※この作品はR-18です。

純性癖ナイツ   作:ひかりねこ

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付き合ってるリン・ユーシャとイチャイチャする話

 龍門郊外、古びた倉庫区画にて──光を避け、夜の闇に紛れるように集まる男たちの姿があった。

 

「よう、首尾はどうだ?」

「ぼちぼちってところだ。だが、これは悪くないビジネスだな」

「だろ? 感染者だって金になるんだ、潔癖症の奴らはサッパリ分かってくれないけどな」

 

 男たちの種族は様々、しかし誰もが黒いスーツを身にまとって没個性だ。もし彼らが市井の中に入ればたちまち一般的な会社員として紛れ込めるだろうが……この場に集った十名あまりの中に、一般人(カタギ)は一人も居ない。マフィア、ギャング、闇商人。形容するならそれらが一番近しいだろう。

 繁栄を謳歌する龍門の裏で暗躍する者はいくらでも存在し、彼らもまたその内の一部に過ぎない。だが男たちは近衛局でも足取りを掴めていない程度には狡猾で慎重だった。よって己の成した悪事をほくそ笑み、余裕をもって取り分を確認する暇さえあるのだ。

 

「鉱石病に利く鎮痛剤って言ったら飛びついてきたよ。有り金叩いて『子供のために』とか言っちゃって、まったく泣けるねぇ」

「多少警戒されたがアレだ、えーっと……そう、ロドス製薬だ。その企業の薬だって紹介したらコロッと信じてくれたぜ」

「こっちはガキを二匹ほどだな。親無し、知り合い無し、消えた所でバレはしねぇし気付いた頃にはずっと遠くで死ぬまで労働だ。それまでに爆発しなきゃいいんだがな」

 

 リーダー格の男が言えば、「違いねぇ」と下卑た笑い声が倉庫に響いた。少なくともこの場に真っ当な良心を持つ者は誰も居ない。暗がりで縮こまっている、縄で縛られたフェリーンの子供二人に心を痛めるような善人など期待するべくもないのだ。

 ほとんど効果の無い錠剤を特効薬として感染者へ売り捌き、数少ない所持金を搾り取る。あるいは身寄りのない感染者を捕まえ、使い捨ての効く奴隷として闇市へ流す。単純だが悪くない、少なくとも龍門で類似のビジネスは無く競合先も存在しなかった。やはり鉱石病(オリパシー)という不治の病への恐怖が二の足を踏ませるのだろうが、なんてことはない。

 

「鉱石病(オリパシー)だろうが何だろうが、適切に対処と防護をしてりゃ怖くないのさ。たったそんだけで廃棄物が金になるんだから、こんな美味い商売はねぇ」

 

 むしろ使い道のない感染者(ゴミ)をリサイクルしてるのだから感謝して欲しいくらいだ、と男たちは本気で考えていた。

 さて、次はどのブロックに手を出すか。まだまだ感染者はいくらでもいるし、何となれば自分達で増やしたっていい。ビジネスは好きなだけ拡大できると笑う男たちだったが──

 

「なるほど、やはりここが君たちの根城だったか」

「……誰だ?」

「君たちに名を騙られた者、とだけ」

 

 突如割り込んできた聞きなれない声にリーダー格の男が反応した。倉庫内に積まれた荷物の陰から出てきたその人物は、黒いフードにマスクを付けた見るからに怪しい風貌の者。性別すら不明だが声音からして男だろうか? ともあれ、この場に来た以上はただで帰すわけにはいかない。

 

「へぇ、そいつは悪いことをした」

「だな、心当たりがありすぎて分からねぇが……ま、関係ないか」

「たった一人でのこのこやって来て、まさか無事に戻れるとは思ってないよな?」

「へへへ、売り飛ばす対象が一人増えちまったな」

 

 各々が武器を取り出しニヤリとし、怪しいフードの者へとにじり寄っていく。

 明らかに戦闘者ではない。むしろ小突けば倒れそうなひ弱さすら覚えるほど。正義感に駆られたのか、あるいは功を焦った大馬鹿者なのか。どちらにしても弱者を一人制圧するなど男たちなら容易いことだ。

 なのだが、しかし。フードの者は怯えた様子もなく、至極落ち着き払った声で喋り続けた。

 

「君たちは随分と慎重に事を運んでいたようだ。近衛局も鼠王も足取りを掴めてないとは、正直驚いた」

「……だがてめぇはたどり着いたな。どうやった?」

「市場にある金と物資の流れ、それに偽薬の売られた範囲を鑑みれば見当はつく。もう少ししらみつぶしする予定だったが、早めに当たりを引けて助かった」

「ちっ、頭の切れる策士様ってことかい。だったら一人でやってきた不運を──」

 

 呪うんだなと言いかけて、リーダー格の男は口を噤んだ。そこまで確信をもって自分達を探し当てた相手が、何の準備も無く姿を現すなど有りうるのか? ベラベラと種明かしを続けるのか?

 いや、そんなはずがない。ならばこれは、

 

「しまった、こいつは陽動──」

「もう遅いわ」

 

 またしても知らない声。今度は女だ。

 直感に導かれた男が弾かれたようにその場を飛びのいた直後、何か透明なものが仲間の身体を縛りつけて地面へ転がしているのが見えた。僅かに光を反射するそれは硝子のように煌めいていて、この龍門においてはたった一人だけ心当たりがあるアーツだ。

 果たして闇の中から音もなく登場したのは、菫色の髪を靡かせたザラックの美女。龍門の裏社会における実質的な支配者、『鼠王』の娘がどのような人物であるか、最警戒対象として男は知っていた。

 

「『紫色のリン』か……!」

「あら、私のことをご存じだったのね。だったら龍門で好き勝手に荒稼ぎすればどんな代償を支払う羽目になるか、知らなかったはずないでしょう?」

 

 紫の瞳は隠しようもない侮蔑と怒りの色が浮かんでいる。もはや容赦はしないとスラムの支配者から言外に告げられ、進退窮まったリーダー格の男は一歩後ずさった。ついさっきまで見えていた明るい未来の展望はとっくの昔に闇の底へと消えている。

 あまりにも呆気なく数の優位は覆り、自由なのは寸前で回避できた一人だけ。眼前にはかの『紫色のリン』が睨みを利かせている状況。せめて逃げ出すにはどうするかを考えて──男はもう一人の部外者へと走っていた。

 

「ちっ、これしか……っ!」

 

 見るからにひ弱そうなコイツを人質にして脱出する。この場を切り抜けるにはそれしか無い、倒れている仲間たちは見捨てよう。一瞬でそこまで考え実行に移した男の胆力は中々のものだったかもしれないが……まさかその行為こそ、『紫色のリン』の逆鱗に触れる行為だとは想像すらしなかった。

 

「その人に手を出せばどういう末路を辿るか、考えもしなかったようね」

 

 先ほどよりもさらに冷ややかな声がすぐ傍で聞こえたと同時、腹部と首筋に強烈な一撃を加えられ、あまりにも呆気なく男の意識は闇へと沈んでいったのだった。

 

 ◇

 

「ありがとう、ドクター。あなたの協力もあって迅速に問題を解決できたわ」

「いやいや、礼を言うのはこちらの方さ。おかげで実にあっさり鎮圧できた」

 

 龍門の陰に伸びるスラムは高く昇った月明かりに照らされていた。夜更けだからか人通りの無い道の真ん中を、影を伸ばして歩くのは二人の男女である。ロドスのドクターと『紫色のリン』ことリン・ユーシャだった。

 ザラックの美女は名の通りの髪を夜風に翻らせ、はぁと息を吐いた。先ほど男たちを相手に大立ち回りしたとは思えない物憂げな表情。隣を歩くドクターは内心でドキリとしてしまう。

 

「いまだに『鼠王』のひざ元であんなのが蔓延ってるのは私にとって恥よ。できるだけ早急に対策を練らないと」

「仕方ない、人は利権を求め誰かを虐げるのを楽しめるものだ。ここは君たちのおかげでスラムに似つかわしくない秩序を保っているが、それ故に付け入る隙も多いのだろう」

「一応、褒め言葉として受け取っておくわ。でも素直に喜ぶ気にはなれないわね……」

 

 ロドスの名を騙り怪しい薬を売りつける、他所から来たマフィア崩れのアウトローたち。周到に尻尾を隠す彼らを叩くのにリンはドクターの手を借り、勝手に名前を使われていたドクターは二つ返事で協力した。その結果が今夜の戦闘に繋がっている。

 結局リン一人に制圧された男たちは縛られ、匿名の通報を受けた龍門近衛局が来るまで無様にもがいていることだろう。捕まっていた子供は参考人として連れられる前に逃がしてしまい、信用できる相手に龍門幣──これも現場から勝手に拝借したものだ──を握らせてしばらく面倒を見る手筈になっている。

 

「だがそれでも、まずは一つ潰してみせた。十分に価値のある一歩だよ」

「……そうね。憂いてばかりでも仕方ないし、今はあなたの協力による成果を喜ぶべきかしら」

 

 まるでビジネスパートナーかのように淡々と話し合う二人だが、さりげなくリンの方が手を伸ばした。いじらしくドクターの手に触れて、意図を察したドクターが握り返して手を繋ぐ。どちらもそれが当然とばかりに動じないが、少なくともリンは手の平から伝わる体温に満更でもない様子だった。

 しばし月明かりの下を静かに歩く。言葉を発さずとも心地よい時間が二人の間を流れていく。信頼関係、愛や恋、あるいはビジネス的な繋がり、様々なものが両者の関係性を強く保って離さない。

 

「……着いたわ」

 

 少し古びたホテルの前でリンが口を開いた。やや薄暗い造りをしていて、あまり宿泊客が多いとは思えない外観だった。看板にはホテル名と休憩と宿泊でそれぞれ違った料金が書かれている。

 ここはもしかして──脳裏に過った予想を否定できずに躊躇うドクターの手を引いて、リンはスタスタと中へ入っていく。

 

「今夜は君がホテルを手配してくれる手筈だったが、ここなのか」

「ええ、そうよ。見た目は古いけど信用できる人がここの管理者なの。それに何より、他人の目を気にしなくて良いのがありがたいわ」

 

 言いながらリンは受付カウンターの隣にあるモニターを操作していた。内装一覧がずらっと並ぶ画面を興味なさげに動かし、彼女が選択したのは既に予約済みのマークが付いている部屋だ。何やら入力して鍵代わりのパスコードを控えているらしい。

 そういえばホテルのエントランスなのに誰一人見かけないとドクターが気付いた時には、もうリンに手を引かれて歩き出していた。

 

「さ、行きましょうか」

「あ、ああ……」

 

 どうにも慣れた様子のリンに落ち着かないものを感じつつ、ドクターは素直に従い後ろを歩く。誰とも顔を合わせないままエレベーターに乗った所でドクターは我慢しきれず訊ねてしまった。

 

「ここはいわゆる、その……ラブホテルというヤツではないか?」

「ええ、そうよ? それがどうかしたの」

「いや……驚いてしまってね」

 

 実にあっさりと肯定されてさしものドクターも反応に困った。つまりその、リンはセックスする前提のホテルを最初から予約していたわけで。彼女の方から求めてくれるのは嬉しいが、少々予想外だったのは否定できない。

 態度が表に出てしまったのか、リンは僅かに恥じらいを見せながらも毅然とドクターへ微笑んだ。

 

「へぇ、ドクターは私を抱くつもりは無いのかしら? 私はしたいと思っていたけど」

「そんなことは無い! ただ君の方からこういう所に連れてこられるとは、考えてなかったよ」

「別に来るのが初めてじゃないわ──って、そんな顔しないでちょうだい。単に人目を避けるのに都合が良かっただけ、あなた以外の誰にも指先一つ触らせたことは無いから」

 

 ピコン、と小さな音が鳴ってエレベーターが止まった。ドアが開けばどこかピンク色をした雰囲気の廊下にドアが立ち並んでおり、その最中を足早にリンが歩いていく。言葉は無く、焦れたような呼吸だけが廊下に響いた。薄暗い灯りの下、ザラックの尻尾は期待を隠すことなく揺れている。

 端っこの一室にある扉を開けて、二人揃って室内に入り込んだ瞬間に彼女は行動を起こした。

 

「んっ、ちゅっ……♡」

 

 ガチャンとドアが閉まった直後、ドクターはリンに唇を奪われていた。

 甘い声音は我慢の限界であった証左なのか。逃がさないとばかりに両手で頬を挟まれ、背伸びした状態で積極的に唇を合わせている。ドクターの鼻腔に届く上品な良い香り、瑞々しくて柔らかな唇の感触、ぬるりと滑り込んできた舌のまぐわい。あまりに濃密なディープキスにしばしドクターも我を忘れ、彼女の求めに応じるだけになってしまった。

 

「あむっ、じゅるっ……んむっ、ちゅっ……あなたとのキス、好きよ」

「私も、同じだ……」

 

 呼吸が苦しくなった頃にやっとリンのキス責めが終わり、新鮮な酸素がドクターの肺へと流れ込んだ。けれど先ほどまで濃密に浴びていたリンの残り香まで混じっているようで、身体の奥底から興奮が呼び起こされていく。 

 

「昔は『恋人同士がするようなことは控えましょう』と言っていたのに、随分変わったね」

「何よ、文句があるのかしら?」

「いいや、まさか。求めてくれるようになって嬉しいくらいだよ」

 

 裏社会に生きる者を震え上がらせるリン・ユーシャの睥睨(へいげい)といえど、可愛らしいジト目ではちっとも迫力がない。むしろ以前は自制していた甘やかな接触を自分から求めてくれる可愛げが勝るくらいだ。

 

「本当はもっとあなたの傍に居たいのだけど……ごめんなさい、ここしばらくは仕事が立て込んでいたから」

「気にしていないさ。むしろ、いつも秘書業務を手伝ってもらってたのが申し訳ないくらいだと反省してた」

「……反省する必要は無いわ。むしろ私以外にあなたの秘書を務めさせるのは癪だから、もっと頼りなさい」

 

 今度は腕を回して抱き着いてくるリンへ、ドクターの方も優しく腕を回した。誰に対しても一線を引いた雰囲気を崩さない彼女だが、今だけは満更でも無い様子でドクターへ身体を預けていた。リラックスしきった顔は他所では決して見られないものだろう。

 

「今の私たちは恋人同士なのだから。もっとたくさん、一緒の時間を共にしたいわ」

 

 ──紆余曲折あったものの、ドクターとリン・ユーシャは恋人として付き合っていた。

 

 まだホテルに着く前から親密に手を握っている時点で分かりやすい。しかし大々的に言いふらすのも時期尚早であると判断し、今のところは二人だけの秘密に留めている。大手を振って一緒に過ごせないのはもどかしいが、秘密の関係性も悪くないとドクターは考えていた。

 しかし龍門のスラム街で親密な姿を見せ、ラブホテルに泊まれば耳聡い者は必ず二人の関係性を察するだろう。リンがその事を考えないはずないだろうに、それでも恋人を求めた理由が、ほかならぬドクターには理解できる。

 

「すまない、寂しがらせてしまったようだね。安心してくれ、君以外の女性をそういう目で見たことは無い」

「……本当かしら? 放っておけば執務室で自慰行為に耽る人のくせに」

 

 懐疑的な目で見られてドクターは苦笑いを返した。以前に事故でオナニーを見られて性的な本をリンに捨てられて以来、たまにチクリと掘り起こされる度に頭が上がらなくなってしまう。当のリンも意地悪を楽しむような調子で一種のお約束と言えた。

 

「どんなエッチな妄想よりも、君と身体を重ねる方が気持ちいいからね。何ならオナニーだってしてない、君と会うまでに溜め込んでる」

「あら、そうなの。別に私を思い出してする分には怒ったりしないわよ」

「本物の君を知ってしまったらもう、想像だけじゃ満足できないよ」

 

 リンの細い身体に回された腕がスルリと下がり、スカートの内側へと遠慮なく入っていく。黒のストッキングの上から丸いお尻を撫で上げられてザラックの美女は敏感に反応した。艶めかしい吐息を隠そうともせず、ドクターの大きな掌へむしろ自分から押し付けるような仕草すら見せていた。

 

「んっ……♡ あなた、本当にお尻が好きよね」

「否定はしないが、君の身体ならどこでも好きだよ」

 

 むにゅむにゅ、グニグニとパン生地を捏ね回す手付きで尻肉が揉み込まれる。滑らかな肌触りのストッキングとショーツに守られたお尻を撫で回し、指を食い込ませ、その度に細い腰が揺れて次の愛撫を強請ってしまう。

 まだ部屋に入って一歩目の所で既に男女の身体は出来上がりかけていた。このまま欲望の赴くままに交わってしまう方へ天秤が傾いたドクターだが、襲い掛かる前にリンが咎めるように手を引いた。

 

「待って、ドクター」

「お預けのつもりかい?」

「そうじゃないけど……せっかく久しぶりに二人切りで落ち着けるのだから、もっと風情を楽しみましょう?」

「私は君を堪能して楽しみたいのだが」

「あらやだ、おじさまみたいな事言うのね」

 

 呆れたと笑うリンにドクターも仕方ないと頷いて、まずは性欲を引っ込めベッドルームへと向かうのだった。

 

 ◇

 

 いわゆるラブホテルと聞いてドクターがイメージしたのは派手なピンク色で大きなベッドが鎮座するものだった。しかしいざ中へ入ってみれば随分と落ち着いた雰囲気をした炎国風の誂(あつら)えで、たとえ家族で宿泊しても問題なく過ごせてしまいそうだ。

 しっとりした暗めのランプに照らされたソファへ座ったドクターは、勝手知ったる様子でグラスと酒を用意するリンを眺めながら「なるほど」と小さく呟いた。

 

「あら、何に納得したのかしら?」

「確かにここは、性行為以外にも使える場所だと思ってね」

「そうでしょう? 私もこのホテルはお気に入りなのよ。静かな雰囲気で過ごしやすいの」

 

 それでも中央に鎮座するベッドの威圧感は中々のものだが、ドクターはそこまで指摘する気は無かった。

 氷の入ったグラスへ酒が注がれ、ドクターへと手渡される。カランと耳に心地よい音が鳴った。酒精の香りを堪能しているドクターの隣へリンが腰を下ろし、身体を近づけ寄りかかる。二人切りだからか、明らかに距離感が近くなっている。

 

「今日はお疲れ様。私の奢りだから好きなだけ飲んでちょうだい」

「ありがとう、それじゃ乾杯」

「ええ、乾杯」

 

 グラスを打ち鳴らして酒を喉へと流し込む。度数が強めなのかたった一口でドクターの喉がカッと熱くなり、腹の中に火が灯ったかのようだ。さりげなく置かれたチェイサーで喉を洗い流すドクターを横目に、リンはもう半分ほど飲んでしまったらしい。何かに追い立てられるようにも思えるほどのペースだった。

 

「今日のリンはよく飲むな」

「…………」

 

 何気ないドクターの言葉に対して、先ほどまでの柔らかい雰囲気は何処へ行ったのか、リンは急に立ち昇った不機嫌そうなオーラを隠そうともしなかった。これ見よがしに身体をしなだれかからせ甘えているのに、だ。心なしか丸い耳もペタリと垂れて元気がない。

 突然の変貌っぷりに一瞬驚いたドクターは、すぐ理由に気付くと『そういうことか』と苦笑した。久々の逢瀬だというのに、少々女性に対する配慮が足りていなかった。

 

「すまないユ(・)ー(・)シ(・)ャ(・)、まだ気を張っていたようだ」

「本当に鈍感ね、気付くのが遅いのよ──んむっ」

 

 彼女の名前で呼んだ直後、リン・ユーシャは嬉しそうにドクターへとキスをせがむのだった。

 常は炎国の模範的な温和で優雅な女性といった振る舞いか、あるいは『紫色のリン』に相応しい冷徹でビジネスライクな側面を見せることがほとんどだ。どちらにしても相手と一定の距離を保つスタンスで、男に対して無条件で甘えるような女性とは誰一人思っていない事だろう。

 それが今ではこの通り。彼女をよく知る人物が見れば「夢でも見ているのか?」と疑うくらいの甘えっぷりだ。肩ひじ張ることなく、素の自分を曝け出せる相手にだけ見せる可愛らしい姿がドクターは好きだった。

 

「こうしてユーシャと二人切りになれるのは二か月ぶりか」

「ええ、しばらく龍門での仕事が立て込んで離れられなかったし、ロドス(あなた)も他国に行ってたから。寂しくて枕を濡らす日々が続いたわ」

「まさか『紫色のリン』を長期間外に連れ出すわけにもいかないだろう」

「私は一緒に行きたかったわよ? でも理性で抑え込んだだけ、本当はちっとも納得なんてしてなかった」

 

 炎国内ならまだ何とかなるのだけどね、とリンはぼやいた。以前にドッソレスや玉門に行ったことがあるとドクターは聞いたが、どちらも正式な使者として赴いている。それだけの理由が無ければみだりに龍門を離れられない立場なのだ、彼女は。

 それはドクターもまた同じ事で、可能であれば今日のように彼女の隣で支えてあげたいと願っても、立場と使命が許してくれない。もどかしい感情ばかり募るのは二人とも同じだ。

 

「再会してすぐこっちの事情に巻き込んだのは悪いと思ってるわ」

「今更水臭いな、互いに協力するのは当然のことだろう。むしろ力になれて嬉しかったよ」

「そう……ありがとう。頼りにしてるわ」

 

 それがリン・ユーシャという女性からの最大限の賛辞であるとドクターは知っていた。少し気恥ずかしくなってグラスを口元に運ぶと、まったく同じ行動をしていたリンと目が合う。どちらともなくクスリと笑ってから舌をアルコールで湿らせる。

 

「本当にたまに思うのよ、全部忘れて二人で遠い何処かへ駆け落ちとかしたらどうなるんだろうって」

「ロマンチックな想像だね。ちなみに、どうなると予想したか聞いても?」

「間違いなく後悔する──本当はあなたと結ばれる事すら我慢する気だったのに、全部投げ出したら私は『リン・ユーシャ』ではなくなるもの」

 

 背負う立場はあまりに重い。故に一度背負ったならば軽々しく降りることなど許されない。どれだけ二人の気持ちが通じ合っていたとしても、担うべき責任からは決して逃げられないから。

 

「……もし、あなたを軽んじてるように聞こえたらなら謝るわ」

「謝らなくていい、それでこそユーシャだ」

 

 どちらも全てを投げ出すには理性的で真面目なものだから、最近は一緒に居られる時間も短くなってばかりだ。しかし責任を背負いながらも前に進む姿に惹かれたと互いに分かっているから、こればかりは仕方がない。もどかしさと美点は裏表なのだ。

 

「だからこういう時くらいは、たくさん話してたくさん触れて、溺れるほど交わりましょう?」

「ああ、同感だ」

 

 我慢を強いられた分だけ欲求を解放するときに心地よさもひとしおになる。

 会えなかった時間の重みは同じだけ互いを求める欲望へと変化する。目の前にいるパートナーに好きなだけ触れ合いたいと願っているし、触れて欲しいとも願っている。よってドクターがリンの胸へ手を伸ばした際も、彼女は自分から上着のボタンを外したのだった。

 

「はい、どうぞ」

 

 ドクターを誘うリンからは上品な花の香りと、微かに混じる汗の匂いがした。今夜の戦闘でほんの少し混じったその匂いはさながら媚香のようにドクターを誘惑し、性欲を掻き立てる。

 身体にフィットした黒衣の上着がはだけられ、奥に秘められていた下着がドクターの眼前へ曝け出された。上品な白レースのブラには菫色の大きな花飾りがあしらわれており、リン・ユーシャのパーソナルカラーとよく似合っている。

 

「相変わらず君は下着のセンスまで良いな」

「あなたに喜んでもらうために選んでいるのだもの、当然のことよ」

「ありがとう、嬉しいよ」

 

 まだほとんど服を着たままなのに上半身だけ下着を出した装いにドクターの興奮も高められていく。まして自分の為に選んだのなら脱がしてしまうのがもったいないくらいだ。

 それでもドクターはその下にさらに秘された柔肉を見るべく、ブラに手を掛けると上へとズラしてしまった。プルンとした白い双丘が照明に照らされたのも束の間、ふるりと揺れながらドクターの掌へ収まった。

 

「んっ……こうして胸を触られるのも、久々なのよね」

「まだ身体が慣れないなら優しくするよ」

「平気、よ……っ、あなたに抱かれる感覚を思い出して、自分でもしてた、から……♡」

 

 本来秘すべき恥ずかしい経験も隠さず喋ってしまうのは信頼の現れなのか。玲瓏なリンが自分を想って自慰をしている情報は一瞬でドクターの頭脳を支配し、彼の獣の如き欲望を解放させるのだった。

 常の服装からは分かりづらいがリンの胸はかなり大きめだ。男の視線を巧妙に避けている女性らしい部分を好き放題できるのはドクターだけの特権で。むにゅりと潰された胸へ指を沈めて揉み込み、硬く尖った先端を掌で転がす。コリコリした突起を擦り上げる度にリンの口から甘い嬌声が溢れ、愛しい相手からの愛撫に感じていることを隠そうともしていない。

 

「はぅ……気持ちいい、わ」

「良かった、そのまま好きなだけ感じてくれ」

「ありが、と……っ♡ ひゃうっ♡」

 

 ピンと立ち上がった乳首を軽くつねるだけでリンは一際大きな声をあげてしまう。それが恥ずかしくて咄嗟に手で口を塞ごうとしてしまうものの、それよりもドクターがキスを求める方が早かった。やわやわと乳房を弄られながら口では積極的に舌を絡め合い、貪るように唇を合わせていく。

 

「んっ、んむっ……♡ はむっ、ちゅっ……♡」

 

 かつて自分から制限していた恋人らしい行為(濃厚ベロキス)にリンはすっかり夢中だった。唾液を交換しては嚥下し、相手の口内を全て味わい尽くすように舌を走らせ動かして。口同士の接触よりもっと濃密かつ背徳的な交わりを何度も繰り返しているのに付き合ってすぐの初心な恋人のように熱烈だ。

 それがドクターにしてみれば『愛されている』感触となって心地よいものだから、つい愛撫にも熱が入ってしまう。まろび出た乳房をこれでもかと捏ねくりまわしつつ、ゆっくりと片手を下腹部の方へと寄せていく。まだ布一枚も脱いでいない硬い守りの上からでも、期待に火照った疼きがドクターへと伝わってくる。

 

「こっちもいい?」

「……ええ、構わないわ。タイツも別に破ってしまって平気だから」

 

 リンが「今夜の戦闘で少し破けてしまったし」と付け足したのを聞くや否や、スカートの中へ滑り込んでいたドクターの手がタイツへ爪を立てていた。ピッと破ける音が響くと共に指先が肌触りの良いショーツへ触れ、ぬちゃりと湿った水音を奏でてしまう。キスと胸責めだけでリンが感じてしまった証拠だった。

 

「ユーシャ、もう濡れてる」

 

 指先に付着した愛液をドクターがしげしげと眺めると、顔を赤くしてリンが視線を逸らした。

 

「……見せつけないでちょうだい、恥ずかしいから」

「私のせいってことにすればいい、君には何も悪くないさ」

 

 とはいえデリカシーは無かったなと反省しつつ、ドクターは再びリンの秘部へと触れていく。クロッチ部分はすっかり濡れそぼっており、軽く擦り上げるだけでニチニチと淫らな音色が聞こえてくる有り様。少し指先に力を籠めて押すだけで割れ目の形を感じ取れ、つぅ……となぞるとリンから「あうっ♡」と一際大きな嬌声が出た。一拍遅れて耳まで赤くしたリンが抗議の視線を送ってくるがドクターは気にしない。

 諸事情あって実のところリンはまだ処女だが、とはいえ前戯の度に触れられる前穴周辺はしっかり敏感になっている。指先を上部へ滑らせれば軽く膨らんだ突起が爪先にかかり、カリッ♡ と繊細な肉芽を刺激する。

 

「ひゃっ♡ ちょっと、そこは──んっ♡」

 

 クニクニ♡ コリコリ♡

 指先が躍るようにショーツ越しのクリトリスを弾いた。女の子の弱点を苛められるのがよほど気持ちいいのか、リンは喉を曝け出して快感に耐えようと必死だ。いつもの余裕ある振る舞いとはかけ離れた姿に気を良くしたドクターは、陰核を丁寧に擦りながら別の指先を下部へとそっと這わせていき──膣口よりももっと下、秘すべき不浄の窄まりを突いたのだった。

 

「──っ♡♡」

 

 裏門をぐにゅりと押し込まれた途端、ビクン! と面白いようにリンの女体が跳ね上がった。布越しにグリグリと指先を当てられるだけで身体が跳ね、声にならない嬌声がドクターの耳を楽しませる。言い訳のしようもなくアナルで快感を得ているのは明らかだ。

 

「良かった、こっちでもちゃんと気持ちよくなれてるね」

「あなたがっ♡ 私のお尻を開発した……ひぅっ♡ くせに……っ♡」

 

 菊皺をツンツンとタップしたり、グニグニと揉み込むように触ったり、手法を変えるだけでリンは面白いように身を悶えさせた。だがそれも仕方ない、彼女の後孔は既に性器として十全に開発されきっているのだから。

 アナル開発が順調に進んだのはドクター自身の密かな趣味と、妊娠を気にせず交われる穴という需要が合致した賜物だった。最初はあくまでセックスの代替行為としか考えていなかったリンも、ドクターによる丁寧な肛門拡張を重ねる内に快感を拾い始めて……今ではすっかり気持ちよくなれるよう躾けられている。

 

「久しぶりだけどちゃんと柔らかくて安心したよ。だけど、もし痛かったら正直に言ってね」

「分かってる、わ……っ、ん」

 

 もちろん、本来触らせるべきでない裏門を弄られる羞恥心はリンの中にある。今も顔から火が出そうなほど恥ずかしい。しかし好きな相手に身体を明け渡して喜んでもらえる快感はそれ以上に大きくて、抵抗せずに妖しい快楽を受け入れてしまうのだ。

 布越しに優しく、穴の皺を引き延ばすように捏ねられるのはどこか甘やかな快感があった。いつもはもっと大胆にドクターが責めるのだが、2カ月ぶりの逢瀬にリンを気遣っているのだろう。その優しさにまたリンはお腹がキュンとしてショーツを濡らしてしまうのだった。

 

「……ちなみにだけど、中は洗浄してあるから安心してちょうだい」

「そうなのかい? いったいいつの間に」

「あなたと会う前に済ませたわ……時間を無駄にしたくなかったし」

 

 であれば、とドクターは考える。今夜は密会していたマフィア崩れ達を仕留めに行ったのだから、その前にリンはお尻でのエッチを見越していた訳で。悪漢相手に汗一つかかない華麗な立ち回りを見せた美女が、実はアナルセックスに備えて腸内洗浄済みというギャップに、ドクターの興奮が高まっていく。

 そして、背徳的な交わりであろうとドクターとの逢瀬を楽しみにしてくれていたリンへの愛情もいっそう強まって、彼女にもっと奉仕したい欲求がドクターの中で芽生え始めた。労わって甘やかしたい欲求に導かれるまま、顔をスカートの中へと埋めていき──

 

「ちょっと、あなた何を──はうっ♡」

 

 濃く漂う雌の香りに誘われるまま、舌先を陰部へと伸ばしていた。

 上と揃いの綺麗な下着をどけた先には、淡紅色をした美しい花弁が蜜を称えて咲いている。まだ一度も男に貫かれたことのない無垢な割れ目に舌が触れると、それだけで歓喜にわななくように女体が震えた。こぽりと零れた蜜の出所へ舌先がゆっくり進み、綻んだ穴へ慎重に差し込まれる。

 

「ユーシャのここ、すごく甘いな……」

「や、めて……♡ 舌、入れながら喋らないで、よ……っ♡」

 

 いやいやするように首を振ってドクターを押しのけようとするリンだが、その手にはちっとも力が入っていない。快感に翻弄されて力が入らないのか、無意識にドクターからの舌愛撫を求めてしまっているのか。きっとどちらもあるのだろう。そう信じた舌がぬるりと局部をなぞると艶やかな声が奏でられるのだった。

 だが、ドクターの本命はこのぷっくりした陰裂ではなく、その下にある陰の窄まりである。薄い陰毛に隠れたクリトリスを吸い上げリンが気をやった直後、身体から力が抜けた隙を逃さず菊皺へ舌をそっと触れさせた。

 

「ひゃっ──ダメよ、そこは汚い、からぁ……♡」

「さっき洗浄を済ませたって言ってたじゃないか」

「そういう事じゃ、なくて……んあっ♡」

 

 多分に唾液を含ませた舌がツンツンと裏門をノックする度、リンはビクビクと身体を跳ねさせた。先ほどの軽い陰核責めにも劣らない敏感さだ。しばらく間が空いたとしても、ちゃんと性器としてドクターに愛されることを忘れていなかった後孔を褒めそやすようになぞり、舐めて、じっくりと解していく。

 ドクターと並んでソファに腰かけていたはずのリンは、今や浅く腰かける体勢で腰を突き出し、黒タイツに包まれたしなやかな両足を持ち上げられた格好で。その下で傅(かしず)くドクターに奉仕をさせているのか、はたまた彼の欲望を満たすべく身体を捧げているのか、きっと本人たちも役割を分かっていないだろう。

 

「んっ、あっ……♡ やぁっ……それ気持ちよく、なっちゃって……♡」

 

 ただ一つ確かに言えるのは、ドクターからすれば不浄の門だろうと直に愛せるのは当然の行為であり、リンはそれだけ愛してもらえることに羞恥以上の悦びを感じているのである。

 不浄のはずの裏門は丁寧に磨き抜かれた甲斐あってか汚れや匂いはなく、それどころかフローラルな香りすら漂っていた。丹念な愛撫によってもう一つの役割を思い出した肛肉は柔く撓み、それまで入口を弄るに留めていた舌先をつぽっ♡ と至極あっさり肛門内へ迎え入れてしまう。そのまま円を描くように動きまわるだけでぐにぃ……と肛門括約筋が広がり、雄棒を受け入れる柔軟性が保たれていることをアピールする。それを確認したドクターは最後のチェックとばかりに指先に愛液を塗り付けると、舌と入れ替わりで指二本を揃えて挿入したのだった。

 

 ぐぷっ♡ ぐぬぬぬぬ……っ♡

 

「ひ、ぁ……っ♡ んぐっ、んっ♡」

「すごいな、お尻が指に吸い付いてくる」

 

 久々だからなのか、リンのアナルは美味しそうにドクターの指を頬張ってモグモグと咀嚼している。細い指を二本咥え込んではきゅうきゅうと吸い付き、ぬるついた温かな腸内でこれでもかと歓迎してくれる。そこに苦痛や緊張の様子は一切なく、むしろもっと太いものが欲しいと強請っているかのようだ。

 だからドクターはさっさと指を引き抜いてしまうと、クパクパと期待に引きつく菊門へいきり勃った肉槍を押し付けた。既に勃起しきった太い肉幹は血管が浮き出るほど脈打ち、しばらくぶりに彼女の内部へ潜り込める悦びに打ち震えている。先走りを塗り付ける様は『これからお前を貫く』とマーキングしているかのようだ。

 

「不思議ね……何度受け入れても今のあなたが一番熱く感じるわ」

「君が魅力的すぎるから悪いんだ、いつまでだって飽きないし滾ってしまう」

 

 上気した頬とイかされて薄っすら浮き出た汗が、妖しい魅力となってリン・ユーシャという美女を飾り立てていた。まして中途半端に服を着たままなのが尚更『紫色のリン』を犯す実感をドクターへ与えてくれるのだ。

 

「……ありがと、あなたに褒めてもらえるのが一番好きよ」

「そうか、君の一番になれているなら嬉しいよ」

 

 はにかんだドクターは腰に力を籠めると、グッと前へと突き出した。

 ぷにぷにの肉輪にガチガチの亀頭が押し込まれ、大した抵抗もなくフワリと広がった先へ侵入を開始する。太くて硬い逞しい一物がわが物顔でリンの内部へ押し入り、温かな腸襞に包まれながら美女の最も奥を目指して乗り込んで──ぐにっとした感触と共に、S字結腸(行き止まり)へと到達した。

 暴力的な大きさの全てを後ろで吞み込んだリンはといえば、大きく深呼吸しながら安堵したようにお腹を撫でていた。

 

「はぁ……ふぅー……良かった、あなたのを受け入れられたわ」

「もしかして不安だった?」

「少しだけ、ね……っ、時間が空いてしまったから、あなたの形をお腹が忘れてたらどうしようって思ってた」

 

 だけど実際には、開発してくれた恩人であり唯一侵入を許した相手の事を身体はちゃんと覚えていた。ドクターの一物しか知らず、また今後も決して許すことが無い後孔は健気に彼の形だけを記憶して、今も少し硬さを残しながらも再開を喜ぶように蠕動し吸い付いている。

 その事実がたとえようもなく嬉しくて、ドクターは下腹部に力を籠めなければならなかった。でなければ、心地よさと満足感ですぐに射精してしまいそうだったから。僅かでも律動を開始すれば暴発しそうな肉槍を抑え、リンと一緒に気持ちよくならなければと思うのだが──

 

「ごめんなさい、挿入されただけでイっちゃいそうで……っ♡ はしたない女と思わない、で……♡」

 

 ドクターが動き出すまでもなく、実にあっさりリンの方が絶頂を迎えてしまった。

 精神的な充足感による快感が大きかったのだろうか。まだ大した刺激も無いまま絶頂に導かれたリンは身体を震わせ、割れ目からはお漏らしのように透明な液をピュッ♡ ピュッ♡と噴く。それがショーツを濡らし、ソファを濡らし、ドクターの身体までもかかって雌の香りが立ち込める。

 もちろん、ドクターとしては想定外だ。彼女と一緒にイくために我慢しようとした矢先に絶頂されて梯子を外されてしまった。憤りとも肩透かしとも、あるいは絶頂してくれた事の歓喜ともつかない感情をどこにぶつけようかと一瞬迷って……ちょうどよく欲望を吐き捨てられる場所があることに気付いたのだった。

 

「すまない、私の方も限界だ」

 

 一言謝り、1ミリでも深く結合すべくグリグリと腰を押し付ける。リンの方も察した様子で穏やかに目を閉じた。肉竿の根元を握り込む肉輪がキュッと窄まり、直腸がピッタリと吸い付き男根を導いた。

 そして、普段よりも遥かに早い段階でドクターが射精欲を解き放つ。びゅくびゅくと雪崩れ込む精子の量は膨大で、リンの直腸を溺れさせるまで止まらないのかと錯覚するほどの量だ。この逢瀬に至るまでの間に自慰すら禁止していたドクターの苦行が、好きな相手を内側から染め上げる征服感へと変換された瞬間だった。

 

「……まるでお浣腸をされたみたい、お尻の方で孕まされてしまいそうね」

「あー……溜め込んでものを全部吐き出したから。すっごい気持ち良かったよ」

「そう、良かったわね」

 

 何でも無さそうな顔で淡々と喋るのはリン・ユーシャの照れ隠しだとドクターは知っていた。むしろ彼女は直腸射精(なかだし)されてまた甘イキしたのだと、ピンと伸びたザラックの尻尾が雄弁に物語っている。

 クールな表情が快感で崩れる様も、それを取り繕っていつも通りの様子を見せようとする姿も、ドクターはどちらも好きだった。まして自分から背徳的な性行為を許してくれる優越感といったら、大いに男心を擽ってくれるのだ。

 

「ふぅ……お互いに一度気持ちよくなったことだし、少し休憩しましょう? シャワーを浴びたい気分なの」

「夜はまだ長いから、焦る必要も無いか。君のペースに合わせるよ」

「ありがとう」

 

 気楽に話し合いながら、まだ挿入されたままの男根がほぐれた肛門から抜け落ちていく。めくれ上がった肛肉の感触にリンが甘い吐息を零す。ぐぽ……っと開いた空洞から白濁を垂らして、ピンク色の花弁は『まだ足りないの♡』とばかりにヒクヒクと震えていたのだった。

 

 ◇

 

 いったん小休止として互いにシャワーを浴びた後、二人は裸のまま繋がりダラダラとした時間を過ごしていた。ソファに腰かけたドクターの上へさらにリンが腰かける形でアナルを明け渡し、いきり立った怒張を腹の奥へと収めている。一度腸内射精(なかだし)までされた肛肉はシャワーを浴びて温まり、よりホカホカの扱き穴になって一物を歓待した。

 きゅうきゅう締め付ける穴の感触を楽しみながら、激しく動く事もなくのんびり会話を重ねる二人。身体で深く繋がりながら、会えない期間の空隙を埋めるべく穏やかな時間を満喫していたのだが、

 

「こんな時にいったい何よ……ごめんなさい、少し確認させて」

 

 テーブルに置いてあったリンの携帯端末が急に音を鳴らして自己主張。あからさまに不機嫌な様子になったリンは、仕方なしに端末を手に取ると届いた文面に目を走らせる。険しくなった顔つきからしてスラム街関連の緊急事態なのだなとドクターは予想した。

 

「はぁ、仕方ないわね……とても業腹だけど急いで返事しないとダメみたい」

「君の立場なら仕方ないさ。ならいったん抜いて──」

 

 交わったままだと集中できないだろうと腰を浮かしかけたドクターは、リンが発した「その必要はないわ」という言葉に制止された。その言葉を裏付けるように裏門はキュッとドクター自身を締め付けて放そうとしてくれない。

 

「別にこのままで良いわ。通話する訳じゃないから問題も無いし」

「……良いのか?」

「良いに決まってるでしょう? 私はあなたを無視して他人とやり取りするのだから、あなただって私を無視して好き放題する権利がある。それで貸し借り無しよ」

 

 やや早口なのは彼女自身も気恥ずかしさを感じているからだろう。それでも前言を撤回する気は無いようで、ドクターの上に身体を預けたまま動こうとしない。唯一尻尾だけが緊張と羞恥を照れ隠すように忙しなく動いている。

 

「これは、この貴重な時間を無為にしてしまう私からの誠意だと思って。だからあなたは私の意思を無視して、オナホールのように乱暴に扱っても全然構わないの」

「オナホールだなんて──」

「まったくもう、今日の私たちの活動で勢力図が動くなんて、今晩くらい大人しくしておくことはできないのかしら……」

 

 ドクターが答える前にリンはもう小声で苛立ちを呟きながら手に持った端末へ視線を落としていた。その顔はどこまでも真剣そのもので、試しに横からドクターが覗き込んでも一瞥すらしない。よほど集中して頭を回しているようだ。確かにこれはすぐ傍にいるパートナーに無視されているような構図であり、普通のカップルなら面白くない展開だろう。

 さて、とドクターも真面目に考えてみる。後ろで交わったまま放っておかれる間抜けな状況だが、リン自身から好きなようにして構わないとお達しが出ている。あまり酷いことをするのは彼の趣味でないが、気遣って一切手を出さないのも逆にリンが気に病むだろう。それで彼女の罪悪感が晴れるなら構わない。

 

「それなら、ユーシャのアナルオナホを使わせてもらおうからな」

 

 敢えて口に出してみてもリンは反応しない。完全に聞き流している──わけでもないようで、赤くなった丸い耳がピクリと動いたのをドクターは見逃さなかった。それと同時に身体が弛緩し、男根をより受け入れる体勢を整えたて、秘部から垂れた愛液がドクターの足へポタリと落ちたことも。

 ドクターの手が細い腰を掴んだ。責めの前兆にビクリとリンが震えるも携帯端末から目を離すことはない。今はあくまで仕事優先モードなようで、ならばその余裕を奪い乱れる姿を見てみたい。加虐的な気持ちが芽生えたのは、やっぱりドクターにも無視されて寂しい気持ちがあるからなのか。

 

「乱暴にするけど、本当に辛かったら言ってね」

「…………♡」

 

 耳元で囁かれた最後の予防線(いいわけ)に、リンはコクンと僅かに首を振った。

 それを合図としてドクターが思い切り腰を突き上げた。ずちゅん! と重々しい水音が響き、収まったままの肉槍が美女の最奥を突き崩そうと責め立てる。後ろ側から大事な部屋(しきゅう)を突き上げられ、前が勘違いしたのかこぷりと一際粘ついた愛液が吐き出された。

 

「後ろからおまんこ叩くとすっごいよく締まる……!」

「…………っ、♡」

 

 普段ならリンがあまり好まない淫らな言葉での感想も遠慮なく述べてしまう。今の彼女は性処理用の肉道具(オナホ)であり、好きに犯して良いと言質を取っているのだから。道具を相手に良心がどうだの考える人間は一人もいない。

 白い柔肉に食い込むほど指先に力を籠めたドクターは、リンの引き締まった身体を何度も上下に往復させた。肉棒の扱き穴と化した肛門はすっかり主人の形を思い出して専用のケースに堕ちている。括約筋の肉輪が竿を締め上げる度にキツイ感触と共に刺激が走り、内側のふわとろの襞に絡みつかれる感触が極上のものとなるのだ。

 

「あー、ユーシャのお尻のなかあったかくてフワフワしてる……このまま後ろで孕ませられたらいいのに」

「っ、……♡ ……っ♡」

 

 わざとらしい下卑た言葉まで使いながらドクターは何度も彼女の身体を揺らし、また自分も腰を突き上げて極上の裏門を貪り尽くした。一突きごとにキュッと締まる出口(いりぐち)も、行き止まりが無いほど奥まで受け入れてくれる直腸も、吸い付くように絡みつく狭い内部も、何もかもが気持ちいい。重たい水音が響いた回数だけ刺激が走り、一物がさらに硬く硬く勃起して後孔を穿り返すのだ。

 もはや言い訳の余地なく性器と化した尻から伝わる快感を少しでも多く長く味わうのに必死だ。そしてリンの方も、クールを装い切れず漏れた嬌声が少しずつ聞こえ始めた。まだ携帯端末に視線を向けて指を走らせているから、きっと部下に対する返信を打ち込んでいるのだろう。それがまさか尻穴を犯されながら練られた文章だと相手は夢にも思わないだろうし、そのアブノーマル感がより興奮を煽るスパイスとなる。

 

「っ、射精(で)る……!」

 

 まずは一回目の射精を我慢せずにドクターは解き放った。びゅくびゅくと熱々の直腸に精液が直に浴びせかけられ、リンの身体はゴクゴクと美味しそうに咀嚼しては呑み込んでいく。だがドクターにたった一度の射精で終わらせる気は毛頭なく、まだ硬いままの剛直をしきりに揺すって次の射精へと高めていく。

 

「…………っ、んっ♡」

 

 ──これが堪らないのはリンの方だ。せめてドクターへの詫びにと身体を開いたのは良いものの、ここまで激しく求められるのは想定外で、開発されきった菊門から走る快感に腰砕けになりそうで。早く臨時の仕事なんて終わらせてドクターとの逢瀬に集中したい、でもドクターに気持ちよくさせられて進まないジレンマに陥りかけていた。

 

「私はまだ満足してないから、オナホを使わせてもらうよ」

 

 この葛藤をしている間も当然ドクターの責めは続いている。今は後ろから手を回されて、豊満な胸をがっしり鷲掴みにされている。大して力の込められていない握り方はリンが痛くないよう気遣っているのが丸分かりで、その喜びがまた彼女の子宮に熱いものを届けてしまう。

 

「ふぅ、んっ……♡ ぁ……♡」

 

 いつもより激しく求められ、ガツガツと後ろから突かれているからか、アナルだけでなく子宮へ走る刺激に耐えるのでリンは精一杯だった。まだ一度も異性に貫かれた事の無い処女穴の先、子作り部屋の入口部分をコツコツと叩かれる度に目まぐるしく快感が襲ってくる。「こっちも征服してほしい、いまお尻に解き放っている熱いものを注いでほしい」と口走りたい欲求を必死に抑え込む。

 せめて気を紛らわそうとリンは手に持った端末に意識をやった。快感に翻弄されてか指が白むほど強く握り締めたそれは、もう少しだけ文面を練って送信すれば完了だ。だから最後の気力を振り絞って、震える指先で画面をタップするのだが……再び熱いものをお腹の奥深くで解き放たれて、あえなくリンは絶頂した。

 

「──……っ♡♡」

 

 もう仕事どころじゃない、ドクターに好き勝手翻弄されて気持ちよくなるのを止められない。優しく揉みし抱かれる胸の先っぽも、指の腹で慎重に押し潰される陰核も、太く硬いのを受け入れてる後ろの穴まで、全てが痺れるほど気持ち良い。頭がピンク色の靄で塗り潰されて何も考えられなくて、空っぽのバカみたいな女になってしまう恐怖に悶えながらリンはドクターに身体を委ねてしまう。

 だけどケジメは付ける必要があって、今必要なのは文面を完成させて終わらせること。自分をそう叱咤したリンは何とか文章を書き上げると、震える指先で送信ボタンを押した。何度も何度も貪られて、ピストンされて、絶頂させられた中でも文章の乱れが無いのは彼女の矜持が成せる意地であり──それが最後の一線を繋ぎ止めるものだった。

 

「やだっ、ダメっ……♡ イっちゃ、うっ……~~……っ♡♡」

 

 一際強く奥を小突かれた瞬間、それまでリンの中で抑え込んでいた快感が一挙に爆発した。もう我慢する必要のない解放感、溜め込まれた性感、ドクターに激しく求められた悦びと、それでも優しさを忘れないところ……そういった全部が彼女の中でごちゃ混ぜになって、うねって、途轍もない絶頂となって爪先から頭の上まで駆け巡る。

 

「リン……もう緊急の用事はいいのかい?」

「はふっ……んっ……っ♡ ちょうど終わったところ、よ……っ♡」

 

 肩で息をするリンはぷしゃりと潮を吹きだして、クタリと身体の力が抜けてしまった。緩んだ尿道口からちょろちょろ漏れているのは潮なのか、それとも小水が溢れているのか。本人に止めるだけの余力は残ってなかったし、ドクターはどちらでもリンのなら汚いはずが無いと信じ切っていた。

 二人の呼吸が少し落ち着いた頃を見計らって、一物が後孔からゆっくりと引き抜かれた。立ち上がったリンのお尻からは精液がボタボタと溢れ落ち、ピンク色の菊皺を白く淫猥に飾り立てている。その様子にドクターは興奮し、本人は少々引き気味だ。

 

「提案したのは、私だけど……本当に随分激しくしたものね」

「好きしていいなんて煽られたら私だってそうなるさ。頑張って我慢しようとしてるユーシャは可愛かったよ」

「…………ばか」

 

 可愛いと言われるだけでどうしてもリンの頬は緩んでしまう。美しいとか玲瓏とか、ありきたりな美辞麗句で飾り立てられることは数あれど、極単純に彼女を評価してくれる人間はもう近くに居ないから。飾り気のない素直な言葉で褒められるのが一番嬉しいと感じてしまう。

 

「だけどお疲れ様。こんな時でも責任を果たそうとする姿はカッコよかったよ」

「褒められてもお尻を犯されながらじゃカッコ付かないわ」

「そんな事はない、仕事とプライベートをどっちも妥協しないのも一種のステータスだろう」

「はぁ、まあそういう事にしといてあげる」

 

 今更この変態ドクターに反論しても仕方ないと諦めて、リンは苦笑を漏らすのだった。

 

 ◇

 

「ねぇ、ドクター」

「なんだい?」

「私の処女を貰ってほしいと言ったら、あなたはどうする?」

 

 それはあまりにも唐突な質問だった。まだまだ長い夜に向けての小休止の最中、なんの脈絡も無く切り出された会話にさしものドクターも面食らってしまう。困ったように「えーと」や「うーん」を繰り返して時間稼ぎを図ったが、結局誤魔化さずストレートに返すことにした。

 

「とても嬉しいよ、当然だろう。好きな人の初めてを捧げてもらえるなんて男冥利に尽きる」

「……やっぱりそうよね。いくらあなたがお尻好きな変態でも、そういう気持ちはちゃんとあると」

「ひ、酷い言われよう……でもやっぱり、生涯一度切りを貰って喜ばない男は居ないと思うよ」

 

 ただ、嬉しい感情とは別に理性的なストッパーがあるのも事実である。

 万が一にも望まぬ妊娠を避けるためにわざわざ後孔で交わっているくらいなのに、処女を奪ってしまえば我慢している意味が無くなってしまう。聡いリンはそれぐらい理解してるだろうに、今夜の彼女はむしろ誘惑するようにドクターへしな垂れかかった。

 その姿はドクターに寄り添うことで安心しているように見える。けれどどこか焦りのような感情も見られたから、冷静にドクターは言葉を選んだ。

 

「何か、焦っていることがあるようだね」

「はぁ……本当にあなた相手に隠し事は出来ないわね」

「そりゃあ、いきなり処女を貰ってほしいと言われたら気付くさ……誰かと縁談の話でも舞い込んできたのかい?」

 

 それはドクターの中でも最悪の想像で、かつ十分にあり得るものだった。『紫色のリン』の地位をより盤石にするため、伴侶を得て後継者を産む。権力者ならごまんとあるパターンだ。

 しかし幸いリンはドクターの予想に首を振って否定した。「そういう訳ではないのだけど」と視線を泳がせ、温もりを求めるようにいっそう寄りかかってしまう。

 

「これから先、スラム街やダウンタウンを統治する上で頼れるパートナー……もっといえば家族の存在はきっと大事になるわ。あなたとなら、きっといつまでだって上手くやれる」

 

 それに、とリンは続けた。尻尾の先端がドクターの頬を撫でる。

 

「権力者が独り身の女性とくれば、力尽くで組み伏せようって輩も出てくるでしょうから」

「君相手に無謀なことだ」

「でも、いつか悪漢に屈してしまうかもしれない。今日だってもし何か掛け違えれば、あなたの目の前で無理やり犯されていたかもしれなくて……時折想像して怖くなるの」

 

 その弱音をドクターは意外と思わなかった。実力があり、常に冷静沈着で目的のために手段を選ばないリン・ユーシャであろうと、裏のボスである前に一人の女性でしかないのだから。この場で本音を吐露してくれて良かったと思っているし、今すぐ悩みを解消してあげられない自分に腹立たしさを覚えたほど。

 リンの腕がドクターの腕に絡みついた。長い尻尾がしなって彼の胴に纏わりつく。テコでも離さない意志表示は苦しいほどの強さでドクターを束縛し、逃がさないとこれ以上なく訴えかけている。

 

「私、自分で思ってたより重たいし自己中心的みたい。奪われるより前に捧げたいし、最後の一線を越えさせてずっと私の傍で家族になってほしいの。そうね、これならむしろ子供が出来た方が好都合かしら、たくさん産んであげるから一緒に立派な子に育てましょう?」

 

 こういう時、『少し怖いと感じるのが普通だろうか』と他人事のようにドクターは思った。リンの発言は独占欲の発露であり、既成事実を作って男を縛り付けるも同然だ。彼女の好む手段を選ばないやり方が獲物(ドクター)を前に舌なめずりをしているよう。

 だが、ドクターはそれをちっとも嫌だとか重いだとか、悪いように感じなかった。むしろ胸を満たしたのは大きな喜び。リンにそれだけ積極的に求められている、子供を孕んでもいいと明言するほどの愛情が心地よくて堪らない。

 

「──リン」

「きゃっ……」

 

 気付けばドクターはリンをベッドへ押し倒していた。絶対に離さないとばかりに束縛していた美女は手弱女のように呆気なく転がされ、その上に怒張をいきり立てたドクターがのしかかる。既に数回射精しているとは思えない硬さと長さを誇る肉槍の、その先端。先走りを垂らす亀頭を擦り付ける先は裏門ではなく正門だった。

 大きく開かされた足の中心で、まだ一度も貫かれた事すら無い陰唇が花開いて震える膣口が垣間見えた。これまで禁忌としてきた雄と雌の正しい性交を期待しているのか、男根を迎え入れようとわなないているようだ。

 

「本当に良いんだね?」

 

 肉槍がべったりとリンのお腹に乗せられた。ふわりと茂った和毛を押し潰し、お臍のすぐ傍まで凶悪な雄棒が伸びているのがリンにも見えてしまう。

 

「……勢いに任せてる自覚はあるの、今正気に戻ればバカなことをしたと後悔する。だから正気に戻ってしまう前に、どうかお願い」

 

 リンの潤んだ瞳が逸らされ、ついで祈るようにギュッと目を瞑った。全てをドクターに委ねたのだ。

 ならばもう言葉は無粋だと判断して、ドクターはついにリンの胎内(ないぶ)へ切っ先を沈めた。肛門性交ですっかり潤った内部は直腸よりもヌルついて、襞がきゅうきゅう吸い付いてくる。気を抜けば一瞬で搾り取られそうなプリプリの膣襞たちを掻き分けて進む中で、ぶちりと一息に破ったのは処女膜で間違いないだろう。純潔を奪われた瞬間に目を閉じたリンの顔が険しくなり、目尻から抑えきれない涙が零れている。

 

「…………っ、痛い、わね……」

「平気か? 落ち着くまで少し待つべきだろう」

「こんなところ、で……日和らないでちょうだい……よ」

 

 結合部から流れる赤色は想像よりも多く、ベッドシーツに誤魔化しようのない処女喪失の跡を残していく。不安になるドクターだったが、リンは最奥での結合を望んでいる。ならばとゆっくり、慎重に肉棒を奥へと進めていく。萎縮した膣襞は徐々に柔らかさを取り戻し、初めてを破ったペニスこそ主人なのだと認めたように奉仕して纏わりつく。

 アナルセックスとはまた違った感触に溺れたい欲求を抑え、ついに亀頭が子宮の入口にたどり着いた。初めての真っ当な性行為(セックス)は蜜よりも甘い味がする。よくこなれた後孔も最高だが、前穴は最初から格別の気持ち良さでドクターの理性を削りに削った。

 

「ふふっ」

 

 その頃にはもうリンも痛みが多少引いたようで、余裕の無いドクターを見て笑みを零せる程度には回復していた。

 

「そ、そんなにおかしな顔をしているかい?」

「ええ、とっても。今にも暴発しそうなのを必死に我慢して、ちょっとでも長く保たせようって顔してるわ」

「いやぁ、何分こっちは初めての経験だから心の準備がね」

「私だって同じよ。お尻で受け入れた時よりよっぽど辛い一瞬だった」

 

 だけどね、とリンは微笑んだ。

 

「やっと初めてを捧げることができて嬉しいわ。お尻も悪くなかったけど、達成感はこっちが上ね」

「……もし何かあれば、絶対に責任は取る」

「あまり気負わないで、我が儘を言ったのは私なのだから……でも、ありがとう」

 

 唇が触れ合う。舌を這わせて唾液を交わらせ、今日何度目かも分からない深い口づけを交わし合った。だけど両者にとって間違いなく今夜で一番甘いキスであったのは言うまでもない。

 極々慎重に、探るようにドクターが腰を動かし始めた。少し肉槍を動かすだけでも破瓜の傷が痛むのか、リンの顔が苦痛に歪んだ。やはり激しいピストンはもってのほかだと確認し、グリグリと先端を子宮へ押し当てるような刺激にシフトする。

 

 ずちゅっ、ぐちゅっ……♡

 

「んっ……あっ……♡」

「気持ちよくなれてるみたいだね」

「えっ、ええ……入口をグリグリってされるの、好き……♡」

 

 子宮をゆったりと刺激される度に可愛らしい嬌声が幾度も響いた。どうやらリンはポルチオ責めを気に入っているらしい。裏側(アナル)から何度も子宮を突いて刺激していたが、そのおかげで初めてながら開発済みなのかもしれなかった。

 それならばとドクターは狙いを定め、今も先走りを垂らす切っ先を子供部屋の入口へ押し当てる。激しい動きが無くとも、温かな愛液とほぐれた膣襞に竿を覆われるだけで十分に気持ちいい。にわかに立ち昇った射精欲を高めるように、じっくり煮詰めるようなペースで雄と雌を交わらせて──

 

「んっ♡ あっ♡ それっ、いい、わ……っ♡」

「リン、そろそろ──」

 

 射精が近いからと腰を浮かし掛けたドクターは、直後にがっしりと組まれた脚によって動けなかった。白く滑らかな細身の足は絶対に逃がさないとドクターを押しとどめ、むしろ少しでも自身の奥に射精を強請るかのように押し付けていた。

 

「…………そういうことで、いいんだな?」

「ええ、そういう事、よ……♡ ちなみに今日は、安全日だから……」

「まったく君は」

 

 衝動に任せたようでちゃんと生理周期まで計算に入れていたとは、やはりとんでもない策士っぷりだ。だけどそういうダーティな部分まで含めて愛しく思うのだから、これはもう惚れた弱みだ。ドクターはそう諦めて、高まった射精欲を解き放つべく切っ先に意識を集中した。

 子宮口も敏感に雄の射精を感じ取ったようで、すっかり降りてきた子宮ごと吸い付くようにピッタリ亀頭へ覆いかぶさる。入口の肉輪がきゅーっと締め付け、子種をねだるように甘々キスを繰り返す。膣はキュンキュンと締まって吐精を促し、一滴でも多く赤ちゃん部屋に注いでもらおうと懸命に媚びていた。

 

「リン、射精(だ)すよ」

「ええ、来て……っ!」

 

 指を絡めた恋人繋ぎで交わりながら、強く深く密着してリンの一番大事なところへ狙いを定める。穏やかで落ち着いて、アナルで交わってる際の激しさとは無縁のリラックスした雰囲気で。互いの瞳を見つめ合いながら、どちらともなく舌を伸ばしてキスをして──誰にも侵入を許さなかった秘奥へ、子種が注がれる。

 びゅくびゅくと注がれていく熱いドクターの遺伝子は、後ろに射精されるときとまるで違っていて。子宮を満たしてリンを孕ませようとする雄の猛りを受け止めて、幸せの内にリンは絶頂してしまうのだった。

 

 ◇

 

「はぁ」

「溜息なんてついて、珍しいね」

「放っといてちょうだい、自己嫌悪で落ち込んでるだけだから」

 

 血の滲んだシーツをドクターが隅に追いやっている間、処女喪失の反動で休んでいたリンはあからさまにしょげていた。耳も尻尾もしゅんと垂れて彼女らしくない淀んだ空気を漂わせている。

 

「一時の流れで処女まで失ってしまうなんて……あなたとの関係を我慢しようとしてた昔の自分が懐かしいわ」

「私はとても嬉しかったからけど、ユーシャは違うのかい?」

「嬉しかったに決まってるでしょう」

 

 当然とばかりに言い放ってから、また「はぁ」と溜息が零れた。これは思ったより気にしてるなとドクターは感じ取り、彼女の隣に腰を下ろす。

 

「私が決めた約束事をあなたはちゃんと守ってくれていたのに、自分でルールを破ってしまったのよ。申し訳なさでいっぱいだわ」

「時には破った方が喜ばれる約束だってある。別に良いじゃないか」

 

 確かに勢いで純潔を奪ってそのまま膣内射精(なかだし)はこれまでの慎重さをかなぐり捨てた行為だが、少なくともドクターに後悔は無かった。むしろ躊躇いなく初めてを捧げられる相手と想ってもらえたことが光栄で、何があろうと責任を取る覚悟はできている。

 

「やってしまった事は取り返せない、それは分かってる。だからドクター、どうかこ(・)れ(・)か(・)ら(・)も(・)よろしくね」

 

 そしてリンの方も逃がす気は欠片もない。もしドクターが彼女の傍から離れようとしても、きっとあらゆる手段で妨害して手元に置こうとするだろう。だけどそれは意味のない仮定だ──だって頼まれようと離れる気は毛頭ないから。

 ドクターはそう結論づけて、彼女の手を握った。

 

「こちらこそ末永く、よろしく頼むよ」

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