「……精液を体内に取り込むんじゃなかったのか?」
先に絶頂の余韻から立ち直った男が、布でフィオレーネの身体を斑に汚している精液を拭いながらふと思いついたように言ったその一言は、フィオレーネの様々な感情に火を付けた。
「―――ッ!!!」
フィオレーネは両手で男の肩を鷲掴み前後に揺さぶろうとするが、絶頂の余韻冷めやらぬ身体ではさしたる力は入らない。男を小揺るぎもさせられなかったのが尚の事憤りを募らせる。
「貴殿っ! 気付いていて! なぜ! 言わなかったっ!! これでは何のっ! 意味も! ないではないかぁっ!!!」
男はどうどうとフィオレーネを宥める。胸丸出し&下は潮やら精液やらの体液まみれの格好で怒られても、滑稽な絵面にしか見えなかった。フィオレーネもそれに気付き、胸を隠そうとするが、今更隠したところで無様を重ねるだけだと開き直る。
なんだかもうやけっぱちな気分になり、とにかくキュリアの後遺症をなんとかすることだけに集中したフィオレーネは、拭い残しの子種が付着していた右手を口元に近づけた。
「はあ、まったく。……まあ直接ではないにしろ、鮮度には大差あるまい」
フィオレーネは手の甲の精液を舌で舐め取る。青臭い苦味と少しの塩気が広がり反射的に顔を顰めるが、舌に乗せた牡の滾りが彼のものだと思うと、途端に一息に飲んでしまうのが惜しい気分になる。が、それはそれ。キュリア後遺症を優先し一息に喉へ送り込む。
「んっ…んぐ。いやに粘濃くて、絡みついて…」
何度か喉を鳴らし胃に送り込んだフィオレーネは、ふと視界に映る光景に変化を感じる。出処は探すまでもなかった。この短時間で、既に出す前とさして変わらない程にまで勃起した肉棒である。
「貴殿――なぜもうそんなに熱り立たせているんだ?」
無節操な男にフィオレーネは冷たい視線を向けた。
しかし男からすれば『激しい前戯をシたばかり露出過多のフィオレーネが、目の前で頬を紅潮させながら自分の子種を舌で舐め取り飲み込む』なんて真似をされているのだ。出したばかりだろうとお構いなしに陰茎に血が集うのも無理からぬことである。
「まあ、良い。まだ
自分の行いがどれほど男の欲情を煽り立てたのかがいまいちピンときていないフィオレーネは、男の膝の上に向かい合って跨がり腰を下ろす。
男の肩に片手を置き、もう片手で肉幹を握る。射精直後の肉棒を労る優しい愛撫が、男の精巣をグツグツと煮えたぎらせる。
「元よりこうするつもりだったんだ。あの量ではキュリアも満足していないらしいしな?」
不敵な笑みを浮かべるフィオレーネだが、陰茎をやわやわと擦るばかりで挿れようとしない。ハンターは顔に疑問を浮かべ始める。
「ち、違うぞ!? やり方がわからないとかではない! 知識として知ってはいるんだ、こ、ここに貴殿のペニスを挿れて……」
フィオレーネは腰を浮かせ、先程ハンターの指が入っていた場所に肉槍を宛がう。後は腰を沈めれば入るはず。だが、フィオレーネの中ではどうしても長大な剛棒が放つ存在感による恐怖が拭い去れない。
(や、やはり恐ろしい…。こんな大きさの男性器が入る気がしない…! これは正しく槍だ、肉の凶器だっ。自分から槍に貫かれに行くようなものだぞ! できるわけが…! だ、だがしかし、やらねば……ならないんだ…!)
ハンターはフィオレーネの逡巡を察する。待ってやりたい気持ちはあるが、男からすれば膣口と鈴口が触れ合ったまま焦らされているようなもの。
痺れを切らし、口を開く。
「怖いのか?」
ハンターの図星の指摘にフィオレーネは動揺し、上ずった声で反駁する。
「こ、怖いわけがないだろう! 私は誉れある王国騎士だ! この程度、なんとも……!」
外から見て取れるほどに恐れているのに頑なに認めないフィオレーネの背を、男は優しく撫でる。慕う男の手の感触に少し恐怖が和らぐ心地を覚えながら、フィオレーネは困惑を顕にした。
「な、なにを…」
「無理はするな」
男は心配を込めて言葉をかける。それは傍からすればフィオレーネを落ち着かせているように見えただろう。
だが、その
「ッ、舐めるなっ!」
『初めてだから腰が引けてるんだろ?』。そう言われたような気がして、フィオレーネのプライドが恐怖を上回った。意を決し、力を込めて腰を下ろす。
入ったと思った瞬間、ミチミチと閉じた襞道を押し広げる肉棒の感触が圧迫感とともにせり上がる。膣内は十分に濡れていたが、処女の身体でいきなり受け入れるには男の逸物は規格外に過ぎた。肺が押し上げられるかのような息苦しさが視界を明滅させる。上下の感覚があやふやになったフィオレーネは無我夢中で男の身体にしがみついた。
「ッ、かはっ、ァ……っ! この、程度っ…!」
空気が吐き出されるばかりでまともに吸えない。呼吸困難がよりパニックを助長するが、彼女とて歴戦の
「ふッ…ぐ……! っは、ぁあっ!」
ぐつ、と子宮口と亀頭が接触する感覚で、遂にフィオレーネの腰が止まる。あれだけの威圧感と恐怖を放っていたハンターの剛槍は、9割方フィオレーネの体内に収まってしまっていた。男に身体を預け、フィオレーネは呼吸を整える。
「はあっ、はぁあっ……どう、だ…? 貴殿の逸物など、気合一つでどうとでもなる…っ」
額に浮いた脂汗に、乱れきった呼吸に険しい表情。荒く上下する胸と内から皮膚を押し上げぽこりと小さく丸く膨らんだ腹部。フィオレーネが無理をしているのは明白だった。男は何かを言いたかったが、逸物をギチギチに締め付ける膣肉に全方位から圧搾され、口を開いても呻きしか上げられない。
「ふっ、ふふっ…こ、このまま……貴殿の精液を、一滴残らず搾り取って…やるぞ…っ」
男の肩に置いた手に力を込め、無理に無茶を押して動こうとするフィオレーネをハンターが抱き留める。フィオレーネは一瞬でぼっと顔を赤く染め、ハンターの腕の中で暴れる。
「なっ、は、離してくれっ! 私が動くと言っているだろうっ!」
「何故、そんなに焦る?」
男の言葉は、フィオレーネの心の核心を突いていた。
「っ、わ…私は焦ってなど…」
口ごもるフィオレーネに、男は「誤魔化さないでくれ」と言葉を重ねる。
「―――っ」
対面座位で繋がったまま、フィオレーネとハンターは向かい合う。寝台に腰を下ろしたハンターと寝台の上で中途半端な膝立ちになっているフィオレーネでは、ハンターが少し見上げる形になっていた。
「さっき、貴殿にその…
言いながら、フィオレーネは自分の下腹部を指でなぞる。小さな刺激に片目が
「あの時、私は未知の幸福感を覚えていた。下腹部を中心に快感が弾けて、身体の芯が抜け落ちるような…なのに、それにこそ幸せを感じていた」
顔を俯け、フィオレーネは訥々と零す。
「その感覚が波のように引いていく程に、私の中に、渇望が生まれていった。『あの感覚を、もっと味わいたい。いつまでも、何度でも』と」
「既に、私は貴殿との…行為に、病みつきになりつつあるんだ。これ以上、私の身体がセックスの快感を覚えたら、私は―――貴殿と、離れられなくなってしまう……」
その声色はどこまでもしおらしく、フィオレーネという人物像からは考えられないほどに弱々しかった。普段とまるで異なる、小動物のような今のフィオレーネの姿が、男の胸を強く打つ。
「貴殿を恩人と思い、男として慕っている。だが、私と貴殿では文字通り住む場所が違うんだ。今は、共にエルガドに居るが、危機が完全に去った後は、貴殿はカムラの里へ、私は王国へ帰らねばならない」
「…あまりにも、残酷じゃないか。貴殿との交わりに幸福と悦楽を覚えておきながら、再びそれを味わう機会は滅多とない、などと。行き来出来るからと言っても、そう気軽に渡航できる距離でもない。これっきりに、しなければ。私は、これ以上貴殿との行為に、耽溺してはならないんだ…っ」
男の肩に掛かる手に、押さえつけるような力が籠もる。背中を丸め、縋るように男の首元に鼻先を押し付けるフィオレーネの背中を、男はそっと撫でる。
「っ、またそれを――」
何事か言おうとしたフィオレーネを遮り、男は思ったことをそのまま口にする。
「離れなければ、良いんじゃないのか?」と。
フィオレーネは僅かに顔を傾げる。艶やかな髪が揺れ、男の顔を擽った。
「何を、言っている…? 私は、王国騎士だぞ…。理由もなく守るべき国を離れるわけには…」
――「
「え? あ……。た、確かに不可能じゃ、ないな…。武術指南でも、技術交換でも…。カムラの里との交流で、学べるものは多い…から……」
フィオレーネの腰と頭に手を回し、ハンターはフィオレーネを抱きしめる。腕に込められた力は、男のフィオレーネへの執着が形になったかのようだった。少し息苦しくすらある力が、今はそれがどうしようもなく安らぐ。
――「方法はある。フィオレーネの望む手段を選べば良い」
少しばかり邪な想像をしてしまった自分を内心で恥じつつ、フィオレーネは思考の靄が取り払われるのを感じていた。
(ああ、そうか…。私は一人で悩んで、一人で突っ走っていたのか。すぐ側に彼が居ると言うのに……)
フィオレーネは身体を少し離して顔を上げる。
「すまない、貴殿のお陰で目が覚めたよ。私は少し視野が狭まっていたらしい。…ふふっ、貴殿にここまで求められてしまうとはな…。女の幸せは手放したつもりでいたのだが、私も存外捨てたものではないかもしれないな?」
若干調子に乗っている節があるフィオレーネに、男は「まだ視野が狭いんじゃないか?」と零す。
「? どういう――んい゛っ!?♡♡」
男が腰を動かし、繋がったままの陰茎を揺する。先程とは明らかに異なる感覚にフィオレーネの腰が震える。男の指で愛撫されたあの時のような。
男が少し腰を引けば、膣鞘に納められた抜身の肉刀がフィオレーネの視界に映り込む。ぬらぬらと愛液に塗れ、待ちぼうけを食らい続けた苛立ちに怒張する逸物が。
会話のトーンがトーンだけに、男は今まで辛うじて平静を装っていたが、そもそも下半身が繋がったまま、直ぐ側で雌の匂いを振り撒き続けられていたのだ。膨張し続ける欲望を理性で押さえつけるのも限界に達していた。
「これだけ待ったんだ、流石に馴染んだだろう?」
先の紳士的な態度とは別人のような、獣欲も顕な声がフィオレーネの耳朶を叩く。
その言葉でフィオレーネは遅まきに自分の身体の変化に気付いた。体内を無理に押し広げられて感じていたはずの苦しさが、殆ど無くなっている。慣れたわけではない。自分の身体の方が、男の剛槍に貫かれることに順応しつつあるのだと。
「ま、待ってくれ、今、身体がヘンで……それに、その口ぶりはまるで…」
(まるで―――さっきの会話が、私の身体が逸物に馴染むまでの時間稼ぎとでも言わんばかりの…!)
自身の変化についていけなくて、男の豹変についていけなくて。フィオレーネは男に目を向ける。男は真っ直ぐにフィオレーネを見つめ返した。
「あの会話も本気だ。フィオレーネのやりたいようにやればいいと思った。だが、こんな時に、男の前で、あまりしおらしい姿を見せるな。―――
心を読んだかのように発される言葉と共に、男の眼がフィオレーネを射抜く。欲望にギラギラと輝く双眸が、これから狩る獲物に向けるような本気の眼差しが。『俺の
「そ、その眼をやめないか…っ! ほんの少しだけ待ってくれれば、その後は貴殿の好きに――!」
「十二分に待った」
男はフィオレーネを抱きしめていた両手でフィオレーネの腰をがっちりと掴む。その逸物でフィオレーネの膣肉を捏ね潰して自分専用に作り変えてやる為に。例えどれだけ暴れられようとも、ここだけは離さない為に。
「もう―――待たない」