シンデレラたちは止まれない! 作:私立聖白ビキニ女学院理事長
夕暮れ時の道を
こういう時間を「逢魔が時」と呼ぶんだったか。
昔の私なら気にも留めなかったかもしれないが、彼女との関係が親密になるにつれてそういうことも少しずつだが意識するようになった。
「ふふー」
学校帰りということで制服姿の彼女が目を細めて笑う。
アイドルと同時に学生である以上制服を着ているのはごくごく自然なことなのだが、あまりにもスタンダード過ぎるデザインが逆に新鮮で、ついつい横目でチラチラと盗み見てしまう。
ほら、「
「大丈夫、でしてー」
「何がだ?」
「何があろうとも、そなたのことはわたくしが守ってみせましょうー」
芳乃は「ふふー」とドヤ顔で胸を張る。
「いやいや、歳上の男性であるからには私がおまえを守りたいんだが」
「ほほー、現代においてはなかなかに前時代的な考え方でしてー」
「……大切な女の子のことぐらい守らせろ、って言ってるんだ」
「これはこれは、返り討ちに遭ってしまいましてー」
あげつらってきた芳乃を本音で斬ってやった。
彼女の頬が朱く染まっているのは夕陽のせいだけではあるまい。
「そなたは本当に」
「ん?」
「そなたは本当に、わたくしをひとりの女の子として大切に扱ってくれますゆえ深く感謝しておりましてー」
「そんなの当たり前だろ」
即答。
「そなたがそう思っていても、それは全然当たり前のことではないのでしてー。ふふー」
鼻歌でも歌い出しそうになるほど芳乃は目に見えてご機嫌だ。
「そんなもんなのか」
「はいー」
「この、依田の芳乃をそのように見てくれる方など、そなたの他には……」
その言葉は明らかに私に聞かせるためのものではなかったので、私は何も聞こえていないフリをした。
「ここまでで結構でしてー」
「え?駐車場はまだ先だぞ?」
今日は彼女を迎えに行って、そのまま翌日までデートと洒落込む予定だった。
芳乃の突然の言葉に混乱する。
「すみませぬー。ちと急用ができましてー」
「『急用』?なら私もいっしょに」
そこまで口に出して私は彼女の顔付きを見て確信する。
「あっち側の用か」
「はいー。そなたにはすぐにわかってしまいましてー」
「いっしょに行きたいのは山々だが、私が行かない方がいいんだな?」
歯を食い縛り、両の拳を強く握り締める。
無力感に負けないために。
「でしてー。なれど心配なさらずー。わたくしは必ず帰って参りますゆえー」
「おまえを信じるからな」
「どうか信じてくださいませー。わたくしの居場所は、そなたの隣にしかありませぬー」
「帰って来たら、もう二度とおまえを手放さない」
堅く握り締めていた拳を解き、芳乃の両肩にそれを置く。
「困りましたー。そなたはわたくしを『きゅん』とさせる名人でしてー」
苦笑と照れ笑いが半分ずつ混じったよう笑い方をすると、芳乃は両目を閉じて上を向く。
「んっ……」
唇を合わせる。
「ふふー。この続きは戻ってから、でしてー。それを楽しみにわたくしは責務に励むといたしましょうー」
芳乃が踏切を小走りで渡り切ってこちらを向く。
それからすぐにカンカンカン、と音がして遮断器が下りた。
私は彼女との間に不可侵の線が引かれたような思いに駆られて焦る。
「芳乃!必ず!必ずすぐに帰って来い!」
「おまかせあれー。決してそなたとの約束は
柔らかい笑みが儚く映る。
ジジッ。
……?
彼女の姿が一瞬ブレたように見えた。
「芳乃!」
名前を叫んだ次の瞬間列車がやって来て、それ以上の言葉を私に発させなかった。
そして、列車が過ぎ去った後にはもう彼女の姿はなかった。
私はこの後激しく後悔することになる。
この時の自分の判断の愚かさを。
結局一睡もできずに私は翌朝を迎えた。
寝に帰るだけの寂しい我が家の布団で孤独に。
本当なら隣には芳乃がいたはずなのに。
夕方になってもついぞ彼女からの連絡はなかった。
堪らず私は
「プロデューサーさん?おはようございます。えっ?芳乃さんからの連絡ですか?昨日はありませんでしたけど……。変わった様子、ですか?そう言えば最近、冗談めかして『わたくしにもし何かありましたらぷろでゅーさーのことを頼みましてー』なんて言われ……あっ、プロデューサーさん!?もしもし!?」
肇には悪いが通話を一方的に切り、私は昨日の夕方彼女の姿を見失った踏切へと転がるようにして向かった。
ここだ。
「芳乃!」
周囲に誰もいないのを好都合と声を張り上げる。
「芳乃!どこだ芳乃!返事してくれ!」
手当たり次第にウロウロしつつ、あらゆる方角に向かって叫ぶ。
芳乃は必ずここにいる。
正確には「ここ」ではないのだろうが、少なくてもこことつながった場所にいるのは間違いない。
ここにはただならぬ気配が漂っており、私は確信を持っていた。
(……そなた……)
「芳乃!無事なのか!?」
ふと耳朶の端に引っかかったか細い声。
藁にもすがる思いでそれが聞こえた方角へと進む。
気付けばいつの間にか踏切は消えていたし、足元や周囲にはモヤのようなものがかかってきていたが、そんなことはどうでもよかった。
(……そなた……こちらへ来てはなりませぬ……わたくしに構わず……日常へと帰るのです……)
「そんなわけあるか!私の人生にはおまえがどうしても必要なんだよ!芳乃ーっ!!」
【そんなにもこの娘が大事か】
ふと私の脳内に、湿っているのにザラついたような寒気のする声が響いた。どちらかというと女性っぽい声質だ。
「当たり前だ!!」
思わず声が上ずってしまうそうになったが、なんとか堪えてその声に対して叫び返した。
降って湧いた芳乃救出への手がかりだ。
怖いだのなんだの言っていられない。
【ほう、大した胆力よ。面白い】
「うわっ!」
見えない何らかの力によって引き寄せられ、私の身体はあっさりと境界を越えた。
「なんだここは……」
その空間(?)は白いのか黒いのか、地面があるのかないのかすら分からぬ摩訶不思議な場所だった。
私は赤子のようなへっぴり腰とよちよち歩きながら、とりあえず前へと歩を進める。
なりふりなんか構っていられるか。
ここには芳乃がいるんだ。
必ず私たちの世界に連れて帰る。
「芳乃!どこだ芳乃!」
またしても叫ぶ。
叫ぶことと歩くことしかできないのだから仕方がない。
(……そなた……)
「そっちか!」
わずかに彼女の声が聞こえた方向に足を向け、ぬかるみのような感覚の中を進む。
「そなた!」
「芳乃!そこか!」
モヤの遠くに小さく彼女の姿が見えた。
……磔にされているのか?
とにかく囚われているのは確かだ。
「ぷろでゅーさー、こちらへ来てはなりませぬ!」
芳乃が叫ぶ。
「何言ってんだ!行くに決まってるだろうが!」
叫び返す。
考えるまでもない。
と。
【ニンゲンだ】
【なにゆえニンゲンがここにいる】
【喰ろうてやろうか】
人ならざるモノどもの声が四方八方からして、足元に異形の影がまとわりついてきた。
「なんだこいつらは!?」
「ぷろでゅーさー!ぷろでゅーさー!」
さすがに動揺する私に芳乃が声を枯らせる。
「邪魔だあっ!!」
【ぎゃーっ!!】
【ニンゲンのくせに!】
【なんだこやつのハレの気は!?】
お、なんか知らんが振り払ったら消し飛んだぞ?
ラッキー!
今の内に芳乃の元へ急がねば!
「はあ……はあ……芳乃……やっと、会えた……!」
「そなた……来てはなりませぬと何度も申したのに……」
「こっちこそ何度もそれは断ったはずだ……って、どうなってんだこれ?」
息を整え、改めて彼女が置かれている状況を確かめる。
芳乃は大木のようなものに何重もの触手のような蔦で縛り付けられていた。
「くっそ、堅いなこれ!」
蔦を掴んで引き離そうとするが、太い上に節くれだっていてそもそもが掴みにくい。
「痛っ!」
手の指の皮膚が切れてしまったようだ。
「そなた!無理をなさらず、どうか……どうか……」
「心配するな。こんなのかすり傷だ。さっきみたいに気合い入れたらこれ都合よく千切れんかな?」
右足を幹に突っ張り、グググッと引っ張ってみる。
キッツい。
これは骨が折れる。
【おぬしが『ぷろでゅーさー』とやらか】
ゾクッッッッ!!!!
全身の産毛までもが総毛立った。
この声は。
この声は最初のあいつだ。
【ほうほう、確かに大したハレの気よ。これでは低級どもではひとたまりもあるまいて】
すぐ後ろで声がする。
奥歯がガタガタと鳴る。
凍死しそうなほど寒気がひどい。
「そなた、決して後ろを振り返ってはなりませぬ」
芳乃が見たことのない眼光で私を見、その背後を睨む。
「み、見たくても身体が硬直しちまって、動かねえよ」
話すのがやっとだ。
目の前に芳乃がいなければ、私はとっくに狂死していただろう。
【意識を保っておるばかりか話せもするとは。ますますもって面白い】
「目の前に大切な女の子がいるんだ。発狂なんかしてられるかよ」
奥歯を血が出るほど強く噛み締める。
「そなた……それほどまでに、わたくしのことを……」
「へへ……惚れ直したか?」
【だがその娘は死なねばならぬ】
「私の命では代わりにならないか?芳乃は頼むから助けてやってくれよ、なあ」
目だけを後ろに向けて慈悲を乞う。
「そなた何を!そなたは
「嬉しいことを言ってくれる。だがな芳乃、おまえがいない世界でなんて生きてても仕方がないんだよ」
「そなたぁ……」
【その娘は人の身でありながら我らが領域に踏み込み過ぎた】
返答は案の定無慈悲なものだった。
【罪の重さを身をもって知らねばならぬ】
「じゃあなおさら私でいいじゃないか。この子は優しい子だ。私が死ねば自分が死ぬよりきっと苦しむ」
「そなた!」
【ふむ】
声が思慮する。
興味をそそられたようだ。
【足りぬな】
「え?」
【それだけでは足りぬ。おぬしが死ぬのは一瞬だ。それではつまらぬ】
「なら拷問でも何でもしろ」
【ふむ。ふむ】
再度の思慮。
【それも面白かろうかとも思うたが、興醒めよ。おぬしは覚悟が決まりきっておる。痛めつけたところで無様に泣き叫びはすまい】
「ならどうしろってんだ。死ぬより辛い目に遭えば気が済むのか?」
【よいな。よいよい。それはよい。……そうじゃ、おぬしは随分と己の精力に自信があるようじゃな?】
「ああ、まあな。……そうだ、声の感じ、あんた絶世の美女なんだろ?ひとつお相手願えないか?きっと満足させてみせるからさ」
【吠えよるわ。ではこうしようではないか】
「?」
声が急に近くなり、寒気も一気に増す。
そして股間にヒヤリとする感覚が走った。
【おぬしのハレの気の源である
「私を
背筋を冷や汗が伝い下りた。
【おお、おお。初めて動揺しおったな。ほほほ、よきかなよきかな。効果は
ころころと声が嗤う。
「いけませぬ!そなたのそれは
「いいんだ。芳乃。いいんだ」
取り乱す芳乃に精一杯の笑顔を見せる。
「息子がダメになったってさ、ディープキスだってできるし、乳も尻も揉めるし舐めたり吸ったりできるんだ。なんてこたぁない、いくらでも楽しむ手段はある。芳乃だってさせてくれるよな?」
虚勢を張る。
悔しくて口惜しくて堪らないし、正直死んだ方がマシだが、それでも。
芳乃に悲しい想いなんてさせられるかよ。
「ええ……わたくしの薄い身体でよければいつでも……」
「やった。これでもう寂しくないぞ。……さあ、やるならやってみろ!その代わり、もし肉棒がビンビンに復活したら、おまえもヒィヒィ言わせてやるからな!!」
【ほほ、ほほほ。おぬしは本当に気持ちの良い佳い男よな。そうさな、万が一にもそうなれば、おぬしの
「言ったな。その言葉忘れるなよ。芳乃、私達の愛の力で必ず打ち勝ってやろうぜ」
「はい。そなたと2人、必ず」
【ではな。おぬしの顔、死よりの辛さに歪むのが楽しみじゃて。我は常に見ておるぞ。耐えられなくなったら我を呼べ。その場で喰ろうてやるわ】
その言葉にも言い返してやろうと思ったが、次の瞬間私の意識は途絶えた。
急激に薄れゆく中、芳乃が私を呼ぶ声が聞こえていた。
「……なた!そなた!」
「……ぅ」
激しく揺さぶられ、意識が浮上する。
「そなた!」
目を覚ました芳乃が飛び付いてきた。
それを抱き止め、泣きじゃくる彼女の背をさすってやりながら周囲を見回すと、場所はあの踏切で、時間もまだ夕暮れ時……逢魔が時のままだった。
もしかして現実世界では1秒も経っていないとかいう感じか。
「そなた……!そなた……!わたくしのせいでそなたをあのような目に……!」
私の胸元を強く握り、芳乃は大粒の涙を流す。
「そう悔やむな。ふたりとも命があるだけ儲けものだろ?」
そう言って穏やかに微笑む。
穏やかに微笑んでいるつもりだ。
だがはたして今私は本当に意図した通りにできているのだろうか。
芳乃の柔らかい身体を胸に抱き、心地良い体温を感じ、芳しい髪の香りを感じてなお。
----股間のモノはピクリとも反応しないというのに。
私はかつて覚えたことのない喪失感に打ちのめされながらも、彼女が泣き止むまでその背をさすり続けた。
現実はひどく残酷だ。
私のことをよく知る人たちならばこれがどれほど深刻な事態であるか理解できるだろうが、生憎と世間様にはそんな事情は通用しない。
芳乃との話し合いで当面の間は今回のことは誰にも言わず、二人だけで解決策を模索していくことに決めた。
言って信用してもらえるかどうかではなく、いたく責任を感じた芳乃が自分の力でなんとかしたいと強く主張したからだ。
私も彼女の意思を尊重することにした。
とはいえ、思った以上に何もかも上手くいかなかった。
何の手がかりもない解決策探しは当然、担当のアイドルたちとの性生活を生き甲斐にしている私の心身に目に見えて悪影響が出始めたのだ。
他人に言われるまでもなく、私は異常性欲者だ(もはや『だった』だが)。
いや、性癖が異常なわけではなく、性欲のスケールが異常だった。
それが
ストレスとフラストレーションの蓄積がすぐにとんでもないことになり、会う人会う人に「顔色が悪い」「精気がない」などと指摘されるようになった。
次第に仕事においても精彩を欠き、ミスを多発し、周囲に迷惑と心配をかける有様だった。
アイドルたちから誘われても
そろそろまゆや
「そなたー。そなたのおちんちんー。どうか元気を取り戻してくださいましー」
今日も芳乃があの手この手でダンマリを決め込む愚息をなんとか復活させようと一所懸命になってくれていた。
楽屋で事務所でプロデューサールームで自宅で車内で出先で、現場が同じになれば彼女は時間を見付けてはケアしてくれている。
それでもダメだった。
キスしても胸や尻を揉んでも、乳首を舐めたり吸ったりしても。
亀頭や竿を舐めたり吸ったりしてもらっても。
玉袋を口に含んでしゃぶってもらっても。
乳首を舐められながら手コキをされても。
何をいくらされてもかつてあれほど猛威を振るった肉棒はピクリとも反応しなかった。
まるで勃起の仕方を忘れてしまったかのようだ。
一瞬で垂直に反り返っていたあの利かん坊が、今や借りてきた猫みたいではないか。
されればされるほど自責の念は心の底に澱のように蓄積されていった。
芳乃にこれほどまでに献身的に色々してもらっているのに私は、と。
「むしろ逆効果だ」などとは口が裂けても言えないが、焦燥感も加わってか時間経過とともに私の心身は重くなっていく。
極力そういった感情を表には出さないように気を遣ってはいたが、鋭敏な芳乃のことだ、おそらく早い段階で気付いていたに違いない。
それでも日々は過ぎていく。
無慈悲に。
残酷に。
そんなある日の楽屋。
今日の楽屋は和室があるタイプで、ご丁寧に仮眠もできるよう隣接の押し入れに布団も用意されている。
どこぞの猫型ロボットが寝室に使っていそうなアレだ。
「そなたー。そなたのおちんちんー。どうか元気を取り戻してくださいましー」
今日も芳乃は私の短いままの愚息の先端を軽く咥えて舌を這わせつつ吸いながら、力のない竿を
一体この作業を幾度繰り返したことだろう。
私たち二人それぞれの頭の中には、もう疑いようもなく絶望感が渦巻いている。
意地でも諦観を顔に出さないだけだ。
意地でもそれを言葉にしないだけだ。
「うぅ……っ」
嗚咽。
「芳乃?」
「こんなことなら……」
「おい、どうしたんだ芳乃」
「こんなことなら……そなたとの間に子を授かっておけばよかった!」
「えっ」
彼女は今何と言ったのか。
「わたくしにだって独占欲くらいありまして!
「芳乃、おまえそこまで私のことを」
感激した。
だがその感激よりも衝撃の方が正直上回った。
私はまだまだ依田芳乃という少女のことをわかっていなかったのだ。
内にこれほどまでの熱を秘めていたとは。
「くぅっ……ひぐっ……ぐすっ……」
芳乃の瞳からついに大粒の涙がぼろぼろと零れ落ち、情けないままの陰茎にも降り注いだ。
お涙頂戴物であればそれをきっかけにムクムクと奇跡の復活を遂げるのかもしれないが、都合よくそうはならなかった。
「わたくし……もう……」
悲痛な声とともに芳乃がしゃくり上げる。
「諦めちゃうの?」
「えっ」
「えっ?」
突然の第三者の声。
あまりのことに芳乃と私が同時に弾かれたように顔を上げると、そこにはいつの間にか
「小梅……さん?」
「小梅、どうやってここに。施錠はちゃんとしていたはずだ」
今日の仕事は芳乃と小梅のデュオユニットである『かくりよがたり』での営業だったので、小梅がいること自体は何もおかしくはない。
ただ、今この場にいるのがおかしい。
営業先のご厚意もあり、それぞれに別の楽屋が用意されていたのだから。
「ねえ芳乃さん、本当にプロデューサーさんのこと、諦めちゃうの?」
我々の疑問には答えず、音もなくこちらへと歩み寄って来る。
「わたくしにはもう、ぷろでゅーさーと共にいる資格が……わたくしでは……」
再び顔を伏せる芳乃。
「ふーん。じゃあ私がもらっちゃってもいいよね?」
「!」
「なにを」
気付くと小梅が私の真横にいて、ブカブカの上着の袖で私の頬を撫でる。
「私ならすぐに治してあげられるよ」
「本当か!?」
「うん。でも今のままってわけにはさすがにいかないから、プロデューサーさんには人じゃなくなってもらうことになるけど」
「は?」
何言ってんだこいつ。
普段から浮世離れしているが、今日は一段とその傾向が顕著だな。
「私なら人じゃないプロデューサーさんも愛してあげられるよ。ううん、そっちの方がもっと愛せるぐらい」
すすす、すすす、と頬を撫でられ、「そんな馬鹿げたこと」と否定したいのに思考が蕩ける。
「芳乃さんはプロデューサーさんのこと諦めるんでしょ?だったら私がもらって愛してあげる。ずっと……ずっと……ね?」
「小梅……」
「だめーーーっ!!!!」
「芳乃!?」
「芳乃さん?」
芳乃が絶叫した。
彼女と出会ってから長いが、こんなにも彼女の大きな声を初めて聞いた。
「おまえそんな大声出せたのか」、なんて驚きのあまり場違いにもそんなことを考えた。
「ぷろでゅーさーは!わたくしが!この依田は芳乃が!必ず元に戻して!そうして元に戻ったら一番に!わたくしが愛してもらうのでしてー!うわあああああっ!!」
静かな室内に、絶叫を終えた芳乃のしゃくり上げる声だけが響く。
「もう……大丈夫みたいだね、何もかも」
小梅が優しい声でそうつぶやく。
「ひうっ……ひくっ……一体どこが何もかも、大丈夫、なのでしてー小梅さん……ぐすっ」
「お、おい、芳乃。芳乃!」
「そなたー?」
「お、おまっ、おまえの手の中!」
動揺を隠し切れない。
まさかこんなことが。
こんなことで。
「わたくしの、手の中……あっ!」
復活していた。
私の剛直が。
バッキバキに。
ガッチガチに。
天を衝くようにそびえ立っている。
あれだけ芳乃に色々してもらってもビクともしなかったくせに。
芳乃の涙を浴びても黙りこくってたくせに。
小梅の煽りに対する彼女の魂の叫びを聞いて。
完全復活した。
「ね?言ったでしょ?」
小梅が優しい笑顔で微笑む。
「でもね、芳乃さん」
「はいー?」
「さっき言ったことは本当だから。もし今度またプロデューサーさんの身にこんなことが起きて、その時また芳乃さんが諦めたら」
一旦そこで言葉を切る小梅。
「今度こそ本当に私がプロデューサーさんをもらって行っちゃうから」
背筋が凍るような凄惨な笑顔。
「小梅さん……」
「小梅……」
彼女の言葉はきっと本心からだろう。
この子はそういう子だ。
「じゃあ、行こうか」
「どこへだ?仕事なら終わったばかりで……ああ、『あの子』に言ったのか」
得心した。
「あの子」とは、小梅といつもいっしょにいる霊的な存在だ。
「うん。でもね、もうひとり」
「『もうひとり』?そんなのどこに」
小梅の視線。
私の後ろ。
それは。
それはそれはそれはまさか。
確かに奴は【常に見ておるぞ】と言ったが、本当に。
「こ、小梅」
「プロデューサーさんは心配しないで。私はあんまり和の子たちには慣れてないし、すごく強そうだけど……」
ざわり。
「 う ち の 子 た ち の 方 が ず っ と 強 い か ら 」
声にならない怨嗟の声が聞こえた気がした。
「じゃあね、また明日。『この子』にはプロデューサーさんのことを好きになってくれるようにしっかり『お話』しておくから……ふふっ、ばいばい」
呆気に取られたままの我々2人を文字通り置き去りにして、小梅一行(?)は姿を消した。
「ああ……愛しきそなたの……どれほどこの日を待ちわびたことでしょうー」
屹立した肉竿に芳乃が何度も頬ずりする。
「おいおい芳乃、生き返ったばかりなんだからそれだけでも刺激が強……うおっ」
「はくっ」
前触れもなく半ばほどまで咥えられる。
「じゅるるっ!じゅるるっ!じゅるるるるっ!じゅるるっ!」
そして思いっきり上下にしゃぶられる。
「
「
「あああっ!」
どっっっぐん……!!!!
「んんん~~~~~っ!!」
呆気なく果てた。
これではまるで童貞少年の初体験ではないか。
いくら我慢を重ねてきたとはいえ、かつて毎日毎日朝から晩まで何発も射精をこなしてきたこの私が。
「ごくっ!……ごきゅっ……ごきゅっ……ごきゅっ……!」
一切口を離すことなく芳乃が青臭いザーメンの塊を嬉しそうに嚥下する。
「はー……これ、でしてー……」
ようやく唇を外した芳乃はうっとりと喉を鳴らし、口の周りや手に付いた男汁を丁寧に舐め取る。
その仕種があまりにも淫靡で思わず生唾を飲み込む。
「おやー、そう言えばお掃除を忘れておりましてー」
「いや待て芳乃、久しぶりに射精したからまだめっちゃ敏感で」
「ちろちろちろちろ……ちゅっ。ちゅちゅっ。ちゅくっ」
「あっ、あっ、ダメだって!すぐまたほら!」
びゅぐんっ!
びゅるるっ!びゅびゅっ!びゅるっ!
「ああー……言わんこっちゃない」
顔を覆う。
「ほほー、これはこれはー。お掃除のし甲斐がありましてー」
満面の笑みで芳乃はどろどろになった肉棒に舌を這わせる。
「そなたー、もう待ち切れないのでしてー」
「ん?」
時間をかけてお掃除フェラをしていた芳乃が膝立ちになり、内股を押さえてもじもじと身を捩る。
手で隠していても秘部からはとろとろと粘度の高い愛液がしたたっているのがわかった。
「我慢できませぬー」
日本の指で自ら花弁を開いた芳乃は、硬度を保ったままの男根にそのまま腰を下ろす。
「ぅんっっっっ!!……は、ぁーっ……!」
言葉にならない歓喜の叫びを上げ、彼女は白い背中を反らせる。
「お、おい、騎乗位だなんて大丈夫なのか?」
慌てて声をかける。
「ぅぅんっ!ぅぅんっ!ぅぅんっ!ぅぅんっ!」
夢中で腰を振る芳乃には聞こえていないようだった。
「あ、はあっ、これ、これなのでしてー。この、貫かれる感覚、なのでしてー」
プッシュアップみたいにリズミカルに腰を動かして快楽を貪る芳乃。
こんな彼女は初めてだった。
どんなに睦み合っても、必ず一定のラインから先は越えなかったあの芳乃が。
性の悦びに溺れている。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
故郷では神格化までされているという噂のあの芳乃が、だらしなく舌を出し、とろんとした目でセックスの虜になっている。
するり、と小さな尻を右手で撫でる。
「はぅぅんっ!」
彼女の身体が跳ねる。
「芳乃、今のでイッたのか?」
「はーっ、はーっ。……久しく睦事から遠ざかっていたのは、そなただけではないのでしてー」
額に前髪を汗で張り付け、ぷくーっと頬を膨らませて睨まれる。
かわいい。
「すまんすまん。やられっぱなしだったもんでつい」
「むーっ。口では謝りつつもー、お尻を撫でる手は止めていないのでしてー」
「ははは」
「『ははは』ではありませぬー。このままではまたすぐに気をやってしまうのでしてー」
「じゃあ芳乃、こうしよう」
私は両手を差し出す。
「ふふー。そういたしましょうー」
こちらの意図を察し、芳乃も両手を差し出して正面から手をつなぐ。
「動くからな」
「これで振り落とされませぬー。存分に突き上げてくださいませー」
じゅっくじゅっくじゅっく!
ずっぷずっぷずっぷずぷっ!
ぱっちゅぱっちゅぱっちゅぱちゅぱちゅんっ!
「あっ!はっ!あっ!はっ!あっ!はっ!はあっ!」
私の上で芳乃の身体が跳ね踊る。
目を閉じ、自分を挿し貫いて跳ね上げる男性器の感覚に集中している。
髪を振り乱し、口は半開き、乳首は痛そうなぐらいに
「そなたっ!そなたっ!そなたっ!そなたぁっ!」
きゅうんっ!と彼女の
「芳乃!芳乃芳乃芳乃っ!」
こつこつこつこつっ!
こつこつこつこつっ!
細かいが強い振動を休みなしに与え続ける。
「あああああ……そなたっ!そなたそなたそなたそなたっ!わたくしっ、もうっ!」
「芳乃!……イケぇっ!」
じゅぐりゅんっ!!
「ああああああああああっ!!」
電流を流されたみたいに芳乃の全身が不規則にのたうつ。
「ぁぁぁぁぁ……」
くたり、とそのまま前へと彼女は倒れ込み、私の胸に顔を埋める。
「芳乃」
手を解き、彼女の両の尻を掴んで思い切り引き寄せる。
「?」
どぐどぐどぐどぐどぐどぐぐんっっ!!!!
「~~~~~っ!」
一滴も残らず全て芳乃の狭い
「そなた……こんなに奥の奥までたくさん注いでは……授かってしまうのでしてー」
「欲しかったんだろ?」
彼女の前髪を掻き分けて額にキスをしてやる。
「そなたはそうなってもよいのでしてー?」
「芳乃が本当にそれを望むならな」
「……ふふー。それでは十月十日後をお楽しみあれー」
「……マジ?」
「さあどうでしょうー。ふふー」
後日談。
私は自慢の武器を取り戻し、ことあるごとに自分のアイドルたちと乳繰り合う生活を取り戻した。
彼女たちは私のことは一時的な不調だったのだと思い込んでいるらしい。
終わりよければ全てよし、だ。
芳乃はあれから積極的に自分から私との関係を求めてくるようになった。
「ふふー。『肉食系よしのん』に生まれ変わったのでしてー」とは本人の弁だ。
これからの彼女が非常に楽しみだ。
そうそう。
これを話しておかねばなるまい。
小梅から聞かされた話だが、例の『ヤツ』は現在私の守護霊的なポジションにいるらしい。
小梅とその「おともだち」たちの「熱心な説得」の甲斐あり、彼女(?)は今やすっかり私に心酔してくれているとのことで、私が求めればいつでもその身を捧げてくれるとか。
ははは、この先そんな機会あるのかな?
……ないよね?
ないといいなあ。
ともかく、一時は心底危ぶまれた今回の一件も無事収束を迎えた。
芳乃も今後は何もかもひとりだけで抱え込もうとせず、信頼できる仲間たちを頼って動くことにしたそうだ。
人智を超えた世界は確かに存在する。
決してその対応を誤ってはいけない。
今回はたまたま運が良かっただけだ。
芳乃の他にも我が事務所には超常的な能力を持ったアイドルが何人もいる。
私は彼女たちを全力で危険から守る。
【のうおぬし、そのためにもこの我が必要ではないか?】
ヒエッ!
これまで二度に渡ってナイスアシストをしてくれた芳乃のターンがついに来ました。
今回のテイストはいかがだったでしょうか。
芳乃、総選挙グループC1位通過おめでとう!