~白い亜人視点~
「ひかり・・・・ちゃん・・・・?」
こちらがひかりに集中している間にエルシアが目覚めたようだ。
さすがに先ほどの連撃はある程度のダメージは受けたようで、立ち上がりこそしたものの足元はやや覚束ない。
「ふふふ、ようやく目覚めたようだな。しかし残念だが、相方の方は決着がついたぞ。」
ひかりの方に目線をやるとエルシアの顔色が一気に変わる。
「ひかりちゃん、その姿は!?まさか、魔力を全部!?」
それを見てすぐに状況を察したようだ。
「その通り。たった今、こいつは魔力をすべて失った。これでお前の回復も不可能になったというわけだ。」
俺はニンマリと笑みを浮かべた。
悪化の一途をたどる状況の変化に、エルシアも言葉が出ないようだ。
「エルちゃん逃げて、今のままじゃ2人とも捕まっちゃう!!何とか転移以外で脱出する方法を――――」
「余計なことを言ってんじゃねえぞ。」
偶然だが、正解に近い方法で脱出を促すひかりの首筋に麻痺毒を注入すると同時にし手刀をお見舞いする。
「あう!!うう・・・・エル・・・・ちゃ・・・・」
「少しの間、今度はお前が眠っていてもらおうか。なあに、心配はいらないさ。お前が目を覚ます頃にはすべてが終わっている。」
「ひかりちゃん!!ひかりちゃんに何をしたんですか!?」
「何もしちゃいないよ、ただ気絶させただけだ。こいつにはもはや何もできないが、体をはって邪魔をされる可能性もあるんでな。」
実際にはわからないように首筋から麻痺毒に加えて速攻性の睡眠毒も注入したので、気を失ったかのように眠っただけだ。
麻痺毒は前回使ったものを液体のまま体内に注入したので、これも速攻で効果が出てくる。
直に注入しているので効果は強力であり、睡眠毒は量が少ないのでちょっとすればすぐに目を覚ますだろうが、麻痺毒は当分の間は身動き一つ取れないだろう。
魔力体の根源により強く効いているので、前回のように少しは動けるということもない。
実際問題としてひかりはもう直接的な脅威ではないが、邪魔をされると鬱陶しい。
魔力を完全に失えばさすがにただの一般人と変わりないので、下手に攻撃を加えると予想以上のダメージを与えてしまいかねないので加減が大変であり、別の意味で厄介になる。
「ひかりちゃん・・・・どうすれば・・・・」
ひかりの側には俺たちがいるので迂闊に近づけず、ひかりは魔力を失い眠ってしまっている上にこいつらはまだ知らないが起きたとしても麻痺毒で身動き一つとれない。
人質にされてしまえばエルシアにはもう打つ手がない、だが・・・・
「安心しろよ、こいつを人質にして降伏しろなんて言わねえ。こいつには何もしねえから、存分にかかって来いよ。」
その言葉にエルシアは一瞬きょとんとするが、すぐに気を持ち直すと怪訝な表情になる。
「・・・・なんのつもりですか、そんな言葉を私が信じるとでも?」
「信じろなんて言わねえし、
「くうっっ・・・・!!」
戦ってひかりを助けようとするにしろ逃げて助けを呼びに行くにしろ、ひかりを人質とされてしまうとどの選択肢もとれない。
この段階でエルシアには俺の言葉を信じられなくても、それを当てにするしかないのだ。
そして、エルシアには『ひかりを見捨てて助けを呼びに行く』という選択肢は決してとれない。
これが熟練した戦士だったならば、お互いが助かる最善の方法を選ぶことができたかもしれない。
捕まったとしても、一般人ならばともかく魔法戦士なら魔力を奪うために生きたまま陵辱されるので、すぐに殺されるということはまずない。
この2人ならばそれもよくわかっているはずなのにやはり助けに行く選択肢はなく、これがひかりであったとしても同じであっただろう。
経験が浅くお互いを大切に思いやるが故に、自らを追い込んでいることに2人は気付いているかどうか・・・・。
「それに、そんなことをしなくてもお前らはすでにほぼ詰んでいるからな。こいつの回復能力さえ封じてしまえば、いくらでも手はある。」
一方で俺の方からすれば、人質をとった方が楽なのは間違いない。
それを行わないのは先に言った理由もあるが、何よりも一番の理由は俺の意地みたいなものだ。
くだらないと思われるかもしれないが、俺の立てた作戦を遂行した上で完全勝利を収めたい。
それにすでにエルシアがほぼ詰んでいるのも事実だ。
魔力も半分以上を失いひかりの回復能力も使えなくなった。
転移によって外に逃がすこともできず、物体転移も転移させる瞬間は自身は動けないので複数人を相手にするのに1人では使いづらく、確実に役に立つのはシールドだけだ。
それもひかりが回復能力を使えない以上、使い続けることもできない。
時間もたっぷりある上にこちらには回復アイテムもあるので消耗戦を強いることもできるし、なんだったら麻痺毒を体外に放出して前回のように屋内を麻痺毒で満たしておいて身動きを封じるという選択肢もないではない。
ただ、今からではこの広い屋内を効果が出るまでに麻痺毒で満たすのはさすがに時間が掛かりすぎる。
しかもこれは結構消耗してしまうので、その間は俺は他の能力を使うことはできないのも地味に痛い。
(あるいはひかりと同じように麻痺毒を注入して動けないようにするのも有効だ。なんにしても方法はいくらでもある。)
ただ前回のように魔力を残したままひかりを逃がしたが故に、最終的には失敗してしまった。
いくら追い込んだとしても、魔力を残しておくとどんなイレギュラーがおこるかわからない。
(やはりまずは魔力を完全に失くしてしまうことこそが最優先だな。それさえ済んでしまえば、後はどうとでもなる。ならばやはり、用意しておいた『罠』に誘い込むとするか。)
最初に調べた段階で魔法戦士の持つ『とある特性』があるとわかっていたので、腕輪などが手に入る前にこれだけは場所が決まった段階で設置しておいた。
「では、決めさせてもらおうか。お前ら、『的確』に決めろよ!!」
『的確』という単語を使った時は『エルシアを罠にはめる』という合図であるとあらかじめ決めていたので、それに合わせて亜人たちが動いた。
「く、ふ、はあっ!!」
エルシアもこちらに合わせて迎撃するが、やはりひかりが気になるのかそちらの方をチラチラと見ている。
「だが、そんな余裕があるのか?ただでさえ追い詰められているのに、そんなんじゃすぐに背後をとられるぜ?」
背後をとりながらエルシアにそう言ってやる。
「くう・・・・あう!!」
後ろに気を取られた瞬間、周りにいた亜人が腕輪を1個はめると同時に俺が手刀でエルシアの腕に傷をつけた。
「ほらほら、どんどんと終わりへと向かっていくぜ。人質で脅したりはしないが、降伏するってんなら優しくしてやるぜ?」
「馬鹿なことを言わないでください、魔法戦士は決して諦めたりしません!!」
亜人たちが周囲に展開する中で、降伏勧告にもエルシアは毅然とした言葉で撥ね退けた。
「まあ、そう言うだろうとは思ったよ。」
とはいえ、亜人の数ももう残り少ない。
こちらの負けはもうほとんどないが、このまま戦い続ければもう何体かはやられてしまうだろう。
(手数自体はいくらやられても平気だが、せっかくここまで頑張ったやつらに少しは良い目を見させてやらないとな。)
となれば、ここいらで決着といこうか。
亜人たちが防御を固めつつエルシアに攻撃を一斉に開始した。
「ふ、や、はあ!!」
さすがのエルシアも俺の忠告を聞いたからか、今はひかりの方を見ないように戦いに集中し始めた。
まだ多少は余裕がある上に自身の防御をシールドで固められるためか、こちらの攻撃を的確に防いでいく。
俺の透明化+気配遮断のコンボに対しても完全にとはいかないが、自動防御が対応する。
「なんだと、この攻撃に反応し始めるとは!?」
「まだ貴方の能力の全容はわかりませんが、全く対応できないというわけでもなくなりましたね。」
笑みこそ浮かべていないが、俺の攻撃を防ぎ始めたことに少しだけ精神的に余裕が出てきたようだ。
(今まで俺がこのタイミングで攻めたことがないとはいえ、対応できるようになるとは!シールドの動きも心なしかさっきよりもスムーズになってきているように見える・・・・まさか、この短期間で成長しているというのか!?)
未熟ということは逆に言えば、伸びしろはたっぷりあるということだ。
しかもこいつらは魔法戦士の中でも上位の才能の持ち主であり、足りないのは経験不足だけとも言えるだろう。
(ここまで追い込まれたことがないが故に、能力が一気に成長し始めているということか・・・・やはりこれ以上時間をかけるのは危険だな。)
これ以上成長してしまうと、どんな能力に目覚めるかわかったもんじゃない。
外のエルシア用の遮断シールドにしても、無効化される危険性もある。
「やはり魔法戦士というのは厄介だな。残念だが、お遊びはここまでだ。」
俺が間合いを一気に詰めると同時に亜人たちもそれに合わせてポジションを変え、エルシアも背後をとられないように素早く場所を変えた。
「そんな簡単に背後はとらせませんよ!」
「それはそうだろう、能力もなしに背後をとれるなんて思っちゃいないさ。」
逃げやすい場所を空けておいて、そこに誘導するように何度も素早く動き回り続けたが故に、エルシアもその意図に気づかなかった。
「だがな、これでジ・エンドだ!」
「・・・・?それはどういう・・・・」
そして指定の場所にエルシアが立つと同時に、合図を送る。
亜人が壁にあったスイッチを押すと、エルシアの真下の床が開いて彼女はそこに落ちていった。
「きゃあああああっっ!!くう・・・・こ、ここは?」
古典的な落とし穴だが、別に落として怪我をさせようとかではないしするわけもない。
深さもせいぜい5mぐらいで、魔法戦士ならばちょっとジャンプするだけですぐに脱出できる程度だ。
「一体、なんのつもりですか?こんなところに落としたぐらいで、私を閉じ込められるとでも?」
「まさか、そんなわけがあるか。これはお前用に用意した罠だ、そこに落ちた時点でお前はもう終わりなのさ。」
「それはどういう・・・・はっっ!?」
それに応える代わりに俺の合図によって、エルシアが入っている落とし穴の左右の壁が一気に挟むように突撃してくる。
攻撃している間に亜人が四方の壁に回り込み、左右の壁を内側に押し込んでいるのだ。
「これを使って押し潰そうというわけですか!?でもこんなもの、転移させてしまえば・・・・な、転移できない!?」
触れたものを転移できるということは、触れた瞬間に転移させればそれはシールドにも匹敵する鉄壁の防御にもなる。
さすがに高速で移動するものはそう簡単にはいかないが、早いといっても壁が迫ってくる程度の速さなら転移自体は余裕だろう。
いくら挟まれたといってもそんなダメージにはならず、こっちに殺す気がないのならなおさらだ。
両方同時は無理でも慌てずに一つずつ処理すれば問題ないはずだったが・・・・
「その四方の壁には魔力が付与されていてな、外に展開している障壁ほどではないがお前の転移を阻害することができるのだ。」
正確にはエルシアの魔力の波長を少し乱すことによって転移されにくくなっている。
外の障壁ほどではなく少し集中すれば問題なく転移できる程度の物であり、普通ならすぐに対応できるもので転移できなくても回避したりシールドで防げば済む話である。
あるいは――――
「く・・・・はあ!!」
すぐに転移できないと分かると剣によって破壊しようとするが、これも弾かれてしまう。
「この硬さは一体!?魔法剣で傷もつけられないなんて!!」
この壁の素材自体が、組織が開発していた魔力を伴った攻撃に対する高い防御力を発揮する金属でできている。
単純な防御力に加えて先述した魔力の波長を乱す特徴もあり、これによって魔力を伴う攻撃に対するより強固な防御力を発揮できる。
九条によると最近開発されたばかりで名称はまだなく、廃工場を取り壊しこの金属を使って戦闘訓練施設を作る予定のようだ。
魔法戦士であってもこの金属の存在を知らなかったようで、エルシアも動揺を隠せない。
(ただ難点として半ば偶然の産物らしく、製造が難しいのと作るのにベラボーな金がかかることらしい。なので他の魔法アイテムと違って、この壁だけは使ったら戻さないと怪しまれる。)
エルシアは壁に剣を突き立てようとするが、やはり貫ぬくことはできない。
「く・・・・はあああっっ!!」
エルシアは両サイドから迫ってくる壁をシールドを2つ同時に展開して防御した。
「まあ、うかつに飛び上がれない以上、そうするしかないわな。」
四方の壁が転移できず破壊もできない以上、残る方法はシールドによる防御か上に飛び上がって回避するしかない。
しかしシールドだと2つしか展開できず、前後も同時に来てしまうとどうしようもない。
だからといって飛び上がって回避しようにも上に俺たちが待機しているので、飛び上がった瞬間に攻撃を受けるのは明白だ。
結果、左右から迫ってくる壁だけでもひとまず防御するという選択肢しかなくなる。
「くううううっっっっ・・・・!!」
シールドの硬さゆえにそれ以上は押し込まれないが、腕力は亜人の方が上なので押し返すことはできない。
「そのままだと片方に集中できないので転移ができず、シールドで防御し続けていると魔力を消費し続けてしまうぞ?もうお前の残り魔力はさほど多くない。いつまで持ちこたえられるかな?」
「くう・・・・」
落とし穴に落ちた時点でエルシアの残り魔力は45%以下になっている。
ひかりの能力と違って、転移やシールドの消費魔力はどれほどなのかは状況に代わってくるのでわかりにくい。
だが、エルシアもまた魔法戦士として最低限の戦闘能力を維持するために15%の魔力をそちらに回しているので、能力に使える魔力は最大でも30%ほどであり、このまま押し込み続けても数時間もすればほとんど使いきってしまうだろう。
(エルシア自身も残り魔力は正確にわからなくても、残り半分以下になっているぐらいは理解しているはず。自身にシールドを展開している時だけは自分も動けるので、近い内に一か八かこちらにカウンター攻撃を仕掛けるしかないだろう。)
だがそれを待つ気はないし必要もない、なぜならいずれにしてもエルシアの命運はもはや尽きているからだ。
「よし、お前らやれ。」
指示を出すと、亜人は隅の箱に入れてあった『ある道具』を持ってきた。
「く、このままじゃ・・・・こうなったら・・・・なにを?」
向こうもカウンターの機を窺ってこちらに目線をこちらに向けていると、『これ』に気付いたようだ。
「これか?お前の止めへの布石だよ、開始しろ!」
そして合図と共に、『それ』がエルシアへと降りかかっていった。
「きゃあ!!・・・・これは、水?」
持ってきた道具は携帯用のシャワーであり、エルシアにかけているのは正真正銘ただの水である。
「これは・・・・なんのつもりですか?こんなことをしても、私にとっては有利になるだけですよ。」
ただの水とわかると、エルシアは困惑しながらもわずかに笑みを浮かべている。
全身水浸りになり部屋に水が溜まるにつれて、少しずつだが壁を押し返し始めた。
「やはり己の『属性』に適したものを得るとパワーアップするようだな。」
魔力を得たものにはその際に属性も得ることができ、それに適した環境になると魔力が強化されるのだ。
たまにひかりやその姉みたいに無属性の者もいるが、そんなに珍しいものではない。
環境強化はできなくなるが、その代わりに環境の変化によって魔力の減退もしなくなる。
エルシアの場合は属性は『水』であり、こうやって水を全身を濡らすと一時的に強化される。
また相性的に『火』の属性に強くなるらしい。
「もちろんお前を強化するためじゃない。お前への弱点をつくために用意したものだ。」
「弱点?私を水浸しにすることと何の関係が・・・・」
エルシアが言い終わる前に亜人から渡された機械を手に取り、
「これで、終わりだ!!」
スイッチを入れた。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッッッ!!!!
「――――――――――――――――っっっ!!!」
突然の衝撃にエルシアは悲鳴を上げることもできない。
床に高出力の発電機が仕込まれており、それが一気に放電されたのだ。
属性が『水』であるエルシアは『雷』の属性に弱く、普通のスタンガンなどの攻撃であってもやや効きやすい。
もちろん魔法戦士である時はその程度は問題にならないが、こうやって全身を水浸しにして出力を大幅に引き上げた発電機による放電を受けてしまうとそのダメージは甚大なものになってしまう。
全身をシールドで包もうにも両手がふさがっているので使えず、固形の物体でないので転移させることもできない。
エルシアはその電流を全身で受け続けるしかないのだ。
「あ・・・・が・・・・」
「苦しいだろう?今楽にしてやる。」
ダメ押しとばかりに九条たちに作らせた手製の爆弾を中に放り込んで蓋をする。
蓋をした直後に地面から衝撃が立て続けに起きる。
音と衝撃が収まり蓋を開けさせると――――
「ふふふ、さすがにあれだけの攻撃を受ければ魔法戦士といえどもタダではすまんな。」
そこには水が溜まった床に倒れ伏すエルシアの姿があった。
~第25話~
魔法戦士、ゲットだぜ!
というわけで、次回からようやくお待ちかねのシーンに突入です。