シャワールームから運び出された宗次は、胎児のように体を丸めたままベッドの上にそっと横たえられた。
今の彼の心は、先日ヴァイオレットアークに味わわされた屈辱と快楽のフラッシュバックに対する本能的な怖れと、それをなにが何でも認めたくない気持ちで激しくせめぎ合い、激しい混乱によってかき乱されている。ほとんどフリーズに近い形で凍り付く宗次を、その状況に追い込んだ張本人が優しく撫でた。
「大丈夫? ちょっと刺激が強すぎたかしら」
どこか恍惚とした声を出す女の手を払いのける。裸で膝を折り曲げ、頭を抱えた姿はあまりにも弱々しい。
だが宗次にとっての真の悪夢は、ここからが始まりだった。
女はさりげなく宗次と同じベッドに入り込むと、小刻みに震える背中に指を這わせる。鳥肌を立て、這うようにして逃げようとする宗次を捕まえて無理やり抱き寄せた。すべすべとした肌同士がくっつき、女の暖かく柔らかな胸の感触が背中に伝わった。
「や、やめろ……何する気だ……」
「えっちなこと。そう怖がらないで。体に力を入れてたら気持ちよくなれないわ」
するすると女の手が脇腹を滑り、腹側にやってくる。下腹部に向かいかけたところで手首をつかみ止めるが、うなじに息を吹きかけられて指を緩ませた隙に恥部まで一気に侵入された。手に力を籠めなおした時には、女の中指が膣内に挿れられたところだった。
「んうぅぅぅ!」
「緊張してるわね。大丈夫、怖くないわ。ゆっくりゆっくり受け入れて」
ゆっくりと折り曲げられた指先が粘膜を刺激し、指の腹で引っかくように出し入れを繰り返される。まるで膣奥に眠る快楽を呼び起こすような指使いは、ヴァイオレットアークの興奮に任せたそれとはまるで違う。
中指を引き出されるたび、宗次は軽くのけぞりガクガクと痙攣した。
「あ、ああああああああああ……! やめっ……だめだ、これ、だめっ……!」
「いい声出てきた。その調子その調子。荒っぽい言葉遣いより、可愛い声でだめだめ言ってる方が似合うから」
指の動きが徐々に早まる。力いっぱい女の手首を締め上げ、止めようとしているはずが、気づけば一緒になって手を動かしている自分がいた。中指が体内をほじくる間、空いた親指が時折突起をくりくりと刺激する。
耳に甘噛み、首筋にキス。薄い胸を膨らませるように揉まれ、甘い声を絞り出される。その感覚は、性的なことを忌避し続けてきた宗次の理性を強く揺さぶり、崩そうとしてくる。
聞こえてくるのが自分の声? そんな馬鹿な。信じられるはずがない。
「あら? 声が随分高くなってきたけれど……もしかして、やっとその気になってくれたのかなぁ?」
「~~~~~~~~~~っ!!」
ぐりっ、と突起をねじり上げられて眼がチカチカし始めた。混乱渦巻く脳に流し込まれたピンクの電流が、加速する女の手の動きに煽り立てられていく。
まともに頭が動かなくなり、視界が白くなっていき―――。
「ま、ずい……だめだ、やめろやめろやめろ……っくううううううううううううううっ!」
びくんっ! ぷしゅっ、がくがくがくっ。
脳天を突き上げる感覚が宗次の呼吸を持っていく。二度目だ。女の体で二度目の絶頂。否応なしに思い出されるヴァイオレットアークに犯された時の記憶が快感の濁流と一緒になって宗次の脳を洗い流した。
女の手は止まらない。むしろ激しく強張った宗次の体を責め、連続でイカせにかかる。もはや宗次に耐える術はなく、あっさりとマルチプルオーガズムを迎えてしまった。
「かはっ……うぁぁっ……」
「っと、やりすぎちゃったかな」
女はうつろな表情で呻き、小刻みに震える宗次を抱き寄せる。愛おしげに髪をなで、シャンプーの匂いを嗅ぎ、うっとりと眼差しをとろけさせる。現実と絶頂の衝撃を受け入れきれず、放心しきった宗次もろともシーツをかぶり、逃がさぬように抱きしめたまま眠りについた。
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「……で、この子を迎え入れるって?」
「そう! 口は悪いけど、才能あるしいいと思うの」
「ふうん。ま、確かに可愛くはあるかも。この格好、似合ってるし」
「体も敏感なんだって? 開発したらいい感じになるかも」
好き勝手に話す声で、宗次は目を覚ました。否、覚めていない。瞼を開けても視界は真っ暗だった。
一体どうしてしまったというのか。記憶が曖昧で何があったのか思い出せない。思い出したくない。頭が重く、体もだるい。足元もふわふわしているようで―――いや待て。今どんな体勢になっている?
「むぐっ、んぐぐぐぐぐ」
しゃべろうとして、口が動かないことに気づく。舌も何かに押さえつけられていて動かない。手を動かそうとすると、頭上でチャリチャリと金属音が聞こえてきた。立っている―――立たされている? その割にはつま先にしか感触がない。自分の状況を確認するにつれ、宗次の背中を冷たくなり始めた。
そこへ近づいてくる足音。頬に触れる手のひら。
「気が付いたのね。おはよう、気分はいかが?」
「んんっ! んんんんぐ! むぐぅぅぅぅ!」
聞こえてきた声に拒絶反応を起こし、首を振って手を振り払う。本能的に思いだすことを拒否していた記憶があっさりと、鮮明に呼び起こされた。
だったら、この状況は、まさか。
自分を無理やり連れ込んだ女とは別の声が口をはさむ。
「そんな体勢でいい気分な訳はないだろう? ねえ、兎さん」
兎さん? 妙な呼び方をされ、呻き声で聴き返してしまう。少し低い声の持ち主は宗次の背後に回り込むと、両肩に手をのせた。手のひらの温度が肩に伝わり、ぞわっと総毛立った。そこで気づく。素肌と素肌がふれあっている感触。つまり、肩がむき出しになっているという事実に。
口をはさんできた誰かは宗次の耳に口を寄せ、色気を含んだ声で囁いた。
「バニースーツ、よく似合ってるよ」
「!?」
動揺が宗次の頭を撃ち抜いた。視界と口をふさぐものを振り払おうと首を振り、身をよじる。だが結果は頭上で鎖の音を鳴らしただけだった。
両手を頭上で拘束された宗次の体は、黄色いバニースーツに包まれていた。臀部から足先までを覆うのはしっとりとした質感のタイツであり、つま先立ちを強制された足にはハイヒールを履かされている。ゴム製の黒いボールギャグを噛んだ口の隙間からうめき声を漏らし、体をくねらせる姿は滑稽で、煽情的だ。
「ふふっ、慌てちゃって可愛いなあ。そんなにばたばたすることないじゃないか。いや、目隠しされてたらわからないか」
「鏡の前でどうなってるのか、見せてあげたいなぁ。でもまだ目隠しは外してあげられないのよねー」
甘く間延びした声が正面から迫ってくる。股からジィィィと不吉な音がした。
待て、そこは―――!
「んふうううううううううううっ!」
にゅるんと白魚のような指が滑り込み、中の柔らかいところを押す。真っ暗な視界に白い火花が弾け、思わず体をくの字に折った。足をぎゅっと閉じ、それ以上の蛮行を防ごうとするが、弱いところを不規則なリズムで押されると防御はあっという間に陥落する。
たちまち膝が笑いはじめ、びくびくとし始めた宗次の胸に布を剥がされる感触が走る。それだけでひりつくような快感が乳首と下乳を覆い、上下で強弱のついた快楽を与えられてすぐさま前後不覚に陥った。
だめだ、意識を保て、抵抗しろ。あんなのを三度も味わってたまるか。残った理性をかき集め、ボールギャグを強く噛んで耐えようとする宗次の耳に優しく吐息がかけられる。背後に回った声の低い女だ。
「何を我慢してるんだい? 昨夜は可愛い声で鳴いていたんだろう? もっと鳴きなよ。上も下もよだれだらだら垂らして乱れていいんだ。さん、はいっ」
「ぐむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
敏感なところに力を入れられ、あっさりと絶頂してしまう。鉄砲水にさらされた砂の城のように、宗次の思考は真っ白に吹き飛ばされた。
両足をピンと伸ばして突っ張り、エビぞりになって痙攣する間も責めは止まらない。うなじと両脇にキスをされ、腹部を強めに愛撫され、鼠径部をカリカリと引っかかれる。発生するゾクゾクする刺激が敏感なところに集まり、つねり上げられた秘芯から発散された。
時間の感覚が消し飛び、自分のくぐもった嬌声だけが遠く響く。
身体が壊れる。脳が煮崩れる。このままじゃ―――おかしくなる。
危機感は内心の絶叫に変わり、獣のような息遣いに悲壮が混じる。限界まで絞り出した声は、とても男のものとは思えなかった。
一体いつまでそうやって責められていただろう。ようやく解放されたことに気づいたのは、いつの間にか全身を苛む快感が残響となって薄れていった頃だった。
「んっ……んん……んぅ……」
「あ、戻ってきたかな。おーい、生きてる? 息してる?」
ハスキーな声に問いかけられるが、反応すらままならない。ぬれぼそった内股をすり合わせ、項垂れたまま震える宗次は、心身ともに疲弊しきっていた。
「やっぱり少しやりすぎちゃったかしら」
「調子に乗りすぎたかもね。兎ちゃーん、生きてるなら返事してー。ギャグ外してあげるから」
言葉通り、口に詰まっていたゴムボールが取り除かれる。粘液が糸を引く気配すら過敏に感じ取れる。慌てて首を振り、糸を切ると、宗次はほんのわずかに残った気力を振り絞った。
「いっ……いい加減にしろぉ……っ!」
力いっぱい怒鳴ったつもりが、弱々しい声しか出ない。顔が熱い。頭が煮えたぎる。体に力が入らない。心も既にボロボロで、それでも宗次は反抗的に吠えた。
「いきなり、こんなことをして……頭おかしいんじゃないのか……!? はぁっ、それにオレは……雌じゃない。オレは男だ!」
息が苦しい。ただ主張するだけなのに、心身から力を振り絞らなければならなかった。
周囲がしんと静まり返る。数秒後、ぷっと噴き出す音を皮切りに、女たちはそろって大笑いし始めた。
「あははははははははは! 男ですって!? 馬鹿も休み休み言ってちょうだい!」
「どこからどう見ても女の子で、あんなに可愛く喘いでて、どの口で言うんだい!? 冗談もほどほどにしてくれよ!」
「ふふふふふふ! ここまでイカされても女の子の自覚がないなんて、悪い兎さんですね」
「言うに事欠いて男だなんて……もうちょっとマシな嘘を吐いたらどう?」
押し寄せる嘲笑の波が、宗次の心に張った最後の防波堤を容赦なく打ち据える。元は男であるという事実、自認、ずっと抱えてきた女性への拒絶感。それらがたった三度の凌辱によって揺るがされているという現実が、食いしばった歯の根を震わせた。
変身して全部まとめて吹き飛ばしたい衝動が燃え上がる。だが、指輪にはガルマディオの出現後にしか変身ができないようにセーフティがかけられている。今の宗次は、犯されるしかない無力な少女に過ぎないのだ。
「よしよし、ちょっとやりすぎたねー、怖かったねー。でも頑張ったんだね。兎さんはいい子」
「今日はもう終わりにして、ゆっくりしようか。えっちなしでたっぷり甘やかしてあげるね。ご褒美」
誰かの胸に抱きしめられ、優しく頭を撫でられる。心から嫌悪すべき相手に甘やかされ、宗次は強烈な眠気に襲われた。
眠るな。なんとか隙をついて脱出しないと、でないと―――。
そう思う心とは裏腹に、イカされ続けた頭はあっさりと眠りに堕ちる。
その後、膝枕や入浴、添い寝しながら耳元で「可愛いえっちな女の子」とささやかれ続ける間も、宗次は目覚めることができなかった。
そろそろ……『堕とす』ぜ……?