~白い亜人視点~
「はああああああっっっっ!!」
「ギャアアアアアアッッッッ!!」
ひかりの斬撃によって部下の亜人がまた一体、倒される。
これで8体目だが、これぐらいは想定の範囲内であり、半分ぐらいはやられても仕方がないと思っている。
「はあ・・・・はあ・・・・やっと、8体目。」
「ふう・・・・ひかりちゃん、大丈夫?あまり無茶はしないでね。」
「大丈夫だよ。エルちゃんこそ、そっちの方が前に出やすいんだから気を付けて。まだ回復はしなくていい?」
「まだ大丈夫だよ。向こうが魔力を吸収するアイテムを持っている以上、頻繁に回復しない方が良いよ。」
極力お互いに離れずに、エルシアが前に出る戦法を主軸にして善戦している。
さっきからやられているのはこちらばかりで一見すると圧倒的に向こうが有利に見えるが、消耗しつつあるのは魔法戦士の方だ。
俺が正体を現わしてからはこちらも戦法を変えた。
俺とある任務を負った一体以外は二人一組でコンビを組み、それぞれが攻撃と防御に専念させている。
時間は十分にあるので短期決戦は狙わず、腕輪も無理にはめさせようとせずに消耗戦を徹底させているのだ。
多少のケガや消耗程度なら回復できるように、回復アイテムなどを予め大量に持ち込んで気付かれないようにそれで回復を図っているのだ。
それに加えて徐々に『もう一つの罠』が効果を表し始めていることに向こうはまだ気付いていない。
(とはいえ、今のままでは膠着状態のままだ。あまり長引かせすぎると他の魔法戦士の定期巡回がここに来るかもしれない。)
週明けには解体工事が始まり俺が逆利用している人払いの魔法があるとはいえ、不意に魔法戦士がこちらのパトロールをしないとも限らない。
周辺に見張りがいるとはいえ、それらを止める術はないのでこちらに来た時点で終わっていないと作戦失敗だ。
(もう少し楽しみたいが、あくまでもメインはこの後だ。そろそろ、俺も動くとするかな。)
あいつらがここまで粘れていたのも、俺が戦闘に参加せずに見ているだけだったからだ。
改めてあいつらとの強さの差を自分なりに分析してみると、一対一だと俺がやや有利でコンビで来られるとおそらくは負けてしまうだろう。
しかしそれは能力を加味しない単純な戦闘能力のみで、それを含めると圧倒的に不利だ。
「!!気を付けて、エルちゃん。あの白い亜人が動くみたいだよ!!」
ひかりの言葉にエルシアも無言でうなづく。
目の前の戦いに集中しながらも俺も含めた他の亜人への注意も怠っていない。
さすがは魔法戦士といったところだが・・・・
(俺の『能力』をフルに使ったとしても、対応しきれるかな?)
前に歩みを進めると同時に、俺の姿が周りの景色に合わせて同化していき、やがてほとんど見えなくなってしまう。
「・・・・姿が消えた!?あの白い亜人の能力は透明になるってこと?」
目の前でみえなくなったひかりは一種驚くが、すぐに俺の能力が何なのかを察する。
というか、見ればすぐにわかってしまうだろうが。
「気を付けて、エルちゃん。どこから来るかわからないよ!」
背後に回るように動き距離を詰めていく。
(さあて・・・・どうなるかな?)
亜人たちに攻撃を指示し目線がこちらから外れると同時に、一気に距離を積めて攻撃を仕掛ける。
なんだかんだで一瞬で逃げられるエルシアの能力は脅威であり、2人を引き離せばひかりの能力はほとんど効果がなくなる、なのでエルシアに狙いを絞った。
(いくぜっっっ!!)
「・・・・背後!?はあっっ!!」
俺の攻撃を瞬時に察知し、剣で攻撃を受け止める。
「ち、接近を感知しやがったか。」
「殺気が強すぎて、私にはバレバレですよ。それに、よく見ると景色とのブレがあって激しく動くとわかりやすいです。」
後ろに一歩下がると同時に近くに控えていた亜人をけしかけ、距離を取る。
そこから2人のポジションが少しだけ変化し、可能な限りエルシアが俺を捉えられるように動く。
何度か透明になって接近し攻撃を試みるが、それら全てをエルシアは感知し攻撃を受け止める。
ならばとひかりの方を狙っても、それも読んでいたのかエルシアのシールドが展開され、やはりダメージを与えられない。
歯噛みする俺に笑みを浮かべるエルシア。
俺の能力をある程度理解し気配を察知することに長けている自分ならば対応可能と判断したのだろう。
「透明になった敵が背後を狙ったり仲間を狙うのはよくある戦術の一つです。透明化は確かに脅威ですが、私には通用しません。」
「厄介な奴だ、やはり魔法戦士は一筋縄ではいかないぜ。」
敵の対応力に焦り―――――――――――を見せているような表情を見せながら、内心ではほくそ笑んだ。
(うまくいった)
初撃からうまく止められたのは少々驚いたが、透明化による攻撃を止められるなど始めから予想済みだ。
そもそも本当に透明化の能力を生かしたいのならば、2人の見ていないところで透明になり気配を消してゆっくり接近すれば、少なくとも初撃は確実に決められる。
目の前で透明になればそれで死角に回り込んで接近するなど誰でもわかるし、殺気ムンムンなのも相手に読まれやすくなるだけだ。
それでもひかりを狙えば少しは成果を上げられただろうが、エルシアが相手では空間把握によって気配を読みやすくなっているので対応しやすい。
それに加えて俺の透明化の能力は周辺の景色に合わせて同化させるタイプなので、激しく動くと周りとの景色がぶれやすいので、注目し続けられると逆に目立つことさえある。
当然それらのことは俺自身も十分わかっている。
もしも、ひかりたちがもっと経験を積んだ歴戦の戦士ならばこれらの行動に疑問を抱いていただろうが、いくら将来有望といえどまだまだ経験不足なところが露呈してしまったようだ。
(ここからが本番だ!!)
再び見える形で姿を消しその場を移動する。
「何度やっても同じですよ!!」
それを横目で見ていたエルシアが俺に注意を向けると同時に、他の亜人4体が一気にエルシアとひかりに襲い掛かる。
「おらあ!!」「くらえやあ!!」
「ふ!!」「はあ!!」
その攻撃をひかりは回避し、エルシアは受け止める。
回避したひかりはそのまま返す刀で攻撃を繰り出すが、それは相方の亜人が受け止めカウンターパンチを繰り出す。
その攻撃を再び回避したひかりは少しだけエルシアと少し距離が離れる。
(今だ!!)
そのタイミングを狙って、あらかじめ接近していた俺はエルシアに向かって突撃する。
俺に対してまったく注意が向いていなかったので、側面からのパンチを予測できずにモロに食らってしまっ
た。
「かふっっ・・・・!!」
「エルちゃん!?」
俺の攻撃を食らったエルシアを見て、ひかりの注意力が亜人から離れてしまう。
その隙を見逃すはずもなく、側にいた亜人の1体がひかりに腕輪を装着した。
『腕輪が対象に装着されました、魔力を吸収します。吸収が完了しました、対消滅します。』
「くっ・・・・」
瞬時に吸収が完了し腕輪が消失した。
一方のエルシアは殴られた衝撃で壁際に積んでいた荷物に激しくぶつかった。
「ケホ・・・・ケホ・・・・」
殴られた方のダメージはなかなかに効いただろうが、ぶつかった方は大したことはないだろう。
その隙を逃すはずもなく、2体の亜人が近寄り、腕輪を次々とはめていく。
「よ、ほ、よ・・・・っと。」
「――――エルちゃん!!この、エルちゃんから離れなさい!!」
4つほどつけたところで、ひかりが慌ててエルシアの側にいた亜人に斬りかかる。
「やああああっっ!!」
「・・・・へ、おらあ!!」
ドガァァッ!!
「ガッフ!!」
勢いをつけて飛び出したひかりとエルシアとの直線上の間に立ち、蹴りをひかりに食らわせひかりは後ろに吹き飛んだ。
「くう・・・・エル、ちゃん・・・・」
他の亜人が再び腕輪を2つ装着させる。
その間にもエルシアにも腕輪が装着されていき、10個ほどつけられたところでエルシアが亜人を攻撃して亜人を遠ざけた。
「ひかりちゃん!!」
そのままひかりの側にいた亜人に攻撃を繰り出したが、予測済みだったので余裕で回避した。
「ひかりちゃん、大丈夫?」
「ケホ、ケホ・・・・だ、大丈夫。そんな大きなダメージじゃないから。」
実際、俺の攻撃では一撃で大きなダメージなど期待できないだろう。
俺の能力は知性と特殊能力に大きく振り分けられていて、直接的な戦闘能力は進化した亜人の中では下の方のはずだ。
「エルちゃんこそ、攻撃だけじゃなくてあんなに腕輪をつけられて大丈夫なの?」
「うん、大丈夫って言いたいところだけど、結構魔力を消耗しちゃったみたい。」
最初に分も含めてひかりに装着した腕輪は4個、エルシアは11個だ。
装着前はひかりの魔力はここに来る前に回復能力をエルシアに1回、人質たちに3回、エルシアにもう1回使っているが、時間的に見て最初の分はすでに回復しているだろう。
装着した腕輪は1個につく5%を吸収し、ひかりの回復能力は1回につき5%使用するので、今のひかりの残魔力は60%だ。
エルシアは使用魔力は転移距離やシールドの大きさや時間などで変わってくるのでわかりずらいが、そもそもひかりの能力のように使用魔力が明確にわかるほうが珍しい。
いずれにしても、エルシアは11個もすでに装着したので残魔力は半分以下なのは確実だ。
荷物の陰に隠れている亜人に目配せして、その数に間違いないかを確認する。
鍛錬した亜人とは別に、腕輪の装着数をカウントするだけの亜人である。
「待ってて、今回復させてあげるから。」
「あ、待ってひかりちゃん!」
エルシアが制止するが、ひかりはかまわずにエルシアを回復させた。
「大丈夫なの、ひかりちゃん?もう6回も使った上に、ひかりちゃんも結構吸収されちゃったんじゃ・・・・。」
「はあ・・・・はあ・・・・最初の分は・・・・ここにつくまでに・・・・回復したから・・・・そこは大丈夫だよ。それに・・・・時間をかければ・・・・少しづつ回復・・・・していくから・・・・」
魔法戦士に限らず亜人やただの人間であっても、魔力は時間が経つとともに怪我や体力と一緒で徐々に回復していく。
個人差はもちろんあるが、魔力の大きさに比例してある程度は回復量も上がっていく傾向にある。
ひかりほどの規格外の魔力量ならば、それに合わせて回復ペースも早い。
(
「でもひかりちゃん、なんだか少し息切れが大きいよ。それに気のせいか、魔力の波長も少し変な感じがするし。」
エルシアの言う通り、ひかりは息が乱れている。
少しすると息の乱れはようやく整ってきたようだが、俺の蹴りをまともに受けたが、自己回復能力によって普通はその程度はすぐに回復するにしてはお世辞にも早いとはいえない。
魔力の変調に関しては、ひかり自身はわからないようだがエルシアは何かを感じ取ったようだ。
これもエルシアの能力によって感覚が鋭くなったかだろうか?
「ふっふっふ、どうやら効果が本格的に出てきたようだな。そうよ、それこそがあの腕輪のもう一つの効果よ。」
「え・・・・どういうこと?私たちに一体何をしたのよ!!」
意味深な俺の発言にひかりが言葉を荒げ問い質してくる。
「いいだろう、そろそろネタばらしをするとするか。それこそがその腕輪、『魔減の腕輪』のもう一つの効果。対象の者の魔力の上限を一時的に減らす能力なのさ!!」
~第20話・完~
透明のイメージ図は某狩りが大好きな戦闘民族さんです。
映画見てた時から思ってましたが、停止している時はともかくとして動いている時って意外とわかりやすいような気がします。