ひかりとエルシアの正体をつかむことに成功した俺は、彼女たちを罠にはめるべく準備を開始した。
最初に考えたのは、洗脳した者たちを人質として利用する方法だ。
だがそれをした場合、周囲に露見してしまうと逆に罠にはめられてしまうかもしれない。
それに何度も言っているが、俺の能力が知られてしまう可能性も大いに考えられる。
仮にその後で自分が逃げられたとしても、俺の能力に対する対策が施されてしまうと、奪った能力はともかくとして、肝心の侵食はほとんど使えなくなってしまう。
侵食ができなければ、洗脳はむろんのこと吸収もできなくなってしまう。
あくまで、これらは侵食による能力の副作用だからだ。
ターゲットのひかりとエルシアには最終的には知られるであろうが、それでも逃げようにない詰み状態にしておくのが大前提だ。
それに何より、俺自身がその方法を良しとしない。
回りくどく面倒くさいという思いもなくはないが、彼女たちを完全に負かし、前回のリベンジを果たしたいという思いはそれ以上に強くある。
そのためには、前回よりもさらに入念な準備が必要になるであろう。
「そのためには、『アレ』の存在が必要不可欠だな。」
いずれにせよ、十二分の準備は必要だ。
最初に手を付けたのは、手駒の確保である。
大抵の進化した亜人は野良の亜人を従わせたり、適当な人間の魔力体に魔力を注いで人間を下位の亜人を変異させることができる。
そうやって勢力を拡大していくのだが、俺は自身の強化を優先していたので部下の亜人は全くいない。
普通ならそこいらの人間を適当に変異させて数だけを増やしたがるのだが、俺の場合は違う。
魔力体に魔力を注いで普通に変異させるのではなく、侵食の能力を応用しより多くの魔力を注ぎ込む。
これによって、通常よりも強力な亜人を生み出すことができるのだ。
それだけではなく、普通の亜人ならばまずしないであろう自らの鍛錬を施させる。
魔力に関する講義内容の中に、鍛錬によって魔力を効率よく成長させる方法があったのだ。
侵食によって俺に絶対服従させているので、鍛錬なんてしない亜人にもこういったことがさせることが可能となっている。
鍛錬によって魔力が増えるのは人間は無論のこと、他の亜人にも有効であるが、俺自身は進化によって浸食の力を得た副作用なのか、鍛錬によって成長することができなくなってしまったのだ。
とにもかくにも、20体ほどの亜人を生み出すとそいつらに自己鍛錬を命じておく。
無論、目立たないように普段は日常生活を過ごし、休みの日や深夜などにこっそり行わせる。
効率のいいトレーニングをさせているとはいえ、作戦決行までにどれほどの効果があるかはわからない。
それに、いくら強くなるといってもあくまでも普通の亜人と比べての話である。
単体での強さは並の魔法戦士にも及ばないだろう。
あくまでもこいつらの役割は、俺のサポートである。
「とりあえず、作戦開始前に強さを図ってみるとするか。」
次の準備すべきは、襲撃地点の選定である。
人気がないところで襲うのは大前提であるが、向こうも一度は罠にはめられているので、あまりに人気がない場所に誘い込もうことしても、今度はそう安易に引っかかったりはしないだろう。
だからといって街に近すぎると、一般人に見つかったり他の魔法戦士たちが助けにくる可能性も十分にある。
これは場所だけの問題ではなく、向こうの出動時間にも左右される。
どうやら魔法戦士たちの出動時間はシフト制らしいということはわかっている。
まだ学生であるひかりやエルシアは夜から早朝にかけての任務が多く、朝から夕方にかけてはすでに成人している魔法戦士に専念している者たちが担当していることが多い。
人数不足も相まって、数日連続で出動したりするのが常態的になっているようだ。
どんな方法にせよ、人気が少ない方がやりやすいのは間違いないのでこれはありがたい情報だ。
魔法戦士が全部で何人いるのかもまだ把握できていなかったが、少ないというのも手がまわりにくいのでこちらが動きやすくなるだろう。
そんな中で、手ごろな場所を見つけることができた。
町から少し離れ人気がなくなり始めたところにある、廃工場である。
潰れたのは割と最近なので建物自体はまだまだ健在であり、なによりもありがたいことに、ここは周辺の土地も含めて魔法戦士の属する組織が買い取ったということだ。
周辺や建物に人が入ってくる可能性が低く、組織が管理している土地ということもあって魔法戦士が巡回することもほとんどないということだ。
ただ、近いうちに組織の新しい施設を作るために取り壊しを予定しているので、ここを使うのであればあまりのんびりとはしていられないだろう。
間に合わなくなった場合に備えて、他の候補場所も選定しておく。
「場所についてもとりあえずは準備できた。後は、必要な道具の準備だな。」
普通にやっていてはまず手に入らない魔法アイテムの数々だが、これについては伝手がなければどうしようもない。
「なにせ、一人で延々と強化してばかりだったからな。やはり、組織の内部深くに潜入するしかないな。」
確証はないが、研究用や敵などから奪ったアイテムが保管されていてもおかしくはない。
とはいえ、さすがに今までよりもリスクは高いだろう。
「ここいらで、俺の奪った能力が役立つ時が来たな。」
決断した俺は、夜になるのを待って組織に潜入することにした・・・・。
~第5話・完~
自分が大好きシチュエーションのためには、努力は欠かせません。