~白い亜人視点~
「いいだろう、そろそろネタばらしをするとするか。それこそがその腕輪、『魔減の腕輪』のもう一つの効果。対象の者の魔力の上限を一時的に減らす能力なのさ!!」
あの腕輪は魔力を吸収するだけではなく、吸収した者の魔力の上限を一時的に引き下げる効果があるのだ。
しかもただ上限を引き下げるのではなく、すでに消耗していれば上限もそこに合わせて調節してしまう。
つまり、今のひかりの魔力は本来の60%が最大魔力となっている。
一つだけだと継続時間は30分だが、2つ以上を使うことにより、相乗効果によって継続時間は6時間となる。
それ以降は継続時間は長くならないが、使うたびに時間はリセットされる。
副作用として体力の回復なども遅らせるらしいが、これは最初だけですぐに元に回復量に戻ってしまう。
もっとも、そこまで細かく説明するつもりはないが。
「そんな、それじゃエルちゃんも?」
「そっちは今は心配いらないさ、お前の能力で回復させたからな。」
本来ならエルシアの魔力も半分以下になってしまっているのだが、ひかりの回復能力は腕輪の効果も打ち消してしまう。
なので今のエルシアは万全な状態に戻っているだろう。
「だが、赤髪の方の。お前は違うだろう?これまで見てきたが、お前は自分自身を回復できないようだな。かなり消耗してしまったんじゃないか?」
「く・・・・」
俺の言葉に動揺するひかり。
もちろん、こいつらを入念に調べた上での罠であるのでこうなるのは予想通りだ。
エルシアの方は回復されるので、その度にリセットされてしまう。
この腕輪の効果はひかりを消耗させることが第一の目的だ。
前回は2人の能力を知らないというのもあったが、ひかりの回復能力の規格外さが最大の敗因だった。
なので、ひかりさえ無力化してしまえば後は回復できないのでじっくりと追い込むことができる。
「そういうことなら、こちらももう容赦しません。一気に決着をつけます。マジックミサイル!!」
時間をかけるのは危険と判断したのか、エルシアが今まで使ってこなかったマジックミサイルを使おうとするが、それは発動することはなかった。
「ど、どうして使えないの!?まさか、これも貴方が?」
「ふっふっふ、そうよ。『魔減の腕輪』の効果の一つとして、魔力を外部に放出して使用することができなくなるのだ。」
これは俺としても予想外の効果だった。
マジックミサイルにどう対抗するかが大きな問題の一つだったのだが、九条からそれぞれにカスタマイズした段階による副作用によってそうなった。
その際に細かい説明を一応は聞いた・・・・はっきり言って、チンプンカンプンだったが。
「で、でも、さっきは私たちの能力は使えていたのに、どうしてマジックミサイルだけ?それに、私はともかくエルちゃんは回復しているはずなのに!?」
2人の固有能力は人質に対して問題なく使えていたので、ひかりの疑問ももっともだろう。
「なんでも、固有能力にまでは効果を及ぼせないんだとよ。それに加えて、マジックミサイルが使えないようになったのはそういう仕様なんだってさ。俺も細かいことはよくわかんねえんだ。」
九条曰く、マジックミサイルは誰でも使えるように一定の波長に自動で調節されるらしい。
それに対して固有能力は個人の個性が出るので、それぞれの波長を持ってしまう。
時間をかければそちらにも対応できたかもしれないが、時間がなかったのと研究不足ということもあって今回は断念した。
それができていれば今回の作戦ももっと簡単になっただろう。
なお、あくまでも外部に放出するマジックミサイルにのみ効果があって、他の身体強化や剣の生成などは問題なく使えるのは見ての通りだ。
説明したくてたまらなかったのか九条があれやこれやと話していたが、よくわからなかった。
あいつらの能力を大幅に制限できるということだけはわかったので、そこさえ押さえておけばこちらとしてもどちらでもよかったのだが。
「まさか・・・・うう・・・・つ、翼が出ない?こっちの方も使えなくなっちゃったの!?」
エルシアが魔力を練って翼を生み出そうとするが、魔力が背中に集中してほのかに輝くがそこで止まってしまう。
肉体的に接していても、一時的に具現化することもできなくなっているようだ。
「これじゃあ脱出もできないし、一気に敵を倒せない。一体、どうしたら・・・・」
翼がなくても飛ぶこと自体は一応できるが、あれは安定感を維持するために必要なものだ。
それがなくては、たとえ熟練の魔法戦士であってもどこに飛んでいくのかわからなくなってしまう。
まして翼があっても安定感に不安のあるひかりでは、どうなってしまうのか想像できず迂闊に使うことができない。
彼女たちの脱出手段と貴重な遠距離攻撃を奪われ焦りを隠しきれないひかり。
「・・・・・・・・。」
それに対して、エルシアは隣で冷静かつ無言のままこちらを見ていた。
ひかりがあからさまに焦りを見せているので、逆に冷静になりやすいのだろう。
(ん?・・・・なるほど、エルシアのやつ。)
エルシアが何を考えているのかを察する。
だが俺の想像通りなら、その考えに関してはすでに作戦に織り込み済みだ。
「さて、ネタばらしも済んだことだし。一気に片を付けてやるかな。」
そう言って合図を送ると、亜人が一気に2人に襲いかかった。
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そこから1時間ほどが経ち、2人はいよいよ追い込まれていた。
「「へああああっっ!!」」
「くう・・・・『ドガ!!』あうっっ!!」
亜人の攻撃を受けとめたエルシアに向けて、俺の打撃がまたも命中する。
「エルちゃん!・・・・く、この!!」
ひかりが斬撃を俺に繰り出し一歩下がる。
透明になると同時に亜人が両サイドから攻撃を繰り出し、それをひかりはバックステップでかわした。
「おらあっっ!!」
「あうっっ!!」
その背後から俺のタックルが命中し、またしてもひかりが吹っ飛ばされ地面に倒れたと同時に腕輪を装着した。
あれから戦いは一方的な展開になりつつあった。
周りの亜人が攻撃を仕掛け2人はそれを回避か、あるいは受け止める。
その隙を突いて俺が攻撃を繰り出し、無防備になった瞬間に腕輪を装着するを何度も繰り返した。
エルシアを中心に攻撃していたのでエルシアには8個の腕輪がはめられていたが、ひかりには今はめた腕輪1つだけだ。
「ほらほら、また魔力が吸収されちまったぞ。どんどん後がなくなったきたな~。」
「くう・・・・はあ・・・・はあ・・・・」
ひかりの表情には焦燥の色がはっきりと色濃く出てきていた。
「はあ、やあ!!」
キン!ザシュ!
「くお、ぐあああっ!!」
「む、またやられたか・・・・。」
ひかりに注意がいっている間にエルシアが体勢を立て直し、亜人の一体を倒していた。
そのままひかりの方を向いていた俺の背後から斬りかかるが、それをなんなくかわしエルシアがひかりと合流した。
こちらも無傷ではなく、この間に攻撃を回避しきれずに3体の亜人が倒された数はこれで11体となっていた。
もともとの数は俺も含めて22体だが1体は観察専門なので戦力には換算されず、実質的な残りの戦力は10体だ。
ある程度の被害は想定していたし向こうの方がそれ以上に大きく消耗しているとはいえ、さすがにこれ以上の被害は無視できなくなる。
俺の今の戦法は、周りに注意を引き付けることができる駒が多数いてこそ真価を発揮する。
数が減ってしまうとその分だけこっちに意識を向けやすくなり、反撃される可能性が上がってしまうのだ。
「しっかりして、ひかりちゃん。」
「うん、ありがとう・・・・エルちゃん。私はまだ大丈夫だから・・・・。」
構え直しながらエルシアにそういうが、それが半ば強がりなのは明らかだ。
「でもひかりちゃん、ダメージだけじゃなくてもう魔力はかなり吸収されちゃったんじゃ・・・・」
吸収した分と使用した分を含めて、すでにひかりの魔力は半分となっている。
しかしただ半分になっただけではない。
魔法戦士というのは自身の魔力の一定量を使用することによって、最低限の戦力を得られるようになっている。
前に言ったように『覚醒』にまで至る魔法戦士は少ないので、そこまでいかなくてもある程度は戦えるような技術を開発した。
身体・治癒能力の強化、魔法剣の生成、衣装チェンジにそれに付与された認識変換能力の発動にマジックミサイルの使用など。
全魔力量の内20%を使用することによって、これらの能力を全ての魔法戦士に使えるようにしたのだ。
この比率は常に一定であり、ひかりであっても必ず20%の魔力を必要とされる。
『覚醒』した魔法戦士は最大でも80%の魔力しか能力に行使できないのだが、この技術の開発によって一定以上の魔力を持っていれば『覚醒』せずとも魔法戦士となって戦えるようになった。
しかし今はマジックミサイルが使えないので、今の彼女たちに限ってはその割合は85%となっている。
ひかりの残りの魔力は55%だが、15%はそれらに使われるので能力に使える魔力は残り40%となる。
回数で言えば8回、腕輪の数ならば残り8個で打ち止めだ。
エルシアの魔力も現時点で40%以上は確実に削っているが、ひかりが能力を使える限りはそれらはあてにはできない。
しかしエルシアを消耗させてしまえば、自然回復ができない以上はひかりが能力によって回復するしかない。
そうやって間接的にひかりも消耗させることができるのだ。
(私の感じた限りじゃ、もう半分近くになっているはずだよ。能力の使用には気を付けて。)
(わかったよ、エルちゃん。なんとか白い亜人さえ倒せればいいんだけど、あの透明化が厄介だね。)
(うん・・・・でも、なんだかおかしいよ。最初に仕掛けてきた時は、割と簡単に攻撃を受け止められたはずなのに、急に相手の攻撃が回避できなくなった感じがする。)
(それは私も感じたよ。仲間の亜人とうまく連携を取るようになったせいかな?)
2人は小声で話していたが、こちらにははっきりと聞こえている。
その分析はある程度は当たっているが、正確ではない。
亜人との連携で攻撃を当てやすくなったのは正解だが、一番の理由は透明化以外の能力を併用しているからだ。
俺自身の能力である『侵食』を含めた4つのうちの1つ、こいつらと出会ったきっかけでもある赤い亜人が持っていた『気配隠蔽』である。
この2つを同時に使うことによってより見つかりにくくなるのは前にも言ったとおりだ。
最初にひかりたちの前で『透明化』のみを使い、わざと弱点を露呈させるように攻撃を行い油断を誘った。
その後で『気配隠蔽』を一緒に使い亜人たちを使って注意力を分散させる。
そうすれば、いくら透明化した姿を目で追っていたとしても次の瞬間には俺への注意力はなくなってしまい、場合によっては俺の存在を一時的に忘れてしまうことさえある。
だからこそ、これ以上の他の亜人が撃破されてしまうと注意力を分散させにくくなってしまうのでこちらにも余裕がなくなってしまう。
彼女たちにとっての誤算は俺が能力を複数持っていることだ。
亜人にしろ魔法戦士にしろ固有能力から派生した様々な能力を持つことはあっても、元となる固有能力は一つだけだ。
どれだけの魔法の才能があったとしてもそれは変わらず、合間に組織のデータベースを確認してみたが複数の固有能力の持ち主はまだ確認されていない。
まだ歴史が浅いので将来的にはどうなるかわからないし表に出てきていないだけかもしれないが、少なくとも今は公式には確認されていないのは確かだ。
こう見ると、ひかりとは別ベクトルで俺の能力がすごいことを俺自身が思いしらされた。
その代償として様々な制約も背負っているので一概に良いとは言えないが。
(それに、ひかりたちも本当は対応できないわけではない。あくまでも俺に対する注意力をほぼゼロにするだけだし、物理的に消失したわけでもない。この戦法がここまでうまくいっているのは、2人の経験不足が大きい。)
仮に2人がもっと経験を積んだ歴戦の戦士ならば、複数の能力を持っていることまでは気づかなくても、透明化から派生したなにかの能力を使っていると推測し、そこから何かしらの対応策を見出したかもしれない。
ここまで2人に攻撃を命中させたのも、相方が攻撃を受けてよりそちらに気が取られたからだ。
2人が親友であると同時に経験不足がゆえに、それらに対してまだ冷静に対処しきれていないところにつけいる隙があるのだ。
(そして、2人が互いに思いやる気持ちが強いがゆえに相手の無事を第一に考えてしまう。流石に2人もこれが自分たちを狙った罠であると気がついただろう。そんな2人が次の取る手段は・・・・)
~第21話・完~
どうでもいい余談ですが、マジックミサイル辺りの話は後からひかりたちも使えるとわかったがゆえの後付けです。