白亜に大それた野望もそうする理由もありません。
おもちゃで遊ぶがごとく・・・・
~エルシア視点~
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・・!!」
足早にその場を離れ教室に駆け込み椅子に座り込んで息を整える。
「ひかり・・・ちゃん・・・どうして・・・?」
別れ際に「他に言っていないことはないか?」と聞いてきたひかりちゃん。
その質問に思わず私は「もうない」と答えてしまった。
他にも話し合わなければいけないことはあったが、あくまでもお互いの話をすり合わせる程度でひかりちゃんも知っているであろうと思われることばかりなのでこれらはさして問題ではない。
でももっとも伝えなけばいけないこと・・・・白亜は私たちの心を読めていることを言いそびれてしまった。
本当は聞かれた時に伝えようと思ったのだが、その時のひかりちゃんの目には今までにない輝きが灯っていた。
(あの目・・・まるで私を疑っているかのような目つきだった。今まで私をそんな風に見てきたことなんて一度もなかったのに・・・・それに、そう言ってしまった時のひかりちゃんの目の輝きも・・・怖かった。)
そんな疑いの眼差しも怖かったが、それ以上に恐怖を感じたのは最後のひかりちゃんに灯った輝き。
どこか狂気を伴う焦点が消えたようなその瞳には、私への強い不信感が一瞬だがはっきりと輝いていた。
(きっとひかりちゃんは、まだ私が何か隠しているって思ってるんだ。少なくとも、その可能性はあると考えてるのは間違いない。はっきりと『ない』って断言できなかったから、その疑いを深めちゃったんだ。)
今までのどこか気まずい雰囲気とは違う、相手から向けられる明確な疑念や不信感。
その相手が他ならぬ一番の親友であるひかりちゃんというのが、私の心を傷つけてくる。
(私が聞かれたのにちゃんと答えられなかったんだから、そう思われても仕方ないよね。今はまだ疑っているだけど、もしも黙っているのを気付かれたらひかりちゃんはどう思うのかな?)
「言いそびれただけなんだから気にしないで」と言ってくれるのか、それとも・・・・
(もしもひかりちゃんからそんな風に思われたら、わたし・・・・どうしたら・・・・?)
白亜によって様々なことを吹き込まれ調教され心身共に消耗していたとはいえ、それを一瞬でも無理やり認めさせられてことにより、私の心に決して癒えることのない大きな傷をつけられてしまった。
問題なのは、その全てが出鱈目なのではなく言い方に悪意はあったが事実としてそう見えてもしょうがないことも含まれており、完全に否定しきれなかったことだ。
特に「私の正体がばれたことが元で身元を突き止められ、今回の事態に至ってしまった」のは、紛れもない事実である。
彼の私たちに対する執着はかなりのものでありある程度はすでに突き止めていたらしいので、ばれていなかったとしてもいずれは見つかっていたのかもしれない。
(でもそれでも、私が原因で正体を早く突き止められてしまったのは間違いない。ひかりちゃんの私への不信の大元はそのせいなんだと思う・・・。)
ただそこに白亜からの干渉があったのも大きいと思う。
私と同様にひかりちゃんも様々な言葉で揺さぶられ、心に大きな傷をつけられたのだろう。
だからこそ、白亜が言った私への不信を煽るような言葉に誘導されかかっているんだと思う。
(普通だったら嘘やハッタリだと撥ね退けられるはずですけど、今の私やエルちゃんはそれもできないほどに白亜への抵抗力や反抗心を奪われてしまった。)
そもそもの全ての元凶は白亜なのであり、白亜さえいなければこんなことにはならなかった。
(私はなんとなくそうだと気付けたけど、ひかりちゃんは白亜の精神誘導により引っ掛ってしまっている感じです。全く疑問に思っていないとは思えないけど、少なくともあの質問をして不信の目を私に向けた時にはそんな感じはしなかった。白亜に誘導されたのだとしても、ひかりちゃんの考えがそこに行きついて不信感を募らせているのは間違いないはず・・・・。)
そこまで考えた時に、不意に私の中にひかりちゃんの黒い感情が沸き起こってくるのを感じた。
昨夜も一瞬だけ感じ取ったけど、今度は弱くとも間違いなくはっきりと抱いている思いだ。
(でも・・・あの時、私は必死にひかりちゃんを助けようとして結果的には成功した。だから白亜が襲い掛かってきた時も必死に逃がそうとしたのだ。瞬間移動は阻まれたけど、なんとか逃げに徹すれば何か方法はあったのかもしれない。)
でもひかりちゃんは私を助けようとしてその選択肢を取らず、最終的には敗れてしまい捕縛され調教されてしまい心身共に淫らに作り変えられてしまった。
変わってきているのはすでに嫌というほど実感させられており、このままでは完全に白亜のものにさせられてしまうのはそう遠くはないだろう。
(何とかひかりちゃんだけでも逃げることができれば、組織に現状を話していくらでも対応することはできた。私の固有能力の『転移』は自分には使えないから、あの場ではひかりちゃんにしか使えなかった。私の判断は間違っていないはずです・・・・そう・・・ひかりちゃんが、私の言うことを聞いてくれなかったあら・・・・。)
こんなのは八つ当たりであると分かっている。
それくらいのことは白亜もわかっていたし対応策は取られていただろう。
あそこに誘い込まれた時点でほとんど敗北は決定していたのかもしれない。
――――でも・・・・それでも・・・・
(そうだよ・・・・思えばひかりちゃんは私が必死に言い聞かせても、それを聞かずに独断専行することが多かった。思えばあの時も私を心配して一緒に行かないようにしたのかもしれないけど、もしかしたらひかりちゃんよりも魔力が消耗していた私を足手まといだと思って体よく追い払ったのかもしれない。私がいなかったから、あの時点で亜人たちに慰み者になっていたかもしれないのに・・・・ひかりちゃんは・・・自分勝手です。)
そう思うだけでわずかにあったひかりちゃんへの不満感が一気に噴き出し、何倍にも悪意あるように考えてしまう。
そして次第にその全ての言動が不愉快なものに感じるようになり、ひかりちゃんの存在そのものが不快なものに思えてきてしまう。
(初めて会った時も私に寄り添うようにしてくれた。でも考えてみれば、ひかりちゃんは私の気持ちを本当に理解してくれていたのでしょうか?私の家族は母も姉も殺されてしまい、父が亜人になってしまった。さそれによって所属していた組織から裏切り者扱いされ、それをネタに犯されたのも一度や二度じゃありません。でもひかりちゃんの場合はお姉さんはまだ生きているかもしれないし、亜人には犯されても組織の人に犯されたわけじゃない。私に比べたら明らかに周りが恵まれている・・・・なのに、本当に彼女は私を理解できているのでしょうか?)
考えれば考えるほど、彼女への不満や私への理解が不足しているんじゃないかという思いが黒く染まって私の中に広がっていく。
いつの間にか、ひかりちゃんのことを彼女呼ばわりになっている。
(そもそも昨夜も私が必死にどうするべきなのか考えていたのに、彼女は快楽に溺れてそれを満たそうという思いを抱いていた。彼女は何処まで必死に考えているのでしょうか・・・もしかしたら、もうすでに彼女は快楽堕ちしちゃってて私を巻き込もうとしているんじゃないでしょうか?)
さらには想像が飛躍し始め、何の証拠もないのにそうだと思い込み始めていた。
(そうだ、そうに違いない!ひょっとしたら、前回も私を巻き込むのを前提にして自分を囮にしてあんなことを・・・それを私が台無しにしちゃったから、予定を変えて亜人たちを倒すことで私の信用をより強固にすることにしたんだ・・・・なんて・・・なんて性悪な人なんでしょう・・・そんな人を私は信じて・・・・)
「・・シア・・・・エルシア!!どうしたんだ、この問題を答えてみろ。」
「え・・・え・・・・!?」
大きな声が聞こえてくると、不意に私は正気に戻る。
周りを見ればいつの間にか授業が始まっており、どうやら私が指名されて答えるように言われていたようだ。
他の生徒たちもなかなか答えない私に注目している。
「あ、あの・・・・すいません。考え事をしていて、聞いていませんでした。」
「どうしたんだ、いつも真面目に聞いているエルシアにしては珍しいな。次はちゃんと聞いておけよ。それじゃあ山田、答えてみろ。」
「はい、それは・・・・」
聞いていないことに疑問を感じつつも、普段の授業態度が真面目だったからか軽く注意されただけで次の生徒に質問が移る。
すぐに他の生徒も気にしなくなり、視線を黒板に戻す。
「うう・・・ひぐ・・・ひっく・・・ど、どうして・・・あんなことを考えちゃったの?ひかりちゃんを・・・・性悪だなんて・・・わ、わたし・・・どうしちゃったの・・・?」
教科書を立てて周りに見えないようにし小さな声で後悔の涙を流す。
それによって心が正常に戻ったのかさっきまであった黒い思いは一気に嘘みたいに消えてしまい、今の私の中にあるのは激しい後悔とひかりちゃんへの申し訳なさだけが渦巻き続けている。
「あり得ない考えが渦巻いて、ひかりちゃんの全てを悪い方に考えるようになっちゃって・・・それが急に消えちゃった・・・・ま、まさか・・・これが薬の副作用なの・・・?」
さっきのひかりちゃんの急な変貌といい、タイミングとしてはそうとしか考えられない。
身体の疼きが完全に消えてなくなるのと入れ替わるように、私とひかりちゃんの心の中に互いに対する黒い感情が沸き起こる何かの成分が含まれていたのだ。
(白亜はあの緑の亜人の能力を取り込んで色んな毒を生み出せるようになったと言っていました。毒と薬は効果が紙一重の違いでしかありませんし、私たちに効果が表れやすいように調合できるようになったとも言っていました。私たちの精神に作用するような薬を生み出せてもおかしくはありません。)
もしもそうだとするなら、私に対してはある意味でもっとも恐ろしい策略だ。
私とひかりちゃんを仲たがいさせることに何の意味があるのかはわからないが、私にとって一番の繋がりとも言えるひかりちゃんとの絆を引き裂くような行為は下手な性的調教などよりも恐怖である。
(アジトでの監禁調教の時から言葉で色々と揺さぶってきていたし、ひかりちゃんも同じような行為を受けてきたはず。精神的に消耗しているところにこの薬を飲まざるを得ないように誘導し、互いに互いの不信感や不満を大きく募らせるようにしている・・・といったところでしょうか?・・・・でも一体、それに何の意味が・・・?)
私とひかりちゃんは事実上、白亜に囚われの身も同然であり一緒に逃げることもできそうにない。
白亜の思惑通りに心身を作り変えられており、現状を打破できるアイディアも考え尽きそうにない。
反抗することもできないのに、あえて私たちを仲たがいさせようとする理由がよく分からなかった。
(無意味にそんなことをさせようとは思えませんし、これにも何か意味はあるはず・・・でも現状では思いつかない・・・ひかりちゃんを仲たがいなんて・・・・したくありません!!)
あの薬を飲んだことでこんな感情を抱くようになったのは間違いない、ひかりちゃんも同様だろう・・・できればその感情そのものが薬によって生み出されたものであってほしい。
(普段からお互いに不満が全くないわけじゃない。でもそれは、どんなに仲のいい友達や家族であっても抱く程度のもの・・・・間違っても、あんな黒い感情を抱いているわけじゃない・・・そうであってほしい。)
それは縋るような必死な思いであった。
トーコ先生やみらい先輩など信頼できる人はできたが、母と姉を失い父も亜人となってしまった今の私にとって一番の繋がりであるひかりちゃんの絆を失いたくはない。
もしもそれを失ってしまったら・・・・そう考えるだけで、恐怖で全身の震えが止まらない。
(やはりあんな薬を飲むべきありませんでした・・・もう、飲まないようにしないと!!)
依存性があるのかどうかはまだわからないが、無意味に飲みたいとは原人店では全く思わないのが不幸中の幸いであろうか?
(でもそんなことは白亜も十分に承知しているはず・・・薬にどんな効果があるのか、私たちが理解することぐらいも織り込み済みと考えた方が自然です。であるならば、それでもなお私たちがこの薬を飲まざるを得ないようにする算段がもうできているのでしょう。)
それが何なのかは現時点ではわからないが、次の休み時間にでもひかりちゃんと話しをして情報を共有する必要がある。
(そうじゃないと、ますます白亜の思惑に嵌ってしまう・・・・少しでも思惑を崩して、トーコ先生が帰ってくるまで負担を減らして耐えきらなければ!!)
今はトーコ先生が少しでも早く帰ってくることを期待しつつ、私たちの現状に気付いてくれる可能性に賭けるしかなかった。
身体の熱も疼きも一時的になくなり感情の整理も多少はできてきたので、今後のことを考えながら授業に集中することにした。
――――それまで、襲い来る快楽に耐えられるのかが最大の問題ではあるが。
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~白亜視点~
「ほう・・・さすがだな。エルシアの方が先に気付くとは思っていたが、こんなに早く勘付くとはな。」
俺は屋上で寝転がりながら、エルシアから流れてくる感情を読み取っていた。
侵食によってひかりとエルシアとの間の繋がりが大きくなってきたことで、ある程度の距離が離れていても感情や考えなどをかなり深くまで読み取れるようになってきていた。
もっとも、あんな必要最低限の説明しかされずに渡された薬なんてすぐさま怪しいと思われても仕方がないが。
「それにしても『やみり』とはな。ひかりも面白いものを生み出したものだな。」
エルシア同様に相手への不信感を募らせやすいように誘導してやっただけなのに、あのような心の一部が別人格のようになるとは想像もしていなかった。
しかも俺のことを『白亜様』と呼び、快楽を積極的に求めるように誘導するという俺からすれば実に都合のいい存在だ。
「ひかりに関してはやみりを誘導して遊んでやるのも面白いかもしれないな。」
そのためにも渡した薬を積極的に摂取させて、二人を堕落させていく必要がある。
「エルシア、お前の想像通りだよ。察しの通り、お前たちのその黒い感情が膨れ上がったのはその錠剤のせいだ。それが目的の一つだからな。」
命令によって強制的に飲ませることもできるのだから、わずかにでも彼女たちに利する成分は入れる必要はなかった。
しかし少しでも自分たちの意思で飲ませるために一時的に身体の疼きなどを抑え成分を含ませておき、いやでもそれを飲むしかない選択肢を与えさせたのだ。
あの薬は俺の身体から抽出した成分から作り出したオリジナルの薬品だ。
香水に関しては本当にあいつらに説明した通りの効果しかない。
今は使わないだろうが、いずれは快楽に忠実に行動するようになってしまうであろうあいつらのために渡したものだ。
「欲望に素直になったあいつらがあの香水を使って、誰彼構わずに襲い掛かってしまう・・・か・・・想像するだけで面白いな。」
そうなってもしばらくは正常な状態な残ったままであろうから、その度に後悔し涙を流しながらも堕ちていく姿を想像すると笑いが止まらない。
「あくまでも香水はおまけで、メインはあの錠剤のほうだがな。」
あの薬は飲めば身体の疼きなどを抑え一時的に正常な状態に戻してくれる。
しかしそれはあいつらが飲まずを得ないようにするための副次効果でしかなく、そのメインの効果はエルシアも予想した通り、あいつらの黒い感情を増幅させるためだ。
薬が効果を発揮する間は身体の疼きなどを抑えてくれるが、同時に感情を不安定にさせてしまう。
あいつらに効きやすいように成分を調節しその効果を発揮させやすくしているのだ。
さらにはあいつらに施した侵食の影響によって相乗効果を引き起こし、意図的にそういう黒い感情を強く呼び覚ますのである。
本来ならさすがにその相手まで指定することはできないが、調教を施しながらお互いの思い合う感情と絆を逆に利用しその感情が相手に向かうようにしておいたのだ。
「2人は大の親友で互いに大事に思い合っているからな。だからこそ、そっちの方向に誘導しやすい。」
薬を飲む直前から心を読み続けていたが、昨夜の段階で互いに少しはそういう感情を抱くようになってきているようだ。
とはいえ、まだ植え付けた不和の芽が出たぐらいで、薬の効果がなければ表に出てくることはないだろう。
すでにその兆候自体はあってもおかしくはないが、心と身体に徹底的に刻み込んだ快楽と違ってかなり強引なものなので放っておけば完全に消えてしまいかねない。
「だが強引であるからこそ、一気に進められるということでもある。調教と同時並行で進められるのだから、その不和の芽を確実に開花させてやるよ。」
お互いを思い合う強い信頼と絆・・・・それがズタズタに引き裂かれ、逆にお互いを憎しみあうようになったらどうなってしまうのか・・・・。
「そうなった時がまた楽しみだな。そういえば、エルシアがどうしてそんなことをするのか疑問に思っていたな。」
エルシアが考えた通り、別にこれ自体に俺に大きなメリットはない。
あいつらはもう俺に抵抗できないし、二人で協力し話し合ったところで状況を打破できないのはあいつらは十分に理解している。
2人の関係性を崩しておけばいざという時の連携が取れなくなり万が一の可能性を打ち消す役割ぐらいはあるだろうが、別に必須というほどでもない。
「それでもなお俺がそれを行う理由・・・・か・・・ぶっちゃけると、ただ俺が楽しいからだけなんだけどな。」
はっきり言えばただの趣味であり、面白いから。
あいつらには絶対にわからない理由であろう。
~第66話・完~
ここまで読んでいただきありがとうございます。