目覚めると、緑の布でできた天井が見えた。
全身を異常な倦怠感が包んでいる。ゆっくりと、しかし力尽くでベッドに埋め込まれていくような―――とにかく、体を起こすのがやけに億劫だった。
(どこだここ。オレはどうなって……)
自問の答えは、フラッシュバックが持ってきた。
ガルマディオが仕掛けた罠を回避したところを虫型の女怪人たちに襲われ、撃破した隙をつかれて捕まったことを思い出す。全身から雷を無理やり絞り出され―――倦怠感の理由はそれか?―――そのまま気を失ったのだった。
「ぐっ……!」
記憶と一緒に、あの時の怒りが屈辱を伴って蘇る。
ハメられたことよりも、宿敵を前にして晒した無様の数々が腹立たしかった。深手は与えたとはいえ、止めをさせず、挙句殺されてもおかしくないのに見逃されるなんて。これ以上にむかつくことがあるか。
まだ寝ていたいとゴネる体を強引に起こすと、簡素なベッドに横たえられていたことがわかる。どうやら自衛隊か何かが急ごしらえで作ったテントの中のようだった。少なくとも、ガルマディオが作ったものじゃないらしい。随分長く寝ていたせいか、やたら喉が渇く。声も変だ。
とにかく外に出ようかと考え始めたところで、テントの入り口が開かれた。入ってきたのは、ひょろりとしたいかにも理系大学生でございといった感じの青年で、眼鏡をかけた目でこちらを見るなり反応に困った顔をする。
「あ、おはよう。……えーと、大丈夫かい?」
「支倉か」
「ぼくのことはわかるんだね。よかったよかった」
サンダーソニア(もとい宗次)を情報面で支える相方は、安堵して相好を崩す。普段は《希望》の戦士を束ねる組織の基地に詰めている白衣の姿は野戦テントとはどうもミスマッチで、おかしな雰囲気だ。
「お前、なんでここにいる。ていうか、ここはどこだ」
「君が出動した区域の近く。途中で通信切れたし、街中で倒れてたから居ても立っても居られなくってね。それでその……なんというか……」
支倉の途中が急に要領を得なくなった。怪訝そうな視線をくれてやると、一層そわそわし始める。
「なんだよ」
「なんだと言われてもね。……あー、えーと、今の状況はわかってる?」
「オレは負けた。だろ」
「そう、そうなんだけど、他に何か気づかない?」
「あ゛?」
あまりに容量を得ないので、つい口調を荒げて睨んでしまう。女怪人にやられた苛立ちも多分に含まれていたことだろう。支倉は軽く震え上がると、白衣のポケットから何か取り出した。差し出してきたそれは手鏡だった。
「鏡? んだよ、オレの顔になにかつい……て…………」
時が止まる。鏡に映った顔が、一瞬誰のものだかさっぱりわからなかった。長く伸びた黒い髪、桃色の唇、大きな青い瞳、線の細い頬。そこにあったのは、見慣れた伊那垣宗次のものではない。というか、男の顔ですらない。どう見ても少女のものだった。
「…………は?」
鏡の中で少女が自分の頬に触れる。すぐさま鏡を投げだして自分の体を見下ろせば、変身前に着ていた簡素なシャツとズボンに覆われていた。だが、サイズが致命的にあっていない。シャツは肩に引っかかっているだけ、ズボンに至ってはベッドに腰かけているから体裁を保っているようなものだ。しかも、シャツの隙間からは未発達ながら確かな膨らみが―――。
宗次だったはずの少女は弾かれたように立ち上がり、支倉の胸倉をつかむ。宗次の方が身長が高いはずだが、今は支倉の胸板ほどしかなかった。
「支倉! どういうことだこれはァ!!」
「お、おおお落ち着いて! ぼくだってわかんないよ! あとズボン!」
しどろもどろに指摘され、宗次はズボンがずり落ちていることに気づく。腰骨にギリギリでしがみついたトランクスと床に落ちたズボンを見るなり、急に羞恥がこみあげてきて慌ててベッドに逃げ込んだ。
引き上げたズボンに隠れ行く足はほっそりとしていてムダ毛の一本もない。しかもズボンをつかむ指には、ちゃんと変身アイテムである指輪がはまっていた。変身前も指輪も変身前。だが姿形は少女のもの。宗次の頭は怒りとも混乱ともつかない感情で大荒れしていた。
「なんだよ……どうなってんだ!」
「それがぼくにも何が何だかわかんなくて。見つけた時にはその姿で倒れてたんだ。最初は君だって気づかなかったけど、《希望》の指輪がついてたからね。顔もサンダーソニアと瓜二つだったし」
食ってかかられたせいか、支倉の声は少し震えていた。だが宗次、あるいはサンダーソニアにそんなことを気にする余裕は全くない。信じたくない気持ちでもう一度鏡を見るが、事実は変わらなかった。否、さっきは女の顔に気を取られて気づかなかったものが目に付く。紫に光るラインが入った黒い首輪だ。
「この首輪については、なんか知ってるか」
「それも君を見つけた時についてたよ。やっぱりそれのせいかい?」
「だろうな」
口惜しさに歯噛みしてしまう。今にして思えば、襲ってきた三人組までもが囮だったに違いない。最初のコンテナトラップでとらえられればそれでよし。避けられても三人組でたたきのめし、それでもだめなら蜘蛛女が無力化し、首輪をつける。誘拐できる状況で、わざわざ首輪をつけただけで見逃す理由は―――どうせ、ろくなものではあるまい。
通信切断からの一部始終を交えながら推測を話し、なおも首輪を取ろうと悪戦苦闘するが、結局びくともしなかった。
「とれるわけ、ねえよな。普通に考えて」
「ぼくもさっきまで色々試したけど、無理だったよ。鍵穴なし、継ぎ目なし、解析しても何もわからない。ガルマディオのアイテムを現代の技術で解析できたことなんてないから当たり前だけど。ていうか、無理して取んない方がいいと思うよ。爆発するかもしれないし」
「ねえだろ」
ぐいぐいと首輪に力を込めながら断言する。首輪で爆殺したいなら、気絶したときに殺しているはずだ。最後のセーフティとして備えている可能性はないとは言えないが……。
「でもやっぱ、手間に合わねえよな」
「だねえ。てことはだ、君に生きて何かしてほしいんだろうね。例えば、その首輪に発信機だの盗聴器だのを仕掛けてこっちの本拠地を探るとか」
「あるな……あとはオレのご同輩の素性を探るとかか」
「君の素性もついでにね。サンダーソニアは一番謎が多いし」
考えれば考えるほど、自分の迂闊さが呪わしくなる。宗次とは似ても似つかぬ少女の姿。雷の速度で現れ、消える。女に変身しているなどと知られたくないし、なんならまだ受け入れ切れていない宗次にとって、正体の秘匿はどうしても必要だ。しかし秘密こだわるあまり、連携を怠った。それが付け入る隙になるとは。
「とにかく、その首輪をもう少し詳しく見せてくれないか。君が起きてから、何か変わってるかもしれない」
「手短に頼む。すげえ疲れたんでな」
「あ、やっぱり? じゃあ失礼してっと……」
支倉はおとなしく顎を上げた宗次の喉元に顔を近づける。どたばたしていたから気づくのが遅れたが、宗次が気絶していた間は黒一色だった首輪は今や紫に光る模様を浮かび上がらせ、不気味な存在感を放つ。
そして―――仕込まれた悪意は、今この時をもって動き出した。トクン、と鼓動のような光の波動が、支倉にだけ見えた何かが、彼を制止させた。
「……? おい、支倉?」
唐突に固まった支倉に声をかけるも、返事がない。怪訝に思って視線を少し下げたところで、宗次の視界が支倉の顔でいっぱいになった。
「んむっ!?」
声がうまく出ない。いや、それ以上に何かおかしい。唇にぬるい熱を持った柔らかいものが押し付けられ、勢いよく吸い上げられる。ほんの一秒のフリーズを経て、宗次は気づく。キスされたのだ。支倉に!
「んんっ! んーっ! んーっ!」
驚いてどかどかと殴りつけるが、支倉は動じない。どころか、手に伝わる感触も変だ。力がこもっていない。その理由に思索を巡らすこともできず、宗次は遮二無二拳を振り回した。それでも意味がないと悟ると、なんとか顔を引きはがそうとする。だめだ、支倉の力が強い。見るからに非力なギークに対抗できない。
「んっ、んぐああああああっ!」
全力を振り絞った頭突きが鼻づらを撃ち抜き、どうにか支倉の顔を外すことに成功する。宗次は怒りのままに支倉の頬をぶん殴り、尻もちをついた彼を激しく踏みつけた。
「っっっざけんな! 何してんだこの変態! クソが! 死ね!」
「だっ! あ痛! ちょ、ちょっと待って、いきなり何するのってか変態って何の話……いだだだだ、待って、やめて!」
「るせえッ!」
怒りに任せて蹴り上げたつま先が支倉の下顎に直撃する。ひっくり返る彼のことなど見向きもせずに、宗次はテントから飛び出した。騒ぎは外まで聞こえていたと見えて、視線が集中していたが、振り切って走り出す。
キス。キスをされた。支倉に。なんでだ? オレは男で、あいつも男で―――。
混乱したまま口元を抑える。自分の柔らかな指先の感触が意思とは裏腹に接吻を思い起させた。
わけがわからない。パニックに陥ったままただ走っていると、柔らかくしっかりしたものにぶつかって弾き飛ばされた。
「うおっ!?」
「わっ!」
衝突したものからも声が上がる。数歩よろめいた宗次が見たのは、スタイルのいい女だった。
茶髪のポニーテールと、何かスポーツでもやっているらしいラフで動きやすそうな服装。一目でかなり動けることがわかった。年齢は、大学生ぐらいか。どうやら前に人がいるのもわからないほど動転してたらしい。
「わ、悪ぃ……怪我してねえよな」
謝罪する声のトーンがやたら高い。今まではほとんど戦闘中でしか聞いたことのないサンダーソニアの声を改めて聴くと、あまりにも少女的過ぎて吐気がした。
さらにただでさえ自分に起こったことで頭がいっぱいな宗次に、思いもよらない一言がかかる。
「サンダーソニアちゃん?」
「あ?」
「やっぱり! サンダーソニアちゃんだよね!?」
素早く手を取られる。嬉しそうな顔で覗き込んでくる顔に、いまさらながら見覚えがあると気づいた。
サンダーソニアをちゃん付けで馴れ馴れしく呼ぶ、ポニーテールの女。まさか―――。
「ヴァイオレットアーク……か?」
「やっぱり! こっちの姿で会うのは初めてだよね。よかったー、無事で」
宗次は抱きしめられた。ボリューミーな胸に顔をうずめられ、息ができなくなる。
「むぐう! は、離せ……!」
「私が戦ってる間に連絡が途絶えたっていうから心配してたのよ。このあたりに運び込まれたって聞いたから様子を見に来たんだけど……あれ、なんか服変じゃない? なんでこんなだぼだぼの、っていうかえっ!? ちょっと!?」
「離れろっ!」
拘束をなんとか振り払う。息が随分と上がった。両肩にのしかかる疲労を意識から追いやりながらヴァイオレットアーク―――今は別に本名があるはずだが、知る気もない―――を見上げた。身長は男の時なら並ぶくらいのはずだが、少女体では見下ろされる位置だ。それがひどく腹立たしい。
あからさまに不快感を表す宗次だったが、ヴァイオレットアークはといえばどこかぼうっとした目つき。その視線が首輪に向いていることに、支倉と同様ヴァイオレットアークにしか見えない光の波動を見ていることに、宗次は気づけない。
とにかく離れよう……と後ずさるより早く、ヴァイオレットアークは宗次の体を抱き上げていた。お姫様抱っこだ。
「女の子がなんて恰好してるの! ほら、行くわよ。捕まって」
「なっ、ふざけるな! おろせよ!」
走り出したヴァイオレットアークの腕の中で宗次は抵抗しようとする。が、起きるのすら億劫な消耗を誤魔化していた怒りの力も底を尽きたようで、できたのは反抗のポーズをとった無力な藻掻きだけだった。
指先にも力がこもらなくなった宗次はたちまちヴァイオレットアークの部屋へ連れ込まれ、ベッドに寝かされる。薄気味悪いほどに甘い匂いを嗅いでも、脱力した体は芋虫のように身をよじることもできない。
せめてもの抵抗として眠らないように努めていると、帰宅後即座に出ていったヴァイオレットアークが大きなビニール袋を手に戻ってきていた。疲れのせいか、時間感覚はとうに機能をほっぽり出している。目覚めてからどれだけ経ったのか……考えている間に、ヴァイオレットアークが体を抱き起した。
「それじゃ、脱がすよ」
「あ? ……あァッ!?」
ぎょっと目をむく宗次は、あれよあれよという間に服をはぎ取られた。力の抜けた体では妨害もままならず、靴下と首輪を除いて全裸にされる。男物の服を奪ったヴァイオレットアークは不思議そうに首をかしげる。
「なんで男物の服着てるのかと思ったけど、パンツまで……やっぱりブラもしてないし。買ってきといてよかった。なんて恰好してるのよ」
「う、うるせえっ……余計なお世話だ」
唯一自由に動かせる口だけでどうにか反抗するが、その言葉も弱々しい。もしかして、まさか、と思いつつテントの中では確かめられなかった部位―――股間にあるはずのものが消えたショックが、完全に女の体になっているという事実が、嫌っていたヴァイオレットアークに服を剥かれたこの状況が、恥ずかしくて仕方なかった。しかも手近な毛布を引き寄せて体を隠すこともできないことが惨めな想いを煽り立てる。
奥歯をかみしめ辱めに耐えていると、ヴァイオレットアークが宗次をじっと見つめていることに気づいた。
「何見てんだよ……っ!」
「んー、綺麗な肌してるなーって思って」
「見るな!」
「そう言わないで」
ヴァイオレットアークの手が無防備な腹を這う。生暖かい柔らかさが、巨大な芋虫が体を蹂躙しているような感覚が背筋をうすら寒くした。腹筋がぴくぴくと細かく波うつ。
「すごい、やっぱりすべすべ。あー」
宗次を辱める女の顔がとろんとしたものになる。その眼付が妙な熱を帯びていることを、目を閉じて耐える宗次が知るすべはない。ただシーツをつかんで耐えるのが限界な今の状況は、とにかく拷問じみていた。
やがて何かのスイッチが入ったヴァイオレットアークは宗次ごと自分を布団で覆い、脱力して軽くなった少女に背を向けさせる。耳の裏にかかる生暖かい息が宗次に生理的嫌悪を湧き上がらせた。
体をまさぐる両手は、やがて膨らみかけの胸に向かう。ピンク色の乳首をきゅっとつままれた瞬間、宗次の喉から信じがたい声が出た。
「ひぁぁっ!」
「サンダーソニアちゃん、すっごい可愛い声……乱暴な言葉遣いなんてしなきゃいいのに」
「誰が可愛いだっ! やめろ、つまむなそんなとこ! くりくり、するなぁぁ……っ!」
きゅっきゅっと色々な方向に引っ張ったり、指の腹でこね回したり。乳首がもてあそばれるたびに腰が震え、甲高い声を絞り出される。嫌いな女になった自分の体を忌避し、まして邪な思惑で触れたこともない宗次にとって、それは未知と恐怖に彩られた体験だった。
小刻みにあえがされ、乳首を前方にきゅうっと引っ張られる。ろくに動けないはずの体が弓なりに曲がって、閉じた瞼の裏で火花がはじけた。
「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
股間が熱くなり、ぷしゅっと熱い液体が内ももにかかるのを感じた。ヴァイオレットアークは片手を股間に移し、確かめるように撫でくりまわす。本能がそこに触れられてはだめだと悲鳴を上げた。
「すごい、もうこんなに濡れちゃった。乳首、好きなんだ」
「好きじゃねえ、好きなわけあるか! やめろ、そんなとこ触るな! やめろやめろやめろ!」
苦しむ芋虫のように身をよじりながらの制止は、当然ながら聞き入れられない。男のソレの代わりにできた小さな突起をつままれ、長い指がするりと熱い蜜で濡れぼそった穴に入れられる。皮をむかれた突起の頂点を親指でこすられた宗次は、壮絶な声を上げてのけぞった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「ここも弱いんだねー。声、とんでもないことになってる。イキそう? それとももうイッちゃってる?」
「止めろ! 止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
喉が裂けんばかりの絶叫を上げた次に瞬間、宗次は脳が真っ白に爆発するような感覚を味わった。
股間から流し込まれた快楽の情報量は処理能力をはるかに上回り、オーバーフローさせる。背中を限界まで反らせておとがいまで跳ね上げた宗次はブンブンと首を振って、内股の足を震わせながら無様なダンスを披露する。
ヴァイオレットアークは指に力を込めて追い打ちをかけた。勃起した突起を強くつねり、ぐじゅぐじゅにとろけ切った穴の肉を押す。容赦のないもう一撃に宗次は声すら出せなくなり、やがて意識はプツンと途切れた。
ククク……ここからが本番だぜ