※この作品はR-18です。

純性癖ナイツ   作:ひかりねこ

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エイヤフィヤトラとのノーマルな初体験もの作品です。

一応同キャラでの2作目ですが、今回はまったく繋がりなどはありません。完全に独立しております。
タイトルはあれですが、別にバッドエンドでも何でもないので大丈夫です。その手のネタが好きな人はすみません。


死期が近い?エイヤフィヤトラと初体験エッチする話

 鉱石病(オリパシー)の抑制には定期的な検診と投薬が不可欠だ。

 

 不治の病と言えども基礎的な事項は他と変わらない。鉱石病(オリパシー)の治療研究の最先端を行き、抑制に関して一定の成果を挙げているロドスだからこそ定期健診には力を入れていた。

 

「エイヤ、そろそろ検診の時間だから向かった方が良いんじゃないかな?」

 

 執務机で仕事をしていたドクターは、壁に掛けられた時計を見てからキャプリニーの少女へ声を掛けた。ソファに座って本を読んでいる彼女との距離は然程遠くない。なのに不自然なほど大きな声で話しかけたのは、まだ若い少女の耳が鉱石病(オリパシー)によって難聴なのを知っているからだ。

 幸いドクターの気遣いもあってか少女──エイヤフィヤトラは即座にこの後の予定を思い出せた。慌てた様子で読んでいた論文をパタンと閉じ、首に掛けていた補聴器を付け直す。

 

「すみません先輩、教えてくれてありがとうございます!」

「どういたしまして。まだ時間に余裕があるから、慌てずに医療部へ向かうんだよ」

「はい、もちろんです! ですが先輩、そんなに心配せずとも私は大丈夫ですよ」

 

 ニコニコ笑うエイヤフィヤトラに悲壮感は欠片もない。なのだが、彼女は難聴だけでなく視力も明確に下がり始めている。入職当初に慣れない廊下で頭をぶつけた事も、今でこそ本人が笑って話せる種とはいえ……着々と源石に身体を蝕まれている少女をドクターが心配してしまうのも無理のない事だった。

 しかし、あまり過保護になりすぎるのも患者(エイヤ)にとって毒だろう。だからドクターはそれ以上の追及を止めると、「いってらっしゃい」と快く送り出す。

 

「はい、行ってきます! 終わったらまたここで論文を読ませてくださいね~」

 

 手を振って元気いっぱいに退室していくエイヤフィヤトラ。まだ十代前半の若さに見合わぬ頭脳と苦悩を背負った彼女の力になれることは無いのかと……ドクターは煩悶としながら、医療部から届いた新薬の認可資料に目を通すのだった。

 

 ◇

 

 医療部へ向かうエイヤフィヤトラの足取りは軽かった。

 確かにドクターの心配は理解できるし嬉しく思う。でもロドスに来る以前と比べたら、明らかに鉱石病(オリパシー)の進行速度は緩やかになっている。なら、時間はまだまだ残されているはずで、その間にやれることをやり尽くしたい。罹患したことは不幸であっても、こうして生きている現在すら不幸まで感じていなかった。

 

「薬も飲んで健康にしてるから、きっと大丈夫なはず……早く先輩のところに戻って新しい資料を読みたいな」

 

 それでも半ば自分に言い聞かせるための呟きが出てしまうのは、内心の不安を隠し切れないからだろう。

 果たしてあとどれだけ自分に時間があるのか。エイヤフィヤトラはもちろん、医療部の人だって確たることは何も言えない。明日急に悪化はせずとも、一年後はベッドの上で寝た切りの可能性だって否定しきれないのだ。

 

 ──エイヤフィヤトラにはやりたい事がたくさんある。

 

 両親の研究を受け継ぎ、火山に対するアプローチで成果を挙げたい。そのためには様々な知識が必要で、ドクター(先輩)と語らう時間はいくらあっても足りないだろう。実地でフィールドワークする体力だって付けなければ。

 もちろん、個人的な小さな望みだっていっぱいある。読書仲間のムースとは互いに紹介したいお勧めの小説が山ほどあるし、最近はフロストリーフがこの輪に加わってより楽しくなった。年頃の女の子らしく、可能であれば素敵な恋をしたい憧れも持っていて、出来ることならその先に待つ初体験だって──

 

「って、いけない、何を考えているの……」

 

 ついピンク色に染まりかけた思考をエイヤフィヤトラは振り払った。ぶんぶんと頭を振る姿が可愛らしい。

 真面目でその手の話題に無知そうな彼女だって、やはり性知識への興味は年相応に持っている。最近は友人たちとこっそり女性雑誌のそういうコーナーを見てワーキャー騒いでは、後で「エッチってどんな感じなのかな……」と一人で想像してみたり。着実に大人へと近づいているのが気恥ずかしいけど嬉しくもあるのだ。 

 ロドスはとても良いところだ。感染者に対する差別や偏見が無いし、治療のために力を尽くしてくれる。だけど都合よく素敵な人が現れるのかと自問すれば、エイヤフィヤトラにはただ一人しか思い浮かべることができず……こっそり悶々とする毎日だった。

 

「こんにちは~、定期健診でやって来ました~……あれ、誰も居ない?」

 

 そんなことを考えている内に、医療部へ到着したエイヤフィヤトラは指定された診察室へ入室した。時間はほとんどピッタリ、なのに室内は誰も居ない。どうしてだろうと少女は訝しむが、準備に時間がかかっているのかなと納得してベッドに腰かけた。

 チクタクと秒針の動く音が聞こえる、気がした。実際のところエイヤフィヤトラには聞こえない。補聴器を付けていても、小さな音がちっとも拾えないことに、今ではすっかり慣れてしまった。

 

 コツ、コツ……

 

「あ、いらっしゃったのかな?」

 

 静寂の中で大人しく待つこと二分ほど、靴が床を叩く高い音が微かに聞こえてきた。やっと定期健診が始まりそうと安堵したエイヤフィヤトラだが、何故か中には入ってこない。熱の気配的には扉の前に立っているとはずだけど……もしかして部屋を間違えた? とエイヤフィヤトラが不安に駆られたところに、小さく話し声が聞こえてきた。

 

「アデ…さんの症状は……以……重篤……が、……………本当…効…があ……でし……か? もし………ことがあっ…場合……すれば──」

「不安……分か……、患……対…てその………顔…………など言……断だ。自信…………者を……患者など絶対……ない………ら」

「確……そう…すね……すみま…ん、軽率……た。こんな…、万…一にもア…ルさん…は見せ……ません」

 

 二人の医者が何やら議論しているようだが、扉越しなのもありエイヤフィヤトラは詳細まで聞き取れなかった。しかし漏れ聞こえた内容は、どうにも不穏なワードをこれでもかと含んでいて。先ほどまで落ち着いていた心境がにわかに荒れだしたのを彼女は自覚した。

 

「重篤……もしものこと? 万が一にも、見せられないって……?」

 

 心臓が早鐘を打つ。途切れ途切れの言葉だけど、誰が聞いても悪い知らせにしか思えない内容。

 まさか、もしかして、鉱石病(オリパシー)による避けられない死が、実はすぐ傍にまで迫っているのかも──そう考えてしまった途端、先ほどの言葉が急に鮮明になった。定期健診以外にも、ロドスはサーベイランスマシンで感染状況の把握をしている。その結果が見せられないほど悪いのなら……先の言葉と辻褄が合ってしまう。

 エイヤフィヤトラの視界がヴェールを掛けられたように暗くなる。ついさっきまで、まだ時間は残されていると思っていた。だけどそれは勘違いで、本当はもう時間が無いみたいで。急に足元に穴が開いて奈落の底まで落ちたような、恐ろしい心地。

 

「すみません、アデルさん。お待たせしてしまい申し訳ない」

「あっ、はい……大丈夫ですよ、私もさっき来たばかりですから」

 

 最悪の想像ばかりしてしまうエイヤフィヤトラを他所に、医療部の人たちがようやく入ってきた。

 ペッローの医者とフェリーンの看護師はテキパキと検診の準備を始め、エイヤフィヤトラの感染状況の詳細を取っていく。その間も気軽に雑談しているが、さっきの話を聞いてしまった彼女にはどうも医者たちに奇妙な明るさがあると思った。

 例えるなら、末期患者に対して努めて明るく振る舞い元気付けるような。裏返しの空元気、その手の悲恋小説を読んだことがあるから余計に疑ってしまう。

 

「──はい、これで検査は全項目完了しました。お疲れ様です」

「あ、ありがとうございます……」

 

 不安に揺れる少女を他所に、検診は通常通り終わってしまった。先ほどの会話について聞いてみたい。でも、聞いてみた結果本当に末期と分かってしまうのが恐ろしい。勇気が出ない。盗み聞きをしたようで気が引けてしまうのもある。

 

「あの……私の鉱石病(オリパシー)は、良くなっているのでしょうか?」

 

 結局質問できたのは当たり障りの無い内容で。

 エイヤフィヤトラの質問に対して、ペッローの医者は厳格すぎるほど真面目な顔で答えた。

 

「小康を保ってはおりますが、予断を許す状況ではありません。脅すようで大変心苦しいのですが……少しのリスクで事態が急変することも多分にあり得ます。どうか日々小さなことでも目一杯注意しつつ、楽しく過ごしてもらえればと」

「はい、分かりました……気を付けますね」

 

 医者の言葉は至極もっともな内容だから、裏に付随した意図までは読み取れない。ただ、『もう時間が無いから毎日を大切にしろ』とも解釈できる。先ほどの不穏なワードに引っ張られているのかもしれないが、エイヤフィヤトラは考えすぎや気のせいと笑い飛ばすことができなかった。

 

「それでは定期健診はこれで終了となります。お大事に」

「ありがとうございました……」

 

 折り目正しく礼を告げて退室した後も、キャプリニーの少女は最悪の可能性を振り払えずにいた。もしかしたらそう遠くない内に早すぎる死が待っているかもしれない。鉱石病(オリパシー)に罹患した時から健常者より早逝する事への覚悟は持ち合わせている。だけど病に連れて行かれる猶予はあると思い込んでいたから……いざ終わりが近いかもと想像すると、堪らなく怖くて身体が震えてしまう。

 

「勝手な思い込み、だったのでしょうか……?」

 

 分からない、エイヤフィヤトラだけで真実は暴けない。

 さりとて勇気を出した果てに最悪の現実を直視する可能性がどうしても怖くて──彼女は逃げるようにドクターの執務室へと向かっていた。

 定期健診に向かった時より遥かに早いペースで廊下を歩き、すぐドクターの執務室へ到着する。ノックもそこそこに扉を開けて「ただいま戻りました~!」と虚勢を張ると、彼はすぐに「やあ、お帰り」と歓迎してくれた。

 

「検診結果はどうだったかな──と聞きたいけど、まだ結果が出るまで数日かかるか」

「はい……そうみたい、ですね」

 

 大好きなドクターの下へ戻ってきた途端、気丈に振舞おうとしていたエイヤフィヤトラの仮面は呆気なく剥がれ落ちた。ソファへ崩れ落ちるように座ると、あからさまに元気の無い様子を見せてしまう。こんな姿を先輩に見せたくないのにと理性が思っても、本音と身体が言う事を聞いてくれない。

 

「元気が無いね。何か嫌なことでもあったのかい?」

 

 当然のようにドクターはエイヤフィヤトラの異変に気付いてくれた。わざわざ椅子から立ち上がるとエイヤの前で片膝を付き、目線を合わせてくれる。その優しさを前に少女は何を言うべきか言葉に詰まってしまった。頭の中でグルグルと選択肢が回り出す。

 

「えっと、その……」

 

 正直に聞こえた内容を語るべき? それが一番穏当だけど、一方で怖くもある。ドクターに迷惑を掛けてしまうかもしれない。

 じゃあ何ともない振りをする? いや、きっともう遅いだろう。このような姿を見せた後で人の機微に敏感なドクターを誤魔化せるはずがない。

 なら慰めてほしい? これが一番、今のぐちゃぐちゃな心に沿うような気がした。でも事情も話せないまま何を慰めてもらうのか、エイヤフィヤトラ自身にも判然としない。

 

「私って……もうあんまり、長くないのでしょうか?」

 

 あらゆる思いを包括して、最後に口を衝いて出たのはそんな言葉だった。

 唐突な質問にドクターはやや面食らった様子。落ち着くように一呼吸置いてからゆっくり喋った。

 

「そんなことは無い。確かに君の鉱石病(オリパシー)が深刻なのは否めないが、まだ時間は──」

「残り時間が、もう少ないかもしれないんです……!」

 

 少女らしからぬ叫び声が執務室いっぱいに響いた。

 思いがけない大声にドクターは驚いたが、何よりもエイヤフィヤトラ本人が一番驚いていた。感情的に叫んでしまうほど自分は余裕が無くなってしまったのか、と。

 

鉱石病(オリパシー)が段々と私の身体を浸食して、研究も好きなことも、やりたかったことまでダメになって……そう考えると急に怖くなってきたんです」

「それは──すまない、下手な慰めを言うべきではないな」

「いえ、その……叫んでしまってごめんなさい……」

 

 ぺこりと頭を下げたエイヤフィヤトラだが、具体的に発した言葉がいよいよ自身を追い詰める。

 そうだ、このまま座して待つだけでは何一つ叶わないまま終わってしまう。研究も、友人関係も、人には言えないような憧れまで、全部が溶岩の如き巨火に焼け流されるのだ。ならばせめて、一つでも多くの未練を断ち切ってしまいたいから──今すぐできることは何だろう?

 

「せ、先輩、私は……」

 

 この時のエイヤフィヤトラは誰が見ても冷静では無かった。雪だるま式に不安が不安を呼び、己を苛み、引っ込み付かないところまで来ている。名案だと考えた思考が実はドツボに嵌まった結果なのは、どんな天才でも往々にしてあることで。

 

「私は、先輩のことが好きです! だから私を抱いてください……っ!」

「──なっ」

 

 とんでもない爆弾発言に、さしものドクターも返す言葉を失い絶句するのだった。

 すっとぼけてエイヤフィヤトラを抱きしめれば良いのかドクターは一瞬迷ったが、すぐにその考えは放棄した。彼とてまだ若い男性で、どうしようもなく意味が理解できるから。少女の無知さを期待するのは浅慮だった。

 

「エイヤ、それは」

「もう時間が無いのなら、せめて先輩の手で大人になってみたいです。だからお願いします……私のことを、受け入れてください……」

 

 悲痛な訴え。一筋の涙が少女の頬を伝った。

 きっと彼女なりの理由があるのだろう。軽々に自分を安売りするはずが無いと信じている。

 だからこそドクターは、その期待を裏切りたくなかった。

 

「……すまない、それはできないんだ」

「どうして、ですか……?」

「君はまだ若い。十代前半で、性知識に興味を持ってしまう年頃なだけなんだ。衝動的な性行為をするべきじゃないし、私もまた責任ある大人として断らなければならない」

「そんな……」

「ごめんねエイヤ。君のことだ、何かしら理由があるのだろう? 私が相談に乗ってあげるから──」

 

 それ以上をドクターは続けることができなかった。

 ソファから立ち上がったエイヤフィヤトラの瞳は今にも泣きそうに潤んでいて、拒絶された悲しみがこれ以上なく映っている。ここでようやく、彼は対応を間違えてしまったことに気が付いた。

 

「分かりました……先輩がその気なら、いいです。別の人に声を掛けてみますから」

「待てエイヤ、早まるのは止すんだ」

「待ちません。ご迷惑をおかけしました、失礼しますね」

 

 咄嗟に呼び止めようとするドクターには目もくれず、エイヤフィヤトラは挨拶もそこそこに去っていく。廊下を足早に駆けて角を曲がった途端、我慢しきれず「どうしよう……」と弱音が零れ落ちた。

 心の中は千々に乱れて覚束ない。とんでもない事を言ってしまった自覚、告白を拒絶されたショック、他人を誘うと自暴自棄な嘘をついてしまったこと、何よりドクターの優しさを裏切ったこと……酷い心境のまま、どう歩いたかも分からぬ内に彼女は自室へと戻っていたのだった。

 

 ◇

 

 それから三日間、タイミングの悪いことにドクターは業務に釘付けだった。

 明らかに冷静でなかったエイヤフィヤトラが心配で仕方ないのだが、自分で会いに行く時間を作れない。連絡を入れても応えてくれないせいで何をしているかも分からない。

 ならばと彼女と仲の良いオペレーターにさりげなく話を聞けば、最近は少し元気が無さそうだと言う。時折溜息をついたり、深刻な顔付きで悩んでいる素振りを見かけたようだ。表面上は普通に振舞っているのが尚のこと心配なようで、「ドクターなら解決できるでしょうか?」と言われてしまった。

 

「……まさか私のせいとは言い辛いよな」

 

 数日に渡る忙しすぎた業務を終え、すっかり陽も落ちた頃。

 相変わらず執務室に居たドクターは困ったように天を仰いだ。今日も結局収穫は無し、エイヤフィヤトラに会う事もできず返事は来ない。ついさっきもダメ元で『何かあれば執務室に居るからね』と送ったものの、果たして応じてくれるのやら。

 ようやく時間が取れたのだからさっさと彼女の下へ向かうべきだ──頭では理解してるものの、また彼女を傷つけてしまわないかドクターは怖かった。あの時の酷く打ちのめされた顔は、もう二度と見たくない。

 

「しかし、エイヤが来ないと寂しいものだな」

 

 若き研究者はよくドクターの執務室に入り浸っては論文を読み漁っていた。時にはドクターに質問したり議論を戦わせたり、充実した明るい毎日が続いていたのだ。その反動か、この三日間の寂しさは中々に堪えた。室内だけでなく心にまでぽっかり穴が空いたような心境だ。

 間違いなくそれだけエイヤフィヤトラが大事で好きだったと、今更ながらドクターは自嘲した。そうだ、本当は彼女に抱いてほしいと告白されたとき、彼の中の男は間違いなく喜んでいた。可愛らしい才女から慕情をぶつけられ肉体関係を迫られる、男なら垂涎もののシチュエーション。ましてドクターもまた近しい想いを彼女へ抱いてたのだから、尚更に。

 

 その誘惑を振り切り年長者として諭せたのはドクターの理性の賜物だろう。けれど正しい判断が正しい結果を生むとは限らない。正論は時に悪意より鋭いナイフとなって相手を痛めつけてしまうから。

 

「いや、やはり行くべきだろう。どうあれ彼女の話をまずは聞かないと」

 

 愛情や性行為はいったん置いておくにせよ、どう見てもエイヤフィヤトラは何かに怯えて焦っていた。まずはその原因を解決してあげる必要があるだろう。傷つけてしまうとか、もう二度と見たくないとか、ドクターの方が奥手となっては何も成せない。

 決意を固めて速戦即決、善は急げと立ち上がったドクターであったが──急に開いた扉と、そこからやって来た人影を見て出鼻を挫かれた。何故なら、彼女は、

 

「エイヤ……」

 

 まさにこれから会いに行こうとしていた少女が、自分からドクターの下へとやって来た。

 

「こんばんは、先輩……たくさん来てた連絡、見ました。お返事できなくてごめんなさい」

「いや、別にそんなことは良いんだ、気にしてない。それよりも──」

 

 まずは座ってほしいと促そうとしたドクターは、抱き着いてきたエイヤフィヤトラの熱に二の句を告げなくなってしまった。愛する男女の如き距離感で、密着感。ドキドキと高鳴る心臓の鼓動がどちらのものか分からない。

 

「今夜先輩のところに来たのは……ご報告を、しに」

「報告?」

 

 猛烈に嫌な予感がドクターを襲った。だけど告白は止まらない。

 

「わ、私はっ、その……す、好きでもない男の人と…………エッチなことを、しました……ぅっ、ぐすっ……」

 

 赤裸々なカミングアウトは涙交りの嗚咽で締めくくられた。ドクターは言葉も出ない。ボロボロと泣き出してしまったエイヤフィヤトラに服を濡らされながら、次の言葉を必死で考える。しかしその間にも彼女の告白は続いていた。

 

「だからもう、ひぐっ……処女じゃないんです……子供でも、ありません、からぁ……!」

「君は、もしや」

 

 幸いドクターはすぐに真意を察することができた。

 この告白は間違いなく嘘だ。聡い彼女がそのようなことをするとは思えないし、誰を誘ったってロドスの職員なら止めてくれる。何より言葉の端々に『嘘をついてごめんなさい』という罪悪感が滲み出ていて、これで騙せるのは相当なお人よしくらいだろう。

 だが、指摘してどうなる? 正論は時に相手を傷つけると学んだばかり。嘘を暴き立てたところで再びエイヤフィヤトラを傷つけ、今度こそ無謀な行為に走らせてしまうかもしれない。そうなればドクターは後悔したってし切れない。

 

 何よりも彼の中の本心は──万が一にもこの少女の初めてが自分以外の誰かに奪われてほしくないという、愛しさゆえの独占欲が芽生え始めていた。

 

「お願いします、先輩……私のお願いを、聞いてください……」

「……分かった。私は君を抱こう、いや、抱かせてほしい。構わないだろうか?」

「はい、ありがとうございます……!」

 

 何が正しくて、何が過ちだったのか。

 それすら判然としない中で、愛の営みは始まった。

 

 ◇

 

 死が近いかもしれない。

 毎日を楽しく過ごそうと思っても、ふとした時に身震いが起きる。もし明日、いきなり体調が崩れて立てなくなったらどうしよう。ベッドに寝た切りになって何にもできなくなっちゃうのかな? まだ先だと考えていた終焉が近づいてきて、もうなりふり構っていられなかった。

 言葉にして、行動を起こしたい。一つでも多くのやり残しを無くしたい。だから私は、ドクター(先輩)に嘘をついてまで迫ってしまい……先輩は、嘘を信じてくれました。

 

「緊張してるのかい?」

 

 執務室から場所を移して、先輩の自室にお招きされた。

 ベッドへ仰向けに寝た私へ先輩が覆いかぶさってる。今はフードも取っているからまだ若い男性の顔が露わで、視力の悪い私でも細部まで見えるくらい顔が近い。緊張とドキドキで胸が高鳴った。

 

「は、はい……いえ、大丈夫です! その、もう体験済みですから……」

「……分かったよ、じゃあ触るね」

 

 男の人のゴツゴツした両手が、服の上から私の胸を撫でた。軽いタッチでも初めて自分の身体を他人に触れられて、反射的にビクンとなってしまう。本当はちょっと怖いけど、先輩の手なら大丈夫と心の中で自己暗示。それに今の私は先輩以外の人に抱いてもらった設定だから、露骨に怖がることはできない。

 先輩はすぐに信じてくれましたけど、本当はまだ処女なんです。好きでもない人とエッチしちゃうなんて、想像するだけで怖くて悲しくて泣いてしまいます。なのに先輩に手を出してもらいたくて嘘をつきました。ああ、ごめんなさい先輩、あなたの優しさを利用する真似をして──心にへばりついた苦しすぎる罪悪感は、それ以上の喜びに焼き払われてしまいました。

 

『……分かった。私は君を抱こう、いや、抱かせてほしい。構わないだろうか?』

 

 先輩が、私を女にしてくれる。自分から改めて誘ってくれた。

 この言葉を貰えた瞬間は、死の恐怖すら忘れてとても幸せになれたんです。

 だから後は、望み通りに先輩の手で女にしてもらうだけ。でも、経験者だからって強引にされたらどうしよう。先輩はきっとそんな事はしないはずだし、抵抗とかはあまりしない方が良い……のかな?

 

「まずは上を脱ごうか。腕をあげてもらえるかな」

「こ、こんな感じでしょうか……?」

「そうそう、バンザイする感じでいいからね」

 

 ……何だか子供を相手にしているみたい。でも仕方ない、先輩から見れば私はまだ年端も行かない子供なんだから。こればかりは仕方ないと割り切ろう。

 ガバリと上着が脱がされて、この日の為に付けてきたフリルのある白地の下着が見られてしまう。あんまり可愛くないけど、他の手持ちは子供っぽいものやフィールドワークで汚れても平気な地味なものばかり。これが精一杯のお洒落だから、先輩が喜んでくれたらいいな。

 

「先輩、あの……」

「可愛い下着だね、よく似合ってるよ。自分で選んだのかい?」

「はっ、はい! そうです!」

「実にエイヤらしいチョイスだ。やっぱりエイヤは可愛いね」

「あうぅ……ありがとう、ございます……」

 

 先輩、言葉だけで私を褒め殺すつもりなんでしょうか?

 嬉しい以上に恥ずかしいほど褒められて、顔が真っ赤になっちゃってる。今ならアーツロッドも無しに口から火を噴けるかもしれない。それぐらい身体が熱くて、心臓がバクバクなってた。嬉しすぎて気が遠くなりそうだけど、本番はこれからだし気を入れないと。

 

「それじゃあ、おっぱい触るよ」

「お、お願いします……」

 

 ついに先輩の手が下着の上から胸に触れてきた。手の平でおっぱいに押し付けられ、たぷんと変形してしまう。気持ちいい……というより、くすぐったい感じ? 触られる感触よりも、触れられてるというドキドキで興奮しちゃう。こういうの、確か愛撫って呼ぶんだっけ。本当にエッチなことしちゃってるんだ……

 先輩の愛撫は初めゆっくり慎重だった。壊れ物を触るみたいな手付きでゆっくりとこね回して、その度に手の平の中でおっぱいがぐにゅりと形を変える。途中、押し込まれた下着に乳首が当たったことで「ひゃうっ!?」と恥ずかしい声が出て、咄嗟に手で口を塞いだけどもう遅かった。むしろそういう声を出させようと先輩は積極的に揉み始める。

 

「ひゃっ、先輩……胸、触るの強く……!」

「痛い? それとも気持ちいい?」

「痛くない、です……えっと、その……」

 

 気持ちいい。だけど素直に認めるのははしたない気がして、つい言い淀んでしまう。うぅ、おっぱい触られるだけでこんなに恥ずかしいなんて、どんな雑誌にも書いてなかったのに……研究と同じで理論と実践はやっぱり違いますね。

 でも、葛藤している間も先輩は待ってくれなかった。痛くないのを確認できたから、もう大胆に触って良いと判断したのか、グニグニと強く捏ねてくる。それに片方の手は直接下着の中に入り込んで、直に肌を重ねてきた。先輩のゴツゴツした手から温もりが伝わって安心できる、でも指は容赦なく先端を摘まむとつねるように引っ張って──ビリッ、静電気みたいに電気が走った。

 

「ひあぁっ!? そこ、ダメですぅ……っ!」

 

 ガクガクって腰が震えて、まだ触れてもないショーツがじわりと湿る嫌な感触。

 何が起きたか分かるけど、分かりたくない。茫然とする私へ現実を突きつけたのは先輩だった。

 

「乳首だけで軽くイっちゃったのかな? エイヤの身体は正直だね」

「え、イった……うそ、今ので、ですか……?」

 

 まだ胸を触られて先っぽを軽く苛められただけなのに、呆気なく絶頂してしまった。

 たまにする一人遊びだと、その……もっとおっぱいを触ったり、お股も一緒に弄らないとイけないのに。なのに先輩にしてもらっただけで、こんな簡単に気持ちよくなれちゃうなんて。自分の身体なのに信じられない。

 

「ぅ、せんぱい……ごめんなさい……」

 

 一人で先に絶頂したことが恥ずかしくて、悔しくて、思わず謝ってしまう。先輩はポンポンと頭を撫でてくれた。大きな手がとても暖かい。

 

「大丈夫だよ、むしろ気持ちよくなってくれて嬉しかった。エイヤの蕩けてる顔をもっと見たいな」

「せんぱい……うぅ、いじわるです……」

「はは、ならもっと意地悪してしまおうか」

 

 まだ履いたままのスカートが捲られて、上と同じデザインのショーツを見られてしまった。さっきの絶頂のせいで下着に染みが出来ているのに、見られるばかりか指でくちゅりと音を立てられて、死んじゃいそうなほど恥ずかしい。

 しかも先輩はそれだけで満足せず、下着の上から割れ目を擦り始めた。優しく撫でられたり、強く押し込むように擦られたり、繊細な指の動きだけで身体が大きく反応させられる。これじゃ、先輩専用の玩具になったみたいで……!

 

「んっ、やぁっ……! 指、すりすりされて……せん、ぱぁい……これ、きもち、よくてっ……!」

「しっかり感じちゃってるね。ほら、ショーツがすっごく濡れてるよ」

「ふぇ……?」

 

 先輩の指が激しく下着を擦った途端、ぐちゅぐちゅぐちゅって粘り気のある大きな音が鳴った。私が女の子として漏らした液が出してる、とんでもなく卑猥な水音。こんな音を先輩は満足そうに聞いている。

 でもそうやって秘部を擦られるだけで気持ち良くて、またお腹の奥がぎゅぅと熱くなる。ドロリとしたものが奥から溢れだすのが自分でも分かる。うぅ、私にはもうどうしようもないんです……翻弄されるばかりで、これじゃ先輩に初体験とバレてしまうかも。このまま指で弄られ続けたらまた私だけ先にイっちゃって、悔しい思いをすることになる。それは嫌だな。

 

「せ、先輩!」

「ん、どうしたの?」

「私からも先輩を気持ちよくしてあげたいです! だ、だからその……お、おち……!」

 

 や、やっぱり言えません! 憧れの先輩の前で『おちんちんを出してほしい』だなんて、言えるわけがない。

 でも口に出すのも躊躇ってたら本当に経験済みか疑われちゃう。それで先輩がやっぱり止めようと言い出す方が、もっと辛いから。羞恥心を押し殺して言った。

 

「おちんちんを、出してもらえませんか……!?」

「あ、ああ、分かった。エイヤ、あまり焦らなくても大丈夫だからね。君のペースで平気だから」

「ありがとう、ございます……一度経験済みですから、任せてくださいっ!」

 

 すみません、先輩。また嘘をついてしまいました。お詫びに頑張って気持ちよくしてさし上げ──えっ、これが……先輩の、おちんちん、ですか……?

 ズボンを脱いだ先輩の腰から現れたのは、ちょっと想像もしてなかったサイズのそれ。すごく大きい、もしかして私の腕より太いかもしれない。固く硬く勃起して、先端から透明な液が滲んでる。

 

「わっ、えっと、あぅ……」

「大丈夫?」

 

 思わぬ凶悪さにあたふたしたから、先輩が心配そうに私を見てる。その優しいところが大好きだけど、今だけは心配しないでほしいから、意を決して先輩のおちんちんへとにじり寄る。近づいて分かる、その熱と匂い。男の人の香りにお腹の奥がジンジンと熱を帯びる。

 

「へ、平気です! 失礼しますね……」

 

 意を決して顔を近づけてから、舌先でペロリと先端を舐めてみる。何だかしょっぱいような不思議な味。決して美味しいとは思わないけど、でも不味いとも感じなくて……むしろ先輩の大事なところを舐めてる興奮が、もっと積極的に舌を動かさせる。

 もちろんおちんちんを舐める行為──フェラチオだっけ?──は初めてだから、ちゃんと先輩を気持ちよくできているか分からない。でも視線を上げてチラッと確認した先輩の顔は、快感を頑張って堪えるみたいな顔をしてる。私が舐めることで、気持ちよくなってくれてるんだ。

 

「あむっ、んむっ……こう、でしょうか……ちゅっ、れろっ……」

「すっ、すごいな……! こんなの、どこで……っ!?」

「頑張って、はむっ……練習(へんひゅう)してきましたから(ひへひまひたはら)

 

 本当は雑誌で見た『男の人が喜ぶテクニック10選!』というコラムを必死に思い出しながら舐めてるんですが、先輩が気持ちよさそうなので問題ありません。ああいう本もどこかで役に立つものなんですね。

 ともあれ、拙いながらも頑張って先輩の大きいのを咥えている内に、先っぽがビクビクしてきた。透明なしょっぱい液体が多く流れてきて、先輩が苦しそうなうめき声を出している。痛いのかなと一瞬不安になったけど、すぐに「うあっ」とエッチな声が聞こえたから、

 

「先輩……射精、しちゃいそうなんですか?」

「あ、ああ……もう我慢できないから、少し離れてもらえると」

「いいえ、離れませんよ。先輩の精液、全部飲んじゃいますから」

 

 男の人はそうする方が喜ぶらしい。それに私も、精子がどんな味かちょっと気になるし……先輩の迸りを受け止めてみたい好奇心が勝ってしまう。これも研究者の(サガ)なのかな?

 唾液を絡ませた舌で先端を舐めて、時には口で咥えて前後に顔を動かしてみる。指先で裏側をなぞられるのが先輩は好きみたいだから、その動作も積極的に取り入れた。プルプルとおちんちんの先っぽが震えて、今にも爆発してしまいそうな印象。

 

「ごめん、もう射精()そうだ……っ!」

「……っ!? 受け止めますから、先輩のお射精を私にください……!」

 

 腰を引こうとする先輩に逆らって、パクリと口内に先っぽを咥え込んだ途端、先輩の射精が始まった。

 第一印象はすごい勢い。びゅくびゅくって噴水みたいに噴き出してる。味は何というか苦い感じで……粘ついてるのもあって飲みづらい。でも自分から言い出した手前、吐き出すのはしたくなかった。むせかえりそうになりながら、頑張って嚥下する。

 そうしてる内に先輩の射精は終わって、小さくなって柔らかいおちんちんが口からスポッて抜けていく。白い精子がドロリと先端から垂れ落ちてて、これを飲んじゃったんだ……と今更ながら自覚してしまう。あれが私のお腹に入って、先輩の一部と一つになれた。ゾクゾクした背徳感に似た悦びが身体の奥底から湧き上がる。

 

「エイヤ……その、飲んじゃって平気だった? 水を持ってこようか?」

「うっ、その……すみません、お願いします……」

 

 だけど口の中に残った苦さや気持ち悪さはやっぱり誤魔化しきれなくて。

 結局先輩の好意に甘えて、お水でまとめて洗い流すことになってしまいました……本当は大人の女性っぽく、余裕を持って対処したかったです。

 それから、少し落ち着いた後はまた先輩にベッドへ押し倒されて。だけど今度は胸じゃなくて、足を大きく開かれてしまう。恥ずかしいけど、それ以上にもっとすごい部分をついに触られるんだなって、自然と身体が強張った。

 

「脱がすよ」

「は、はいっ」

 

 するりと、先輩の手でショーツが脱がされる。すっかりビショビショになった布地を見た先輩はどう思っているのだろう? はしたないとか、淫乱? だとか、思われてなければ良いな。でも自分でも分かるほど濃い女の子の匂いが漂って、そう思われても仕方ない気がした。

 むき出しになったあそこへ、先輩の視線が突き刺さる。すごい、食い入るように見つめてる……足を閉じて隠したくなるけど、手をギュッと握って堪えた。誰にも見せたことが無い部分、初めて見せたのが先輩で嬉しいような恥ずかしいような。

 

「エイヤのここ、すっかり大人っぽくなってるんだね。よく濡れてるし毛も生えてきてる」

「あうぅ……」

 

 割れ目をつぅとなぞられて、上部に生えてる栗色の毛を指で摘ままれる。一年くらい前からちょっとずつ生えてきたそれは、自分が大人に近づいてる証拠で嬉しかったのだけど、こうして指摘されると変な気分になっちゃう。先輩は生えてない方が好きだったりするのかな?

 

「もう随分濡れてるけど、まずは指で慣らしてみようか。身体の力を抜いて」

「は、はいっ! 先輩の好きなようにお願いします……!」

 

 左右から割れ目を開かれてスースーする。自分で触る時も中身までは弄らないから、本当にこれが初めての経験。まだ指だけどついに挿入されちゃうんから、先輩の言う通りに力を抜いて備えないと。

 唾液で湿らされた指先が私の分泌液(あいえき)を掬ってヌラヌラと光ってる。入口にあてがわれた先輩の指は確かにおちんちんよりは細いけど、私の指と比べれば遥かに太い。本当に入るのかなと不安になりながら、グッと異物が押し込まれて──

 

「いっ! 痛い、です……っ!」

「エイヤ!?」

 

 痛い。指先が中ほどまで埋まったところで鋭い痛みが襲ってくる。反射的に足をジタバタさせてしまって、先輩がすぐに指を引き抜いてくれた。うっかり蹴ってしまわなくて良かったと安堵するけど、すぐに原因に思い当たって真っ青になる。

 い、今のはたぶん……私の初めての証、なのかな? 初めては処女膜が破られるから痛いと聞くけど、指でも同じくらい痛むとは思わなかった。これならいっそ、自分であらかじめ破った方が良かったのかな……でもそれじゃ、先輩に初めてを捧げられない。でも今ので初めてだとバレてしまったらどうしよう。

 

「えっと、その……も、問題ありません! まだ慣れてなくて痛んだだけですから、次は平気です!」

 

 ここで中断して欲しくなくて、必死に虚勢を張る。本当は痛いのが怖いけど、引き下がってしまったら嘘をついた意味が無い。先輩に女にしてもらえないまま死んでしまったら、きっと死んだあとでも後悔してしまうから。

 でも先輩はすぐに再開してくれず、何か考えているようで。もしかして嘘がバレてしまったのかと冷や汗が出そう。どうかこのまま何も考えずに私を襲ってほしい、そんな事すらこっそり考えていると、

 

「エイヤ、今のは処女膜……だよね?」

「……ぇ」

 

 指で膣を広げられて、その先を見られてしまう。

 咄嗟の言い訳は何も思いつかなかった。間の抜けた声が漏れただけ。

 

「き、気のせいではないでしょうか……?」

「あまり言うのもどうかと思うけど、膣内(なか)に処女膜があるよ。本当に初体験を済ませたなら、もう無くなってるだろう」

「あ、あぅ……その、それは……」

「君はまだ初体験を済ませていない、そうだろう?」

 

 バレた。バレてしまった。何とか押し通してきた嘘がついに先輩に指摘されて、頭が真っ白になってしまう。今から言葉だけでどうにか誤魔化せるほど私は話術が得意じゃないですし、そもそも先輩相手では絶対に通じる訳がない。

 完全に八方塞がりの状況。もう残された道は一つしかない。

 

「……ご、ごめんなさいっ! 先輩の気を引きたくて、私は嘘をつきました……!」

 

 素直に謝罪する、これしか無かった。どうあれ先輩を騙してしまったのは事実だから、これ以上卑怯になりたくない。罪を認めた途端に心がスッと軽くなったのが自分でも分かった。

 

「本当はまだ処女なんです! 好きでもない人と初体験を済ませたのも嘘で──」

「うん、知ってたよ」

「先輩以外の人となんて……えっ? 知って……た?」

 

 何だかとんでもないことを、先輩から言われた気がします。

 

「最初からバレバレだったよ。『嘘をついてごめんなさい』って雰囲気を隠せてもいなかった」

「えっ……えぇっ!?」

 

 そ、そうだったの!? てっきり先輩は私の演技をすっかり信じてくれたと思っていたのに、最初からバレバレだったなんて……わ、私の覚悟がこんなあっさり見破られてたなんて、さすが先輩ですけど複雑な気分になってしまう。

 でも、だとすれば。先輩はどうして嘘だと分かっていながら、私の誘いに頷いてくれたのだろう? 気になってしまったのが顔に出ていたのか、先輩は笑い含みに説明してくれた。

 

「君が嘘をついていたのは分かっていた。だけど、たとえ作り話だったとしても……エイヤフィヤトラという女の子を、他の男に取られたのが嫌だったんだ。ましてや本当になってしまったらと考えると怖くて……それくらい私は、君のことが好きだったことに気が付いた」

「先輩……私、は」

「謝らなくていい。最初に君が抱いてほしいと言った時、ただ正論を振りかざした私も十分に悪い」

 

 だからこういうのはどうだろう、と先輩は言った。

 

「私は君が嘘をついたことを許すから、君も私が傷つけてしまったことを許しては貰えないだろうか?」

「そ、そんなの……当たり前じゃないですか! 先輩のこと、私は全然怒ってませんから! 少し自棄になってしまったところはありますけど……」

「そっか、なら良かったよ。ありがとう」

 

 先輩の大きな手がそっと頭を撫でてくれる。良かった、すごく嬉しい。先輩が怒ってないこともそうだし、私のことを好きと言ってくれたのがとても嬉しい。さっきまで苦い罪悪感が棘みたいに刺さってたのに、溶け落ちて幸福感に変わっちゃった。

 

「あー、こほん。リラックスしてるところ悪いけど……続きをしても、良いだろうか?」

「は、はい、大丈夫です!」

「その、まだ言ってなかったが……実は私もこういうのは初めてでね。上手くできるか分からないが、最大限努力するのでそこは許してほしい」

「ふぇ……?」

 

 え、先輩も初めてなんですか……?

 すごく手慣れているように思えたから、てっきり他の女の人と経験済みだと思ってました。でも躊躇いがちに逸らされた視線は気恥ずかしそうで、今の言葉が真実だと雄弁に語ってる。だとすれば私は、先輩にとって初めての女性になるから──思わぬ事態への嬉しさが、ゆっくりとこみ上げてくる。

 

「ははは、私の方も初めてで恰好付かないけど、よろしく頼むよ」

「むしろその、嬉しいです……! 先輩と一緒に初めてを迎えられるなんて……こちらこそお願いしますね」

 

 好き、好き、先輩のことが大好きな感情が止まらない。

 汲めども汲めども溢れてくるマグマみたい。この熱の僅かでも先輩に伝わってほしくて、どうすれば伝えらえるか考えて、私は先輩の唇に近づいた。

 

「ぅ先輩……えへへ、大好きですよ」

 

 初めてのキスは、蕩けるように素敵なもので。

 受け入れてくれた先輩の熱が、これ以上なく感じ取れるものでした。

 

 ◇

 

 改めて先輩の手でベッドへ押し倒されると足を大きく開かされる。

 さっきと同じ体勢だけど今度はもう何も心配はない。私も先輩も初めて同士と分かっているから、胸の高鳴りに従うだけ。少し前に射精したばかりのおちんちんはすっかり元通りに膨らんで、私のお股へ突き付けられる。

 

「これから、エイヤの中に陰茎(これ)挿入()れるけど……痛かったりダメだと思ったら遠慮せずにすぐ言うんだよ」

「ぅ……分かりました、先輩の言う通りにしますね」

 

 大きな槍の穂先が小さな穴の上を滑って愛液を自身へ塗してる。滑りを良くして入りやすくするためと聞くけど、それでもあんなサイズが本当に入るのかな?

 そしていよいよ先輩が動き始めた。ゆっくり腰を前へ突き進めると、同じだけ先端が私の中へと埋まっていく。ぐぐぐぐって、まだ先っぽが入っただけなのに凄い圧迫感。身体が広げられて無理やり異物を埋め込まれていく。これだけで身体が裂けそうなほど痛い。

 

「んぐっ、()ぅ……!」

「大丈夫?」

「だ、大丈夫、です……っ!」

 

 ごめんなさい、また嘘をつきました。本当は信じられないくらい痛いです。先ほどの言葉に従うなら、既に白旗を振って行為を中断してもらうべき痛み。まだ処女を破られてもないのにズキズキと痛んで仕方ない。

 だけどこの機を逃したら次はいつになるか分からない。もしかしたら明日にでも体調が急変して、もう二度と先輩に抱いて貰える日が来ないかも。その可能性を考える方が痛みより辛くて、私に忍耐力を授けてくれる。

 

「まだ、行けます、から……っ! 先輩の全部を、受け止めさせてぇ……」

「……分かった。ありがとう、エイヤ」

 

 たぶん先輩は今の私の嘘も見破ってたと思います。

 だけど信じてくれたのは、自惚れでなければ私の想いを受け取ってくれたから。ありがとうございます先輩、私の初めてをどうかこの場で受け取ってください──その気持ちと共に、埋没してくる硬いものへ感覚を集中する。

 挿入されるペースはとても緩慢で、膣内を広げて慣らそうという先輩の気遣いが伝わってくる。おかげでちょっとだけ痛みはマシになったけど、半分ほど埋まったところで何かに引っかかっておちんちんが止まった。またしてもズキリと痛んでしまい、先輩が心配そうにこちらを見た。

 

「エイヤ……君の処女を貰うよ」

 

 小さな声。普段の私なら聞き取れないはずなのに、なぜか今だけはハッキリと先輩の言葉が分かる。

 痛みに引き結んだ唇の代わりに、首を縦に振って肯定する。怖いけど、待ち望んでいた瞬間。与えられる痛みすらも大切にしたい。

 

 ぐぐぐっ……ぶちっ……!

 

「っ──! ぅあ……っ! いた、ぃ……っ!!」

 

 ぶちりと膜を破られる音が聞こえたと思った途端、凄まじい激痛が襲ってきた。覚悟してたより何倍も痛い。身体が縦に裂かれてバラバラになっちゃうんじゃと疑うほどの痛み。悲鳴をあげないよう閉じていた唇からは呆気なく泣き言が漏れて、瞳からは涙が零れた。咄嗟に伸ばした手が先輩の手の平と合わさって、指を絡め合う。

 うぅ……信じられ、ません。世の中の女性がこの痛みを受け入れているなんて。それこそ子供を産んでる母親は漏れなく経験済みの痛みなわけで……大人になるってこういう意味もあるんだなと、奇妙な納得が訪れる。

 

「ぅぁ……せん、ぱい……っ!」

「よく頑張ったねエイヤ、全部君の膣内(なか)に入ったよ」

 

 はぁはぁと荒い呼吸をしながら先輩の言葉を噛みしめた。痛みで気が動転している間に先輩は奥を目指していたようで、気付けばお腹いっぱいに突き刺さってる。結合部からは破瓜の血が赤も鮮やかに垂れ落ちて、おちんちんやシーツを汚していた。

 これがエッチなんだ、と本当に今更ながら思っちゃう。痛くて辛い、今もお腹は灼けた鉄の棒で串刺しにされてるみたい。憧れてたロマンチックさなんて欠片もなくて、生々しい鮮血と激痛ばかりが脳裏に焼き付いて離れない。

 

「先輩の全部、入ったんですね……っ! 良かったぁ……」

 

 だとしても、この痛みだって先輩と一つになれた証明だから。辛いけれど耐えられる、ううん、むしろ嬉しいくらい。好きな人と身も心も深く繋がれた喜びは想像の何十倍も素敵で甘美で、幸福感に胸がはち切れてしまいそう。女の子に生まれて良かったって心から思える。

 私も先輩も、全然動かないまま深呼吸。破瓜の衝撃が和らぐまで先輩が待ってくれてるのが嬉しかった。指を絡めて繋いだ手はそのまま、見つめ合っているとニコリと笑いかけてくれる。本当に恋人みたいでドキドキしちゃう。

 

 だけど男の人はいっぱい動いて気持ちよくなりたいと聞くから、早く動きたいのかな? こっちばかり気遣ってもらって先輩に我慢を強いるのは嫌だった。できれば一緒に気持ちよくなりたいな。

 

「先輩は、あの……動きたい、でしょうか?」

 

 おずおずと聞いてみると、安心させるみたいに微笑んでくれた。

 

「気を遣ってくれなくて大丈夫だよ。まだ君も辛いだろうから無理はしなくていい」

「でも、先輩だって気持ちよくなりたいでしょうし……!」

「そのことなら心配いらないよ。正直、挿入(いれ)てるだけで射精してしまいそうだ」

「そ、そうなんですか……?」

 

 ずっと余裕な雰囲気を崩さない先輩だったから、とても意外に感じてしまった。実はそうでもなくてやっぱり気遣ってくれてたりして──とか思ってしまったからなのか。先輩は意地悪に笑うと、耳元へ口を近づける。

 

「エイヤ」

「ひゃう……」

 

 囁き声と熱い吐息がくすぐったい。ゾクゾクって身体が震えちゃう。耳の悪い私でもこの声が聞こえてしまうほどの至近距離。先輩の熱が、あまりに近い。

 

「エイヤの膣内はすごく熱くて柔らかくてね、ぎゅうぎゅうと締め付けてくるんだ。動いてなくても奉仕されてるみたいで、蕩けるような感触なんだよ。ほら、こうやって息を吹きかけると一段と強く締まって──」

「あわっ、あわわっ、それ以上は言わないでください……っ! 先輩にご満足いただけてるのはよく分かりましたからー……」

 

 まさかこんな羞恥プレイになるなんて、思ってもみませんでした。先輩が私の身体で気持ちよくなってくれてるのは嬉しいですけども……詳細を事細かに伝えられるのは複雑で。こういう所は先輩も男の人なんだなーと、違いを感じてちょっと嬉しく思ってしまう。

 その間に痛みが僅かだけど引いてきて、ゆっくりと先輩の大きいのに意識を集中する。やっぱり不相応なほど大きくて、お腹の奥を圧迫されちゃってる。ビクビク震えて『動きたいよー』と訴えてるみたいで、なんだか可愛いく思えちゃう。

 

「エイヤ」

「はい、なんでしょうか?」

「情けないが、たぶん少し動かせばそのまま射精してしまうと思う。だから……少しだけ、君の中で動いてみても良いだろうか?」

 

 それは、今夜初めての先輩からのお願いだった。

 もちろん私の答えは決まってる。散々私のお願いを聞いてもらったのだから、今度は私がお返しする番だよね?

 

「もちろんです、先輩! その、私の中でお射精してくれると、嬉しいです……」

「ありがとう、エイヤ。絶対に君を幸せにするよ」

 

 このまま子宮へ射精されれば子供ができるかもしれない。私も先輩も承知の上で、このまま繋がり続けることを選んだ。もしお母さんになったらどうしよう、私にちゃんと出来るかな? ううん、もしかしたらできる前に、産む前に、あるいは出産した後に私は死んでしまっているのかも。だったら尚更、先輩から愛された結晶が欲しいと思うから。

 

「来てください、先輩……!」

 

 その言葉と共に先輩の腰がゆっくりと動き始めた。

 グリグリって、お腹の中で円を描くみたいにしてる。膜を破られた時の傷跡がまだ痛むけど、ジンワリと快感がお腹に広がってきて、「これがエッチなんだ……」と思っちゃう。まだ繋いだままの手の平を強く握ると、先輩も同じだけ強く握り返してくれるのが嬉しかった。温もりが安心感を与えて、身体をリラックスさせてくれる。

 

「エイヤ……!」

「んっ、せんぱい……っ、んむっ」

 

 上から覆いかぶさるように先輩の顔が近づいて、そのまま舌を絡めてしまう。初めてのディープキス、大人のキスは知識で知るより遥かに情熱的でエッチなもので。ぴちゃぴちゃと唾液を絡ませて先輩の味を受け取るのが、こんなに心満たされるとは思いもしなかった。

 気付けば結合部からも同じくらい水音が鳴ってて、ぐちゃ、ぐちゅって粘土をこね回す様な音が出てる。それでけ私の身体が先輩を受け入れて感じている証左。痛みばかりでない本当の快感が脳まで届いて、頭と視界を真っ白に染め上げる。

 

 お臍の裏側を押し上げられて、ビクッとなる。

 不意におっぱいを触られてビリッて快感が走った。

 お腹の奥をグニグニっておちんちんで押された時は、「んひゃっ!」と情けない声が出ちゃいました。

 

「せん、ぱい……っ!」

 

 恥ずかしい姿も、情けない声も、痛みを堪えてる顔も、気持ちよくなってる所も、全部全部大好きな人にさらけ出してる。見られてる。消えてしまいたいほど恥ずかしくて、でも涙が出そうなほど幸せで。自分でも感情の整理が付かないまま、先輩の手で女にされていく。その事実が、嬉しくて堪らない。

 

「エイヤ、もう射精()すぞっ!」

「きて、くださいっ! んぐっ、ぅせんぱいの、子供、絶対孕みますからぁ……!」

 

 未来なんて分からない。明日にでも死ぬかもしれない。

 だけどこの瞬間、心が通じ合った大切な人の子供が欲しいと願ってしまったのは真実だったから。自分から足を先輩の腰に回して、お腹を押し付けるように持ち上げる。ちょっと傷が痛んだけどお構いなし、少しでも多く先輩の精液を子宮で受け止められるように準備して──

 

「ぐっ、づぅ……!」

「ひゃっ、ぅあぁぁ……!」

 

 おちんちんの先っぽから吐き出された精子が、勢いよく私の子宮へ流れ込んできました。

 不思議、普段全然意識しない身体の奥で起きてることなのに、今は手に取るように分かってしまう。びゅるびゅるって射精された精液は、マグマみたいに粘り気と熱のある液体になって私の子宮を満たしてくる。小さな子宮が頑張って一滴残らず飲み干そうとして、でも努力叶わず溢れさせちゃってしょんぼりして……細かな動きまで何故だか感じ取れて、赤面した。

 

「せんぱい……お腹の中、すっごく熱いです……」

「子供、もしかしたら本当にできたかな?」

「うぅ、どうでしょう……本当にできてたら、この子にも鉱石病(オリパシー)が感染しちゃうんですよね……?」

 

 好きな人と繋がれた喜びから少し冷めると、それは嫌だな、赤ちゃんに対して無責任だったかなと感じてしまう。

 一時の勢いで大変な過ちをしてしまったかなと項垂れてると、慰めるように先輩が頭を撫でてくれた。

 

「大丈夫だよ、ロドスはその手の問題も解決できるよう薬の開発を進めてるから。鉱石病(オリパシー)の母子感染を起こさないための特効薬はすぐそこにある」

「そう、なんですね……! 良かったぁ……」

「それに、現在進行形で鉱石病(オリパシー)に苦しむ人々の症状を抑制するための薬も認可待ちだ。きっともうすぐエイヤにも使えるようになるんじゃないかな?」

 

 し、幸せな内容ばっかりたくさん伝えられて頭がパンクしそうです……!

 先輩の言う通りなら、まだ私も幸せになれる権利があるのかな。もし本当に先輩との愛の結晶ができていたら、それはとても嬉しいことで──私だってその先の未来を、一緒に見たい。

 

「先輩……今日はありがとうございました。あなたの手で初めてを奪ってもらえて、とても嬉しかったです」

「私の方こそ、ありがとうアデル。君のことがこんなに大事だったと気付かされた、これからもどうか傍で支えさせてくれ」

「はいっ!」

 

 自暴自棄になったり、泣いたり痛かったり、色んなことがあったけど。

 先輩と繋がったまま抱きしめられてるこの時間は、どんな不幸でも穢せないほど幸せな時間でした。

 

 ◇

 

「えぇっ!? じゃあ全部、私の勘違いだったってことですかぁ……!?」

 

 へにゃへにゃとエイヤフィヤトラが膝から崩れ落ちた。驚愕しながら嬉し泣きする器用な真似をしながら、ドクターから手渡された資料へ目を通す。タイトルは『鉱石病抑制に関する新薬認可および実施開始の報告書』で、要するに新たな新薬が利用され始めたという訳だ。

 そして当然、鉱石病(オリパシー)侵攻の著しいエイヤフィヤトラにもこの新薬は投下される。実のところ定期健診の時に彼女が漏れきいた会話内容とは、この新薬に関する話だったのだ。

 

『アデルさんの症状は外見以上に重篤ですが、この新薬は本当に効能があるのでしょうか? もしものことがあった場合どうすれば──』

『不安は分かるが、患者に対してそのような顔を見せるなど言語道断だ。自信の無い医者を信じる患者など絶対にいないのだから』

『確かにそうですね……すみません、軽率でした。こんな顔、万が一にもアデルさんには見せられません』

 

 難聴によりすべてのワードを聞けなかったエイヤフィヤトラは、ちょうど印象の悪い言葉だけを綺麗に聞き取ってしまい。結果として最悪の事態が自分に迫っていると勘違いして、ドクターと肉体関係を結ぶに至った。一言、全部が勘違いからの早とちりである。

 

「うっ、うぅ……ごめんなさい先輩、私がちゃんと医療部の皆さんとお話していれば……」

「まあまあ、おかげで今の関係になれたのだから悪いことばかりじゃない。雨降って地固まる、とか言うだろう?」

「ありがとう、ございます……ですが怖いからと確認もせず突っ走るなんて、研究者にあるまじき失態でした……反省してます」

 

 ドクターが慰めてもさすがに落ち込んだ様子。色々と吹っ切れた末の勘違いで、安心感と罪悪感とが一気に噴き出したのだろう。これは仕方ないかとドクターも苦笑して、代わりに彼女のお腹を優しく撫でた。その奥にいる新しい生命にもどうか届けと願いながら。

 

「あんまりくよくよしてるとお腹の子にもよくないから、シャキッとしよう。私は全然気にしてないし、大好きだって感情に変わりはないよ」

「先輩……ふふ、ありがとうございます」

 

 それから立ち上がったエイヤフィヤトラは、自分でも微かに膨らんだお腹を撫でながら、満面の笑みを浮かべてみせた。

 

「これからもよろしくお願いしますね、旦那様(せんぱい)

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