股を開かせてくる。
「ん、アン……やぁっ!」
下着の中に手を入れ、膣を指で掻き回すと、夏海から艶めかしい声が漏れた。
膣が濡れているのを確認して、四季も自分の服を雑に脱ぐ。
「綺麗だね。夏海は」
ゆっくりと堕ちるように肉棒を夏海の膣内に挿入する。
腰を動かし、夏海を貪る四季。
「好き……夏海……んっ!」
夏海に聞かせると言うより、自分の中で確かめるような声音だった。
腰使いに普段のような激しさはなく、ただただ夏海の存在を確かめるように動く。
「はふ……っ!」
射精し、収まるまでその場を動かない。
射精を終えると、夏海に体重を預けてきた。
「四季……ホントにそろそろ」
「もう少し……もう少しだけ、このまま」
我儘を言う四季に、夏海は仕方ないなぁ、と息を吐いて四季の頭を撫でた。
首絞めシーン辺りでずっと執筆が止まってました。
次話で夏の章も終わりです。
お気軽に答えて欲しい女性人気投票。
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悟堂美季
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神門姫乃
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悟堂咲子
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悟堂夏織
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縁種