未来からの侵略者たち『ガルマディア』の本拠地は、誰に知られることもない。
現代より遥かに進んだ、人類には未知の技術の粋を集めて作り出された悪意の巣窟は、《希望》を手にしたどんな戦士にも感知は不可能だ。
そのどことも知れぬ、まるで魔王の要塞を思わせる機械城のワンフロア―――悪趣味すぎる紫の円卓が配置された空間に、彼らはいた。
「ヴィルゴートがやられたか」
「《希望》の戦士どもに通じる鎧を作ると言ってこの体たらく。なんと情けないことだ」
「生きて帰ってきたのなら、断罪もできようものだが……あの痴れ者め、配下もろとも死におって」
「しかし、悪態ばかりついている暇もない。現に《希望》の戦士たちは着実に力をつけている。あの英雄気取りどもの最後の悪あがきが、ここまで我らを手こずらせるなど、我々の中で誰が予想できたことか」
円卓を囲むメンバーが重苦しいうなり声と共に沈黙する。
そう、現代―――彼らから見て遥か過去に渡るにあたって、彼らと同じ時代にて刃向かい、無残に殺された愚か者ども。その執念が、もはや敵なしと息巻いたガルマディアに対し食らいついてきている。当時は全く思いもよらなかったことだ。当然、その力に押されることになろうとは。
「だが、このまま指をくわえて見ているだけでは、それこそ奴らをつけあがらせる。今すぐ、奴らの基地なりを特定し、攻め入るべきだ」
「攻め入るという案には賛成しよう。しかし、具体的にどうする。恐らく彼奴らの根城も隠れておろう。もし発見できていたなら、とうに潰しておる」
「市井に紛れ込ませる策も、追跡も失敗している。どう攻める?」
「それならば、わたくしに妙案がございます」
乱入してきた女の声に、円卓がざわついた。円卓の間を守る門を開き、コツコツとヒールを鳴らして踏み入ってきたのは、異形の女であった。
モデル顔負けのスタイルながら、肌は人ならざる薄紫色をしており、秘部や胸を昆虫に似た刺々しい装甲を装着している刺激的な恰好。頭は赤い8つの目が光るバイザーで隠れているが、鼻から下を見る限りではしたたるような美女である。青黒いリップを塗った唇を禍々しく歪め、背中に8本のマニュピレーターを備えた女は、円卓にて顔を突き合わせる上層部の面子に、誘惑するような一礼をして見せた。
「貴様は……ドクター・ブラックウィドウ。今、彼奴等の基地を突き止める妙案があると聞こえたが」
「ええ、確かにそう口にいたしましたわ。いじらしくも《希望》の戦士を名乗る者たちのアジトが知りたいのでしょう? ならば、知っている者に直接案内してもらえばいいのです」
さも簡単なことだ、とでも言いたげなドクター・ブラックウィドウに、上層部は呆れ返った。
「関係者を拉致して洗脳するというのかね。それこそ無理だ。現場に出てくるのは戦闘員のみ。避難誘導には警察組織や自衛隊があたるが、奴らも誰一人として《希望》の戦士たちのアジトは知らなかった。首脳陣なら話は別だろうが、いかなる手段によってかスパイにもかからぬ。拉致は不可能と結論が出ている」
「はい、存じ上げておりますわ。けれど、わたくしが拉致しようとしているのは、まさにその戦闘員ですの」
「何……?」
疑問を呈したメンバーは、顔を見合わせ、円卓の間を揺るがすほどの笑い声を放った。
露骨に過ぎる嘲りに、ドクター・ブラックウィドウは一切表情を崩さない。冷たい8つ目は、むしろ嗤う者たちを見下しているようですらある。
「ついに狂ったか、ドクター! それができれば苦労はしない。奴らは既に単騎でも我らが軍勢に対抗できる力を持ち、それが密に連携している。簡単に拉致できるのなら、とうの昔に捕らえて隅々まで調べつくしておるわ!」
「それとも色仕掛けでもするつもりかね? 正義の味方気取りでも、性には弱いと?」
「まあ、似たようなものではありますわ。ともかく、静粛になさってくださいな。今からプレゼンをさせていただきますので」
マニピュレーターのひとつが指を鳴らすと、円卓に球状のホログラムが浮かび上がった。
表面にいくつものプレゼン資料を浮かべたそれらは、己の肢体をじっくりと晒すポールダンサーのように、官能的な速度で上層部の前を移動する。
「まず戦闘力においてですが、こちらは対処可能ですわ。そちらは採取したデータをもとに製作した、各《希望》の戦士を完全に対策するアイテムのリスト。これを効果的に用いれば、ゆくゆくは全員を無力化できますわ。次に、敵の連携について。確かに《希望》の戦士たちは必ず二人以上で出動しておりますが、全員が全員互いをカバーできるわけではありませんわ。与しやすい相手も何人かおります。そちらが候補者のリストと、対応するアイテムの一覧表ですわ」
蠱惑的な甘い声を沁み込ませるようなプレゼンと、次々現れる詳細なデータの数々が、徐々に上層部から嘲りの感情を拭い去っていく。
アイテムリストの方には具体的な形状や効果の解説や使い方が不随し、どれも一兵卒でも簡単に扱え、それでいて《希望》の戦士を封じ込めることができるものだと論理的に記されている。さらには捕縛装置も用いた作戦立案書の数々、捕獲後の洗脳・利用プランまで。
ついさっきまでドクター・ブラックウィドウを侮辱していた者たちは、早々に彼女の言葉が大言壮語ではないことを理解していた。それでも今は理屈にすぎない。ゆえに、この言葉が出た。
「可能なのか?」
「はい。許可をいただければ、すぐにでも決行いたしますわ。そちらのプランにある通り、相手によってはそれなりに時間がかかりますけれど」
悠然と、気品ある物腰で、断言する。
上層部はしばし視線のみで互いの意見を伺い、交換し合い、高速で思考し―――やがて、頷いた。
「よかろう、ドクター・ブラックウィドウ。まずはお前の手腕を見せてもらうぞ。ここまで口にした以上、失敗の言い訳は一切聞かんが、構わんな?」
「構いませんわ。必ず従順なしもべとなった《希望》の戦士を皆様の前にひざまずかせることをお誓い申し上げます」
「だ、そうだ。諸君、反論は?」
否の声など、あろうはずもなかった。
すぐにその場の全員が承認し、ドクター・ブラックウィドウに正式な命令が下される。優雅に一礼したドクター・ブラックウィドウが退出する間際、最後の質問が出た。
「ひとついいか。ドクター、一体誰から狙うつもりかね? 念のために聞かせてもらおう」
「失礼いたしました、私としたことが。最も崩しやすい戦士を見出しておりますので、まずはそちらから。多少の時間と数回の出撃を要しますが、確実に捕らえて参りますわ。……これを」
パキン。鉄の指が鳴らされるとともにプレゼン資料がすべて消え、一枚のバストアップが現れる。
被写体は長い金の髪に稲妻を走らせた華奢な少女―――サンダーソニアその人だった。
次から本編入るからね!!!!!!