※この作品はR-18です。

【完結】【R18二次】白聖女と黒騎士【魔女狩り聖女】   作:村人JJ

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騎士殺しの聖女と変態騎士がわからセックスを繰り広げる話~調子に乗ってるドMを聖性パワーで調教しちゃいます~

 シスネは激怒した。

 必ずこのむっつり助平の騎士を除かねばならぬと決意した。

 

「あれだけ射精しておきながら、まだこんなに勃たせるなんて――本当に穢い男ですね! だらしない、穢い。穢い穢い穢い‼」

「待ってくれ。これは男の生理現象というやつで、なかなかに扱いが難しくてだな。とにかく、すぐに鎮めるから落ち着いてくれ」

「興奮しているのはあなたの方でしょう。まさか、こうして踏まれるのが好きだなんて悪趣味にもほどがありますよ……おや、また大きくなりましたね。もしかして罵倒にも快感を覚えるんですか? 被虐嗜好マゾヒストだと思ってはいましたが、度し難いまでの変態ですね」

「それは貴公が足指で触るから――っく。すまない、何とかするから一度離れてはくれないか」

「なんですか、足ではなく手で抜いて欲しいのですか? この期に及んで手淫など不相応な願いだとわかっていますか。まあ、頭を下げて卑しく乞い願うなら考えてあげなくもないですよ」

「いや、そのようなことは頼んでいない。というより、貴公も意外と技法テクニックに詳しいのだな」

「仕方のない雄ですね。子供の世話には慣れているつもりでしたが、下の世話まで強いられる日が来るとは思いませんでしたよ。まったく、これだから変態は……」

「話を聞いてくれないか?」

 

 シスネは医療者の家系である。医学書を読み、兄弟姉妹と遊んで暮らしてきた。けれども官能小せエロs……ではなく、恋物語ロマンスに対しては、人一倍に敏感であった。

 人目を惹く白髪や細身の体から静謐さこそ感じられるが、何を隠そうシスネは平々凡々な女である。幼い日の彼女は悟りを開いた神童などではなく、実姉を「お姉ちゃん」と呼び慕う普通の小娘に過ぎなかった。年相応に恋物語を嗜み、聖女に焦がれ――医学の勉強を口実に官能小説を隠れ読む程度には、性への関心だって人並みにあった。枯れ果てた思春期を過ごしたレーベンに比べれば、シスネの方が遥かに知識豊富なのだ。

 

「いやはや、手のかかる駄犬ですね。いったい何度勃たせればが済むのですか? もういいですよ、あなたに任せるのは時間の無駄です。早く枯れるまで出し切ってしまいなさい」

「誠に申し訳な――う、くっ!?」

 

 もっとも、経験の伴わない半端な知識ほど質たちの悪いものはない。匙加減を心得ないシスネの手淫はレーベンの男根を容赦なく締め上げた。枯れ枝のような細腕からは考えらない力だった。

 一般に成人男性の握力は40kg程度だが、シスネの握力は80kgを優に超えている。当時の医学では知りようのないことだが、彼女は常人を遥かに上回る筋繊維と骨密度を有していた。ほとんど骨と皮の痩せ女が重装備で戦場を駆け抜け、片腕で大型の自決銃を連射できた所以ゆえんである。そこらの聖女が真似ようものなら銃撃の反動で肩を壊すだろう。かつてレーベンが落ちてきたシスネを受け止められなかったことも、実は彼女の超人体質に起因している。重いと言われて怒ったシスネだが、その体型に反して本当に平均的な女より重いのだ。

 そんな神の授けた人体の神秘は、今や魔女を狩るためではなく、レーベンの男根を弄ぶために惜しみなく発揮されていた。強大な握力により絞られる感覚は挿入と比べ物にならず、快感と痛みからレーベンは苦悶の声を漏らす。快感が2割、痛みが8割だ。ぶっちゃけ超痛い。興奮するどころではなかった。

 

「天にも昇る心地ですか? 我ながら上出来というやつですね。いいですよ、そのまま出してしまっても。みっともなく喘いでみせてくださいよ」

 

 そんな彼の心境を察することなく、何を勘違いしたのかシスネは調子に乗ってさらに手淫を速め、空いていた左手を睾丸へと添えた。レーベンの額から嫌な汗が垂れる。男性の精巣は単なる性感帯ではない。巨漢を再起不能に追いやるほどの激痛をもたらす急所でもあるのだ。手淫には極めて繊細な指使いが求められるのだが、シスネは見よう見まねで打付本番ぶっつけほんばんに挑もうとしている。胡桃も粉砕する五指の力が容赦なく玉袋を圧迫した。

 

「ほらほら、男はこういうのが好きなのでしょう? まあ私の手にかかればこんなものですよ。あなたはただ、身を任せて悶えてさえいればいいのです」

(勘弁してくれ……!)

 

 もはや素人という言葉では済まされない。シスネの手淫は快感どころか拷問に等しかった。本来、特異アブノーマルな性戯プレイは加虐者に様々な知識と技量が要求される。なにしろ、加減を誤れば被虐者は心身に治癒できない傷を負い、最悪命すら落としかねないのだ。シスネのような馬鹿力が遊び半分で真似るなど洒落にならない。

 とはいえ文字通り急所を(それも二箇所とも)握られているレーベンに逃れる術など存在しない。彼女の怒りが収まるまで歯を食いしばり耐え忍ぶほかなかった。

 

「手の中でびくびくと暴れていますよ。あなたに似て堪え性がないのですね。さっさと終わらせるつもりでしたが、悪い子にはもう少しお仕置きが必要でしょうか」

 

 もっとも、シスネとて無知ではあるが馬鹿ではない。己の剛力などとうの昔から把握しているし、加減を誤れば人を殺しかねないことだって心得ている。だが待って欲しい。目の前のこの男はケダモノなのだ。人ではない、理性を手放した動物なのだ。ならば、痛みをもって躾けるほかないではないか。猛獣だって鞭で散々打たれてようやく人間に頭を垂れるのだ。人外相手に言葉を尽くすのは無意味でしかないが、暴力は全てを解決するのだ。

 そもそも先刻の恥辱を思い返せばこの程度の懲罰など生ぬるい。今だってシスネは男根をへし折らないよう手心を加えているし、睾丸も潰れる寸前にとどめてやっている。その慈悲深さに感謝して欲しいくらいである。それに万が一起きたところで――

 

「聖性があれば折れても治るのですから、手荒なくらいで丁度よいですよね」

 

 そう、聖性だ。聖性さえあれば瀕死の重傷でも治るのだ。

 ましてやシスネの聖性はレーベンと(認めるのは甚だ不本意だが)極めて相性がよい。脳と心臓さえ動いていれば、例え骨が折れようが腱が切れようが、目玉が飛び出ようが腸はらわたが零れ落ちようがどうにでもなる。なにしろ片腕すら再生してみせたのだ。男根だってうっかり千切ってもまた生えてくるに違いない。多分。いや、きっと。

 

「それに、男の睾丸は二つもあるんです。片方潰れても問題ありません」

 

 平然と口にするシスネに、レーベンは思わず震え上がった。彼女は本当に医療者の家系なのだろうか。とんでもない女なのはわかっていたが、ここまで螺子ネジが外れているとは予想外だ。例え体の傷は治ったとしても、心に負った傷は簡単に癒えないのだ。「治るから壊してもよい」など狂人の発想でしかない。

 

「ふふっ、もう限界が近いようですね。さあ、はしたなく射精だしてみせなさい。さあ、さあ。さあ!――――……えっ?」

 

 怯んだレーベンに呼応するかのように、彼の男根は力を失い萎縮する。ぐったりと垂れ下がった肉棒を手中に収め、しかしシスネは満足するどころか、大層ご立腹の表情で声を荒げた。

 

「私の手淫では不満だと言うんですか!」

(本当に面倒だな貴公は‼)

 

 咄嗟に内心で叫んでしまった。さっきまで節操なく勃たせるなと怒っていたのに、興奮を沈めた矢先にこれである。というより、あんなに恐ろしいことを言われたら冷めるのは当然の成り行きだ。自ら雰囲気を台無しにしておきながら、これ以上何をどうしろと――レーベンは世の理不尽を嘆きながらも、言葉巧みにシスネを宥めようと図る。

 

「あぁ、その、貴公のせいではなくて……男というのは面倒な生き物でな。匙加減が難しいというか、なんというか……」

 

 シスネは顔を歪めて歯噛みする。

 まただ。またこれだ。己が癇癪を起す傍らで、レーベンは相も変わらず余裕綽綽の態度を崩さずにいる。彼女を襲ったのは耐え難い屈辱感と敗北感だった。ようやく荒ぶる男根を屈服させてやったのに、何の達成感も満足感も湧かなかった。

 当然である。シスネは散々喘がされた挙句、失禁まで披露してしまったのに、レーベンは何の痴態も晒していない。あれだけ性感帯を攻め立てられたのに、無様に射精してみせるどころか萎えてしまったのだ。これではシスネが力に訴えるしか能のない下手くそポンコツのようではないか。その通りである。

 

「くっ、くっ、く……ふふ、ふ……」

 

 シスネ特有の笑い声。怒りが臨界点を突破し、再び黒い瞳に冷静さが戻る。

 違うのだ。シスネがレーベンの虜なのではない。レーベンがシスネの虜なのだ。断じてその逆ではない。手綱を握っているのはいつだってこちらなのだ。あの男から一方的に愛を囁かれ、恋に溺れることなど断じてあってはならない。

 こうなれば力づくに頼るのは、痛みで躾けるのはもうやめだ。恥も外聞も捨て去り、持てる知識を総動員し、全身全霊をもってレーベンを犯し尽くす。魅了して、悩殺して、骨抜きにして、シスネがいなければ生きていけない快楽漬けの性奴隷にしてやる――もはや聖女にあるまじき思考の飛躍であった。清楚系ヒロインは死んだ。否、そんなヒロインなど最初から何処にも居はしない。

 

「本当に、本当に手を焼かせてくれますね……いいですよ。聞き分けのない駄々っ子の扱いは心得ていますから」

 

 シスネはレーベンの股座に顔を近づけ、躊躇うことなく男根に舌を這わせた。下から上へと裏筋を丹念に舐め上げ、そのまま亀頭を舌先でちろちろと突く。両手は添える程度の力で男根を握り、上下にゆっくりと、しゅこしゅこと擦り動かす。乳房で挟むのが正しいやり方のようだが、あいにく生まれて此の方そんなものは持ち合わせたことがない。官能書籍を恨めしく思いながら口淫に意識を集中させる。

 

「くぅ、っあ――」

 

 萎れていた男根がびくりと跳ねた。雑に扱われた直後に得も言われぬ刺激を施されて、急速にその機能が回復する。先端からは汁が滲み出し白い指と口元を淫らに汚していった。俗に言う飴と鞭の原理である。シスネの乱暴な手淫は図らずとも相乗効果を発揮していたのだ。

 

「少し優しくされた途端にこれですか。甘えん坊ですね……ふ、ふっ」

 

 シスネは満足気に微笑むと、今度は大胆に口を開けて咥えてみせた。そのまま口腔で包み込みねっとりと舌を絡ませる。根元を摩っていた手も再び睾丸に添えて、今度は撫でるように優しく揉みしだく。レーベンの吐息が少しずつ荒さを増す。

 

「は……あ、はぁ、あっ」

 

 俄かには信じられない光景だった。己のことを穢いと蔑んで憚らないシスネが、目の前で跪き陰茎を舐っている。聖女の清い口を汚す錯覚に理性がふやけ、下卑た悦びと背徳感が興奮を加速させる。

 

「っ……すまない、もう……」

 

 余裕を失った声音が、懇願するような惚けた表情が、シスネを最高潮に到達させた。口腔を窄めて強く吸い付き搾り取るように吸い上げる。レーベンは咄嗟にシスネの後頭部を抑え、不格好に腰を押し付け限界まで膨らんだ陰茎を頬張らせた。

 

「んうっ、ぶ……んんん――」

 

 口の中でびくびくと痙攣し、二度、三度と断続的に粘液を注がれる。生臭い。喉越しも最悪だ。半分ほど飲み下して不快感に気圧される。残りを吐き出したくなったが、根負けするようでなんだか気に入らない。そこで名案を思い付いた。すかさずレーベンの頬を両手で包み、顔を寄せて強引に口付ける。

 

「――んっ、ふ……ちゅ……」

「――――!?!?」

 

 そのまま力を込めて開口させると残りの精液ごと舌を挿し入れた。灰色の瞳が驚愕に見開かれる。いい気味だ。でも、まだ足りない。舌で歯裏をなぞるようにして塗りたくってやり、唾液と混ぜてレーベンの口内に吐き出した。さらに力づくで首を傾けて無理やり奥へと流し込む。ごくり、と喉が鳴なったのを確認してようやくシスネは顔を離した。目の前で呆然と涎を垂らす間抜け面を嘲笑う。

 

「素直に飲み干してもらえるとでも思いましたか? ふっ、くく、いい気味です」

 

 白濁液に塗れた唇を赤い舌先がぺろりと舐めた。妖艶な仕草だった。蠱惑的な魔性の笑みだった。レーベンの心臓が早鐘のように高鳴り、出したばかりの陰茎はみるみる剛直する。口を濯ぐことすら忘れて今度は自ら唇を奪った。鼻につく臭いも、舌に残るえぐみも気にする余裕はない。お返しとばかりに口腔を舐め回し、くちゅくちゅと音を立てて互いの唾液を交わす。

 シスネはうっとりと目を細めた。あのレーベンが、平静を装う余裕すらなくして己の体に溺れている。この男、やっぱり私のことが好き過ぎではないか――優越感と陶酔感がシスネを満たし、下腹部の淡い茂みが水気を帯びていく。

 

「んっ……自分のを飲まされて勃つなんて。性根だけでなく性癖まで歪んでいますね。本当に気持ち悪い」

 

 かく言うシスネも最高に滾たぎっていた。ひくひくと震える膣口は艶やかに濡れそぼち、挿入を待ちわびているかのようだ。もっとも、今度は率先して脚を開いてやるつもりはない。疼きを抑えるように臍の下を撫で、シスネは底意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「まだ出し足りないようですが、あなたのせいで口が疲れました。私はもう休みますのであとは一人で処理してください」

「なっ……ま、待ってくれ。なぜそのような――」

「それが人にものを頼む態度ですか?」

「貴公の中に挿れたい」

「挿れたい・・?」

「……挿れさせて、ください」

「なんというか、誠意を感じられないのですよね。夜も更けてきましたし、このくらいでお開きにしましょうか」

 

 なんて女だ。

 先刻は自ら入り口を拡げてくれたのに。あの時の儚げな聖女はどこへ行ってしまったのか。レーベンは恥を忍んで頭を垂れ、上目で見つめるようにして拙い敬語で嘆願する。

 

「もう一度、貴公と繋がりたい。どうか挿れさせてもらえないだろうか。――お願い、します」

 

 ぞくぞくと背筋に快感が走り、シスネは恍惚とした表情で体を震わせた。仄暗い悦びが全身を火照らせ、両の乳首はぷっくりと隆起し、秘裂から零れ落ちた愛液が内股を濡らしていく。

 ああ、これだ。この感覚だ――彼女は抑えきれない興奮に促されるまま、レーベンを乱暴に寝台へと押し倒した。すかさず騎乗位となって男根を膣口に当てがい、愉悦に歪んだ声で告げる。

 

「――その顔が見たかったんですよ」

 

 返事を待たず、一気に腰を下ろして根元まで吞み込んだ。レーベンの腰が跳ね上がる。強烈な突き上げを受ける形になるが、三度目となれば余裕も生まれる。もとより痛みには強い体だ。濡れやすい体質も挿入を手助けしてくれる。いつまでもなされるがままではないのだ。余裕を取り戻す暇など与えてやらない。

 

「んっ……大きっ……そんなに、待ち遠しかったんですか?」

 

 下から穿たれる快感と、上から組敷く高揚感。歪んだ支配欲と征服欲が満たされていく。いけない、これは癖になりそうだ――邪な下心を芽吹かせながらも腰の浮き沈みを繰り返す。

 

「あぁ、あ、ふっ……ん……ん、ん――」

 

 攻勢に転じたシスネはますま昂ぶっていく。緩慢だった動きはいつしか激しさを増し、肉と肉がぱんぱんとぶつかり合い、粘液と粘液がぐちゅぐちゅと混ざり合い、淫靡いんびな音色を響かせる。上体を倒してレーベンの首筋に吸い付いき、両の手で乳首をつねり上げた。男は興奮しないようだが他に攻め手も浮かばない。腰の動きを緩めないまま手あたり次第に胸元をまさぐってみる。

 

「ぐ、う……うっ、う」

「しぶとい、です、ね。さっさと、射精だして、ください……」

 

 下らない意地なんか捨ててしまえ――自分を棚上げしてシスネは苛立ちを募らせる。今のままでは先に限界を迎えそうだった。そうはさせまいと腰を沈めて、渾身の力で徹底的に締め付ける。子種を一滴残らず搾り取るように。レーベンの全てを呑み込むかのように。さらに耳元へと口を寄せて甘い声音で囁いた。

 

「出しなさい……出して、出してっ――出せっ♡」

 

 極限まで膨張した男根が吐精した。子宮口を突かれてなみなみと注ぎ込まれる。膣内なかを満たすだけでは到底収まらず、ごぼりと股から溢れ出す。零すまいと入り口を収束させても濁流のように垂れ落ちていく。すごい勢いだ。粘り気も高い。量にも質にも衰えが見られない。朦朧とした意識でシスネは思考した。

 

「……っ、は、あ……ふぅ」

 

 孕んだ。絶対に二、三人孕んだ。いくら安全日とはいえ、こんなに出されたら妊娠するに決まっている。でも、初めてが双子なのは悪くない。やっぱり男の子と女の子は最低一人ずつ欲しいから。それに子供はあと二人は必要だ。周期を考えたら次は何年後が丁度いいか――なんて、脳裏に描いた未来像は一蹴で搔き消された。下腹部を圧迫するような異物感によって。

 

「えっ?」

 

 間の抜けた声。状況への理解が追い付かない。

 

「どうして?」

 

 貫かれた。限界を超えて屹立した肉棒が刺さっている。

 

「……レーベン?」

 

 薄墨の瞳は虚空を彷徨っている。明らかに焦点が定まっていない。シスネは知る由もなかったが、聖性による感度の向上は興奮剤の効果をもたらしていた。レーベンは強化された快楽中枢に刺激を受け続けたことで思考回路が麻痺したのだ。獣と揶揄されていた彼が本当の意味で動物と化した瞬間だった。快楽漬けの性奴隷にするというシスネの野望は皮肉な形で実を結んでいた。

 

「……うそでしょう?」

 

 白い顔がみるみる青褪めていく。彼女の反転攻勢は失敗に終わったのだ。三度目の正直で挑んだ騎乗位だった。残液の全てを搾り取る勢いで絶頂を迎えたのだ。その反動はすさまじく、余韻が疲労の波として全身に押し寄せている。一方のレーベンは理性こそ喪失したようだが、動きには微塵の衰えも見られない。むしろ、膣内の圧迫感は数段増しており、先刻まで手心を加えられていた事実を今更ながらに悟る。

 とはいえ、流石におかしいだろう。口淫を含めれば四度も射精しているのだ。絶倫の一言では説明がつかない。まさか、目の前の男はコルネイユの生まれ変わりとでもいうのだろうか。だとすれば一人で夜伽を務めるなど自殺行為に他ならない。かの好色の騎士は九人もの妻を娶り、三日三晩、不眠不休で酒池肉林を繰り広げた逸話の持ち主なのだから。

 腰に回されていた豪腕の重圧が強まり、そこでようやくシスネは真相へと辿り着いた。レーベンの右腕が動いている。温情に流されて聖性を使用したがゆえに。――そう、聖性。聖性だ。傷を癒し、強化を施し、疑似的な不死すらもたらす女神の加護。体罰の免罪符として乱用していた奇跡はずっとレーベンに味方していたのだ。

 傷が癒えるなら、体力も回復するだろう。筋肉と神経の強化された肉体は勃起の勢いも桁違いだ。人知を超えた不死性は無限の射精を実現させる。種が割れるとなんのことはない。すなわち――

 

 聖性が精を生成していたのだ。

 

(誰が上手いことを言えと!)

 

 もちろん聖性を切れば済むことだが、人間という生き物は窮地に追いやられると正常な判断を見失うものだ。対するレーベンは本能に支配された動物と化している。理性の差は反応速度に表れ、咄嗟の対応が遅れた聖女は獣の両腕に拘束される。

 

「は、放しなさいっ! 放しなさいこのケダモノぉお゛っ♡」

 

 淫らな喘ぎ声が響いた。絶対語尾に「♡」とか付いている。それが自分の声だと気づいた時には膣壁を乱暴に抉られていた。

 

「お゛っ、ほ゛……ん――ほお゛ぉお゛♡♡」

 

 最奥をごりごりと穿たれて、喉奥から下品な嬌声を絞り出される。許容量を遥かに上回る快感だった。脳が思考を停止し全身の筋肉は痙攣を伴い弛緩する。腰を抜かしたシスネは上体から倒れ込み、身体を反転させたレーベンに圧し掛かられた。こうなってしまえば、もう突然変異による天与の肉体も役に立たない。例え筋力が並外れていても所詮は女だ。聖性で強化された男には遠く及ばない。

 なにより、シスネは気づいていなかった。常人離れした筋肉密度は痛みへの耐性こそ発揮するが、快楽の前には全くの無力であることを。それどころか、彼女の体は脇腹への接触程度にも反応を示すほど、感度まで人並み外れていたことを。

 

「んぁ、あ゛、ああっ、はあ、あ、ああ……あ゛ああああ♡♡♡」

 

 気持ちい、きもちいい、キモチイイ。乳頭が、陰核が、膣肉が、子宮が。あらゆる性感帯が悲鳴を上げている。興奮に打ち震え、悦びに悶え狂い、快楽に溺れ沈んでいく。迸ほとばしる汗の臭いに正気を奪われ、逞しい二の腕の感触に理性を溶かされ、分厚い胸板のぬくもりに脳を焼かれ、捻じ込まれた肉棒に尊厳を奪われる。狂わされる、虜にされる――心まで支配されてしまう。

 悦楽の檻に捕らわれたシスネは混濁する意識の中で天に祈った。恐怖のあまり涙を流し、絶望のあまり嗚咽を漏らし、名前も知らない女神に救いを求めた。数分後に待ち受ける己の未来を想うと、今すぐにでも首を括ってしまいたかった。体が満足に動けば躊躇なく自決指輪を使ったことだろう。

 助けてください。

 助けてください。

 助けて、

 助けて、

 このままでは――――

 

 

 

 男性器レーベンに調教わからされてしまう!!

 

 

 まさに因果応報の末路であった。

 もちろん、男に股を開いた聖女に手を差し伸べる女神などいるはずもなく、ゆえにシスネに残された選択肢はひとつしかない。――雌堕ちすあきらめるのだ。

 

「い、やっ――――いやっ、いやいやいい゛っ……く、イぐ、いく―――イクぅ~~~~♡♡♡♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば窓の外が明るくなっていた。空腹具合から推し量るに、時刻は正午を少し回ったくらいだろうか。いつの間にか随分と眠ってしまっていたようだ。寝惚け眼を擦って上体を起こすと、捲れた掛布団の中から裸の女が現れる。一切の衣服を身に纏っておらず、安らかに寝息を立てていた。美しかった。一目惚れだった。ずっと恋焦がれていた。そんな彼女が、シスネが、すぐ傍らで無防備に素肌を晒している。

 

「……夢ではないのだな」

 

 窓から差し込む日差しに照らされる裸身。染み一つない白磁のような肌。刻まれた袈裟斬りの跡さえ美しく、すやすやと眠る姿は絵画に描かれた天使のようだ。触れることさえ躊躇われる美貌を前に、しかしレーベンは迷わず顔を寄せ、白い頬にそっと口づけを落とす。

 もう、決して手の届かない存在ではないのだ。今日からは、単なる騎士と聖女の関係ではないのだ。心を交わし、体を重ね、名実ともに恋仲――になるのは断られたが、とにかく一歩も二歩も前進したのだ。

 

「夢では、ない」

 

 もう一度声に出して確かめる。波乱万丈だった己の人生で、間違いなく最高の一夜だと断言できた。嬉しかった。幸せだった。降り注ぐ陽光が奇跡のように輝き、目に映る世界は幸福と彩りに満ち溢れていた。止めどなく湧き上がる多幸感に酔いしれながら、レーベンは愛しの聖女をそっと抱き締め、至福のひとときを反芻はんすうするべく目を閉じた。

 

『私も、あなた見てほしい。――レーベンに、触れられたい』

 

『この先もずっと……私を――私だけを、求めてください!』

 

『ついさっき射精だしたばかりじゃないですか。少し休ませてくださ――い゛ぃ!?』

 

『は、放しなさいっ! 放しなさいこのケダモノぉお゛っ♡』

 

『い、やっ――――いやっ、いやいやいい゛っ……く、イぐ、いく―――イクぅ~~~~♡♡♡♡』

 

『あな……そっち、ちがあぁあっ♡ あっ♡♡ あっ♡ ああ、はっ♡♡ はいらなぃ、ぎ、い、い……ぃいぃいいい♡♡♡ きも、ぢっ……きも、ち――いいいいい♡♡♡』

 

『レー、ベ、おちん、ひ――おいひぃい♡♡♡ もっ、ど♡ もっ、とおお゛っ♡♡♡ お゛っほ♡♡♡ お゛っ♡ お゛っ♡♡ ん゛ぐぅうっ、んっ♡ ん゛んん゛んん゛♡♡♡』

 

『ふぅう゛~~~~~ふお゛おっ゛♡♡♡ ん゛ああっ、あっ♡ いぃいい゛ぐい゛ぐい゛ぐぅうぅんぉっほぉお゛おおお゛♡♡♡ お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛♡♡♡♡♡』

 

…………

 

…………

 

…………頼む、夢であってくれ。

 

 記憶が鮮明に蘇り、レーベンは幸福の絶頂からあっさりと転落した。

 まずい。

 とてもまずい。

 いまだかつてないほどまずい。

 聖性のもたらす全能感に突き動かされるまま、理性を手放して行為に及んでしまった。強姦だった。凌辱だった。紛うことなく獣の交尾だった。挙句の果てには好奇心に駆られて後ろの穴まで……恋物語ロマンスの欠片も、情状酌量の余地もあるはずがない。腕の中で眠るシスネが目を覚ました瞬間、己の命の灯ともしびは儚く消えるだろう。

 せめて、子供の顔が見たかった。孫の顔なんて贅沢は言わない。持ち家もライアーのような一等地でなくていい。我が子は男でも女でも愛して見せる。だから、シスネと三人で食卓を囲んでお父さんと呼ばれてみたい――

 

「……レー、ベン?」

 

 短い、そして儚い走馬灯だった。

 

「なぜここに? 昨日は確か……――」

 

 まだ意識が朦朧としているのか、半開きの双眸は眠たそうにこちらを眺めている。

 

「――っ!?!? あ、あ……あああぁ……」

 

 シスネはうつらうつらと小首を傾げていたが、少しずつ思い出し始めたのだろう。その顔を真っ赤に染めた思いきや、たちまち真っ青に反転し、ついには血の気をなくして蒼白と化してしまった。黒い瞳は光を失い、暗く、深く、虚ろに濁って底の見えない沼のようだ。絶望に塗れた深淵から零れ落ちた雫は、しかし泥に呑まれず辛うじて透き通っている。

 ああ、魔女にならなくてよかった――心の底から安堵した拍子に本音が漏れた。

 

 

 

「まあ……その、なんだ」

 

 

 

 聖女は魔女になれなかった。

 

 

 

「貴公、昨晩は随分と激しかったな」

 

 

 

 だが悪鬼羅刹へと豹変した。

 

 

 

※

 

「聖女様、そろそろ時間ですが……もう一泊されていきますか? お連れの方も一緒なら二人用の部屋も空いていますよ」

 

 扉に向かって語り続けること数十分。何の返答も得ることができず、宿の若女将はため息をつく。

 重火器で武装したおっかない聖女が突然押しかけ、部屋に籠もってから半日以上が経過していた。連れらしき半裸の男を引きずっていたが、一人用の部屋を二人で占拠したうえに、いつまでも居座られては困るのだ。悪巧みを企てているようには見えなかったが、明らかに異様な二人組だった。今回のは相当厄介だな、と独り言ちずにはいられない。せめて一泊分の宿賃だけでも回収しなければ。

 

「聖女様、せめて一度出てきてくれませんか。お支払いは後日で構いませんから、掃除くらいさせてもらえませんかね」

 

 敢えて支払いを見逃すと告げてみたが、やはり返事はない。ただの空き部屋のようだ。いくら戸を叩いても、声をかけても、何の反応も返ってこない。しかし中からは確かに人の気配が感じられ、耳を立てると微かに物音が聞こえてくる。窓から逃げ出したのかと疑いもしたが、まだ室内に留まっているようだ。

 

「聖女様、いらっしゃるなら返事をしてくださいな」

 

 にも拘わらず、無視を決め込んでいるのか相変わらず返事は来ない。これには若女将も苛立ちを禁じ得なかった。あまり詮索するような真似はしたくなかったが、もう背に腹は代えられない。

 

「開けますよ、いいですね?」

 

 合鍵を差し込み、ゆっくりと押戸に力を籠める。内側から施錠でもされているのかと思いきや、何の抵抗もなく扉は開いた。

 そこには。

 一糸纏わず、裸身を晒す女の姿があった。寝台の上で馬乗りになって、白い長髪を振り回し、夢中で身体を揺らしている。下に寝そべっているのは連れの男だろうか。昨日と異なり今日は下まで脱いでいた。よほど行為に没頭しているのか、二人とも若女将の視線に反応すら示さない。

 

「……やれやれ。コイツは随分とお盛んな聖女サマもいらしたもんだね」

 

 若女将は呆れこそしたが、別段驚きはしなかった。伊達に若くして宿を運営していない。一対の男女が宿泊した時点で、この程度は想像の範疇である。

 稀によくいるのだ。宿で逢瀬を重ねる不届きな連中が。逢引には専用の旅館も存在するのだが、一泊するだけでも高額な料金を請求される。金を押しんだ守銭奴や貧乏人が、こっそりと宿で行為に及ぶのはそう珍しいことでもなかった。

 とはいえ、今回の不埒者はあろうことか聖女である。見たところまだ年端もいかない少女のようだ。若気の至りか、禁欲生活の反動かは知らないが、もう少し慎みを持てないものだろうか。教会に通報することも考えたが、説教くらいで許してやるかと一歩踏み込み、はたと違和感に気づく。

 聖女は若女将の侵入に気づくこともなく、寝台の上で男に跨またがり一心不乱に振り下ろしてた。

 

 拳を。

 

 腰こしではなく、

 

 拳こぶしを。

 

「死になさい死になさい死になさい死になさい死になさい死になさい死になさい死になさい死になさい死になさい死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死死死死死死死死死死――――」

「申し訳ない……調子に乗ってもうしわけな……」

 

 全裸の女が、全裸の男を、憑かれたように殴りつけている。鬼気迫る様相で。殺意を撒き散らしながら。男の顔面は既に原型を留めておらず、寝台は鮮血で赤く染まっている。もしかして新手の性戯プレイだろうか。なるほど、最近の若者にはこういうのが流行りなのか。どう見ても一線を越えてはいるが……

 

…………

 

…………

 

…………いや、おかしいだろ。

 

 懐から煙草を取り出して一服してみる。

 うん、美味い。煙が五臓六腑に染みる。

 つまり夢ではない。

 

「おいバカやめろ! そういう物騒な真似は他所でやりやがれ!」

「死になさい死になさい死ね死になさい死死死死死ね死ね死になさい死ね死になさい死死になさい死死ね死ね死ね死ね死ね死ね――――」

「いいからひとまず離れろ――力強っ!? なんだこいつ、魔女ってやつなのか??」

 

 慌てて羽交い絞めにしようと背後から組み付き、しかし成す術もなく跳ね返される。肋骨の浮かぶ華奢な体躯からは想像できない馬鹿力だった。尻もちをついたまま唖然とする若女将を他所に、シスネは止めの一撃を放とうと、その細腕を天井に向けて高々と振り上げた。

 

 

 

「死ィいいいいいいいいいい――――」

 

 

 

 超人体質によりシスネの筋力パワーは常人の2倍。

 そこにいつもの2倍の殺意が加わって×2の4倍!

 そしていつもの3倍の回転を加えれば×3の12倍だ――っ!!

 

 

 

 「――――ねええええええええええ!!!」

 

 

 

 1200万筋力パワーの拳はレーベンの頭蓋骨を陥没させ、貫通した衝撃が寝台を二つに叩き割り、床板を粉々に砕き、石膏の壁に亀裂を走らせ、若女将を部屋の片隅まで吹き飛ばした。

 

 

 

◆ ◇

 

「聖性がなければ即死だった」

「まだ無駄口を叩く余裕がありますか。もう二、三本その歯を引き抜いても問題なさそうですね」

「(口が減らなくて申し訳ない)」

「黙っていないで何とか言えばどうですか?」

「(俺にどうしろと?)」

 

 レーベンは数時間にわたり生死の境を彷徨ったが、聖性のおかげで辛うじて一命を取り留めた。改めて生殺与奪を握られている事実を痛感するとともに、二度とシスネを怒らせてはいけないと胸に誓った。

 

「あなたのせいで大恥を掻いてしまったじゃないですか。あの方に許してもらえなければ、今頃どうなっていたことか……」

 

 ひとしきりレーベンを殴り終え、我に返ったシスネは羞恥と焦燥のあまり気が気でなかった。もはや言い訳のしようもない。教会に報告されれば減給どころでは済まないだろう。少なくも赤っ恥は避けて通れない。

 

"罪状。彼女は聖女の身でありながら性行為に耽り、あろうことか失禁まで披露してみせた。さらにアヘ顔を晒してオホ声で喘ぎ、イクイクと叫びながら雌として完堕ちした。あと若女将を巻き込んで宿を破壊した。よって――"

 

 よし、死のう。

 脳裏に浮かんだ最悪の未来に耐え兼ね、シスネは自決指輪を作動させる寸前だった。

 

『まあ、アタシも昔はダンナと燃えがったからね。派手な火遊びに多少の火傷は付き物ってもんさ』

 

 笑って見過ごしてくれた若女将には頭が上がらない。ついでに替えの下着まで譲ってもらうことになった。恥ずかしすぎて泣いた。こんな時まで涙は透明だった。もう魔女になるのは諦めよう。

 

「誠に申し訳な……いや、すまない。本当に悪かった」

「知恵を絞ってその程度ですか。一つ覚えしかできない馬鹿ですね」

 

 宿を後にしたレーベンの足取りは重い。謝罪の言葉すら満足に紡げない、己の語彙の乏しさに辟易する。今までも事あるごとに謝り倒してきたが、今回は許しを得るのに何日かかるだろうか。いや、それ以前に許してもらえるだろうか。そんな胸中の不安を見抜いたのか、シスネは途方に暮れるレーベンに妥協案を持ち掛ける。

 

「忘れなさい」

 

 何を、とは言わなかった。

 

「私も忘れます」

 

 何故、とは聞けなかった。

 

「昨晩は、何もありませんでした」

 

 それがレーベンに迫られた、シスネの許す最大の譲歩だった。

 

「私はエイビスと夜通し飲み明かした。あなたは偶然聖都に居合わせた。それだけです。他には、何もなかった……いいですね?」

 

 あまりにも寛大すぎる処置だった。シスネの温情に泣いて感謝するべきだろう。断る選択肢などあるはずがない。何もかも忘れて元の鞘へと戻るのだ。清い聖女と騎士の関係に戻って初めからまたやり直せば――

 

「それは、その――すまない。無理だ」

「……は?」

 

 怒りを孕んだ声だった。黒い双眸には殺意が宿り、愛用の大短銃を容赦なく胴へと突き付けられる。「治るから壊してもよい」とは彼女の主張だ。冗談で済まないことは既に身をもって知っている。返答を誤れば腹に風穴くらい開けられかねない。

 

「私は、『なかったことにしてやる』と言ったのですよ?」

 

 とはいえ、シスネが憤るのはもっともだ。昨夜の狼藉を詫びるには銃で撃たれても足りないくらいだろう。

 

「何か申し開きがあるとでも?」

 

 調子乗った。過ちを犯した。取り返しのつかない失態を犯した。己はいったい何度、彼女を傷つけ、苦しめ、辱めれば学習するのだろう。本当に手の施しようのない馬鹿である。それでも、これ以上恥を重ねるわけにはいかないから。

 

「嘘吐きになってしまうから」

 

 なかったように振舞うのは簡単だ。口裏を合わせて、知らぬ存ぜぬで上辺を取り繕い、暗黙の闇へと追いやることならやりようはあった。でも、忘れることは。

 

「貴公が、あまりにも美しかったから」

 

 闇夜に浮かんだ黒曜の瞳が、夜風にそよいだ絹糸の髪が、月光に照らされた艶めかしい裸体が、脳裏に焼き付いて離れてくれないから。幻想のように淡く美しい光景。愛しさと温もりに包まれた至福のひととき。あの蜜月の一夜を忘れることなど、きっと生涯ないだろう。

 

「貴公が、俺のような馬鹿を求めてくれたから」

 

 親の庇護を外れ、愛情を知らず、空っぽのまま敷かれた道だけを歩んできた。聖性への適性もない名前だけの騎士。殉職に救いを求めた愚かな死にたがり。そんな己の生き方はあっさりと崩れてしまった。白い聖女の、ひどく身勝手な願いによって。

 彼女が言ってくれたから。死んでは嫌だと、愛されたいと、求めて欲しいと願ってくれたから。嬉しくて、本当に嬉しくて。泣いてしまいそうなほどだったから。

 

「――どうしても、忘れられそうにない」

 

 怪訝そうに眉をひそめていたシスネは急速に顔を紅潮させた。自決銃も最後まで火を噴くことなく銃嚢ホルスターへと収納される。それでも、眼光だけは弱まることなく無言で威圧を続けていた。

 

「どのような罰でも受ける。貴公が望むことなら、何でも」

 

 どこかで聞いたような台詞だった。シスネには高説を垂れておきながら、許しを請う側に回った途端にこれである。自分でも失笑を禁じ得ない有様だ。しかし、悲しいかな。下手の考えなど休むに等しいのだ。強化剤に漬け込んだ馬鹿の脳味噌では代案など浮かぶはずもなかった。

 

「己惚れていませんか。反省を示せば許しを得られるとでも?」

 

 怒りとも呆れともつかない声色だった。

 

「残念でしたね、許してなどやりませんよ。あなたが死ぬまで、ずっと。ずっと――」

 

 淡々と、そう告げられた。当然のことだ。強姦はしたが忘れたくもない、なんて我儘が罷り通る道理はない。

 覚悟はしていた。それだけの罪を犯してしまった。あとは誠心誠意をかけて償い方を模索するしかない。己の余生など捧げて惜しくもなかったが、それだけで足りるとは思えない。ならば、やはり命を懸けるしか――そう思い至った刹那、視界が広がり彩りを増した。

 

 

 

「ですから、もう死んで楽になんかさせてやりません」

 

 

 

 聖性の流れを感じた時には既に白い手に捕まっていた。身体接触は必要としないはずのに、シスネが右手を掴んでいる。握られた掌がうっ血するほどの怪力。蘇った右腕の感覚がしきりに痛みを訴える。五本の細指は隙間を縫うようにして己の指先に絡んでいた。――それは、二度と放さないという意思表示。

 

 

 

「5年や10年では足りません。私が先に亡くなるまで――ずっと傍で、私に償い続けなさい」

 

 

 

 そして、判決は下された。

 

「昨晩で身に染みて理解したでしょう? 私はあなたが思っているような女じゃない。穢くて、穢くて、どうしようもない女なのです」

 

 いつまでも自罰的な自己暗示をやめようとしない。繊細を通り越して面倒が過ぎる。

 

「性格が悪くて、気難しい女ですよ。言葉足らずの告白なんか受け入れてやりません。私を口説きたければ恋文の作法から学び直しなさい」

 

 一世一代の告白を嘲笑いならがら一蹴に付した。まったく本当に可愛げがない。

 

「それに短気ですぐ暴力に走ります。また他の女に現を抜かすようなら、今度は手足を折って監禁します。いいですよね、どうせ治るのですから」

 

 アルバットの挑発にも迷わず拳で応えた。まるで狂犬のような女だ。

 

「おまけに美人でもない上に、胸だけでなく器まで小さい女です」

 

 過去の酷評を未だに忘れず根に持っている。寛容さとは縁遠い存在だ。

 

「ですが、あなたにはこのくらいの悲劇がお似合いでしょう?」

 

 

 

「ねえ、私の騎士・・・・レーベン」

 

 

 

 束の間の静寂が訪れた。二人の間に漂うのは緊張感。互いに繋いだ手は離さないままゆっくりと帰路に歩みを向ける。先に痺れを切らしたのはシスネだった。耳まで赤く染め上げて俯きつつも、視線をちらちらとレーベンに向けていたが、様子見に耐え兼ねてついにかぶりをふった。

 

「後悔のあまり声も出ませんか? だから忘れろと――」

「忘れない」

 

 即答だった。

 灰色の瞳に射抜かれる。

 顔が熱い。全身の血が沸騰している。胸の高鳴りが止まらない。

 

「後悔など、するはずがない」

 

 世は並べてこともなく、二人の痴話喧嘩など気にも留めずに時の流れは進んでいく。相変わらず世界には魔女が蔓延っており、しかし混迷の時代を迎えていた。

 銃隊は着実にその数と成果を増やし続けている。一方で騎士の仕事は閑散期の真っ最中だ。立場が逆転するのはそう遠くない未来の出来事だろう。それを良しとしない勢力が真っ向から対立することで、二つに割れた教会と魔女が三つ巴の争いを繰り広げるかもしれない。

 なにしろ、日進月歩の非聖性技術に対して、聖性技術はとうに頭打ちを迎えている。大半の技術者は勝ち馬に乗り換えたようだが、古き良きに固執する一部の者たちは既に迷走を始めていた。今では聖性の可能性を広げる名目で非検体の聖女まで集われている。自ら候補に名乗りを上げる聖女も少なくないらしい。彼らは恐れ、脅えているのだ。魔女ではなく、非聖性技術を。長きに渡る教会の歴史に、文化に、聖女と騎士の時代に終止符を打たれることを。

 

「最後が、悲劇だとしても――」

 

 変革には犠牲が付き物だ。そして犠牲になるのは聖女と騎士じぶんたちの方だとレーベンの勘は告げていた。御用済みのお払い箱では済まされず、人間同士の醜悪な闘争や戦争、権力争いの駒になることを強いられるかもしれない。聖女と騎士の物語はいつだって悲劇で終わるのだから。ただ一つの例外も許されないのだから。

 

 

 

『そんなこと――私がさせませんけどね?』

 

 

 

 なんて、誰が決めたのだ。

 

 

 

「――いっしょに、生きてくれると嬉しい」

「貴公……いや、シスネ」

 

 

 

 右手を握る力が、ほんの少し優しくなった気がした。

 

「はじめからそう言えばいいのですよ。この馬鹿」

「……馬鹿で誠に申し訳ない」

「もう慣れましたよ。このばーか」

 

 こちらも五指を絡めてやると、シスネは空いた方の手でそっと口元を隠す。唇の端が吊り上がっている。やはりどこまでも聖女らしからぬ、天邪鬼のように歪んだ笑みだった。

 

「まあ――帳消しにしてやるつもりなど、初めからありませんでしたけど」

「……もしかして俺は試されたのか?」

「当然でしょう。私の初体験はじめてを台無しにしておいて、まさか本気でなかったことにできるとでも?」

 

 ボキボキと指を鳴らしてみせたシスネに戦慄する。もし彼女の言葉を真に受けていたら、有耶無耶にすることで収拾を図ろうとしていたら――想像するだけで恐ろしい。

 

「残念でしたね、手遅れですよ」

 

 そんなレーベンの慌てようを目の当たりにして。シスネは笑った。無邪気な子供のように、可笑しくて仕方がないと言わんばかりに。――本当に嬉しそうに微笑んでいた。

 

「もう放してなどやりませんから」

 

 心臓が、大きく跳ねた。

 

「シスネ、抱き締めてもいいだろうか」

「は!? 街中で何を言い出すのですか、発情するのも大概にしなさい!」

「では口付けだけでも。嫌なら聖性を切って抵抗してくれ」

「~~~~っ、この卑怯者‼ 何を開き直って――」

「大丈夫だ。誰も見ていない」

 

 日没を迎えた聖都は人影もまばらで静寂に包まれていた。夕陽が水平線に沈み、茜空は常闇へと移ろっていく。黄昏時から逢魔時へ。混迷の時代から戦乱の時代へ。それは暗黒時代の再来を暗示しているようで。

 それでも、レーベンは彼女の手を握り返す。

 白い頬を極限まで赤らめ、黒い瞳を僅かに潤ませ、不安半分期待半分といった様子を隠せていない。相変わらず聖女らしくない女。

 そんなシスネだからこそ、レーベンは。

 

「そういう問題では……ま、待ちなさい! 心の準備が――」

 

 いつか喜劇を迎えるその日まで、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

白聖女と黒騎士

White Saint and Black Knight -Seuqel-

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、この辺りは人通りも多いし場所は選んだ方がいいぞ」

「悪いな。後をつける気はなかったんだが……ちょっとばかし事情が変わってな」

「アンタは騎士サマなんだろ。部屋の修理代はツケといてやるから、魔女退治を引き受けちゃくれないか?」

「さっき向かいの孤児院から連絡があったんだ。ウチの宿の方から世にも恐ろしい女の哭き声が一晩中聞こえてきたとか――」

「心配ない。それはきっとシスネの声d」

 

 

 

 

 

Nice boat.




このあとめちゃくちゃ殴られた。


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