やっていることは、しょぼいトリックですが。
~白い亜人視点~
「――――だと思ったか?」
「「ッッッッ!!!」」
エルシアの背後に立ち、声をかける。
驚きながら2人はこちらへ振り向くが、何か具体的な対処をできるまでには至らなかった。
両手を組んで振り上げ、エルシアに向けて全力で振り下ろす。
「かはっっっっ・・・・」
地面に叩きつけられ少しだけバウンドするように跳ねたエルシアにさらに蹴りを食らわせ、エルシアは勢いよく壁に叩きつけられた。
「―――――――――ッッッ!!!」
連続の衝撃にエルシアは声も上げることができず、気絶したのかそのまま地面に倒れ伏してしまった。
「エルちゃん!!・・・・ど、どうして!?確かに攻撃は当たったし、そこに倒れているのは白い亜人のはずなのに!?」
倒したはずの相手が再度出てきたことに、ひかりは困惑の色を隠せない。
「ああ、確かにお前の攻撃は当たったよ。あれは危なかった、まともに食らえば俺でも間違いなく死んでいただろう。だから、シンプルな方法で回避させてもらったよ。よく見てみな、倒した亜人を。」
指さした白い亜人をひかりが食い入るように再確認する。
体のあちこちに黒い部分が見え、よく見れば倒れた地面が少し白くなっているのがわかる。
「どうして地面が白く・・・・まさか、あれはペンキ!?」
「そうさ、部下の亜人に白いペンキを塗って囮にしたのさ。」
あの時、煙幕を焚く直前にわざと吹き飛ばされた亜人があらかじめ置いておいたペンキを全身に塗りたくっていたのだ。
「お前たちが切り札を隠し持っていたように、俺も奥の手を残していたのさ。言っておくが、そのペンキのことじゃないぞ。あの青髪が触れたやつを転移させられるように、俺も触れたやつを透明にすることができるのさ。」
ペンキは万が一、形勢不利になった場合に前回のように倒したように見せかけて逃げるための保険だ。
ペンキで白くなった亜人を透明にしたままわざと殺気を出させて、エルシアに気付きやすくした。
エルシアと違って触れ続けていないと透明にできず、気配を遮断する方はできないのでいささか使いづらいが、エルシアの気配の感知能力の高さを逆手に取ってあえて殺気を出させることで突進させた。
そして攻撃の直前に手を放し、俺が透明になって離れたと同時に白くなった亜人が攻撃を仕掛けたというわけだ。
「俺も同じようなことができなければ、直前に気付くことができなかったよ。感謝してるぜ、は~っはっはっは!!!」
「そ、そんな・・・・」
最後の切り札が不発に終わったことで、ひかりの表情にはいよいよもって絶望的な表情が浮かぶ。
激しい消耗もあって、今にも膝から崩れ落ちそうだ。
「さてと、それじゃあ仕上げに入るとするか。」
合図を送ると、気絶して無防備になっているエルシアに残りの亜人が接近する。
「エルちゃん!!止めて、彼女に近づかないで!!」
ひかりがエルシアを守ろうとする。
しかしその顔には疲労の色が色濃く出ており、激しく消耗しているのは誰の目にも明らかだ。
「無茶はしない方が良い。わかっているぞ、もうお前にはあのとてつもない回復能力を使える魔力が残されていないことが。」
「うう・・・・!!」
ひかりの魔力消耗のカウントに専念していた亜人に確認したが間違いない。
最後にエルシアに使った段階でひかりの残魔力は45%だった。
そこにあの巨大剣の生成に魔力の3割を消耗してしまったので、残りの魔力は15%しか残されておらず身体強化や通常剣の生成など最低限の戦闘用の魔力しか残されていないのだ。
リミッターを外して使うこともできなくはないが、ひかりの場合は1回ごとの能力使用に5%を確実に消費するので剣・衣装・身体強化・認識変換のどれかは確実に使えなくなっていく。
「無理に使っても自分を追いつめるだけだぞ。第一、今使っても効果はない。」
エルシアは気絶こそしているが当たりどころが悪かっただけであり、ひかりの能力では気絶している相手はすぐに目を覚まさせることはできない。
怪我も大したことはないし、魔力も現時点では対して消耗はしていない。
というよりも、戦いが始まってから何回も攻撃は当たってこそいるが、部下の亜人はもちろん俺自身の攻撃は不意打ちも含めて全体を通して大したダメージは与えられていない。
エルシアのシールドもあるが、単純に魔法戦士の素の防御力が強力であるということだ。
「お前の能力は味方がいてこそ絶大な効果を発揮するが、1人だけだとただ魔力が高いだけの魔法戦士だ。」
さっきの巨大剣も生成までに時間が掛かる上に巨大すぎて大振りになるので、普通ならあっさりかわされてお終いだ。
「まあ、お前はそこでこいつが無力になるのを指を咥えて見ているんだな、おい。」
「はい、へっへっへ・・・・ほいほいほい、っと。」
エルシアのすぐ側まで近づいていた亜人たちが気絶しているエルシアに次々と腕輪を装着していく。
気絶していて何もできないエルシアからどんどん魔力が吸収されていく。
「エルちゃん!!や・・・・やめて~~~~っっ!!」
それに動揺したひかりが我を忘れて突っ込んでくる。
作戦もなにもない、ただエルシアを助けたいための無謀な特攻だ。
「突っ込むのは構わんが、俺がいることを忘れるな。」
「あぐうううっっ!!」
俺の存在を忘れていたひかりに蹴りを入れ、自らの勢いもあってまともに食らってしまう。
透明にはならずただ気配を遮断しただけなのに、俺に気づかずまともにひかりは食らってしまった。
エルシアを大切に思うがゆえに、周りが見えなくなってしまったのだ。
「いくら仲間が大切でもこんな単純な攻撃をあっさりくらうほど周りが見えなくなるとはな。どんな状況下にあっても冷静に行動できるようにならないとな。」
皮肉たっぷりにひかりの行動を指摘しつつ、近くにいた亜人にまた腕輪を装着させた。
「ああ!!くうっ・・・・!!」
慌ててその場を離れるが腕輪は瞬時に吸収して消えてしまい、取り外す暇も与えない。
(これでひかりの魔力は10%になった。戦闘するための最低限の魔力さえ切ってしまったわけだが、ここで撤退する選択肢は存在しない。第一、エルシアを置いて逃げるなんて考えさえしないだろう。)
エルシアの周りにはもはや集計が不要になった亜人も含めて、残りの亜人が集結していた。
気絶したままのエルシアにはすでに10個の腕輪が装着されており、さっきまでの使用分も含めると魔力が半分以下になっているのは間違いないだろう。
「こ、この・・・・っ!!」
再び攻撃を仕掛けようと構えるが、その手には魔力剣が握られていなかった。
魔力不足によりまずは剣が使えなくなったのだ。
「け、剣が!?」
「まずは剣が使えなくなったな。いくら魔法戦士といえど、そのまま突っ込むのは賢いとは言えないぞ?」
単体での戦闘能力は亜人を大きく上回るとはいえ、単純な腕力だけならば亜人とほとんど変わらない。
1人や2人だけならまだしもまだ俺を含めて7人も残っていて、しかも俺は進化した亜人で残りもほとんどが普通よりも強化された亜人だ。
剣もなしに戦いを挑むのは、さすがに無謀と言わざるを得ないだろう。
「ほらほら、もたもたしてると相方の魔力がどんどんなくなっていくぜ~?」
今はわざと装着させるのを止めさせ目覚めてしまわないか警戒しつつ、ひかりを煽るかのように腕輪をちらつかせる。
「エルちゃんは・・・・私が守る!」
自らを奮い立たせるように気合を入れると、その手に再び剣が出現した。
前と変わらぬ大きさのままだったが、すでに彼女の魔力は10%になっているのはさきほど言った通りだ。
使えなくなった剣を無理に使えるようにしたために何かを確実に犠牲にした結果であり、何を犠牲にしたのかすぐにわかった。
魔法戦士たる衣装が透けていき、手袋やブーツなど一部を残して消失してしまった。
控えめな大きさの乳房が露わになったが、かろうじてパンティは残している。
「うう・・・・っっ!!」
手で隠してしまうと隙だらけになって意味がなくなるので剣を構えたままだが、当然丸見えの状態のままだ。
顔を赤くし羞恥心に染まっているのは見え見えだ。
「ほう、剣を作るためにあえて衣装を捨てるとはな。普通なら恥ずかしくて隠してしまいたくなるだろうに、なかなかの覚悟だな。もっとも、それが効果があるかどうかは別問題だがな。」
戦闘能力の維持と正体が露見してしまうのを防ぐために衣装を捨てたのだろうが、あの薄そうな魔法戦士の衣装は生半可な防具よりもよっぽど強力な鎧でもあった。
それを捨てたということは防御力を捨てたということと一緒であり、それでも一般人よりはましだろうが、今まともに攻撃を食らったらひとたまりもないだろう。
「そんな状態になって大丈夫なのか?今なら部下の亜人の一撃でも致命傷になりかねんぞ。」
「そんなこと、言われなくてもわかってるわよ。それでも、エルちゃんを必ず守ってみせる!」
羞恥心を振り切ってひかりが突撃をかけた。
(ふむ・・・・今の状態では勝てないことはひかりもわかっているだろう。それなのに突撃をかけてくるということは・・・・なるほど、そうくるか。)
エルシアの周りにいた亜人の内2体がひかりを迎え撃つ。
ほとんどの魔力を失い防御力までなくなってしまったとはいえ、まだ最低限の戦闘力は残している。
この状態であっても正面から戦えば亜人2体ぐらいならばまだ何とか戦えるだろう。
(だが、もはやひかりに余裕がないのは明白だ。)
亜人を迎え撃つひかりだったが、思った通りその攻撃は精彩を欠いていた。
魔力の大幅な消耗やそれによる余裕のなさによる焦りに加え、衣装を失ったことによる露出も気になっているのだろう。
何より、衣装がなくなったが故に防御力がゼロになり、もはや攻撃を受けることはできなくなってしまった。
俺の能力の全容も解明できないままなのもあって、うかつに攻めることができないのだ。
「おらあっっ!!」「くらえや、うらあっ!!」
亜人たちの攻撃を剣で受けたり回避したりするが、本来なら余裕で防御や回避できるはずのそれらの攻撃もはた目から見てもギリギリになっている。
「く、は、やあっ!!」
なんとか攻撃を繰り出すがやはり思い切り攻めきれず、攻撃はあっさりと回避されてしまう。
「ああ・・・・うう・・・っ!!」
「全然ダメだなあ、そんなんじゃやられるのも時間の問題だぞ・・・・こんな風にな!!」
それに気が取れら俺に対する注意が弱くなった瞬間、透明になり気配を絶っていた俺はひかりの背後から思いっきりタックルをくらわした。
「かは・・・・きゃああああああああっっっっ!!」
今までよりも派手に吹き飛ぶひかり。
「ぐう・・・・かふ・・・・」
やはり防御がなくなった分だけ受けたダメージは今までの比ではなく、致命傷こそ負ってはいないが、持っていた剣も消失し立ち上がることもできなくなりつつあった。
「へ、もはや弱い者いじめだな。これ以上は戦っても何も変わりないし、止めを刺しちまいな。」
「了解しました、へっへっへ。」
いつの間にかエルシアの周りにいた残りの亜人がひかりの後ろに立ち、全員が腕輪を構えてひかりにそれをはめようとしている。
少なくともあと2つでひかりの魔力は完全に空になってしまう。
(まさに万事休すだな。そろそろ、麻痺毒を注入して動きを封じてもいいころだが・・・・。
「うう・・・・くう・・・・エル・・・・ちゃん。せめて、エルちゃんだけでも・・・・っっ!!」
ひかりの目線の先には倒れたエルシアがおり、亜人も周りには1体もいない。
手をかざすとひかりの手に魔力が集まりそれをエルシアに放った。
「残りの魔力で無理に能力を発動し、エルシアを回復しようとする。追い詰められたお前がそうすると思ったよ。」
「な――――!?」
エルシアに光が届く直前、それはエルシアに届くことなくエルシアの前に立っていた俺に当たってしまう。
「ありがとうよ、回復してくれて。俺も結構魔力を消費していたんだな。」
「あ、ああ・・・・」
エルシアがひかりを逃がそうとしたように、ひかりもエルシアを回復させて逃げられる確率を上げようとするのはわかっていた。
だからこそわざとエルシアの周りから亜人をどかせ、ひかりが一か八かエルシアを回復させようと魔力を放つと思っていた。
ひかりの回復能力は当たってしまえば誰であっても回復してしまう。
触れて回復する分には問題ないが、こうやって魔力を放つ時に敵に当たってしまうと目も当てられない。
俺の魔力も半分ほど消費していてそろそろ回復アイテムを使おうかと思っていたが、これで回復できた。
「さて、と。これでお前の魔力は残り5%になったな。」
衣装は消えたままで剣も消えたということは、身体能力強化か認識変換能力のどちらかが消えたということだろう。
どちらもパッと見ではわからないので、どちらかまではわからない。
周りに正体が露見するのは極めて危険なので、認識返還能力の方を最後まで残すように基本設定はされているようだが。
「まあいいさ。どっちにしろこれで――――ガチャリ――――お前は終わりだ。」
亜人の手により腕輪がはめられ魔力を吸収するとともに消失した。
それと同時に――――――――
パァァァァァァァァ
ひかりが光に包まれそれが切れると――――そこには制服を着ているひかりの姿があった。
「せ、制服の姿に・・・・魔力が!!」
「そう、お前の魔力が完全になくなったのさ。これで回復される可能性はなくなったわけだ。」
ひかりの顔が一気に青ざめる。
「これで完全に無力化できたな。それじゃあ、次はエルシアを無力化して終いに・・・・」
「ひかり・・・・ちゃん・・・・?」
~第24話・完~
ひかり陥落
ようやく、少しはそれっぽいシーンも入れられるようになりました。