シンデレラたちは止まれない! 作:私立聖白ビキニ女学院理事長
タクシーが会社前に到着し、
辺りは日が暮れかかっている。
「お疲れ。おまえは今日はこれで終わりだったな」
「そうそう!
「え?仕事だけど?」
光の速さで即答。
「なんかごめんなさい……」
「なあに、いつものことだ」
しおらしく謝る早苗をフォローする。
「たまにはあたしたちといっしょに朝まで飲みましょうよ」
「だなあ。できたらいいなあ」
「あたし心配だわ。その内プロデューサー君が大変なことになるんじゃないかって」
腕組みをして大袈裟に溜め息を吐いてみせる早苗。
そうすると腕でグイッと豊かな双丘が持ち上げられる。
トランジスターグラマーなんだよなあ、この童顔28歳。
「だったらもっとケアしてくれよ。精神的にも肉体的にも」
わきわき。わきわき。
「そっちは十分ご期待に応えてるつもりだけど?」
「もっと!」
「どんだけエロエロなのよこの男……」
わーい呆れられちゃったぞー。
「その声」
「はい?」
不意に会社前の大通りを歩く人物に声をかけられた。
「その声、おまえがあのインタビューに出てたプロデューサーだな!」
男はフードを目深に被っていてその人相などは窺い知れないが、中肉中背で声からして若い男性だと判断できる。
「ええ、まあ」
しらばっくれることもできたが、ここでエンカウントしたということはこの男は最初から私が目的だったのだろう。
語気には怒気が込められており、私に対して良い感情を持っていないことは明らかだった。
ほーら言わんこっちゃない。
だから音声も加工してくれって頼んだんだよ。
「あなた、なあに?ちょっと失礼じゃない?」
早苗がずい、と前に出ようとしたので右腕を伸ばして止める。
「でも!プロデューサー君!」
厳しい表情で黙って首を横に振ると、彼女は渋々引き下がる。
「うわ!
なんとも正直な奴だ。
根はいい奴なのかもしれない。
「あんたねえ……!」
早苗の方はお冠だが。
「で、ご用件は?」
尋ねつつ周囲に視線を走らせるが、あいにく警備員の姿がない。
そのタイミングを見計らわれたか。
早苗に警備員を呼びに行かせるか?
チラリと目の端で合図を送ろうとした瞬間。
「おまえのせいで!」
男が突然パーカーの中からギラリとサバイバルナイフを抜いた。
刃渡りそのものは素人が買える範囲の代物だろうからそこまでではないが、刺された箇所が悪ければタダでは済むまい。
にわかに緊張感が走る。
これでは早苗を走らせるわけにもいかなくなった。
相手を下手に刺激すると何をするかわからないからだ。
かつて著名なプロレスラーがとあるインタビューで語っていたが、素人ほど怖いものはないそうで、「自分は決して立ち向かったりはしない」と。
この発言は一見ひどく弱腰なものに聞こえるかもしれないが、実際「日本プロレス界の父」と呼ばれたあの力道山も相手がヤクザだったとはいえ素人に刺殺されている。
「えこひいきするな!!」
「……は?」
あまりに幼稚な怒声に思わず失笑しそうになったが、そんな場合ではない。
「おまえが売れてるアイドルばっかりえこひいきして仕事を回すから!僕の推しは出番が少ないんだ!おまえのせいで!」
両手でサバイバルナイフを構えて威嚇してくる。
距離は2メートル弱ほどあるが、余裕をぶっこけるわけではない。
某恐竜映画の有名なワンシーンのようなポーズでこちらも身構える羽目になった。
傍から見れば滑稽かもしれないが、なにしろ命の危険が迫っているのだ。
「そんなつもりはない」
努めて冷静な声を出す。
「ウソ吐くな!!」
すぐに大声で否定される。
かなり頭に血が上ってるな。
ますます危険だ。
「嘘じゃない。仕事はこちらから売り込みをかける場合ももちろんあるが、相手側からのオファーがあってこそだ。したい仕事をさせてやれるような甘い世界じゃない」
噛んで含めるように説明する。
「だったらおまえが無能なんだ!みんな迷惑してる!やめちまえ!」
ピキッ。
思わず血管がブチ切れそうになる。
落ち着け落ち着け。
こんなことはSNSや匿名掲示板で365日24時間言われ続けてるじゃないか。
「残念ながら一介の社員でしかない私にはそんな権限はないよ。もらえるのなら欲しいぐらいだ」
まるっきりの本音だ。
なんでだろうなあ。
「うるさいうるさいうるさい!!言い訳するな!とにかくおまえ死ねよ!」
うわ。
自暴自棄にもほどがあるだろ。
いくらなんでもその結論はひどいわ。
言いたいことは山ほどあるが、相手がナイフを突き出して突進してきている以上もう説得の余地はない。
「プロデューサー君!危ない!」
「早苗何を!?」
元府警の血が騒いだか、早苗が私の前に回り込んだ。
馬鹿おまえ、元府警っつっても交通課勤務じゃないか。
いくら我が事務所アイドルで最強の呼び声があろうともやっていいことではない。
確かに柔剣道合わせて片手の指では足りない腕前だろうと、おまえは今やアイドルなんだ。
「早苗っ!」
私は咄嗟にさらに回り込み、彼女を抱き締めてかばった。
自分でもよく身体が動いたものだと褒めてやりたい。
「がっ!!」
腰に鈍い痛みが走った。
「プロデューサー君!!」
顔面蒼白になった早苗が絶叫する。
「……あれ?」
一瞬確かに痛みはあったが、それ以降何もない。
もしかして致命傷を与えられていて感覚がなくなってしまっているのかと疑って刺された箇所を見ると、そこにはウエストポーチに入ったスマホがあった。
あーあ、こりゃバキバキどころじゃねーわ。
妙に冷えた思考でそんなことを考えた。
「く、くそっ!!必ずぶっ殺してやるからな!!」
捨て台詞を残してナイフを持ったまま男が逃走する。
「どうしましたか!?今の男は!?」
そこへ今頃になって警備員が駆け付けて来た。
「捕まえて!あいつこの人を刺したの!」
腕の中の早苗が的確に指示を出す。
「怪我は!?」
「大丈夫!届いてないわ!だから早く!」
「は、はい!」
慌てて警備員が男を追いかけるが、到底追いつくまい。
「プロデューサー君、大丈夫!?」
「ああ、全然」
意地で強がってはみたが、正直ショックが大きかった。
刺されたということよりも、殺意を直接向けられるほど憎まれていたことに。
身体が震えてきた。
恐怖からではない、怒りからだ。
「プロデューサー君?」
早苗が訝しがる。
激しい悔しさが込み上げてきた。
早苗の小さな身体をキツく抱き締める。
「ちょっ、痛っ!」
「すまん、早苗」
「えっ?」
「私だってなあ」
チクショウ。
「私だってなあ!190人全員をシンデレラガールにしてやりたいよ!同じだけ仕事させて!同じだけのファンをつけて!同じだけ稼がせてやりてえよ!でもできないんだよ!そんなのできなんだよ!不可能なんだ!全員が全員幸せになれるようにこの世の中はできちゃいないんだよチクショウ!!」
ずっと内側に閉じ込めていた感情が溢れ出す。
早苗をさらに強く抱き締める。
「ごめん、ごめんな早苗。痛くしてごめん」
「本当よ。痛いわ。プロデューサー君の愛が」
早苗はギュッと私を抱き締め返してくれた。
その後、警察が到着して早苗と私は事情聴取されることとなった。
なんとやって来た警察官は早苗の旧知だったらしく、おかげでスムーズに事が運んだのは不幸中の幸いだった。
だが予想外だったのは、ニュース沙汰になってしまったことだ。
私の顔や名前などは伏せられてはいたが、「大手アイドルプロダクションのプロデューサーが」と報じられては業界通にはモロバレだ。
さらには犯人が現在逃走中ということもあり、自宅に帰ることも禁止された。
やむにやまれず、合鍵を持つ
なあに、あの
どこかで寝泊まりする必要があるのだが、なにしろ命を狙われている立場だ。
会社や寮では迷惑をかけるし、ホテルに泊まるわけにもいかない。
結果、選択肢がなくなってしまった。
どうしたものか、と途方に暮れる私に手を差し伸べてくれたのは意外な人物だった。
「教会に身を隠されてはいかがでしょう」
「クラリス?」
「私にツテがありますので、そちらで寝泊まりされるとよろしいでしょう」
「そうさせてもらえるのなら非常に助かるが、いいのか?」
「はい、もちろん。困った人をお助けするのが教会の役目ですので」
にっこりと微笑むクラリス。
おお、これぞ慈愛の女神。
「ありがたい。これで人目を忍んで野宿せずに済むよ」
両手を取り、額に軽くキスをすると、彼女は「まあ」と言いながら照れてはにかんだ。
最初の数日は我慢できた。
無事だったことへの安堵もあったし、雨風をしのげる宿泊場所も提供してもらった。
「宿賃を払いたい」と申し出たら「そういうわけにはいかない」と返されたので、お布施という形で心ばかりの額を渡すことにした。
そういうところへの不満はなかった。
犯人が未だに捕まらないのだ。
奴がそれこそプロの暗部の人間なら納得できる。
だがどう見ても相手は素人、せいぜいが大学生かフリーターか。
なのになぜ。
しかもあの『キュート四大財閥』が必死の捜索を続けているというのに。
他人任せで申し訳ないのだが日々苛立ちが募っていく。
あれ以来私の行く所行く所に『キュート四大財閥』の手の護衛の方々が随行してくれるようになった。
それは純粋にありがたいのだが、ぶっちゃけ過剰なのだ。
仕事先はもちろん移動中や果ては男子トイレの中までいっしょ。
「あの、さすがにそこまでは」とやんわり拒絶してみても、「何かあってはお嬢様になんと申し開きをすればよいのか」と言われては観念するしかなかった。
プライベートなどないに等しくなってしまった。
となると当然アイドルたちとのあれやこれやのイチャイチャもできず、「また今度」と力なく手を振ってその場を去ることしかできない。
ストレスが、フラストレーションが、どちらも加速度的に溜まっていくのをひしひしと感じる。
以前
あの時は自慢のイチモツがピクリともしなかったのだが今回はそうではない。
現役バリバリなのに活躍の場がないのだ。活躍させてあげられないのだ。
櫻井家や西園寺家に連なる者であるからにはそこらへんの機微に通じているのかもしれないが、わざわざリスクを冒す愚は避けたい。
つまりは身の安全と引き換えに予期せぬ禁欲生活に突入したというわけだ。
自家発電での発散はなんとしても回避したいし、たとえそうしたとしてどこでどのようにして監視されているかわかったものではない。
いくら信用している彼女たちの配下だとしても不心得者がいないとも限らない。
「先輩、ここの日付おかしくないですか?」
「えっ?」
ある日、事務所で仕事をしていたら女性後輩プロデューサーに書類の不備を指摘された。
「……ほんとだ。助かったよ、ありがとう」
「いえいえ!私が先輩のお役に立てる日が来るなんて!」
小躍りして喜ぶ彼女に愛想笑いをする私だったが、内心はとても穏やかではいられなかった。
これはマズい。
本格的にマズい。
彼女にミスを指摘されるようでは本当に危ない所まで来てしまっている。
心底嬉しそうにしている彼女には申し訳ないが、私は冷や汗ダラダラだった。
早急になんとかせねばならない。
このままではもっと大きなミスを犯すのも時間の問題だ。
人生はままならない。
「こうしたい」「こうなればいいな」なんて考えて行動しても、そうなってくれないことの方がずっと多い。
今がまさにそれだった。
私の禁欲生活は続き、童貞を捨ててからのおそらく最長記録を更新していた。
アイドルたちからは顔色の悪さを心配され、ちひろさんからも「
ここがデッドラインだ。
私は藁にも
これまで神をも恐れぬ不信心な人間だったもので、こんな時だけ頼るのはどうかと思って近付かないようにしていたが、背に腹は代えられなくなった。
神様じゃなくてもいい、誰かに話を聞いてもらいたかった。
これ以上の我慢を続けると精巣が破裂してしまいそうだ。
生まれて初めて足を踏み入れた懺悔室の広さはトイレの個室ぐらいで、造りはサスペンスドラマでよく観る接見室のようだった。
もしかしたら教会によって全然違うのかもしれないが、他を知らないのだから比べようもない。
この狭さが逆に安心するのだろうか。
確かに無駄に広くても落ち着かないだろう。
張り紙などの案内もないのでとりあえず着席して待つことにした。
『この度はどうされましたか?』
「!」
急に声がしてビクッとして上半身を起こす。
『申し訳ございません。驚かせてしまいましたか?』
「い、いえ、気を抜いていたもので」
苦笑しつつ後頭部を掻く。いかんいかん。
急に声がしたのもそうだが、音声が加工されていたことに余計驚いてしまった。
不快なわけではないが、やや機械的だ。
加工など必要なのかと思わないでもないが、今の御時世なにかと個人の特定につながることは避けた方がいいのかもしれない。
現に他でもないこの私がまさに実害を被っているわけであるし。
感覚を研ぎ澄ませば相手の性別や年齢ぐらいは判別できそうだが、それに意味を見い出せなかったし、そんな気力も湧かなかった。
『それでは仕切り直して。改めて、この度はどうされましたか?』
隣室からの問いかけ。優しい口調だ。
「はい」
深呼吸をする。
相手には気の毒だが全てをここで吐き出してしまおう。
「私は性欲の権化です」
『……えっ』
あまりに包み隠さなかったせいか、相手が鼻白んだのが伝わってきた。
さもありなん。
私だっていきなりそんなことを告白されたらドン引きだ。
「私は見目麗しい女性たちとの性交渉を生き甲斐として生きてきました」
構わず続ける。
ここで変に間を空けたとて好転はしない。
相手が話を切り出しやすくなるところまで進めた方がいい。
「セックスによって活力をもらい、次のセックスを楽しみにまた励む、そうして日々の激務をこれまで乗り切ってきました」
『は、はい』
「もちろん独り善がりで相手のことを考えずただ性欲を満たすようなことは誓ってしておりません。私は一方通行ではなく、与え、与えられることこそセックスの醍醐味だと考えているからです」
『はい』
「相手を気持ち良くし、相手に気持ち良くしてもらう。心も身体も充実した毎日でした」
『ええ』
「……それが、不可能になったのです。とある事情から突然の禁欲生活が始まりました」
『そうなのですね』
「先程も申しました通り、私は性欲の権化です。いつまで続くかもわからない禁欲生活にもはや限界が来ております。仕事でのミスが日々増加し、このままでは大きなミスをしでかしてしまうのではないかとビクビクしています」
一度息を大きく吐く。
「このまま仕事を続けていく自信が大きく揺らいできてしまいました。と、同時にある考えが私の脳内に生まれ、それがどんどんと大きくなっているのです」
『それは?』
「私は
『!?』
「普通の人はいくらスケベ野郎であったとしても、絶対に私ほどではありません。ましてや仕事に支障をきたすレベルなど我ながら度を越しています。ですので、『人でなし』と表現しました。『ケダモノ』などと言い換えてもいいかもしれません」
『なにもそこまで……』
「いっそもう私は人前に出ない方がいいのかもしれない」
不思議だ。
吐き出して楽になるつもりだったのに、言えば言うほど気が重くなる。
『そんな!』
「?」
妙だな。
過剰反応じゃないか?
それに気のせいかもしれないが、受け答えの雰囲気がよく知っている人物に似ているような。
『早まらないでください!』
「はい?」
『今からそちらへ参ります!そこにいてくださいませ!』
なんだなんだ?
どういうことだ?
一体何がどうなってるんだ?
「プロデューサー様!」
「クラリス!?」
扉を弾き飛ばさん勢いで入室してきたのは、我が事務所のシスターアイドルであるクラリスその人だった。
もちろん私の担当アイドルだ。
「なぜここに!?」
「実はプロデューサー様のことが心配でここ数日私もこちらに詰めていたのです。そして貴方がこちらへ向かうのを目にし、無理を言ってお相手を替わっていただいたのです」
「そうだったのか。なんかちょいちょい『クラリスと雰囲気が似てるな』って頭をよぎったの、勘違いじゃなかったんだな」
「勘付かれてらっしゃったとは、さすがプロデューサー様です。念の為に音声まで変えましたのに」
苦笑するクラリス。
あれやっぱイレギュラーだったのか。
そうだよなあ。さすがにあそこまではしないよな。
「それはともかくプロデューサー様、こちらへお越しください」
右手を掴まれて立たされ、そのまま引っ張られる。
「おい、どこへ行こうって言うんだ?」
「あそこのままでは何かと不都合でしょう。私が使わせていただいている部屋がございます。そちらへ!」
細い腕からは想像できない強い力で手を引かれ、教会の中をズンズンと進んで行き、やがて奥の部屋へと辿り着く。
「さあ中へ」
「しかし」
「他の方に見付かるのは好ましくありません。お早く」
「わ、わかった」
有無をも言わさぬ迫力に従うしかなかった。
「プロデューサー様、先程のお話は」
「ん?ああ、今から取り繕っても仕方がないよな。全部本音だ」
「なんてこと。貴方がそこまで追い詰められていたことに気付けなかったなんて」
悲痛な表情のクラリス。
「そんなに気に病まないでくれ。私だって表に出さないように必死に努力してたんだから」
「他の方ならまだしも、私が気付けなかった責任は重い……」
「だから!おまえがそこまで背負い込む必要は」
「私をお使いください」
「えっ」
今彼女は何と言った?
「今なんて」
「『私をお使いください』と申し上げました」
「そんな自分を道具みたいに」
「構いません」
「私はおまえを性のはけ口になんて」
「してくださいませ」
「一体どうしたというんだクラリス、普段のおまえからは考えられない言動だぞ?」
相手が普通ではないと自分は逆に冷静になるというが、そうはならなかった。
いくらなんでも彼女の様子がおかし過ぎたからだ。
「ここは教会の中で、おまえはシスターだ。それなのに」
「私はもうこれ以上見ていられないのです。そんな状態の貴方を」
「悪かった。見苦しい姿を見せた。大丈夫だ。耐えきってみせるさ」
精一杯の笑顔を見せる。
同情や憐憫ならごめんだ。
「憐れみなどからの発言だとお考えですか?」
ギクリとさせられる。
さすがに鋭い。
「優しいおまえのことだ、気の毒に思って」
「勘違いなさらないでください」
ピシャリ。
「『アイドル界の聖女』など虚像に過ぎません」
「確かにそんなものは押し付けられたパブリックイメージだが」
「私はシスターで、アイドルです。ですがその前にひとりの女性です」
当然だ。
大前提だ。
そこを忘れたことは一度もない。
だがなぜ今それを言う?
「あなたを、心の底からお慕い申し上げています」
「!」
両手を胸の前で組み、不安そうな眉の角度での告白。
「とうとう言ってしまった」と顔に書いてある。
これまでにクラリスと肌を合わせたことは何度もある。
だがそれは「そういう雰囲気になったから」の結果が多く、また「好きですよ」と言ってもらったことはあるが、面と向かってというよりは流れの中で「私もです」的な感じばかりだった。
「本気です」
「本気なのか?」と問う前に宣言されてしまった。
「信じられませんか?」
「おまえが嘘を吐くとは思っていないが、理由に身に覚えがない。なにしろ私は何度も言うように性欲の権化だし、褒められた人間ではないんだ」
卑下でも自虐でもない。
「これまで思わせぶりな態度を取ってきた私が悪いですね」
寂しそうに小さく笑うクラリス。
「あっ、ごめん、その」
上手く言葉が出てこない。
混乱ここに極まれり。
「貴方は自己評価が低すぎます。まず貴方はとても優しい方です」
「いやいやそんなはずは」
「黙ってお聞きください」
「は、はい」
彼女の声の重みに思わず直立不動で姿勢を正す。
「貴方は事務所や貴方宛てに届いた生活必需品や食料品などを私が足を運ぶ教会や施設にいつも送ってくださっていますよね」
「事務所は経費で購入した物を使うし、私じゃあんなに消費しきれないし、だったら腐らせておくより有効活用した方が良いだろ」
なぜかうつむいて言い訳がましくボソボソと話してしまう。
「そうですね。とても素晴らしい心がけです。特にお菓子類は子どもたちが非常に喜んでくれています」
「ならよかった」
直接反応を目にしたことがないからな。
「ケータリングや差し入れの品を私やライラさんにいつも持って帰るようにと回してくださいます」
「いつもめっちゃ余ってるしな。もったいないだろ」
「ええ。私もライラさんもいつも感謝しています。私がそれを持って行く先の方々も、ライラさんのメイドさんも」
タッパーウェアは今や彼女たちにとっての必需品だ。
「私のギャランティの額上げ交渉を何度も行なってくださったと専務やちひろさんからお聞きしました」
「おまえが必要最低限以外すぐに寄付しちゃうからだろ!私はおまえにもっともっとお洒落したり部屋を飾ったり、人生を楽しんで欲しいんだよ!」
「ほら」
「……あ」
顔をあげると、そこにはクラリスの柔らかな微笑みがあった。
「誘導尋問は卑怯だぞ」
「さてなんのことでしょう」
すっとぼけやがって。
腹黒シスターめ(本人には絶対言わんけど)。
「ともかく」
クラリスは「こほん」と咳払いをする。
何かに区切りをつけるように。
「他にも枚挙に暇がありませんが、ここまでよくしていただいて、平静でいられるほど私も鉄の女ではありません」
どう反応すれば良いんだよそれ。
「そういうわけで。日に日に私の中の貴方の存在は大きくなっているのです」
「だからと言って」
なあ?
「私では不足でしょうか?」
彼女の表情に翳が差す。
「そんなわけあるか!おまえはめちゃくちゃ美人でかわいくて性格も良くて時にお茶目で行動力もある。不足どころか100点満点なんかとっくに限界突破してる!」
気付くと力説してしまっていた。
私自身が自己評価が低いかどうかはともかく、自分じゃない自己評価が低い人間を見ると放っておけないのは確かだ。
「そ、そこまでおっしゃっていただけると照れてしまいますわね……」
頬に両手を当て、顔を真っ赤にするクラリス。
かわいいなあ。
・
・
・
ドグンッ!
「!」
「どうなさいました、プロデューサー様!?」
私の異変をいち早く察し、クラリスが駆け寄ってくる。
マズい。
このままでは。
「まあ!」
クラリスは頬に当てていた両手で今度は口元を押さえる。
気付かれてしまったか。
ズボンを内側から押し上げるほどにペニスが勃起し、シミを作るほどに先走り汁が溢れ出していることに。
「プロデューサー様、それ以上の我慢は身体に毒です」
「だが」
この期に及んで拒否をする。
「私に貴方を救わせてください」
「気持ちは嬉しいが……」
「でしたら!」
両肩を掴まれる。
「失礼致します!」
そして唇を奪われた。
「ちゅっ……ちゅるっ……ちゃぷっ……」
あたたかい。
やわらかい。
いいにおい。
ああこれだ。
これなんだ。
ずっと求めていたもの。
でも。
「っ!!」
慌ててクラリスの両肩を掴み返して引き剥がす。
「プロデューサー様、どうして?私の接吻、そんなに下手でしたでしょうか?」
どうかそんな顔をしないでくれ。
おまえは何一つ悪くない。
悪いのは全部私なんだから。
「違うんだ」
「だったらなぜ」
言えない。
とても言えやしない。
キスだけで射精しそうになってしまっただなんて。
いくら溜まっていたにしても、私にだって男としてのちっぽけなプライドがある。
あのままだと無様に思いっきりトランクスを履いたまま大量射精するところだった。
「そ、それは……」
目が泳ぐ。
咄嗟に上手い言い訳が思い付かない。
困った。
さっきのキスから愚息は「射精したい射精したい」とビクンビクンと波打ちっぱなしなのだ。
あまり時間はかけていられない。
暴発だけはなんとしても避けなければならない。
それはこの歳になってのお漏らしと同義だ。
「そういうことでしたか。またしても気付きませんで。気の利かない女だとどうかお笑いください」
得心がいった様子のクラリスが私のズボンのベルトに手をかけ、カチャカチャと外しにかかる。
「何をする!?」
「キスだけで射精なさりたくないのでしょう?」
「!!」
完全に見抜かれていた。
「なぜそれを」
「朴念仁の私にでもそれぐらいはわかります。あなたはこれまで私との睦み合いの中で口内と腟内以外には射精することを拒んでらっしゃるように見受けられました。違いますか?」
「……参ったな。その通りだ」
「やはりそうでしたか。胸でのご奉仕などのあとでも顔や胸に射精なさるのはお好きではありませんものね」
「異常性癖の一種だと思うか?」
「いいえ、決してそのようなことは。貴方は誰よりもつながりを重んじられるお方ですもの」
「理解があって助かる」
ようやく1つ軽口を叩けた。
「それではもうなんのわだかまりもありませんね」
「お、おい」
不覚にもいつの間にかトランクスまでをも下ろされていたことにようやく気付く。
「失礼致します。はもっ」
一切の躊躇もなく、クラリスは猟奇的なまでに勃起した先走り汁をダラダラと垂らすグロテスクな肉棒をその口に頬張った。
「じゅるっ」
「ああああ!!」
全身に雷が落ちたような衝撃が走った。
反射的に両手でクラリスのウィンプル(シスターのベールのこと)を被ったままの後頭部を自らの方に引き寄せる。
その直後。
どぷっっ!!!!
どっっぷ!!!!
どぽおっっ!!!!
どっっぐ!!!!
破裂寸前だった精巣から凶暴な精子の大群が解き放たれた。
「んん~~~~~~~~~~っ!!」
眉を急角度に釣り上げながら、クラリスが声にならない悲鳴を上げる。
「ごめん!クラリスごめん!本当にごめん!」
謝るしかなかった。
けれども歓喜に震える久方ぶりの射精は収まる気配がなかった。
どぴゅどぴゅどぴゅどぴゅ!!
びゅびゅびゅっ!!びゅびゅびゅっ!!びゅびゅびゅっ!!
びゅっぐびゅっぐびゅっぐ!!
びゅびゅーっ!!びゅびゅーっ!!びゅびゅーっ!!
「んーっ!!んーっ!!」
「ごめん……ごめんな……」
最低だ。
射精で腰が抜けそうなのを女の子の頭を掴んで堪えるだなんて最低だ。
「申し訳ない……本当に申し訳ない……」
ひとまず射精の波が落ち着くまで私はひたすら彼女に謝罪を続けた。
「けほっ!えほっ!かはっ!」
胃にとんでもない量のザーメンを流し込まれたクラリスが何度も咳き込む。
「クラリス……」
なんと声をかけたらいいのかわからない。
私は無様にオロオロとする。
「お気になさらないでください」
咳が収まった彼女は気丈にも微笑んでみせる。
さらに。
「ずずっ」
両の手の平の上に咳き込んで吐き出した精液をすする。
「おい無理を!」
「無理などしておりません。……こくっ」
「これは私たちのために貴方が耐え抜いた証。それをどうして無駄になどできましょうか」
そう言いつつ丁寧に手の平の上に残ったものまでを舐め取る。
そんな光景を目撃し、節操なく私の愚息は大人しくなるどころかさらに硬化する。
「まだこんなものでは収まりませんでしょう?」
クラリスが近づいてくる。
「もういいクラリス!おまえはもう十分以上に尽くしてくれた!」
これ以上彼女に甘えるわけにはいかない。
まだ痛いぐらいにバキバキに勃起したままの男根のことは考えないようにして告げる。
「貴方のここはそうはおっしゃっていませんよ」
ジリジリと距離を詰められる。
「こいつは異常なんだ。きっとすぐに萎える。だから」
「私に全てお任せください」
「やめろクラリス。お願いだ。こいつはもうちょっとやそっとじゃダメだ。おまえが壊れてしまう。おまえを壊したくない」
弱々しく拒否する私の両手は優しく払い除けられ、正面から腰を両腕で抱え込まれる。
「あああ……」
「全て私に下さいませ」
再び剛直が聖女の口内へと収められた。
どぴゅっ!!どぴゅっ!!どぴゅっ!!どぴゅっ!!
「こくっ……こくっ……こくっ……こくっ……」
もう何度目なのか数えきれないほどの射精。
それをクラリスは嫌な顔ひとつすることなく受け止めて喉を鳴らす。
「またたくさん
あまつさえ優しく微笑んでペニス全体に丁寧に舌を這わせてくれる。
「おまえ……どうしてそこまでしてくれるんだ……なにもそこまで……」
いくらなんでも。
「ほぅ……」
クラリスが艶めかしい吐息をつく。
「熱い……お腹の中に貴方からいただいた精がなみなみとたゆたっています」
愛しげにゆっくりと彼女は胃の辺りを撫でる。
「なんという甘露なのでしょう。これは罪の味です。熟成されたチーズなんて比較にならない……」
「クラ、リス?」
「プロデューサー様」
「あ、うん」
なんだこの得体の知れないオーラは。
間の抜けた反応しかできない。
「私は貴方を選びます」
「何と比べて?いやダメだクラリス!それはダメだ!それ以上は言うな!戻って来られなくなるぞ!」
「構いません。私は神よりも貴方を選びます。神と貴方から同時に手を伸ばされた時、私は貴方の手を取ります」
「日々の中で神の存在を感じることは多々あります。感謝の念は計り知れません。これからも信心を増すことはあっても失うことはありません。ですが、いつも私たちのそばにいて慈しんでくださるのは貴方です。私たちをその広く、深く、大きな愛で包み込んでくださっているのは貴方です」
「やめろやめろやめろやめろ!私は神様と並べられていいような存在じゃない!むしろクズだ!ケダモノだ!やめろやめろやめろやめろ!」
頭を抱える。
「止まれクラリス!これまでのおまえを自分で全否定するするつもりか!」
「はい。私はたった今ここで生まれ変わるのです。新たなる私に」
なんだその晴れやかな表情は。
自分がどれだけとんでもないことをしでかそうとしているのがわかっていないのか!
「私、クラリスは、森羅万象、全ての中で最も貴方を愛しています。プロデューサー様、貴方に全てを捧げます」
「クラリス!」
慌てて彼女の口を塞ごうとする。
が。
その瞬間。
「きゃああああっ!」
突然クラリスが絶叫を放ってのけぞる。
「クラリス!どうしたクラリス!?クラリス!!」
彼女の両肩を掴んで前後に揺さぶる。
「プロデューサー……様?」
「大丈夫か!?」
「おなかが……」
「痛いのか!?」
「いえ、とてつもなく、熱を、帯びて」
額に汗を浮かべて下腹部を押さえるクラリスを見て先程さすっていた胃ではないことを確認するとともに、あることに気付く。
「お、おい、クラリス、おまえのお腹光ってないか?」
まさか。
まさかまさか。
「そんなプロデューサー様、人間のお腹が光るなどと……えっ!?」
私の指摘を一笑に付そうとした彼女が視線を落として言葉を失う。
そして恐る恐る修道服の裾を捲り上げるとそこには。
「
まさかこれを再び目にすることがあろうとは。
「
クラリスはそっと自らの下腹部に浮かび上がって鈍く光を放つピンク色の複雑な文様を撫でる。
「そうだ。いや、以前見たものと全く同じではないからもしかすると違うものなのかもしれんが、おそらくは」
私は彼女に以前ちとせの身に起こった出来事を話して聞かせた。
なに、ちとせは話したところで怒ったりはしない。ましてや話す相手はクラリスなのだから。
「そんなことが……この世にはまだまだ人知の及ばないことがありますのね」
一応正体がわかって(?)安心したのか彼女の表情から険が消え、興味深そうに色んな角度から
いやはや肝が据わっている。
「クラリス、こんな結果になってしまって本当に申し訳ない」
深々と頭を下げる。
思えばちとせの時も謝った記憶がある。
「どうか頭をお上げください。プロデューサー様が謝る必要などどこにもありません」
「いやそういうわけには。慈悲深いおまえのことだ、私が抱え込んでつぶれてしまわないようにと気を遣ってくれているんだろ?」
「いいえ」
やけにキッパリとクラリスは否定する。
そして。
「私は嬉しくてたまらないのです。歓喜に打ち震えているのです。シスターでもアイドルでも、ましてや聖女などではなく、ひとりの女として」
クラリスの両目が開く。
言語化できない色をたたえるその瞳がまっすぐに私を見つめる。
「私の全ては貴方のものです。過去も、現在も、未来も。病める時も健やかなる時も、貴方に永遠の愛を誓います」
どこかで鐘が鳴り響いた気がした。
じゅぱんっ!ずっぱん!ばちゅん!ぢゅぽっ!ぶじゅっ!
「いけない、いけないことなのに、疼いてしまいます!この身体が、魂が!貴方にもっと愛していただきたいと!」
ベッドに四つん這いになったクラリスに後ろから男根をひたすら叩き付ける。
この時をどれだけ待ち望んでいたか!
「クラリス!気持ちいい!めちゃくちゃ気持ちいい!おかしくなりそうだ!気持ち良すぎておかしくなりそうだ!ありがとう!ありがとう!!」
すぐに射精するのを我慢するために歯を食い縛っている口の端からよだれがしたたる。
最高だ。
やはりセックスは最高だ!
しかもクラリスとセックスができるなんて最高の最高だ!!
「いけないのに!教会の中で!修道服のままで性交するなんていけないのに!なんて罰当たり!なのに!なのに止まらない!止められない!あっあっあっあんっ!!」
どっちゅどっちゅどっちゅどっちゅ!ずっぽずっぽずっぽずっぽ!
ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん!
「感じ、るっ!感じ、すぎます!感じ、すぎて、もう!」
「イクのか?クラリスイクのか?もうイクのか?いっしょにイッていいか?思いっきり
我武者羅にピストン運動を続けながら尋ねる。
「どうぞ!どうぞお願いします!私の
「わかった!
「ください!くださいください!貴方の子種を私にください!」
ぐりゅっ!ごりゅっ!ぐじゅうっ!ごぎゅっ!ぐっぐっぐっぐっぐぷうっ!!
「もう!もうっ!あっ!ああっ!意識が!常識が!理性が!貴方の子種のことしか考えられなく!あっ!あっ!あっあっあっあっああああ~~~~~~~っっ!!!!」
「クラリス!私の!今までで一番濃くて多いザーメンを受け取れぇっ!!」
クラリスが絶頂に達し、私もすぐに後を追う。
ごぷうっ!!
ぶびゅっ!びゅるびゅるびゅぐっ!!
びゅぐびゅぐびゅぐびゅぐ!!どぴゅうっ!!
びゅっぷ!びゅっぷ!びゅっぷびゅっぷびゅっぷ!びゅびゅびゅるーっ!びゅびゅっ!
「あ……あ……あ、あ、あ、あ……ああ……」
ぶびゅるっ!ぶびゅるっ!ぶびゅるっ!ぶびゅるんっ!
どぐどぐ!どぐどぐ!どぐどぐどぐどぐっ!
びゅっ!びゅっ!びゅっ!びゅっ!びゅっ!びゅっ!
びゅびゅびゅっ!びゅびゅびゅっ!びゅびゅびゅっ!
「あ……あっ……ああ……んっ……もう、もう戻れません……。こんな悦びを、こんな幸せを知ってしまっては……刻み込まれてしまっては……」
泣いているのか歓喜しているのか。
どぴゅっ!どぴゅっ!びゅるっ!どっぴゅ!
びゅっぐ!びゅっぐ!びゅっぐ!
まだ
「溺れてしまう……肉欲に溺れてしまう……貴方に溺れてしまう……」
「クラリス、だいすき……」
クラリスに覆い被さって抱き締める。
未だに断続的に射精は続いていた。
「プロデューサー様。私のプロデューサー様。私の全て。愛しています。誰よりも、何よりも。だいすきです……」
私たちは同時に意識を手放してベッドへと倒れ込んだ。
しばらくして目を覚ました私たちが何をしたかというと、またセックスだった。
まずは一通りお掃除フェラをしてもらって、正常位で一発、だいしゅきホールドでもう一発、そのまま抜かずに屈曲位でさらに一発
次にパイズリで口内射精して精飲させ、座位で一発、騎乗位でもう一発
クラリスが後輩位を気に入ったと言うので正調バックでもう1回ハメて、両腕を持ったり、羽交い締めにしたり、両肩を掴んで揺さぶったり、自分で動かせたりしながらありとあらゆるバリエーションの後輩位でヤッてヤッてヤりまくって
「ふ~~~~~っ」
さすがに疲れ果ててベッドに大の字になる。
「プロデューサー様、お疲れ様でした。とても素敵な時間でした」
ツヤツヤと実に血色良くクラリスは微笑み、念入りに仕上げのお掃除フェラをしてくれる。
玉袋のシワの溝や裏筋、エラや皮の内側まで、丁寧に丁寧に愛情たっぷりに舐めてしゃぶって吸ってくれる。
深い深い愛を感じる。
「幸せだ」
思わず口に出していた。
「私もです」
クラリスが同意してくれる。
「こんなにも満たされたのは初めてです」
さすがに力を失いつつあるペニスに頬擦りをする。
「私が幸せにしたかったのに」
「あら、貴方が幸せにしてくださったのですよ?」
「そうか」
「そうですよ。ふふっ」
見つめ合い、笑い合う。
「これからもおまえを幸せにする」
「ありがとうございます。ふたりで幸せになりましょうね。私はどこまでも貴方について行きます」
誓いのキスを鈴口にしてくれた。
後日。
「まさか
事務所の会議室でちとせに事の次第を報告すると、彼女は驚きつつもなんとも楽しそうな反応を見せた。
そうなのだ。
あれだけ意気込んでいた千夜にはまだ
「で、これってやっぱり
「そうね。そう言ってしまってもいいと思う。私のみたいに魔のものじゃないから書式が違うけど、内容は概ね同じ」
「いいなあ。私もそれ、欲しいな」
スカートをたくし上げるちとせとクラリスのそれを交互に見比べて
「その内な、その内」
適当に誤魔化す。
この上小梅にまで先を越されてしまっては千夜の立つ瀬がないというものだ。
「これで3人目のお嫁さんだね」
「へっ?」
「まあ!」
小梅の何気ない一言に私は素っ頓狂な声を出し、クラリスは頬を染めて両手で口元を覆った。
「だって、そういうことだよね?」
小梅がちとせの顔を仰ぎ見る。
「ええ、わかりやすく言うとそういうことよ。おめでとう、クラリスさん」
ちとせがクラリスにウインクをしてみせる。
「まあ!まあ!私がプロデューサー様の花嫁に!?なんて、なんて嬉しい、こんなことが……」
彼女の両目からは熱い涙が流れる。
「よかったね」
「めでたしめでたし、よね」
小梅とちとせが手を叩いて祝福する。
「と、その前に」
いい雰囲気に水を差して申し訳ないが、ひとつどうしても片付けておかなければならない問題がある。
「な、なにかなー」
「もういいじゃない、ねえ?」
「なにを白々しい。ここまでの事態に発展したのはおまえら2人がそもそもの原因じゃねーか」
「犯人も無事捕まったんだし」
「そうそう」
順を追って説明するとこうだ。
私を刺した犯人は逃走した。
それを警察のみならず『キュート四大財閥』までもが血眼になって捜索したが見付からない。
だがある日、会社の正門前に廃人寸前になった犯人が突然現れ、「お願いだから逮捕してくれ!刑務所にブチ込んでくれ!」と泣き喚いて懇願したという。
駆け付けた警官によって逮捕され、取り調べを受けた彼は「殺される。いや死んだ方がマシだ殺された方がマシだ。でもそうしてくれないそうさせてくれない。とにかくここにはいたくない。もっともっと奥の奥に収容してくれ!できることなら今すぐ死刑にしてくれ!」などと意味不明な供述しているとか。
で、彼がそんな風になってしまったのはこの2人のせいだ。
私が自分たちがいない間に刺されたことに激怒したちとせと小梅は警察や『キュート四大財閥』よりも先に彼を見つけ出し、異空間に監禁して気の済むまで死ぬよりも辛い目に遭わせ続けていたらしい。
そりゃ普通の人間たちがどうがんばったところで発見できるわけがない。
「愛ゆえよ愛ゆえ!許して?ねっ、お願いっ!」
ちとせが両手を合わせて舌を出し、キュートにおねだりしてくる。
「クラリスさんだってそうしたよね?」
小梅がクラリスに話を振る。
「何言ってんだ小梅、クラリスが『そうですね』なんて言うわけ」
「そうですね」
「言ったよ!」
「今の私ならそうしたでしょうね。……もっとも、私にはおふたりのような異能の力は残念ながらありませんが」
クラリスさーん、薄目開けるの怖いからやめてねー?
「ねえ魔法使いさん、機嫌直して?」
「悪気はなかったの。反省もしてます……」
しゅんとするちとせと小梅。
くっ、かわいい。
だがなあ、私がどれほど辛い禁欲生活を送ったか。
「プロデューサー様、おふたりを赦してくださいませんか?」
「クラリス」
「この通りです」
両手を組み、その場に膝を突く。
「よせよせ!」
彼女を制止しようとするが。
「あっ、じゃあ私も私も!」
「うん」
早速ちとせと小梅が真似をする。
ほらー!
「って、ちとせ!?おまえ何してんの!?」
気付けばちとせが私のズボンのファスナーを下ろしにかかっている。
「何って儀式をしないと」
「儀式?」
「そう、だね。お嫁さんが3人になったんだし」
我が意を得たり、と小梅もそれを手伝う。
「や、やめっ!なあクラリス、おまえも何とか言ってやってくれ!アッー!」
あっと言う間にトランクスまで引き下げられてしまった。
「さあクラリスさん、真ん中に」
「いえ、私は3番目ですのでそのような……」
「順番なんて関係ないよ。今日の主役は、クラリスさんだから」
「そうですか?ではお言葉に甘えまして」
私を置いて妻たちの間で話がどんどん進む。
「おまえらなあ……」
「あら、魔法使いさん好きでしょ?トリプルフェラ」
「大好きです!!!!」
「ふふっ、よかった」
まんまと術中。
満面の笑みのちとせと小梅。
「ささっ、クラリスさん」
「最初はどうぞ」
ちとせと小梅が左右から竿を持ち上げる。
「ありがとうございます」
クラリスがすすす、と膝立ちのまま近寄る。
「それでは私たち3人を」
「永遠に」
「幸せにしてくださいませ」
ちゅっ。
あーもうオッケー!
全部オッケー!
幸せだからいいや!
これからも幸せにするし、もっともっと幸せになろうぜ!
「プロデューサー様、私の旦那様、貴方に永遠の愛を誓います」
ようこそ3人目の花嫁。
私だけの聖女アイドル。
私も誓うよ、永遠の無限の愛を。
次の総選挙ではクラリスさんに力入れようと思っています。