上にエロシーンはありません。
エピローグから更に数日ほど経っている想定です。
空は青いままながら、太陽が傾きかけたころ。
表向きは交易商、その実態では王国騎士であるロンディーネは、一月ぶりに観測拠点エルガドを訪れていた。『フィオレーネの不調』という、ロンディーネをして心を騒がせる噂を耳にしたのが数日前のことだった。
風の噂など、発生から何日経って己の耳に届いたのやらわかったものではない。本来ならば一刻も早く駆けつけたかったが、ロンディーネも立場と役目がありそれをおいそれと投げ出すことは出来なかった。どうにか暇を作り、ようやくエルガドに辿り着いたのだ。
「姉上……!」
マーケット街を駆け抜け、一息に騎士団指揮所へ向かう。しかし、いざ向かってみると指揮所の雰囲気は予想より随分と和やかだ。無論、キュリアの脅威は冷めやらずむしろ激しさを増すばかり。新たに傀異化したモンスターへの対応に追われてはいるようだが…。
ロンディーネは、ひとまず提督の下へと向かった。
「提督!」
声をかけられたガレアスは、顔を少し綻ばせた。
「おお、ロンディーネ。来ていたのか」
「はい、つい先程。姉上の体調が良くないと聞きましたので」
「そうか、フィオレーネも姉想いの妹を持って幸せだな」
「それで、身体の具合は…!」
ロンディーネがまくし立てるように本題に入ると、ガレアスは手でその勢いを制した。
「落ち着け…フィオレーネは無事だ。どころか、不調を来す前よりむしろ元気なくらいだ」
「そう、ですか。……良かった」
ロンディーネは胸を撫で下ろす。過去にメル・ゼナの一撃を受け、生死の境を彷徨った時はそれはもう気が気ではなかった。もしまた同じことが起きたのなら、その不安がどうしても拭い去れなかった。
だが、提督が大丈夫だと言うのなら、それは確かだ。彼の人を見る能力に疑いはない。
「あ、と。失礼しました提督。急に呼び止めてしまい」
「構わない。そうは見えないかもしれないが、今は少しばかり余裕もある。カムラの里のハンター殿の尽力もあり、傀異化したモンスターやキュリアの調査も順調だ。彼には感謝してもしきれんな」
「当然です。私の愛する里を、守り抜いたハンター殿ですから」
少しだけ、ロンディーネは誇らしげに胸を張る。自分の第二の故郷と言っても差し支えない程に大切なカムラの里。そこに生きる人が褒められるというのは、自分のことのように嬉しく思えたからだ。
だが、それをここであまり表に出すのもはしたない。なので少しだけに留めた。
「提督。姉上の無事はわかりましたが、今どちらに?」
「ハンター殿と狩りに向かったと聞いているが」
「では、少し待たせていただきますね。積もる話もあります」
「留まるのなら、姫にも顔を見せてやれ」
提督の許しも出た。ロンディーネは落ち着いた足取りで指揮所を後にした。
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「ロンディーネじゃん、おひさー」
「バハリ殿」
「バハリさん!」
指揮所を出てすぐのクエストカウンターで依頼書を纏めていたチッチェ姫と話をしていたロンディーネに、バハリが近づいてくる。
バハリの顔を見て何か思い出したのか、チッチェ姫は椅子から立ち上がりバハリに詰め寄る。
「そうだバハリさん、いい加減教えてください!」
「あ゛。いやぁ、姫様はお気になさらず…」
バハリが苦笑いを浮かべなだめようとするが、チッチェ姫は引かなかった。
「この前もそう言っていたじゃないですか! バハリさんはやっぱり何か知ってるんですよね!?」
「いやいや、俺みたいな研究第一なヤツが何を知ってるっていうんです。ねえロンディーネ?」
「……姫様、一体何の話です?」
バハリが可愛げぶって舌を出しながらこちらに向いてきたのをスルーしてロンディーネは話しかける。バハリはスン、とどこか寂し気な表情に変わった。
チッチェ姫は小さな拳を握りしめて持ち上げ、それに向かうように声を張った。
「フィオレーネとハンターさんの関係です!」
バハリが冗談めかして作った寂し気な表情を一瞬引き攣らせたのを、ロンディーネは見逃さなかった。
「フィオレーネの元気がまた出た時と同じくらいから、フィオレーネとハンターさんの距離が近いんです! きっとフィオレーネとハンターさんの間になにかあって、それで元気になったんです! お母様に読み聞かせていただいた御伽噺にもありました! きっとその…キキキ、キスとか、したんですよ! きゃーっ!」
妄想を膨らませ一人で舞い上がるチッチェ姫を、バハリがまあまあと落ち着かせる。
「ままま、姫様一旦そのへんで。ロンディーネがビックリしてますよ」
「あ、ああ! ごめんなさいロンディーネ!」
「いえ…いえ。大丈夫です、ちょっと驚いただけで……」
バハリに指摘され、慌てて謝るチッチェ姫をロンディーネは諫める。
(動揺が顔に出ていたか、まだまだ未熟だな…。それより)
内心自省しつつ、ロンディーネはバハリに目を向ける。バハリは片膝を突いて姫様と目線を合わせる。
「気になるのはわかりますけど、本人達が話さないことを周りが囃し立てるのは行儀が悪いですよ姫様」
「うぅ…それは、わかっているのですが……でも、どうしても気になって……」
椅子に再び腰を下ろし、しゅんと落ち込むチッチェ姫にロンディーネは優しく声をかける。
「姫様、お茶でも如何ですか? よろしければ、ロンディーネが茶屋で買って参ります」
「おお、ナイスアイディアロンディーネ! 姫様も疲れてるのかもしれませんし、ここらで一度休憩としましょうよ」
「そ、そうですね…ロンディーネ、お願いしてもいいですか?」
「勿論です。バハリ殿、貴殿も来ていただけるか?」
「ああいいよ」
バハリは二つ返事で快諾し、二人で茶屋に向かう。その傍ら、声量を落として二人は密かに話していた。
「バハリ殿、本当のところ…何を、どこまで知っている?」
「ハハ…まあマジで俺も全部知ってるわけじゃないよ?」
バハリはそう前置きをしてから、話し始めた。
「フィオレーネとハンターがイイ仲なんだろうってのはまあ…見てりゃわかるくらいよ」
「そんなになのか」
驚きと共に発せられたロンディーネの言葉に、バハリはわざとらしく肩をすくめた。
「そんなに。まぁ別にそれは全然イイんだけどさ……あー……なんて言うかなぁ、俺がこうして言葉を濁していることで、伝わったりしないかな?」
「いや、全く」
あまりにもバッサリとした否定にバハリは肩を落とす。
「そうかぁ…ああそうだ、フィオレーネの調子が悪かった時、度々タドリに診てもらってたから……俺よりタドリに聞いた方がその辺はわかるんじゃない?」
「わかった、そうさせてもらう」
フィオレーネの不調の真相に一歩近づけた。ロンディーネはその手応えを実感しつつ、ふと覚えた疑問をバハリに向ける。
「バハリ殿は、タドリ殿に聞きに行かないのか?」
「フィオレーネが話さない事に俺がズカズカ踏み込んでいくのは、ちょっと違うかなって。それになんつうか……知った所でなぁ……」
(バハリ殿が言葉を濁す部分にその答えはあるのだろうが…)
どうにも煮え切らない態度のバハリにロンディーネは眉をひそめたものの、自分達に向けてチッチェ姫が手を振っているのを見れば、この話は押し問答になる前に切り上げるべきだと判断した。
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チッチェ姫の休息に付き合い、別れたロンディーネはタドリの下に向かっていた。
「フィオレーネさんの不調の原因…ですか」
「はい。バハリ殿から、タドリ殿が診られたと伺っている。何があったのか教えてくれないか」
ロンディーネが真剣な顔でそう言うと、タドリは少し考えてから口を開いた。
「……ロンディーネさんは妹ですからね。肉親の異常が気になるのも仕方のないことでしょう。わかりました、お話します」
それから、タドリはキュリアの後遺症についてロンディーネに話した。後遺症について一通り聞き終わった後、ロンディーネは堪えられず俯く。いつ治るとも知れぬ病に姉が苦しめられているのだ、平静でいられる方が不思議だった。
「大丈夫ですか」
「大丈夫、です」
タドリが気遣わしげにかけた言葉に、ロンディーネは力のない返事で応える。
「……それでタドリ殿。その後遺症は、どのようにして今沈静化しているのです」
「対処法がうまく行った、とだけ。これ以上は、私の口から申し上げる訳には」
「な、何故! バハリもそうだ、なぜ肝心な所で黙ってしまうんだ!」
ロンディーネの烈火のような勢いを、タドリは受け流すように答えた。
「フィオレーネさんの個人的な事情に踏み込むことになるからです。私の口から言うべきではありません」
「っ…!」
ロンディーネは逸る己を強いて律する。そして考える。バハリも、タドリも、フィオレ―ネに起きたことの大筋は話してくれるが、核心には揃って口を噤む。ではそれは一体何なのか。
だが、考えようにも本人はいないし情報も足りない。これではどうにも絞り込めそうになかった。
「タドリ殿…語気を荒らげて済まなかった。そして後遺症について教えてくれたこと、感謝する」
「いいえ。こちらこそ隠し立てをしてしまい申し訳ありません」
ロンディーネは踵を返す。まずは情報が必要だった。
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太陽が大きく傾き、空が赤く染まり始めた頃。
ロンディーネは顎に手を添え、歩きながら思考に没頭していた。
エルガド中の人やアイルーに聞いて回った所、回復後のフィオレーネの動向について証言が得られた。緩やかに脳内で巡る情報は時間と共に纏まり、一つの答えを描きだそうとしている。
そんな折。
「ロンディーネ!」
自分を呼ぶ声にロンディーネがハッと顔を上げると、チッチェ姫が駆け寄ってきていた。
「姫様! どうなされたのです?」
「フィオレーネを見ませんでしたか? 狩猟は既に終わっているはずなのですが、何故かいつまでも帰ってこなくて…ハンターさんも……」
「! …二人はどこへ!?」
ロンディーネは目の色を変える。チッチェ姫はロンディーネの形相に驚くも、立ち向かうように声を張り上げる。
「た、大社跡です! 傀異克服オオナズチの討伐に――」
「承知しました。私が行って、様子を見て参ります」
「ロンディーネ! あの……気をつけてください!」
背に受けたチッチェ姫の声からは、心配と不安が滲んでいる。背にかばう者を泣かせるは王国騎士の恥だ。故にロンディーネは振り向かず応えた。
「――お任せを」
チッチェ姫の想いを背中に載せて、ロンディーネは駆け出した。
ストーリーが読み返せてないのでキャラクターの解釈とかが合ってるか若干不安です。