ーー同時刻、渋谷領域入り口近辺ーー
「ハァ…!ハァ…!」
特別指定危険区域である渋谷内を自転車で
全力で漕ぐ影が一つ。
その自転車に跨っている男子生徒が一人
その後ろの荷台に幼い男の子が一人乗っていた
勝平「やべぇ…!やべぇよ…!!」
ショウ「………」ギュッ
顔面蒼白で必死に自転車を漕ぐ人物は石山勝平
同じく、顔面蒼白で必死に勝平にしがみつく
男の子は姫野ショウである。
石山勝平は家に戻り、いつものように食事や
風呂を済ませて、自室でベッドに寝転がりながら
携帯を触っていると、その携帯から着信が入る。
電話の相手は紅藤優であり、緑川影明と共に
いつも仲良くつるんでいる悪友であり
唯一無二の親友であった
その紅藤優からまた同じ大親友である緑川影明
の現況を聞き、緑川影明の頼みである誘拐された
男の子を隠し場所からの救出を優から頼まれ、
石山勝平は渋谷へと赴いた。
石山勝平に紅藤優が自分に頼まれた役割を頼んだ
のは、大きく2つある。
まず1つ目は優が影明の救出に専念するため。
2つ目はショウの救出も一刻を争うためである。
もちろんのこと優にとっても大親友である。
緑川影明を救出する事は当たり前だ。
しかし、妖魔のそもそもの目的はショウである。
当然死に物狂いで妖魔たちはショウを探すだろう。
いくら赤の他人とは言え、影明が必死に助けた
ショウがまた妖魔に捕まれば、影明のした事が
無駄になる上、見捨ててしまうのは寝覚めが
悪い。
無理せず救えそうならば救うのが人情であろう。
しかし、影明も放っておく事は出来ない。
影明との通話での影明の不自然な急な切り方は
妖魔たちに追われてる最中であったのは明らかだ。
影明に妖魔たちは怒り心頭なのは間違いないはず
なので、これまた死に物狂いで影明を追うだろう。
ならばこそ、ショウを救い出し、渋谷外の安全な
場所まで連れて行くなんて事をする余裕は欠片も
ないのだ。
だからこそ優は危険と分かっていながら勝平に
協力を頼んだのだ。
渋谷ならば、学園よりも勝平の家の方が近いため
より素早くショウを救出に行ける事も理由であるが
何より、『紅藤優が影明を助けに行く方が適任』
だったし、石山勝平がショウを助けに行く方が
適任であった。
ちなみに勝平が渋谷にガスマスク等の備えもなしで
渋谷へと進入したのも優から渋谷に対する推測を
聞いていたためである。
そうして、妖魔の支配する渋谷内に入った勝平は
優から聞いたショウの隠し場所の特徴を探して、
渋谷を自転車を走らせて回り、見事ショウを
見つけて、救出する事に成功した。
さらに護身用にステンレス包丁をこっそり懐に
忍ばせていたのも幸いだった。
包丁を使って、ショウを拘束していた糸を切り、
自転車の荷台に乗せる事が出来たのだ。
仮にショウの糸を切る事が出来なければ、
勝平の自転車はただのママチャリであり、
荷台と言ってもカゴといった上等なものではなく、
鉄の薄い板をとりあえず取り付けただけの様な
お粗末な物だ。
糸で簀巻きにされ、手も足もろくに動かせない様な
状態のショウを自転車の荷台に乗せることなど
危険すぎて出来なかっただろう。
そうなれば、ショウを迅速に救出する事は一気に
難しくなっていたはずだ。
そういう意味でも全く幸運と言える。
しかし、幸運はそう長く続くものではない。
石山勝平はまさに不運に見舞われたから今こうして
【死ぬ】ような思いで必死に自転車を漕いでいるのだ。
自転車での移動中に、勝平は化け物
いや、【妖魔】に見つかってしまったのだ。
もちろん勝平には妖魔などと言った存在など知るはず
はないが、それでも化け物という事は分かったし、
それが明らかにヤバいものである事だって分かる。
命の危険に晒される中、勝平は自転車を漕ぎながらも何とか
携帯を取り出して優に電話する事に成功した。
勝平「もしもし!?優か!?……あぁ、男の子は何とか
救出出来たけど、やばい!!優!お前が言ってた化け物
って奴が現れやがった!!……だから化け物だよ!!
しかも今すげえそいつらに追われてる!!
それに奴らすげえ速くてこっちは全力でチャリを飛ば
してるっつーのに、あいつら平然と追ってきやがる!!
このままじゃ追いつかれちまうよ!!
頼む!何か助かる方法考えてくれねえか!?
てか、助けてくれ!!……は!?チャンス!?
俺のこの今にも死にそうな状況がか!?
……な、なに!?本当かよ!?じゃあその人たち
と一緒に助けに……って、はあ!?
ゆうどおぉ!?てめえふざけんな!!
こちとらただでさえ男の子をチャリの荷台に乗せてる
からチャリを漕ぐ疲労も倍増してるってのにそんな
状態であいつらを誘導しろとか正気の沙汰じゃねえ!
……う、うぐっ…そりゃそうだけどよ…
だーーーっ!!分かったよ!!こいつらを何とか
誘きよせりゃ良いんだろ!?やってやるよ!!
ちくしょう!!
場所は渋谷の入り口でいいか!?そこならこっから
約5分ってところだ!!
……おっし!それじゃ頼むぞ!だから絶対」ツー…
ツー…
勝平「っておいゴラァ!?さっさと切るんじゃねえ
つーの!!」ブン!
勝平は自らの携帯を投げつけた。
それは切られた事に対して癇癪を起こしたから
ではない。
携帯を元の場所に戻す余裕が無いほど【妖魔】たちが
石山勝平の元に迫ってきてたからだ。
ここで律儀に携帯をしまっていたら、その隙で【妖魔】
たちは一気に勝平の元に近づいてしまっていただろう。
今でもギリギリだと言うのに、そうなってしまえば
約束した渋谷の入り口まで奴らを誘導する前に捕まって
しまうのは明らかだ。
携帯を紛失するのは手痛い損失で、親からもこっぴどく
怒られるだろうが、命に比べたらそんな事全く気になど
ならない。
そんな中でも、妖魔たちは絶叫をあげながら勝平たちに
迫ってくる。
蝙蝠型妖魔「クソガキャア!!待ちやがれえ!!
そいつは聖徒会どもの女どもをぶち犯すための
大切な人質だ!返せぇ!!」
蜘蛛型妖魔「全く上手くいっておったのに何故こうも
こんなクソガキどもたちの邪魔が入るんじゃあ!」
勝平「クソが… もうやるしかねえ!!」
勝平は妖魔たちの邪悪なプレッシャーを背中で感じ、
改めて覚悟を決めた。
そんな中、勝平はショウが気になり、後ろを振り返る。
男の子は震えながら後ろの妖魔たちを見ていた。
勝平(そりゃそうか…こんだけ幼かったら怖くて
当たり前だよな)
勝平はショウをかわいそうに思う。
今まさに自らの背後から異形の化け物がこっちを
捕らえんと追いかけてきているのだ。
そうでなくともショウは妖魔たちに捕らえられて
いたのだ。
助けに来た時の簀巻きの状態を見た時はさしもの
勝平でもそれをした犯人たちへの憤りを感じた
というものだ。
だが、ショウが震えている理由は実のところは違う。
いや、勝平の推測も幾分かはあるのだが、それ以上に
ショウは【別の事柄】に気がつき、体を震わせて
いたのだ。
勝平「飛ばすぞ!ガキ!!しっかり掴まれよ!」
ショウ「は、はい!」
そんなショウの不安に勝平は気づく事はなく、誘導の
指定場所へと急ぐため、そして背後から迫る恐怖に少し
でも逃れるべく自転車のスピードをあげる
ショウ(僕を助けてくれた人…どうか無事でいて!)
そんな中でもショウの不安は募り、ただただ祈る事しか
出来なかった。
------------------------
〜同時刻〜
影明「うおおおおおおおお!?」
バルムス「待ちやがれ!!クソガキがぁ!!」
緑川影明は妖魔たちのリーダー、バルムスから必死の
逃走をしていた。
影明「やっべえ!あいつめっちゃくちゃ怒ってるわ!!
まぁ当たり前なんだけど!捕まったら絶対ダメな奴だ!」
影明は悲鳴にも近い声で渋谷の街並みを必死に駆ける
しかし、実のところ、叫びたいのはバルムスの方である
バルムス(クソがっ!!全力で走ってるのに全く差が
縮まらねえ!! あのクソガキの脚力は一体どうなって
やがる!?)
妖魔は普通の人間と比べれば、遥かに肉体強度も身体能力
も高い。
故に下等妖魔でも本気を出して走れば、例え100m以上離れた
場所に一般的な人間の男性が走って逃げていたとしても
30秒とかからずに捕まえられる。
それに加え、バルムスは手下2人のような下等妖魔ではない。
相当な力を持つ最上等妖魔なのだ。
よって、バルムスが本気で走れば時速60kmは出せるだろう。
なのに、緑川影明はバルムスに追われてから実に5分以上も
逃げていたのだ。
最上等妖魔である自分が全力で走ってもなお一般人である
はずの影明に追いつく事が出来ないという事実はバルムス
自身のプライドに深い傷をつけた
バルムス「くそがっ!!退魔士でもないただのガキに
これ以上いい様にされてたまるかぁ!」
ただの一般人が何故自動車並みのスピードで走れるほどの
身体能力を有しているのか、バルムスの頭の中にも疑問は
あった。
しかし、その疑念はただの人間如きに良いようにされて
いるという現状に対する屈辱でかき消されてしまっている。
ここなのだろう。この後で最上等妖魔である自分が敗れて
しまう結果になるのは
ここで屈辱に負けずに冷静に緑川影明の異常性について
もっと深く考えていたら、この後に待ち受ける悲惨な
結果にはならなかったのかもしれない。
その事は『バルムスが属する
なおさらだ』
もちろんバルムスはそんな事など露知らず、影明との
追走劇を続けたーー
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〜再び、勝平&ショウサイド〜
勝平「よっし!見えてきたぞ!」
勝平は優との通話の後、妖魔の猛追走から何とか
逃げつつ、誘導の指定場所付近へとやって来た。
だが、安心できる距離まで妖魔を突き放せたわけでは
決してない。むしろ通話の後よりも妖魔との距離は
確実に縮まっており、今も着実に妖魔たちは勝平との
距離を縮めて来ている。
勝平は息も絶え絶えになりながらも最後の体力を
振り絞って自転車を漕ぐ。
誘導場所までほんの500mにも満たない距離だが、
命を賭け物とした逃亡劇の中では、そんなごく短い距離
でも険しい山道を、もしくは延々と続く階段を、
これから幾重にも登っていくような感覚に見舞う。
この極限状態の中では、ペダルのたった一漕ぎでさえ、
体力をごっそりと持っていかれてしまうのだ。
しかし、今の状況が希望か絶望かのどちらだと問われると
勝平は間違いなく希望と答えるだろう。
すぐそこまで迫る死からの逃走劇はついに終わりを迎えよう
としているのだ。
どんなに体力を消耗していても、命が助かる終点が目の前に
見えているのだから、さっきまで不安と恐怖でいっぱい
だった勝平の心が希望で満ちるのは当然と言えよう。
勝平「よし、後少し……」
それは目的の渋谷の街の入り口まで目の前にしたところ
だった。
勝平「は?」
勝平の目におかしなものが映る。
今まさに自らが乗っていた自分の自転車である。
その自転車が座席に誰も乗っていない状態で勝平の目の先の
入り口方向に走っているのだ。
勝平は混乱する。一瞬だけだ。
何故ならその不可思議な現象はその後すぐに勝平の感覚が
教えてくれたのだから。
浮遊感だ。
緊縛感だ。
牽引感だ。
感覚により、勝平は自らの身体を視て、勝平は何が起きたか
を理解する。
勝平とショウ、2人の身体を蜘蛛型妖魔の糸が絡め、
追走する妖魔の方へと引き寄せられているのだ。
勝平「うっ!?づああああぁぁぁぁ!!!」
ショウ「あぐぁぁぁぁ!?」
理解してコンマ数秒後に走る身体の全身への灼熱感。
2人は車にも勝るとも劣らないほどのスピードで爆走
していた自転車から地面へと叩きつけられた。
傷は擦り傷や切り傷といった軽傷などではもちろんない。
地面に叩きつけられた箇所は肉が弾け、勢いのまま
地面をゴロゴロと転がったため全身は打撲状態。
骨にも影響しているかもしれない。
幸い、打ち付けられた場所が頭や腕ではなく、背中
だったので、身体が動かない箇所はなかったが、それ
でも間違いなく重傷である。
いや、確かに勝平の意志で身体を動かせる。
しかし、腕は【動かさなかった】
厳密に言えば動きを封じられていると言うべきか
そう、蜘蛛型妖魔の糸が勝平とショウを腕ごと胴体を
ぐるぐる巻きにしてしまっているのだ。
腕が動かなければ、立つ事もままならない。
腕を使わず、腹筋や背筋などを用いて起き上がる事も
出来ないぐらいには身体中もボロボロだ。
そして、よしんば立てたとしても、
【今彼らを足元に見下ろす妖魔たちが逃す事など
許さないだろう】
蜘蛛型妖魔「ヒヒヒヒ、全く手間をかけさせおったわい」
蝙蝠型妖魔「あぁ、しかし蜘蛛。おめぇいつから糸
出せるようになったんだよ?」
蜘蛛型妖魔「ついさっきじゃ。走ってるうちに糸の噴出口
に絡まっておったドロドロとした茶黄色の液体が取れた
ようでの。」
蝙蝠型妖魔「そうかよ。まぁ、ともあれこれでバルムス様
にどやされなさそうだ。」
蜘蛛型妖魔「うむ、今頃あのガキも捕まっておるから
じゃろう。ただの人間に上位妖魔であられるバルムス様
から逃げられるはずがない」
蝙蝠型妖魔「あぁ、それにとんでもないぐらいにお怒り
だったからなぁ。俺たちに最重要なはずのこのヒカルの
弟を探させて、自分はあのクソガキを探しに行ったほど
だったし。
まぁ、だがそれは」
蝙蝠型妖魔の目がギラリと煇り、足元の勝平を
睨め付ける
蝙蝠型妖魔「俺たちも同じだがなぁ?おいクソガキ?
よくもまぁ、散々俺たちをコケにしてくれたもん
だよなぁ? あのクソガキに傷つけられてなけりゃ
てめえらなんぞとっくの前に捕まえられてたんだよ。
ったく、あのクソガキが……壁に叩きつけられた時に
俺の羽が傷ついちまった… しばらくは飛べそうに
ないな」
蜘蛛型妖魔「あぁ、わしの糸も封じおってからに……
わしらとしてもあのガキが一番腹立たしいのじゃが、
そやつはバルムス様がいたぶり尽くしてしまうじゃろう
し、そやつの分の鬱憤も含めて貴様をいたぶってやろうぞ」
妖魔たちの目は憤怒に満ちている。たかがただの人間如き
に良い様にされてしまった屈辱からそれは来ている。
その目を見て、勝平はその後に訪れる自身の凄惨な末路を
容易に想像出来てしまい、身体をガタガタと震わせる。
そしてそれはショウも同じであった。
勝平(くそっ!このままじゃやべえよ……!確実に俺は
殺されちまう…… それもめちゃくちゃにいたぶられて
……!)
そう思考した時、勝平は吠えた
勝平「すぐるううううう!!!助けてくれえええええ!!
死ぬ!!殺されちまうぅ!!!
お前なら持って来てるだろ!?『アレ』!!
早くこいつを」ドガッ
救けを求めて咆哮をあげる勝平の腹をコウモリ型妖魔が
蹴った。
勝平「ゴフッ!?」
勝平は口から血反吐と吐瀉物を吐き出す。胃に収まっていた
今日の夜ご飯がまるごと口から噴出していく。
あまりの衝撃だった。内蔵が潰れたのではないかと思うほど
だ。
口から血を吐いたのだから潰れるまでいかなくとも相当に
傷めたのには間違いない。
蝙蝠型妖魔「おっと?余計な事しゃべるんじゃねえよ。
てめえはこれから俺たちのサンドバッグになってもらう
んだからなぁ?」
蜘蛛型妖魔「ヒカルの弟とやらは傷つけるわけにはいかん
から、その分も含めて貴様には大いに苦悶の声をあげて
もらわねばのぅ?」
ゲタゲタと醜悪な笑いをこぼしながら妖魔たちはなおも
勝平を睨め付ける。
その目にはとっくに憤怒の色は消え失せている。
代わりに目には愉しみが宿っていた。
それは幼い子供がおもちゃを遊ぶような、純粋のようで
程遠いおぞましさだ。
勝平「ちくしょう…!いやだ…!助けてくれ……
誰かあああああああ!!!」
勝平は絶望に満ちた顔で目にいっぱいの涙をあふれさせ
ながら慟哭する。
ショウはショウで言葉も出せずにただフルフルと身体を
震わせていた。
蜘蛛型妖魔「そんなに叫んだところで誰も助けには
来んわい」
蝙蝠型妖魔「諦めて、挽き肉になれや!!」
非情なる蝙蝠型妖魔の腕が振り下ろされる。
腕は細めとは言え、妖魔の肉体に違いない。
普通の人間である勝平の身体など容易く潰せるだろう
そして、鮮血が飛び散り、絶叫が木霊する。
しかし、鮮血が飛び散り、絶叫が木霊した
という結果は決して当然なんかではない。
いや、正確に言えばその結果の詳細がおかしいと
言うべきか。
鮮血が飛び散ったのは蝙蝠型妖魔の腕からだ。
ーー石山勝平の身体からは一切鮮血など出ていない。
絶叫は蝙蝠型妖魔の口から吐き出されている
ーー石山勝平は少しの苦悶すらこぼしてなどいない。
ーー蝙蝠型妖魔の腕が空中へと飛んでいたーー
蝙蝠型妖魔「あがぁぁぁぁ!?俺の腕が!?俺の腕が
ぁぁぁぁぁ!!!」
蜘蛛型妖魔「な、なんじゃ!?一体何が起きたんじゃ!?」
蝙蝠型妖魔は腕に迸る灼熱と激痛のあまり地面に転がり
回り、蜘蛛型妖魔はいきなりの出来事に慌てふためくばかり。
蜘蛛型妖魔「!?何じゃと!?ガキどもがおらぬ!!」
さらに先ほどまで足下にいた勝平たちが消えており、
蜘蛛型妖魔の焦りは更に加速する。
そして、その焦りは【絶望】へと変わる時が来たようだ。
「そこまでよ」
その凛とした澄んだ声の響きは妖魔たちはよく知っていた。
自分達の最大の敵派閥である【退魔士】
その中でも最強として名高い者の声であり、人質に取ろう
としたショウの姉だと言う事を。
蜘蛛型妖魔は声の方向を振り向く。蝙蝠型妖魔は腕の傷で
転げ回り、まだ陥った事態すら認識していない。
ヒカル「よくもショウを攫ってくれたわね。妖魔ども!
どっちも必ず滅ぼしてあげるわ!」
セイラ「ショウたちは取り返しましたわよ。これであなた
たち如き下等妖魔が勝てる道理はなくなりましたわね。」
ユキ「さぁ、名門綾風家の名にかけて、あなたたち妖魔を
討ち滅ぼします!」
退魔士最強として名高き【聖徒会】たちはそれぞれ名乗り
をあげる。
ヒカルの腕にショウが、セイラの腕に勝平が抱えられていた。
蜘蛛型妖魔「せ…聖徒会……!?しまった……!!ガキども
に夢中になりすぎてしもうた!!」
蜘蛛型妖魔(まずい…まずいぞぅ!!わしらでは奴らには
勝てぬ……!!)
蜘蛛型妖魔は恐怖で顔を引き攣らせる。
妖魔と言えど、所詮彼らは下等妖魔だ。
並の退魔士なら彼らでも十分相手に出来るぐらいの力はある
のだが、熟練の退魔士相手には彼らでは勝ち目は薄い。
目の前に立つ者たちは【熟練】のレベルではなく、【最強】
レベルだ。
もはや強さで立っているステージそのものが違う相手に対して
真っ向勝負で妖魔たちに勝ち目など微塵もあるはずがない。
そのための人質であったが、その人質も今や奪い返され、
妖魔たちに有利な点は皆無となったのだ。
ヒカル「ごめん!紅藤くんたち!ショウたちを抱えたまま
だと戦闘しにくいから、預かってちょうだい!」
優「ほいほい」
瞬「あぁ、任せて!」
ヒカルがそう言葉をかけると、物陰からひょこっと瞬と優が
飛び出し、受け取る構えを取る。
2人の準備が出来たことを確認したヒカルとセイラは
ショウと勝平をそれぞれ投げつける。
瞬「うおっと!?」
優「マジか…女の子が身の丈170cmある男子を苦もなく
投げられるなんてね」
瞬にショウが、優に勝平が投げつけられる。
投げつられたショウの重みに耐えきれず、瞬はその場で
尻もちをついてしまうが、
優は上手く後ろに半歩引くことにより、衝撃を緩和した
ため、転ぶことなく勝平を上手く受け止めていた。
瞬「いててて……」
ショウ「ごめんなさい、お兄さん。大丈夫ですか?」
瞬「あぁ、平気だよ。」
優「勝平は大丈夫?」
勝平「大丈夫なわけねえ!本気で死ぬかと思ったぞ!?
もうこんな囮役二度とごめんだ!」
優「悪かったよ。ごめん勝平。でもおかげで助かった。
さあ、後は【聖徒会】さんとやらに任せようじゃないか」
蜘蛛型妖魔「うぬぬぬ!まずい……!逃げなければ……!」
蜘蛛型妖魔が踵を返し、逃げ出そうとするもーー
バン!
ドシュ!
二筋の光が走り、蜘蛛型妖魔の両足を貫く。
蜘蛛型妖魔「ぐ!?ぎゃあああああああ!!!」
貫かれた両足は弾け、蜘蛛型妖魔は逃げ出そうとした
方向に盛大に転がった。
蜘蛛型妖魔の右足には弾痕が、左足の状態は酷く、
股付近まで、えぐられ、完全に消失してしまっていた。
その傷は、セイラとユキにより傷つけられたものだった。
【セイラ・神無月】
セイラ・神無月の退魔士としての武器は退魔用に改造
された霊装銃であり、2丁拳銃で戦う。そしてその戦闘方式は
イギリスの教会のシスターたちが好んで用いられている。
セイラは元はイギリス出身のシスターであり、
イギリスでの魔対策本部である教会の出身であった。
母親はその教会の高名なシスターである。ある時
『妖魔』に身体を犯され、子供を身籠る。
しかし、そのシスターの敬虔な御心により、神が慈悲を
与え、その子供は妖魔としてでなく、人間として産まれ
おちたとされている。
その子供が【セイラ・神無月】であり、妖魔に孕まされた
のに、人間として産まれ落ちたセイラは教会でも【奇跡の子】
としてもてはやされるようになる。
高名なシスターの生まれであるため、聖気も高く、『妖魔の血』
も流れているため、身体能力も他のシスターたちと比べて
みても突出した高さを誇っていた。
しかし、セイラは自らに流れる『妖魔の血』を疎み、その力
を使う事は決して無かった。
その意志もあり、セイラはシスターとして、退魔士として、
人一倍鍛錬に励んだ。
結果、セイラは呪われた妖魔の力に頼ることなく、退魔の力
だけで現代最強格の退魔士として謳われるまでになれたのだ。
そして、12歳、つまり日本でいう中学に上がる時期にセイラ
は自らの技術の更なる向上のため、銃を武器に妖魔を討つ
退魔士の中でも屈指の日本の『ある名家』への訓練を目的
として日本に訪れたのだーー
【綾風ユキ】
綾風ユキは日本の財閥としてもトップクラスであり、
退魔士としてもトップクラスである名門中の名門、
綾風家の令嬢であり、巫女として古くから日本を支えて
きた綾風家らしく、ユキもお祓い棒や札、式神を用いて
妖魔を討ち滅ぼす退魔士である。
綾風家は初代の綾風家当主が自らの魂を核とし、
当代ごとの綾風家当主の霊力を次代に受け継ぐシステム、
【霊核】を築いた。
綾風家の歴史の始まりは平城とも平安からとも伝えられて
いるほどには長い歴史を持つ。いまや綾風の霊核は、
並の退魔士では底を見ることは叶わぬほどの莫大な
霊力を蓄えているのだ。
しかし、ユキが最強とも伝説とも讃えられているのは
その霊核のためではない。
【ユキ自身が持つ霊力が霊核の霊力量を凌ぐ莫大な
霊力を誇っているためである。】
まさしくユキは綾風の歴史の中でも最強と呼ぶに
ふさわしい才能を持っていると言っても過言ではないのだ。
退魔の名家の中でもユキは歴代最高と目されているのだから
世間の退魔界隈でも最強の退魔士の1人として数えられる
のは当然と言える。
そんな自らの莫大な霊力と綾風の受け継いできた霊核の霊力を
合わせ持つユキは全ての退魔の技において凄まじい火力を
誇っており、並の退魔士数十人が集まってやっと発動出来る
ほどの霊力量が必要な霊術も難なく発動出来てしまう。
ユキが放つ札の1枚ですら、先ほどの蜘蛛型妖魔の左足を
まるごと吹き飛ばしてしまうほどの火力なのだ。
大技を連発し、札1枚ですら必殺の威力を誇る火力を持つ
ユキの前ではいかなる妖魔も肉片すら残らず消滅するーー
蜘蛛型妖魔「ぐおおおおおおおお!!!」
両足をもがれた蜘蛛型妖魔は地面をのたうち回る。
特に痛みがひどいのはセイラの銃に穿たれた右足だ。
一見するとユキにまるごと吹き飛ばされた左足の方が
深刻なダメージに思えるが、内実は右足も相当に深刻な
状態である。
霊装銃は弾に霊力を纏わせ放つ退魔士の武器である。
この銃により穿たれた妖魔は穿たれた箇所が聖気により
侵食される。
妖魔にとって聖気は人間でいう毒と同じだ。
聖気に侵食された肉体箇所は徐々に崩壊していくのだ。
それに加えセイラが練る聖気は特に濃度が濃い。
普通ならば、穿たれた肉体箇所の周辺だけが崩壊する程度
だが、セイラの聖気は穿たれた周辺だけでなく、身体全体
へと聖気が広がり、やがて全身が聖気に侵され肉体の全て
が崩壊してしまうのだ。
つまり、セイラの弾に穿たれた妖魔は最後、確実な死が
待ち受けているのである。
死を逃れる方法は穿たれた箇所を聖気が身体全体に広がる
前に切り離すなどして除去する事だが
『
蜘蛛型妖魔「たす……けて……たすけて…くれぇぇ……」
最早死を待つだけである蜘蛛型妖魔が助けを求める。
しかし、その願いは無理あるし、無駄であろう。
何故ならーー
セイラ「何を言っていますの?あなたたちは私たちの大切
な人間、ショウを誘拐しましたのよ?万死に値するに
決まってるでしょう?
もちろんあなたが妖魔である時点で慈悲をかける道理は
ないですわね。」
ユキ「その通りです。ヒカルさんの弟であるショウ君を
危険に晒した罪は許されません。
あなたたちを見過ごすなどという選択肢はありませんね」
ーー銃声が鳴る
そうして、当然のように【蜘蛛型妖魔】は眉間を撃ち抜かれ
その命を終えるのであった。
蝙蝠型妖魔「あがっ…… くそっ!!
どこのどいつだああぁぁぁ!?この俺の腕を斬り飛ば…
えっ?」
腕の痛みが引き、ようやく我へとかえった蝙蝠型妖魔だったが
もう全ては遅い。
つい先ほど蜘蛛型妖魔はセイラとユキにより討たれ、肝心の
人質のショウは既に奪い返されているのだ。
その状況を見て、憤怒に染まっていた蝙蝠型妖魔の顔が見る見る
絶望で彩られていく。
特に今自らを見下ろす
死を予感してしまう。
ヒカル「お前……今頃自分の置かれている状況に気づいたの?」
蝙蝠型妖魔「あぁ……た、頼む!助けてくれ!何でもするから!
見逃してくれぇ!!」
蝙蝠型妖魔は醜い命乞いをする。いや、【愚かな】だろうか。
ヒカル「……お前、それ本気で言ってるの?あなたたちは
ショウを誘拐した。その上お前は妖魔。
どこにもお前を許す選択肢などない事ぐらいは分かると
思うんだけど?」
蝙蝠型妖魔「お、俺は……こんな事本当はやりたくなかった
んだ!!でも他の奴らがどうしてもやると聞かなかったから
仕方なかったんだ!!もう悪い事はしねえから見逃してくれ
よお!!」
ヒカル「はぁ……やはり所詮は『妖魔』ね。自らの行いの
意味が分からなければ、潔さもない。
……ショウに危害を加えようとした貴様らに、生かす価値
などない。潔く死ねーー」
蝙蝠型妖魔「まっ!?まってくr」
ズバアアアアアン!!!
蜘蛛型妖魔は足掻きの悪い命乞いを続ける暇もなく、一瞬
で斬り捨てられた。そのスピードは、普通の人間では
斬った動作すら捉えることなど不可能であった。
瞬「何ださっきの……!?何であの蝙蝠の化け物がいきなり
真っ二つに割れたんだ…!?」
それを表すかのように、普通の人間である瞬にはヒカルが
何をしたかすら理解できていなかった。
優「いや…姫野さんの手をよく見て。刀を持ってる。
あれであの蝙蝠の妖魔を斬ったんだ。」
瞬「は?刀?………あっ!?本当だ!!あんなもの
【いつの間に】持っていたんだ!?」
瞬の驚きの言葉通り、ヒカルは蜘蛛型妖魔を斬り捨てる
その直前まで、【武器すら持っていなかったのだ】
姫野ヒカルは両親の形見、退魔刀【鬼太刀】を使い
戦う退魔剣士である。
しかし、ここは日本だ。そんなものを所持していたら
当然銃刀法違反で捕まってしまう。
だから普段は刀を霊力の粒子に変えて、ヒカルの中に
しまっているのだ。
恐ろしいのは刀をヒカルの体に先ほどまでしまっていた
という事実である。
この事実で分かる事柄は2つある。
一つはつい先ほどの蜘蛛型妖魔を斬り捨てた時でも分かる
事だが、ヒカルは鬼太刀をコンマ1秒の時間すらかけず
本当の一瞬で取り出す事が出来るという点である。
そのスピードは先ほどの神速の一刀の振りを繰り出した時
振り下ろす前に刀を持っていなく、振り下ろす動作中に
妖魔に振りが当たる前までに鬼太刀の具現化が間に合う
ほどなのだ。
だが、いくら瞬時に武器を取り出せるとはいえ、完全な
丸腰と手元に武器を持っているのでは安心感が段違いに
違うであろう。実際、丸腰で妖魔の根城に飛び込むなど
自殺行為に等しい行いである。
だが、ヒカルはつい先ほどまで刀を持っていなかった
のだ。
それが意味する事は【例え武器が無くとも、体術のみで
並の妖魔程度なら倒せる】という自信の表れという事だ。
実際、ヒカルは『ある流派』の応用した格闘技で下等
妖魔を十分に倒せるほどの実力がある。
優「だから、あの姫野ヒカルって女子生徒は他の2人をも
超える凄まじい戦闘の実力の持ち主だという事だね」
瞬「な、なるほど…… ホントによくそこまで推察
出来るなぁ……」
勝平「ホントだぜ…… さすが『
事はあるよな。」
瞬「え?ゴクアク?」
勝平「あっやべっ!つい口がすべっちまった!!」
優「やれやれ、かっぺい、その事は内密にしといてよね。
瞬も詮索は無用だからねー」
勝平「分かってるって!」
瞬「あ、あぁ…」(すごい物騒そうな響きだな……
すげえ気になるんだけど……)
瞬は勝平が言った『黒悪』について、内心かなり気に
なりつつも、先ほど妖魔たちを討ち倒した聖徒会たちに
目を向ける。
セイラ「さすがの腕前ですわね。ヒカル」
ユキ「はい。あの一瞬でその鬼太刀を具現化させ、扱える
のはヒカルさんだけですね」
ヒカル「いや、私なんてまだまだだよ。それにセイラちゃん
とユキちゃんだってすごかったじゃん!」
瞬く間に妖魔たちを滅ぼした聖徒会たちは和気藹々と
話していた。その様子に、瞬は脅威は完全に去った事を
理解するが、同時に彼女たちの凄まじい強さに改めて驚く。
ーあんな化け物たちをあっさり倒しただけじゃなく、
あんな風に楽しげに会話を楽しめるなんてー
正直、先ほどの妖魔2体は下等であるため、苦もなく倒せる
のはヒカルたちにとっては当たり前のことなのだが、瞬は
一般人だ。あのような人間に勝てるようには思えない化け物
たちをあっさりと倒してしまえるだけでも度肝を抜かれる
事である。
その上まるで先ほどの討伐が無かったかのような楽しげな
少女たちの会話を見たら、最早その驚きは度肝を抜かれる
という言葉では驚きの大きさを表す事は出来ないほどだろう。
優「さて、もう終わった事だし。僕たちも合流しよう」
勝平「そうだな。ヒカルにアタック出来る大チャンス
だしなぁ♪」
唖然とする瞬にまるで気づいてないというばかりに優と勝平
はすくと立ち、つかつかと聖徒会の方へと歩き出す。
瞬「あっ!?ちょっと待てよ!!」
それを見た瞬はヒカルの弟のショウの手を引いて、2人の後を
追う。
優「お見事だったね。さすがに妖魔退治のプロというだけの
ことはあるね。」
ユキ「あっ、紅藤さんたち…」
ショウ「お、お姉さん……」
ヒカル「ショウ!」
ヒカルは瞬に連れられたショウに駆け寄り、両腕でショウを
大事そうに抱きしめる。
ヒカル「ショウ…ショウ……!無事で良かった…!ショウの
身に何かあったら……私…私……!」
ショウ「う、うん……あのお兄さんが助けてくれたから…
僕は何もされずに済んだけど……」
ヒカルは心底安心したように顔を綻ばせる。その顔には
先ほどまでの鬼が宿るような険しい表情はなく、身内を
思いやる姉の顔である。
しかし、ショウの顔は未だ優れないままだ。大好きな姉と
再会出来たにも関わらず今も変わらず何かに押し潰されて
しまいそうな陰鬱とした表情を浮かべていた。
そのショウの顔には姉ですら、誰も気づかない。
ヒカル「紅藤君や神崎君もありがとう!あなたたちが
いなかったらショウを助けられなかったかもしれなかったわ」
ヒカルが2人に礼を言うと、それに対し抗議のような声を勝平
があげる
勝平「おいおい〜!俺への礼はないの〜?そりゃねえだろぉ〜?
俺だってヒカルちゃんの弟を連れて、あの化け物どもから必死に
逃げたってのによ〜!」
それを声を受けたヒカルは明らかに顔を引き攣らせつつも
ちゃんと勝平にも礼を述べる
ヒカル「あ、あぁ!もちろんかっぺーくんも忘れてないよ!
ありがとうね!」
勝平「いいっていいって!けどま、こんな形とは言え、俺たち
関わり持っちまったわけだし… 連絡先とか交換しね?
もしかしたらまたこんな化け物どもとの事件とかあるかも
だしさ!」」
ヒカル「あ、あぁ〜……そう、ね。連絡先、ねぇ…」
(うわ〜、やっぱりそう来るじゃん〜…)
ヒカルは思った通りの展開になってしまい、顔を少し濁らせる。
もちろん、命懸けでショウを守ってくれたこの石山勝平には
ヒカル自身、大きな感謝があった。
実際、ヒカルは勝平を少し見直したほどだ。
しかし、男女の仲となると話は別である。
連絡先の交換だけならば、別段問題はなさそうに思えるが、
この石山勝平は別だ。前々からずっとヒカルにしつこく
連絡先はもちろん、デートの誘いもしてきたのだ。
この連絡先の交換の提案も、どう考えても知人や友達として
での目的ではないことは明白だ。
ヒカルの顔が少し濁ったのを見て、勝平はすぐさま提案に
追加項目をあげた。
勝平「セイラちゃんとユキちゃんもどうよ?俺らと連絡先
交換しとかねえ?」
連絡先の交換をセイラとユキにも提案したのだ。
そうすることによって、勝平はとりあえず、知り合ったから
友達として連絡先を交換するという事を強調したのだ。
よくある女性を警戒させないための方法の一つだが、
利点はもう一つある。
セイラとユキも世に中々いない美少女である事には間違い
ない。
そんな美少女たちの連絡先を交換する事は勝平にとっても
願ってもない事ではあるのだ。
連絡先を持ってさえいたら、もしかしたらセイラとも
【良い事】があるかもしれない。
連絡先を持っていても損なことなど何一つないだろう。
勝平(ま、ユキちゃんには既に
無理だろうけど… あ!いや待てよ?逆にそれを利用したら
ヒカルとの仲を取り持ってくれたりするんじゃねーか?)
そこまで勝平は思い、勝平はもっと重要な案件に気がつく
勝平(いや…俺としてはユキちゃんが影明とくっついてもらう
方が優先か…… いや、それは優にとってもか……
さすがに影明が誰かと付き合ってたら『あの人』だって
そう無茶な事しねえだろう…)
勝平がそんな事を考えていたら、先ほどのやりとりを
聞いていたらしいセイラから声をかけられる
セイラ「ちょっと?あまり調子に乗らないでくださります?
確かにあなたたちがショウを助けてくれたことには感謝
いたしてます。ですが、それがヒカルを口説くという免罪符
というのは訳が違いますわ。」
勝平「いや…口説くって…!俺はただ君たち聖徒会と
仲良くなりたいだけだって!」
セイラ「あなたの普段の態度と、今の表情、その言葉を
どこをどうやって信じろと言いますの?
今だって鼻を伸ばした下心丸見えな顔をしていますわよ?」
勝平「え〜?そうかな〜?俺はただセイラちゃんのような
かわいい女の子と仲良くなりたいだけなんだけどな〜?」
セイラに看破され、開き直ったように勝平は本音を
しゃべった。
セイラの性格のキツさの前では、下手な誤魔化しは意味ない
と思ったのだろう。
セイラ「ケダモノめ… ヒカル?この口説き魔も本性を
表しましたことですし、連絡先の交換なんて必要ないです
わよ。いいえ、むしろ絶対してはいけませんわよ?」
ヒカル「あ、うん!」(助かったあぁぁ!ホントありがと!
セイラちゃん!)
勝平(え?何この子?そこまで俺の事こきおろす?ホントに
性格キツすぎない?)
ユキ(………)
セイラにより、連絡先交換の話は無しの方向に向かう中、
勝平はもちろんだが、ユキも微妙に残念そうな顔をしていた。
ちょっとした喧騒をしてはいるが、雰囲気は和やかなものと
言えるだろう。それは勝利を祝う、祝勝会にも近いもの
だろうか。
【しかし、事態はまだ終わってはいない】
瞬「後は、影明のバカを探すだけだな」
瞬はふと影明の事について言葉にする。
最も、その声音は心配や不安と言った感情とは無縁の和やか
なものだ。
何故ならば肝心の脅威であった妖魔は【倒した】と瞬たちは
思っているからだ。【まだもう1体いる】なんてこと思っても
いないため、彼らはもう脅かすような存在はいないと思い
こんでいるためだ。
そう、この場にいる1人、いや2人を除いてはーー
ショウ「あ、あの!」
優「ねえ、ショウくん?」
事態がまだ好転していない事を知る者と知った者の声が重なる
ショウ「え?あ、は、はい?何でしょう?」
ショウは重なるように発せられたその優の問いかけに反応する。
だが、その表情は不安でいっぱいという表情であり、
どこか焦っているように見受けられた。
優「…ショウくんも何か言いたいことがあるようだね……
出来れば、そのような顔をして欲しくなかったけど…ね」
その顔を見て、優は歯噛みするように表情を険しくさせる。
勝平「…は?」
ユキ「え?」
セイラ「…?」
ヒカル「え、なになに?」
瞬「なんだ?一体どうしたんだよ?」
口々に周りが疑問の声を上げ、優はそれに答えるように
言葉を一つ発した。
優「僕の質問内容とショウくんが話そうとしてる事が同類
って事だよ」
瞬「……はぁ?お前、また意味が分かりにくい事を……
分かるように言ってくれって」
優の遠回し的な言い方に対し、瞬が不満の声をあげる。
すると、優もその事に自覚があって申し訳ないと思ったのか…
いいや、違うだろう。時間がないかもしれないから単刀直入
に分かりやすく質問をするのだ。
優「そうだね。じゃあ率直に聞かせてもらうけど、君を攫った
妖魔とか言う化け物って、【こいつら】だけなのかい?
それとも、まだ他に何かいたりする?」
その質問に全員が何かのアクションを起こす。
瞬と勝平はびっくりし、ヒカル、セイラ、ユキは軽く身じろぎ
する。
反応は様々だが、次のショウの答えに全員が一様に度肝を
抜かれる事となる。
ショウ「は、はい!います!!さっきの化け物たちより、
もっと強そうでやばそうな奴がいました!
そして……僕を助けてくれたお兄さんがそいつに追われてる
かもしれないんです!!」
先ほどの祝勝を吹き飛ばす衝撃的な言葉ーー
その言葉に真っ先に飛びついたのは瞬とユキであった。
瞬「その話本当かい!?どこ!?影明と別れたのは!?」
ユキ「早く!早く助けに行かないと!!少しでも手がかりに
なるような事は知っていないですか!?ショウくん!!」
その勢いは胸ぐらを掴もうというぐらいに強いものだ。
ショウ「ごめん…なさい!お兄さんは僕を奴らから隠した後
すぐに飛び出していって…!
で、でも!その後、遠くから微かに聞こえたんです…!
「俺はここだ!来るなら来やがれ!!」って……!
多分お兄さん僕からあの化け物どもを少しでも遠ざけるために
わざと囮になりに行ったんじゃないかと思って……!」
それを聞いた瞬は唸り、ユキの顔は見る見る青ざめていく。
瞬「あぁ…畜生……!あいつはそういう無鉄砲な無茶をする
バカな奴だって知ってたのに…何で俺は安心しちゃってた
かなぁ… くそっ!!」
ユキ「あぁ……そんな……」
瞬とユキが特に激しく狼狽していたが、無論他の人たちも
焦燥の念へと駆られる。
ヒカル「なんてこと……早く見つけないと命に関わるわ…!」
セイラ「いえ…下手をするともうとっくに」
セイラがその先の言葉を言いかけようとする前に、ユキの
怒号がセイラの耳をつんざいた
ユキ「セイラさん!?今一体何を言おうとしたんですか!?
影明さんはきっとまだ大丈夫です!!バカな事を言おうと
したら、例えセイラさんでも許しませんよ!!」
温和なユキから考えられないほどの般若な顔でユキはセイラ
を怒鳴りつける。その剣幕は、渋谷に向かう途中のヒカル
すらも超えるほどの凄まじさだった。
セイラ「ご、ごめんなさい…!確かに失言でしたわ…」
その鬼すら軽く超える凄まじい剣幕に、普段から強気な
セイラすらもたじろいでしまう。
だが、同時に2人は分かってしまう。
【その可能性を一番危惧しているのはユキ自身である事を】
セイラ(何気なく言いましたが、"きっと"って言いました
わね……)
ヒカル(ユキちゃん……そうだよね……不安で仕方ない
よね……)
実際、凄まじい怒号に似合わず、ユキの身体が小刻みに
震えていた。
それは緑川影明の安否を3人の中でユキが一番危惧している
証拠でもあった。
勝平「まぁ待てよ?声が微かに聞こえただけなんだろ?
もしかしたら聞き間違いかもしれないし、よしんば
本当にその通りあいつが叫んでいたとしても、その化け物に
影明が追われてるところを実際に見たわけでもねーんだろ?
ならきっと大丈夫だって!あいつなら上手いこと隠れて
俺たちの助けを待ってるさ!」
勝平が全員を励ますように声を発する。
しかし、その希望の声を全否定するかの如く、それまで
額に手をやり、瞠目していた優が何故か一連の心配事の
解答を冷や汗をかきながら述べてきた。
優「いいや、影明は追われてる。間違いなくね」
その答えにその場の全員が凍りつく。
それでも一番冷静でいようとした勝平が何とか口を開く
事が出来た。
勝平「いやいやいや!?何でそう断言出来るんだよ!?」
優「かっぺーなら『知ってる』でしょ?あいつにはGPSを
付けてるんだよ。そしてそれはあいつも『了承』してるって
事をさ。
で、そのGPSなんだけど、さっきまですごいスピードで
動いてたんだよ。まるで車かってぐらいにね。
そんなスピードで逃げるってことは明らかに何かに追われ
てるし、そして、そんなスピードで逃げなければならない
ほど相手が速いって事だ。
……この状況ならその相手が誰かぐらい容易に想像つく
よね?」
勝平「マジ…かよ…… チクショオ!!!」
勝平が声を荒げ、吐き捨てるように慟哭した。
ヒカルとセイラ、ユキにショウも冷や汗をぶわっと噴出し
焦燥を更に駆り立てる。
特にユキの狼狽ぶりは凄まじく、顔は生きているとは
思えないほどに白く、冷や汗は滝のように流れている。
しかし、その答えはある者にとって、救いの言葉となる。
瞬「ま、待てよ!!逃げてるってことは、少なくともまだ
生きてるってことだよな!?だったらGPSで場所が分かってる
なら助けに行ける!!」
瞬の言葉に周りは絶望に染まろうとしていた空気から希望
を見いだす。
特にユキには効果がてきめんであったようだ。
ユキ「確かにそうです!!今からすぐに助けに行けば影明さんを
きっと、いえ!必ず救えます!優さん!?今影明さんは一体どこ
にいるんですか!?」
ユキが身を乗り出して優に詰め寄って聞いてくる。
その表情は先ほどまでの不安で染まりきった顔ではなく、幾許か
希望が宿っていた。
しかし、優の表情はなおもいっこうに優れない。
今も変わらず冷や汗を流し続けている。
優「確かに場所は分かる。けど、瞬たちが今、考えてるほど
状況は良くない。
まずい、本当にまずいんだよ」
ユキ「え?」
瞬「何で?どうしてそんなに焦ってるんだよ…?優らしく
ないぞ…!?」
優「言っただろ?【さっきまで】って」
2人が再び不安の色を濃くさせた所で、優はピラっとGPS
探知機の画面を2人に見せた。
優「ほら?GPSの反応が今ほとんど動いてないでしょ?
さっきまでは本当にすごいスピードで動いていたんだよ。
それが、ほとんど動かなくなったって事は……」
そひて、優は2人にとって最も聞きたくでないであろう
絶望的な言葉を吐くーー
優「殺られたか、そうでなくとも追い詰められたかだ。
どっちにしろ、もう数分も時間がないのは確かだ」
それを聞いた瞬とユキは思考が真っ白になる。
------------------------
ーヤラレタ?シンダ?カゲアキガ???ー
ーウソダ……ウソダウソダ!!ー
神崎瞬の動悸が激しくなる。立っていられないほどに
まで思考が揺さぶり、脳が震え出す。
『今の神崎瞬にとって緑川影明は生きる目的そのものだ。
それが失われるとなれば、いよいよ危うげに塞がれた
傷は一気に穴を開け、ひび割れ、後にはバラバラと
なった心しか残らないのだろう』
ーー------------------------
「ごめんなさい……それ借ります!!」
神崎瞬が我に返ったのはその言葉だった。
瞬「え?」
瞬がそんな呆けた言葉をこぼした頃には目の前にあった
GPSの探知機は消え失せ、周囲は激しい風が吹き荒れて
いる。
瞬「え?え?なんだ!?何が起こったんだ!?」
当然突如として起きた不可解な現象にとまどい、その
原因を探ろうとする。
ヒカル「ユキちゃんだよ」
しかし、それはすぐに聖徒会長のヒカルの口から話される
事になった。
ヒカル「ユキちゃんが紅藤くんからすごいスピードでさっき
の探知機を奪いとって、そっから更にすごいスピードで跳躍
したんだよ。風はその時の跳躍による衝撃だね」
優「やれやれ、僕としたことが反応出来なかったよ。
まぁ、見えるのと実際に動けるかどうかは違うっていう事は
聞いた事はあったけど、まさか実際に体験する事になるとは
思わなかった」
セイラ(見える……?さっきのをこの人見えてたって言います
の?)
セイラが優の発言に軽く驚き、じっと優を見つめる。
ユキの身体能力は常人を遥かに超える。普通の人ならば
ユキの本気の跳躍を目で捉える事など出来ない。
それこそ、同じ超人レベルであるヒカルやセイラクラスでも
なければ目で見る事など到底出来ない芸当である。
それをこの紅藤優という男は見えていたと言ったのだ。
その事は取り乱さずに冷静に喋ってた事からも間違いないと
言えるだろう。
セイラ(しかし、あれを視認出来ると言ったらそれこそ私たち
と同じレベルの……)
「あぁ、別に僕は神無月さんたちのような人外じみた身体能力
はないよ?」
セイラが一人思考を巡らさせていたらそれを読んでいたかの
ように唐突に優が結論を述べたのだ。
セイラ「え?」
優「いやだから、気になってる事に関して答えたんだよ。
さっきからじっと僕の事見つめてたからね。
…まぁ、僕は普通の人より遥かに『目』が良いってだけだよ。
だから別に身体能力そのものは常人とそう変わらないし、
さっきの動きに反応できただけで何かアクションを起こすような
事なんてとても出来ないよ」
セイラはまたもや驚かされた。まるで自分の考えてる事を読んで
きたかのように回答を返してきたからである。
セイラ「……あなた、一体何者ですの?」
優「……まぁ、的当てが趣味の、今はただの高校生と捉えて
おいてもらったらいいよ」
セイラ「………」
ヒカル「ごめん、神崎君たち。私もすぐにユキちゃんの後を
追うわ。その緑川君はショウを助けてくれた恩人、このまま
みすみす死なせるわけにはいかない。
悪いけど、神崎君たちはショウをお願い。私は今から
ユキちゃんと一緒に緑川君を助けに向かうわ。
そしてちゃんと、ショウを助けてくれた事を会ってお礼を
言いたい。
ーーだから、必ず助ける」
ヒカルはそう言い残し、凄まじいスピードでその場を跳躍
して離れる。
セイラ「確かに。憶測は置いといて、今は緑川さんを救出
しなければなりませんわね。
皆さん、あなたがたの親友である緑川さんは必ず助けますわ。
ーーそして、緑川さんと一緒に後でまた会いましょう」
セイラもヒカルの後を猛スピードで追った。
勝平「……って、あの2人影明がどこにいるか分かってねーん
じゃないのか? 2人は探知機を見ていねーし…」
優「いや、ユキちゃんの飛び出していった方向が見えてたから
その方向に向かっていったんじゃないかな?」
勝平「マジか…… 俺はユキちゃんが跳躍した事すら見えて
なかったのに…… ま、2人が跳躍した瞬間も見えなかった
わけなんだが…… 3人ともモノホンの人外だな……」
瞬「それより、俺たちも助けに行かないと!」
優「助けに行ってどうするわけ? さっきの姫野さんたちの
跳躍を見たでしょ? つまり、妖魔って奴らは少なくとも姫野
さんたちレベルの身体能力を有していないと戦うことは
難しい相手だ。
しかも、先程かっぺーが全力で飛ばしてきた自転車に追いついた
妖魔たちですら、姫野さんたちは【下等】って言った。
ショウくんの話を信じるなら影明が追われていた妖魔は
【下等】よりは上のクラス、少なくともこの妖魔たち
よりは強い。
下手をしたら僕たちが行ったら、その妖魔に捕まって人質に
されるかもしれない。そうでなくとも足手まといになるのは
確実かな」
優は淡々と理論的に自分たちが助けに行くことがどれほど
無謀で危険な行いかを供述してゆく。
とは言え、優でなくともこれは常人なら誰だって考えられる
理屈だ。
実際、勝平も同じ事を考えている。
しかし、『そんな事は神崎瞬にとっては関係ない』
瞬は怒気を込めて、怒りのままに優に反論しようするーー
……その前で「と、言いたいところだけど」と優が
その反論を遮った
優「僕的にはその理屈に則って影明を助けに行かないのは
すごくまずい事なんだよねぇ……
僕の『役目』を果たせなくなるし。それこそこのまま我が身
可愛さで逃げ帰ったら『あの人』に何て言われることやら…
ーーだから、僕は助けに向かう。かっぺーはそのショウくんを
連れて先に帰ってて」
優がそう話したら勝平はそれに対し驚いたように異を唱えて
きた。
勝平「おいおいおいおい!?正気か!?やめとけって!!
相手は足で自転車に追いついてくるような異常な身体能力
を持っているような化け物どもだぞ!?
今までのような相手や状況とは違う!!明らかに常人が
関与して良いレベルじゃない!!
逃げたほうがいいって!こんな状況だ!影明はヒカルちゃん
たちがきっと助けてくれる!『あの人』だって仕方ないって
思うって!」
優「あれ?かっぺーは僕が【常人】って思うのかい?」
勝平「揚げ足を取るな!確かにお前のことは常人とは思え
ないけど、人外だとも思ってねえよ!
あいつらもヒカルちゃんたちも明らかに人外レベルだ!
俺たち普通の人間が関わって良いレベルじゃねえ!」
ここで勝平は先ほどまでの様子とは打って変わって激昂する。
それは優に誘導を任せられた事に対する恨み言を言った時より
も明らかに怒りの度合いが高いものだ。
見るからにチャラく、普段の態度も良好とは到底言えないような
勝平ではあるが、それでも優と瞬を想う親友心は本物だ。
だからこそ勝平は本気で怒るのだ。命に関わるレベルだと、死ぬ
かもしれないからこそ勝平は懸命に説得をするのだ。
優にも勝平の人柄はよく分かっていた。だからこそ今の勝平の
怒りが本気で自分を想ってくれているものだということも理解
している。
それでも、あえて優は勝平の懸命な説得に否定する。
優「ありがとう。でも、これは僕自身が影明を助けに行きたい
ってところが本音なんだよ。
僕は…影明がいてくれたからこそ『僕』になれた。
もちろん勝平もいてくれたからだけどね。
だからこそ僕は影明にその恩に報いたいと思っている。
ここで、影明を見捨てたら……僕は絶対に自分を許さないだ
ろう。
だからこそ『わがまま』にさせてくれた僕は影明を救いに行くよ。
ーー例え、この命がなくなったとしても」
優はいつにないほど真剣な眼差しで勝平に話す。
勝平はその眼差しに怯む。しかし、勝平とて親友を想う心は伊達
ではない。
勝平はなおもそれに対し、親友をみすみす死なせないためにも
反論をしようする。
しかし、その前に紅藤優は唐突に駆け出し、自らの自転車の場所
にたどり着くと、それに跨りながら勝平に向けて話す。
優「悪いね!こうやって話してても埒があかなくだろうから僕は
行くよ!
かっぺえはそのショウくんをお願いね!」
そう言葉だけを残し、優は自転車を漕ぎ出した。
勝平「なっ!?お前!!まだ話は「かっぺえ!」」
勝平が突然声がしたかと思い、顔を振り返る…
その前に自らの横を声の主、神崎瞬が自転車で猛スピードで
駆け抜けた。
瞬「悪い!!そのショウくんを頼む!」
そう言葉を残し、瞬もまたその場を後にした。
勝平「あぁっくそ!!どいつもこいつも!!バカヤローーー
ーーーーーーー!!!!」
取り残された勝平は声いっぱいに遠くなる2つの影に
対して思いっきり怒声を浴びせた。
ショウ「お兄さん…皆……姉さん…」
その場には既に横たわる妖魔の死骸と石山勝平と姫野ショウ
以外に存在する者はいないーー
---------------------------
〜数分前〜
影明「はぁ…はぁ…!」
バルムス「もう逃げられねえぞ?このクソガキが!!」
緑川影明は追い詰められていた。
ここは渋谷のあるビルの屋上。バルムスから必死に
逃げていた彼だったが、いくら常人離れした身体能力を
有していたとしても影明は所詮は人間である。徐々に
スタミナが尽きていき、バルムスに距離を詰められたのだ。
そこで影明は状況を打開すべくビル内へと入って、
身を隠そうとしたのだが、それも上手く行かず、結局
ビルの屋上にまで追い詰められてしまったのだ。
バルムス「貴様……ただで死ねると思うなよ?ただの
人間風情が最上等妖魔であるこの俺様に舐めた真似を
したツケ、その身で払わせてやる」
影明「……」
絶体絶命の状況の中、影明は冷静に打開策を考える。
しかし、全く良い案は思い浮かばない。ここはビルの屋上
という狭く、逃げ場のない空間だ。ビル内への唯一の扉は
その目の前にバルムスが立ちはだかり、寄り付く事すら
出来そうにない。更にはこのビルは5階建てであり、
高さは20mはゆうにあるだろう。
ならば飛び降りることも出来ない。飛び降りたらほぼ間違い
なく命はないだろう。
影明「……やるしか…ねえか……」
バルムス「む?」
影明は静かに構えを取る。
それを見たバルムスは嘲笑の大笑い声をあげる。
バルムス「グフハハハハハ!!!やろうってのか!?
このバルムス様と!?
ハハハハ!!確かに貴様に手段は残されていないとはいえ、
それはあまりにも無謀じゃねえか?
そうか!ヤケクソって奴だな!!
まぁいい!さんざんコケにしてくれた礼だ!!
せいぜい足掻いてみろ!!」
影明(あぁ、そうだよちくしょう!ヤケクソだっつの!
こいつと戦うってのは絶対ヤバいってのに…!
ーーーけどな)
絶望的な窮地の状況の中、何故か影明は薄く笑い、ポツリと
言葉をこぼした。
影明「おい、化け物。ゴキ○リって知ってるか?」
バルムス「………あ?」
影明の発言はあまりにも素っ頓狂なものであった。
そのあまりに意味の分からない質問に先程まで
余裕に満ちた笑いを見せていたバルムスも
顔を険しくさせるが、緑川影明はなおもその言葉
の後を続ける。
影明「お前は知らねーと思うけどな、そのゴキ○リ、
通称Gって言うんだが、俺たち人間はその虫がまぁ
苦手で仕方ねーんだわ。別に害があるわけじゃ
ねーけど、生理的に無理なんだよ。
まさに、見た目の不快さにありとあらゆるステー
タスを全振りしたような虫ケラなんだよ、マジで
……で、俺も苦手なわけなんだが、まだ他の人に
比べたら俺は耐性がある方で、殺虫剤に頼らず
新聞紙を丸めてGを叩き潰せるんだよ。
頑張ればスリッパを履いた足でも踏み潰せるんだぜ?
俺は」
バルムス「……何の話だ?」
バルムスは苛立ちながら影明に話の概要を尋ねて
くる。影明の話の目的がまるで見えてこないからだ。
だが、景明はバルムスの表情から苛立ちが十分に
伝わってくるにも関わらず、なおも意味の無いと
思わせる話を続ける。
影明「……そんなふうに俺は割とGが平気な方だからさ。
今は一緒には住んでねえけど
うちの姉さんがそのGって言うのがすげえ苦手でさ。
今でも家に呼び出されるぐらい姉さんにG退治を
頼まれるんだわ。だから我が家のG駆除専門業者
みてえに俺はなっていたわけなんだが……
真夏のある日、姉さんにいつもみたいにGが出たって
喚かれながら呼び出されてさ、いつものように
Gを駆除してさっさと帰るかーと思ってたんだけど、
その日のヤツはやけに逃げ足も速くて、過去一
しぶとかったんだよ。
そんなヤツと激しい攻防を繰り広げながらGを
ついに部屋の隅に追い詰めた。
タンスの下やら、物とか壁の隙間とか、どこにも逃げる
場所や隠れられる場所のないとこにな。
そういう状況になったからさ、後は黒光りのヤロウに
この丸めた新聞紙を思いっきり叩きつけてTHE END☆
って思ったのよ。正直もう楽勝だと思ってたのさ」
影明「……でも、その日のヤツが違ったのはしぶとさだけ
じゃなかったんだ…
今まで散々逃げ回ってたヤロウは何と俺の方に向かって
飛んできやがったんだよ。しかも顔面にだぜ?
そんでさ、俺の顔面に張り付きやがったんだ!
その時まで俺はGに対して悲鳴なんてあげた事がなかった
けど、初めて俺はヤツに対して絶叫しちまったんだよ。
その時に俺は思い知ったよ。【追い詰められたねずみ
は怖い】って言葉をな」
バルムス「だから、お前は何が言いたいんだ?」
バルムスは二度、影明に問う。
しかし、二度目の問いかけに苛立ちはなかった。
バルムスは『普通の妖魔とは違うのだ』
影明の話の目的を察している。
それでもバルムスが二度同じ質問をしたのは
自分が考えている事を合っているかの答え合わせを
するためである。
そして、影明は『迂闊』にもその問いに答えて
しまう。
影明「……分かんねえかな?さぞかしお強い
化け物様には。
お前にとっちゃ俺なんて必死こいて愚かに逃げ回る
Gっつームシケラだろーよ。
俺がいつも潰して殺すように、お前からしたら俺なんて
ただ近づいて軽く腕振るうだけで潰し殺せる虫なんだろう。
けどな?ムシケラって割とマジでバカに出来ねーもん
なんだぜ? 俺は黒光りする文字通りのムシケラに
泣かされたぐらいだからその事は身をもって思い知ってる。
だから……俺はそんな気色悪いとしか思ってなかった
Gに今は最大限の敬意を払って、今ここであの時の
Gのようになってやるよ…!
追い詰められたゴ○ブリの怖さ……てめえも思い知り
やがっっっれえぇ!!」
ブォン!
バルムス「ぬぅ!?」(な、なに?)
ドゴン!
影明は話が終わる直前に飛びかかり、不意打ちする
ようにバルムスに飛び蹴りを繰り出した。
バルムスはそれ自体には何の驚きはなかった。
バルムスにとって影明はそこら辺のどこにでもいる
一般人だ。
先ほどの彼の発言の通り、まさしくムシケラだろう。
だからこそ、そんな不意打ちぐらいはする事は
予測出来る。
ならばバルムスは何に驚いたのか?
そしてーー
バルムス「ぬお…!」
今さらに追加で驚いているのか?
バルムス(こいつ……本当に一般人のガキか?
なんてスピードと威力もある蹴りを繰り出して
きやがる…!)
それは影明の繰り出した飛び蹴りに関してだ。
普通の一般人……いや、例え世界に名を馳せる
格闘者の飛び蹴りだとしても所詮は人間レベル。
最上等妖魔であるバルムスにとっては不意打ちで
繰り出されたとして、止まって見えるほどには補足
出来るし、そもそも急所にまともに貰ったとしても
傷一つ負わないどころか、ほんの少しもビクとも
しない。
見上げるほどの大きさのある大木に蹴りを入れるような
ものといえば例えが分かりやすいか。
だが、影明の飛び蹴りはそんなレベルとは一線を
かくしていた。
たかが普通の人間、と完全に油断していたとはいえ
バルムスが一瞬補足出来なかったスピードで
なおかつ傷は負っていなくとも攻撃を加えられた
顔面がのけぞったほどのパワーで影明は飛び蹴り
を繰り出したのだ。
影明はすぐさま距離を取って離れる。
とてもではないが『その後の行動』をとれるほどの
余裕と隙など生まれなかったからだ。
バルムスもその行動を感じとり、むやみに反撃の
手を加える事はしなかった。
先ほどの飛び蹴りで改めて影明の身体能力の高さを
『警戒』したからだ。
その行動からしてもバルムスは『慎重』と言えよう。
影明「ちくしょう……やっぱそう簡単にはいかねえ
よなぁ…」
バルムス「……お前、何者だ?」
影明「はい?」
バルムス「さっきの飛び蹴り…、いや、あの廃工場
の時もそうだ。
貴様の身体能力は普通の人間と比べて明らかに
常軌を逸しているぞ。
油断してたとはいえこの俺様が飛び蹴りをモロに
喰らうなど…
退魔士でもないただの人間如きがありえん」
影明「退魔士ぃ?……でもまぁ俺の身体能力を見た
奴って大概そういう反応するから分かるっちゃ分かるよ。
俺も自分の身体能力に関しちゃ最近自分でも人間か
どうか疑いたくなってしまいそうな時があるけど
一応ちゃんと母親のお腹から産まれてきたって
聞いてる……『んだけどな』」
バルムス「……そういうことを聞いてるんじゃない
がな。貴様、何かの退魔の家系の者か?」
影明「いやいや…さっきから退魔士とか退魔とか
言ってるけど、俺はそういう言葉はフィクション
でしか聞いたことがないっつの!
俺はごく普通……あー……
とにかく!普通に健全に過ごしてきたこないだ
高校生になったばかりのただの学生だっての!」
バルムス「……そうか」
バルムス(…とても信じられんぜ……。身体能力の
高さ…… そして何より【戦闘勘】って奴が高い…
さっきのとびのいた動き……
明らかに【俺の攻撃を察知していた】
あれほどの身体能力を持つなら普通ならそのまま……
全く、【退魔】の訓練を積んでいないと言う方が
おかしいほどに異常と言っても差し支えないぞこいつ)
バルムス「まぁいい、今度はこちらから行かせて
もらうぜ」
バルムスはそう告げると影明に一瞬にして詰め寄った。
それは常人には視認することは不可能なスピードだ。
異常な身体能力を持つ影明もぼんやりとしか見えては
いなかった。
そして、影明が反応するよりも前にバルムスはーー
ブォン!
丸太のような剛腕を影明に対してふるった。
バルムスの一撃は普通の人間など即死するレベルの
威力だ。普通ならばこれで終わっただろう。
そもそも影明は反応が出来ていないのだ。
攻撃された事を認識する事など出来るはずがない。
そして、攻撃を認識していなければ、避ける事も
出来るはずなどないのだ。
しかし、そんな当たり前の事が『この男』には
通用しない。
スカッ
バルムスの剛腕は宙を切った。
バルムスの腕は確実にそこにいた影明の胴体を
狙ったにも関わらずだ。
緑川影明は【反応も認識も出来ていない攻撃を
かわしてみせたのだ】
バルムス「なんだとっ!?」
影明「うおおおお!?ナイス!俺勘!!
今日は冴えてるううぅぅぅ!!」
バルムスは三度目の驚愕を迎えた。
その驚きは先ほどの二度などとは比べものに
ならない。
当たり前と言える。反応も認識も出来ていない
攻撃を避ける事など、人間の、いや、全ての
生きとし生ける者のなせるような技では無い。
それは【退魔士も、妖魔にだってなす事など
出来ることでは無い】
バルムス「チッ!」
バルムスは驚きのあまり思考が停止しそうになる
頭を無理矢理鼓舞し、影明を潰さんとそこから
連続で拳をふるい始める。
しかし、バルムスの剛腕は当たらない。
緑川影明は避ける、避ける、避ける。
先ほどの一撃の時と同じだ。影明は認識できぬ
攻撃を避ける。しかも今回は連続だ。
その事は先ほどの一撃を影明は決してマグレで
かわしていなかった事の何よりの証明だ。
バルムス(全く嫌になるぜ…!こいつ……本当に
何者なんだ!?こんな動き、並の退魔士や妖魔でも
出来る芸当じゃねえぞ!?
しかも……)
バルムスはだんだんと違和感を持ち始めた。
その違和感は自らの攻撃に手応えがなくなって
いるという事だ。
影明はつい先ほどまで確かに勘だけでバルムスの
攻撃を避けていた。ギリギリもギリギリだ。
首の皮一つ繋がっているという表現がピッタリな
ほどには余裕など微塵もなく、全身全霊で
バルムスの猛攻を避け続けるので精一杯という
様子であったのだ。
しかし、そんな様子はだんだんと変わっていって
いるのだ。
おぼつかなかった足取りは確かなる足捌きとなり、
大袈裟に身体を反らして避けていたのに
今では少しの動きで無駄なく攻撃を回避している。
初めのおぼつかない避け方が明らかにキレが
出始めているのだ。
異常なのは、【影明が10秒に満たない時間の中で
バルムスの動きに慣れた】という事ではない。
バルムスの剛腕は並の退魔士ですら目で補足するのが
難しいほどであるのにーー
バルムス(この動きのキレ方……間違いねえ……
このガキ、俺の腕の攻撃が見えてやがる!!)
【影明はバルムスの攻撃が目で見えている】
という事だ。
そう、【視えている】のではなく【見えている】のだ。
腕の振り上げ方や予備動作により、攻撃の軌道を
読んで避ける、という意味で【視ている】のではない
バルムスが攻撃をふるった後の腕の動きを完全に
動体視力で捉えているのだ。
予測などではない、根本的に腕の動きそのものを
【見ていた】のだ。
バルムスがそう断定づける根拠はもちろんある。
バルムス(そうでなければ……、俺の攻撃を全部
避けるなんて事出来るはずがねえ!)
バルムスはただ、闇雲に腕をふるっているわけでは
ない。バルムスは歴戦の猛者である。
そんな単調な動きなどしない。
攻撃のパターンを変えたり、幾重にもフェイントを
織り交ぜているのだ。
しかし、影明はその全てに完璧に対応してみせていた。
攻撃の軌道を急に変えてもその軌道に合わせて身を
よじる。
フェイントで腕をふるうフリをしても、腕の初速の
違いでフェイントと気づいてその攻撃を避ける動作を
行わない。
そんな熟達した猛者の動きを全て完璧にかわす…
そんな芸当は決して予測で出来るわけがない。
ましてや、影明はごく普通に学生生活を送って
来ていたのだ。
戦闘など無縁である。そのため戦闘に関する
予測など、出来るはずがない。
【だからこそ緑川影明はバルムスの動きを根本的に
見ているとしか動きの説明が出来ないのである】
影明「ふっ!はっ!よっと!!」
影明(こいつの動きが…見えるようになってきたぜ…
けど、まだ何かこいつに対して動きが出来るほどの
余裕はねえなぁ……
このまま避け続けたらこっちの体力もジリ貧だし、
そもそもこいつは俺のことを完全にみくびってる
だろうから本気なんてこれっぽっちも出してねえ
だろうし……
こいつに本気を出されたら終わりだ……
どうにか打開する方法はねえもんかなぁ……)
バルムスはとっくに本気を出して影明に攻撃を
していたのだが、影明にはそんなことを知る由
などあるはずもない。
しかし、最も影明の考えは的を射ているとも
言える。
いくら身体能力やスタミナが常人より遥かに
逸脱しているとはいえ、影明も生物である
ことには間違いない。
スタミナには底がある。ましてや、経験した
事のない戦闘、それも自分より遥かに力が
強い最上等妖魔という文字通りの化け物が
相手だ。
影明の尋常ではないスタミナは急速に消費
し続けている。それを表すように影明の
額には汗がびっしょりと沸き、息づかいも
荒くなってきている。
だが、それでも影明はそこから何と五分
以上も粘り続けた。
影明(やべぇ……そろそろ本格的に体力が
やばくなってきたぞ…!
何とかしてこいつに隙を……
隙を作らねえと……!)
影明が懸命に今の状況を打開する方法を
考え続けている中
『それ』は突然訪れた。
バルムス「……クソがぁ!!」
『苛立ちがピークに達したバルムスが
絶叫をあげ、大きく拳を振り上げる』
影明「!」
そして、そのまま拳を振り下ろしに
かかる。
影明(この拳の振り下ろすスピード……
フェイントじゃねえ!)
影明にはバルムスの動きが全て見えていた。
影明(ここしかねえ!!体力的にもこれが
最初にして最後のチャンスだ……!)
そう思考すると同時に、影明はあえて身を
翻した。
その動きはバルムスの『怒り』の拳を
紙一重でかわし、さらにそのまま翻した
勢いを利用して、バルムスの腹に拳を
叩き込む。
まさに攻防一体の動き。さっきまで
異形の化け物となんて戦ったことすらない
ごく普通の男子校生とは思えぬ動きで
あった。
バルムス「ぐお……!」
『その渾身の一撃はバルムスにすら効いて
しまったほどだ。
バルムスは手で腹を押さえてしまう。
目線も拳を打ち込まれた腹に向いた』
影明(よし!怯んだ!今だ!これが
最後の大チャンスだ…!
これを成功させなきゃ俺は死ぬ!)
影明はその一瞬ともいえる隙を決して
逃さなかった。
影明は足にありったけの力を込め、爆発させる。
そして、爆発的なスピードで『呻く』バルムスの
横を瞬間で通り過ぎた。
影明の最終目的とは何もバルムスを倒す事など
ではない。そんな事、影明に可能なはずがない。
だからこそ彼はその目的であr
ドッゴオオオオオオオオオオオ!!!
突如として後方から身体に響く衝突。
ドガアアアアアアン!!!
そしてコンマ1秒にも満たない時間で
身体前方に加わる衝撃。
影明「あがっ…!? ご、ごふっ!」
影明は盛大に血を吐いた。身体中全てが
血まみれだ。
影明は自らに突然訪れた衝撃に困惑していた。
何が起きたのか分からなかった。
影明「な、なにぁ……ごはっ!」
疑問の声をあげようとしても上手く喋れない。
初めの背中にくらった衝撃は深刻なダメージ
であり、喋ることすらままならない。
しかし、そんな言葉にすら出来ないほどの
影明の疑問に答える者がいた。
バルムス「やっぱり……そう来るだろうと
思っていたぜ」
影明に衝撃を与えた張本人であるバルムスは
答える。
そう、影明が味わった衝撃はバルムスが影明を
背後からその剛腕で殴打したのだ。
バルムスの殴打は常人が耐えられる威力ではない。
身体が頑丈な影明も一撃で全身ズタボロに
なってしまっていた。
影明「……っ!?」
バルムス「クックック……驚いているようだな?
ついさっきまで腹を抑えて呻いていたのに、
俺が動いていることに……ほんのわずかな時間
でも、俺に隙が生じていたはずだと。
そう思っているな?
結論から言わせてもらうと、さっきの腹を抱えて
明らかに苦しそうにしていたのは、ただの【演技】
だ」
影明「……っ!? な…に…ぃ……?!」
バルムス「それだけではないぞ?そもそもだ。
俺が苛立って、怒りのままに拳を振り下ろした
事自体も【演技】していたんだよ」
そう、全てはバルムスの罠であったのだ。
バルムスは
『苛立ち』のまま腕を振り上げたのでなく、
【計算】して腕を振り上げたのだ。
『怒り』のままに猛烈な攻撃を繰り出して
隙を生み出したのではない。
【冷静】に拳を振りおろし、【わざと】隙を
さらけ出したのだ。
要するにだ。
バルムス「貴様の狙いなんぞとっくに看破して
いるんだよ。【そこの扉から逃げようとして
いた】なんて事はなぁ。」
バルムスは口元をぐにゃりと歪ませて愉快
そうに笑った。
影明はそれを見て、悔しそうに顔を険しく
させる。
その顔を見て、バルムスはまるで影明の心の
底を見透かすかのように発言する。
バルムス「その顔、しまったっていう風な
表情だな? 「思い違いをしていた」か?
俺が……【こんなに頭がキレる】とは思って
いなかったか?」
影明「っ!?」
影明は完全に自分の考えている事を言い当て
られてしまい、目を見開いてしまう。
その様子を見て、バルムスは心底愉快そうに
続きをしゃべり始めた。
バルムス「ククク……やはりそうだろうなぁ。
でなければ、あんな子供でも分かるような
幼稚な策なんぞ実行しようとはしないよなぁ
確かに俺たち【妖魔はお前ら人間の子供が
笑ってしまうほどには頭が悪い】」
バルムス「お前の考えはこうだったろう?
こんな死ぬかどうかの状況でゴ○ブリだか
のまるで関係のない話をして俺に怒りを
誘い、俺が怒りでめちゃくちゃに攻撃して
隙を生じさせ、その時に一気にこの屋上への
扉から逃げる。そういうつもりだったの
だろう。
確かに俺も最初は貴様の目論み通り怒りで
冷静さを失いかけそうになったがな…
貴様の【話の内容】が悪かったな。
俺も伊達に人間界にいるわけではない。
貴様ら人間の知識もある程度は知っている。
【窮鼠、猫を噛む】ってことわざの事もな」
影明「……っ」
そのことわざをバルムスの口から出たのを聞き、
影明は自分が完全に誤算してしまっていたのを
認めざるを得なかった。
全ては言う通りで、影明は初めからバルムスを
倒すなんてことはもちろん、そもそも悪あがきを
するつもりなんて事も毛頭考えていなかった。
本当の狙いは屋上へと上がってきた階段に戻り、
バルムスから再び逃げようとしていたのだ。
しかしそんな事は絶対的優位者である者であれば
当然承知している事であろう。
そこで、影明はバルムスに怒りを誘うように煽った
のだ。
今の状況に全く関係の無い話を切り出し、その話を
【まるで影明が自分を倒す】などという風に締める。
そう思わせる事により、相手は影明に対して大いに
馬鹿にして舐めるか、舐められたと感じて怒り狂うか。
とにかく相手に冷静さを損なわせ、先ほどの行動の
ように、屋上の扉を開け放ち、逃げる一瞬の隙を
作ろうと画策したのだ。
バルムス「ゴ○ブリを知ってるかと聞いてきたな?
そのムシケラなら俺もよく知っている。
何せ俺たちが根城としているこの渋谷には腐るほど
そのゴ○ブリやらネズミが沸いているからなぁ。
ま、貴様ら人間があのムシケラを苦手としている
なんて事は知らなかったがな。
【窮鼠、猫を噛む】、追い詰められたネズミは絶対的
強者である猫をも噛む、要するに追い詰められた
弱者は怖いって意味のことわざなわけだが、
なら、その追い詰められたネズミは何故猫を噛む?
そのネズミは猫を殺そうとしていたのか?
猫に一泡吹かせようとしていたのか?
当然違う。猫に隙を作り、その間にネズミは猫から
逃げるためにだ。
お前の話したゴ○ブリも同じ事だろう?
お前はそのゴ○ブリに殺されそうになったのか?
ゴ○ブリに対して死の恐怖でも感じたとでも
言うのか?
当然そんなわけは無いよな?
お前の弁を借りるならば、お前はそのゴ○ブリが
ただただ気色悪くて不快だったから悲鳴をあげた
だけの事だ。
ネズミというちっぽけな獣が猫に勝つ事など
不可能なように
ゴ○ブリなどというムシケラが貴様ら人間に
どう足掻いたって勝てないように
貴様程度がこの俺様に勝つ事なんぞ、天地が
ひっくり返ってもあり得ない事だ。
つまりだ、この俺様から逃げるための【行動】
という事ぐらい、【ゴ○ブリ】にだって分かる
という事だ」
そこまで話したバルムスは「しかし」と
話を一旦区切り、再び続きを話し始める。
バルムス「さっきの事は【ゴ○ブリ】にすら
分かる簡単な事だからこそ、貴様の誤算は
こんな幼稚な策を実行してしまった事じゃない。
こんな誰でも分かりそうな事を実行に移すほど
貴様はバカでは無さそうだからな。
そう、貴様の誤算は【俺が他の妖魔どもとは
違って知能が高かったという事だ】」
影明「……」ギリッ
そう、影明が誤算であったのは【妖魔たちは
知能が低いと思い込んでいた】事だ。
最初の廃工場の時、そして、その後の奴らから
の逃亡劇の間、影明はその事実に気がついた。
だからこそ、今回の苦し紛れのような策にも
引っかかるだろうと思ってしまったのだ
バルムス「まぁ、実際貴様の考えはほぼ間違っ
ちゃいねえよ。
お前の思っている通り、確かに妖魔は【知能が
低い】。
この特徴は下等だとか、上等だとか、そういう
ランクに関係なくな。
今回の【妖魔王】も見てて腹立たしくなってくる
ほどには頭が悪いし、『他の奴ら』も同じだ。
俺がさっきゴ○ブリでも分かると揶揄したお前
の作戦にも他の妖魔なら引っかかっていただろう
からなぁ」
バルムス「つまり、俺はそんな無能な妖魔ども
とは違って知能が高い、相当に特殊な妖魔
という事だ。
さっきの【窮鼠、猫を噛む】ってことわざもな、
俺の部下の蝙蝠と蜘蛛も俺と一緒にて聞いてる
はずなんだが、奴らはそんなことこれっぽっちも
覚えてはいないだろうな。
そんな具合に常日頃から他の連中どもの
頭の悪さに辟易するほどには俺は頭は良いんだよ」
バルムスは勝ち誇ったように笑う。
影明「……っ」
それに対し、影明は何も言い返す事は出来ない。
先ほどの一撃はあまりにも痛烈すぎたのだ。
内臓を相当に損傷してしまっている。
視界もぼやけ、暗闇が差し込まれてゆく。
だが、絶妙に、本当に絶妙なぐらいに
影明は生きている。【生かされている】
バルムス「クックック…… もう喋るのも辛い
ようだな。そして、貴様の【その状態】も
計算だ。わざと、死なないように
だが、【全く動けない】程度に痛めつけて
やった。
お前にはこの後、とても重要な役割を果たして
もらわねばならんからな」
バルムスの邪悪な声音も、もう今の影明には
よく聞こえない。
影明はどんどんと衰弱していくばかりである。
ーー刹那ーー
ドーーーーーーーーン
大きな衝撃音が辺りに鳴り響く
「………あ…ぁ……」
煙とともに可愛く、そしてか細い
悲鳴が微かにこだまする。
バルムス「グフハハハ……!噂をすれば……
何とタイミングがいい……!」
ニチャリと歪んだ笑みを浮かべながらその
衝撃音の方に顔を向けるバルムス。
その視線の先にーー
ユキ「かげ…あき……さん……」
呆然と立ち尽くすユキの姿があった。
その視線の先には血まみれで仰向けに
倒れ伏している緑川影明の姿があった。
倒れている床は血溜まりを形成し、
死んでしまっているように生気を
感じられなかった。
ー間に合わなかったー
先ほどの剣幕とは驚くほどに、ユキはあっさり
とその
普通ならば、薄情と言えるだろう。
だがこんな事、退魔に携わる者たちであれば
よくあってしまう事なのだ。
ユキは歴戦の退魔士。最強格とは言え、
自らが妖魔相手に遅れを取ったことがないとは
言え、何も全てを最良の結果に出来るわけでは
ないのだ。
攫われた一般人たちの救出に向かっても、既に
こときれてしまっていた様を幾度と目の当たり
にしてきたし
仲間の退魔士が目の前で殺されてしまった事も
陵辱、慰み者、果ては妖魔の苗床にされて
しまっていた同志も幾人と見てきた。
もちろん、上手く助けられた者たちもいた。
しかし、今回はその【上手く出来なかった結果
の後】というだけの事だ。
ーー退魔士は、悲しみに暮れてはいけないのだ
ーー怒りに燃えても、悲しむわけにはいかない
のだ
何故なら、その心の動揺が妖魔たちへの致命的
な隙となってしまうからだ。
どんなに強くとも、自分がその者たちのように
ならないという保証はどこにもないからだ。
退魔士は……妖魔から人間を守る存在。
守れなかった者を嘆く暇などないのだ。
愛する人を失い、嘆きをつかれ、敗北し、
更なる犠牲者を生み出すなどということが
あってはならないのだ。
それが、退魔士の心得であり、義務なのである。
ーーしかし、それを実行するには少しばかり
幼すぎたと言えるか
ーー初めて好意を抱いた相手を無惨に殺された
様を見せられ、怒っても冷静なれと言うのは
まだ15ばかりの少女には厳しかったか
ユキ「よくも……影明さんを……」
ユキはそんな退魔士の矜持から、努めて冷静に
バルムスに対し話す。
しかし、声音は怒りと悲しみをまるで隠しきれて
いなかった。言葉のトーンはユキ自身発した事が
ないほどに低い。ヒカルとセイラが聞けば普段の
ユキの穏やかな声とのあまりの違いに戦慄して
しまうほどだろうが、そんな事にすら気づけない
ほどにはユキは怒りで我を失いかけている。
シュタッ! シュタッ!
そんな中、後ろから軽快な着地音が聞こえる。
ユキの後を追ってきたヒカルとセイラが追い
ついてきたのだ。
ヒカル「ユキちゃん!私も戦う……っう!?」
セイラ「ユ、ユキ……!?」
到着したヒカルとセイラはユキの凄まじい怒気
のオーラに体を竦ませた。それほどにユキの
怒りは凄まじい。
セイラ「ユ、ユキ!?一体どういたしまし……っ」
ヒカル「……!!」ギュッ
ヒカルとセイラは、ユキがそうなってしまっている
【
ヒカル「……ユキちゃん……辛いよね。」
セイラ「……ユキ」
ヒカルとセイラもすぐに親友のユキに同情すると
共に、目の前のバルムスに対し怒りを灯らせる。
特にヒカルは顕著であった。怒りのあまりに
拳から血が滲み出るほど強く握っている。ショウを
救い出してくれた男の子を無惨に殺されたからで
あろう。
しかし、それだけではない。
姫野ヒカルと妖魔バルムスにはのっぴきならない
因縁があった。
その因縁が姫野ヒカルの怒りをさらに加速させて
いるのだ。
【姫野ヒカル】
姫野ヒカルは元々は退魔とは無縁のただの少女
であった。
心優しい母親と、優しく頼もしい父親と、弟ショウ
と4人家族で渋谷にある家で暮らしていた。
何もかもが平穏で幸せな毎日を過ごしていたのだ。
両親が殺されていなければ、そのままヒカルは退魔士
とはならず、退魔や妖魔の事さえも知らずに一般の
人間と同じように普通の学校に通い、普通に部活に
励んで、普通に恋愛もして……
そんなどこにでもあるような平凡で幸せな日々を
送っていた『はずだ』
しかし、10年前…ヒカルが5歳の小学校にあがる
直前に、【それ】は起きた。
妖魔が【人間界】へと攻め入ってきたのだ。
そして、無情にもその最初の侵攻場所に選ばれて
しまったのが、東京の【渋谷】『姫野ヒカルの家』
だったのだ。
『当時』、ごく普通の一般の家庭であった姫野家
に妖魔に対抗する術など持っているはずがない。
父はあっという間に妖魔に殺され、母も無惨に
陵辱された末に殺された。
そして、その時の妖魔の『軍勢』を率いていた
のがバルムスであり、ヒカルの目の前で母親を
陵辱し、両親を殺したのもバルムスであった。
ヒカルとショウも普通ならばその時に死んでいた
だろう。
しかし、『奇跡』とも言うべきか、『ある人物』
により、ヒカルとショウは救い出され、命が
助かったのだ。
その後、紆余曲折があり【白鳥琴音】とヒカルは
出会い、ヒカルは退魔の訓練を施される事となり、
類稀な退魔の才能を開花させたヒカルは、現代
最強の退魔士とまで謳われるようになったのだ。
稀有な霊力を元々持っていたとは言え、元々は
一般人であったヒカルが【現代最強】の退魔士
と謳われるほどにまでなれたのは、全ては
【渋谷】が妖魔の手に落ちた日のため。
妖魔に、愛する両親を無惨に殺された憎しみが
ヒカルに常軌を逸するほどの退魔の訓練を
積むに至ったため。
そして、両親を殺した張本人であるバルムスに
復讐するこの日のためにヒカルは現代最強とまで
になれるほどの過酷で修羅の道を歩んできた
のだーーーーー
ヒカル「バルムス、今日が貴様の命日だ。
両親の仇を……そして、ショウを救ってくれた
その男の子のためにも貴様を討ち滅ぼしてやる!」
10年に渡る憎悪の炎を目に宿し、ヒカルは
憎き怨敵、バルムスを睨め付ける。
ユキ「ヒカルさんの言う通りです。あなたの
悪行も今日これまでです!
綾風の威信にかけ、あなたを討ち滅ぼします!」
ヒカルに続きユキもバルムスと対峙する。
退魔のエリート名家、綾風の次期当主として、
高らかに宣言する。そう、【言葉】ではだ。
バルムスを見据える目はヒカルと同じ【憎悪】
の炎を滾らせる。
甘い恋心を抱かせた男の子、緑川影明を無惨に
殺したバルムスを今すぐにでも殺してやりたい
ほどに怒っているのが本音だ。
セイラ「…さぁ、チェックメイトですわ。
今日ここで地獄へと送って差し上げますわ!」
セイラはそんな2人の様子に一抹の不安を感じ
ながら、確かなる敵意を込めてバルムスと対峙
する。
だが、【知能の異常体】とも呼べるバルムスは
狡猾であった。
バルムス「グフフ… 威勢は良いがな。貴様ら
はこの俺に対し、何もする事など出来ない。
何も出来ないまま貴様らは敗北するのだ」
バルムスは勝ち誇ったかのように嘲りながら
ヒカルたちにそう宣言する。
ヒカル「戯言を!私は今日この日、貴様を討ち
倒すために退魔士となり、今日まで生きてきた!
絶対に負けるもんか!」
セイラ「私たちは現代でも最強と呼ばれています
のよ。そんな私たち3人を相手にしてあなたは
勝てると思っていますの?」
ユキ「私たち3人なら、誰が相手でも負け
ません!」
そんな宣言にヒカルたちはもちろんのこと
反発する。
しかし、その言葉を受けたバルムスはますます
顔を歪ませ、心底愉快そうにしゃべりだす
バルムス「フッ…綾風ユキを筆頭に貴様らは
勘違いをしているようだが、俺の足元に転が
ってるこいつは別に死んじゃいない。
格好だけ見ればいかにも死んでいるように
見えるだろうが、ちゃんと生きているぞ?
何ならさっきまでちゃんとした言葉で
この俺と話してたぐらいだ」
そう言葉にしたバルムスに対し、ヒカルたち
3人は一斉にどよめきだす。
特にユキには効果はてきめんであり
ユキ「え…?その話……本当ですか!?」
食い気味にバルムスに事実の真偽を確認する。
バルムス「あぁ、この通りだ」ニチャリ
その反応を見て、確かな手応えを感じた
バルムスは実に上機嫌で影明の頭を踏みつけた。
影明「ぅ……ぁ……」
ユキ「か、影明さん!?」
ヒカル「本当だ!生きてる!!」
バルムスに頭を踏まれ、微かに、か細く反応を
示した影明を見て、ユキたちは影明の生存を
確認出来た。
しかし、同時にヒカルたちを大きく焦らせる。
バルムス「さぁどうする?姫野ヒカル?
こいつはお前が大層大切にしている愛する
弟を助けてくれたわけだが、このままこの
俺様と戦うつもりか?
俺は今まさにこいつの生殺与奪権を握って
いるわけだ。何なら今ここでこいつの頭を
この足で踏み潰したって良いんだぜ?
……ま、貴様らにとってはこいつは赤の他人
だし、弟の命に比べたらこいつの命なんぞ
比較対象にもならんだろうがなぁ。
このままこいつを見捨ててこのバルムス様に
立ち向かってくるならば確かに俺は形勢不利
だ。
しかし?いくら赤の他人とは言え、貴様らは
退魔士。俺たち妖魔から無力な一般人を守る
正義の戦士様だ。
その上こいつは貴様の弟の命の恩人。
そんな恩人を見捨てて俺に立ち向かい、仮に
この俺に勝利したとしても、貴様らは
もう一生退魔士を名乗れまい。
さあどうする?それを承知した上でこの俺様
に立ち向かってくるも来ないも貴様らの
自由だ。」
バルムスは実に嫌な笑みでニタニタと笑う。
ヒカルたちに戦闘の是非を与えてはいるが
バルムスは決してこの男を見捨てるわけが
ないと確信しているためだ。
実際その通りであり、先ほどまでこの場を
焦がすほどの3人の戦意が揺らぎ、みるみる
戦闘の意思を失いつつある。
バルムスにああ言われては、いや、例え
言われてなくてもヒカルたちに一般人を
見捨てるなどという事は出来ない。
特に影明はショウの命の恩人だ。
なおさら見捨てることなど出来るはずがない。
ここで彼を見捨て、彼が殺されてしまえば
それこそヒカルたちは退魔士として失格だ。
バルムス「どうした?早く決めろ?もっと
意思が固まりやすいようにしてやろうか?」
そう言うとバルムスは影明の頭を踏みつけて
いる足に力を込め始めた。
ギリ……ギリ……ギリ……と嫌な音が響く。
影明の頭にバルムスの剛力が加わりつつある
証拠だ。
実際、影明の頭から徐々に血が滲み始めて
いる。
ユキ「い、いや!?やめてえええええええ!!」
その様を見たユキが真っ先に悲鳴にも近い
静止の嘆願を叫ぶ。
セイラ「くっ…!妖魔のくせしてなんて【狡猾】
なんですの!」
こうなってしまえばヒカルたちに最早選択肢
など無いも同然であった。
ヒカル「……分かったわ。バルムス、あなたの
言う通りにするから、その男の人を解放して…」
ヒカルはバルムスに屈する意思を選ぶ他なかっ
た。
バルムスはそれを見て、勝利を確信し、邪悪に
顔をニヤつかせ、最初の要求を話しだす。
バルムス「よし、じゃあ手始めにお前たちが
今穿いているパンツを脱いでもらおうか」
ヒカル「なっ!?」
セイラ「なんですって!?」
ユキ「そ、そんな!?」
ヒカル「そんな事出来るわけないでしょ!?」
女性の尊厳を踏み躙るような事を要求され、
ヒカルたちは当然拒絶するが
バルムス「ほう?そんな事言うのか?だったら
仕方ない。やはりこいつの頭を踏み潰すか」
バルムスは影明を踏んでいる足を振り上げ、
踏み抜く体勢を作る。
ユキ「い、いや!?やめて!!分かりました!
脱ぎます!脱ぎますから!!」
セイラ「くっ…!何て卑劣な……!」
ヒカル「……覚えときなよ!!」
影明を容赦なく踏み抜こうとするバルムスの
姿を再度見ては、ヒカルたちはその屈辱的な
要求を飲み込むしかない。
3人は羞恥で顔を朱に染めながら、おずおずと
各自自らのパンツを脱ぐ。
ユキ「………」もじもじ
セイラ「くっ!」
ヒカル「ど、どう?これで満足かしら!?」
ヒカルは羞恥と屈辱に塗れる心を誤魔化すように
声を張り上げる。
しかし、その言葉に対して放たれたのは否定の
言葉である。
バルムス「いいや、まだだなぁ?今貴様らが
手に持っている脱ぎたてのパンティを
こっちに渡してもらわなければなぁ?」
ヒカル「なっ!?」
バルムス「どうした?早くしろ?貴様らには
選択の余地などない事をさっき見せたばかり
だと思うが?」
ヒカル「………っ」シュバッ
セイラ「……ちっ!」シュバッ
ユキ「うぅ……」シュバッ
ヒカルたちは先ほどまで穿いていた自らの
パンツをバルムスに投げつける。
当然嫌であったが、恩人の影明を人質に
取られては、従う以外に選択などないのだ。
投げ渡された3人のパンツを受け取った
バルムスはそれを鼻に押し当て、嗅ぎ始めた。
その様を見た3人、
ヒカルは憎き怨敵に自らのパンツを無遠慮に
嗅がれる事に屈辱の念が溢れている。
潔癖で高潔なセイラは妖魔をけがわらしい
生き物と内心とても見下している。
そんな妖魔に自らの脱ぎたてのパンツを嗅が
らているという事実はセイラの心を屈辱の炎で
怒りを煮えたぎらせる。
清純なユキは屈辱よりも羞恥の方が勝っている
ようで、顔を茹蛸のように紅潮させている。
しかし、その羞恥よりも更に影明の身の心配
が上回っており、どちらかと言うと、今まさに
パンツを嗅いでいるバルムスよりも影明の
方を見ている。
順番に聖少女たちの神聖なる女の誇りを不躾に
踏み躙ったバルムスはやがて満足したように
感想を述べ始める。
バルムス「ふぅむ、どいつも最高の臭いの嗅ぎ
心地だったぞ?特に姫野ヒカル、貴様のパンツは
俺様が好みな臭いを放っていたな」
バルムスは実に満足気に顔を綻ばせる。
ヒカルたちの生パンツの匂いを堪能したため、
ではない。勿論それもあるが、そんな事以上に
ヒカルたちに壮絶な屈辱を刻み込めた事に
優越感で心身を満たしているためだ。
憎き怨敵に手が出せないまま良いようにされる
ヒカルたちの悔しそうな顔を見るだけで
バルムスは股間が熱くなっていくのを
感じていく。
ヒカル「も、もう十分でしょ!?」
ユキ「そうです!早く影明さんを解放して
ください!!」
ヒカルとユキはあまりの屈辱と羞恥のあまり、
悲鳴のような抗議の声をあげるが、無論
こんな程度で満足するほどバルムスは甘くは
ない。
バルムス「十分?何をバカなことを言っている?
たかが貴様らの脱ぎたてパンティを堪能した程度
で満足出来るはずがないだろう?
次はスカートを、あぁ、巫女服の女は袴を捲り
上げてこの俺に貴様らのマ○コを見せろ。
よぉーく見えるようになぁ?」
ヒカル「なっ!?」
ユキ「え!?」
セイラ「何ですって!?」
バルムスはスカート一枚という薄い防御となって
しまった女の聖域にさらに防御壁を取り払い、
完全なる無防備な状態にさせる事を要求する。
セイラ「あ、あなた!あまり調子に乗らないで
くださいまし!いくらなんでも無茶苦茶ですわ!」
そのあまりの女の尊厳を踏み躙る要求には
高潔なセイラはたまらず真っ先に反論するが
ヒカル「セイラちゃん……」
何と、それを制したのはバルムスではなく、
ヒカルの方であった。
それを表すようにヒカルはスカートに手をかけ、
まくる準備を整えている。
セイラ「ヒカル……くっ……!」
セイラとて、頭の中では分かっているのだ。
逆らったら影明の命はない事を。
潔癖なセイラとて、いや、誇りが高いからこそ
目の前の人間の命を無視する事など許される
はずがない。その行いは退魔士の恥どころでは
済ます事など出来ない愚かしさだ。
ならばこそ、女性の尊厳のための潔癖さよりも
退魔士としての誇りとしての高潔さを優先する
事はセイラにとっても当たり前のことだった。
セイラもおずおずとスカートに手をかけ、まくる
準備を整える。
バルムス「くっくっく……素直じゃねえか?
特にヒカル。お前の方からお仲間に呼びかけて
くれるとはなぁ!
はっはっはっ!いいぞ!さっさとそのスカートを
めくって俺様に貴様らのマ○コをよく見せろ!」
ヒカル「……」
セイラ「……後で絶対殺してやるわ…!」
悔しげに、憎々しげにバルムスを睨む2人だが、
バルムスはどこ吹く風とばかりに気にも留めない。
スッ
スッ
ヒカルとセイラは羞恥で身を包みながらも
ゆっくりと、おずおずとスカートを捲った。
バルムス「おぉ…!」
バルムスは露わとなった2人の秘部の美しさに
息を呑んだ。
今まで数え切れぬほどの人間の女性を犯して
きたバルムスでさえ、今までの女性たちと
なんて比べる事すらおこがましいとすら
思えるほど、2人の聖域は美しかったのだ。
実際、ヒカルの聖域もセイラの聖域も世界単位
で見てもほとんどが並び立つ事すら許されない
ほどの極上の逸品であることは間違いなかった。
ヒカル「……ゆる、さない……!絶対…絶対…!
殺してやる……!!」
ヒカルは憎き怨敵に自らの絶対的な聖域すらも
さらけ出してしまうと言う恥辱と屈辱に憎悪の
炎をますます燃え上がらせ、その炎の宿る目は
対峙する者を恐怖で失神させる程の迫力を
放ってはいるが、バルムスはそんな目を向けられ
ても物怖じする事すらなかった。
自らの実力と人質に絶対的な安心を持っている
ためだ。
だが、そんなヒカルの憎悪の籠った瞳にバルムス
のおかしな様子を映す。
先ほどまでとても満足げにこちらを見ていた
バルムスの顔が妙に不服そうなのだ。
その理由はヒカルの憎悪による迫力の凄まじさの
ためではない。ヒカルはその事を看破していた。
同じく、セイラもバルムスのそんな様子に
気付いていたようで、不可思議そうに
バルムスを見つめている。
ヒカル(どういう事……?)
セイラ(何を見てるんですの……?)
2人が頭を傾げていると、バルムスの口から
不服の原因を告げられた。
バルムス「おい、巫女服。貴様も早くその
袴をめくりあげろ」
苛立ちのままにバルムスが言い放った先である
ユキは、何と手を合わせ顔を真っ赤にして
小刻みに震えているではないか。
自らの秘部をさらけ出していない。その
準備すらもしていない。
そんな様子にバルムスの苛立ちは加速する。
バルムス「おい、早くしろ言っているのが
分からんのか?巫女服。この男がどうなって
も良いのか?」
バルムスの苛立ちに満ちた声を浴びせられ、
ユキはビクッ!と体を震わせた。
そして……涙ながらにか細く、声を震わせる。
ユキ「ゃ……ゃぁ……」
バルムス「あ?」
ユキ「いや…です…… それは….いやですぅ…」
ユキの口から発せられたのは否定の言葉。
その言葉にヒカルとセイラも戦慄してしまう。
バルムス「……そうか、綾風ユキ。貴様は
隣の2人と違ってこの男がどうなっても
構わないと、そういう事だな?」
ユキ「そ…れは……うぅ…」
非情なバルムスの言葉にユキは苦悶の
声をあげ、狼狽える。
ヒカル「ユ、ユキちゃんっ!?」
セイラ「ユキ!気持ちは分かりますけれど
ここは従わなくてはまずいですわ……
緑川さんのためにも、恥を忍ばなければ
ならない時ですわよ!」
ヒカルとセイラも口々にユキを嗜める。
2人とっても影明は大切な恩人。
その命の危機が晒される事は決して見過ごせ
ない。
だがなおもユキはか細い抵抗の意思を
バルムスに示し続ける
ユキ「ゆる…して……それは……ゆるして
……くださいぃ…
それ以外の事なら……何でも聞きますから…
どうか…どうか…それだけはゆるしてぇ!」
ユキは涙ながらの懇願をバルムスに申す。
ユキがこんなに自らの秘部を見せるのを
嫌がるのは理由があった。
別に醜いとかそういう訳ではない。
いや、ユキ自身はそれに近いような
感情を抱いているのだが、ユキ自身の
秘部もヒカルやセイラに何ら劣るところ
のないほどに至極の逸品と言える美しさ
であるのだ。
いや…ある【特徴】を加味すれば人に
よればそれ以下にはなるかもしれない。
そして、それ以上の美しさと受ける人も
いるかもしれない。
そう、ユキの秘部には毛が一切生えて
いないのだ。その特徴がユキはたまらなく
恥ずかしく思っている。
いわゆるパ○パンというもので、受ける
人は受ける、層が存在しているが、ユキの
ような男を知らぬ純情かつ清楚な少女には
男の歪んだ性事情など知るはずもなく、
ユキは自らの秘部を己の巨きな乳房以上の
コンプレックスを抱いている。
そもそもユキは体毛が薄く、脇にも一切
生えていないし、腕や脚もほんのりと薄い
産毛が生えているだけで、ほとんど生えて
などいない。
この体毛の薄さは代々の綾風家の特徴で、
仕方のない事なのだが、それでもユキに
とっては恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
だからこそ、ユキは何としてでも自らの
秘部をさらけることは避けたい。
何より、仄かな恋心を抱いている男の子以外
には絶対に見せたくはない。
しかし、非情にもバルムスは純情な少女の
悲痛な願いを嘲笑うかの如く従わせるための
強行策を取る。
バルムス「グフフハハハ!いいやダメ
だなぁ!貴様にも自らの秘部を見せてもらわ
ないとなぁ?
その様子からして、何かよほど自身のマ○コを
見せたくない理由があるということか?
自分のマ○コに何かコンプレックスでもある
のか?
クックック…!その方が俺好みというものだ!
俺はな?貴様らの女体を堪能したい、という
以上に貴様らの恥ずかしい部分をこの俺様に
曝け出さなければならないという惨めさを
見たいのだ!
出さないというならこの男の身体を順番に
壊していってやろう!
巫女服!それが貴様には一番効くだろう?
そう、ヒカルやセイラ以上になぁ!
お前が他の2人よりもこの男に入れ込んで
いる事なんぞとっくに見透かしているんだよ!」
その言葉を聞き、ユキは顔面蒼白で
慌てふためく。
ユキ「い、いや!やめて!やめてください!!」
バルムス「嫌なら早く貴様の恥ずかがってる
モノの正体をこの俺様に見せる事だなぁ?
貴様が大事にしている自らのマ○コを見せん限り
お前は大切な愛しなこの男の悲鳴を聞き続ける
事になるぞ?」
ユキ「う、うううぅぅぅ……!」ポロポロ
バルムスに脅され、ユキはゆっくりと手を
自らの袴に手をかけ始めようとする。
恋心を抱いている男の子の命を天秤にかける
事など出来るはずもない。
卑劣な脅迫に対し、ユキは従う他はないのだ。
だが……ユキは自らの秘部によほどのコンプ
レックスを抱いているのだろう。
ポロポロと涙を流し、くしゃくしゃな泣き顔に
なるほどにユキは嫌がっている。
ヒカル「バルムスぅ……!」
セイラ「絶対…絶対…!許しませんわよ……!」
ヒカルとセイラはかつてないほどまでに怒りを
露わにした。
ユキは……3人の中で一番芯が強いと言える。
今まで泣いた事など見た事などないのだ。
そんなユキが年頃の少女のように泣いている。
その事実はヒカルとセイラにそれほどまでに
ユキが自らの秘部にコンプレックスを抱いて
いるという事を察せさせるのは十分であった。
それ故に、強いユキが泣いてしまうほど強烈な
コンプレックスを曝け出させる事を強要する
バルムスに対し、今までとは比べ物にならない
ほどの怒りを2人に与えたのだ。
それでも、バルムスは全く臆する事なく卑劣に
ユキの無様な姿を楽しみにほくそ笑んでいた。
ーうううぅぅぅ……!ポロポロー
ーーだが、バルムスはこの時終わっていたーー
ー女の子が……泣いているー
ーー終わってしまったのだーー
ー誓った……はずだー
ーー意識が朧げだった緑川影明はこの泣き声
だけははっきりと聞き取っていたーー
ーこれ……以上ー
ーーそう、『その男』に聞かれてしまった
のだーー
ー………ー
ーー『その男』は立ち上がるーー
ーだから……必ず救ける!!!!ー
ーーバルムスは呼び起こしてはいけない『男』
を起こしてしまったのだーー
ユキ「あぅ……ううぅぅ……!」ポロポロ
涙を流しながら袴に手をかけたユキは
しかし、その状態のまま手を震わせ、
そのまま硬直してしまう。
ユキ「やっぱり……やっぱり……
いやですぅ……!
ゆるして……これだけは……
ゆるしてぇ……!!」ポロポロ
バルムス「そうか。なら素直になれるように
まずは後ろのやつの腕を一本へし折ってやるか」
ユキ「ひぅっ!?や、やめて!」
バルムス「いいや、やめん。これは見せしめだ。
素直に従わなければどうなるか…のな?」
ユキ「あ、あぁぁぁ!……そんなぁ…
分かり…ました……分かりました…ぁ…
見せます…!見せますからぁ!!
お願いします……!その人には危害を
加えないでぇ!」ボロボロ
ユキの涙が加速する。
それは後ろの『この男』に燃料をますます
投下した。
バルムス「もう遅いわ!次からは素直に俺様に
従うことだなぁ?」
ユキ「あぁ!そんな……そんなぁ……!
ああぁぁ……かげ…あき…さ………
え?」
涙で元の可愛い顔の面影すら残らなくなった
ユキは彼の方を見た瞬間、突然涙を止めた。
代わりに目を見開き、驚きで顔が固定されている。
ヒカル「ユキちゃん…!もう迷っている
暇はないよ!早く見せないと影明くんが……
え?」
セイラ「ユキ!あなたも退魔士なら覚悟……
を?」
同様にユキと同じ方向を見たヒカルとセイラも
驚きに硬直させられる。
ユキ「……え?かげ……あき……さん…?」
セイラ「う…そ…?」
ヒカル「どうして…どうして立って…!?」
そのあまりの異常事態に3人は理解が追いつかない
ほどの衝撃を見舞う。
何故ならば……普通なら立てないはずだ……
立ち上がる力なぞない事など……見た目で
だって分かる……
それほどの……それほどの重傷のはずだ……
バルムス「言ったはずだ。もう遅いとな!
今更巫女服の貴様が見せようが後ろのやつの
腕を砕く事に変わりは無いわ!」
バルムスだけがまだ気付いていない。
そして、3人の様子がおかしくなった事にさえ
気付かなかった。
「おい……クソ野郎……!」
そう、バルムスは終わってしまったのだーー
バルムス「あ?」
バルムスは声のした方向を振り向く
ーーその刹那
ドッゴオオオオオオオオオオオン!!!
バルムス「ぐうおおおあ!?」
突然、バルムスは腹部に物凄い衝撃を
受ける事になる。
そして、その衝撃の勢いのまま、後方に
向かって吹っ飛んでいくことになる。
いや、正しくは押されてだ。
バルムス「な、なんだとおおおおお!?」
先ほどまでの余裕は完全に消え失せる。
バルムスに、驚愕という衝撃が押し寄せる。
バルムス「き、貴様!?何故動けて…!?
何で動いているんだああああ!!??」
バルムスは自らの腹部に突進している男ーー
緑川影明を見て度肝を抜かれる。
ー完全に動けなくしてやったはずだ!ー
ーあの怪我で動けるわけないはずだ!ー
ーなのに…何で立ち上がっている!?ー
ー何だ…何なんだ!?……この力は!?ー
ー何で人間如きのこいつに……
死にかけの身体でこんな力が出せる!?ー
バルムスに様々な思考の衝撃が走る。
ー緑川影明が立ち上がっている事ー
ー死にかけの体で動いている事ー
ー150kgを超える自らの巨体をすごい勢いで
押している事ー
驚愕という言葉ではとても足りない衝撃の要素が
いくつも押し寄せ、バルムスの思考と理解は
まるで追いつかない。
ガシャン
嫌な音が響く。
バルムスは自らの巨体の背後を見た。
それは手すりであった。
ーーそして、空であった。
瞬間、バルムスに一瞬の浮遊感を与え、
後に急速な落下感を感じさせる。
バルムス「のわあああぁ!!??」
影明「うぅおおおおおおおおおお!!!」
バルムスは絶叫をあげ、影明は絶叫する。
ここは上空20m以上はあろうかという
ビルの屋上だ。
いくら最上等妖魔であるバルムスの頑強な
肉体とは言え、受け身も取らずに無防備で
地面に叩きつけられれば、ただでは済まない
だろう。
そうなれば、仮に自分が生きていたとしても
満足に動く事はままならない。
確実にすぐさま追撃に来るヒカルたちに
トドメを刺されるだろう。
バルムス「放しやがれえええええええ!!」
慌てふためき、狂ったようにバルムスは影明
を引き剥がそうとする。しかし
影明「絶対放してたまるかあ!
てめえは!!確実にここでぶっ倒す!!!」
バルムス「な、何だと!?バカな!!?
この俺の力で引き剥がせんだとお!?」
あまりに異常な力だ。
バルムスは最上等妖魔だ。人間などの腕力
など比べ物にならない
……はずであるのに、緑川影明はそのバルムスの
力を超える力でバルムスにへばりついている。
バルムス「や!やばい!!このままじゃ!!
激突する!!地面に激突してしまう!!」
何故…では無い。バルムスに焦りが加速する。
明確に差し迫る死に、バルムスの思考の冷静は
さらに奪われ、がむしゃらに影明から逃れようと
もがき始める。
ーーここでもバルムスは悪手をうったーー
ズブリ
ーー全くもっての不運と言えるーー
バルムス「……あ?」
地面に激突するには、あまりにも早い到達が
訪れた。
その急激な到達にバルムスは困惑……
する暇もなかった。
バルムス「あ……あぁぁぁ……ああああ!?」
バルムスは前方に伸びていく【突起物】を見る。
それは自身の腹から伸びている。
バルムスは理解する。
と言っても、理解したところでもう遅い。
もうどうする事も出来ない。
バルムスの真下に……10mは超えるだろうか
という巨きな像が存在していた。
その像の手には、天高く掲げられた槍があった。
そう、バルムスはその像の槍に深々と突き
刺さってしまったのだ。
バルムス「あがあああああ!!くそっ!?
くそおおおおおおおお!!!」
バルムスの口から盛大に血の塊が吐き出される。
バルムス「く、くそぉ!?抜けん!抜け出せん!!」
灯火が失われる。そう、命という輝きが
急速に失われていく。
バルムス「あがぁ…そんなぁ……俺が…
この俺が……!」
バルムスは自らの後方、つまり地面を見やる。
そこには奇跡的に槍から逃れ、地面へと
叩きつけられていた緑川影明が映っていた。
しかも更なる奇跡というべきか、影明は
バルムス自身の肉体がクッションとなって
落下の衝撃が抑えられ、地面の緑川影明は
胸が上下している。
何と、影明は20mの高さから落下して生きて
いた。
それを見たバルムスは悔しさのあまり顔を
歪める。
バルムス「バカな……!?こんなバカな……!?
俺が……この俺が……!?」
そうだ、バルムスこそ思い違いをしていたのだ。
逃走劇の合間にも、戦闘の合間にも、
もっと注意するべきだったのだ。影明の異常性に。
認識を改めるべきだったのだ。
影明は【退魔士と同じように始末しておくべきだ】
と。
どんなに異常性を見せても……バルムスの中から
影明は【しかし、所詮はただの人間】という
認識が抜ける事はなかった。
それ故に今の自分は悲惨な末路を迎えている。
それ故にバルムスは敗北してしまうのだ。
今も【ただの人間】と嘲笑う【緑川影明】という
男に。
バルムス「ちくしょう…!この俺が……
ただの人間如きにいいいいいいいい!!!」
そう屈辱と悔しさに塗れた断末魔をあげながら
ヒカルの怨敵であったバルムスは哀れに
その命を終えたーー
-----------ーー
影明(あぁ……してやったぞ…ざまあみろ…)
影明(終わった……事だし……さっさと家に
帰って……今度こそ勉強の……復習…を……)
影明(……ダメ…だ…。体……動かねえや…)
影明(やっぱ……あんな化け物倒すのに代償も
何も無いわけ……ないよなぁ……)
影明(このまま……俺ここで死んじまうのか?)
影明(まぁ……別にそれならそれで仕方…ないか
……)
影明(あの男の子は助け…られたかな……
優……上手い事してくれてるといいけど…)
ーかげあきさん!かげあきさん!
いや!死なないでえぇ!ー
影明(…何だ?誰の声だ?……)
ーっ!?この状況は!?ー
ーかげあき!?おい!しっかりしろ!!
おい!?おい!!しっかりしろって!
死ぬな!死ぬなあ!!ー
影明(この声……誰…だっけ……?)
ー私たちを救うために……あのバルムスと
一緒にあそこから飛び降りたんです!!
あぁ……そんな……生気が…どんどん
なくなって……ー
ーユキ!こんな事してる場合じゃありま
せんわ!! 学園に…『ヴァルハラ』に
連れて行きますわよ!!ー
ー死なせない…!ショウのお礼をするんだ!
絶対…絶対、死なせるもんかあ!!ー
影明(あぁ、ダメだ……よく聞こえねえや…
ははっ、こりゃ本格的に死ぬかも…)
ー『あの人』だ!!僕は『あの人』に連絡
するよ!『あの人』ならきっと影明を
生かしてくれる!ー
ーよし!早く影明を連れていくぞ!
影明!死ぬな!絶対死ぬなよ!!ー
影明(かっぺえ……優……迷惑ばっかかけて
ホントごめんな……俺お前らに何も返せて
ねえのに……死んじまうかも……
瞬も……せっかく会えたってのに、すぐ別
れることになってしまうかも……
寂しいよ……皆……ごめん…ホントごめん…)
ーお願いします!かげあきさん!!
死なないで!死なないでえええ!!ー
影明(………)
×××××××××××××××××××××××××××××××××××××
ーまさか…… このようなモノが生まれて
いようとは…!ー
×××××××××××××××××××××××××××××××××××××
4ヶ月も遅れてしまい申し訳ありません……
まさかこんなに字数を書く事になるとは……
べ、別にサボってたわけじゃないんだからねっ!?
スプラ3とかDBBとかしてたわけじゃな、
ないんだからねっ!(嘘)
今回全くフミフミ出てこんかったなぁ……
いやぁ、ようやく個人的プロローグの前半部分
が入り、いよいよ次次回ぐらいで原作展開通りに
ヒカルたち原作主人公たちがあれやこれやと
酷い目に遭わせる予定です。
しかし、自分に陵辱とか書けるのだろうか…?
何か書いてるうちに可哀想になってくるかも
しれないですので、あんまりエグいのは書けねえ
かもしれません。
あ、琴音先生ですが、もうすでに妖魔王さんに
あれやこれやと酷い目に遭わされて闇堕ち
しちゃってます。相手はヴェゼルさんじゃ
ないですよ?
次回はヒカルたち、退魔士の事やら学園の本当の
目的(意味深)を色々語られる回を予定してます。
なので、多分短くなると思います。
『紅藤優が影明を助けに行く方が適任』
優くんってわりかし強いんですよね。
キャラ紹介でも記したように、かっぺえくん
なんかとは比べ物になりません。
やりようによっては影明くんはおろか、
聖徒会メンバーすら倒せるかもしれんのです。
『バルムスが属する
なおさらだ』
ん〜、ノーコメント!!
『アレ』
キャラ紹介でも伏せた、優くん得意の得物です。
これはプロローグ最終版で明らかになるでしょう。
『妖魔』『妖魔の血』
セイラちゃんの過去での伏線ですが、
実は経緯は合ってるけど、かなり嘘も混じってます。
後に、この要素が重大な役割を果たす事に
なるでしょう。
まぁ、その話を書くのがいつになるのか分からんけど!
『ある名家』
こいつも後々物語に重要に関わってくる事になります。
しかし、セイラちゃんとはあんまり関係なく、
関わってくる事になるのは……
聖気
『』で囲ってないので、ほぼ重要じゃないけど、
霊力と何が違うの?って思いそうなので
その解説をば。
聖気はいわゆる霊力を練り、神聖な資質へと変えた
オーラの一種であり、妖魔や邪悪なるものは
この聖気をとても苦手としています。
なので、例えばユキちゃんが霊力を込めた札を
妖魔にぶち当てても、別に体が崩壊するとか
そういう事はないです。
【霊力】と【聖気】は例えると水の質が違う、
と言う風に捉えておいてもらえたらと思います。
『ある流派』
牙王流剣術のことです。
『黒悪』
物騒な名前が出てきましたが、その名の通り、
優くんのエグさを端的に表してるあだ名です。
本当は別の通称があり、それを短くしてそう
呼ばれているのですが、『ゴクアク』呼びの
ほうがしっくりくるぐらい優くんエグいんです
はい。
まぁ、それも近々明らかになります。
『あの人』1
最後に出てきたあの人とはまた違う人さしてます。
言える事はそれだけ!
『知ってる』『了承』『役目』
詮索無用!
『目』
これが優くんの異名にもかなり関係してます。
まぁ、的当てとかと言う言葉が出てきてるので、
察せる人は察してるかも
『そんな事は神崎瞬にとっては関係ない』
出ました!シュンシュンのこじらせ歪み!
あー!キモイキモイ!
『僕』『わがまま』
優くんも色々と過去を持ってるんですよ。
その過去もプロローグ最終版で明らかに
なります。
『迂闊』
これは物語のなかでくだりをやろうと思ったん
ですけど、結局やらなかったのでここで書きます。
要は、バルムスの顔から苛立ちが消えた事に
気づけなかった事ですよ。
ここでバルムスの様子に気づいていれば、
もしかしたら影明くんは後の凄惨な結果に
ならずに済んだかもしれませんね。
『警戒』『慎重』
これはバルムスの妖魔としては異常な
【知能の高さ】を表してます。
物語でも説明してるように、妖魔って
基本バカなので、警戒とか慎重にとかとは
無縁なのです。早い話脳筋なわけです。
そんな中でこんな行動を取るバルムスは
普通の妖魔とは知能が一線を画している
と言えますね。
『んだけどな』
口ごもってる影明くん、何か思うところが
あるようですね。
『はずだ』
これも相当に重要なキーワードです。
前話以前に相当か…やべっ!ネタバラシ
しすぎt
とにかく、他にも色々と『』がありますが、
ヒカルの過去は相当にややこしいものなっており、
相当に闇の深い事件となっているのです。
これがまたまた後に、影明くんたちに大きく
関わってくる事になります。
『あの人』2
次回出てきます。お楽しみに。
……え?お前色々と省いてるだろって?
『この男』とか『その男』とか
やめろ!!何も僕には聞こえん!!