わけもわからず捕らわれ、慰み者にされてからどれだけ経っただろう。あの日から、宗次は毎日のように快楽責めを受け続けていた。
手技はもちろんのこと、道具も駆使して開発、放置、Pスポット責め―――ありとあらゆる形で犯され、イカされ、気を失う。時にはずっと寸止め状態でイカせてもらえないことすらあり、理性が崩壊する一歩手前まで快感を叩き込まれた後に「自分は男ではなくメスだ」という宣言を強要されたことすらある。当然、それは再起不能になる覚悟で拒絶しきったのだが、代償はかなり大きかった。
表向き従順になって取り入るという案もないではなかった。しかし、ただでさえ女性嫌いな宗次が、遠慮なく自分を凌辱する女たちに従えるはずもなく、反抗しては調教されということを繰り返す羽目になっている。
ただ、やられっぱなしかと言われれば、そういうわけでもなかった。
気を失う振りをして解放されることに成功した宗次は、自分を運ぶ女の首を隙をついて締め上げて失神させ、建物の中を素早く探索。四方八方から聞こえてくる嬌声―――どうやらここは風俗の店らしい―――に鳥肌を立てながら、なんとか自分のスマホを発見。服もバニー衣装よりもまともなものを見繕って、なんとか逃げ出すことに成功した。
「はぁ、はぁっ、くそっ……あのアマ、好き放題、んっ……やりやがって……!」
連日責められ続けた体のあちこちが熱を持ち、じんじんと切なく訴えてくる。加えて、今日も散々絶頂された後だ。夜風に吹かれるだけでピリッとした快楽の電流が走る。周りの視線が自然と集まるのも感じ取れた。
とにかく、今はどこかに身を隠したい。あんな目に遭うのは二度とごめんだ。逃げるようにその場を去り、近くの格安ビジネスホテルに飛び込みでチェックイン。部屋に入って鍵をかけ、備え付けてあった充電器でとっくにバッテリー切れを起こしていたスマホに充電する。
「電池切れするまで監禁とか……今何日だ。ガルマディオのクソどもは……」
机の隅に発見したデジタル時計を見て愕然とした。巡回と称して家を出たのは既に三週間も前。つまり―――。
「三週間も、ずっと凌辱されてた、だと……?」
口に出して、改めて脳が沸騰するような憤怒が湧き上がってくる。
恥辱、屈辱、自分を縊り殺したくなるほどの羞恥の数々。だが、それは肉体の疲労によってすぐに熾火ほどまで縮んでしまう。
宗次はため息をつくと、ひとまずシャワーを浴びることにした。全身にあの女たちのまとう甘ったるい匂いが染みついている。
あんな連中と一緒にされるのはごめんだ。苛立ちながら服を脱ぎ捨て、シャワールームに入ったところで、ふと洗面台の鏡に目が向いた。
透き通るような色白の肌をした、長い黒髪の少女が映っている。自分の体は何度も鏡で見る羽目になったが、何かその時とは違うような雰囲気を感じる。上手く言葉にできないが、そう、どこか艶っぽくなっているような―――。
そこまで考え、慌てて首を振る。一体なにを考えているのか。これじゃああの女どもと一緒だ。
さっさと部屋から出ることにして、シャワーの蛇口をひねる。すぐに降り注いでくるちょうどいい温度の湯を浴びながら、ボディソープを泡立て体に塗りたくっていく。染みついた匂いも、押し付けられた快楽もこそぎ落とすように、丹念に。その途中。
「ぁんっ!?」
信じられないぐらい甲高い声が出た。
丁寧にネイルをかけられた爪が乳首を引っかき、ビリッとした快楽の電気を流す。それだけでも宗次を驚かせるには十分だったのだが、さらなる追い打ちがあった。股間が熱を持ち始めたのだ。
「…………っ!?」
思わず浴槽の中で屈みこみ、内ももをきゅっと閉じる。乳首を軽く引っかいただけで飛び出した嬌声に加え、股間にほど近い下腹から熱い蜜があふれる感覚。きゅんと内臓が縮むような感触。これがなんなのか、したくもないのに一瞬で理解してしまった。
自分の体が、開発されてしまった。乳首を軽く引っかいただけで大声を出し、発情してしまうほどに。
「な、な、な……」
混乱が脳内を循環し、続いて恐怖が芽を伸ばす。
この散々弄ばれた体はどうなってしまうのか? まさか一生このままで、果てには心まで女に塗り替えられてしまうのか? こんな現状を嬉々として受け入れるように―――?
ゾッとするような考えに嫌々をするように首を振る。振り回された長髪が頬を、肩を、背中を撫で、耳をくすぐる。気が狂いそうだった。
勢いよく立ち上がってシャワーヘッドをつかみ、ボディソープを急いで洗い流す。水圧が肌に与える刺激を全て無視。バスタオルで痛みを感じるほど乱暴に体を拭き、脱ぎ捨てた服をまとうとベッドにもぐりこんだ。
「オレは男だ、オレは男だ、オレは男だ……!」
胎児のように体を丸め、何度も言い聞かせる。
そう、男だ。男として生まれ、育ってきた。今はこの首輪のせいで妙なことになってはいるが、外せば戻る。こんなのは違う。
しかしそうやって安堵を得ようとする宗次の心を、いくつもの女の声がかき乱す。さっきまで囚われていたレズ風俗の女たちが、毎日のように囁いてきた言葉が。
―――あなたは可愛い女の子。
―――体触られるだけでびくびくしちゃって、気持ちよくなる女の子。
―――ふうん、耳の裏まで敏感なんだぁ。えっちな子だね。
―――ちょっと首筋なでられただけで濡れちゃうんだもんなぁ、変態。
―――まだ男だって言い張るの? そんなウソ、もう通じないよ?
―――だってこんなに、えっちじゃない。
「違う、違う違う違う違う! 黙れ!」
頭を抱え、バタバタと暴れながらのたうち回る。目をつぶるだけでフラッシュバックする凌辱の感触。連日連夜、何時間も視覚を奪われた中で行われた調教が、闇に触れるたび体を襲う。
たまらなくなり、首輪をつかんで引き千切ろうとするが、当然無駄な努力に終わった。
羞恥と無力感、恐怖にからめとられそうな宗次の心は、逃げるように怒りと殺意を元凶に―――ドクター・ブラックウィドウへと向けた。
「殺してやる……! 草の根をかき分けてでも探し出して、必ず……!」
枕を殴りつけながら決意を新たにする。その姿は皮肉にも、泣き寝入りを受け入れられない少女のそれだった。
自分の肉体と幻聴との、あまりにも分の悪すぎる戦いの中は、スマホの着信音が破ってくれた。
跳ね起き、充電器が刺さったままのスマホに飛びつく。そこには支倉からの連絡が来ており、ちょうど望んでいた文言が書き連ねられていた。
『ガルマディオ出現、出撃を求む』
「来た……!」
宗次の顔に凶悪な喜色がにじむ。
いいタイミングで転がり込んできたチャンスに、迷わず飛びつく。来たのがドクター・ブラックウィドウなら話は早い。違っても、拷問してアジトを聞き出し乗り込めばいい。この首輪も、この体も、もうたくさんだ。
「『《希望》は―――この胸に』!」
黄金色の雷がまき散らされ、黒いインナースーツの上にジャケットを羽織った金髪の少女があらわになる。首輪がそのままなのは気に食わないが、ひとまず変身はできた。力も使える。ならばあとやることはひとつ。
「殺す!!」
雷光となったサンダーソニアは窓ガラスを突き破り、夜の街を飛翔した。
受けた屈辱の全てを、清算するために。
●
「あがっ! がっ!」
宙づりにされた男たちはその言葉を最後に動かなくなり、糸の切れた人形のように手足をだらりとさせた。
何もない虚空に、洗濯物のように等間隔に並んだ男たちを見上げ、ドクター・ブラックウィドウは天に突きつけた人差し指をくるくると回す。
玉座の代わりは屍の山。シャンデリアじみた首吊り死体。周囲のビル壁には爆散した肉の破片や引きずり出された骨が叩きつけられ、まるで背徳と死臭の城といった有様だった。
ドクター・ブラックウィドウの周りは黒蟻に似たデザインのスーツをまとった女戦闘員たちが数多くおり、アサルトライフル型の銃を手に周囲を警戒している。その様を眺めながら、テントウムシを思わせる鎧や盾を装備した女怪人がドクター・ブラックウィドウに声をかけた。
「ドクター……移動しなくてよろしいのですか? ヴァイオレットアークが進撃しているとの情報が入っていますが」
「問題ないわ。そちらの足止めは十分にできている。それに焦る必要はないわ、そろそろターゲットが来る頃合い……来たわね」
ドクター・ブラックウィドウが立ち上がると同時、死体の山の麓に落雷が落ちた。
眩い閃光と轟音がそこにいた黒蟻兵を跡形もなく消し飛ばし、アスファルトに放射状の焦げ跡を残す。その中央に片膝立ちで着地したサンダーソニアは、ゆらりと立ち上がり、憎悪と憤怒にまみれた瞳でドクター・ブラックウィドウを睨む。
「見つけたぜ……蟲アマ」
「時間通りね、サンダーソニア。迎えに来たわよ」
「ハッ」
鼻で笑い飛ばしたサンダーソニアの全身を黄金色の稲光が包み込んだ。
幸運にも突入時の攻撃から生き残った黒蟻兵、さらにドクター・ブラックウィドウに付き添うテントウムシ型女怪人が身構える。怒りで沸騰しきった頭でそれらを見まわしながら、サンダーソニアは結論を下した。
全員、一撃で葬れる。
手中に稲妻を一気に凝集し、振りかぶる。
一秒後、敵の全ては消し炭になる―――はずだった。ドクター・ブラックウィドウが、指をパチンと鳴らすまでは。
「っ!? ぐああああああああああああああああああああああっ!」
悲鳴を上げたのはサンダーソニアの方だった。
金色の雷が突如として禍々しい紫色に変化し、彼女の意思を無視して雷の塔を生み出したのだ。中心に飲まれたサンダーソニアがもだえ苦しむ影を見て、ドクター・ブラックウィドウはほくそ笑む。
「ここまで全て、計画通り。ふふふ、うまくいきすぎて、少し不安になってくるわね」
屍の山から飛び降り、音もなく着地する。
己に放たれるはずだった莫大な放電に向かって、スーパーモデルのような足取りで近づく間に、雷の塔は先細りになって収束していく。やがて紫の光が消え、サンダーソニアの姿があらわになると同時に腕を打ち振り、見えない糸を全身に絡みつかせて崩れ落ちそうな体を無理やり立ち上がらせた。
「思った通り、似合うわね。いい恰好よ、サンダーソニア……」
ニィ、と裂けるような笑みを浮かべるドクター・ブラックウィドウの声は届いていない。項垂れて荒く呼吸するサンダーソニアは、今起こった出来事に理解が追い付かず、茫然としてしまっていたからだ。
なんだ? 今何が起きた? その問いに答えるのは、鋭敏化した股から伝わる、断続的に雫が落ちる感触だった。嫌というほど味あわされた感覚。―――絶頂の感覚。
事実を受け止めきれない頭が思考を止めている間に、霞む視界が晴れていく。見下ろす視界に入ったのは、いつもの戦闘装束ではなかった。
黒いボディスーツの上に、紫のライン模様が入ったハイレグレオタードとハイソックスを身に着けた格好。上着はいつの間にか消え、あらわになった両腕には長手袋と枷がはめられている。首輪は胸元までを覆う不気味な装置と化しており、ぴたりと衣装と一体化していた。
徐々に脳が現状を飲み込むにつれ、サンダーソニアは目を白黒させるようになる。その様を見つめながら、ドクター・ブラックウィドウはうっすらとほほ笑んだ。
「着心地はいかがかしら? あなた専用に作った特製のスレイブスーツよ。これであなたは、私の奴隷。無力な女の子になったわけ」
「な……?」
「ふふ、理解ができない? あなたはもっと聡明な子だと思っていたのだけれど」
ドクター・ブラックウィドウのマニピュレーターのひとつがサンダーソニアの体に伸びる。本能的な危機を感じて下がろうとするが、全身を絡めとられた状態では身をよじることもままならない。
蜘蛛の巣に囚われた蝶のようにもがいている間に、ドクター・ブラックウィドウの機械の指が秘所にずるりと滑り込んだ。
「くぁぁっ!?」
「こっちもすっかりとろけてぐずぐず。下ごしらえも済んでるようで何よりだわ。あの子たちの手戯も侮れないものね」
「はぁっ、はっ! やめろ、抜け! 抜けよぅっ……!」
唯一自由になる首を振りながら暴れるサンダーソニア。その惨めな姿を、黒蟻兵たちがあざ笑う。
遥か昔に植え付けられたトラウマと、最近ねじ込まれた新しいトラウマが快楽と混じり合い、頭を狂おしいほどかき乱す。ぐいっと機械の指が曲げられ、膣の内側を強く圧されるとともに、サンダーソニアは再度絶頂した。
声なき絶叫とともに、大きくのけぞる肢体。辛うじてかみ殺した嬌声が、食いしばった歯と歯の間から漏れ出し、ぶるりと震えた腰が砕ける。しかし、倒れ込むことはおろか、膝をつくことすらも許されない。
目の前が真っ暗になりかける。理解したくない現実が、大口を開けてサンダーソニアを飲み込もうとしてきた。ドクター・ブラックウィドウの残るマニピュレーターが全て、サンダーソニアの肢体をもてあそぼうと迫ってくる。
だが鉄の手のひらが触れる寸前、二人の頭上を紫電が射抜き、ビルの外壁を叩き壊した。それは、殴り飛ばされ潰された怪人の肉体。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
威勢のいい咆哮と共に乱入してきたのは、ヴァイオレットアークだった。
即座に反応したドクター・ブラックウィドウが指示を飛ばすなり、黒蟻兵たちが一斉に銃を発射する。稲妻の残像を引くジグザグステップで弾幕をかいくぐり、肉薄しようとするヴァイオレットアークを小規模な爆発の連鎖が無理やり止めた。
テントウムシ型の女怪人が立ち止まった一瞬のスキに投げ放ったビー玉サイズの小型爆弾を、ヴァイオレットアークは素早いバックステップで回避。怪人たちとヒロインは互いに見合い、リーチを推し量る。その最中に、ヴァイオレットアークは囚われたサンダーソニアの姿を見て取った。
「サンダーソニアちゃん! 無事!?」
「『無事?』ですって。頭の足りない相棒を持つと苦労するわね、サンダーソニア」
ドクター・ブラックウィドウはサンダーソニアの背後に回り、彼女の体を見せつけるように愛撫を始める。
敏感になったサンダーソニアの体は拘束の中でびくびくと反応をし始めた。
「ぁっ……うぁっ……!」
「ほら、いい声。それともこれが無事な姿に見えるのかしら?」
「お前ぇぇぇぇぇぇっ!」
激昂したヴァイオレットアークが紫電の拳を振りかぶって殴りかかった。が、テントウムシ怪人が小型爆弾を投擲し、命中寸前で爆ぜる。広がる黒いネットに危機を感じて素早く飛び下がった。そこへ黒蟻兵たちが銃撃を浴びせ、ヴァイオレットアークに近づけさせない。
迂回、跳躍と別の手段も試みるが、ネットの弾幕が激しい。どうしてもサンダーソニアに接近できない。
四苦八苦しているさまを見ながら、ドクター・ブラックウィドウはサンダーソニアを責め続けながら淫靡に囁く。
「ふふ、がんばるわね、あの子。そんなにあなたが気に入ったのかしら。懇ろだったものね」
「うる、せぇっ……!」
「あの子からはどう責められたのかしら。せっかくだから、再現してみようかしら。教えてちょうだい?」
「……っ!」
サンダーソニアは、耳にかかる吐息すら汚らわしいと言わんばかりに激しく暴れようとする。しかしつままれた乳首やクリトリスが、マニピュレーターの指から逃れられずにさらなる快楽を生んだ。
イキかける。潮が噴き出す。必死に押し殺しても甘い声が漏れ出てくる。目端で凌辱の様を見たヴァイオレットアークは、稲妻をまとってハイジャンプ。飛び蹴りを叩き込もうとする。
「やめろおおおおおおおおおおおおおっ!」
流星のごとき蹴りはギリギリでサンダーソニアを避けて背後のドクター・ブラックウィドウに命中する角度。しかしビームシールドを構えた黒蟻兵たちがその射線に割り込み、蹴りをガードし跳ね返す。
バク宙を繰り返して着地したヴァイオレットアークはすぐに真横に転がった。彼女のいた場所をネットボムが何度も爆ぜた。
「ぐっ……!」
「このあたりが引き時かしらね」
ドクター・ブラックウィドウは背後に機械の球体を放る。ボールは青黒い光のゲートを生み出した。ヴァイオレットアークがとっさに駆け出す。
「待て!」
「待つのは貴様だァ!」
テントウムシ型怪人が投げた小型爆弾が連続で炸裂し、とっさに防御したヴァイオレットアークの体を爆炎が包む。追撃の捕縛弾をかわすヴァイオレットアークの目の前で、ドクター・ブラックウィドウとサンダーソニアは青紫色の光に還元されていく。
とびかかり、手を伸ばそうとするが、敵に阻まれて叶わないヴァイオレットアークに、わずかに顔を上げたサンダーソニアが何事か告げた。
「来る、な……」
「来るんじゃ、ねえ……見るな……!」
小さく、消え入るような声を最後に、二人はゲートに吸い込まれていく。
ヴァイオレットアークはゲートが閉じるのを前にして、咆哮を上げた。
長いぜ……こっからもな……