「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! がああああああああああああっ!」
苦悶に満ちた絶叫が、機械で作られた内臓のような空間に響き渡った。
床、壁を問わず大蛇のようなコードが這いまわるそこの奥に、半ば埋め込まれるようにして設置された巨大な卵型の機械。その表面に張り巡らされた蜘蛛の巣状の拘束ワイヤーに、サンダーソニアが体をX字に開いた状態で拘束されていた。
頭には鼻までを覆うバイザー付きヘルメットが被せられており、これはサンダーソニアから吸い上げた電気をエネルギーにして駆動する。そして首輪を通して身にまとわされた特殊スーツは、彼女が力を使うたびに、その強さに応じた快楽を体中に走らせる。
サンダーソニアは今や、拘束ワイヤーから強制的に雷を引き出され、卵型の装置を通じてヘルメットから特殊なパルスに変換されたものを叩き返されるという、永久機関じみた責め苦を味あわされていた。
絶頂が思考をまっさらにし、パルスが乳白色になった頭をかき乱していく。快楽を前に感じるのは、男としての尊厳を踏みにじられることへの屈辱と怒り、自分の存在を塗り替えられていくことへの強い恐怖。
快楽電流で何度も焼き切られた感情を、サンダーソニアは必死になってかき集めることでなんとか抵抗していた。助けが来るなどとは思っていない。ガルマディオの本拠地は、今までどんな手を使っても発見できなかったのだから。拘束され、力も実質封じられて、戦えるなどとも思っていない。
耐えるのは、もはやただの意地に過ぎなかった。
女として快感を味合わせるドクター・ブラックウィドウへの敵愾心。降って湧いた地獄のような三週間。己の戦う理由とアイデンティティ。そうしたものたちが、サンダーソニアに茨の道を歩ませていた。
「うぎっ!? ぐぅぅぅっ……ぐあああああああああああああっ!」
何度目かの絶頂。スーツにくっきりと描き出された股間が潮をまき散らし、痙攣する体が薄い乳房をふるふると揺らす。
恥部たる突起は全て限界まで勃起しており、それをスーツが締め付けることで痛みと快楽の入り混じった独特の感覚で苛んでくる。
しかし、一区切りした機械の責めに汗だくになりながらガクガクと震えるサンダーソニアからは、それを気にする余裕などとっくに失われていた。
むき出しながら歯を食いしばっていたせいで、口の両端からは涎が次から次へと垂れて、糸を引きながら胸を汚す。ねばついた汁が光沢のあるスーツに艶を与え、封じ込められたはずの肌から立ち上る、媚毒のようですらあるメスの熱気が淫靡さに拍車をかけていた。
「はーっ、はーっ、はーっ……!」
湯気の如き呼気を吐き出しながら、サンダーソニアは目をきつくつぶり、手を強く握って意識を保つ。ともすれば正気を失いかねない仕打ちであったが、息を整えてなんとか体を冷まそうとする。
(耐えろ、耐えろ……!)
(あんなクソどもに、屈してたまるか……!)
大きく深呼吸して、脳にこびりついた快感の残り火を消そうと試みたその時、前方で扉が開いた。
妖艶な足取りで入ってくるのは、ドクター・ブラックウィドウその人である。サンダーソニアは拘束ワイヤーを軋ませ、身をよじる。
「全く……随分と頑張るものね。計算では、とっくに快楽に溺れているところだと思っていたのに」
「てめぇっ……!」
拘束から脱し、食って掛かろうとするサンダーソニアだが、疲労をため込んだ骨肉は重く、戒めを多少緩めることすら叶わない。己の無力に歯ぎしりをしながら、舌鋒で挑んだ。
「無駄だってわかったら、いい加減このクソ悪趣味な首輪外せ! この服も……どうせこれが原因だろ!」
「ええ、その通りよ。でも馬鹿ね、外すと思う? あなたの雷撃で何人犠牲になったかもわからないのに」
「はっ……殺戮者が、犠牲の数を聞くのかよ」
「心外ねぇ」
ドクター・ブラックウィドウは真顔になり、紫のルージュを引いた唇を歪める。
「私たちだって、無為に殺してるわけじゃないわ。あれは間引き。体や脳が改造に耐えられなかったり、将来的な伸びしろがない者に限って殺しているのよ。そのほかは丁重に扱ってるわ」
「丁重に? こうやって、クソスーツ着せて、縛り付けるのがか?」
「そうよ。だって気持ちよかったでしょう? ふふふふふふ」
ドクター・ブラックウィドウはサンダーソニアに近づき、その秘所にマニピュレーターで触れた。
クリトリスをつまみ、膣をほじくる。それだけでサンダーソニアはのけぞり、軽く絶頂した。
「い゛ッ……!」
「感度良好。たくさん可愛がってもらった成果が出たみたいじゃない?」
「ぐっ……あぐっ……! やめろ、つまむな……押すなぁぁぁっ……!」
愛液を巻き取り、敏感になりきった突起から快楽を絞り出すような指使いは即座に彼女を身もだえさせる。深い絶頂が訪れる直前でドクター・ブラックウィドウは手をパッと離した。せっかく整えた息を乱されたサンダーソニアは自分の意思とは関係なしにくねろうとする腰を必死で押さえつける。
「ふーっ、ふーっ……」
「こんな有様でよく堪えるわ。やはりあなたを捕らえてよかった。負荷の大きい改造に耐えらえる心身こそ、私たちが求めるものだもの」
「ふざ、けるな……俺は、お前たちを、んっ……必ず、殺す……!」
「不可能よ。状況的にも、肉体的にもね」
そう告げるドクター・ブラックウィドウの指が、サンダーソニアの首輪をなぞる。
今や改造されたスーツの一部としてなじんだ不気味なデザインのそれは、毒々しい光を歓喜するかのように明滅させていた。
「本当はね、あの時に捕まえて連れ去ってしまってもよかったのよ。なんで放置し続けたと思う? 理由は単純。あなたの快感に対する耐性を弱めて、より強い負荷をかけるためよ。最初はヴァイオレットアークの篭絡にもいいかと思ったけれど……想像以上の逸材の手に渡ったわね」
その言葉で思い出される、囚われの三週間。サンダーソニアの頭の中で、思考がスパークする。
あれだけではない、急に様子のおかしくなった支倉に、無理やりセックスをしてきたヴァイオレットアーク。
「……おかしいと思ってた。あれもまさか、ぜんぶ、お前らが……!」
「気づくのが遅れたわね。その首輪に仕込んだのはスーツのハッキング機能だけじゃないわ。周囲の人物に対する催眠と催淫、軽い言語コントロール……早い話が、他者に対する不信感を煽るための機能を搭載しているのよ。他にも着用者の身体情報のスキャンとか……盗聴、とかね」
「…………ッ!」
サンダーソニアの表情が爆発的な憤怒と殺意によって歪んだ。
残る力全てをかけて暴れ出す彼女の頬をなぶるように撫で、ドクター・ブラックウィドウは微笑む。
「ふふふ、まだまだ男の顔ができるのね。下はもう女の子なのに」
「うるせえ! 触るな! 放せこのッ……ぶっ殺してやる!」
「あらあら、そんな口の利き方していいのかしら。散々注意されたのに、まだ治らないなんて。これはもう一度、お姉さまたちに躾けなおしてもらう必要がありそうね」
ドクター・ブラックウィドウがそういうと、再び部屋の扉が開いた。ぞろぞろと入ってくる人影を見て、サンダーソニアは血相を変える。
同じデザインの黒いボディスーツを身にまとい、首輪を嵌めた虚ろな瞳の女たち。その顔ぶれは、サンダーソニアを三週間の間監禁し、辱め続けたあの女たちのものだった。
「な……」
「驚いたかしら。あなたの首輪通じて得た情報を通して、スカウトさせてもらったわ。洗脳の下準備はあなたの首輪が済ませてくれていたし、楽に済んだわね。あなたも知った顔が相手で安心するでしょう?」
マニピュレーターで指示を飛ばすと、女たちはサンダーソニアへ近づいていく。同時に、装置から外れた拘束ワイヤーがベッドのように倒れ、それを取り囲む女たちと相まってまるで手術台のようになる。
サンダーソニアはぞっと全身を襲う寒気に突き動かされて、激しくもがき始めた。
「おい、ふざけんな! 外せ! 外せよ!」
「入念な下準備をしてまだこれほどの反抗心。あなたもかなりの逸材よ。普通は下準備の段階で十分になってしまうもの。洗脳し甲斐があるわね」
そう言葉を残して、ドクター・ブラックウィドウは去っていく。
閉じる扉が、サンダーソニアの悲鳴をシャットアウトした。