ロンディーネは最速最短で準備を整え、大社跡のメインキャンプに降り立った。既に陽は沈み、代わりに昇った月は叢雲がかかり薄暗い。森の中というのも相まって人を探すには不向きな状況だったが、だからと言って引くわけにはいかなかった。
(キュリアの影響を克服したオオナズチの毒…キュリアに侵された姉上が受ければ、未知の異常を引き起こしたかもしれない!)
自由に動けるのが猛き炎一人だけでは、エルガドに異常を伝えるのも難儀するだろう。二人いれば何事にも遥かに融通が効く。その為にもとにかく合流しなければ。
(ここまでの道のりに二人の痕跡は見当たらなかった……なら、二人は大社跡のエリアから遠くへは行っていないはず…!)
支給品BOXの中身は弾薬・ビン類を残して空。メインキャンプの中も無人。ここには居ないと判断したロンディーネは、道中を捜索しながらサブキャンプへ向かう。
そうして、サブキャンプの付近まで辿り着いた頃。
「っ―――、ぁあっ……!」
「!!」
ロンディーネは呻くような、唸るような小さな声を聞く。女性の声で、見上げたサブキャンプの中からは明かりが漏れていた。加えて、小さく何かがぶつかるような音も。
(姉上! サブキャンプにいたのか…。だがこの声は…!)
ロンディーネの頭の中で嫌な想像が急速に広がっていく。不安視していた事が現実に起きたのか。傀異克服オオナズチの毒がフィオレーネに未知の効果を発揮してしまったのだろうか。姉上は苦しんでいるのか。猛き炎、王国の英雄。カムラの里のハンター殿は、毒に侵され暴れる姉上を一人で抑え込んでいる。だから帰れず連絡も取れないのか。
「くっ…!」
(姉上――!)
もはや一刻の猶予も惜しいロンディーネは翔蟲で素早く頂上に飛び上がり、サブキャンプの暖簾を掴み、音を立てながら大きくめくり上げる。妄想よ、頼むから杞憂であれと願いながら。
その向こう側にある光景は果たして―――
「はァッ♡ あぁぁあっ♡ もっとっ♡ もっと突き上げてくれっ♡♡」
「ぐぅっ……フィオ、レーネ! フィオレーネっ!」
「や、やめろぉ♡ 名前をお゛っ♡♡ 連呼する、なぁあっ! し、幸せになってしまうじゃないかぁっ♡♡」
サブキャンプ内の寝台の上で、フィオレーネとハンターは激しく睦み合っていた。二人共一糸まとわず裸体を曝け出し、寝台に仰向けで寝そべったハンターの上からフィオレーネが抱きつくように跨っていた。
入り口に立つロンディーネの側からは二人の頭や身体で良くは見えないが、柱のような肉杭がフィオレーネの蜜穴に激しく出入りし、その度淫猥な水音と共に二人分の体液が結合部から飛び散って、閉め切られていた空間の中に雄と雌の性臭を撒き散らす。
フィオレーネが尻房を勢いよくハンターの足の付け根に叩きつけ、同時にハンターも腰を遣って凶暴な剛直を跳ね上げる。その行為はどちらかが強制されているのでは断じて無く、欲情のままに愛し合っているのだと、誰が見てもわかるものだった。
ロンディーネは、目の前に広がる光景を全く理解できなかった。ただ呆然と口を開け、乗り込んだ時の不安定な姿勢のまま完全に固まっていた。
妹の存在に気付いてすらいないのだろう、フィオレーネとハンターは昂ぶっていく心のままにスパートをかけ始める。
「お、ォッ!」
「んぁうぅっ♡」
ハンターがその逞しい腕を回し、フィオレーネの尻肉をがっしりと掴む。計十本の指で、掌で、フィオレーネのつきたての餅のように豊かで柔らかい尻臀の感触で己の興奮を高めながら、フィオレーネの下半身を我が物のように扱い激しいストロークで己の逸物を扱く。
フィオレーネはそんな風に扱われる事に悦びさえ覚えながら、負けじとハンターの耳に舌先を差し込んだ。耳から直接脳に伝わる、いやらしい水音とこそばゆさを伴う快感がハンターの射精欲をダメ押しのように煽り立てる。
「っ、ぐぅ…!」
「ぁあっ♡♡ 激しいッ♡♡ いいぞっ♡ 私の身体はっ、貴殿の好きに使っていいッ♡♡ だからぁっ、ありったけ、全部出せぇっ♡♡」
「おおッぐ…!」
ばちゅんッ! どちゅんッ! と、肉のぶつかり合う音を立てながら、二人の昂りは天井知らずに高まっていく。
そして。
「出すッ! 出すぞ、フィオレーネ! 中にッ…!」
「お゛っ♡ ふう゛っ♡ 来いっ♡♡ 私もクるからっ♡♡ 貴殿の猛り、全部私にぃっ♡♡」
「――ッ!!」
「あぁああああーーーーっ!!」
重く、そしてくぐもった射精音は、
十数秒か数十秒か。兎にも角にも長い射精が終わり、フィオレーネはくたりとハンターの首元に頬を寄せる。フィオレーネが、汗にまみれ余韻に鈍い身体でよろよろと顔を上げれば、排熱でもするかのように熱い息を吐くハンターと目が合った。
「はぁっ、はぁっ……ふふ、満足したか? 貴殿」
「ああ、とても良かった」
「それならよかった――んむっ♡」
フィオレーネは衝動と悦びのままにハンターと唇を重ねる。ハンターはそれを受け入れ、二人の間で舌がうねり合う。
「んちゅっ、ぷあ…れるっ♡ んふっ♡」
熱を分かち合うような接吻をたっぷりと愉しんだ後、少しだけ口が離れる。唇の間にかかった銀糸を伝って、小さな雫がハンターの口に吸い込まれていった。
「ぷはっ――そろそろ、抜くぞ…」
「ああ、流石に…そろそろ戻らないと、皆に心配を――」
言いながら顔を上げたフィオレーネと、ロンディーネの視線がばっちりとかち合う。急に言葉を止めたフィオレーネを怪訝に思い、フィオレーネと同じ方へ首を巡らせたハンターも、入り口に立つロンディーネを視界に捉えた。
たっぷり十秒、三人は硬直し。
「な、」
「えっ」
「ぬ」
少しずつ状況を飲み込めてきたロンディーネ、フィオレーネ、そしてハンターが同時に息を零し―――
―――決壊する。
「なァアアアアアアアアアアアッ!!?」
「ロッ、ロロロロンディー、ネェ!? な、ぜこ、ここ、に……!」
「ッ……!」
ロンディーネが悲鳴を上げ、フィオレーネが派手に狼狽し、ハンターは息を呑む。何もかもが許容量を越えていた事態にロンディーネは思考を放棄し、とりあえずフィオレーネが無事であるらしいことだけは良かったと思うことにした。
それはそれとして、色々と言わなければならないことも出てきたのだが。
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ロンディーネは全てを知った。フィオレーネに起きた変調について、その対処のあらましも、その結果として始まった新しい日常も。全部フィオレーネの口から割らせた。
そして今日のいきさつについても。
首尾よく傀異克服オオナズチを討伐せしめたハンターとフィオレーネだったが、二人で対処するには些かオオナズチは強敵に過ぎた。これではエルガドに戻るまで身が保たないと判断した二人は、ひとまずサブキャンプに戻って休息を取ることにした。
休息の中での話題は、必然的に先のオオナズチ戦の振り返り――反省会のようなもの――になった。ロンディーネは知っているが、フィオレーネの反省会は長い。視野を広く持つことができ、自分だけでなく仲間の動きもしっかりと把握・記憶できるフィオレーネだからこそ、瞬間的な判断の遅れやミスを的確に指摘し、次に繋げる事ができる。反面、その分どうしても時間はかかってしまう。
だが、命を燃やすような戦闘の直後だ。フィオレーネにしてもハンターにしても、その心の荒波はすぐには収まらない。その上フィオレーネはオオナズチ戦で受けたダメージの為、じっとしているのが辛く身体がふらふらと揺れていた。
ハンターの眼の前で、服や鎧に隠されていたとしてもその麗しい肢体を見せびらかすかのような形になってしまっていたのだ。
これにはハンターも落ち着くどころかむしろ欲望を募らせるばかり。少ししてそれに気付いたフィオレーネも徐々にその気になって―――と。
「なるほど、そういうことであれば仕方ありませんね―――とでも言うと思いましたか!!」
三人で換気と掃除を行い、淫臭の元を粗方祓ったサブキャンプを背にロンディーネが一喝すれば、服を着直したフィオレーネは地面に正座したままビクリと身体を竦ませる。ハンターも脱いだ鎧を纏い、隣で正座している。男性用のゴツい鎧を着たままの正座は中々に堪えた。
「まあ、百歩譲って狩猟後の昂りを……その、
チッチェ姫を引き合いに出されれば、さしものフィオレーネも強くは出られない。しゅんと縮こまった。
「うっ…それは、その…本当に、申し訳ないと思っている……」
「それからハンター殿も!」
フィオレーネを心配げに見ていたハンターは、いきなりお鉢を向けられ背筋をピシと伸ばした。
「姉上が
フィオレーネがショックを受けた表情になっていたが、それに取り合わずロンディーネは続ける。
「シても良い時と駄目な時を理解し、己と姉上を制していただきたい!」
「……以後、気をつける」
反省した様子の二人を見下ろし、ロンディーネはため息をつく。
「さあ、エルガドに帰りますよ。姉上、ハンター殿。皆が待っています」
「あ、ああ……」
「………」
三人はガルクに乗って大社跡を後にする。先程は強めにフィオレーネを叱りつけたロンディーネだったが、その内心は怒りや呆ればかりではなかった。
自分とフィオレーネを比べると、こと一ハンターとしての力量に於いては自分に軍配が上がることは、フィオレーネもロンディーネも理解している。無論、姉には姉の長所がありそれが妹とは異なるだけの話なのだが、身近な人間に力負けしている事実は、いつしかフィオレーネの心根に危うさを抱かせていた。
エルガドを襲った災厄の最中、フィオレーネは自らの命を擲ってでもエルガドを守ろうとした。その件はガレアス提督の叱責によって免れたが、ガイアデルムとの決戦の折も、フィオレーネは這い出ようとしたガイアデルムに我が身を顧みず飛びかかったと聞く。
結果的にその判断は正しかったものの、フィオレーネの自己犠牲精神はロンディーネにとって悩みの種だった。
(全ては王国を守るという重責を、過剰に背負いこんでしまうが故なのだろうが……)
だが、フィオレーネは変わっている。猛き炎という新たな心の拠り所を得て、以前よりは自分の命の大切さを認識するだろう。『目的を果たす』ではなく、『生きて目的を果たす』ことを念頭に置けるようになるはずだ。
それは、とても喜ばしい変化で。
ロンディーネは少しだけ、心が晴れやかになった。
(だが)
――それは、フィオレーネを問いただしていた時の出来事。
『し、しかし! 毒に倒れた私を、追撃をかけたオオナズチから颯爽と、翔蟲で飛びながら腰をこう、掴んで、掻っ攫うように避けさせて…その後も私を背にかばいながらオオナズチに立ち向かう彼の姿を思い出すとこう…胸がきゅうっと締め付けられて、何でも許してしまいたくなって――』
もともと可愛いものの前では普段の凛々しさを崩してしまう姉に新たに色ボケの気が出てきたのは、また別の悩みの種となりそうだった。