―――翌日。
カムラの里の集会場。そのテラス席でフィオレーネとウツシが向かい合う。
今日からいよいよ、里の戦闘技術を学ぶ日々が始まる。フィオレーネは昨日の事は頭の隅に除け、意識して王国騎士の自分に気持ちを切り替える。
「おはよう、フィオレーネ君。改めて今日からよろしく!」
「ええ、またお世話になります。ウツシ教官殿」
フィオレーネとウツシの交流はエルガドで鉄蟲糸技を学んだ時と、ハンターの依頼に盟友として加わり、三人でクエストに赴いた程度。正直なところ、そこまで接点も多くはない。
これから数年間は師事することになる彼の人となりについて、ある程度ハンターから聞いてはいたが、うまくコミュニケーションを取れるかどうか。
「昨日は野暮用で里には居なかったんだけど、どうかな? 里は見て回れたかい?」
「え、ええと……長旅が思ったより体に出ていたのか、起きたのが昼過ぎだったもので……ここやハモン殿など主要な施設と人々にしか……」
「なんだって!? 具合はもう大丈夫なのかい? 今日の特訓は控えめにしようか?」
「い、いえ……猛き炎殿に診てもらったりもしたので、もう大丈夫です。教官殿の心配はありがたいですが、心配は無用。私は万全ですよ」
思ったより本気で心配されて、フィオレーネはたじろぎつつも用意していた言い訳で誤魔化す。実際のところなどとても口に出せるものではない。
ウツシは少し不安げにしていたが、今のフィオレーネの体調が問題ないことを見抜くとすぐに溌剌に戻った。
「まあ、君がそういうなら俺も手加減はしないぞ! 今日からはフィオレーネ君も俺の愛弟子だ!」
「ええ。遠慮などなさらず、存分に技術を叩き込んでください。その全てを吸収してみせます!」
「ようしその意気だ愛弟子! ……おや?」
意気投合しかけたウツシがフィオレーネの背後を見た事で、フィオレーネも必然そちらに振り返る。
そこには、猛き炎の姿があった。
「愛弟子! 闘技大会の受付かな?」
「どうした貴殿。集会場を利用しに来たのか?」
「いや、どちらも違う」
ハンターはそう言って、ウツシの前に―――フィオレーネの隣に立つ。
「師匠、俺にも改めて教えてくれ。フィオレーネと同じように」
「おおっ!!」
「なに!?」
フィオレーネは思わぬ発言に目を丸くするが、男に何かを言うよりも早くウツシが反応した。
「そうか……愛弟子はフィオレーネ君を手伝おうと!」
「ああ。二人で学べば互いに教え合い、もっと早く修めることができるだろう?」
「それは、嬉しい申し出だが……」
「……ゔっ!」
得意げにフィオレーネを見下ろす男と、びっくりしつつも嬉しそうなフィオレーネ。その傍らでウツシが突然腕で目元を押える。
「師匠?」
「ウツシ教官殿…?」
何事かと注視した二人の前で暫く震えていたウツシが顔を上げる。
「――最高だっ!!」
だばだばに泣いていた。
「愛弟子同士の熱い友情、素晴らしいっ!! 今俺は猛烈に感動しているっ!!!!」
「「………」」
テンションのハネ上がりようについていけない二人を他所に、ウツシは更にヒートアップしていく。
「愛弟子の気持ちはしっかりと受け取った!! 愛弟子も一緒に稽古を付けようじゃないか!! ……し、しまった! 愛弟子が二人もいては愛弟子では呼び分けられない!! でも愛弟子一号二号なんて数字分けするような真似は俺には……! どうすればいいんだぁーっ!!」
「……きょ、教官殿?」
これまでのフィオレーネから見たウツシの人物像は、『熱血だが良い教官』といった具合だった。フィオレーネは、こと『愛弟子』に対するウツシの熱の入りようを知らなかったのだ。
熱血どころではない何か。さしものフィオレーネもこれには内心引いていた。
「なんだい愛弟子!! ――いや、そうか! 重要なのは呼び方じゃない! 俺と愛弟子が心で通じ合えば呼び分けなんて不要。そうだろう!?」
「そ、そう……ですね?」
「ようし!! じゃあ早速行こうか愛弟子と愛弟子!! 今日の稽古は二人の鉄蟲糸技への習熟度を実践を交えて見るから、早速クエストを受注しよう!!! うおおおおおおっやるぞおおぉぉーーーっ!!!!!」
一人でミノトの方へ突っ走って受注可能なクエストを吟味し始めるウツシを、フィオレーネとハンターは突っ立ったまま眺めていた。
フィオレーネは頬を引きつらせたままハンターに問う。
「……もしかして貴殿の教官殿は、いつもああなのか?」
「……師事していたときは、割と。最近は落ち着いたと思っていたが、単に指導ではなかったからだったらしい」
「あれで比較的落ち着いていたのか!?」
エルガドで共に狩猟に赴いた時の事を思い出したフィオレーネは驚愕を顕にする。
ウツシの本性のようなものを垣間見たフィオレーネは、しかし咳払いで話題を切り替える。
「ごほん。……しかし貴殿、なぜこのようなことを。私を手伝ってくれるのはありがたいが、貴殿には里を守る使命があるのではないのか」
「フィオレーネと同じだ。今の里は、俺が少々離れるくらいでどうこうなりはしない。だから、その分俺は未来の為に動こうと思った」
「それは、ひょっとして。私を見てそう思った、と?」
「そうだが」
「……そ、そうか」
照れも恥じらいもなく言ってのけるハンターにフィオレーネは鼓動が跳ねると同時に全身のむず痒さを覚え、鎧に覆われた腕を擦る。肩当てが擦れて小さな金属音が立った。
(くっ、なんだ。妙に体がむず痒い……! なんだか年甲斐のない喜びを感じている気がする……!)
「どうした?」
「いッ、いや。なんでもない。それより急ごう、貴殿。あのままでは教官殿、一人で狩りに出撃しかねない勢いだ」
「それは不味いな。行くか」
クエストを選び終えたのか、既に出口から飛び出そうとしているウツシの方へと歩きだすハンターの横を、フィオレーネが駆けて追い越す。
通り際に横目でハンターを見て得意げに笑うフィオレーネにハンターは対抗心を燃やし、先に走り出していたウツシを追い光の射す方へ、愛弟子二人は走り出した。
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