~エルシア視点~
「てめえら、何してやがるんだ!?」
声がした方向を振り返ると、そこには複数の亜人が立っていた。
「どういうことだ?獲物を捕まえたっていうから来てみたのに、魔法戦士まで捕まえたってのか?それに、あいつらはどこ行ったんだ?」
「リーダー。もしかして、魔法戦士を捕まえたんじゃなくて魔法戦士が助けに来たんじゃないですか?あいつらも、助けに来た魔法戦士にやられたんじゃ・・・・。」
「そうか、そういうことか。情けない奴らだ。あれほど、魔法戦士に気づかれないようにしとけって言ったのに。」
色は変質してはいないが、真ん中に立っているのがリーダーなのだろう。
数は先ほどよりもはるかに多く、10を超えているのは明らかだ。
(こんな数が接近しているのに気づかなかったなんて・・・・。)
『空間把握』を発動している間は、どれだけ気配を絶とうとも物理的なり魔力的な反応なりで必ず気づくことができる。
しかし、以前に述べたようにその範囲はまだまだ狭く、最大範囲を索敵するにはそれに集中する必要がある。
直前に使った際に反応がなかったので、能力の使用を止めてしまった直後から急接近してしまったから見逃してしまったのだろうか?
「エルちゃん、その人たちを逃がしてあげて!」
「う、うん!!」
ひかりちゃんに言われて、急いで女性たちに駆け寄る。
「すぐに脱出させてあげるので、安心してください。」
「で、でも・・・・どうやって?」
どうやって脱出させるのか疑問に思っているなかで説明する時間も惜しいので、一気に『跳ばす』ことのする。
女性の手を掴むと同時に私の魔力が彼女を包み、次の瞬間には彼女の姿が消えてしまった。
「な、なに!?女の姿が消えたぞ!?」
亜人たちが驚くのにも目もくれず、残った2人の女性も一気に転移させて逃がすことに成功した。
最初の一人は距離を優先しているので場所はややランダムだが、一気に数キロ先まで転移させたしあからさまに危険な場所には転送されないので、少なくともここよりは安全なのは間違いない。
後の二人は最初の人と同じ場所に転送するように設定しておいた。
「ふう、これで一安心かな。」
「大丈夫、エルちゃん?今、回復させるからね。」
一気に遠距離に複数を跳ばしたので多めに消費してしまった私の魔力を、ひかりちゃんの魔法によって一気に回復してくれた。
「ありがとうひかりちゃん。でも、ひかりちゃんの方は大丈夫?」
「私はまだまだ大丈夫だよ。まだ5回しか使ってないし、それ以前は全然消費していないから。それよりも、エルちゃんはまた私だけ逃がそうとかしちゃダメだよ?」
ちょっと怒ったように言うひかりちゃん。
もちろん本気で怒っているのではなく、注意するような感じでだが。
「わかってるよ、ひかりちゃん。一緒に戦おう。」
さすがにそれをするには「まだ」そんな状況ではない。
しかし状況が危なくなれば、ひかりちゃんを優先して逃がそうとするだろうが。
その一連のやり取りを亜人たちは周囲に展開しながら見届けていた。
「なるほど、『覚醒』した魔法戦士だったか。水色の髪の方は瞬間移動で赤髪の方は回復ってところかな?そうなるとさらに厄介だが、獲物としてはさっきの女たちよりははるかに良質だな。」
「でもリーダー、獲物としては最高ですけども、俺たちだけでなんとかなるかどうか・・・・。」
いやらしい笑みを浮かべるリーダーに対して、周りの仲間が私たちを警戒している。
私たち魔法戦士のことをある程度は知っているらしいが、それでそのまま退いてくれるわけでもないだろう。
「たしかに能力の全容がまだわからないので警戒はすべきだが、冷静に対処すれば問題ではない。どちらも攻撃系の能力でないのは間違いないのだから、直接的な脅威で言えばあの『赤い魔女』ほどではない。少なくとも一気に殲滅される心配はないし、最低でも逃げに徹すれば、バラバラに逃げてしまえば何人かは確実に逃げ切れるはずだ。」
「なるほど、たしかに・・・・。」
「さすがはリーダーだ。そう聞くと、少し安心しましたぜ。」
やはりリーダーは並の亜人ではないようだ。
外見は進化こそしていないが、知性が強化されているのだろう。
私たちの能力を見て、そこから得た限られた情報で攻撃能力は高くないと結論を導き出した。
たしかに、私たちの能力は防御や支援としては極めて優秀だが、攻撃能力はほとんどない。
リーダーが言ったように、バラバラに逃げられたら全員を倒すことは不可能だろう。
「慌てることはない、ゆっくりと追い詰めていけばいいんだ。背後からの奇襲さえ警戒しておけば、直接的な脅威はないはずだ。」
そうこうしている内に、壁際にいる私たちを囲むように亜人たちが半円状に展開を完了していた。
ここに展開している亜人の数は全部で22体。
(どう、エルちゃん?まだ他にもいるかな?)
(ううん、ここにいる亜人で全員みたい。)
包囲されながらも私は『空間把握』を発動させていた。
この能力の地味に便利な点として、発動させても外見からそうは見えないために相手には発動を悟られにくい点にある。
これ以外の亜人はいないが、さっきみたいに発動していない間に接近されるとわからないので油断はできない。
とは言っても、ここからは戦闘に突入するので発動するどころではなくなるだろうが。
「まずは、相手の強さをより詳細に知ることが先決だな・・・・よし、いけ。」
「応!!おりゃあああああああっっっ!!」
合図に応えるや否や、一体の亜人が私たちに向かって突撃してくる。
「やっぱりやるつもりなのね。でも、普通の亜人が一体だけで突っ込んできたところで・・・・っ!?」
構えようとする私たちに対して、一気に距離を詰めてくる亜人。
思った以上に接近が早い!?
「ひかりちゃん!!」
それに驚いたひかりちゃんの反応が一瞬遅れてしまう。
とっさに私が庇う形で亜人に斬撃を繰り出す。
「へ、甘いぜ!!」
ファン!!キィィィィン!!
それに合わせて亜人が左腕を構え私の剣がそれに当たるが、切り裂くことができずに受け止められてしまう。
「な・・・・?」
「受け止められたのが信じられないか?隙だらけだ・・・・・ぜ!!」
バキャッッ!!
「あう!!!」
驚いて動きが止まってしまった私に、右手で横っ腹を思いっきり殴られてしまい、その衝撃で吹っ飛んでしまう。
「エルちゃん!!・・・・このっっ!!」
それに怒ったひかりちゃんが亜人めがけて斬撃を繰り出すが、怒りに任せての大振りなのであっさりとかわされてしまう。
「大丈夫、エルちゃん!?」
「うん・・・・攻撃を受けたのは驚いたけど、そんなにダメージはないみたい。」
多少は痛みはあるけども、まともに受けた割には大したダメージではない。
それよりも、ただの亜人にしては動きも俊敏だし、弱いとはいえ普通の攻撃で多少なりともダメージを与えられたこと自体が驚きだ。
私たち魔法戦士のスーツは、並の亜人の攻撃をほぼ無効化してしまうはずなのだが・・・・。
「ふふふ、まともに攻撃を食らったことに驚いているようだな。俺たちをただの亜人と思うなよ?『進化』こそしていないが、結構な数の人間の魔力を吸収したことによって、全員がそこそこの強さを獲得したんだぜ。」
「そんな・・・・この数をそんな強さにするには、かなりの人間の魔力を奪うかそれこそ魔法戦士を襲いでもしない限りは・・・・。」
「もちろん、念には念を重ねた結果よ。あちこちの地方を巡って一ヶ所には長居せずに、少しずつ取り込んだ結果さ。結構な時間はかかったが、それに見合うだけの成果は得たと思ってるぜ。」
自身の成果を自慢するかのように、ペラペラと説明してくれるリーダー格の亜人。
亜人にそんな我慢強さがあるなんて聞いたこともないが、部下の強さは紛れもなく本物である。
わざわざそんなウソをつく意味もないので、話も本当のことなのだろう。
「とはいえ、今のも大したダメージではないだろう。さすがに、魔法戦士に一撃で大ダメージを食らわせられるとは思っていないさ。でも、全くのノーダメージと少しでもダメージを与えられたのでは、まるで意味が違ってくる。」
今の一撃で余裕が出てきたのか、周りの亜人たちも今にも飛び掛からんと構えている。
「さあ、まだ始まったばかりだぜ。ガンガン攻めさせてもらおうか!!」
油断はできない相手とわかれば、こちらも全力で迎え撃つまでだ。
「ひかりちゃん、例のフォーメーションでいくよ!」
「うん、わかったよ!」
それに応えて、ひかりちゃんと私が背中を向かい合わせる形で構えをとった。
~第16話・完~
エロもそうだけど、バトル演出も表現するのは大変です。