亜人「残念だったな、トリックだよ。」
~白い亜人視点~
「初めまして、魔法戦士のお二人さん。改めて、我らがアジトへようこそ。」
2人に腕輪をはめることに成功した俺は、本来の姿に戻って2人に改めて挨拶をした。
「貴方は一体・・・・何者なの!?さっきまではいなかったはずなのに・・・・」
「へっへっへ、2人がさっき倒したのは俺の影武者さ。俺は最初からこいつらの中に混じっていたんだぜ。」
「なんですって!?そんなことが・・・・?」
進化した亜人は本来の黒っぽい色に任意で戻ることができるのだ。
他の亜人は進化したこと自体を誇示したがるため滅多にやらないので、魔法戦士たちにはあまり知られていない。
「あいつがやられた時点でさっきの腕輪を装着する罠の準備が整ったので、こうやって顔出しさせてもらったのさ。疑問に思っているだろうから先に教えてやるが、お前たちに装着したのは一定量の魔力を吸収してその魔力を周辺の魔素として分散させる効果があるんだよ。」
(そういうことだったのね。でも、どうしてあんな程度の魔力だけしか吸収できないように改良したの?その気になれば、もっと吸収できるようにできるはずなのに・・・・)
(・・・・って、考えてる顔だな。)
ひかりの考えているように、一気に大量の魔力を吸収するようにすることは可能だった。
しかしその場合、吸収している最中に外されてしまうと吸収した魔力が元に戻ってしまうというデメリットがあった。
なので、少量であっても確実に吸収できるように改良を施したのだ。
2人の魔力の波長に合わせて作られているので違う方の腕輪を付けても効果は全くないが、合わせた方の腕輪を装着すると瞬時に魔力を吸収しさらには取り返されることのないように魔力を周辺の魔素に分散させてしまうのだ。
奪う魔力の量は5%づつと少量だが、腕輪はそれぞれ100個以上と大量に作らせてあるので装着させ続けていけば確実に消耗させることができる。
基本的には俺が隙を見つけて装着させるが、他の亜人にもチャンスがあれば装着できるように、先程の煙幕で視界を遮っている間に腕輪をいくつかもたせている。
そして、他の準備も揃ったからこそ俺がこうして姿を表したのだ。
まず作戦の前に街にいた適当な人間のグループを侵食にて洗脳し、一人をわざと逃して残りを廃工場に誘い込むために連れ込んだ。
なお、人数については2人以上なら何人でも良かった。
強いて言うなら、少しだけ服や体に傷をつけて「ひかりが回復能力を使ってくれれば少しだけ楽になるかな?」ぐらいには考えていたが、その目論見は見事に成功した。
2人が仕事用のスマホを取り出した瞬間を見計らって逃げる風を装ってぶつかり、スマホをすり替えさせた。
組織にあった予備のスマホなので基本的には一緒だが、GPSやアラームなどの機能を取り外し追跡できないようにしてある。
本来の2人のスマホはそのまま学園の寮に住まう、これまた洗脳した女子生徒に手渡して2人の部屋の充電器に戻しておいた(もちろん、見つからないように極力気をつけた上で)。
任務時間でもないのにここに戻しておかないと、一定時間毎にアラームが発信されてしまうからだ。
2人に追わせたり先に倒された亜人たちは、適当な一般人を亜人に変異させて洗脳したものだ。
あいつらには、あえて作戦のことは何も知らせず煙玉だけ持たせて全力で逃げるように仕向けさせた。
下手に引き付けるように逃げたのでは、逆に感づかれてしまうおそれがある。
直前になってエルシアの『空間把握』のことを知ったので、これなら全力で振り切っても追いつかれるだろうと踏んだのである。
廃工場に入った後は、エルシアの能力の所定距離ギリギリ範囲外にて待機しつつ突入の機会をうかがっていた。
突入し戦闘に入った後はエルシアは能力を使う暇がなくなるので、そこからは気にする必要もなくなる。
前回のように廃工場内を麻痺毒で充満させようかとも考えたが、どちらかが少しでも動ければその時点で破たんしてしまう上に罠であると悟られて逃げの一手をとられるともうどうしようもないので、それは諦めた。
向こうの実戦での戦闘能力やフォーメーションの確認と周辺の準備の時間稼ぎも兼ねて、しばらくは俺の正体を隠しつつ本気で戦ってみた。
あわよくばそれで決められれば良かったが、さすがにそこまでは甘くなく戦闘は向こうの方が有利に展開した。
やがて周りの準備が整うと同時に、エルシアが俺の影をひかりのすぐ側に呼び寄せて切り殺されてしまった。
敵を手元に転移させることを失念していたので、この時ばかりは内心でかなりヒヤリとした。
本番の前に知ることができたので、思わず開始と共に俺たちは笑みを浮かべてしまったのだ。
その準備とは、周辺に音が漏れ出ないようにする吸音魔法と人が近づかないようにする人払いの魔法である。
これ自体は解体作業用に廃工場周辺にすでに展開されていたが、俺はそれを逆に利用してさらに強力なものへと改良したのだ。
中に入ってしまえば効果はないが、外からは本能的に近づきたくないように仕向ける。
ましてこの辺には民家や商店もないので、用のない一般人は近づくはずもない。
魔法戦士や亜人ともなれば違和感を感じて近づいてくるかもしれないが、これ自体は組織が配備したものなので気づかれにくい。
亜人に関しては、作戦が成功すればお前らにも良い思いをさせてやると説得してしばらくはおとなしくするように言い聞かせてある。
幸いにもこの辺には大きな集団は存在しなかったので、説得はスムーズにいった。
「一体、どこでこんな腕輪を?こんなものを作るなんて、それなりの技術が必要なはずなのに・・・・」
「お前らの組織だけが技術を持つなんて思うなよ。同等とまではいかなくても、それなりの技術力を持つ組織は俺たちのバックにもある。」
実際にはこいつらの組織から調達したものだが、わざわざ本当のことを言って警戒させる必要もないだろう。
「でも、これぐらいで私たちが弱まると思っているんですか?たしかに少しは魔力が減りましたけど、まだまだ戦況に影響するほどではありませんよ。」
油断なく構えつつ、エルシアはそう言い放つ。
「それに、もう少ししたら私たちの仲間が助けに来るかもしれないよ。そうなったら、貴方たちでも敵わないんじゃないかな?」
「そうだな、確かにこれ以上の戦力の応援は邪魔にしかならないな。その前に、さっさと
やはり向こうは、こちらの『仕込み』にまではまだ気づいてないようだ。
腕輪は魔力の吸収以外にも仕掛けがあるが、気付くのはもう少し先だろう。
あいつらの言う応援も来るはずもない。
突入前に連絡した相手も録音した音声を合成したもので、本来の相手には届いていない。
しかもあいつらはこの仕事の後、週末を2人揃って休暇を取っている。
金曜の夜10時まで出動した後、土日月と3日連続で休みで火曜の授業にしても昼からだ。
今は土曜になった直後ぐらいなので、ここから3日半はあいつらは休みで出かけると思われている。
よほどの緊急事態にでもならない限りはばれる心配はない。
そうならないためにも、他の亜人には活動を控えるように説得したのだ。
魔族に関しては説得のしようもないので、ここだけは動かないように祈るしかない。
「それでは、ここからが本番だ。覚悟しろよな!!」
「「くっ!!」」
~第19話・完~
追い込まれている状況を書いていると、拙い文章ながらも面白くって筆が乗っちゃいます。