~エルシア視点~
「待ちなさい、おとなしく観念しなさい!」
「馬鹿が、誰が観念するかよ。お前らこそ、いい加減に諦めろよな!」
私とひかりちゃんが2体の亜人を追跡する。
むこうも必死にこちらを振りきろうとしていて、なかなか追いつけない。
身体能力はこちらの方が上なのだが、どうやら地の利は向こうの方にあるらしい。
「気を付けて、ひかりちゃん。捕まった人たちを助けるのも大事だけど、私たちも十分に用心しないと。」
「わかってるよ、エルちゃん。また、前回みたいなことにならないようにしないと。」
かつてひかりちゃんを狙って亜人たちが周到に準備をして、私たちはそれに嵌ってしまった。
結果的に敵を倒すことはできたが、私たちの能力が回復やテレポーテーションでなかったら、そのまま敵に捕まって慰み者のままになっていた可能性が高い。
時間が経てば他の魔法戦士たちが助けに来てくれただろうが、間に合わずに逃げ切られてしまった可能性も十分にあった。
それからはトーコ先生のお叱りもあって、ただ倒す場合はともかくとして敵が逃げた場合は十分に用心するようにしていた。
事前に味方に連絡を入れておき、場合によっては増援を待ってから追跡を行うようにしている。
しかし今回の場合、誰かが捕らわれている上に相手の方が逃げ方がうまいので、なかなか連絡ができないでいた。
それが不安を掻き立ててくるが、同時に向こうは本気でこちらを振り切ろうとしているように感じられた。
こちらを特定の場所におびき寄せようとする場合、つかず離れずの距離を保ち、自分たちの姿を見失わせないようにしながら相手に追跡させる。
そこから念を入れる場合、罠であると思わせないようにこちらの感情を煽ってくることもある。
今回の場合、攫われた人がいるのは状況的に前回と一緒で罠を疑ってしまうが、それとは別にこちらを引き離そうとしているのが演技とは思えない必死さだ。
先ほども脇に積まれていた荷物を崩して追跡を振り切ろうとしており、実際に見失いかけた。
だが、私の固有能力である『テレポート移動』の副産物による『空間把握』によって、周辺をレーダーのようにある程度把握することができる。
それで逃亡している亜人を発見し、私がひかりちゃんを先にそこに飛ばすことによってなんとか追跡を続行することができた。
「エルちゃん、やっぱり今回のは本当にさらわれた人がいるんじゃないかな?いくらなんでも、相手の追跡を振り切ろうと必死すぎるよ。それに、あのお姉さんは間違いなく普通の人間だったし。」
私たちは遭遇したことはまだないが、普通の人間の中に亜人に協力している人もいると聞く。
だけどその場合、ほぼ全員が男性とのことだ。
理由は簡単で、亜人が攫ってきた女性を犯したいという欲望に従った結果だ。
そうやって犯された後も通常よりも高い魔力をもっている場合は性奴隷として扱われ、大抵の場合は最後に魔力を奪い取るために殺されてしまう。
男の場合は魔力の高さに関わらず、問答無用で殺されて魔力を奪われる。
そのために、若い女性は特に狙われる対象であり、亜人に使われるということはほとんどない。
「私もそう思うけど、油断はできないよ。私たちにはわからない方法を準備しているかもしれないし。それに、それとは別に強い亜人とかがいたら危ないのには変わらないよ。」
「う・・・・ん、そうだね。」
気を引き締めつつつも、ひかりちゃんは少しだけ不満そうだった。
魔法戦士になる人たちは全員が責任感も正義感も強い。
それゆえに、私も含めて自己犠牲精神が強いのが難点といえるだろう。
その中でもひかりちゃんは、人一倍それが強いような感じがする。
この前の件も、私を気遣って一人で行動したが故に罠に嵌ってしまったとも言える。
もっとも、前回の件は二人で行動していても、下手すると脱出不可能になってしまった可能性もあったが。
そのためそれ以降、私はなるべく一歩引いた立場から状況を判断するように心がけている。
「へ、いい加減にしろよ・・・・な!」
ボウン!!
「「きゃあ!!」」
焦れた亜人がどこに持っていたのか、煙玉を投げつけて煙幕を作り出した。
「ケホ、ケホ・・・・どこに行ったの、亜人たち。エルちゃん、わかる?」
「ちょっと待って、今調べてみるね。」
私は目をつむり、精神を集中する。
私の持っている『空間把握』は、前述したように私の固有能力である『テレポート移動』から派生した能力の一つだ。
空間系能力持ちの魔法戦士が覚醒しやすい派生能力の一つらしく、十全に使いこなせればキロ単位で周辺を詳細に探ったり戦闘中にも死角からの不意打ちにも対応できるようになるらしいが、私はまだ覚醒したばかりなので今は周囲100メートルぐらいを探れるのがやっとだ。
それも今みたいに集中していた場合で、普通の状態だと数十メートルかつ詳細もあいまいだ。
戦闘中にいたってはまだまだ活用できるレベルにない。
ただ、こうやって集中して使う分にはある程度は詳細に分析することもでき、人間か亜人かぐらいは判別可能だ。
「あっちの方にいるみたい。少しだけ距離を離れたところで、今はほとんど動いてないから隠れているみたいだよ。多分、私たちが見失って離れていくまで待ってるんじゃないかな?」
「そっか。向こうはエルちゃんの能力を知らないから、これで見失ったと思ってるんだね。どうする、エルちゃん?」
何処に隠れているのかもすでにわかっているから、このまま亜人のところにたどり着くのも一気に倒してしまうのも簡単だ。
しかしそれでは、捕まっているかもしれない人たちの居場所が掴めなくなってしまうかもしれない。
亜人から尋問することもできなくはないが、元とはいえ人間だった人たちにそれをするのは気が引ける。
組織としてもそういうのは推奨しておらず、そもそもそういうやり方を教えてもらってもいない。
第一、亜人たちが素直に吐く保証もすぐに教える保証もない。
「時間が惜しいけど、いったん私たちも姿を隠して少し離れたところから私の能力で追跡した方がいいかもしれないね。」
このまま追跡を続けても、亜人たちに一時的に見失って見つけてを繰り返すだけだ。
それよりは、追跡を振り切ったと安心させて捕まっていると思われる人たちのところまでついていく方がいいはずだ。
私の能力であればある程度は距離を取って追跡をしやすいので、なおさらそれが確実のはずである。
ただし、それは全て罠でないことが前提だ。
もしもこれが罠だった場合、こういった私たちの行動も全て向こう側の思惑通りということになっているだろう。
だが何度も言っているように、亜人の行動は罠のようには感じられなかった。
「このままだときりがないから、エルちゃんの言う通りに亜人を追跡した方が良いと思う。もしも罠だと感じたら、すぐに引き返せばいいよ。」
「う・・・・ん、その方が良いかもしれないね。」
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その直後、私たちはちょっと探すような動作を亜人たちに見せつつ明後日の方向に走り去った。
亜人たちに姿が見えなくなるところまで走ったところで、近くのビルに入って屋上まで駆け上がり、亜人たちのいたビルまで飛び移って戻ってくる。
距離が離れたので私の『空間把握』の射程範囲外になって亜人を一時的に見失ったが、戻ってきて再度使用してみると亜人たちはまだそこから動いてはいなかった。
亜人たちは少しの間そこから動かなかったが、私たちが完全に去ったと思ったのか、ビルから亜人たちが出てくる。
用心深く周りをキョロキョロしつつ、再び目的の場所に向かって走っていく。
「動いたよ、ひかりちゃん。あっちの方向に向かっているみたい。」
「よし、行こうかエルちゃん。」
「うん。でも気を付けてね。まだ罠の可能性もなくなったわけじゃなから。」
「もちろんだよ、エルちゃん。」
ひかりちゃんはそう言っているけど、すでにひかりちゃんは罠の可能性はほとんどないと思っているようだ。
待つことによって時間を少し浪費してしまい、捕まっている人たちのことを考えて焦っているせいもあるのだろう。
とはいえ、ひかりちゃんの心配ももっともであり、時間が経過するということは捕まった人たちの危険な目にある可能性も上がっているということでもある。
距離を置いて追跡していると、亜人たちは少し人気がなくなったとある建物に入っていった。
「あれ?あの建物って、組織が管理している廃工場だよね。こんなところを根城にしていたのかな?」
ここは周辺の土地ごと組織が管理しており、たしか来週にも建物を取り壊して組織の新しい研究用の施設を建設する予定なのだとか。
組織が管理しているといっても魔法戦士が見張っているわけでもなく、むしろ管理物件になっているだけに一般人は近づくことはないので、建物が壊されるまではむしろ隠れるには絶好の場所といえるかもしれない。
「全くチェックをしていないわけじゃないから、一時的に使っていたのかもしれないね。ちょっと待ってて、中の状態を確認するから。」
私の能力の有効範囲ギリギリまで接近し、中に人がいるかどうかを確認する必要がある。
「どう、ひかりちゃん?」
「・・・・今入っていったのも含めて、中に亜人は全部で5体、外に控えている亜人は確認はできない。それと、中にいる3体の亜人の側に3人の人間が確認できるよ。」
「やっぱり捕まっていた人がいたんだ。でも、すでに襲われてたのかどうかはここからじゃわからないね。急いで助けないと、エルちゃん。」
捕まった人を確認したことによって、いよいよ罠の可能性は下がる。
ここまで来て助けに行かない選択はないので、いずれにしても中に入らないわけにはいかないだろう。
「そうだね、ひかりちゃん。でもちょっと待って、入る前にトーコ先生に連絡を入れないと。」
念のための用心として、トーコ先生に現状の連絡を伝えておく。
「もしもし、トーコ先生ですか?」
『あら・どうしたの・エルちゃん』
「実は帰る直前に襲われている人と出会いまして、これから捕まっている人たちを助けにいくところなんです。組織の管理している廃工場ってあるじゃないですか、そこに亜人と一般人がいるんです。」
『なんで・すって。わかりました・他の・魔法戦士・にも・連絡・を・入れて・おきます。すぐには・応援を送れませんが・アラームは・オンにしておくように。くれぐれも・気を付けてね。』
私たちの仕事用のスマホには特殊な機能がいくつもある。
その内の一つのアラームは、オンにしておくと一定時間ごとにスイッチを押さないと自動的にSOSを発信するようになっていて、すぐさま近くの魔法戦士が助けに来るようになっている。
「わかりました、ありがとうございますトーコ先生。それでは失礼します。」
通話を切ると、私たちはすぐさまアラームをオンにする。
「大丈夫、ひかりちゃん?」
「うん、アラームもオンにしたし問題ないよ。それじゃあ、助けに行こうか!」
ひかりちゃんの声を合図にして、私たちには中に入っていった。
(・・・・それにしても、トーコ先生の声がちょっと変だったな?なんか、途切れ途切れだったような・・・・スマホの調子が悪かったのかな?)
少し疑念を抱きつつも、助けに向かうのであった。
~第14話・完~
しばらくは2人の視点が交互に続きます。
どうでもいい情報ですが、本来の亜人は平仮名のセリフは本来はカタカナの片言口調気味です。
これは白い亜人が知性が強化されたタイプで、他の亜人もその影響を受けているからです。
(メタ的な理由で言うと、カタカナを使うのが面倒くさいからですが。)