※この作品はR-18です。

純性癖ナイツ   作:ひかりねこ

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目的のために手段を選ばないようで結構優しいタイプなのが好きです。


素直になれないリン・ユーシャとお尻えっちする話

「こんな時間まで仕事に付き合ってもらってすまないね」

「別に、気にしなくていいわ。今の私はあなたの秘書だから」

 

 皆が寝静まった深夜。人気のない食堂は声がよく響く。

 照明すら最低限にまで落とされた食堂内で、私とリン・ユーシャは遅い夕食を食べていた。

 カチャカチャと食器を動かす音。食事──今夜は龍門料理を取り置いてもらった──を咀嚼する微かな音、互いの息遣いだけが木霊した。

 

「ロドスは良い料理人がいるのね。いつでも美味しい料理を食べられるのは幸福なことよ」

「そうだな、皆には感謝しないとだ」

「利益の提示は大事よ。ドクター(あなた)やロドスに付いていくだけのメリットを出さないと、気付けば離れているなんてことも珍しくないわ」

「耳が痛いよ、気を付けるとしよう」

 

 感謝するだけでなく成果に見合った報酬も用意しろとリンは忠告してるのだろう。食事時の話としては大袈裟かもしれないが、意外と疎かになりがちな事柄を指摘してくれるのはありがたい。彼女もまた表裏において上に立つ人間故の視点を持っているのは助かる話だ。

 

 ──リン・ユーシャという女性は、決して綺麗事だけで成り立っている訳じゃない。

 

 龍門という一大移動都市の暗部をよく知る人間であり、裏社会を仕切る鼠王(ボス)の娘に相応しい知見と決断力を持っている。悪人ではないが清廉潔白な女性でもなく、時にはダーティな手段で物事の解決に当たることも珍しくない。さらに戦闘技術も非常に高く、頭脳と力を以て実質的な龍門裏社会の頂点に立つ女性と呼んでも過言ではないだろう。

 だからこそ、なのか。私たちは意外と気が合う。むやみに被害を増やしたくないのは互いに同じで、さりとて最小限の損害で抑えるために危険な橋を渡ることも厭わない。私は人より指揮や暗躍に長けている自信があるが、腕っぷしの方はサッパリである。そういう時、同じ視点から物事を見れて、なおかつ実行力に長けたリンとは意思疎通が非常に円滑に進むのだ。彼女と手を組んで失敗した事案は一つも無い。

 

「……どうしたの? あなたも食べなさいよ」

「ああ、すまないね。少し考え事をしていた」

「そう、なら良いけど。食欲を無くすほど疲れているなら正直に言いなさい」

 

 リンの厳しい口調の裏には微かな親愛が滲んでいた。本人は素直に認めてくれないが、口には出さずとも私のことを心配してくれているのだ。そのことを嬉しく思う自分がいた。

 さて、そんなリンに対して私は少なからず好意を抱いている。性格的に気が合うのもそうだし、時には飲みに誘われることもあった。ましてやリンは見惚れるほどの美人だから、食べてようと黙って佇もうと絵になるのだ。無意識の内に彼女をマジマジと眺めてしまうことも一度や二度ではない。

 

「ジッと見つめて、私の顔に何か付いてるのかしら?」

 

 とか考えている内にまたやってしまった。今日でいったい何度目になるだろうか。

 リンがロドスに滞在する日数は少ない。いや、少なかったと評するべきか。かつては最低限の日数のみ滞在しビジネスのやり取りのみ行う付き合いだったのが、何度も関わり合う間にすっかり信頼関係が芽生えてしまった。今日だけでなく幾度も秘書業務に付き合ってもらっていることからもそれは明らかだ。

 今では物理的にも心理的にも距離感は縮まった、と私は考えている。思い上がりでなければきっとリンも同じはず。酒の席で「ロドスに長く居るのも気に入ったわ。()()元警視と遭遇さえしなければね」と語っていたのが印象深い。

 

 だからこそ、最近は見惚れることが多いと言い換える方が良いのかもしれなかった。

 

「いや、そんなことはない」

「そっ、ならいいわ。あ、待って」

 

 テーブル越しにリンがグッと身を乗り出してきた。上品なハンカチが私の口の端を拭い、いつの間にか付着していたソースをふき取ってくれる。だがそれよりも不意に近づいたリンから漂う良い香りにドキドキしっぱなしだ。

 内心緊張気味な私を他所にストンと椅子に戻ったリンは、呆れ気味に薄く笑った。

 

「ドクター、人の上に立つ人間は身嗜みに注意しなくてはダメよ。私だっていつでも面倒見てあげられはしないのだから」

「仰る通りで。ありがとう、リン」

「……どういたしまして」

 

 素直にお礼を言ったら目を逸らされてしまった。嫌だった、とかでは無くて純粋に照れくさいようで。頬が先ほどより僅かに赤くなっているのに気づいてしまい、こちらまで恥ずかしくなりそうだ。

 どうにも上手い言葉を紡ぎ出せず誤魔化すように目の前の食事へと集中する。ただ静かあっても気まずさはない。必要が無ければ喋らないのもある種の信頼の証というか、心地の良い沈黙に他ならなかった。

 

「ふぅ……ロドスのドクターというのも大変ね」

 

 夕食をほとんど食べ終えた頃、先に沈黙を破ったのはリンだった。

 綺麗な髪と同じ(すみれ)色の瞳が私を見やる。

 

「皆の規範となるよう常に気を張り、ただの一度も失敗を許されない事柄ばかり任せられる。さりとて会社の理念があるからやり方は選ばなければならない」

「ははは、私は同情されてるんだろうか。だったら遠慮させてもらうがが」

「そうじゃないわ。ただ……」

 

 そこでリンは何か言い淀んで、また視線を逸らしてしまった。瞳の奥にチラリと見えたのは憂いの色だろうか?

 一呼吸、二呼吸と置いてからゆっくり言葉を選ぶように喋り出す。いつもハキハキと語る彼女にしては珍しいな、と感じた。

 

「窮屈そうだなと思ってしまって。正しい目的のために、正しい手段しか選ぶことができない。まるで雁字搦めよ」

「……私はそこまで考えたことが無かったかな。いつも目の前の事案を片付けるのに精一杯だよ」

「知らぬは当事者だけってことね。まったく、そう思えるだけの手腕が羨ましいわ」

 

 はぁ、とため息をつかれてしまった。たぶん呆れられているのだろうが、リンの場合はやれやれと頭に手を置く姿すら絵になるから困ったものだ。悪感情は微塵も湧かず『綺麗だなぁ』なんて他人事みたく感じてしまう。なんだか自分でもどうかしてると思うが本心だ。

 私が何も言わないまま視線だけを彼女に向けていると、今の言葉を責められていると勘違いしたのか一拍置いて慌てた様子で「言いたい事はそうじゃなくて」と手を振った。これまた珍しく焦りが表情に出ている。

 

「もし正規の手段だけでは解決が難しい事柄に遭遇したら、すぐ私に相談しなさい。あなたでは不可能な手段も私なら提供できる。私たちの関係は『利益』と『信頼』で成り立っているのを忘れないでちょうだい」

「ああ、ありがとう。君の優しさは私なりに分かっているつもりだよ。言葉は厳しくても常にこちらを気遣ってくれていることもね」

「……そう、ならいいわ」

 

 一点して素っ気なく返されてしまった。偽らざる本音とはいえ、さすがに今の台詞は率直すぎたか。ツンと横を向いたリンの表情はうかがい知れず、内面はまったく予想もつかない。

 

「さてと、今夜はもう寝てしまいましょう。明日も早いのでしょう? しっかり休息を取って準備しないと」

「明日の秘書は──」

「私がやるに決まってるわ。あなたの抱えている仕事を効率よく片付けられて、かつ護衛にもなるのは私だけ。他に選択肢は無いはずだけど?」

「いや、すまない。ここしばらく君には頻繁に秘書をしてもらったり、外出にも着いてきてもらってるからね。負担になって無ければと思ったんだ」

 

 本来ならリンは龍門で様々な仕事を指揮する立場だ。中には影を渡り歩くような行為も含まれているはず。決して低くない立ち位置の女性をいつまでも拘束するのはどうかと思ったのだが、親切心から出た言葉にリンは一言、 

 

「問題ないわ。報酬はきっちり貰っているから」

 

 僅かに不機嫌そうにきっぱり告げたのだった。

 

 ◇

 

 気の合う人間と出会うのは至難の業。

 一目見て意気投合だなんてロマンチックな出会いは映画や娯楽小説といったフィクションだけ。実際は相手とまず知り合って、外行き用の仮面(ペルソナ)と仲良くなり、やっと隠された本心までたどり着くことができる。そういった一種の儀式が必要なのは華やかな社交場だろうと、裏路地の奥にあるスラムだろうと何一つ変わらない。

 だけどその過程で露わになるのは美点だけじゃない。深く関わる内に相手の欠点や反りの合わない側面まで浮彫になってしまう。実力は認める、だが思想が気に入らない──人間関係ではよくあることでしょう? 軋轢が生まれる理由は案外相手への理解が根底にあったりするのよ。

 

 まあそれはともかく……リン・ユーシャという自己(そんざい)が少々素直になれない人間だという自覚はある。

 

「はぁ……」

 

 重苦しいため息をつきながらベッドへと倒れ込む。服だけ脱ぎ捨てた身体を柔らかなシーツとマットが優しく受け止めてくれたけど、私の心は今にも沈み込んでしまいそう。まるでアーツで固めた砂岩みたい。

 原因は分かっている。というより一つしかない。だって今この時も気を抜けば()()()のことを考え続けてしまうのだから。

 

「ドクター……」

 

 たった一言呟いただけで重たい心が温まって軽くなった。あまりに単純すぎる自分の情動に自虐的な思いすら湧いてくる。

 なのに軽くなった心は即座に重苦しく沈み込もうとし始めるのだ。まるで水面で揺れる浮きみたいね。私を悩ませるのも、喜ばせるのも、どっちもドクターが原因なのだから仕方ないのよ。

 

 陰と陽、闇と光、裏と表。私とドクターの位置づけを形容する表現は星の数ほどある。もちろん私が前者でドクターが後者。あの人は表の世界で堂々と生きているだけの実力があるし、私は裏の世界であの手この手を尽くすやり方に慣れ切ってしまった。今更この在り方を変えるなんて不可能ね。

 本来ならドクターとの関わりは最低限で済ますべきだった。私だって正義の意味くらい分かってて、故にこそ交わるべきでない道があるのも承知してる。正道を歩まんとする人を(こちら)に招く行いに後ろめたさも感じていたから、あまり深入りしないよう気を付けていたはずなのに。

 

「はぁ……とんだ色ボケに堕ちたものね、リン・ユーシャ」

 

 もう一度ため息。今度は自分に呼びかけてみたが当然何も変わらない。重苦しい心も、いつまでも湧水する慕情の熱泉も、何もかもが。

 

 なんの因果か私とドクターは途轍もなく気が合った。打てば響くとはああいうことを言うのかしら。驚くほど思考が噛み合って以心伝心していると錯覚しそうになる。頭の良い人と関わる機会は今まで何度もあった、でもこの感覚は本当に初めてで驚かされた。

 それだけに留まらず、私たちは互いの長所を伸ばし短所を補い合える能力を持っていた。ドクターは智謀と作戦指揮で間違いなく私の上を行くし、私は彼の思考を理解した上で実働要員として武力行使できる。表沙汰にできない処理はこちらが担当するが、ドクターは否定することなくフォローまでしてくれる柔軟性がある。

 

 彼の自分を省みない危うさをサポートできる力が私にはある。

 私では考えもしなかった潜在的リスクを事前に取り除ける力が彼にはある。

 互いに成すべき志を持っていて、その実現のために協力し合える。

 いっそ都合が良すぎるほど相性が良くて怖いほど。気付けばロドスに滞在する時間は増え、彼の為に秘書を買って出る機会も増えていた。

 

「恋愛なんて私には縁遠いものと思ってたのに……」

 

 普通は相手を知るほど短所も見えてしまうものだけど、彼の場合は何故だか惹きつけられてしょうがない。胸が高鳴って一緒にいる時間に幸福を感じてしまうことを、いわゆる恋とか愛とか表現するのはラブストーリーの常套句で。まさか自分がそうなるとは夢にも思わなかったわ。

 だから結論、私はドクターに惚れてしまった。今日だってつい高飛車な態度を取ってしまったけど、本当は彼の傍で仕事をしているだけで十分幸せだし楽しい。『報酬を貰ってる』とはそういう意味だけど素直に言えるはずもなく。

 

「そもそも抱くべきでもないのよ、こんな恋愛感情(もの)

 

 呟きは自戒に似ていた。自分たちの立場を忘れて恋情に身をやつすのは愚か者のすることよ。

 表の世界で立派に生きる人を、裏で暗躍する側に引き込んではいけない。互いに立場もあれば考え方の相違もあるし、非常に気が合うとしても歩む道は全然違うのだから。万が一にも結ばれてしまえば雁字搦めになるのは火を見るよりも明らか。

 だから、この感情は封じるべきなのだ。ドクターが私を気に入ってくれてる事には気付いてるし、とても嬉しい。もし思い切って告白してしまえば、あるいは告白されたらと少女のように妄想したのは一度や二度では無いけれど……相手を想う故に身を引くのも処世術だった。

 

「……はぁ」

 

 またため息が出る。もう何度目だろうか。毎晩のように関係性に悩み、叶わない心に嘆き、最後は「自分と相手のためだから」と言い聞かせて諦める。いっそ距離を取ってしまえば気が楽なのに、そうやって自分から距離を離してしまうのが怖くて仕方ない。

 私ってこんなに女々しい性格だったかしら? もっと目的の為に手段を択ばない行為をできる女だと思っていたのだけど。初めての経験に振り回されている自覚はあった。

 

「もう寝ましょう」

 

 さっさと目を閉じて暗闇へと身をゆだねる。ドクターにもああ言った手前、私が寝坊でもしたら示しがつかない。あの人の前では有能でクールな女性という印象を崩したくなかった。

 状況は何も変わらない。変わらなくても良い。分を超えて結ばれようとも思わない。ただ今の居心地の良い環境を維持して、心の安寧を保ち続けられれば構わないから。彼との関係性はそれで十分だった。

 

 ──そのように考えていたはずなのに、予期せぬ事態はいつも唐突にやって来る。

 

「ドクター……あなた、何をしているの?」

「リ、リン……! 違うんだ、これは──」

 

 心のどこかでドクターをある種の神聖化していた。性欲と無縁の存在だと勝手に思い込んでいた。

 けれど彼もまた一人の人間で性欲処理をするのだと、さらけ出された雄の象徴をに突き付けられるのだった。

 

 ◇

 

 早朝の爽やかな空気に包まれる執務室に、僅かな異臭が漂っている。

 

「……」

「……」

 

 向き合って座った私もドクターも、何一つ喋らない。迂闊に言葉を発せる雰囲気ではなかった。

 切っ掛けはあまりに些細なすれ違い。まだ朝早い時間に起きた私は、執務室の掃除でもしてあげようと思いやってきた。鍵は締まっていたけど秘書に預けられる合鍵で難なく入り込み──当然誰も居ないと考えていた部屋で、ドクターが自慰行為に耽っている場面を目撃するなんて。

 

「……リン、その」

「ちょっと待って、考えてるから」

「あ、ああ」

 

 取り繕っているけど動揺はしてて、思わず突き放すような言い方になったのを即座に後悔した。

 この状況、誰が悪いかと考えると別にドクターも極端に悪い訳じゃない。ちゃんと鍵は掛けていたし誰も来ない朝の時間帯だ。自室でやれという指摘に目を瞑れば彼なりの配慮は十分なされていた。

 そして私も不可抗力でその……屹立した大きすぎるモノを見てしまったけれど、不快には思ってない。好きな相手の生々しい部分を見た事への背徳感、驚き、僅かな興奮……色んなものが入り混じった複雑な心境で。呆れこそすれ怒ったり嫌ったりは微塵も感じていない、はずなのに。

 

「言いたいことはたくさんあるけど、これはどういうことかしら?」

 

 想いとは裏腹に口調はどうしても詰るものになってしまう。

 テーブルに広げられた本を一冊手に取る。漫画本だ、当然ながらアダルト向けの内容。いっそ下品なほど露出の多い衣装を着た金髪美少女が表紙を飾っていて、不潔なものを見たような気になってしまう。

 ……ドクターはこういう娘で興奮するのかしら?

 

「……我慢が出来なくて、つい」

「ふーん、そう。性欲を否定する気はないけど、さすがに場を弁えるべきだったわ」

「返す言葉も無い」

「自覚はあるみたいね」

 

 さらに別の本を手に取る。こちらは随分と直球なタイトルをした小説だ。しかもお尻を使った性行為を連想させるもので、チラリとドクターを目で見てしまう。項垂れた姿の彼はもしかして、そちらの趣味もあるのだろうか?

 人は誰しも知られたくない秘密の一つや二つは抱えている。なのにこうしてドクターの恥ずべき行為を咎め、性癖を暴き立てることは拷問にも等しいはず。こうも責めずとも穏便に注意して終わらせるべきと分かっているのに、追及の手を止められない。

 

「こういう娘や」

 

 派手なアダルト漫画の表紙を指さしてから、

 

「こんなプレイが好きなんだ」

 

 アブノーマルな小説のタイトルを一瞥した。ドクターが委縮して縮こまってしまう。溜飲が下がるはずもなく、むしろ申し訳なさすら覚えるのに心のざわめきが収まらない。

 ああ、私は今とても苛々しているのね──不意に脳裏を過ぎった思考が奇妙なほど腑に落ちた。それでようやく、刺々しい言葉が出てしまう理由に思い至る。私はドクターが自慰行為をしていた事では無く、彼が性欲の対象に他の女性を選んだことに怒っているんだ。もっと素直になるなら、架空のキャラに嫉妬すらしていた。

 

「……ドクター」

 

 私だって彼とより親密な関係になりたい。もっと深いところで繋がりを感じたい。

 でも立場があるからと自戒しているのに、他の女に色目を使われることが我慢ならない。彼の関心を得られている虚構(おんな)たちが羨ましくて仕方ない。何故、私じゃないのだろう? 一度自覚したらもうお終い、まるで野火のように嫉妬の炎が燃え広がる。止められない衝動に突き動かされるまま、よく回る口が勝手に言葉をはじき出す。

 

「二つ提案があるわ、もちろん聞いてくれるわよね?」

「……もちろん。覚悟はできている」

「なら話は早いわ」

 

 まるで死刑執行を待つ罪人みたい。彼の頭の中ではきっと、「リンは私を軽蔑しているだろう」「秘書を辞めたいと言うのだろうな」「それを止める資格も無い」とか考えているのでしょう。表情を見ればそれくらい手に取るように分かるわ。

 でも違うの。言いたいことはまったく違う。

 

「まず一つ、ここにある書籍の類は全部捨てるわ。執務室に置くのは相応しくないし、万一他の誰かに見られでもしたら一大事よ。あなたのイメージにも傷が付く」

「うぐっ……残念だが仕方ない」

 

 さすがに意気消沈した様子のドクターにチクリと棘が刺さった気分。そんなに架空の女たちが気に入ってるのかしら? なら良いわ、この私がまがい物なんて綺麗サッパリ忘れさせてあげるんだから。

 思い付きを舌へ乗せる直前、僅かな躊躇が口先を鈍らせた。これを言うのは覚悟がいる。でも今更ドクターに他の女なんて見てほしくないの。私の中に嫉妬や独占欲がこんなにあったなんて、我が事ながら結構意外だわ。

 

「そして二つ目は──あなたの性欲処理は今後私がするわ」

「……は?」

「言葉通りよ。性欲を我慢できなくなったら私を頼れってこと」

 

 衝動に突き動かされるまま、澄ました顔でさも当然という具合に言い切った。心臓がバクバク鳴ってうるさい。自爆しそうなほどの羞恥心を押し殺して私は続けた。

 

「一人でするより私がやった方が効率的でしょう? それに秘書を巻き込んで共犯になれば、口裏を合わせて隠蔽だって可能よ。あなたも気持ちよくなれるし悪い提案じゃないと思うけど」

「だがそれは……君に負担が掛かる訳だし、何より嫌だろう?」

「嫌じゃないわ。この提案はあなたでなければ決してあり得ないと知ってほしいわね」

 

 ドクターの反応は役得よりも困惑や遠慮の方が遥かに勝っている。当然よね、私だって痴女みたいな提案だと思うもの。だけどメラメラと燃え始めた心は鎮火なんて期待できそうにない。使えるものは何でも使って目的を達成すべきという、龍門で培われたスキルを総動員して好きな相手へ迫っていく。

 

「その証明をここで見せてあげるから、抵抗はしないでちょうだい」

「リン、何を──」

 

 戸惑うドクターの言葉に耳を貸さず、腰かけた彼の両脚の間へスルリと身を置いた。ちょうど彼に跪いて奉仕をするような恰好。室内に僅かに漂う雄の匂いの元凶が、布一枚隔てたすぐ傍にあるなんて。意識するだけで頭がどうにかなってしまいそう。

 初めて男性のズボンに触れたけれど、思っていたよりずっと構造は単純で脱がしやすかった。ボロンと飛び出したのは途轍もなく大きな肉の棒。自慰の途中でお預けを食らったからなのか既に大きく硬くそそり立っていて、これでもかと雄の匂いを振り撒いている。お腹の奥が一気に熱を帯びてキュッとなった。

 

「これが、ドクターの……」

「待てリン、これ以上は」

「待たないわ。あむっ、んっ──」

 

 これ以上ドクターに抵抗される前に覚悟を決めて一息に先端を口へ含んだ。

 知識の上でしか知らない初めての性奉仕。咥えるどころか触るのも初めての男性器は少ししょっぱくて、苦くて、間違っても美味しいとは思えなかった。だけど口いっぱいに広がる雄の香りが不思議と嫌じゃない。その源泉を求めるかのように、舌先をチロリと伸ばした。

 

「ちゅっ……んむっ……」

「うあっ、リン……!」

 

 先っぽをなぞるとドクターが面白いくらい啼いてみせた。普段のキッチリした印象とは正反対で可愛い。飴玉をしゃぶるように舌を動かせばその分だけドクターは身を捩り、快感に喘いでいた。

 私に性器を舐められて気持ちよくなってるんだ──自覚した途端にもっとお腹の奥が熱くなった。ジワリとショーツに染みが広がっていくのが感じ取れる。ファーストキスだってまだの生娘にはこれだけでも刺激が強くて、初めての性行為に身体が勝手に興奮してしまう。

 

「あむっ、ちゅっ、れろっ……いいわよ、好きな時に射精して……んむっ」

 

 テクニックなんて無い。たんに咥えて舐めるだけの稚拙な前戯。それでも私に出来る精一杯の奉仕がこれで、ドクターは十分に気持ちよくなってくれていた。このままいけば遠からず射精するのかな、なんて呑気に考えながら奉仕を続ける。口内に射精される事への忌避感はちっとも無かった。

 

「リン……これは、ダメだっ……もう止め、っ」

「ちゅっ、ちゅぱっ……遠慮せず結構よ。早く終わらせてスッキリしてしまいましょう?」

 

 開きっぱなしの顎が痛い。歯がたまに当たってしまうのが申し訳なく思う。初めてのフェラチオは想像してたより何倍も苦しいし難しい。だから早くドクターに達して欲しくて奉仕の手は緩めない。

 舌先で先端を舐めるだけでなく、唾液を絡めたり段差の周囲を舐ってみたり。今の私に思いつく限りの口内奉仕を続ける内にドクターのがビクビクと震えだして。

 

「っ、すまない……!」

「んぐ──っ、ん~~~~……!?」

 

 そろそろ限界なのかなと思った途端、とうとうドクターは射精した。

 咥え込んだままだから精液がそのまま口の中に雪崩れ込んでくる。粘っこい、変な匂い、それに苦くて全然美味しくない。男性は精液を飲んであげると喜ぶ、とか聞いたことあるけど無理よこんなの。吐き出さないようにするのに必死。

 だけどドクドクと性器が脈打つ度に容赦なくドクターの体液が吐き出され、口内を白に染めていく。これ以上は無理と判断した身体が勝手に喉を鳴らしてゴクリと飲んだ。とても不快な感触、なのにどうしてかしら、嫌な気があまりしなかった。一度飲み込んでしまえば後は二度、三度と、飲精して。数秒前まで不可能と思っていた行為があっさり実現しちゃった。

 

「んぐ、ごくっ……ぷはっ……さすがに、死ぬかと思ったわ……あなたさすがに溜め込みすぎよ」

「す、すまない……それより君の方は大丈夫なのか? その、飲んでしまったようだけど」

 

 心配そうな顔でドクターがこちらを見た。心の底から私を案じてくれる視線がくすぐったい。止めてちょうだい、私が自分でしたのだからあなたは何も悪くないわ。まあさすがに、射精しすぎとは思うけど。

 

「心配には及ばないわ、この程度どうってこと無いもの。死地で泥水を啜って命を繋いだことに比べれば雲泥の差よ」

「そう、か……だけどリン、こういう行為は軽々しくやるものでは──」

 

 この期に及んでまだ『良識』に縛られるドクターに呆れて、さっと手で口を塞いでしまった。そんなあなただから力になってあげたいと思うけど、今は正論なんて痛みだけの害でしかないの。頷いてしまえば嫉妬(ほのお)に焦がれるだけだから。

 

「あなたに拒否権は無いわ。恥ずべき秘密を握られたことの意味をよく考えておくことね」

 

 慣れ親しんだ脅迫じみた言い回し。こういうのばかり得意な自分の業にほとほと呆れるばかりね。

 ともあれ、説得に応じたドクターが視線で頷いたのを確認してから手を離した。

 

「口でも手でも胸でも、興味があるなら()()でも構わない。好きなように私を使ってくれれば良いわ、簡単な話でしょう?」

「……分かった。すまない、リン」

「……謝らないでちょうだい、気にしてないから」

 

 むしろ謝るべきは私の方。ごめんなさい、こんな迫り方しかできない女で。本気で結ばれる覚悟は無いのに身体の繋がりを求めてしまう浅ましさに嫌気が差す。

 だけど、重苦しい感情はどうしようもない歓喜で塗り潰されてしまって。彼との関係が深まったという絶対値(じじつ)に悦びもまた感じていた。

 

 ◇

 

 自分でも信じられないことに、リン・ユーシャと肉体関係を持つことになった。

 ある日の早朝、執務室で自慰に耽っていた場面をリンに目撃された際は終わりを覚悟した。一発抜いてからスッキリした頭ですぐ仕事ができるように、と欲をかいた私が悪いとはいえ……彼女に軽蔑され距離を取られる想像はあまりにも苦痛を伴うものだった。

 けれど彼女の反応は全くの予想外で正反対、軽蔑されるどころか本人から私の性欲処理を申し出てきて……流されるままフェラチオで射精してから、ズルズルと爛れた関係を結んでいる。

 

 あまりに都合が良すぎて夢でも見ているかのようだ。『好きなように私を使ってくれれば良い』との言葉通り、リンはとても積極的に性奉仕をしてくれた。朝昼夜のいつでもお構いなく、一声かければ察してくれる。最初は躊躇いがちに頼んでいたのが気付けば慣れ始め、一週間も経つ頃には罪悪感も薄れてきて。

 

「──報告は以上になる。他に私の活動記録に関して質問事項はあるだろうか」

「あ、ああ……いや、特に気にかかる点は無いよ。報告書はキッチリ描かれていた、さすがはチェンだ」

 

 ハッと意識を現実に戻す。私は今、執務室で机を挟んでチェンと対峙していた。外勤任務に出ていた彼女の口から報告を聞いていたのだが、さすがに元龍門近衛局を率いていた者だけあって要点を抑えた分かりやすい代物だった。

 なんてことはない業務の一つ。けれど私は現在、平静を取り繕うのに必死である。だってそうだろう、万が一にも机の下に潜り込んだリンに気付かれれば全てが終わるのだから。

 

「んむっ、じゅるっ……はふっ……」

「ぐっ、ぅ……!」

 

 チラリと視線を下にやる。ザラックの丸い耳が揺れ、上目遣いのリンと目線が合う。だがそれも束の間、バレないよう慎重に一際強く亀頭を吸い上げられた。強烈な圧力にビクッと腰が跳ねかけ小さなうめき声が漏れてしまう。

 気の迷いで業務中に性処理を頼んだのが失敗だった。ほんの一週間の間にリンの口淫はすっかり上達していた。いつ射精してもおかしくない心地よさに後悔してももう遅く、眼前にいるチェンが私の異変を聞き逃すはずがない。

 

「どうしたドクター? 具合でも悪いのか?」

「いや、大丈夫、だ……最近あまり眠れていないから、頭痛が多少ね」

 

 純粋に心配してくれるチェンの好意が心苦しい。可能な限り平常を装うものの、まだ奉仕を止めないリンに困惑と焦りが広がっていく。露見すれば破滅で、しかも相手はリンと因縁のありすぎる真面目なチェンである。リンが一番この場のリスクを理解してるだろうに中断する気配は一切ない。むしろいっそう舌の絡みつきが激しくなっているようだ。

 怪訝そうな顔つきのチェンは私の嘘をひとまず信じたようで、はぁと呆れて頭に手をやった。そういう所はリンと似ている気がするが、言えばどちらからも怒られるため黙っておく。

 

「あまり無理はしないことだ。いや、そういえばあいつが君の秘書をしていると聞いていたが……まったく、体調不良のドクターを放って何処かへ出ているとはな。呆れたものだ」

「私から、お願いして……書類を届けに行ってもらっててね。リンが悪い訳じゃないよ」

 

 本当はリンのせいでこうなっているのだが。そんな態度はおくびにも出さない。今にも水音が立ってしまわないか、射精を我慢できるか、チェンにバレてしまわないか、気が気でないのにフェラチオ奉仕が気持ち良くて仕方ない。

 

「ふん、無理にあいつを庇う必要はないぞドクター」

 

 一瞬嘘を見破られたかとドキッとするが、チェンは珍しく微かな笑みを浮かべていた。

 

「もし不満があるようならば私が秘書を変わっても構わない、君の手伝いならば歓迎しよう。というより、あいつをあまり信用して近くに置きすぎるのも関心しないが……今からでも私に乗り換える気は無いか?」

 

 ガリッ……!

 緩々と舐められていた一物へ弱く歯が突きたてられた。急所へ走った痛みを気合で我慢して冷や汗交じりの笑みを浮かべる。

 

「は、ははは……申し出はありがたいが遠慮しておくよ。これでも彼女とは上手くやれてるつもりだから」

「そうか、ならば構わない。出過ぎた真似をしたな、失礼する」

 

 軽く会釈だけしてチェンはさっさと退出していった。ドアが締められオートロックが掛かった途端、バッと机の下を覗き込む。リンはようやく私のペニスから口を離し、今は舌をゆったりと這わせている最中だった。甘ったるい吐息が吹きつけられて微弱な快感が走るのを必死にこらえる。

 

「リン、どういうつもりだ……!? もしバレでもしたら──」

「大変なことになったわね、私もあなたも。よく我慢したと思うわよ」

「そういう問題か……」

 

 こういう後先省みない行動はリンらしくない。では何が彼女を駆り立てたかと言えば、理由はもう明白だろう。

 

「チェンが居たから、か?」

「否定はしないわ。まったくチェン・フェイゼも好き勝手言ってくれたわね。あなたの秘書は私のものよ、他の誰にも、ましてあの女になんて絶対譲ってやらないわ」

「それは……ありがとう」

 

 最近になって気付いたが、意外とリンは嫉妬する。冷静に情と理屈を天秤に掛けられる女性と思っていたが、私に関わる女性の話になると独占欲じみたものが発露するのだ。さすがにこの意味が分からないほど鈍感になった覚えはない。

 そもそも切っ掛けはどうあれ肉体関係を結んでいるのが答えだ。彼女の気持ちは嬉しく思うし、こちらも同じ想いを抱いているのは確実。だが互いの立場があるから最後の一線は超えられない、その事情も等しく汲んでいる。

 好き合ってはいる。だが恋人にはなれない。もどかしさと焦れったさに支配され、リンも不安を覚えているのだろう。だからこそ過激な方法で繋ぎとめようとするし、私もまたそんな彼女を止めることができない。

 

「でも、チェン・フェイゼの誘いを突っぱねてくれたのは嬉しかったわ。上手くやれていると言ってくれたのもね」

「事実だろう。チェンが相手だろうと誤魔化す必要は無い」

「ええ、そうね。こんな関係ではあるけど、私もあなたと居るのは心地よく感じるもの」

 

 口元に浮かんだ微笑は裏を感じさせない本当に愉快そうなものだった。尻尾の先端がいつもより激しく揺れているのは、それだけ昂っている証拠なのか。雰囲気はあくまでクールに、だが嬉しそうな様子を隠しもせずにリンは机の下から這い出てきた。

 そういえば、これでもう性処理は終わりだろうか──性懲りもなく残念だなと感じてしまう。名残惜しさを見透かしたのかリンはクスリと笑って机に手を付いた。こちらに綺麗な背中を向け、丸いお尻を突きだす体勢となる。

 

「あなたのスケジュールとこなすべき仕事量は把握してるわ。その上で、あと30分ほど仕事が止まっても支障は出ないの」

「さすが、しっかり管理してくれている」

「自己管理の一環よ、私も龍門だと予定に忙殺されることはしょっちゅうだから」

 

 だから、とリンは笑った。妖艶な流し目が誘うように向けられる。

 

「今の私は気分が良いの。だからドクターがしたい事をぶつけてくれて構わない」

「……本当に良いんだね?」

「さっき噛んでしまったお詫びもあるわ。ほら、早くしないと時間だけが──きゃっ」

 

 ならば我慢は不要とばかりにリンの身体へ手を伸ばす。スラリと伸びた女性としては高身長な肉体へ不躾にも手を這わせる。彼女が裏社会の重鎮の娘であり、相応しい武力と知力と伝手を持っていることも今は忘れた。ここに居るのは私に身体を委ねたザラックの美女に過ぎない、と。

 尻尾の付け根付近に置いた手のひらを下へと動かし、黒のスカートに包まれたお尻へ手を伸ばす。本来なら絶対に許されるはずのない不躾な撫で方でもリンは抵抗せず、さらに滑らかなタイツまで這ってきても文句を言わない。

 

「リンのお尻、触ってるだけでとても気持ちいいね」

「……褒められている内に入るのかしら? 悪い気はしないけど」

「とても褒めてるつもりだ。足りないなら顔でも性格でも好きなだけ褒められるが」

「いえ、その……恥ずかしいから遠慮しておくわ……」

 

 心底恥ずかしそうに顔を俯かせたリンの様子が可愛らしい。いつもと違う印象を受ける姿に興奮を高めながら、黒タイツをスルリと下ろしてしまう。内側に秘められた黒と紫の大人らしいショーツが露わになり、これも一緒に脱がせてしまう。とろりとクロッチ部分が糸を引いているのがチラリと見えた。

 

「濡れてる──」

「言わなくていいから! もう、あなたデリカシーが無いってよく言われないの? 私はこの一週間で何百回考えたか分からないわ」

「悪かった悪かった、それじゃあこっちに集中させてもらうよ」

 

 モチモチと吸い付く手触りのお尻を撫で回しながら、尻の谷間へ指先を滑り込ませた。弾力ある感触を抜けた先に息づく小さな出口──リン・ユーシャのアナルへそっと指先を押し当てる。

 

「ひゃうっ……! 回数を重ねても、そこを触られるのは慣れないわね……」

「だけど随分敏感になってきているようだ」

 

 ほら、と言いながらマッサージするみたく指先で菊皺をこね回す。少し湿った裏門をグニグニと動かす度に、リンの口からは「んっ……あぅっ」と恥ずべき嬌声が小さく上がり続けてしまう。お尻の穴を弄られて快感を拾っている証拠だった。クールで何事にも動じないリンが不浄の門を、私の手で刺激されて感じる事実だけで射精できそうだ。

 

 ──あの日、私の自慰がバレたと同時に趣味もリンにバレてしまった。すなわちアナル好き、女性の肛門に対しても等しく興奮を覚える性である。近年では昔ほど忌避感は持たれていない、という定説を見かけたこともあるが、アブノーマルな行為なのは確かだ。

 だがまたしても私に都合が良いことに、リンはこの性癖を否定しなかった。むしろ「後ろなら絶対に妊娠しないしちょうど良いじゃない」とまで言ってのけるほど合理的で。以来まとまった時間の取れるタイミングでじっくりと、リンのアナル開発を続けているのだった。

 

 まだ挿入はしていない。無茶をすれば傷つくのはリンなのだから、そこは超えてはならない一線として強く自戒し拡張だけにいそしんでいた。

 

 ぐにっ、ぐちっ、さすっ、さすっ……ぐにぃっ!

 

「ふぅ……んっ、あっ……! ゆび、ねちっこい……」

「痛かったりはしない?」

「ん、平気よ……変な感じだけど、悪くないから……んあっ……」

 

 熱っぽい声音が耳朶を叩く。柔らかな菊門は粗雑な扱いをすれば破けてしまいそうな繊細さだ。彼女の操る硝子に触れるが如く、ひたすら丁寧に指先を動かして、じっくりと快感だけを煮詰めていく。

 指先でアナルを突っつく度にじっとり汗ばんだ薄紫の髪が揺れ、良い香りが空気中に漂った。不意に『紫色のリン』という呼び名を思い出したのはそのせいだろうか。裏社会を統べていた鼠王の後を継ぎ、徐々にその名を浸透させつつある若き女主人。裏世界の顔役な女性が今この時は、私の手でお尻を触られ悶えていることに喜びを覚えてしまう。

 

 指先を立ててツン、ツンと窄まりをノックする。これから押し込むよと動作で宣言してから「力を抜いて」とリンへ囁きかける。彼女はゆっくりと息を吐いて、指示通りに全身の力を弛緩させた。肛門括約筋が緩んで微かに開いた出口(いりぐち)へそっと指を潜らせる。

 

 つぷっ、ぐぬぬぬっ……

 

「あっ、ドクター……それ、はっ……」

「気持ちいい?」

「~~~~」

 

 問いかけにリンは何も言わなかったが、ほんの僅かに首をコクンと縦に振った。ギュッと目を瞑りながら口を引き結んでいる。耳の先まで分かりやすいほど真っ赤だ。

 無遠慮にも侵入した直腸(さき)は広い空洞となっていて、指先を上下左右に動かしてもまだ余裕があるほど。そして体温が籠っていて非常に熱い。火傷しそうなほどの高温に蒸されて額からまでジワリと汗が滲み出る。

 

「指、動かすからね」

「え、ええ……っ、どうぞ」

 

 リンの許しを得て指を前後に動かし始めた。キュッと締まった肛門が痛いほど指の根本を咥えて離そうとしないのを、どうにか振り切り出し入れを繰り返す。もしこのまま肉槍を挿入しようものなら食いちぎられてしまいそうだ。

 ちゅこちゅこ、くちゅくちゅと肉輪を擦過する卑猥な水音が小さく響く。粘着質に奏でられる音楽はリンのお尻が美味しく指を咀嚼している証明で、本人は音も聞きたくないとばかりに俯いて。けれど反射的に漏れだす嬌声は隠しようがなく、ズルリと指が抜ける度に「んぐっ……!」と一際大きく喘いでしまう。

 

「あぅ、っぅ……ねぇ、なんでお尻が好き、なの……?」

 

 快感を紛らわすためかリンが問いかけてきた。誤魔化しは許さないとばかりに指を一本から二本に増やしつつ、「そうだなぁ」と考えを巡らせてみる。性癖だからと言えばそれまでだが、

 

「相手のどこだろうと愛せる、というのが好きなのかもしれない。触れる側も、触れられる側も、互いに合意の上でじっくり時間を掛けないと決して成立しないプレイだから」

 

 もちろん背徳感や征服感、女性の羞恥を煽るシチュエーションが好きな側面も否定はしないが。少しばかり見栄を張ってそういう側面は隠しておく。随分と恥ずかしいことを勢いに任せて言った気もするが、まあいい。

 少々カッコつけた返答を聞いたリンは顔を快楽に歪めながらも、「あら、そうなの……」と小さく呟く。押し殺した喘ぎ声が非常に股間に悪い。

 

「そういう理由は、嫌いじゃないわ……んっ、ふぐっ……! 私もあなたでないと、絶対にお尻なんて触らせない、から……ぁっ」

「ありがとう。リンがこんな私でも認めてくれてて嬉しいよ」

 

 いっそう指をグネグネ動かしながら嘯いた。キツく締まるはずの括約筋は程よく緩んで心地よい締め付けを与えてくれる。ぐっぽり開かされた後孔は指二本なら苦も無く飲み込めていて、あとほんの少しだけ慣らせれば私の一物も受け入れられそうだ。

 今夜にでもリンに肛門性交(アナルセックス)を申し込んでみよう──想像するだけであまりに甘美な響きだった。形式はどうあれ好いた相手と一つになれる悦びを前に、胸が期待で膨らんではち切れそうだ。

 

「ねぇ、ドクター……もういい加減、平気なんじゃないかしら……?」

「リンもそう思うかい? 私たちはとことん気が合うものだ」

「ばか……」

 

 こんな所でまで波長が合ってしまうのが面白くて仕方ないし、心地よくて堪らなかった。この女性と毎日共に過ごせたら退屈しないのだろうなと思ってしまって、未練がましい思考を振り払う。生きる世界が違うのだから真の意味でパートナーにはなれない、何度も言い聞かせていることじゃないか。

 だからせめて、リンの身体を貪ってしまいたい。最低と言われようが構わない、互いに合意の上なのだから気にする必要がないのだと。荒々しく宣言する代わりに指を勢いよく引き抜き、ちゅぽんっ! と音を鳴らした。肛門肉が盛り上がって吸い付いてきて最後まで心地よさを味わい尽くす。

 

「あまり時間も残ってないし、リンを使()()()()もらうよ」

「どうぞ。手早く済ませてもらえると嬉しいわ。あと服に飛ばさないでくれると最高ね」

 

 善処しようと心にもない一言を添え、隆起した肉槍をリンのお尻へ擦りつけた。柔らかな尻肉を贅沢に使って一物を挟み込んでグリグリと押し付ける。パイズリならぬ尻ズリとも呼ぶべき行為、やろうと思えば今すぐにでも彼女の前も後ろも犯せる体勢だった。

 

「んっ……あなたの、とても熱くて硬いわね。口で咥えてたときよりバキバキじゃない」

「それだけ君のお尻が素晴らしいものだから、つい」

「本当に変態ね。優れた人は何かしら普通と違う趣向が無いとダメなのかしら?」

 

 呆れるような口振りだけどリンは私に身を委ねてくれている。おかげで彼女の耳も、髪も、うなじも背中も見える特等席で尻コキを続けられる。両手でパン生地みたいな尻をこね回し、中心に向けて寄せたり離したりを繰り返す。裏筋に時折擦れる菊皺はまだヒクヒクと震えていて、腸液で微かに湿った感触が良いアクセントとなっていた。

 外側を楽しむだけでこれほど気持ち良いのに、もし腸内(なか)へ挿入すればどうなってしまうのか。頭が真っ白になって気絶してしまいかねないなと、冗談じみた考えさえしながら野生動物みたく腰を押し付ける。気付けばリンのうなじに顔を埋めて、ひたすら密着しながら続けていて。

 

「ちょっと、首にキスするのは……!」

 

 キスマークが付いてしまうからと制止するリンに構わず、思い切り彼女の首筋に証を残した。恋人関係にはなれず、また一線を引くため唇を合わせることすら私たちはしていない。だからこそ、僅かでもリンに己の足跡を残したくなってしまうのだ。いよいよ暴発寸前となった肉棒をグッと尻へ押し付け、最後の刺激を与えることで射精へのトリガーを引き絞る。

 

 びゅくっ! びゅる~~っ……!

 

「あっ……! 熱いのが、お尻に……」

 

 もはや射精すら快感の為というより、マーキングを目的としているみたいだ。溜め込まれた白濁をザラックの丸いお尻へぶつけ、雄の匂いと粘つきを残してしまおうと試みる。柔らかな尻肉に挟まれての射精は極上すぎていくらでも白濁を吐けてしまいそうだった。

 

「ふー……まったく、本当にあなたはたくさん射精するわね。いつも匂いでバレてしまわないか冷や冷やするわ」

「どうも人より性欲が強いらしくてね、申し訳ない」

「謝らなくていいわ、あの日によく分かったことだもの」

 

 「それを言われるとタジタジだな」、と笑えばリンも「でしょうね」と微笑する。こんな爛れた肉体関係をした直後とは思えないほどいつも通りのやり取りで、故に惜しく感じるのだ。もっとリンと深くまで交わり、より良い関係性を結びたい。互いに気持ちを押し殺しながら、身体だけの関係で誤魔化すのはあまりにもったいなくて仕方ない。

 

「ほら、すっきりしたなら仕事に戻るわよ。あなたの業務が滞ったら秘書である私の責任にもなるのだから、しゃんとしなさい」

「分かった分かった、気持ちを入れ替えて頑張るよ」

「理解してくれたなら結構よ。そうね……早く終わったら、夜に二人で飲むのもどうかしら?」

 

 当たり前のように夜の予約もしてくるリン。そんないじらしさに可愛らしさを感じながら、「もちろんだよ」と頷くのだった。

 

 ◇

 

 繋がりを求めていた。熱くて強固で絶対的な、彼との関係性を結ぶ無二の繋がりを。

 勢いに任せて提案した性処理は最初こそ多大な満足感を与えてくれた。ドクターの恥部へ思うままに奉仕するのは女心を擽られたし、彼に気持ちよくしてもらうのも同じくらい良かった。お尻好きには驚かされたけど、妊娠の心配が欠片も無いのはむしろ好都合だったから誘いに乗って。

 一週間も経つ頃には口で咥えるのが上達したのが自分でも理解でき、また後孔はドクターの指を簡単に呑み込めるまで開発された。性技の向上につれてあの人はたいそう喜んでくれて、私も彼の特別になれたことを喜んでいた──はずなのに。

 

「リン、どうしたんだい? 上の空のようだが……?」

「いえ、ごめんなさい。何でもないから続けてちょうだい」

 

 私は今、ベッドの上でドクターにお尻を犯されている。

 服を剥かれ、大きく足を開いたいわゆる正常位の体勢で、腰を持ち上げられて肛門へ挿入されている。あまりに太くて硬く、熱い肉棒はまるで灼けた鉄を差し込まれてるみたい。そんなものが私のお尻を執拗に出入りして、拭い難い快感を脳へ叩きこんでいた。

 初めてドクターにお尻を貫かれた時はさすがに苦しかった。指の太さとは文字通り桁違いの大きさに、息が詰まって死んでしまうと錯覚したほど。二回目からようやくドクターの大きさに慣れてきて、三回目となる今夜はすっかり気持ち良さを拾えている。

 

 裏側から子宮をトントン叩かれるのがすっかり気持ち良い。無理やり排泄感を呼び起こされて快感と覚え込まされるのが嫌いじゃない。アブノーマルな交わりに反してドクターはちゃんと私のことを気遣った動きをしおてくれて、何の気負いも無く彼に身体を預けることができていた。

 

「んっ、あぁ……っ、ドクター、もっと……!」

「ああ、分かった」

 

 言葉が勝手にドクターを求めた。無意識に伸ばした手に彼の手のひらが合わせられる。私よりずっと大きくて、ゴツゴツした男らしい手。指を絡めて握り合うと安心できるはずなのに、今はどうしてか胸にぽっかり穴が空いているみたい。

 原因は痛いほどに理解している。満たされない、求めてしまう、より深い証明(あい)が欲しい──身体の関係性だけでは心が満足してくれない。一つ手に入れたらまた次の一つをと、なまじ結ばれてしまったからこそ尽きることなく欲望が湧いて出る。

 

「あっ、ああっ……! んっ、あっ、あぅ……」

 

 淫猥な音を響かせて、ドクターの思うままにお尻の穴を掘り返される。開いた足の先、薄っすら生えた恥毛の先で肛門が捲れ上がっているのが見えてしまう。恥ずかしくて目を逸らしても彼の視線からは逃げられない。喉からは意に反して何度も恥ずべき嬌声が零れ出た。

 

 今の私たちはドクターの性欲処理にかこつけた、いわばセフレと称するべき関係。好き合っているのは分かってて、ドクターが時折恋人らしいことを求めようとしてるのも承知してる。でも「結ばれてはいけない関係だから」と断っているのは私の方で、今より先には進まないよう自制していた。

 自分からドクターの求めを断っておきながら、身体目当てでないと証明できる心の繋がりを欲してしまう浅ましさ──あまりのダブルスタンダードっぷりに怒りすら湧き上がる。恋人ではない、キスもしない、愛の言葉を囁くなんてもってのほかで。

 

 今の関係を続けたいの? それとも叩き壊して新たな関係を結びたい?

 分からない、まとまらない、まずもって犯されながら考えることでもないでしょう……理性が至極もっともな意見を発して、そこで内心の探求はひとまず止まった。

 

「リン……リン……!」

「ドクター……」

 

 必死に私を呼ぶドクターの表情には余裕が無い。いつも「とても気持ち良かったよ」と言ってくれるのは嘘やお世辞じゃないみたいで、満足させてあげられることに自尊心が満たされていく。普段は冷静に仕事も指揮もこなし、けど色んな人に好かれるような弱点(ゆるさ)も持っているドクターが、今だけは子供みたいに私を貪り独占してる。嬉しいわ。

 ちゅぽん、間の抜けた音と一緒にドクター自身が引き抜かれた。既に何度か達している身体は力が入らず、仰向けからうつ伏せにされるがまま。上からのしかかったドクターとシーツに挟み込まれた状態で、再びドクターの硬いのがお尻の穴へ侵入してくる。

 

「んぐっ……! やっぱり、お、大きい、わねっ……はぅ、ぅぐっ」

「苦しくない?」

「平気、よ……」

 

 圧迫感はあるけど、それ以上にドクターと繋がれてる喜びの方が大きいから。

 ……とは恥ずかしくて言える訳もなく。代わりに「あなたの方は?」と聞いてしまう。

 

「入口は狭いのに、中はふわっと広がってて……あと凄く熱くて蒸されてるみたいだ。最高だよ、リンのお尻は」

「あら、そう……お眼鏡に適っているようなら、んっ……良かったわ」

 

 やっぱり訊ねるのも同じだけ恥ずかしかったわね。うつ伏せだからシーツに顔を隠せて良かったわ。きっと赤くなりすぎて茹ったみたいになってるでしょうから。もう遅いかもしれないけど、彼には綺麗な自分だけ見ててほしかった。

 

「綺麗な自分、か……」

 

 何気ない思考がチクリと胸に刺さった。字面通りの意味だけでなく内面の方まで思考が飛んでしまう。

 裏社会で様々な行為に手を出している以上、どんな信念や結果があろうと『綺麗な自分』だとはとても言えない。血と陰謀に塗れたこの顔と手は本当に綺麗なものと言えるのかしら?

 一度考え始めると気分が落ち込んでしまう。普段は気にならないことだけど、やっぱりドクターと繋がっていると自分の業をマジマジと見せつけられるようで。やっぱりこんな私はドクターの傍に居るには汚れすぎね、こうして背徳的な性行為に耽る程度でちょうど良い塩梅よ。

 

「心配せずともリンは綺麗だよ」

「そう、ありがとう。見た目には気を配ってるから嬉しいわ」

「いや、それだけじゃなくて。君は別に汚れていないし、そんな君だから私は好きになったと伝えたかった」

 

 ……好きになったって、もう言っちゃってるじゃない。あくまで明言はせずに今の関係を続けようとしてたのに今ので台無しよ。ドクターらしくもないわ。

 だけど口の端に昇ってくるのはかすれた「ズルい」という言葉だけ。どうしてドクターはいつもいつも、相手が望む言葉を即座に渡すことができるのだろう? 心でも読まれているのか、それとも私の思考が分かりやすすぎるのか。きっと前者なのだと信じたい。

 

「ドクター、それ以上はダメよ。今更かもしれないけど私たちは結ばれるべき関係性では──」

「関係ない。やはり私は陰謀や迂遠なやり取りよりも、直接的に想いを伝える方が好みのようだ」

「……ふふっ、何よそれ。謀を巡らせて、相手の意図を容易く読み取って、自分の望む方向へ状況をお膳立てできる人の言う事じゃないわ」

「そうだろうか? やはり慣れない口説き文句はまだ私には早かったらしい」

 

 私の上で恥ずかしそうに身じろぎしたドクターは、どうやら本当に恥ずかしがっているようで。あからさまな苦笑の気配と照れ隠しの混じった様子に感じたのは、無責任な言葉に対する怒りと、どうしても湧き上がってしまう喜びの感情だった。

 

「ユーシャ」

「……っ!」

 

 耳元で、急に名前を呼ばれた。普段と違う呼び方に身体がビクリと反応した。今もお尻に差し込まれたままのドクター自身をギュッと締め付けてしまい、「んっ」と声が漏れてしまう。

 これまで止まっていたピストン運動が緩やかに律動を再開しだす。お尻の穴を掘削される奇妙な快感がじんわりと広がって、頭が正常な思考を放棄し快楽へ屈しようと叫んでいる。アナルで感じることへの羞恥はとっくの昔にどこかへ追いやられていた。

 

「私は君が欲しい。身体だけの関係では満足できないんだ。どうか心も明け渡してはもらえないだろうか?」

「っ、あぅ……傲慢な、物言いね……こんな変態チックなことをしておいて、まだ満足できな、んぐっ……!」

「そうだ。君の懸念は分かっているが、敢えて言おう。だとしても私は君が好きだ、恋人になってほしい」

「それ、は……っ!」

 

 口ではどうにか反論しようとしている。だけどパン、パンと腰を打ち付ける音が響く度に嬌声が漏れ出して、まとまる事なく呆気なく霧散する。代わりに残されたのは理性に反した大きすぎる歓喜だけ。

 だって本当は恋人関係になりたかった。彼の方から迫ってもらいたかった。しかしそれは現実的でないと諦めていたのに、望んだシチュエーションが真正面からやって来ている。一も二もなく頷いて幸せになりたいと本能が訴えてかけて、いて──

 

「お願いドクター、それ以上は言わないで……嬉しすぎて、全部を(なげう)ってしまいそうだから……」

「なるほど、分かった」

 

 ドクターの返事はいっそ怖いくらい素直だった。でもこれで納得してもらえた、今の関係のまま継続できると安堵した次の瞬間、ばちゅんっ!! と一際大きな水音がお尻の方から飛んできた。

 あまりにも勢いの強いストロークを肛門へ叩きつけられたのだと頭が理解した時には、もう遅かったの。

 

「えっ──ひぎゅっ……!」

 

 グリグリと直腸の奥を抉るように擦られて、情けない声と共にぷしゃりと割れ目から何かが噴き出た。「ああ、これが潮吹きなのね」と他人事みたいに頭は考えていて、身体は脊髄反射でビクビク震えて絶頂を受け止めて。唐突すぎる乱暴で強烈な快感の渦に頭が白黒してしまう。

 

「ドクター、何を──」

「君がもっと素直になってくれるまで、徹底的に抱き潰す」

「な……!」

 

 信じられない台詞だった。いつも優しくて丁寧なドクターの口から出たとは思えない。相手をセックスで無理やり言う事聞かせようとするなんて、そんなの強姦(レイプ)と何も変わらないじゃない。幻滅した、付き合い切れない、早く抗議して組み敷かれた体勢から抜け出さないと。

 

「な、なら……やってみなさいよ。終わった後で互いの間に『信頼』が残っているかどうか、確かめてみればいいわ」

 

 なのにどうして私は、拒否するどころか受け入れようとしているの? まして声音は嬉しそうに弾んでいて、頬が緩んでいたのが自覚できてしまう。まったく逃げる気がないどころか自分から僅かに腰を持ち上げている様など、もはや雄へ身体を捧げていると思われて当然の所業でしょうに。

 だからドクターも遠慮することなく腰を思い切り突き出し、打ち付けてきた。男性に覆いかぶされた獣同然の交尾、しかも性器ではなく後孔を用いた背徳的な交わり。取り繕うこともできずに嬌声を垂れ流す様は壊れたラジオを彷彿とさせた。

 

「あっ、ああっ♡ だめ、はげしい、からっ……すこし、とまって……っぅ!」

 

 訴えてもドクターは止まってくれない。全力でピストンを繰り返して、私の気持ちいいところを執拗に責めてくる。直腸を埋め尽くす勢いでドクター自身が膨らんで苦しいくらいなのに、その全てを私の身体は快感に変換して蕩けている。抵抗なんて一つもできない、ただ好きな人(ドクター)と交わる悦びだけが全身を支配して──そこで呆気なく限界は訪れた。

 

「やだ、だめっ、イっちゃう、からぁ……っ!」

「ユーシャが可愛くイくところもたくさん見せてくれ!」

「っ、がまん、できな──イっ、くぅ……っ!」

 

 ドクターはこんな私のことを、心の底から好いてくれている。愛してくれている。その証明を言葉と行為に乗せてこれでもかと叩きつけられて、心の中は砂嵐が吹きすさぶ荒れ模様。建前で飾られた城壁が強烈な砂塵を前にガラガラと崩れていって、隠し守られた本音がむき出しにされてしまう。

 

「んぎっ……!? そこ、尻尾……!」

 

 犯すだけでは飽き足らず、ドクターは私の尻尾の根元を掴んできた。突然の事にも身体は正直に反応して、もっと甘えようと腕にぎゅーっと巻き付いてしまう。甘える子供みたいな我が儘を発揮してドクターを繋ぎ止めるなんて、もう誤魔化しようがないじゃない。

 悟ってしまった、これじゃ逃げることなんて不可能よ。身体は既に落ちていて、心も陥落寸前の状態。意地を張ったところで待っているのは苦しい肉体関係だけで、我慢した先に報酬は一つとして存在しない。甘い方へ、楽な方へ、心が流されていくのを止めるだけの意思は既に残っていなかった。

 

「ドクター……好き、よ」

「ユーシャ、私もだ……ありがとう」

 

 耳元で感謝の言葉を囁かれた直後、いっそう強く腰が突きこまれてお腹の奥に膨大な量の体液が注ぎ込まれた。『びゅーっ』という効果音が聞こえそうな勢いで放たれたのはドクターの精液で、何度も口で受け止めてきたものを下の出口(いりぐち)から飲み干してしまってる。お腹がどんどん精子で膨らんで違和感が肥大化するのに、幸福を感じて絶頂していることを誤魔化せなくて──プツリと電源が切れたみたいに、そこで意識を失ってしまったのだった。

 

 ◇

 

 目覚めた時、既に身体は綺麗にされていた。

 全裸で横たえられた状態で清潔なシーツを被せられ、隣にはドクターが横になっている。まだお尻に何か入ってるような違和感はあるけど、特に痛みはなく怪我をした様子もない。彼の大きすぎる一物でめちゃくちゃに壊されていないかだけは、いつも不安になってしまう。

 

「ユーシャ、身体は平気かい?」

「ええ、誰かさんが全力で犯してくれたせいで意識が飛んだだけよ。お尻も別に問題ないわ」

「はは、すまなかった。乱暴に犯してしまったのは謝ろう」

「……別に怒ってないわ」

 

 本当は一言くらい文句を言ってやろうと考えてたのに、まるで恋人みたいに「ユーシャ」と呼ばれた途端に負の感情は喜びの感情で塗り潰されてしまった。それと同時に意識を失う直前に口走ってしまった言葉を思い出した。今更もう、後に引くことはできないわよね。

 

「ドクター、あなたの気持ちは嬉しいわ。だけど私は、必要であれば非合法な手段だろうと選択する女よ。時と場合によってはあなたを切り捨ててでも目的を達しようとするかもしれない。本当に──」

「心配せずとも、私は常に君にとって利用価値がある人間で居続けるさ。だから君が恐れるような事は何も起きないし、清濁併せ吞む意味も理解してる。これじゃ答えにならないだろうか?」

 

 その真っ直ぐすぎる台詞についつい毒気を抜かれてしまって、

 

「……まったく、さっきまでお尻エッチで興奮してた人とは思えない台詞ね」

「性癖は、触れないでくれると嬉しいかなって……」

 

 意地悪く揶揄ってしまうとドクターは困ったような笑みを浮かべてくれた。何でもお見通しのクセに、こういう顔を浮かべるところが好きなんだなと改めて自覚してしまう。

 でもこれで、本当にこの人と恋人になってしまったのね。噛みしめるだけで胸の中が幸せでいっぱいになるけど、だからこそ乗り越えるべき障害もたくさん思い浮かんでしまう。

 

「近い内に、一緒に龍門へ行きましょう? あなたに見せたい景色がたくさんあるし、会わせたい人もいるから」

「ああ、いつでも誘ってくれ。挨拶に行く覚悟はとっくの昔にしてるから」

「そう、なら良かったわ。それから……」

 

 しゅるりとドクターの腕に巻き付けた尻尾を引き寄せ、むき出しのお腹に触れさせる。先ほどは直腸にたくさん射精されたけど、本当はどこに精子を吐き出すべきかを知らしめるように……ドクターの大きな手のひらに子宮の上を撫でさせた。

 

「いつかはこっちも愛してもらう予定だから、二人で計画は立てておきましょうね。ドクター?」

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