※この作品はR-18です。

OのFともう一人の怪人   作:木桜 春雨

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彼女は気づかなかった、その男が別人だと

  エリック、名前を呼ばれてドキリとした、どうぞと声を開けると入ってきたのはペルシャ人だ、何故、今なんだと思ってしまう、いつもなら黙って迎え入れていたのだが、正直なところ、今は会いたくなかった。

 何か用でもと聞くと、君が悪いことをしていないか様子を見に来たんだよと言われて、内心、むっとした、相変わらずだと思ってしまう、この私に、そんな暴言を口にできる人間は世界中、この男以外、いないだろう。

 

 「ナーディル・カーン、私はいつだっておまえを殺すことができる、それを忘れてやしないか」

 

 ところが返事のかわりに真面目な顔で女が殺されたと呟くものだから、一瞬、毒気を抜かれてしまった、いったい、なんの冗談だろうかと思ったくらいだ。

 

 「おい、まさか、私が、その犯人だと」

 

 すると、ナーディルは首を振った、君は犯罪者だ、人殺しも平気でする、ああ、よくわかっているじゃないか。

 腹が立つが、この男の正直なところは嫌いではないのだ。

 だが、無抵抗の女の顔を切り刻んで殺すのかと言われて、胸がムカつく、いや、嫌な気分になったのはいうまでもない。

 

 「世間では切り裂きジャックの再来だと言われている」

 

 新聞を読んでいないのかと聞かれて、忙しいんだよと少し言い訳がましく笑ってしまった、地下の隠者のような生活をしているからといって、一日中、暇というわけじゃないんだと。

 

 「ここ最近、忙しくてね」

 「じゃあ、監獄から出たニュースも知らないのか、脱獄だよ、しかも逃げた先はノートルダム寺院だ」

 「ほうっ、馬鹿ではないようだ」

 「エリック、真面目な話をしたい、あそこは地下の抜け道があるだろう、パリの地下と繋がっている、勿論、ここともだ」

 

 沈黙は長くは続かなかった。

 

 「それにしても、何故、女の顔を、理由は、知っているのか、ナーディル」

 「何故、そんなこと、こっちが知りたいぐらいだ、世間では女と酷い別れかたをして恨みに追っているんじゃないかといわれているが、実ね

エリック」

 

 このときナーディルは相手の顔をまじまじと見た、だが、仮面をつけているので素顔を見たわけではない。

 それなのに、このとき、男は苛立ち、そして殺意さえ感じたのだ。

 

 「エリック、その男の顔は」

 

 だが、その言葉は最期まで続かなかった、仮面の男はいきなりテーブルを殴りつけるように叩いたからだ。、

 

 忙しいんだ、帰ってくれないか、不機嫌さを装い、ナーディルを追い出すと用心の為に護身用の武器を手に男は家を出た。

 女の顔を切り刻む犯罪者、それが頭のおかしな人間なら、仕方ないという言葉ですますことができる、だが、そうではないというなら厄介なことこのうえない。

 あの女のいる部屋には鍵がかかっているが、だが、男が本気になれば力ずくでこじ開けることなど簡単だ。

 

 

 パリの地下道は広くて金のない者だけでなく、色々な人間が地下に住んでいる、清廉潔白と皆から信頼のある聖職者も隠れて罪を犯しているくらいだ。

 ノートルダムを避難所に選んだのは正解だった、地下の抜け道があるというのは噂で聞いていたが、もしかしてと思いながらも探していたら見つけたのだ。

 それも司祭の部屋にだ、秘密の抜け道を罪を見つけ、そこから様々な場所に行けることがわかるとほっとした。

 そして、この男は地下を散策しているうち、自分がかなり深い場所似着ていることに最近になって気づいた。 

 自分と同じような人間が隠れ住んでいるのかもしれない、ワインの瓶や食べ物の包み紙など、壁にはカンテラも置かれているのだ。

 もし、ここに住んでいた相手と出会ってしまったら、自分を不審者と見なして殺そうとするかもしれない、そうなったら面倒だ、だが、構うものかという気持ちもあった。

 そして下へ、下へと降りていくうち男は扉を見つけた。

 

 

 扉に近づき気配を伺う、物音にはっとした、人のいる気配だ、音を立てないようにと思った、ところが、足音が聞こえた、それはドアに近づいてきて、声をかけてきたのだ、誰、と。

 どきりとした。

 

 「ムッシューですか」

 

 男は慌てた、女の声だ、もし人違いだと知ったら女は声を上げて、逃げるかもしれない、焦りと不安で胸が騒いだ。

 

 ドアが開くと、そこには女がいて思わず顔をそらした、自分が素顔だと出会った者たちの拒絶した声や言葉を、女の悲鳴を思い出したからだ。

 

 「ムッシュー、どうしたんです」

 

 顔を背けことを不思議に思いながらも訊ねた女は、このとき気づいた、男が素顔だということに。

 最初に会ったとき、男の顔をよく見なかった、帽子を目深にかぶっていたせいもある。

 だが、わずかに覗いた白い部分から、顔を隠しているのではないかと思ったのだ。

 わずかに伏せた顔の下から、伺うように男は女の顔を盗み見ながら、驚かないでくれと声をかけた。

 

 それで顔を隠していたんですね、驚いた顔をして自分を見る、だが叫び声を上げたり、逃げる素振り、様子も見せない、女の顔を見ながらも戸惑いを隠せず、男は声をかけた。

 

 「行こうか」と。

 

 




 2話目、更新できました。
 怪人は二人です。
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