今日からずん子は修学旅行、きりたんも同様だそうだ
で、そのずん子に家で泊まらないかと誘われた。もちろん、私は断らなかった
久々にイタコさんと話せる良い機会だと思ったからだ。それに私も、イタコさんには聞きたいことがあったので…そんなことを考えながら、私は家を出た。向かう先はイタコさんのいる東北家。着替えも全部向こうが出すとの事で、その言葉に甘えることにした
そして東北家に着きインターホンを鳴らすと、すぐに扉が開かれてイタコさんが出迎えてくれた
──いらっしゃいませですわ!さぁ、中に入ってくださいまし
イタコさんは私を見ると満面の笑みを浮かべる。彼女の笑顔を見るたびに、この人は相変わらずだなぁっと思う
人あたりの良さと、人懐っこい雰囲気は妹のきりたんと共通してるし、目を細めた時の鋭さはずん子にも共通してる。やっぱり2人の姉であるだけあって、似ている部分も多いんだろう
しかしイタコさんの場合、それを抜きにしてもかなり親しみやすい人だと私は思う。だからついつい、彼女と話すときは気が緩んでしまうのだ
──へぇ、ずんちゃんがそう……
──ええ、学校でも相変わらずですよ。調理実習に至っては、隙を見てずんだ餅作ってますし
──まったく、ずんちゃんったら……
学校でのことを話すと、聞いた内容によって表情が変わる
なんか面白い人にも見えてきた
あと、こうして話しているとイタコさんときりたんが姉妹なんだなって改めて実感する。まあ、それは置いておいて……そろそろ本題に入ろうかな
──それでイタコさん。聞きたいことがあるんですけどいいですか?
私が切り出すと、彼女は首を傾げる
──あら、何でしょう?
──イタコさんは……私の事どう思っていますか?
──ふむ、どうと言われましても……
イタコさんは顎に手を当てて考える素振りを見せる。しばらくして、イタコさんは口を開いた
──とても素敵な方だと思っておりますわよ。いつも優しく接してくれますし、お料理やお菓子作りの腕だって素晴らしいですもの
──ありがとうございます。じゃあ……
イタコさんの言葉を聞いて、思わず頬がほころぶ。でもまだだ、ここで満足してはいけない
答えは出てる。あとは、私の口から言うことだ
──私がどんな人間なのかとか、どういう存在なのかとか……そういう事は聞いてきませんよね
イタコさんの顔を見つめながら問いかけると、イタコさんは少し驚いたような顔をした。だけどすぐに微笑みを取り戻してこう言った
──はい、あなたは優しい方ですから。それに、あなたの事を深く知る必要なんてありませんわ
その言葉を聞いた瞬間、ああやっぱりと思った。そして同時に安心感を覚えた。良かった、ちゃんと分かってくれている人がいて……
──分かりました。それなら……もう1つだけ質問させてもらってもいいですか?
──もちろん構いませんわ
イタコさんに許可を貰うと、私は息を吸って心を落ち着かせる。そして、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した
──イタコさんから見て、私は幸せそうに見えるでしょうか?
──…………
イタコさんは何も言わない。ただ黙っているだけだ。その沈黙に耐え切れず、私は俯く。するとイタコさんは、静かに語り始めた
──正直に申し上げれば、分からないというのが本音ですわね。確かに今のあなたはとても充実していて楽しそうに見えますけれど……
イタコさんはそこで一旦言葉を切ると、私を見据えた
──ですが、それだけでは駄目なのです。私は私として、東北ずん子の姉のイタコとして……これから先、ずっと生きていく上で忘れてはならない事があるのですわ
イタコさんはそこまで言い終えると、再び口を閉ざす。しばらくの静寂の後、イタコさんは再び口を開く
──あなたが今のままの自分でいたいというのであれば……そのままで構わないと思いますわ。でも、もしも違う自分になりたいというのならば……私はそれを止めたりはしませんわ
イタコさんの表情からは優しさしか感じられなかった。だからこそ、彼女の言葉は心に深く染み渡っていく ──……イタコさん。私は……
私は何を言おうとしたんだろう。いや、きっと何も言うつもりは無かったんだと思う。でも無意識のうちに、私は自分の想いを口にしていた
──私は……イタコさんのように生きたかった
──……!
イタコさんの目が見開かれる。そんなイタコさんに向かって、私はさらに続ける
──イタコさんのような強さを持った女性になりたかった。イタコさんみたいに、誰かのために頑張れる人になってみたかった
──……そう、ですの
──イタコさん
ああ、なってしまったモノはしかたないのだろう。でも、それでも私は──
──私は、イタコさんに憧れていたんです ……
──憧れていて、羨ましくて……いつか、そうなれたら良いなって思っていた。でも……無理だった
──……そうですわね
イタコさんは、私の目を見てはっきりと言う。そこには迷いなど一切無かった
──人は誰しもが完璧にはなれませんもの。だから、あなたはあなたのままでも良いと、私は思いますわ
イタコさんは優しく微笑むと、ゆっくりと立ち上がる。そして私を抱きしめる
──イタコさん。聞いてくれますか?──はい、なんなりと
私の耳元で囁いた
──私は……私は、あなたの隣に立ちたいです
──……ちゅわ……?
イタコさんは一瞬呆けたような声を上げると、私から離れて立ち上がった。そして目を白黒させながら問いかけてくる
──えっと……それはどういう意味ですの?
──そのまんまの意味ですよ。イタコさん、いえ……イタコさん
──あ、あの……
イタコさんは戸惑いの色を浮かべたまま、私の顔を見つめている。その視線を受けて、私はイタコさんに向かってはっきりと宣言する
──イタコさん、私はあなたの事が好きです
──……
イタコさんは、しばらく黙ったまま固まっていた。だけどやがて、イタコさんの顔が真っ赤に染まる。その様子はまるで茹で上がったタコみたいだ
──あっ……あぅ……
イタコさんは何かを言いかけた後、私の肩を掴んでくる。私は驚いてイタコさんの方を向くと、彼女は真剣な眼差しをしていた
──本当に、よろしいんですの?
──はい。私の気持ちは変わりません
私が答えると、イタコさんはため息をつく。そして私を見つめながら、イタコさんは口を開いた
──……あなたは、私の事をどう思っているのかしら?
──好きじゃなかったら、こんなこと言いませんよ
私が苦笑しながらそう返すと、イタコさんは顔を伏せて小さく呟く
──……ありがとう
イタコさんの顔が近づいてきて、そして唇に柔らかい感触を感じた。その瞬間、頭の中が真っ白になる
──んっ……!?
イタコさんは少しの間だけキスをした後、ゆっくりと離れていく。だけど、私はそんな事を考える余裕すら無かった
──……ふぁ……
イタコさんは私から離れると、頬を赤く染めたまま恥ずかしそうに笑う
──あなたが好き。あなたが私と同じ気持ちでいてくれた事が、とても嬉しいですわ
イタコさんの言葉を聞いて、私はようやく自分が何をしたかを自覚して顔が熱くなるのを感じる。思わず下を向いてしまったけど、イタコさんはそんな私の様子を見てクスリと笑っていた──さて、そろそろ戻りましょうか。あまり長い時間ここに留まるのも良くないですし……
イタコさんがそう言って立ち上がろうとした時、私はイタコさんの腕を掴んだ
──……? どうしましたの?
イタコさんは不思議そうな顔する
──……お風呂、はいりませんか?イタコさんは驚いたように目を開く。そしてすぐにイタコさんは嬉しそうに微笑んだ
──……えぇ、是非ともご一緒させていただきますわ
イタコさんと一緒に温泉に入った。当然だけど、お互いに裸である。湯船に浸かっている時にイタコさんの胸が浮かんでるのをまじまじと見る羽目になった
──……やっぱり大きいですね。羨ましいです
私は素直な感想を口にすると、イタコさんは困ったような表情を浮かべた
──あなただって、十分に魅力的ですわ。それに私はそこまで大きくありませんもの
イタコさんはそう言うけど、私から見たら……いや、そんなわけない
でかい。同級生のマキもでかいが、その比じゃない大きさだ
多分、GとかHはあると思う。何カップあるんだろう?
──……どうしましたの?
イタコさんに見惚れていたら声を掛けられた。私は慌てて誤魔化す
──あ、いえ!なんでも無いです……
──ならいいのですけれど……そうだわ。折角だから背中を流してくださらないかしら?
イタコさんの提案に私は首を傾げる。別にそれくらい構わないけど、どうしてだろう?
──ほら、あなたばかりしてもらうのは不公平でしょう?
──あー……
確かに、イタコさんにばかりしてもらってる。晴れて付き合う事になったんだから、それぐらいはしなければバチが当たるかもしれない
──わかりました
私はそう返事をして立ち上がる。イタコさんは笑顔で私を見ていた
──ありがとうございますわ。あなたにこうしてもらえるのは、とても幸せですもの
イタコさんは優しい声で私に語りかける。その顔は反則では?
──……イタコさんって、結構ストレートですよね
私が照れ隠しにそういうと、イタコさんはキョトンとした表情を浮かべた後、楽しげに笑い始めた
──あら、そうかしら?でも、あなたにしか言わないことですわよ?
イタコさんんんん……そういうとこでしょうに
その後、お互いの身体を洗い合った後、一緒に浴槽へと浸かる。イタコさんは、私の肩にもたれかかってきた ──……ふぅ。温かいですわねぇ……
──……はい
私は短く答えて、それからイタコさんの正面に移動する
そしてイタコさんの顔を見ながら、私は口を開いた
──イタコさん
──……なんですの? イタコさんは私を見つめてくる。私はその瞳を見つめながら、自分の想いを告げた
──私、イタコさんが好きです。大好きです
抱きつく。それを受け入れてくれるイタコさん
──ええ。私も、大好きですわ
イタコさんと恋人になって数日が経った。あれから毎日のように、イタコさんと二人きりで過ごしている。そして今日はデートだ
──……あの、本当に良かったのかしら?
私は今、イタコさんと一緒に街に繰り出していた。いつもは制服姿しか見た事ないのだから、しかたないのかもしれないが
──良いんです
フード付きのパーカーを着て、隣を歩くイタコさんにそう返す。流石に素顔のままだとバレる可能性があるため、イタコさんにはフードを被ってもらった
──まぁ、あなたが良いのであればそれで構いませんわ。さて、どこへ行きましょうか?
イタコさんの言葉を聞いて、私はもう決めてあるルートを回ることにした
──まずは……
時刻は夕刻。もう日が落ちる頃合となった
……最高だった。この世界に来て、一番幸せな時間を過ごすことが出来た。だけど、まだ終わりではない。ここからが本番なのだ
──……ありがとうございました
私は目の前にいる女性に頭を下げる。女性は優しく微笑んでくれた
──こちらこそ、素敵な時間を過ごせました。また機会があれば、是非……
──イタコさん
私はそこで遮って、強引に誘う
──今日、ウチに来ませんか?
今日こそが、本番だ……
そう思っていた事を後悔するレベルで、解らされる事になるとは、この時の私は露ほども思ってなかった